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囚人ちゃんと盲目お嬢  作者: 睦月微糖
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健康診断という名の何か

晩飯を食べ終えたら消灯時間まで囚人達には自由時間を与えられる。己の闘争心を競い合う者はトレーニング室へ、知識をより深めたい者は図書館へ、少しでも刑期を縮めたい者は食堂の壁に張り出された監獄内の短時間バイトをこなす……などなど看守の監視の元、各々好きな事を過ごすのがバルトスカ監獄のルールだ。




念願のサーロインステーキを腹がはち切れるかと思うほど食し幸せに浸っている赤龍と、その隣で赤龍の様子を見てクスクス笑う鳥。この後どう時間を潰すかで赤龍はそこら辺を適当にブラブラするに1票、鳥は植物の本を読みたいから図書館に行くのに1票と意見を出し合った結果、鳥が本の読み聞かせをしてくれるという事で収まり2人で図書館に向かう事にした。




「字とかばっかで訳わかんない本、よく読めるよな。ソンケーするわ」


「そうかな?字ばかりでも絵があれば楽しいんだよ?」


「それでも無理無理。絵があってもあーいう堅苦しい文字って苦手なんだよねー」


「ふふっ、私だって最初は目がチカチカして読めなかったけどね、読んでいくうちに文章に込められた思いってのかな?この内容はもしかしてこう伝えたかったんじゃないかなー、って想像したりしながら読むようになってからは苦じゃなくなったんだよ」


「へぇー」




そんな他愛もない会話をしながら図書館へと向かっている途中、突然背後から何者かに声をかけられた。振り返るとそこには薄汚れた白衣を着た猫背気味の男がいた。




「NO.1046、健康診断の時間だ。ついてこい」




そう言うと男は返事を待たずに歩き出した。




「……健康診断?」




鳥が不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げる。




「どした?」


「ねえ囚人ちゃん、ここの健康診断って年に2回だけのはずだよね?この前に2回目も再検査も終わったはずなのにどうして囚人ちゃんだけまた呼び出されてるんだろうなー……って思ったの」


「あー、血取るだけだろ。健康診断って言いながら身体検査なしでただ単にあたしの血を取るだけだから心配すんなって」


「血を取るだけの健康診断?なんだか怪しい響きだけど……」


「血さえ出せば朝昼晩の飯おかわりし放題だからさ、じゃちょっと行ってくる」


「うん……いってらっしゃい」




後ろから"終わったら図書館にいるから待ってるねー!"という声を背中で聞きながら、赤龍は男の後を追った。




男に連れられてやってきたのは健康診断を行った時と同じ、白タイルが敷き詰められた部屋だった。万が一暴れられたら困るとの理由で手錠を嵌められ椅子に座る。手首には冷たい金属の手錠が食い込む感覚がありかなり不快だったが文句を言う気にもなれず、そのまま黙っていることにした。




「…………」




注射器を手にした男が無言のまま虚ろな目をこちらに向けてくる。




「(なんか喋れよ、気味悪)」




時々不気味に笑う猫背男の様子を眺めていると、不意に手が伸びてきて腕を掴む。反射的に身構えるが、掴まれた二の腕の内側あたりに鋭い痛みを感じた。




「い、だっ!!」




突然の痛みに耐えつつ目線を下に落とすと、注射器を通してチューブに赤龍の血が吸い上げられていく様子が見えた。




「おい君、この錠剤をNO.1046に飲ませろ」




男は注射器を持ったまま、後ろでなんらかの作業をしていた同業者らしき人物に向かって指示を出す。




「わっかりましたー」




指示を受け、こちらを向いて敬礼するフードを被りダサい丸眼鏡をかけた人物はどこか見覚えがあったような気がしたがそんなことを気にしている余裕もなく、すぐに錠剤を口に突っ込まれた。そして間髪入れずに水が流し込まれる。




「ぐふっ!」


「即効の痛み止めのため吐かないでくださいねぇ」




そう言って丸眼鏡はにこりと笑った。口の中に入れられた錠剤を飲み下すと、採血が終わったのか注射針が抜かれた。傷口からぷくりと血が出てくるのを見て思わず顔をしかめる。




「包帯巻くのでじっとしててくださぁい」




丸眼鏡はそう言うと慣れた様子で消毒液を取り出し、素早く処置を終えた。




「これで終わりですぅ、5分程安静にしたら部屋を出てくださいねぇ」




赤龍の手錠を外すとそそくさと部屋から出ていく丸眼鏡。赤龍の血が入ったであろう血液パックを手にした猫背男も後を追うように部屋から出ようとしたが扉の前で立ち止まり、くるりと振り向いた。




「健康診断は終わりだ、さっさと外に出ろ」


「へいへい……」





相変わらず感情のない表情をした猫背男の言葉に従い、赤龍は部屋から出た。

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