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夏休み

言葉遣いが悪いのは承知しています。


ご注意下さい!!

「なぁ、あん話聞いた?」


 ぬっと差し出されたペットボトル。

 ティーシャツから生えた男の腕は、鍛えられた筋肉に覆われて、まるでぶっとい丸太のようやった。



「ん? なんの話?」



 俺は生返事を返して、それを受け取った。冷えたボトルの表面に発生した水滴が冷たくて心地良い。


 目の前のコイツは、幼稚園の頃からの幼馴染みで、福沢総一郎。仲間からはイチって呼ばれとる。やけど、俺は小学校の時から変わらん。今も昔も、そしてこれからも、ずっと総一郎って呼ぶ。


 大阪門真商業高校ラグビー部所属。身長170センチ、体重90キロ、ウエイトリフティングではなんと120キロを持ち上げる。握力は75キロと言う、17歳とは思えない筋肉馬鹿。


 そんで、俺の名前が福山雅洋(まさひろ)。音楽の才能が壊滅的に無くて、歌もまともに歌われへん、俺。


 後一文字、両親が勘違いしとったら、今頃、学校で、陰湿ないじめにあっていたこと間違い無い。ほんまに危なかった。ちょっと可哀想な奴言うても過言では無い。


 一応、高校は進学校である、大阪葛城高校に合格したが、今や完全に落ちこぼれ。まぁ、やる気にならんから仕方ない。身長171センチ、体重58キロ。


 俺らは、それぞれ、別の高校に通う高校2年生、まぁ、腐れ縁的な関係ではある。




「なんや、聞いてないん?」


 キャップを捻ると、プシュッと言う音が夜の公園に響き渡る。


 総一郎の話を聞き流すように、俺はキンキンに冷えたペプCコーラを乾いた喉に流し込んだ。


「ぶっ、はぁぁぁ。んまぁ、ペプC最高! マジ神」


「やからさぁ、真面目に聞けよ。俺の話。あれや、(わたる)の話やって」


「んー、あーなんか、恐喝されてるとか言うやつ?」


「そう、それ、相手、河内長野の奴らしいで」



「どうでもええな。大体、面倒臭いやん。多分やけど、それって、堺の(まこと)君とこと揉めてる奴やで」


「そう、それや」


「ふうん、渉、乙!」



 俺の言葉に総一郎が、殊更、驚いて見せた。


「はぁ、見捨てんの?」


「無理やろ、(まこと)君と揉めてまだ詰められて無いって。ソイツも、それなりにヤバい奴なん、確定やで。間違い無いな」



 納得がいかず、顰めっ面をする時、左側の眼を細めるのが総一郎の癖やった。今も細めて見せとる。短髪で筋肉付けた奴、特有の丸顔。生まれつき目が細いせいか、暗闇の中で見ると、睨んでも無いのに目付きが鋭い感じになる。


 まるでモノホンのヤクザにしか見えん。



「…なぁ、喧嘩なるんやったら、俺も参加すんで」


「そういう問題ちゃうな」


 そう言って、俺はもうひと口、ペプCコーラを流し込んだ。



「なんやねん、そんな危ない奴なんか?」


「ってか、ヤバさの質が違う。素手のタイマンやったら、絶対、お前が勝つと思うで。でもやぁ、真君とか、喧嘩に金属バットとか当たり前やからな。相手の家、特定して夜中にバイクで集合、家の窓、金属バットで割りまくって、爆竹大量に放り込むねんで。一歩間違えたら火事やで。放火や、人死んでもおかしないからなぁ。ほんま、アイツら、気い狂うてるから」


「…なんでそんな奴らが、捕まって無いねん」



「そら、普通の人間は、あんなん相手すんの、嫌やろ。マジで怖いし、疲れるし。結局、被害届出すのん諦めるねん。俺らの親父ぐらいやで、それでもガチでやりそうなん」


「…あーね」


 何かを納得した様に総一郎が頷いた。



「兎に角やぁ、真君と揉めてまだ無傷とか、あり得ん。関わんな」


「知るか、俺が先に潰したる…」



 総一郎が自分から喧嘩したがるって言うのんは、ちょっと珍しかった。とは言え、売られたら嬉しそうに買うし、切れたら相手をボコボコになる迄、殴んのが総一郎。


 こんな事言い出しても、何もおかしない。それでも、3ヶ月前、4月の終わりに喧嘩してゴールデンウィーク前に、コイツは傷害で捕まっとる。せやから、今、捕まんのはほんまに不味い。


 って言うか、何で、俺がお前の心配せなあかんねん。



「お前は強い、マジでそう思うわ。ほんでもや、やり過ぎたら、また、傷害事件になるんやで。学校も二回目は助けてくれんやろ。お前、高校退学出来ん?」


「…」


 俺の質問に、総一郎の顔が強張った。

 結局、相手の鼻の骨が折れたとかで傷害事件になる所を、高校の先生の尽力があって、そのお陰で、総一郎の親父が金で何とか解決させる事が出来たって話。


 今、暴れて捕まったら、親とセンコーの面子丸潰れや。家庭センターが匙投げたら、次は一気に家裁やのに。


 ほんま、コイツはなんも後先考えてへん。


「今は、おとなしくしとけよ。関わらんのが1番やで」


「せやけど、渉、どうすんねん?」


「逃げたらええやん。時間稼いどったらその内、ソイツも、流石に真君らに潰されて、大人しなるって」


「なんやねん、それ。渉、怖いゆうて電話で泣いとったで」


「はぁ? マジ雑っ魚。ほんま、渉、ヘタレやなぁ。包丁でもナイフでも、なんでもええねん。ホームセンターに100均、何処でも売っとる。殴られたら、それで、ガツンといったったらええねん」


 呆れたような表情で総一郎が俺を見た。


「そんなん、マジでやれんのお前ぐらいな。ボクシング経験者に殴られて、負けんのが嫌やからって、隙見て傘の先で眼突いて遣り返す様なん、ほんま、お前だけやから」


「その話はもうええって」


 なんかあると、コイツはすぐにこの話をだして来る。自分も大概の癖に。


 お陰で、ある意味、俺の黒歴史や。



「ほんで、お前の親父、普段、お前のこと褒めへんのに、それ聞いて、ようやったって言うたんやろ。ガチ、気違い親子やんなぁ」



 ほんま、コイツにだけは言わんかったら良かった。


「それ、言うから要らんねん。親父関係無いな」


「じゃあ、渉、助けてやれや」


 しかも、渉、助ける話とも何ら関係無いんやけど…



「って言うか、助けてやる必要あるかぁ? アイツ、最近、俺らの悪口あっちこっちで色々言うてるらしいで」


 俺がそう言うと、総一郎の顔色が曇った。

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