塩漬けスキルも育てたい
今までのあらすじ
VRMMORPGはじめたよ。種族はゴースト、死霊の街スタート
レベル上げて、旅立ち直前に守護霊になった!
妹と合流して普通の街に旅立ち。あとゲーム内で初めて料理をした
さて。料理系のスキルについては、ある程度の成長がみられたわけだけれども。
こうなってくると、残りの停滞気味のスキルについても何とかしたくなってくる。
目下育てたいと思っているのは、【死霊】スキルだ。
あと、【住の心得】も役に立ちそうなスキルが習得できるかもしれないから育ててみたいし、
あとは【薬剤の心得】も育てていきたいところだ。いいポーションを作れるようになりたいからね。
機会があれば【生への執着】は安全な育て方も模索してみたいと思う。
EP減少のデメリットを考えると、うかつに有効化するわけにはいかないけど、逆を言えば有効化した状態でパーティを組んだり街に入ったりしなければいいだけのことなのだ。
そのあたりに気を付けていれば、多分その内に安全なやり方は見つかって来るんじゃないかな、と思っている。
あくまでも、思っているだけなんだけどね。
ん……スキルを眺めながらだから気づいたことだけど、なーが言ってた通り、いつの間にか【死霊】スキルが3に上がってたね。それに【住の心得】も1レベルだけだけど上がって、2レベルになってる。
【住の心得】の方は……うん、なんとなくだけど、予想はつかないでもない、かな。
料理をつくったことで、『生活環境を整えた』みたいな感じの判定に繋がったんだろう。
上がり方が微妙なのは、多分『それもそうなんだけどそうじゃない』というふうな感じで、料理だとイマイチ当てはまっていないのかもしれない。
なにしろ『住』だしね。『食』も関係なくはないだろうけど、やっぱりお門違い、というわけか。
【死霊】スキルの方は……本当に、こっちはわけがわからない。
うーん、でも本当に、何でこうしてジッとしてるだけで上がったんだか……。
ハイトにいた時は上がらなかったのに、ここに来たらいきなり上がり始めた理由、ね…………死霊、死んだ人の幽霊、か……。
もしかしたら【死霊】って、自分が死んでいるという自覚を持てば持つほど上がるって言う、そういうスキルのこと、なのかな。
でも、それだとそれで成長して、果たしてどういう意味合いになってくるのかが、また気になってくるんだけど……。
…………はぁ。ダメだ。やっぱり、私にはわかんないや。
まぁ、スキルレベルが上がったのなら、それはそれでよしとしておくべきなのかもしれないけど。
「お姉ちゃん、何か考え事?」
「うん? あぁ、うん。もしなーさえよかったら、【薬剤の心得】とか【住の心得】も育ててみたいなぁ、って思ってて」
「【薬剤の心得】ね……あれって、単純にポーションの効果が高くなるだけじゃなかったかなぁ……」
「あれ? 【薬剤の心得】って、そんな効果だったの?」
「うん……たしか、そうだったと思うよ? だからポーション使ってればレベルがどんどん上がってったはず……」
「そうだったんだ……」
あぁ、それなら初期設定の時に一つ失敗したのかな。
まぁ、でもただでさえMPが膨大なんだから、あって損はないかな。
「【住の心得】は、当てはまるのは住環境に関すること全般だから、適当に『鍛冶セット』と『作業台』でいろいろ作ってみたらどうかな? ポーションも【薬剤の心得】じゃなくてこっちだったと思う」
「あ、そうだったんだ。えっと……『鍛冶セット』に『作業台』……あ、あった。一旦、キッチンはしまった方がよさそうね」
「そだね」
出しっぱなしにしていた『魔法のシンプルシステムキッチン』という道具をストレージにしまい込み、新しくその道具を取り出す。
まずは、『魔法の簡易鍛冶セット』。こちらは、鍵穴みたいな形をした台だった。
円形になっているところは、台形部分の場所より高くなっており、取っ手口があった。
開けてみると、途端に熱気が漏れてきた。おそらく、ここに打ちたい金属を入れて熱するのだろう。
とすると、この台形の部分で、熱した金属をそのまま叩く、ということか。
なるほどね。
といっても、今のところ金属なんて手に入って……んん? そう言えば、それらしいものが二つ、手に入ってたわね。
試しにそれを打ってみる価値はありそうだ。
それから、『いろいろ作業台』だけど……こっちは本当にいろいろなものが乗っかった作業台だった。
こちらも、形は鍵穴型だけど、鍛冶セットのそれとは違い、こちらのは円形部分が台形部分の、おそらくは作業スペースの部分と高さは変わりなかった。
