プロローグ
独りで切り株の上に座ってコーヒーを飲んでいる少年とも言えるであろう男が居た。少年は静かに街を見ている。彼は今、街から少し入った森にいる。まるで全てを知っているような雰囲気を漂わせながらある女を待っていた。
「沙月様、お車の準備が整いました」
と、二十代の女性が登ってきた。
「よし、それじゃあ行こうか」
「はい、かしこまりました」
そう言って男はコーヒーを全て飲み、女にカップを手渡した。
そして二人共に車に乗り、そのまま走り去っていった。
山から少し経って市街地を走る車は、ある学校で止まった。都立池ノ中央高校。この学校は創立百年目を迎えた由緒ある学校だ。
この学校に男は入学する。そして、車のドアが開いたー
☆
…僕には綾辻 沙月という名前がある。
これは昔、親から言われたことがあって産んだ時に満月が見えてたから『月』を入れようと思ったかららしい。真相はわからない。
僕は正直胸躍らせてここにきた。今まで友達という友達ができなかったからというのが一番デカいと思っている。
だがその生活も今日終わりを迎える。
「行ってらっしゃいませ」
「わかった、明日からは徒歩で来るから車はもういい。それと、休日はまたあの森に籠るからよろしくね」
そして、かしこまりましたと女が言う前に僕はもうその場から歩き出した。
始めに体育館に来た。ここの体育館は下が食堂で、かなりの厚さの防音壁に挟まれて上に運動スペースがある。
式事は基本的に体育館で行われるため、今日もその一つだ。
「あれ、君は?」
後ろから声をかけられた。振り向くと女の人がいた。
胸のところにある学校のエンブレムが赤色になっているため高校2年生だろうか。僕がつけているエンブレムが白色だから、最低でも歳上だろう。
「…こんにちは。いや、おはようございます、先輩」
「あぁ、おはようね」
「それで、どうかしましたか?」
「いやぁ私が一番だと思ってたからぁ」
と言いながら女は後頭部に手を持っていき、あっけらかんと笑った。
「はぁ。まぁ、まだ時間ではなさそうですからゆっくりお話でも如何でしょうか」
「もちろん!この学校について色々聞いてくれていいよ!」
「そうですか、では」
立ち去ろうとしたら、
「いやいや、今の流れでそれはおかしいんじゃないの」
腕をがっちりと組みながら言った。僕の方が若干中に入っていたから反応されてしまった。
「離していただけますか」
「貴方が気になるから」
「答えになってませんよ」
「いいじゃない」
「そうですか」
「まず、自己紹介をしなくちゃね。私はかたき片桐 ひまり」
「僕は沙月だよ」
「女の子みたいな名前だね」
確かに、僕の名前は少し女の子に間違われることもある。
「それに、脚も細くて長いから服が違ったらわからないよ」
「ふふ、そうですか」
「…笑った顔もいいね//」
「ふふふ、顔を朱くしてどうかしましたか?」
「…なんでもない//」
昔から中性的で可愛いとかカッコいいとか言われた事が多いからそれのおかげかな。
顔様様ですね
「先輩さん」
「は、はい?」
「学校の始まるまでもう少しあるので、席に座って話しませんか?」
「あ、喜んで」
☆
入学式も終わり、都内の風景を一望できる高層マンションまで案内された。
「沙月様、家具は全て揃えております」
「うん、そうだね」
「全て新品を用意させました」
「うん、まあね」
「新品のメイドは要りませんか?」
「ふふ、そういうことね」
「//…はい」
この人は元々道場の娘さんだったけど経営不振で借金を親が借りてしまって借りた先がかなりのブラックな会社で、なんやかんやあって親が蒸発。たまたま幼馴染だった僕が引き取ってあげたら懐いて、教育をしてあげて秘書に仕立て上げた。
結構抜けてるし、能力で言えばもっと別の人もいるけど、借金を清算した時に色々慰めるために言ったから成り行きでこの関係になった。
「ふふ、いいよ」
「!」
「うん、玲姉の事結構好きだからいいよ」
玲姉改め、上沢 玲は美という文字が合う人だ。多少の誤解を生むこともあるかもしれないから、その辺りは我慢するしかない。
「さささ、さっつん!?そそそう言うこことは、言っちゃ、ダッダメだよぅ///」
「ふふ、僕のことまださっつん、て言うんだね」
「あ、いやぁ、そのぉ」
「また教育しとく?」
「うぅ」
「必要な物の中にそれらは入れておいた?」
「入れました…」
「わかっていたんだね、そこは偉いよ」
と頭を撫でてあげる。
「だ、だったら?」
「ふふ、けじめはつけなくちゃね」
「いやぁぁ!!」
次の日に学校に行くときは玲姉はへばっていた。