エマニノに向かおう!
それからもしばらく古戦場を練り歩き、私は多くの素材を入手した。
なーの案内のもと、多く手に入ったのは果物系、ハーブ系。それからイノシシ肉やなどの料理素材がメイン。
その他、イノシシや猿から獲った骨類とか、マナポーションの素材になったりするものもいくらか含まれていたけどね。
ちなみに、なーに教えてもらった、ドロップアイテムに関する設定は、『システムアシストあり』の『SPタイプ』にしておいた。
これは、解体可能な敵を倒すとその死体こそその場に残るものの、死体に重なる形で1回のみ挑戦可能なSPが出現。これの解明に成功することで、レアアイテムが手に入りやすく、入手枠数が通常時の2倍になるというボーナスが得られるようになるというもの。
なーは、フルマニュアルにした方が狙ったアイテムは手に入るし入手量も多い、と言っていたけど、私はそれほど手先が器用ではないので、なーの言うようにしてもうまくいかないと思ったのだ。
まぁ……その成果のほどは、言うまでもない。ゲームスタートしてからこれまでの数日間、料理などの生産活動に一切かかわってこなかったせいで、関連するスキルがこの辺りの敵の解体をするのに適したレベルに達していないから、そのあたりは仕方ないよね。
でも、そのおかげで【食の心得】と【サバイバルの心得】のレベルが一気に上昇。
両方とも、この短時間で一気に10を超えてしまった。ついでにMP消費の兼ね合いもあってか、【魔法の心得】も昨日取得したばかりなのに、同じく10まで上がってしまった。
……まぁ、この三つについては、メインで求められていた【食の心得】はともかくとして、【サバイバルの心得】は足りないレベルを補うために参照されたらしくてほぼ巻き添えで上がってしまったようなもの。それに、【サバイバルの心得】は敵と戦っている際にも少しずつ成長していくのもあって、そろそろ節目に到達しようとしていたところだったから、わからなくもない。
【魔法の心得】も――こっちも、昨日の北の丸探索である程度レベルが上がってたからね。それに、第0スキルはひよっこのスキル。なーの話を聴く限りでは格上相手に使用しているのとほぼ変わりない状態。
成長が早いのも頷ける話だと言われた。
ちなみに、早い人だと2日目の時点ですでに第1スキルまで到達してしまったプレイヤーもいるらしい。
なーもすでに7種類ものスキルを10レベルまで上げてしまっているそうだ。
魔法スキル中心だから、使用するスキルの数が多いのも関わっているらしいけど、保身のために取った別のスキルまで上昇していると聞いて、私は少し驚愕してしまった。
「……でも、なんにしてもとりあえず追加の第1スキルは取っておくけど。えっと……取得可能なのは――」
【料理】はまず獲得するとして……食材の幅を広げるためにも【釣り】は欠かせないでしょ。……あとは、【魔法の才能】。これも、私には必要なスキルだろう。
「あ、お姉ちゃん。ランダムからSPタイプに切り替えたなら、【食材の知識】も入れといたほうがいいかも。あと、他にもサバイバルの心得からだと【察知】とか【感知】とかもお勧めかな」
それらは、平時でも感覚が研ぎ澄まされるだけでなく、SPの発見必要レベルや解明に要求されるレベルなどを引き下げたりする効果もあるらしい。
あって損はないと力説されて、入れないはずがなかった。
ちなみになーはそもそも【サバイバルの心得】を入手していないので、【食の心得】から派生するスキル以外はノータッチのようであった。
「うーん、もう持ち物がいっぱいになって来たよ……お姉ちゃんは?」
「私も、同じようなものかな……」
「やっぱり、そうだよね……」
そもそも元の所持可能数が低い状態なのだ。そこに50%という極低率の負荷がかかっている状態だと、そうそう道具を持ち運べるようなものではない。
なーも、エルフがゴーストほどではないもののそれに次ぐ低倍率となっており、かなり圧迫されてしまっているみたい。
一応、私もなーも、一応腰に『普通の革袋』を装着しているけど、それでも容量6というのはすぐに埋まってしまうものだ。
やっぱり、所持品枠の増加が、今後の課題だねぇという話になりながら、私達はこれ以上ここにいても意味がなくなりつつあったので、エマニノへの道を急ぐことにした。
エマニノに到着したのは、それからゲーム内で3時間近くたとうかというところ。
もともとゲーム内時間で昼前に出立した私達は、日がそれなりに高い時間にエマニノに到着することができた。
――といっても、私は街の人に無視されちゃうんだけどね。
エマニノの街の住民や、ここを拠点として活動するプレイヤーたちと交流するには、日が完全に沈むのを待たないといけない。
それまで、私は完全に待ちぼうけとなってしまう。
