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函鬼  作者: 刹那END
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STAGE-2-  裏

 函鬼

 それは人には見えない存在。その函鬼を『ガフの部屋』に返すため、和己は謎の女と行動を共にすることになったのであった。




 コンコン

 部屋のドアからノックの音が聴こえた。そしてドアが開いて、一人の少女が入ってきた。


 「お兄ちゃん。話し声が聴こえたけど、誰と話してたの?」


 その少女は和己の妹らしい。部屋の中を見渡している。


 「ああ。携帯で電話してたんだよ。で、何か用。」

 「宿題で分からないところがあるから教えて。」

 「じゃあ、後で行くから部屋で待っとけよ。」


 妹は部屋を出て行きながら「はーい。」と応答した。ドアが閉まってから、隣にずっといた、女が口を開いた。


 「なかなかの美人だな、お前の妹。名前はなんて言うんだ。」

 「菜理沙。」

 「ふむ。良いな名だな。お前と違って。」

 「俺と比べるな。クソ女。」

 「クソ女とは何だ。そんなふうに呼ぶな。」

 「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?」


 女はしばし、考えてこう言った。


 「レンズ・・・・・・レンズとでも呼べ。」


 和己は無言のまま日本刀を持って、部屋を出て行った。それを追いかけるようにレンズはドアを通り抜け、あとを追った。

 部屋に入ると机と向き合って一生懸命に考えている菜理沙がいた。


 「どこが分からないんだ。」

 「ここ。」

 「ふーん。お前の頭のレベルがだんだん分かってきたぞ。」

 「そんなことは分からなくてもいいの。早く教えてよ。夕飯までには終わらせておきたいの。見たいテレビがあるから。」

 「分かったよ。」


 そして、和己は菜理沙に勉強を教え始めた。日本刀は持ったままだ。

 レンズはその間、菜理沙の部屋を見渡していた。床に落ちている教科書には中学二年生と書かれていた。中二にしては少し大人っぽい部屋だった。物も非常に少なく広い部屋だ。その部屋にあったあるものにレンズは目を止めた。制服だ。その制服を触ってみると濡れていた。窓は自分が触りたいと思ったものには触れられるらしい。

 何故濡れている。雨なんてここ数日降っていないぞ。洗濯でもしたのか?

 そんなことを内心でつぶやきながら考えていると、一つの答えに辿りついた。それは


 「いじめだな。」


 それを聞いた瞬間。和己はレンズがいる制服の方向を振り向いた。


 「どうしたの?お兄ちゃん。」

 「いや・・・何でもないんだ・・・何でも。」

 「そう。」


 話し終わるとまた勉強を教え始めた。



                   *



 「さっきのはどういうことだ!レンズ!」

 「そのままだ。」


 そこは菜理沙の部屋ではなく和己の部屋だった。教え終わって戻ってきたらしい。


 「はんこはまだ押されていないようだったな。私が見えていなかった。だが、このままいじめられ続ければ死を願ってはんこを押されるかもしれない。はんこを押されるとすれば・・・頭だな。」

 「何故そんなことが分かるんだ。」

 「函鬼には分かるのだ。はんこの能力で精神的ダメージを与えたらどれくらいで死ぬのかがな。そしてあいつの場合ははんこを押される前から精神的ダメージを食らっている。それにはんこの能力が加われば確実に一年未満には自殺をする。一年以下ならはんこは頭に押されるのだ。」

 「この辺りに函鬼は?」

 「まだいない。だが、あいつらは神出鬼没だからな。」

 「どうやっていじめをやめさせればいいんだ。」

 「やめておけ。まだいじめられていると断定できたわけではない。それでなくとも人が頭を突っ込んでいい話ではない。ほおっておけ。」

 「ほおってなんておけねえよ。たった一人の妹なんだから・・・。」


 頭を抱えて和己は必死で考えていた。

 本当はほおっておくほうが一番いいのだろう。けど、このままだといつ函鬼に狙われてもおかしくない。自分と同じ目にあわせたくない。


 「一つだけだが方法はある。」

 「なんだ。その方法って。」

 「函鬼は一度はんこを押した奴にははんこを押せない。だから、わざと函鬼にはんこを押させ、お前が妹の分を背負えばいいのだ。つまり、一年で妹が死ぬなら、その一年をお前が受ければいいのだ。」

 「その場合、俺は九年後に死ぬってことか?」

 「そういうことだ。私にとっては函鬼も始末できて都合の良い方法だ。さぁ?どうする?」

 「分かった。妹の分も背負ってやる。けど、できる限りの努力はする。はんこを押されたときだけ、レンズの提案した方法を使うよ。」



                   *



 翌日

 天気は雨だ。日曜なので学校は休みだった。だから、俺は思い切って妹にいじめられていることを聞いてみた。そしたら、いつもの明るさ消えて、俺に縋りついてきた。


 「助けて・・・・・・助けてよ・・お兄ちゃん!私、何にもしてないのに!何にもしてないのにぃ・ひっ・・・嫌なことしないで。」

 和己の目の前で少女は泣き叫び一日中部屋から出てくることはなかった。



                   *



 翌日

 妹はちゃんと学校へ行く準備をしていた。昨日とは違ってすごく明るい顔をしている。

 和己が学校へ行こうと玄関ドアを開いたときいもうとが慌ててこっちに来た。


 「お兄ちゃんちょっと待って!」


 俺の前に立って明るい顔で


 「ありがとう。」


 とだけ言って走り去っていった。玄関のドアを開けると青空が見えた。そのときの青空は人生で一番青かったと思う。その空を歩きながら見ていると後をついてきているレンズが口を開いた。


 「お前の妹は強いなぁ。」

 「ああ。『今日、仲直りできるようにがんばる。』って言ってたしなぁ。あいつのためなら背負っていいと思ったよ。もう背負う必要もないけどな。」

 



 それから妹はいじめられなくなったらしい。

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