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囚人ちゃんと盲目お嬢  作者: 睦月微糖
7/16

鬼ごっこ

すこし付け足しました。

「囚人ちゃん大丈夫?」




クラゲに無理やり薬を飲まされた事に腹が立ったが、薬のおかげか少し症状が治まったようで先程より頭が軽い。心配そうにこちらを見つめる鳥に、赤龍は笑顔を向けた。




「あいつの処置にムカついたけどかなり楽になったよ。ありがとう、鳥ちゃん」


「そう……よかった」




安心したのか、鳥は胸を撫で下ろす。




「ほら、鳥ちゃん。本読んでくれよ」




鳥に本を読むように促すが、先程の出来事を見てたからか急に鳥が赤龍の目の前に近づいたかと思えばコツンと額同士を合わせる。




「……囚人ちゃん、読み聞かせは明日でもいいよね?今日は早めに休んだ方がいいと私は思うよ」


「いや、大丈夫だって」


「ダメだよ、無理しないで」




頑なに拒否をする赤龍だったが、鳥の真っ直ぐな琥珀色の瞳に見つめられしぶしぶ了承するしかなかった。




「わかったよ……じゃあ部屋まで送ってよ」


「もちろん!一緒に行こっ!」




鳥は満面の笑みで答えると、椅子から立ち上がった赤龍の手を取りゆっくりと歩き出した。




〜〜〜〜〜




「(あんなに元気だったのに、なんでこんなに悪化してるんだよ。しかも、あのクラゲ野郎から貰った薬、効いてたの最初だけじゃねえか!)」




自室のベッドに横になりながら赤龍は悪態をつく。頭痛が酷くなり始めてからというもの、どんどん身体が弱っていくのが自分でもわかる。鳥に送って貰った時、消灯時間まで一緒にいてあげると言われたが心配をかけたくない一心で断ってしまった。




「(鳥ちゃんにこれ以上迷惑かけられないからな)」




枕元に置いてある時計を見るともうすぐ消灯の時間。このまま寝てしまおうかと思ったその時、子供の遊ぶ声のような音が微かに聞こえてきた。




「(なんだ……?)」




ベッドに横になりながら耳に全神経を集中させる。音は次第に大きくなり、何か会話をしているような声も聞こえる。監獄内に子供なんているはずないのに……、好奇心に負け赤龍は重い体を引きずりながらも部屋のドアノブに手をかける。すると、いとも容易くドアは開いた。




「……今の時間には既に囚人部屋に鍵かけてるんじゃなかったけ?」




このバルトスカ監獄は脱獄防止のため、就寝時間の1時間前には看守達が囚人部屋の外から鍵をかけるシステムになっているはず。1度、晩飯の時間を逃してしまった赤龍があまり空腹でドアをぶち壊そうとしたがびくともしなかったのだ。その事を思い出しながら首を傾げつつ、声の主を探し始める。




「……どこだ」




聴覚を頼りにふらつく体に鞭打って進む。廊下には人気はなく、赤龍の歩く靴の音だけが響く。




「看守とも会わねぇし、今の監獄のセキュリティガバガバじゃん。脱獄し放題じゃ……ん?」




壁にもたれかかりながら歩いていると、視界の端に白いものが映った。そちらに視線を向けると、そこには白いワンピースを着た小さな女の子が立っていた。




「……誰だ?」


『……』




無言のまま少女はじっとこちらを見つめてきては、急に方向を変え走り出す。




「あっ、おい待て!!」




慌てて追いかけるが、すぐに見失ってしまう。だが、見失った場所から少し離れた場所で今度は別の人物を見つけることができた。



「お、おい燕!何寝てんだよ!!」




そこにいたのは赤龍が壁にめり込ませた看守、斑目の部下である燕が壁を背もたれにして寝ていた。彼の肩を掴み乱暴に揺すり起こそうとするが"んー、ミルフィーユがいっぱいだぁ……"とか呑気に寝言を言っている。




「クソッ、こいつ使えねぇ……」




イラつきながら燕を放置し、また先程の少女を探すため歩みを進める。




「(ここか?いや、違う……)」




その後も少女を探し回るが一向に見つからない。だんだん体力が限界を迎え、その場に膝をついてしまう。そのまま倒れ込みそうになるが、寸でのところで持ち堪える。




「く、そっ……あたしと鬼ごっこして勝つ、なんて100万年はえぇんだぞガキンチョ!!出てこいやぁ!!!」




荒い呼吸を繰り返しながら怒鳴り散らすと、どこかでクスクスと笑い声がした。




『お姉ちゃん』


「っ!?」




背後から突然聞こえてきた幼い子供の声に驚き振り返ると、先程の少女が立っていた。生気のない黒い瞳で赤龍を見ると、またクスクス笑う。




『鬼さん、ここまでおーいで』




そう言うと少女は駆け出し、再び赤龍は彼女を追いかけ始めた。




「(なんなんだよ、あのガキ!)」




必死に足を動かすが、中々追いつけず距離が縮まらない。それどころか差が開いていく一方、少女が向きを変えとあるエリアへと入っていった。赤龍も後を追うようにエリアに入ると、所々に瓦礫とひび割れた壁と大きな穴。




「ここは……訓練所?」




斑目と燕が監視していた時に龍化していた赤龍が暴れて破壊した場所だった。さっきはよく見えてなかったが入口に立ち入り禁止の黄色テープが貼られていたようだが、突っ切ったせいで一部破れていたがそんなのは知らん。再び少女探索に戻る。