その代わり、円形部分は穴がぽっかり空いており、中に訳の分からない液体が湛えられている。
下部には、ペダルのようなものがついており、一回踏むとロックされて、そのまましばらくたつと液体が熱気を帯びてくることから、これがかまどのようなものなのだとは理解した。
ただ、それだと何のための液体なのかがわからずじまいだったけど。
「……このなんかの水が入ってる部分は?」
「私は『住の心得』に関しては門外漢だからわからないけど……当てはまるものがあるとすれば、多分錬金か合成関連だと思うなぁ」
錬金なんてスキルは、βの時でも取得できたと聞いた覚えはないから、おそらくは何かの上位スキルとして得るものだろうと推測されており、消去法で合成にまつわるものではないか、となーは語った。
こういう時はあれだね、困った時のヘルプ先生。
メニューを開いてヘルプ画面を呼び出して、キーワード検索を掛けてみた。
「えーっと、キーワード検索……『住の心得』、と……ん、出てきた……」
色々表示された項目の中から、『合成について』と書かれたものを見つけたのでそれを選んで、試しに読んでみる……ふむ。なるほど……。
「この液体は、なーが言うように合成に使う物なんだって」
「やっぱりそうなんだ。錬金については?」
「錬金は、スキルについてはかかれてなかったけど、それはこれじゃできないみたい。なんか、専用の設備が別に必要なんだって」
「そうなんだ……」
まぁ、なーが情報を持っていなかったのは、βの時点で実装されていなかった、ということもあり得るんだけど。
情報がない以上、どう話を持ち運んでも推測にしかならない。
私は、欲しい情報が手に入ったので、ひとまずこの話はこれで終わることにして、早速やってみたいことをやることにした。
「お姉ちゃん、なに、その錆びだらけの剣……」
「お城の櫓で見つけたの。ほら、この前夕食の時に言ったでしょ?」
「あ~、そういえば言ってたね。うん、ちょうどいい機会だし、やってみようよ!」
なーが少し食い気味に来たので、私は少し落ち着かせてから鍛冶セットの前に立った。
使いたい素材――『錆びた小太刀』を取り出して、それを炉に入れようとすると――そこで表示される、鍛冶に関してのチュートリアル。
ふんふん、なるほどね。
炉に素材を入れたら、まずは製作可能なジャンルの中から作りたいものを選ぶ、と。
そして、十分加熱できたと思ったら、素材を取り出して金づちで形を揃えていく、か……。
できるかな……ちょっと不安になってきた。
でも、兄さんが困ってるみたいだからね。妹としては、何とかしてあげないと。いつも世話になっているんだからね。
「………………よしっ!」
私は、剣の鍛錬をする直前のように、軽く目を閉じて黙祷をしてから、無心になって鍛冶に取り掛かった。
まず、炉に素材を――手に持っている、このサビサビの小太刀をやっとこで入れて……あれ。炉の入れ口にでっかいバツ印がでてきたよ。入れようとしても押し戻されるし。
うん? なになに……『この素材を使用できるスキル及び設備を持っていないため、実行しても確実に失敗します。本当に開始しますか? ※失敗してもデメリットはありません』だって。
あ~、これ自分で使えるようにするには、鍛冶を行うための専用のスキルを取らないとだめなんだ。
私にはまだ無理な奴。
それに、ちゃんとした設備も必要みたい。
張りきった手前恥ずかしいけど、今はあきらめて鍛冶屋に持っていくしかなさそうだね。
「あ~、うん……私も、後ろから見てたから、何が言いたいかはわかるよ……」
「なー……とりあえず、これ、お願い……」
「うん……あとで鍛冶やってるプレイヤーに持ってってみる。βからのフレンドの中に、もう店持ってる人もいるから」
「うん、お願いね……とりあえず、私は気を取り直して、なにか薬でも作ってみるから」
「わかった。……えーっと、その、あまり気にしないようにね、あくまでもゲームなんだから」
「うん……」
なーの慰めが、いまは心に沁みるよ。
はぁ~……。
それからは、とにかく薬や料理を作り続けた。
なーは私が託した小太刀をもって、一旦この場を離脱。
ちなみにパーティは解散していない。
なーが言っていた、知り合いの鍛冶PCのところに向かっているはずだ。
さて、肝心の調合や料理の成果だけど……まず料理の方は、それとなく順調にできている、と思う。
