子犬王太子、元悪役令嬢に抱きあげられ、送り返される。
「ほう、あいつ廃されたか」
「はい!」
「女好きだったからなぁ」
「シアさんをもう困らせる人はいません。だからぜひ僕の伴侶に!」
「断る」
ビーカーで創造した人造人間を見る。駄目だ溶けかかっている。
私がため息をついて、もう王宮に帰れと言うと、嫌ですと首を振る。
相変わらず女の子のような可愛い顔をしているやつだな。
5歳の頃は尻尾振る犬みたいにこちらについてきて、シアさん、シアお姉ちゃんと慕ってくれたが。
金髪碧眼、ディーンはどちらかというと精悍だったが、愛され系だなレイは。
「レイ、私はお前より12歳も年上だ」
「知ってます。調べました、まだ独身だって聞いて!」
「それでな、元公爵令嬢で断罪された人間だ」
「知ってますって!」
ああ、可愛いなぁ、小さい頃は一緒におままごとなどもしたものだ。
実際、私も子どもっぽくて、弟みたいな感じで接していた。
ああ、あの頃の私はいずこ?
今は女性同僚に女子力低いと言われ……カインには彼氏作れよと言われ。
男に間違えられては女子に言い寄られ。
ふっどこで間違えた?
「レイ、どうして一人できた?」
「反対されたので、魔法をつかって目くらましをかけてきました!」
「あのな、お前が王太子なら、同い年くらいの可愛い子がわんさかいるだろ? そういう女の子を探せよ」
私は白衣のポケットに手を突っ込みながら、溶け切ったホムンクルスを観察した。
新たなる生命の創造はまた駄目だったか。
「シアさんはシアさんです。僕、シアお姉ちゃんをお嫁さんにするって決めてました!」
「……ガキ、馬鹿言ってないで帰れ、迷惑だ」
私はかなりひねくれた。自覚している。
あの頃は我儘放題やりたい放題、嫌われ者でも公爵令嬢である自分の当然の権利だと思っていた。
断罪されても仕方あるまい、罪状はあれだったが。
「嫌です。帰りません!」
「お前、上にたつもの自覚もてバーカ!」
「馬鹿ってひどいです」
目に涙をためて泣くなガキ、ああ、こういうやつだった。
しかしディーンよ、さすがに公爵夫人と浮気をばれたのはよくないぞ。
いやうちの母上じゃないけどな。
それで廃太子かぁ、かわいそうじゃないか、さすがにあの頃、私に対する仕打ちはすごかったからな。
牢屋に入れられたのなんて生まれて初めてだったぞ。
あのせいで私はかなりひねくれた。
「僕、絶対に帰りません!」
「あのな、うちは貧乏魔法研究所、一応国の機関だが、お前みたいな王族が来る所じゃないの。一応、副所長として、お前を送り届ける義務もある。ついてこい、送ってやる」
私は煙草をポケットから取り出す。魔法で火をつけて吸いだすと、ごほごほと咳をするレイ。
ああ、そういえばまだ子供だな。
「すまん」
「僕、僕……」
「支度しろ、王宮に送り届ける」
「嫌です!」
嫌だと言い張るレイの首根っこを持ち、行くぞとコートを着て私はこいつを引きずり歩き出した。
実際、初恋こじらせたガキの面倒見てるほど私は暇ではない。
「僕、絶対に諦めません!」
「私はお前の冗談につきあうほど暇ではない」
カードキーをかざす。一応こいつ王族だからノーガードで入れたんだろうが、セキュリティは一応かかってるぞ。
魔法のキーで解除し、ため息をついてこいつをかつぎあげ歩き出した。
研究者の体力なめるな。
暴れる子供をかつぎあげ歩き出す。
あーあ、目立ってるぞ、さすがに王子とは思うまいが。魔法で私は王子を黙らせた。
いや、やばいか? まあいいか。
誘拐犯と思われる前に連れて行かんと、私はため息をつきつつ、王城に向かう。
一応研究所は王都内にあるから徒歩でも通えるんだ。実は王城にも私は通っている。
いや、ついな……ルード・エルならばれないから。
「頼もう」
門番に声をかけると、こちらを驚きの目で見つめる二人。
だから門番が2人って一体なんだよ。しかも王子が抜け出せるってダメだろ警備態勢!
私が身分証を見せると、一応宮廷魔法使いにとりついでくれることになったが……。
結構赤字だとは聞いていたが王城も貧乏になったな私はため息をつきつつ、中に入ったのだった。