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廊下の奥で、君と出会う

作者: 暇人

「なあ、知ってるか? あのうわさ」


 と、後ろから声をかけられる。


「ん? なんだ?」


 俺は首だけ振り向かせながら、言った。

 話しかけてきたのは後藤修二、俺の後ろの席に座っていて、そのせいで仲良くなった。野球部なので坊主にしている。意外と真面目だけどノリも良い友人だ。


「知らないのか? あの旧校舎に幽霊が出るってうわさ」


 この学校には本校舎と旧校舎に分かれていて、旧校舎は木造のとても古く、ボロい校舎のため、今はほぼ使われていない。そのため、少し暗めで近づきたくない感はある。

 実際、今まで旧校舎に足を踏み入れたことすらないし、他の生徒が旧校舎の方に向かっている姿すら見たことがない。


「知らないな。確かに出そうな感じはあるけど。そんなうわさどこで聞いたんだ?」


「いや、野球部でうわさになっててよ」


「マジで?」


 と俺は少し驚く。

 普通の部活だとそんな話が流れても、誰かが適当に流したうわさだろうと、思うだろう。しかし、野球部は練習も厳しく規律も厳しいのでそういううわさが流れることもないと思っていた。


「そうなんだよ、なんか旧校舎で白いものを見たっていう人がいるらしいんだよ」


「へぇ。 でも、旧校舎に近づく人なんているのか? あそこ本校舎から少し離れてるし」


「そこら辺は知らないんだけど気にならないか? ってことでお前言ってみたら? どうせ暇だろ?」


 と、俺に行かせようと促してくる。

 俺は部活にも入っておらず、放課後は暇である。

 最近は特に暇を持て余し気味だから、時間はあるのだが、あの不気味なところに一人で行くには気が引ける。


「流石にきつい。てか、気になるんだったら自分で言ったほうがいいんじゃなか?」


「い、いやぁ。 俺部活あるし、なかなか時間作れないし。 行ってくれたら、明日の昼、奢るぞ」


「ほう」


 と、少し考える。

 放課後といっても日は出ているし、旧校舎がいくらボロいと言っても誰でも立ち入れるようになっているので、危険なところではない。

 それにそれだけで明日の昼代が浮くのだったら結構いい提案なのでは?


「いいだろう。約束は守れよ?」


 と、上から目線で言う。


「流石、頼れる友だな」


「思ってねーだろ」


「いやいや、そんなことないっすよ。とりあえず、証拠として写真撮ってきてな」


「いや、幽霊の写真もで取れるかどうかわかんないぞ」


「いや、そうじゃなくて旧校舎な」


「ああ、そっちか」


 と、若干の天然を挟みつつ、そんな流れで旧校舎に行くことになった。


<>


 放課後。

 俺は本校舎から少し離れた旧校舎に来ていた。

 旧校舎は写真でしか見たことがなかったが、生で見るとイメージしていたものよりずっと不気味に見える。


 一人で入るのは少し腰が引けるなぁ。


 そんなことを思いながら、ささくれている木でできた入り口を通って廊下に行く。

 廊下は吹き抜けになっているようで向こうには外の明かりが見えている。そのため、絶妙な風がこちらに向かって吹いている。それが恐怖を増させている。


 思ってた以上に怖いかもなぁ。


 そんなことを思いつつ、廊下を歩き始める。踏み出すごとに床がギシギシなっている。


 おぉ、これ、大丈夫か?


 懸念を抱きずつも廊下を歩き続ける。

 すると、何か奥から白いものが見える。


「なんだあれ?」


 最初はゴミかと思っていたが、それがゴミではないとわかる。

 そして、それが風に乗るかのようにこちらに向かってくる。


「マジかぁ......」


 と思いつつ、後ろに下がりながらそれを見つめていた。

 目を凝らしてみるとそれには逆光で影ができていた。影ができていたのは下の楕円の部分で上の部分は光が透けていた。


 あれは......綿毛?


 子供の頃に遊んでいる最中、道端に生えていた。綿毛をよく飛ばしたりした記憶がある。


 うわさのタネはこれか。


 旧校舎に入る人はいないから、おそらくここを遠くから見たときに、綿毛が太陽の光に反射しているのを見て幽霊とかだと思ったのだろう。

 普通なら気づきそうな気もするが、不気味な旧校舎とほとんど立ち入る人がいないということで、そんなうわさがたってしまったのだろう。

 証拠の写真を撮るためにスマホを向けたが、逆光であまり良く映らない。


 せっかくだし、タンポポの写真撮ってくるか。


 と、右手にスマホを持って、入口と反対側の光の方へ向かった。

 向こう側まで行くと今まで暗い廊下を歩いていたこともあって、少し眩しくてよく前が見えなかったが、すぐに目が慣れて前の景色が見えた。

 そこにはレンガで囲んである花壇とその前に立っている少女。その少女の右手には綿毛が散ったタンポポが握られている。

 その光景は美しく、儚かった。


「すげぇ.......」


 その幻想的な光景に思わず、彼女にスマホを向けシャッターを押してしまった。

 カシャっ、と音がなる。

 その音に気づいて彼女がこちらを向き、俺と目が合う。


 あ、やべっ。


「......」


「......」


 二人とも黙って見つめ合う。

 これが彼女出会いだった。

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