なーと分かれる前に肉を捌いてもらったから、使える食材はそれなりにある。
それを使って、外部ブラウザーを立ち上げてレシピを確認しながらいろいろとつくってみたけど……やっぱり、私が一人で作るとどうしても『手作り』までには届かないことが多くなってしまう。
使えないほどじゃなくて、私が使う分にも少しながら効果は期待できるんだけど。
それでも、先になーの作った料理を見せられると、どうしても物足りなくなってしまうものだ。
もっとうまくならないとね。
それから、調合の方は――こっちも、割とよくできている方だと思う。
料理と違って、こちらはより精密に、分量から何から適切にやる必要がある。
あいまいな水準が苦手でもあるがゆえに料理が絶望的に苦手な私ではあるけど、逆に言えばきちんとした基準があるのなら、幾分かマシな方だと思う。
「……んで、できたのがこちらにある品々になります、と……」
デフォルトであらかじめいくらか収納されていた薬瓶に詰められたそれらは、贔屓目を差し引いても良品だと思う。
私はマナポーションが欲しかったので、使った素材もMPを回復しそうなネーミングのものばかり。
いろいろと試してみたけれど、どの素材を使ったものも一応NPCの店で売られていたものよりも、効果量が高く設定されていたし。
それに――【霊体】のレベルが上がっているおかげで、私が作ったモノにはもれなく〈霊媒〉の効果が付与されるようになっているんだよね。
知らないうちに身についていたアビリティ。まさに棚ぼただ。
今はまだ、消耗品だけにしかつかないけど――いずれは、武器や防具にもそれが及ぶんじゃないか、とひそかに期待を寄せたりもしている。
ゴーストは持ち物の倍率が低いけど、スキル次第では相乗効果でそこまで気にする必要もなくなるんじゃないかな、とも思ってるし。
とはいえ、今の私のMPでは、早くも現状あるMP回復アイテムでは不足気味。
私のMP事情を潤すには、少なくとも1本あたり50以上、欲望に忠実になるなら200は欲しいところ。でも、作れないものは仕方がない。
だから、少しでも効果の高いポーションを大量に作るしかない。
HPが2以上残っている間は、MPが0になってもHPを消費して100%回復できるとあっても、それはつまり一回倒れて復活しているということに他ならないのだ。
可能ならば、そうなる機会を減らすためにも、効果の高いポーションをつくることは急務。
私はどうにかして、高い効果のポーションをつくれないかと、いろいろ試していった。
けど、今の私ではどうやっても、+2~3くらいしかできなかった。
並べられた完成品をしばらく、そのままじぃーっと眺めて……やがて、ふっと横を振り向いたところで、ふと脳裏に閃くものが。
――そうだ。調合して駄目なら、合成用かまどにかけて合成してみたらどうだろう。
思い立ったが吉日、早速私はマナポーション二つを取って合成用かまどの前に立ち、改善を試みた。
合成のやり方は、極めて簡単。
まず、合成用かまどに合成したいアイテムをポチャッと入れる。
あとは火を入れて、完成後のイメージをしながらかき混ぜるだけ。ただ、イメージが不鮮明だったりいろいろ入り混じったりすると失敗となるので注意が必要だ。
まぁ、失敗しても投入したものは回収できるので、無駄にはならないんだけど、時間は無駄になってしまう。
不安ならシステムアシストをオンにすれば、候補から選択することも可能で、実際に私は事前にこちらを採用している。
こちらの場合だと、失敗することはないけど、その代わり自由性が限定されるというデメリットがある。つまり両方とも一長一短と言ったところだ。
そして、途中で中止したくなった場合は、アイテムが一度沈む前なら備え付けのハサミを使って引き揚げれば可能だけど、一度沈んでしまった場合は合成処理の演出に入ってしまうので手遅れとなる。
手順通りにまずは二つのポーションを入れてみる。
私はまだ【合成】スキルすら持っていないから、『消耗品』+『素材』のような異種合成はできない。だから、組み合わせるならこれしかなかった。
そして、表示されたパターンがこの二通り。
・パターン1【マナポーション+4 道具:消耗品 耐久:1/1】 予想査定額35G
効果:MP回復:基20+8、MP回復速度-11.0%(5m+4m)
消費:FP-4
MPを回復するためのポーション。マナの吸収を促進する成分が含まれており、MPの回復速度が少し速くなる。
固有印:MP回復促進1
合成印:追加可能数 0
