夏休み2
総一郎から呼び出されて、仕方無く夜の公園で話を聞いてやっていた。その見返りに、奢って貰ったペプCコーラは確かに美味かった。
でも、小中学校からの同級生、田所渉の所為で、途中からどうも総一郎と俺の話が噛み合わんくなった。
ほんま、渉、ゴミや。
「でもやぁ、一応、俺らおんなじ中学やし、仲良かったやん」
「そやなぁ」
「それやったら」
だからや。
裏切り者は許されへん。
渉を助けようとする総一郎の言葉を遮るように、俺は言葉を続けた。
「そやからやん。それやのに、アイツ、何で俺らの悪口言うてんねん。一番、腹立つんが、お前の事、高校デビューの陰キャゴリラって言うてたらしいで」
「…はぁ?」
「ちょっと筋肉付けたからって、所詮、陰キャ言うてた情報、俺は手に入れてんねん。俺の事も、ひとりで喧嘩出来ん雑魚とか、金魚の糞とか、言うてたらしい」
「…マジか」
「昔はどうでもええやん。今やろ、大事なんは」
「…」
「昔仲良かっても、今、信用出来んかったら無理やし。俺はお前の事、信用してるし、これから先も信用出来る。でも渉は無理な。アイツは、なんかあったら、俺らの事、平気でポリや面倒な奴らに売んで」
俺の言葉に総一郎が、何も言えなくなる。
「…」
「もう、ええってほっとこうや。今、1番人気あるSNSアプリ、Rineの俺の別アカウント知ってるやろ」
「ああ、あれなぁ、確か…ごみ人間やったっけ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
「大阪南部で俺らの悪口言うたら、すぐにバレんで、俺に。特にSNSで呟いたら絶対や。俺には、特製の情報網があるからやぁ」
「お前の、そう言うとこ、だけは、ほんまに尊敬するわ」
「あのやぁ、渉が頭下げて俺らに頼って来たら、そん時考えたらで十分やろ…今は逃げとけ、言うといたら?」
「そやなぁ…」
「まぁ、完全に切る必要も無いし、アイツやったら、助けてくれたら、金払うみたいな展開もあるかも知れんし」
「えッ…金とんの?」
「お前や、北野からは死んでも取らんで。でも、今の渉は別な」
顰めっ面の総一郎が、俺から視線を外した。
「あーね」
話がひと息着いたところで、俺は飲み残したペプCコーラを、一気に喉に流し込んだ。
「ふぅぅ、最高。そんでやぁ、今日は何する?」
「せやなぁ、夏やし、花火とか?」
はぁ、野郎ふたりで花火とか、どんなチョイスやねん。マジ怖いんやけど。
とは言え、総一郎の話を無碍にも出来ん。一応、俺はどんな花火か聞いてみる。
「…で、どんなん? もっと詳しく」
俺の質問に、総一郎が首を捻る。
首もヒョロイ奴と比べたら2倍は太い。
鍛え過ぎやろ。
「イナイチ、2ケツの原チャで花火、打ち上げながら走る感じ?」
はぁ?
コイツ何言うてんと思ったが、その状況を、想像してみる…
「爆竹に火付けてばら撒きながら、爆走しようや」
「アホやろ! ポリ確定やん、それ」
「せやろ、やからやぁ、北野らも呼んで皆で遊ぼうや」
「ヤバッ、マジか?」
「マジや」
頭の悪い事この上無いが、2ケツした原付2台で、パトーカーと追いかけっこしてる自分がはっきりと想像出来た。
ヤバッ!
「頭、めっちゃ悪そうやねんけど、なんかバカおもろそうやなぁ」
「せやろ」
「でも警察はええねんけど、河内長野のアホに絡まれたら最悪やん、それは、途中でUターンで良い?」
「はぁ、それはカスいやろ?」
「嫌、2個上の人に、ヤバいんが居てるらしいねん。確か、榊やったっけ、俺は顔知らんねんけど。富田林から河内長野に向かって、河内長野に入ってすぐのイナイチ沿いにその人の実家あるから、でかい音させて暴走したら出て来るらしいで」
思い出した様に総一郎が頷いた。
「あ、俺もなんかその話、聞いた事ある…それ白のセルシオに金プレート」
「せやで、全身和彫済みのマジでヤバい人らしいで」
「あー、ヤクザでも無いのに、別筋のヤバい系とか…面倒臭いよなぁ」
「なんか最近、めっちゃ機嫌悪いらしくてやぁ。何人かガチ被害出てるらしいねん。其処も気ぃ付けんとあかんねん」
「あーね」
総一郎がなんか考え込んでから聞いて来た。
「揉めたら、やばいよなぁ?」
絶対やばいに決まっとる。
でも、俺はもう花火やる気やった。
やらんと言う選択肢は無い。
やから、適当に返した。
「まぁ、でもいけんちゃう。その人やと思ったら、速攻単車止めて4人で頭下げようや」
「マジか」
「知り合いになれるかも知れんし、もし、2、3発殴られてもヤバい人と絡んだ話出来るやん」
「金払え言われたらどうすんの?」
「持って来ます、言うてそのまま逃げるしか無いんちゃう。まさか、家まで来んやろ。その人、19歳か、20歳のはずやし」
ふたりで顔を見合って首を捻る。
こんなん、なる様にしかならん。
総一郎が呟いた。
「まぁ、なんとかなるか、会わん可能性のが高いしなぁ」
「ほんまそれな」
「ほんじゃ、準備して俺の家、向かいに来てや」
「わかった。スマホ以外全部置いて行くで、間違えても保険証とか持って来んなよ。後、金は千円迄な」
「了解」