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形なき凶器  作者: 無名
14/18

戦闘開始





 「――――コトバケの出現箇所は?」

 『学院の北、青森との県境付近だ。小型のコトバケが二十匹ほどいる』

 夜桜が通信機で、学院の本部と連絡をとる。

 学院の本部はコトバケの場所をレーダーで探知し、コトバケの場所を司言者に伝える役目を持つ。

 以前、夜桜が久遠寺を助けたときも、夜桜は本部と連絡をとっていた。


 「青森との県境…………まさか、秋田の防衛音波が効力を失ったんですか?」

 『いや、その報告はまだ来ていない。おそらく、小型のコトバケが壁を乗り越えただけだ』

 「そうですか…………なら、良かったです」

 (これ以上、こちら側に奴らを侵略されてたまるものですか…………!)

 夜桜は過去の戦いを思い出しながら、心の奥底からそう思った。



 コトバケの侵略は、北海道から始まり、青森にまで進んでいる。

 そして、今、青森と秋田の間には、大きな壁が作り上げられていて、その壁から『防衛音波』なるものが発せられていて、秋田への侵略は辛うじて止まっている。

 この『防衛音波』というものは、コトバケにしか聞こえない音声のようなもので、これが流れている箇所にコトバケは積極的に近づこうとしない。

 つまり、人類にとってコトバケの侵略を妨げることのできる唯一の手段である。

 しかし、それもいつ破られるのか、わからない状態なのである。


 ランワード学院にとって、これ以上のコトバケの侵略は許されないのだ。

 青森と秋田の県境と聞いたとき、夜桜の顔には少しの緊張が現れていた。

 しかし、それも無理はない。防衛電波は距離が離れれば離れるほど、その効力を弱くするという性質を持つ。逆に言えば、壁の近くにコトバケが現れるのはそう滅多にあることではない。防衛電波を発している装置は、そう簡単に壊れるものではないが、万が一ということもある。



 「青森の県境までは、ここから迎えば十分弱で着きます。走りますよ」

 警報を聞いてから、迅速に出撃の準備を終えた三人は、ランワード学院から目的の場所に向かおうとしていた。

 「ま、待って!」

 人智を越えた速度で加速していく、夜桜と清和。しかし、それに久遠寺はついていくことができない。

 (そうか…………久遠寺さんは…………)

 司言者として、まだ経験を多く積んでいない久遠寺は、夜桜や清和についていくことはできない。

 コトバケの出現は、一刻を争う事態。放置すれば、被害は甚大だ。久遠寺を待っている暇はない。

 仕方ない。ここは彼をここにおいていくしかない。共に戦うといった矢先、おいていくというのは悪い気もしたが、誰かの命には変えられない。


 夜桜がそう判断しようとしたとき、一台の大型車が三人の前を横切った。

 「三人とも乗って! 私が目的地まで乗せていく!」

 その車を運転していたのは、川縁だった。

 「川縁さん!!」

 「夜桜ちゃんのことだから、久遠寺を連れていくと思ってね。車を手配しておいて正解だった。ささ、急いで!」

 夜桜、久遠寺、清和は急いで車に乗り込んだ。


 「助かりました、川縁さん」

 「ああ、困ったときはお互い様さ。この車にも、一応レーダーがついているから、一直線で目的地に向かう。獣道を走るから、結構揺れるよ!」

 そう言うと、川縁さんの操作する車は森のなかを突っ切っていく。

 川縁さんが乗ってきた車は、タイヤが分厚く、重厚感のある車体をしていて、多少地面がでこぼこしていても、走ることのできる車両だった。


 「川縁さん、私のことは目的地の手前で下ろしてください」

 そう音を発したのは、助手席に座っていた夜桜でも、運転席の後ろに座っていた久遠寺でもなく、そのとなりに座っていた清和だった。

 今の清和は、普段のように文字で会話するのではなく、口元につけている発声機なるもので会話している。

 見た目は、真っ黒いネックウォーマーのようで、ピッタリと口元に張り付いている。

 その発声機は清和の脳の動きから話したい内容を断定し、清和の代わりに話してくれるという、なんともハイテクな代物であった。

 戦闘の際は、タイピングをしている暇はないので、装着しなくてはいけないのではあるのだが、清和はこの発声機の見た目を気に入っていないようで普段は外している。

 清和の発声機から流れる、無機質に近い清和の声が車のなかに響いた。


 「いや、待って。二人を前線に下ろしてからにするよ。一人でいるのは危険だ。できれば私と一緒に、いてくれ」

 「了解しました」

 清和の戦闘スタイルは、言うなれば狙撃である。

 彼女の戦声機は、スナイパーライフルの形に変形されるようで、目標から遠ければ遠いほど、その威力が増す。そして、清和の狙撃は一級品であり、どんな位置からでも目標を仕留めることができるとか。


 川縁が運転する車が、道なき道を進んで行く。木々の隙間を縫いながら、森の奥へと進む。

 「コトバケの出現区域までおよそ四百メートル。ここで、いいだろう」

 「ありがとうございます、川縁さん。行きますよ、久遠寺さん!」

 「わかった!」

 目的地が目の前に迫ったところで、二人は車を降りた。

 二人を下ろした車は、そのままもと来た道を戻る。

 そして、逆に二人は更に森の奥へと進んでいく。



 「――――いました、コトバケです」

 夜桜が目標を発見し、久遠寺に伝える。

 本部からの連絡通り、コトバケの数は二十匹。森の中に点々としてる。

 小型のコトバケは、小型と言っても二メートルほどの大きさをほこっていた。

 その体表の白さから、まるで森の中に溶け残った雪があるかのような、そんな景色を作り上げていた。

 「いいですか、久遠寺さん。コトバケは、大型よりも小型の方が行動が素早く厄介です。攻撃する際は、よく狙ってください」

 「了解!」

 久遠寺は元気よく返事をする。初めての実戦を前に、緊張もあるが、彼にとってこの戦いは自分の価値を証明する戦いのような気がして、変に前向きになっていた。

 「いい返事ですね」

 そんな久遠寺を見て、夜桜はニコッと笑った。


 「それでは、これより戦闘を開始します」

 夜桜が、自らの戦声機を解放する。

 久遠寺は、自らの戦声機強く握りしめる。

 それぞれが、それぞれの戦闘体制を取る。もちろん、彼女も――――。



 目的地から、少し離れたポイントに清和は定位置を取る。そして、戦声機を解放する。

 言葉を話さない彼女の戦声機の解放の仕方は、少し特殊だった。

 発声機から発せられる声は、清和のものではないから、戦声機は反応しない。

 だから、彼女の戦声機の初期状態は、メモ帳のような形になっている。

 そこに、清和が指で『解』と、文字を記すことで、戦声機が解放される。

 「二人とも、援護は任せて」

 二人には決して届かずとも、頼りになるその言葉が彼女の発声機から発せられた。



 秋田の森の奥地。誰の目もつかないようなその場所で、久遠寺令のデビュー戦が始まった――――。

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