ということで私は、なー案内の元、エマニノ南にある、ハイト湖畔というエリアにやってきた。
ここが、エマニノ周辺では一番の釣りスポットになっているんだとか。
「うわぁ……きれい」
「だよねぇ。私も、この光景はいつ見ても壮観だなぁって思うよ」
とりあえず、湖畔であれば空きスペースはいくらでもある。
夜になるまでやることがない私は、それまでなー監修のもと、ゲーム内での初めての料理に挑戦してみることにした。
ちなみに昨日のアップデートで補填された、エマニノで売っている調理器財だが――なーが言うには、エマニノで売っているものの中でも一番高いセット器財らしく、運営の太っ腹ぶりに感心してしまったという。
私は、それに加えてさりげない心遣いにも感謝してもしきれない思いだった。
それは――しれっと〈霊媒〉印が付いた状態で配布されてきたということだ。
ちなみになーのキッチンにも同じ印が付いていたらしい。
誰にも同じ効果を付与したということか。
「それじゃあ、お姉ちゃん。さっそくだけど、料理をやっていきたいと思います」
「はい、お願いしますなー先生」
「うん、よろしくねー、お姉ちゃん。できなくてもめげないでね」
「は~い」
なーの優しい言葉が、心にしみる。
私、本当に料理は壊滅的だからなぁ……家族の中では。
作れないことは、ないんだけどなぁ……。
「ではまず、本日のメニューから。お姉ちゃんにチャレンジしてもらうのは、こちら。一番シンプルな『ハンバーグのソースがけ』になります!」
「おぉ……」
ハンバーグなら私も何回か作ったことあるし、手順も知ってるから何とかできそうだ!
といっても、なーみたいに自分でソースをつくれるわけじゃないから、ケチャップオンリーで食べてもらったんだけどね、その時は。
そうしてなーにサポートしてもらいながら作った料理は、そこそこの出来としてシステムに認識された。
【手作りハンバーグ ソースがけ+1 料理:惣菜 耐久:1/1】
効果:HP回復:基200+20、MP回復:基50+5、攻撃力+50%(10m+1m)
消費:FP-20
「まぁ、そこそこのできなんじゃない? さすがに最初で大きな+の修正値は無理があると思うよ、料理初心者ならね」
「うん……なーのサポートがあって、それでこの出来だもんね」
これがなーのサポートなしだったら、どんな結果になっていただろうか。
「ね、料理の評価って、どうなってるの?」
気になったのでなーに聞いてみたところ、このゲームに搭載している料理エンジンは、VFゲームズが強気に出ているのも頷けるもので、なんと有名料理店が使っているようなVR料理シミュレータを引用しているらしい(そもそもそのシミュレータの開発に携わったのも、VFゲームズと同じグループの別企業なのだが)。
そして、その評価の基準もそれなりに厳しいらしく――
「まず、最低ランクの『まずそう』。アイテム名には『まずそうな』がついて、一応バフ効果はあるんだけど……、それでFPを消費するくらいなら、前衛専門の人が低い魔法攻撃値で支援魔法を使った方がいいくらいになっちゃうね」
「うわぁ……まさに失敗作……」
そうならないように注意しないと。
「まぁ、料理を焦がしちゃったりとか、奇をてらった味付けにしようとして失敗したりとか、そういったことにならない限りは大丈夫だと思うけどね。大体は、手順に失敗しても、何とかその後のアレンジで挽回できれば1ランク上の『ふつう』になるよ」
「『ふつう』かぁ……」
「そう。んで、世間一般的に食卓で楽しめるような家庭料理レベルになると、『手作り』になる、と……」
つまり、なーのことだね。
この『手作り』の範囲がかなり広いらしく、これより上下1ランクを出すのは良くも悪くも一苦労するらしい。
私は逆に、『手作り』をするのに苦労しそうだけど。
「『手作り』の上はあるの?」
「うん。βの時と、あと昨日もだけど、『特製』をつくったことがあるよ? βの時はレベルアシストありで『なー印』までいったことがあったなぁ……」
なー印って……行為のランクにまでなると、製作者の名前まで料理名に入るのか……。
そこまでいくと、さすがに人気者になるんだろうな……。
私も、その域に入れるようになるのが最終目標になるのかなぁ。
「まぁ、何度も言うように、搭載している料理のエンジンがレベチな規格だから、レベルアシストなしだと『手作り』からの脱却は難しいと思うけどね」
そう言うなーであったが、後日、なーがβの時にレベルアシストなしで『特製』ランクの料理をつくった経験があると知って、私がたまげてしまうのは別の話である。
前回のあらすじ三行
妹と行動開始!
ドロップアイテムの入手方法を設定したよ
妹の手料理を手に入れた!