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる
〈MP回復促進1〉 MPの自然回復速度が速くなる(1+固有1/10)
・パターン2【濃縮マナポーション+2 道具:消耗品 耐久:2/2】 予想査定額60G
効果:MP回復:基20+4、FP満足:4、MP回復速度-10.0%(10m+4m)
消費:FP-4
MPを回復するためのポーション。マナの吸収を促進する成分が含まれており、MPの回復速度が少し速くなる。濃縮されているため、2回分の効果量がある。
そのまま一気に飲み干すことで、効果も一気に2回分。
固有印:MP回復促進1
合成印:追加可能数 2
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる
いうまでもなく、欲しいのは能率であり1個当たりの回復効率なので、微妙にパターン1のほうが勝っている、ように見える。
しかし、よくよく見てみると濃縮ポーションの方は、一回で飲み干すと二回分の効果がまとめて発揮されると描かれている。
つまり、これをたくさん作って修正値を上げれば、それなりに回復量があるポーションが作れそうということになる。材料は二倍必要だけど。
こうして、私は調合で修正値付きのマナポーションをつくっては、合成でかけ合わせて修正値を加算し、より高性能なマナポーションの開発にいそしんだ。
その結果――見事に、【住の心得】がレベルアップ。第1スキルの上位スキルが習得可能になり、私はそれらの中から【調合】や【合成】、そして【鍛冶】などを習得していった。
あと、ポーションを作っていたからか、【薬剤の心得】もレベルアップ。【薬学】と【製薬の心得】というスキルが習得可能になっていた。
両方とも【薬剤の心得】が10以上で習得可能なスキルだ。
……そういえば、【調合】は【薬剤の心得】じゃなくて【住の心得】からなんだね。
なんか意外だったかも。
そうして新しいスキルを習得し終わったところで、タイミングよくなーが街の方から戻ってきた。
どうやら鍛冶PCとの交渉が終わったようだ。
ってあれ、なんか泣きそうじゃない、なー。
いったいどうしたん、お姉ちゃんに教えてみー?
「お姉ちゃん。一応、さっき預かった錆びた小太刀、知り合いのPCに頼んで打ち直してもらったんだけど、正体がとんでもなく悪質なものだったの……これじゃあお兄ちゃんに渡せないよ……」
そう言ってなーが差し出してきたのは――うわっ、なに、この小太刀を覆うどす黒い靄みたいなやつは。
とりあえず、ちょんっ、と触ってその小太刀の説明を見てみる。
……うん、なるほど。
これは確かにひどい。両方とも、〈呪い〉印で装備を外せなくなるうえに、〈怨念〉印で武器の基礎攻撃値と修正値が無効化されてる。せめて〈怨念〉じゃなくて〈嫉妬〉だったら、印無効化の効果で〈呪い〉の効果まで無効化されるからまだ使えたかもしれないのに。
装備しても攻撃力が素手と変わらなくなるうえに、装備を変えることもできなくさせられる……何だこの凶悪すぎる武器は。
運営陣のそこはかとない悪意をここに感じた気がするよ……。
私も初日にこれ経験したなぁ……未確定の時はなにもエフェクト出なかったけど、識別済みだとこうなるんだね。
私の場合、それに加えてNPCの店売りで、なんていうひどいパターンだったし。あれはあれで、まぁ場所が場所だからその特性としては仕方がないのかもしれないけど、さ。
「大丈夫。これなら、私に任せて」
「え?」
私が小太刀の柄に手を掛けると――
「あ、お姉ちゃん、まずいよ、呪われちゃうよ、外せなくなっちゃうよ……?」
「大丈夫。ほら、ちゃんと見てみ?」
「え……あ! ほんとだ……どゆこと?」
私は、きちんと説明しきれていなかった種族固有スキルについて、補足の説明をなーにしてあげた。
そしたら、なーは最初はジト目で私を見てきたが、
「む~……お姉ちゃん、肝心なこと教えてくれないなんてひどいよ……。…………でも、よかった。これなら、お兄ちゃんにもわたせるね!」
「うん。武器の性能も、片手持ちの長剣や普通の太刀くらいはあるみたいだし、いい方なんじゃないかな」
「うん、そうだね……。一応、お兄ちゃんの今の武器も修正値付きのを選んだから、あとで渡すときに合成してあげよう」
きっと、その方が喜ぶよ、というなーの意見に、私は無条件で頷いた。
1年越しの更新になってしまい申し訳ありません。お待たせしました。




