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囚人ちゃんと盲目お嬢  作者: 睦月微糖
6/16

副作用(頭痛耳鳴り)

「囚人ちゃん、今日どれ読もうか?」


「んー……血がブシャー!骨がグシャッ!としてるような物語がいい」


「そんなブシャとグシャッとしてるグロテスクな絵本多分ないと思うんだけどなぁ」




健康診断を終えた赤龍は鳥との約束通り図書館に立ち寄って鳥と共に本棚を物色していた。しかしやはりというべきか、この図書館に絵本は子供向けの物語ばかりでグロテスクなものなど1冊たりとも存在しなかった。




「なかったら鳥ちゃんのオススメの絵本でもいいわ」


「えぇ……私のオススメの絵本も大体グロテスクじゃないんだよなぁ……」


「読み聞かせしてくれるんでしょ?だったらいーよ」


「そう?じゃ、探してくるから待っててね」


「おー」




パタパタと音を立てて本を探しに行く鳥の背中を見送った後、大きく息を吐き近くの丸椅子に腰掛ける。先程の健康診断で受けた辺りからなぜか頭が重くて仕方ないし、時々耳鳴りがして視界がぼやけることもある。




「なんだよあの丸眼鏡……全然痛み止め効いてねぇじゃんか」




舌打ちをしながら痛む頭を抱える。部屋から出た時はなんともなかったのだが、時間が経つにつれて体調が悪化してきているようだった。キリキリ痛む頭に苛立ってくる。




「……く、そっ」




痛みのあまり汗ばんできた手で目を擦ると、目の前の景色がぐにゃりと歪む。歪む視線の先には囚人達が赤龍の方に視線を向けていた。




「(なんだこれ、気持ち悪っ)」


「あ、囚人ちゃーん!あったよ!」




遠くから聞こえてきた声の方を見ると本を抱えた鳥がこちらへ走ってくるのが見えたので、無理やり笑顔を作りながら手を振った。




「おかえり〜」




椅子に座り直しながら返事をする。




「ただいま〜、はい、これが私のオススメの絵本だよ。題名は"嵐とお姫様"って話でね、嵐を司るドラゴンがお姫様を守るってお話でね……」


「うん」




目を輝かせて話し始める鳥を見ながら、ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる。徐々に頭痛が酷くなってきてるが鳥に心配かけたくないため必死に笑顔を作る。痛みを耐えるからか冷や汗が背中を伝う。




「(マジなんだよこの頭痛)」


「それでね、そのドラゴンはいつも自分勝手なことばかり言って周りの人達に迷惑をかけるんだけどね、でも本当は優しいところもあるんだよね。だからね……」




楽しげに絵本の内容を語っていたはずの鳥の声は、いつの間にか途切れ途切れに聞こえる。




「(あれ、なんかおかしい)」


「だから、ね……囚人ちゃん、大丈夫?」


「……何が」


「顔真っ青だし、具合悪そうだから……」


「平気だって、ほら、早く読んでよ」




そう言って笑いかけるが、鳥の表情は曇ったまま。開いていた絵本を閉じ、赤龍の両手にそっと手を添えた。




「ねえ、やっぱり変だよ」


「は?だから何も……」




否定しようとする赤龍の言葉を聞き流しながら、鳥は真剣な眼差しを向ける。




「お願い、正直に答えてほしいの」


「……」


「私に何か隠してるでしょ」


「別に……隠してることなんて」




"ない"




そう口にしようとしたその時。




「あれれえ〜?貴女、頭痛いんですかぁ??」




視界に広がる白色と、どこかで聞いたことのある猫撫で声。




「……」


「もしかしてぇ、頭割れそうなくらい痛いとかですぅ?」


「……誰だお前」


「うちですかぁ?うちはぁ、NO.0173でぇす。クラゲのDNAを持つ囚人ですよぉ」


「……クラゲの囚人?」




声をかけてきたのはNO.0173と名乗るクラゲの女囚人。赤龍の視界の広がっていたのは彼女の髪の色のようで、白髪がゆらりと揺れた。




「ナンバーとかで呼ばれるの、可愛くないからうちの事ベニちゃんって呼んでねぇ」


「……はぁ」




語尾に星が付きそうな勢いで話すクラゲは、鳥を横目でチラリ見ると笑顔を見せた。




「すみませんねぇ、うち一応図書館で病人とかを看る係もやってるんでねぇ。少し見させて頂きまぁす」


「は、ちょっ」




静止する間もなく、クラゲは赤龍の目元に手を当てたり首筋に触れたりし始める。首筋に触れた時に、チクッとした痛みを感じたような気がしたがそんなことを気にしている余裕もなく。




「ふむふむ……ちょっと脈測らせてもらいますねぇ」




そう言うと手首を掴み、そのまま指先で血管を探るようになぞられる。




「……んー、確かにちょっとだけ脈が早いですねぇ、あとやや熱あり」


「おい、離せ」


「はいはーい、失礼しましたぁ」




パッと赤龍の手を離しクラゲは腕を組んで考える素振りを見せると、腰に着けていたポーチから錠剤を2粒取り出し赤龍の口に放り込んだ。




「んぐっ!?」


「これは頭痛薬と解熱剤なのでぇ、飲んでくださーい」


「ごほっ、ん、うぇ」




いきなり口の中に異物を突っ込まれ咳き込むが、なんとか飲み込んでから涙を浮かべながらクラゲを睨みつける。睨みつけられたクラゲは、きゃーこわぁいと棒読みの悲鳴を上げながらわざとらしく肩をすくめた。




「これで貴女はもーまんたいでぇす、それではうちはここでさいならぁ」




ひらりと手を振るとクラゲは足早に立ち去って行った。

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