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囚人ちゃんと盲目お嬢  作者: 睦月微糖
8/16

そのころ別の所では

少し時は遡り、頭上の太陽が高々に輝く昼間、バルトスカ監獄から少し離れたとある王国。




そこにある森の奥地に白く咲き誇る花畑の中心に一人の少女が座って花冠を作っていた。




「……できた!」




そう言って少女は立ち上がり、完成した花冠を掲げ微笑んだ。




「ふふっ! 我ながらよくできているわ」




誇らしげに呟くと、彼女は出来上がった花冠を隅々まで触れて確認する。所々から茎がはみ出て、花びらはちぎれていたり枯れていたり……他から見たら、とても良い出来栄えとは言えないだろう。だが、そんなことお構い無しに少女は嬉しそうな表情を浮かべる。




「喜んでくれるかしら……?」




花冠を大事そうに抱えながら周囲を探るように手を動かす。指の先に硬い感触を感じ取ると、そこに手を伸ばし掴む。手にしたのは白色の傘だった。その柄には青い薔薇の模様が施されている。




「あったわ、お父様からいただいた大事な傘……」




少女は小さく呟きながら笑みを浮かべた。その時、彼女の背後でガサガサという音が鳴り響く。振り返ると森の地面を覆う影から無数の真っ赤な目が少女を凝視するように囲んでいた。




「……?」




傘と花冠を抱え直し周囲を少女はキョロキョロと見回すが、光を宿していない彼女の瞳はただただ真っ黒な空間しか映さない。すると、足元からカサカサという音と共に白い塊が飛び出してきた。それは一匹や二匹ではなく数十匹もの虫の大群であった。




「ひゃっ!?」




突然の出来事に少女は驚きの声を上げ、後退りする。しかし、そんな彼女など気にも留めず虫たちはまるで何かを求めるかのようにジリジリと詰め寄ってきた。そして、虫たちが一斉に飛び跳ねようとした時……。




"カチカチッ、カチンッ!"




突然金属音のような音が辺りに鳴り響いた瞬間、一斉に真っ赤な目の影達が少女の方に飛びかかり飛び跳ねようとしていた虫達を貫いた。一瞬にして数匹の虫達は赤色の飛沫を上げて絶命していく。




「ギィィイイッ!!」




耳障りな鳴き声を上げると同時に虫たちが次々と地面に落下していく。影の中の無数の目が飛び跳ねる虫たちを睨みつけると、次の瞬間影の中から大量の黒い針のようなものが発射され残った全ての虫達に突き刺さった。宙に飛び散る虫の体液が少女に降りかかろうとしていたが、影が少女を覆うように広がりそれを防いだ。




"カチカチ……カチッ。"




先程の金属音は影から鳴っているようで、花畑に落ちた虫たちの死骸に威嚇するようにカチカチと鳴らすと影の中心に立つ少女へと目線を向ける。そして、子どもの手のようなものを影から出し少女の頬を優しく撫でると少女から笑顔が戻った。




「オバケさん!」




満面の笑みで少女は影に向かって言うと、それに答えるかのように影は彼女の手を握った。




「この時期の森に出る虫さんは危険だから近づくなってお父様に言われてたけど、この時期に咲く白いダリアの花冠をどうしてもオバケさんにあげたくて……ごめんなさい」




申し訳なさそうに俯く少女に影はポンポンと頭を撫でるように叩く。その優しい仕草に安心したのか彼女は顔を上げた。




「ありがとう、オバケさん……。あ、そうだ!この花冠、オバケさんのために作ったんだけど……どうかしら?」




少女は少し照れくさそうにしながら、持っていた花冠を影に差し出す。すると、影は少し高めの音でカチカチッと鳴らし花冠を受け取り被ると再びカチカチと鳴らし少女の髪がぐしゃぐしゃになるほど撫でた。




「あははっ、やめてオバケさんっ!髪が崩れちゃうわぁ!」




少女は楽しそうな笑い声をあげる。




しばらく影との時間を過ごしていたら、遠くの方から鐘がなる音が聞こえてきた。その音を聞いて少女はハッとした表情をする。




「あっ!もう帰らないとお父様のお仕事のお見送りに間に合わなくなるわ」




傘の先端で地面を探るように動かしながら家がある王国へ戻ろうとする少女。その時、影は彼女の手を掴む。




「どうしたのオバケさん?」




不思議そうに首を傾げる少女を無数の目で見ながら、別の手を生やすとすかさず自分の体をちぎる。すぐ近くでちぎる音を聞いていた少女は驚き身体を震わせたが、影は気にせずにちぎった体の一部を少女の足元に投げると、蛇のように体をうねらせると小さな赤い一つ目が瞬きしながら現れた。




ちぎった本体よりも遥かに小さい、生まれたチビ影は本体からカチカチと何かのメッセージを受け取ると、目をぱちくりしながら少女の手を掴んで走り出した。




「きゃっ!? ちょっとオバケさん! いきなり走られるとびっくりするわよ!」




突然走られてコケそうになる少女を、影は器用にバランスを取って転倒を防ぐ。そして、チビ影は彼女の手を引いて王国へと駆け抜けていった。





残された本体の影はもう聞こえないであろうチビ影に向けて音を鳴らす。





"カチカチッ、カチカチーン。"




まるで"気をつけてね"というように子供を見守る母のような眼差しを森の外へ消えていった2人に向けた後、花畑に落ちた虫達の死骸を見つめる。すると、突然黒い針が大量に生えてきて虫達の死体に突き刺さり、体液と共に地面に吸い込まれていく。





虫がいなくなり綺麗になった花畑を見て目を細める。改めて少女から貰った花冠をまじまじと見る、目元が緩ませた影は花冠を被り直しゆっくりと森の奥地へと消えていった。

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