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世界の片隅で花は揺れ  作者: 伊藤ひぐ
2/5

第二話 出会い②

 フードを取ると風が吹き少年の綺麗な灰色の髪が揺れた。

 警戒している二人に敵意が無いことを伝えるため両手を上げ、手のひら見せ何も持ってないことを見せる。

 大柄の男は武器を下ろすが、後ろの少女は依然としてマスケット銃を構え銃口をこちらに向けている。


「さっきの連中の仲間か?」


 大柄の男は少年に問いかけた。剣先は地面に向いているがいつでも反応できる状態で隙もない。

 

「違います!スレイヤ帝国に行く途中に迷ってしまって…」


 疑われた少年は慌てて答えた。三人の間に静寂が流れる。少し間を置いて少女と大柄の男は目を合わせ武器をしまう。


「疑って悪かったな。俺の名はアドニス・ハースラーだ。あんたの名前を聞いてもいいか?」


 大柄の男はアドニスと名乗り、少年に先程の行動の謝罪をした。それを見た少年は腕を下ろして楽にした。


「警戒して当然ですのでお気になさらず。お…私の名前はグレイ・オルコットといいます」


 少年も素直に許し、初対面の相手に対して無礼のないよう丁寧に自分の名前を名乗った。

 

「そんな硬くならなくていい。堅苦しいのは苦手だからな」


 アドニスの表情は柔らかくなり、優しく伝えれば警戒心も薄れて行った。


「助かるよ」


 グレイも先程までの敬語はやめ緩く返した。

少女の方に視線を向けると、いつのまにかアドニスの陰に隠れるようにこちらを見ていた。


「この隠れてる小さいのが…!」


 隠れる少女の名前を言おうとするが前置きが悪かったのか、少女はアドニスの脇腹を銃底で強く突くと鈍い音がした。

 アドニスは途中で言葉に詰まり、突かれた脇腹を押さえ悶えていた。


「テンよ…よろしく」


 軽く会釈をするように赤い髪の少女は名乗った。しかし本名は明かさず、名前だけを言う彼女はまだグレイを警戒しているようだった。


「お、俺たちも今から戻るから一緒にどうだ?」


 先程の攻撃から復活したアドニスはグレイに提案するが、その発言を聞いた途端テンはアドニスを睨みつけた。初対面の相手と同行するのはリスクがあってもリターンは少ない。


「一人で行くから大丈夫だ…」


 テンがアドニスを睨みつけているその光景を見ていたため遠慮して断ろうとして。


「気にすんな。テンもいいだろ?…ってなんで睨んでんだ?」


 困っている人をほっとけないアドニスは提案しながらテンの方を見ると睨みつけていて。原因もわからないアドニスは素直に聞いてしまい。


「勝手にすれば…」


 目が合ったのにも関わらず理解しないアドニスを見て、呆れたテンは二人を置いて一人で歩いて行ってしまい。


「お、おい。なんだあいつ…とりあえず俺たちも行くか」


 原因も分からず一人で行ってしまったテンを見て呼び止めるも反応はなかった。諦めてグレイに話しかければ歩き出し。


「すまないな、感謝するよ…」


 テンの警戒心はとても強く、完全に信用されるのは時間がかかると感じた。

 アドニスについて行き、石畳の舗装された道に戻って帝都に向かう最中、二人に会話は無い。警戒や気まずは無かったが、話す事も無かった。

 涼しい風か頬を撫で、木漏れ日が降り注ぐ道を二人で歩くその空間はとても居心地が良いものだった。


 アドニスの第一印象は見た目とは裏腹に優しく気さくな人間だと感じた。あとは、鈍感な男だ。

 テンとは殆ど会話もしていないため、分からないが警戒が強い事は分かった。


 しばらくすれば大きな砦が見えてきた。入口の門の前には武装した門番が立っている。

 少し先を一人で歩いていたテンは門から少し離れた壁に寄りかかり待っていた。テンと合流すれば入るための受付を済ませようと検問所に向かった。


「止まれ!通行書を見せてもらおうか!」


 武器を持った門番はアドニスとテンに命令口調で高圧的に言った。


「はいよ。それと森の中で盗賊団を潰しておいたから後始末よろしくな?」


 アドニスは通行書を見せれば、門番の一人に話しかけた。


「ま、またか!貴様らこれで何回目だ?自分達で処理しないなら面倒事を作るなよ!」


 後処理を頼まれた門番は怒りを露わにしてアドニスに詰め寄った。テンはその様子を見ればいつものが始まったと感じ、無関心に手続きを済ませ一人で中に入っていた。


「すまんな、いつもみたいに目印はつけてあるからよ」


 苦笑いをしながら手を前で擦り合わせながらお願いする姿からは威厳は全く無かった。


「貴様らの後始末をするのは大変なんだ!我々も暇じゃないからな!」


 文句を言う門番にアドニスは近づけば肩を組み少し離れれば、ポケットから金貨を取り出して門番に握らせた。


「小遣い稼ぎだと思って頼む。今回もそこそこ金になると思うからそっちの方もよろしくな?」

 

