始まり
主人公らしき人はでません(ついでに盲目さんも)
星空に満月が浮かぶある日。
月光が照らす森の中で、銃を背負う老人とその横で少女が老人の手を握りながら森を探索していた。
「ねぇ、おじいちゃん」
「ん?どうした、ジェニファー?」
「あれって何?」
老人が少女に目線を向けると、老人の手を握る別の手で満月の方を指差す。老人はポケットに入れていた老眼鏡を取り出し、少女から少女の指差す方角に目線を移すが少女が言う物のことがどの事なのか分からず少し頭を傾げた。一旦老眼鏡をかけ直しては少女と同じ背丈になるようにしゃがむともう一度少女に問いかけた。
「ジェニファー、あれってどれの事だい?」
「あれよ、満月の近くに浮いてる島の事よ」
「島……?」
老眼鏡をかけた目を細め、満月の周りをぐるりと見回すと満月の横を豆粒ぐらいの大きさの物体の存在にようやく気がついた……が、その時の老人の脳裏に良くない事が過ぎった。
「どう?見えたでしょう!」
「……」
「……?おじいちゃん、どうし」
老人はすぐさま老眼鏡をポケットに入れ、横ではしゃぐ少女を素早く抱え込みその場から逃げ出した。まるで良くないものに遭遇したかのように。
「おじいちゃん!急にどうしたの!?」
「ジェニファー!直ぐに耳を塞げ!!」
「あ、え……」
「早く!!」
老人の言い付け通り少女は耳を塞ぐとそれを確認した老人も耳を塞ぎ少女に覆い被さるように地面に伏せた直後、どこからともなく恐ろしい咆哮が森中に響き渡り草木を抉る。
「お、おじい、ちゃん……」
「ジェニファー、堪えろ!堪えるんだ!」
不安げな表情を浮かべる少女を老人が守る中、凄まじい風圧でバキバキと音を立てて木々は折れていき草は地面と共に宙を舞っていった。
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あの咆哮から、どれぐらい時間が経っただろうか。
何も聞こえなくなった森の中で伏せていた老人は自分と少女の安否を確認し少女を抱きしめた。俯き小刻みに震える少女の頭を優しく撫でると老人の胸に顔を押し付けた。
「お、おじ、おじいちゃあん……!」
「よしよし、怖かったな」
「うわぁぁああん!!怖かったよぉお!!」
少女の泣き声が荒れた森中に響き渡る。老人は少女の背中を優しく撫でながら満月を眺めるが先程まであったであろう物体は雲のように存在を消していた。
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「ヒック、うっ、うぅぅ……」
「落ち着いたかい、ジェニファー」
「ヒック、うっ、うっ……な、なん、とか」
老人はゆっくり少女を背負いながら少女は変わり果てた森を見回す。あの咆哮だけで木々は音を立てて折れ、地面は機械で抉ったように凸凹している……と考えてるとある疑問が浮かんだので老人に問いかけた。
「おじいちゃん」
「なんだい、ジェニファー」
「あれは……さっき私達が見た、あれは一体何なの?」
急に老人の歩みが止まった。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「……あれは」
「?」
「あれはバルトスカ監獄、あの中では日々殺戮兵器の実験をしてるとワシの母さんから聞いたことがある」
「さつ、りく……へいき?」
「そうだ、その実験台になった者は殺戮兵器としてあらとあらゆる生物のDNAを体内を注入されるが……痛みに耐えられなく自害する者が殆どなのじゃ……が」
「が?」
「その中で痛みに耐え、赤龍のDNAを得た奴がいたんじゃ」
歩みを止めていた足を動かすと少女が満月を見つめる。
「もしかしたら、さっきの咆哮って……」
「多分、そいつの仕業じゃな。そのうち、脱獄してジェニファーを食べに行くのじゃろうな」
「ヒッ!」
「はっはっはっ!冗談じゃよ冗談」
「うぅぅ……おじいちゃんのバカ!」
「イタッ!」
そんなやり取りをしつつ少女の手痕がついた頬を撫でながら老人は背後で寝息を立てる少女を起こさないように背負い直し家へと通じる道をゆっくり歩んだ。
次辺りに主人公らしき人出す・・・と思います