癒しも必要
《緊急事態発生!緊急事態発生!訓練所にて異常発生!直ちに看守は訓練所へ迎えよ!!繰り返す!直ちに看守は……》
「うるさっ!何この赤色にピカピカ光ってはビービー鳴るやつ!起床の鐘よりうるせぇじゃん!!」
膝を床につけ静かに涙を流し放心状態になっている燕の事を一切気にせず、自ら開けた穴を通ると異常を感知した警報装置が鳴り響く。その音の大きさに苛立ちを感じながら耳を抑えつつ大声で文句を言いながら赤龍は走り出す。
「あぁーもう!クソッ!」
あんな物はワンパンで破壊することは可能だ。だが、赤龍には"1人のミスはチームの責任"とか、レンタイセキニン?って奴があるから壊す事は出来ない。先程の壁壊しも連帯責任対象にもなるが看守である燕の許可貰ったからそれは対象外、と自分勝手な判断をしながら全力疾走すると向こうの方から赤龍と同じ囚人達が束になって向かってくるのが見えた。
「おい!どうすんだよ!」
「避難した方がいいんじゃねぇ?」
「わー!火事火事だァー!!」
「落ち着けお前!」
各々好き勝手に騒ぎ立てる中、赤龍はのんきにそれを観察していた。
「(あの人数じゃ、流石のあたしも流されそー……ん?)」
後ろから物音が聞こえる。気になり振り向くと警報を聞きつけて集まってきた看守達の姿が目に入る。
「わー、こりゃ大変だー」
前には囚人達で、後ろには看守達。えーっとこれって、前門の虎後門の狼って言うんだっけぇ。知らんけど。そんな呑気な事を考えながらも走る速度を上げ囚人達にぶつかる前に地面を強く蹴ると一気に飛び越えた。そして、空中で身体を回転させ体勢を整えるとそのまま地面に着地する。
「おいお前らっ!!止まれ、止まれぇー!!」
「止まれるかボケェ!!!」
後方で叫び声が聞こえ、振り返えるとボーリングのピンのように吹き飛んでる囚人達と看守達の姿が視界に入ったのでそれらに向かってピースするとまたすぐに走り出した。
「ひゃはははっ!愉快愉快!!」
軽やかな足取りで笑いながら走っているといつの間にか目の前に大きな扉が現れた。
「やっと着いたぜ……あたしのお目当て」
一旦息を整える為に立ち止まる。ここまで走ってきた時間は恐らく5分も掛かっていないだろう。
「ふぅー……。んじゃ、行くとするかね」
大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせるとゆっくりと大きな扉を開いた。中に入ると美味しそうな匂いが辺りを漂い赤龍の鼻腔を刺激する。
「へいへいー!あたしのサーロインステーキちゃんはどこだー!」
食欲旺盛な赤龍にとって食事の時間が一番至福の時でありこの時だけはストレスを忘れられる時間でもある。その為、自然と笑みを浮かべていた。
「…………あっ」
キョロキョロと見渡していると一人の人物の姿が見え、駆け寄ると肩を軽く叩き声をかける。
「よお鳥ちゃん、調子どう?」
「ほへっ!?……あ!囚人ちゃん、お仕事終わったの??」
「よゆーで終わったわー、あー腹減ったー」
赤龍に鳥ちゃんと呼ばれるツギハギの布で作成したであろう鳥をモチーフにしたニット帽を被った小さい体躯をした少女は驚きつつも声を掛けてきた相手を確認すると腰まで伸びたクリーム色の髪を揺らしながらホッとした表情を見せた。
「ねえ、警報装置鳴ってるのって囚人ちゃんが犯人だったりする?」
「んー?んー、……うん、あたし犯人」
「やっぱり!今は止まったけど警報装置の音聞こえた時から囚人ちゃんまたやっちゃったんだなって……ふふっ」
「笑うなよぉ」
そう言いながらも口元を隠し上品に微笑む彼女の姿を見ると、赤龍もつられて頬を緩ませる。彼女、囚人NO.0993は鳥のDNAを持つ少女であり、この監獄では珍しく人当たりの良い性格をしており監獄内で気難しい性格の持ち主である赤龍とも仲良く出来る数少ない人物である。
「ねえねえ囚人ちゃん、今日の晩御飯のメニューにサーロインステーキ出るん」
"サーロインステーキ"
鳥が喋り終えようとした時、赤龍はその言葉を遮るように大声で叫んだ。
「うおおおっっしゃああぁぁぁ!!!」
拳を高く上げ雄たけびを上げるそんな赤龍の姿を横目に彼女はクスクス笑いながら"相変わらず食いしん坊だね"と言い放つ。
「あーもう楽しみすぎる……じゅるり……」
「囚人ちゃんヨダレ出ちゃってるよ」
「おっと失礼」
口を腕で拭き取り誤魔化しながら、鳥と共に食堂に向かったがいいが"あんたら早く来すぎ"と食堂の係に言われ、暴走しそうになったが鳥がなだめてくれたおかげで何とか事なきを得た。