 アドニスは肩を組みながら耳元で周りに聞こえないように小声で言った。他の門番からは二人のやりとりは聞こえず怪しい目でその光景を見ていた。


「はぁ…わかった、ただし今回が最後だぞ!」

 

 門番は無理矢理握らせられた金貨を渋々受け取ればため息を吐いた。しかし、門番は捨て台詞のようにアドニス言い。


「ははは!今度はもっと多めに金貨を持ち歩かないとな」


 冗談混じりで答えるアドニスの姿を見た門番は明らかに苛立っていた。


「じゃあ、こいつはその残党か?」


 そんなやりとりを見ていたグレイの事を顎で指し聞いて。


「いや、来る途中迷ってたから連れてきてやっただけだ。こいつの通行書も作ってやってくれ」


 グレイの顔を見れば門番はめんどくさそうに、裏に行くと通行書を発効する為の紙とペンを渡して記入を促し。

 

「中で待ってるぞ」


 グレイの肩をぽんっと叩いてそう言うと、アドニスは手続きを終わらせて中に入ろうとして。


「いつまでこんな事するつもりだ?その場しのぎでしかないし、ただの自己満足でしかないぞ」


 中に入っていくアドニスに向かい呼び止めるように門番は言った。


「その場しのぎにしない為に頑張ってんだ。自己満足でも構わないさ」


 後ろを振り返らず答えたアドニスは腕を上げ、手を振って中に消えていった。

 

「めんどくさい奴だ…」


 見えなくなったアドニスに文句を言いながら、発効の手続きをしているグレイに近いて。


「お前に忠告してやる。あの二人とは絡まない方が身の為だぞ」


 意味深な発言をさたが、さっきまでの一連の流れを見ていたグレイは少し納得していた。

 通行書の発効の為に個人情報を書いていき。出身地を書く項目で少しペンが止まった。

 しばらくすれば記入を再開し完成した紙を門番に渡した。


「名前はグレイ・オルコットだな。出身地はテオ村?聞いた事ないな…」


 目を通しながら確認していた門番は聞き覚えのない出身地のためグレイに聞いて。


「東の方にある田舎町ですよ。名産品や周りに観光地とかも無いので…」


 笑って答えるが、グレイの瞳はどこか冷たく感じた。


「そ、そうか。入国を許可するがくれぐれも中で問題を起こさんよにな」


 その瞳に気づいた門番は息を呑み、通行書に情報を記入して追い払うようにそれを渡した。

 通行書を受け取り、グレイは門番に軽く会釈をして中に入っていた。


 門を潜り、一本道を歩けば沢山の人とすれ違った。交通量も多く道端も広い。

 しばらく歩くと開けた広場に到着した、そこには大きな噴水があった。

 中心は五段の皿状になっていて下にいくにつれ皿は大きな物になっている。その周りを囲う縁は座れる高さのベンチの用途も兼ね備えられていた。

 細かい模様が彫られていて、噴き出る水も澄んでいて美しい。その周りにはたくさんの人が座って談笑していた。すると、こちらに手を振る大きな人影が見えた。


「無事に入れたみたいだな、あいつ細かいから心配してたんだ」


 手を振るアドニスに近づけば、門番の愚痴を聞かされた。横に目を移せばテンは噴水の縁に座り足をぶらぶらと動かし退屈そうにしている。


「ありがとうな。俺はもう少し街を見てから宿屋を探してみるよ」


 その光景を見たグレイは申し訳なさそうに頭を下げて、二人から離れようとして。


「待て待て、この道を進んだ先にあるヤドリギって宿屋がオススメだ。安いし飯も美味いぞ!」


 グレイを呼び止めれば、広場から右に伸びる道を指を刺して宿屋も教えてくれた。ここでも面倒見のいい一面が垣間見えた。


「本当に色々助かる、また機会があればご飯でも奢らされくれ」


 グレイはそう返せば、アドニスは満面の笑みで。後ろにいるテンに軽く頭を下げ、街の様子が分かりやすいと思い、お城に繋がる大通りに歩いて行った。


「本当にお節介ね…」


 その光景を見ていたテンは縁から降りてアドニスに近づき、嫌味ったらしく言って。


「そうか?それにしても珍しい雰囲気の奴だったな…」


 顎の下に手を置いて首を傾げながら歩いていくグレイの後ろ姿を目で追って。


「普通でしょ。それより報告もしないといけないんだからさっさと行くわよ」


 ひとり蚊帳の外だったテンは怒っているのか、アドニスの足を軽く蹴って、ギルドのある方へ歩きだした。


「へいへい…」


 頭を掻き、面倒臭そうに歩き出したアドニスはグレイとは別々の道を歩いて行った。

 しかし、彼らはすぐに運命の糸によって再び引き寄せられる…

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