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形なき凶器  作者: 無名
13/18

出撃




 「――――ではでは、この部屋に入ってください」

 昼御飯を食べたあと、久遠寺は夜桜に連れられ、校舎内のとある部屋に来ていた。

 「ここが私達のチームの控え室です」

 夜桜の言う通り、そこは夜桜がリーダーをしているチームの控え室だった。



 ランワード学院では、年齢や階級に関わらず、全ての司言者がチームを結成することができる。

 そのチームの人数は、一部の例外を覗いて、四人以上と定められている。

 「コトバケとの戦闘において、人数が少ないことは致命的なんです」

 控え室に向かうまでの間、夜桜は久遠寺に対してチームの説明をしていた。

 「昨日のような、大型のコトバケが一匹で暴れいる場合は、一人でも何とかなりますが、小型や中型が複数体で暴れている場合は、そうはいきません。ですから、最低でも東西南北の全ての方角を見渡せるよう、四人が最低人数に設定されているんです」

 学校の案内に比べて、比較的丁寧な説明をする夜桜。

 それを見て久遠寺は、夜桜がそんなに丁寧に説明するなら大切なことなのかな、と思いながら真剣に聞いていた。

 「私たちの所属しているチームの名前は、『ブーケ』。一応、私はリーダーを務めています」

 夜桜は特に威張ることもなく、平坦な口調でそう言った。

 彼女にとって、チームのリーダーであることはそれほど誇らしいことではないようだ。



 ――――ガチャという音ともに、夜桜は控え室の扉を開け、中に入る。それに久遠寺もついていく。

 扉の先に広がっていた光景。それは、リビングとキッチンが一緒になっている広々とした一部屋だった。

 「ここが、控え室…………!」

 この部屋ひとつで、簡単に家庭的な生活をしていくことができそうなその部屋の設備を見て、久遠寺は目を丸くして驚いた。

 こんな部屋が、全てのチームに与えられていると考えると、素晴らしい待遇である。


 久遠寺が部屋の構造に驚いていると、夜桜は入り口のすぐそばに置かれたソファーの方を見て。

 「こんにちは、清和(せいわ)さん。また読書ですか。好きですね」

 誰かに優しく話しかけていた。

 久遠寺からは、夜桜で死角になって見えなかったが、ソファーには一人の女の子が座っていた。

 片手で広げられるくらいの大きさの文庫本を、熱心に読んでいるようだった。

 その子は、夜桜に話しかけられると、穏やかな表情で笑いかけた。


 久遠寺が感じた彼女の第一印象は、正直あまり良くなかった。

 本を読む彼女の目付きは、どこか鋭く、まるで何かを睨み付けているような目をしていた。

 長く腰あたりまで伸びた青い髪を、後ろで一本に束ねていて、前髪は目が見えるくらいまで綺麗に整えられている。

 そのせいか、彼女の目付きの悪さが明るみに出ている訳ではあるが、それでも、その綺麗に整えられた前髪には、感謝をするべきなのかもしれない。

 なぜなら、目付きが悪いように見えていた彼女の目は、夜桜に話しかけられ笑顔になることで、とても穏やかになり、彼女がとても穏やかで優しい人であることが、容易に想像できた。


 「あちらの方は、清和 永遠(せいわ  とわ)さん。私のチームの一員で、私たちと同じ高等部の二年生です」

 夜桜は清和の方を手で指しながら、彼女の代わりに自己紹介をした。

 「清和さん、ですか。久遠寺令です、よろしくお願いします」

 それを受けて、久遠寺は丁寧に一礼をした。

 「…………」

 清和は何も言わずに、ただ笑顔で久遠寺に手を降った。

 なぜ何も話さないのだろうかと、久遠寺が疑問に思ったつかの間、夜桜がそれについて説明してくれた。

 「清和さんは基本、何かを話すことはありません。話すことはできるのですが、話し続けてしまうと彼女の力が薄れてしまうので、極力話さないようにしているんです」

 端的な説明であったが、久遠寺はそれで何となく理解できた。

 つまり、夜桜が自然体の言葉を使うことで樹木を生成するように、清和も無口であることで、何かの武器を生成できるのだろう。

 無口であるというのが、一体どんな武器を生成するのか気になるところではある。


 ソファーに座っていた清和はおもむろに立ち上がると、久遠寺の方に近づいてきた。そして、ポケットからスマートフォンを取り出して、何か文字を打ち込み始めた。

 「何も話せないということで、清和さんは普段はスマートフォンに文字を打ってコミュニケーションをしているんです」

 「へぇー、なるほどね」

 一見、効率が悪いコミュニケーション手段に見えるのだが、決してそんなことはなかった。

『清和永遠です。よろしくお願いします。もしかして、このチームに入ってくれる人ですか?』 

 清和はメモの欄にその文字を打った後、スマートフォンを両手で掲げながらこちらに見せてくれた。この間、僅か一秒である。

 話せない分、とてつもないタイピングスピードを手に入れているようだ。


 「えっと、まだ招待されてる段階なんですけど…………」

 スマホに並んだ文字列を見ながら、久遠寺はそう答える。

 そして、それに更に答えるべく、清和はタイピングを始める。そして、打ち終わったものをこちらに見せる。

 『そうなんだ。じゃあ、入ることになったらヨロシクね!』

 スマホと口頭でのコミュニケーションという、異色の会話ではあるが、これが意外とうまくいくものだった。

 

 「まぁ、久遠寺さんがこのチームに入るかどうかは自由ですが、私たちはいつでも歓迎していますので」

 『もし、令くんが入ってくれたら、あと二人だね』

 「れ、令くん…………」

 まだ会って間もない女の子に文字でとはいえ、下の名前で呼ばれて久遠寺は少しキョドってしまう。

 しかし、それでも久遠寺はそんな自分を抑圧して会話を続ける。


 「もしかして、このチームってまだ二人しかメンバーいないの?」

 久遠寺はふと、疑問に思う。控え室を見てみても、清和以外にメンバーらしき人物はいない。外に出ているのなら、話は別だが、どうもそんな様子はない。

 「はい。実は、まだ正式にチームは結成していないんですよ」

 「え? そうなの? じゃあ、この控え室は?」

 「この控え室は、私が以前所属していたチームのものです。まあ、もうなくなってしまいましたが」

 先程、夜桜は『ブーケ』というチームの名前も言っていたし、控え室もあるから、てっきりもう四人以上いるチームなのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。


 「一応、五人揃ったら正式にチームを結成できる予定です」

 「五人? 四人じゃなかったっけ?」

 『そうなんだけど、緑はどうしても五人がいいっていうから』

 横から口を挟むように、そう文字を起こしたのは清和だった。

 なにやら、夜桜には五人にこだわる理由があるようだった。

 一体それがなんなのか、久遠寺は聞こうかと迷った。

 しかし、それは迷っているまま、うやむやになってどこかに消えてしまった。なぜなら――――。


 『フォーンフォーンフォーン――――』

 突然、甲高い警報が控え室の中に響き渡る。

 「な、何!?」

 「これは、コトバケの出現を知らせる警報! 急いで戦声機を準備してください! 出撃します!」

 夜桜は警報を聞いて、迅速に指示を出した。

 「ぼ、僕も?」

 「はい。もちろんです。今回あなたは、臨時のチームメイトとして、我々と共に戦闘してもらいます」

 「――――っ!!」

 戦闘。その言葉を聞いて、久遠寺に一気に緊張が走る。


 久遠寺は、司言者になったその日の午後、早速初の実践に参加することになったのだった――――。



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