2
もしも、旅行先で、名探偵コ●ンや金田●に遭遇したら、どうする?
しかもそこが雪山の山荘で、尚且つ閉じ込められたとしたら?
まず、100%殺人事件が起こる。
これは犯人でない限り、どうすることもできないだろう。
実際、本編でも、犯人視点で「うわ!金田●がいる!」は見たことがあるが、モブの人が「うわ!」と言っているシーンはない。
まあ、旅先で警官に会っても、なんら後ろめたいことが無ければ、気にすることがないのと同じだ。
かといって、なにもしなければ、巻き込まれて殺される可能性があるし、犯人に仕立て上げられるかもしれない。
俺が他のモブと違うのは、確実に殺人事件が起こると分かっている点だ。
なんと、犯人に殺されないように、予防・対策をすることが可能なのである!!!
綿密な計画を立てているであろう犯人の犯行を止めることは不可能だが、自らの命を守るぐらいならできるはずだ。
幸い、恨みを買うようなことをした記憶はないし、人を殺そうといった計画もない。
死ぬモブと、生き残るモブ。同じモブなら、生き残るモブの方が億万倍いいにきまってる!
決意を新たに、ベッドからおりて、扉を空ける。
長い廊下が続く。その途中に扉が3つあった。
内1つは先ほどいた大部屋だ。
長い廊下の正面は玄関。さっき寝ていた部屋は一番奥の部屋だったみたいだ。
『あ!起きたんだね!』
俺が起きたのが物音で分かったのか、大部屋の扉が勢いよく開いた。アンリだ。チビるかと思った。
『・・・ああ』
『ね、大丈夫?いきなり倒れちゃうから、びっくりしちゃったよ』
真っ暗な廊下だ。
彼女は一歩、二歩、こちらの様子をうかがうように近付いてきた。
そして、はっきりとお互いの顔を認識したところで、血相を変えた。
『うわあーーー!!!!!君、血、血が!!!!』
『_?』
血?血がどうしたんだ?
そう言えば、凄く汗をかいている気がする。
手の甲で額を拭うと、ベッタリとした何かの感触がした。
なんだ?真っ暗でよく分からない・・・
おそるおそる自らの姿を扉のガラスで確認する。
「・ッッ!」
そこには、頭から大量の血を流す俺の姿がはっきりと映っていた。
鎌の様なものが、右上から、 ぐっさりと刺さっている。
『んぎゃーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「おい、おい!大丈夫かぁ?!」
?
「え?!?!あれ?!?夢!?!どこから?!」
ばばばばば、と右手で後頭部を、左手で額を確認する。
な、ない!!!!!傷がない!!!!
び、びっくりした~~~~
俺は、大広間にあった二人掛のソファに横になっていた。
アンリと大学生の双子が、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「なにか悪い夢でも見てましたか?」
見てる~~!現在進行形で悪夢だ。
が、そんなことが言えるわけがない。
「いや・・だいじょうぶです・・・」
「そっかあ、なんだかここに来たときから、ちょっと様子が変でしたよね?もう少し横になってるといいですよ!」
ニッコー!と大変可愛らしい笑顔だが、俺の様子を変にしている原因は君である。
うっす・・と返すと、「何かあったら声かけてくださいね!」と、またニッコー。
かわいいしええこじゃん・・・
言葉に甘えて、横になっていることにした。目をつむる。
とりあえず、今分かっていることを確認しよう・・・
探偵アンリの事件録は、前世で読んでいた2000年から連載開始した連続殺人事件を題材とした漫画である。
17歳である加賀宮 杏梨が、生まれながらに持つ高すぎる推理力で、旅中で起こる殺人事件を次々に解決する内容なのだが…
みなさんは、考えたことはないだろうか。
なんで、この人、行く先々でそんなに殺人事件に出くわすの..?と。
いや、分かってる!分かっているんだ。そうじゃないと物語が始まらないからな。うんうん。うん…
でも、それって、フィクションだから許せるんですけど??!!!?!!!!
リアルに居てごらん?!カフェに言っては殺人事件。旅行先でも殺人事件。お前が原因かと!!!!死神かと!!!!思っちゃうんですけど!!!
「ふぅ....」
どうやら俺は、"探偵アンリの事件録"シリーズの世界に生きていたらしい。
小さい頃からデジャブがよく起こる方だったが。
それが、前世の記憶がリンクしていただなんて夢にも思わなかった。
己の悲運に頭を抱える。
あの、大学生の双子もメインキャラクターだ。
彼らはアンリの幼馴染みで、探偵アンリの事件録の第一章における助手役である。
兄は山野 らん、弟は山野 れん。黒髪メガネで、髪型が同じだと、どちらがどちらか分からない程似ている。
ちなみに、らんが長髪、れんが短髪である。
口調こそ二人とも別であるが、性格は大変似通っており、どちらもアンリのことが好きだったんではないかな、と思っている。
本編では恋愛沙汰について全く触れられてないので、あくまでも俺の考察だが。ちなみにらんアンが推し。
好き“だった”と過去形なのは、一章のラストに関係する。
なんと、事件に巻き込まれて、片方が死んでしまうのだ。そしてもう片方は、事件終了後行方不明になってしまう。
ここで、片方と表現するのにも理由があって、最後までどちらが死んだのか分からないのである。
死体の髪の毛も短く、生き残った方も短髪だったのだ。しかも、片方が死んだ後のシーンで、生き残った方が一切喋らない。アンリがどれだけ話しかけようとも、全部無視。普段騒がしい奴なので、大変異様であった。
そして事件終了後、アンリに何も言わずに行方を眩ませるのである。
それで第一章が終了。アンリが大学生になって、第二章が始まる。
彼ら双子は、そのまま最終回まで、一度も出てこない。
あいつらはなんだったんだ??と、読者の考察が飛び交った。
謎に包まれた双子。いや、怖すぎるだろ。
こういうことがあるので、あの双子には出来る限り近付きたくないのだが・・
誰が犯人か分からない以上、双子とアンリほど安心出来る奴はいない。
こういったシリーズの場合、一人で行動するほど死亡フラグが立つことはないのだ。
三人の誰かと常に一緒にいれば、アリバイが確保できる上に、生存の確率がぐん、と上がる。
話掛けてこの山荘にいる間は一緒に行動してもらおう。
ソファから立ち上がると、「ふぅ、」と息を吐く。
雪山の山荘。
確実に起こる殺人事件。
俺の生存を賭けた戦いが始まった。
「あの・・トイレ一緒についてきてもらってもいいですか?」