子犬が悪役令嬢の部屋にやってきた。
「一緒に年を……」
「一応私は女、お前は男、ここは女子寮だ」
「……管理人さん入れてくれました」
レイのやつが抜け出しても陛下はなんとも思わないのか? しかし部屋にあがって椅子に座ってお帰りなさいと笑いかけるレイ。
おいおい、なんとかしてくれよ。
「僕がルードさんのところに行きたいと言ったら、馬車で」
「どこまで親馬鹿だ!」
「アリス義姉上は今日完全に追放になりました。これで」
「……あいつのことだ、このままですまんかもしれんぞ」
私はコートを脱ぎながら、レイを見る。レイは相変わらず可愛い。
どうしても子犬にしか見えん。
神様なんとかしてくれ、私は年下は趣味ではない。
ディーンも趣味ではないがな。
「アリス義姉上はひどいことをルードさんにしました」
「まあな」
いろいろされたぞ、私がいじめたという噂を立て、友人を遠ざけ、挙句の果てにディーンが断罪の場をつくって叫んだとき、あいつ笑ってやがった。
浮気をしたのはディーンだが、私もまああいつのことは好きではなかったからおあいこかなと思ったが、アリスだけは許せん!
「追放以外に何かしたか?」
「一応魔力封印を」
「まだ完ぺきではないだろう?」
「ええ」
アリスのやつだけは絶対に何かする。ディーンは辺境に追放、幽閉らしいが。
二人とも幽閉という話になったとき、なら国外追放を選ぶとアリスが言ったらしい。
しかし、二人は仲がいいとか聞いていたが、内情はかなりこじれていたらしいな。
「兄上がいなくなってすっきりしました」
「おい」
「僕、王太子になんてなりたくなかったですが、兄上と義姉上がこの国を、王家をめちゃくちゃにするのなら、僕が王太子になるほかないと思って」
「そうか」
「父上の決断がかなり遅れたせいで……」
「一応陛下も人の親か」
「いえ、義姉上は父上ともできていました」
「おい」
私は茶を吹き出してしまっていた。アリスは陛下ともできていたのか? つまりなんだ似た者同士?
私がごほごほと咳をすると、王族の男や宮廷魔法使いともできていたと語るレイモンド。
おーい、男好きとは聞いていたがやりすぎだ。
「アインは?」
「いえ彼は……」
「アリシアが泣くなさすがにそうなったら」
「アリシアさん?」
「アインを好きな女の子だ」
「ああ」
私はアリスのことは油断するなというとわかりましたと頷くレイ、5歳のイメージしかないがかなりしっかりしてきた。
だがしかし、私はどうしても子供としか見れない。
だって12も下だ。
「僕、お邪魔でした?」
「まあいいが、泊まるとかいうなよ」
「それはしません」
「ならいいが」
しかし一応女の部屋にいきなり現れるとは、こいつどういう教育受けてるんだ? 王族としてはだめだぞこれ。
私がそういうと、ルードさん以外にこんなことしませんよと顔を赤らめる。
まるで少女のようだ。
「小さいころ、いつも一緒に遊んでくれましたよね」
「そうだな」
「いつもいつも僕、シアさんのこと見てました」
「いやだからさ」
熱くこちらを見るレイ、私はちびのお前とは遊んでやったが、弟みたいな感じだったぞ。
しかしアリシアといいレイといい、どうしてこうしつこい?
私はあまり人を愛したことがないというか、初恋もしてないからあまりそういう気持ちがわからん。
それがダメなところかもしれないな。
「僕、待ちます」
「いやあのな」
「あ、雪です。ルードさん」
「ああそうだな」
窓越しにちらほらと白い雪が見える。
だが私の部屋は狭い、王太子なんぞ本来はいるようなところじゃない。
だが気にする様子もない。
二部屋しかないし、それに汚い。
脱ぎっぱなしの服がそこらにおいてある。
掃除だってろくにしてないぞ。
「お前、今度からくるときは連絡くらいしてこい」
「はい」
私はしかし、どうしてもこいつを邪険にできなかったりする。
小さいころからいつも後をちょこちょこついてきたチビのイメージが強いからだ。
好きですと言われてもしかしなあ。
「好きですルードさん」
「あのなあ」
「だから待ちます」
「私は年下は趣味じゃない」
「僕、頑張って大きくなります!」
「……」
白い雪が部屋の外を舞っている。一応四季の中で冬は一番短いが、雪が降るのはこの国では珍しい。東のほうにあるからだ。
北では珍しくもなんともないらしいがな。
「明日は積もるといいですね」
「そうだな」
しかし、王太子がふらふらしている国なんてなあ、さすがに陛下に申し上げないとだめかもしれないな。アインに話をつけないとだめだ、というか考えがダメだ脱線している。
「とりあえず、私は王太子妃とやらになるつもりはない」
「待ちます」
すっぽんという生き物のようだ。丸っこい目、それにふわふわの金髪、かわいらしい顔をしているが頑固なレイに私は苦笑で返すしか今はなかった。