「鬼ごっこは終わりだぞガキンチョ……観念して出てこい……」




周りから見たら悪人にしか見えない笑みを浮かべながら、赤龍はゆっくり奥へ進む。なぜか心臓がドクンドクンと激しく脈打ち、額に汗が流れる。




「(なんなんだよこれ……なんでこんな緊張すんだ?)」




辺りを警戒しつつ、ゆっくりと歩を進めていく。すると先程いなかったはずの訓練所の先、1歩でも間違えたら地上に真っ逆さまな場所に先ほどの白いワンピースの少女がいた。




「ガキンチョ……鬼ごっこはおしまいだぜ!!」




やっと捕まえられる。そう思い少女に近づき手を掴もうと伸ばしたが、伸ばした赤龍の手は少女をすり抜け何もない空間を掴む。それと同時に銃声らしき音。




「ぶ、はっ……!?」




赤龍の腹部を銃弾が貫き、貫通する。撃たれた反動で前のめりになり、体が宙を浮く。赤龍の目に映ったのは、今まで追いかけてきた少女ではなく、銃を構えこちらを見下ろす黒髪の男と。




「ク、ラゲ……」




ニヤリと口角を上げているクラゲだった。彼女を掴もうと手を伸ばすが、掴んだのはクラゲではなく空を切っただけ。





宙に飛び散る鮮血を横目に赤龍は重力に従い闇へと落ちていった。




〜〜〜〜〜〜




「よぉーやく、目障りな赤龍を消せたわ!」




地上を見下ろしては嬉しそうにクラゲは笑う。




「この監獄のぉ男達を手玉に取ってぇ、ちやほやされる世界を作ろうとしてたのにぃ、あの女のせいで台無しにされたからほんとスッキリっ!」




両手を伸ばし鼻歌を混じりつつスキップを踏み訓練所内を回る。まるで自分中心の世界ができたかと言うように、上機嫌で歩き続ける。




「赤龍の健康診断……って言ったけど実は赤龍を弱らせる薬を飲ますためだけの嘘だったなんてぇ、落ちていったアイツには知らないでしょうねぇ。わざわざ根暗猫背研究員を毒で洗脳してぇ、分からないように根暗っぽいメガネ、フードかぶったりして変装してたからぁ、バレずに済んだわぁ。図書館にいた時に念の為にって飲ませたら案の定幻覚見てそれを追いかけちゃうんですものぉ、バカねぇ。まぁ、おかげで消せたから良かったわぁ、ねーダツ君!」




長々と喋りながら自分の計画が上手くいったことに満足しながら、クラゲの横で狙撃銃を抱え地上を眺めていた黒髪の男が顔を上げる。ダツと呼ばれる男囚人は口元を隠すように巻いた黒色のマフラーを巻き直すと、コクリと静かに頷いた。




「わざわざ看守どもに睡眠薬入りのクッキーを焼いて配ったから看守全員は朝まで寝てるでしょうし、赤龍の部屋のロックをわざと開けたり監視カメラに小細工してうち達の姿を映らないようにしたからぁ、証拠隠滅もバッチリねぇ。これもダツ君のおかげよぉ、ありがとぅ!」


「…………」




無言のままダツは再び首を横に振る。その様子に少しムッとした表情を見せると、彼はまた小さく頭を下げた。




「(なんか調子狂うわねぇ……)」




そう思いながらダツが手にしてる狙撃銃を背伸びしながら見つめてると、突然彼の手から狙撃銃が吸収されるように消えてしまった。その光景に驚いたクラゲが小さな悲鳴をあげる。悲鳴をあげられたことに疑問を抱いたダツが狙撃銃が吸収された手をブラブラさせながら首を傾げる。




「ダツ君の武器作成能力はホント便利だけど……もうちょっと吸収される時のやつ、どうにかならないのかしらぁ?気持ち悪いんだけどぉ……」


「……」




文句を言うとまた狙撃銃が出現。しかも、先程より大きな狙撃銃がクラゲのこめかみに銃口を突きつけていた。慌てて両手を挙げると、ゆっくりと下ろされ狙撃銃は吸収される。




「気を悪くしたなら謝る、謝るわぁ!えーっと……朝昼晩の食事券1ヶ月分、それらをうち負担にしてあげるっ!これでっ、許してくれるぅ?」


「……」




なんの反応もないまま、ダツはクラゲを見つめる。まるで氷のような冷たさを感じる視線に恐怖を感じながらも、クラゲは苦笑いを浮かべてた。




「……分かった、なら1年分だったら良いでしょ!」


「……」


「少しお高めスイーツ券付きで!」


「……!」




少しダツの瞳が輝いた気がする。ダツから有無を言わせる前に、すかさずクラゲが終止符を打つ。




「はい、交渉成立!」




親指を立てると、ダツも同じように親指を立てた。どうやら取引が成立したようだ。




「さてさてぇ、看守の睡眠効果もそろそろ切れそうですから監視カメラを元に戻しつつ、うち達は自部屋に戻りましょうね。ダツ君、行きましょ」


「……」





スキップを踏んで監獄内に向かうクラゲを、ダツは無言で後を追う。そして、誰もいなくなった訓練所は静寂に包まれた。



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