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夏休み8

「お前ら、動くなぁ」


「逃げんなヨォ、全員、その場で待機やぁ」



 静かな夜の公園に男の低い声が響き渡った。さっきのパトカーから降りた警察官やった。


「うおっ、これなんや、20人以上おる。あかん、多過ぎやで。しゃあない、(たか)ちゃん、本署に応援呼んでや」


「はい、了解です」



 公園の中に、4人の警察官が小走りに走って来た。多分、誰かが通報したんやろ。族の喧嘩やと思われてそう。


 4人の警官、普通やったら多いと感じる数。それやのに、そん時の、俺は少ないと感じた。


 何でって?


 やって、ただの喧嘩とちゃう。これ、殺人事件なんやから。



 高ちゃん、呼ばれた小柄な警官が無線操作しながら、人の少ない方に歩き始めた。



 その先には、頭、押さえとるパッ金。なんも知らんアホそうな警官が、無線でぶつぶつ喋りながら…やばいDQNに近付いて行く。



 あかんやろ、そっちは…



「ほんま、餓鬼がこんな夜中に。何、喧嘩しとんやな」


「ん?」


 中でも一番恰幅のええ、腹のぼってり飛び出した、なんか、100キロ以上ありそうな、おっさん警官が、最初にヨッシーの死体に気が付いた。



「はぁ? え?」



 オーバーアクション気味に驚いて見せた警官。


「ぁ、え?」


 驚いて声が出てなかった。

 そうなるんは、当然と言うてもおかしない。誰でもが、平等に経験することと、違うねんから。って言うか、俺自身、こんな経験したぁ無かった。


 それとほぼ同時に別の声が上がった。



「な、何や、これぇ!?」


 4人の中で1番若そうな、眼鏡をかけた細身の警官やった。喉を、潰されて倒れとった奴に声を掛けたんやと思う。



 警官がでかい声で、叫ぶ理由…



 マジか…


 その声で、俺は直感した。喉潰されて、あの背の高いヒョロガリも殺されてるんやって。



 なんやねん、これ。



 普通やったら、この後、パトカーの増援が、4、5台飛んで来て、20人ぐらいの警官で囲まれて、ほんで、皆んな本署に連行されて、この事件が終わるところやと思う。


 せやけど、違ごた。

 そうやなかった。


 アイツは普通とちゃうかった。



「君、何しとるんや。勝手に、動いたらあかん。君、ちょっ、ひっ!!」


 さっきの、高ちゃん呼ばれてた、警官が応援の連絡を終わった後、近くで頭、抱えてたパッ金に話し掛けてしもた。


 胸ぐら掴んで、腹パン…



「ゲボッ!! ぅげぇぇぇ」


 腹に拳がめり込んだ。

 身体がくの字に折れ曲がって、一瞬、警官の足が浮いた。殴られた警官が何かを吐き出した。絶対に見たくない光景。大量の血と内臓が口から飛び出とる姿。B級ホラーばりの血が噴き出た。


 もう、何がおきとんのか、ほんまに、追い付かん。俺の頭が狂いそうやった。



「お、お前ぇぇ! なにしとんやぁ!!」


 警官の叫び声。


「か、かっ、覚特(かくとく)、う、嘘やろ?」


「は、発砲の許可取れぇぇ!!」




 残った3人の警官の内のふたりが拳銃に手を掛けたこと。そんで、もうひとりが通話しとんのが見えた。其処におる奴らは皆んな、その光景に目を奪われとった。



 かくとく? 何のことや?



 聞いた事の無い言葉。警察の言葉やから何かの隠語な気がする。どう言うことや?俺には、解らんことだらけやった。



 耳元でボソッと声がした。


「マサヒロッ、今や。原付で俺等だけ逃げようや」


「…」


「ヨッシーの事は、俺等はもうなんも出来ん。ヨッシーの家電の番号も知らんし」



 振り向いた。

 めっちゃ近い、晃の顔が俺のすぐ隣やった。出来るだけ…小さい声で喋る為?


「…逃げる?」


「おお、今しか無いやろ」


 警官がパッ金に発砲しようと拳銃向けとる。皆んなの目が集中しとる。



 確かに…今やったら、誰かが追いかけて来るとは思えんかった。



「行こうや」


「お、おお」



 俺は晃の言葉に従うことにした。

 理由はふたつ。



 このまま、此処におって事件の関係者になったら、俺の人生、もう終わりやって言う思いと、万が一、警官がパッ金に負けたら?


 次は自分やって、言う恐怖が突然湧いてきたから。


 もし、後で捕まったら、怖くて逃げた言うしか無い。こんなもん、無理過ぎやろ。


 晃は自分のゼーダブアールに跨った。

 俺は警棒を持って…自分の原付に向かって走った。キーを押し込んで、エンジンを吹かす。


 耳障りな音がしてエンジンが動き出した。


 いつもなら、聴き慣れた心地良い音のはずやのに。なんでか、今は、他の奴らに逃げるんを見られてる気がして、物凄い雑音に聞こえた。



 初めて買った中古の年代物。


 パッツIIレジェンドが、俺の愛車。


 地元でも、ちょっと有名なイカツイ系の先輩に五万で売ってもろた。乗り慣れたはずのバイク。走り出すまでが、アホみたいに遅、感じた。



 ほんま…必死やった。


 此処で逃げたら、警察からも本気で追われるかも知れん。いろんなことが頭ん中で、グルグル回っとった。



「マサヒロ!! 行くでぇ」


 せやけど、晃のその一声が、俺の背中を押してくれたんや。ふたりで公園から原付で走り去る。公園の出入り口を抜ける。





 パァァァァァン。

 パァァァーン。


 背後で発砲する音が聞こえた。


 それから、悲鳴のような声も…


 俺と晃は背後を振り向かんかった。ヨッシーの遺体を見捨てた。後は警察に任せるしか無い。




 バイクで公園から遠ざかれば、遠ざかるほど、俺は怖なった。警察から逃げた。ヨッシーが殺された事からも逃げた。



 あのパッ金からも…



 後悔って、ほんまに後に来るんやって、俺はこの後、死にたなるほどこの身で感じる事になる。

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