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世界の片隅で花は揺れ  作者: 伊藤ひぐ
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第四話 帝国での一日②


 草木が風で靡いてその間から木漏れ日が刺し心地の良い空間に二人は微妙な距離感を保っていた。

 グレイは依頼のため指定された薬草を探すため時折しゃがんで生えている草を手に取り指定された薬草を探している。

 テンはその姿を手伝うわけでもなくただ傍観していた。

 

「こんな所かな」


 採取が終わり薬草を籠に入れて立ち上がると近くの草むらが動いた。


「フゴォ!!!」


 聞き覚えのない鳴き声がして視線を向ければ草むらから大きな猪が威嚇するように此方を睨んでいた。一匹しか見えないが大人でも逃げだすような剣幕だった。


「危ない!」


 グレイはテンと猪の間に入ると守るように手を大きく広げて視線を自分に向けさせた。今の行動で猪はグレイを完全な敵と認識にして脚を貯めるように前脚は地面を数回蹴っている。


「早く逃げろ!!」


 その行動を見て後ろに視線を向けて叫ぶ。

 グレイは迷っていた。テンの存在が今は邪魔で仕方なく焦りを混じった言葉は自然と語尾を強くなる。


「フンゴォー!!」


 猪はグレイが視線を少し外した隙を見逃さず勢いよく突進してきた。


パァン!!


 グレイの頬を掠めるように“何か”が通った。振り返ると猪はその場で倒れていた。グレイはそこで顔を掠めた物がテンの放った弾丸だと理解した。


「あ、危ないじゃないですか!!」


 掠めた後を触ればほんの少し血が滲み出ていた。少しズレていればグレイがあの猪のようになっていたと感じてテンに向かって焦った口調で伝えた。


「何も危なくないし邪魔だから」


 テンは冷たく答えれば構えていた銃を片手に倒れた猪の近くに向かえば絶命してるのを確認して銃を脇に置いて目を閉じて手を前に合わせる。火薬と血の臭いが微かに漂うがその光景は何処か美しく感じた。


「……」


 その光景を見ていたグレイは先程の出来事をグッと堪えてテンの横に同じように跪けば同じ様に目を閉じて手を合わせた。暫くするとテンは立ち上がり音に反応する様にグレイも立ち上がった。


「これ持って帰って欲しいんだけど」


 脇に置いた銃を背負うと初めてテンからグレイに話しかけた。理由を聞こうとしたが食料以外考えられず思い止まった。


「いいですよ…」


 吸い込まれそうな赤い瞳でお願いされれば断れず、断っても何をされる分からないため引き受けて。


「なら、血抜きをするので少し待ってください」


 グレイは持っていた小さなナイフで絶命している猪の首を切り落とそうとしたがナイフの切れ味は決していい物ではなく血で滑り時間がかかった。暫くして首を刎ねれば持っていた麻紐で脚をキツく縛り近くの木に逆さに吊るす。ゆっくりと血が落ちていきその箇所は赤黒く変色していった。


「終わったんで帰りましょう。猪を持つのでこれ持ってください」


 暫くして血は一滴も落ちなくなり木に縛りつけた猪を下ろすとグレイは背中に担ぐように持ち上げた。立ちあがろうとするが少しふらつく程重量があり安定させられる位置を見つけるのに時間がかかった。無事立ち上がれば両手は塞がっているため本来の目的の薬草の入った籠を目で見てテンに伝える。


「…」


 テンは意図を汲み取るが嫌そうな顔で渋々、軽い籠を持てば前を歩いて行った。男女差はあるにしても中々の肉体労働で依頼先の家に戻るまでにグレイの額には汗が滲んでいた。


「ただいま」


 黄昏時を迎えて空を赤く不気味な海が染めていった。完全に暗くなる前に家に着く事が出来るとテンは扉を開ける。家の中からは玄関の方に足音が近いてくる。その足音は複数ありドタドタ大きな音を立て走って迎えに来た。


「おかえりーー!」


 男の子が三人、女の子が二人の合計五人が籠を持ったテンの周りに子供が群がる。興味津々に籠の中身を覗いたり話しかけるがテンは面倒くさそうに適当にあしらい中に入っていく。横顔しか見えなかったが出会ってからの時間は少ないが一番柔らかい表情を覗かせていた。


「お兄ちゃんそれなに?」


 その表情を見ていると女の子の一人が服の袖を引っ張りグレイを見上げるように話しかけてきた。


「多分今日のご飯かな?早くしないと食べられなくなるから持って行くね」


 優しく説明すると今度はグレイの周りに子供たちが集まってきた。


「お肉だー!」


「美味しそう!」


 子供達は目を輝かせながらグレイの背負う猪を見ていた。鮮度もあるため家の中に入れば急いで調理台の所に持って行った。


「お帰りなさい。すごいお土産ですね…」


 夕食の支度を始めていた彼女は調理台に置かれた大きな猪を見て目を丸くして驚く。


「血抜きは済ませてありますので調理すればこのまますぐに食べれます」


 机の上に置いたグレイは重さから解放されて肩を回しながら彼女に説明した。


「ご丁寧にありがとうございます。早速調理しちゃいますね」


 大きな猪を触れば驚きながらも少し嬉しそうにグレイに伝えて早速猪の調理に掛かった。調理台と猪のサイズは殆ど同じで少し大変にも思えたが料理の腕前がいいのか手際よく猪を解体していく。


「まだー?」


 グレイの後ろをついてきていた子供達は彼女に催促していた。待ち遠しいのか椅子には座らず彼女が猪を調理していくのを興味津々な様子で見ていた。


「もう少しだから待っててね?それよりテンを呼んできてくれる?」


 彼女は調理しながら子供達にお願いした。その間もテキパキと調理を進める。


「はーい!」


 子供達は素直に返事をすれば階段ドタドタと音を立てて登っていく。居間には調理の音だけが鳴り響く。


「素直でいい子達ですね」


 二人っきりで気まずくなったのかグレイは会話を振る。


「そうなんですよ、みんな自慢の子です。血は繋がってないですけどね?」


 調理を進めながら彼女は嬉しそうに答えた。しかし、無意識だろうがまたも気まずくなるような内容で話がここで止まってしまった。


「もしよかったら食べて行きますか?」


 座ってるグレイに彼女は気さくに話しかけた。重労働ではないが多少の空腹感はあった為言葉に甘えようとしたが強い視線を感じて振り返ると目があった。


「……」


 子供達に呼ばれて降りてきたテンの視線だった。今日見た中で一番嫌そうな目をしていてゆっくり目を逸らす。


「お気持ちだけで十分です。そろそろ帰りますね…」


 少し悲しそうに伝えれば立ち上がりお礼を言って帰ろうとした。


「そうですが…またいつでも遊びに来てくださいね!」


 テンの嫌そうな顔や目を見ていない彼女は優しく伝えてくれた。扱いの差がよりグレイの心を針で刺す。


「ありがとうございます、お邪魔しました」


 グレイはそそくさと逃げる様に玄関に向かった。


「ばいばーい!」


 子供達は元気よく送り出してくれたが直ぐにグレイへの興味を無くした様に調理されていく猪に群がっていった。テンはグレイが出て行くのを見届けるように横目で見ていた。


「まだまだ距離感はあるな」


 グレイは家路に着きながら呟いた。テンと会った回数は少ないがそれ以上に明確な壁を感じる。しかし、グレイはその理由を何となくわかっていた。

 

「帰ったら支度を済まして向かうかとするか」


 歩きながらグレイは腰についた本のようなものを手に取ると目を通す。いろんな出来事が書かれている日記のような物で確認が終われば再び元に戻すした。

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