過去は過去であるが、思い出すたび心が痛む。
『あなたはみんなに嫌われてるの』
『気がつかないなんて間抜けね』
牢屋の中でただ泣いていた私、泣き続ける私に殺されるまではいかないから安心したら? と長い栗色の髪を揺らし笑いかけたアリス。
私は確かに傲慢な少女だった。
愛らしいと言われ、いつも取り巻きに囲まれ、父の権力を使い、好きなものを手に入れ……。
人の悪口等は言わなかったが、下の者はどうでもいいと思っていた。
アリスが私にいじめられたと言って、ディーンを味方につけてからは、みなが私を無視した。
それも因果応報だとは思った。
私はドレスを褒められても当然だと思い、教師のおべっかすら当然だと思い、下の階級のものを見ても何も思わず、褒められて増長した。
私自身を褒めたわけではなく、地位と家柄だ。
ルードとなって初めて気がついた。
ルード・エルとしての称賛は私自身のものだった。
私が10年研究してきた成果に対してだ。
何もアデリシアの時、ほぼ自分では何もしていなかったんだ。
使用人が気にいらないからと簡単にクビにして、他人の悪口は言わなかったが、止めようともしなかった。
傲慢で、人の心の痛みなど全く気がつかない悪役令嬢だった。
お父様お母様、助けてと泣き叫んでも誰も来てくれない。
どれほどの罪を犯したのか? 心細く寂しかった。
『私、貴方に何かしました?』
『あなたが何でも持っているのがいやだった。努力もしないで貴方は身分も地位の生まれつき持っている。大きな屋敷、綺麗なドレス、欲しいものはなんでも手に入れられる。それを当然と思う傲慢、私はそれがいやだったの』
心の底から楽しそうに笑い、それがなくなったらどうなるのかしら? と牢屋の中で泣く私を嘲りの目で見た。
私が私であるのは、生まれが公爵家であったのは偶然だと言った。
それを当然と思っている私が腹が立ったと、傲慢な私は嫌われていたから、皆の心が元々離れていたと。
反省はした、だけど、私はこんなところで1人5日も入れられ、どうなるかもわからず泣き叫んでいた。
声も枯れていた。食事さえ満足に与えられなかった。
死にたくないと思った。
追放だけと聞いて安心してしまった自分が情けなかった。
雨が降る中、放り出され、私は道端に座り込み泣いていた。
ああ、誰か助けて、お願いします神様、祈っても誰も来てくれない。
裏路地で泣いている私に声をかけてくれたのがカインだった。
『お嬢ちゃんどうしたの? 迷子?』
アリシアと同い年と思って放っておけなかったという。確かにチビだったが……。
温かい家、優しい家族、それから私はずっとカインの家で暮らしていた。アリシアも可愛かった。
17なら何もしないわけにいかんよなとカインが言うので、魔法の研究を手伝い、私は意外に才能があったようで、副所長にまでなった。
『ルードってトラブルメーカーよね』
そういいながらアリシアはご飯を作って笑っていた。
私は悪かったなと軽口をたたき、一人暮らしを始めるまでずっと皆一緒だった。
私はずっと幸せだったんだ。
でもレイのことは気になっていた。
彼だけが私の味方で、ずっとお姉ちゃんといってついてきてくれたっけ。
幸せを祈っている。
だからころ離れていた。ルード・エルとしての私としてずっと存在すれば……。
アデリシアはもういない、泣いて泣いて、放り出されて、復讐なんて駄目だと思ってからはルードとして生きてきた。
幸せだったんだ。
でもレイの幸せを祈っている。だからこそこの騒動をなんとかしないといけない。
しかし……レイが大切だった。彼だけが味方だった。
だからこそ王太子としてのレイをバックアップしようとは決めていた。
しかし恋の相手になれん、私は恋なんてもうしないと決めていた。というよりしたことがない。
いやできないんだ。
「ではおじ上に話してきます。身辺は気をつけてくださいルード」
「ああ」
カインが護衛につくというが、私とカインなら腕っ節は私のほうが強いが……暫く私はカインの家でまた同居することになったのだった。
「ルード、あんたご飯作るの手伝いなさいよ。後きちんと脱いだ服たたんでおいてよね。ミーア母さんが困るでしょ!」
「ルード、ほら、せめて自分の部屋だけでも片づけてくださいな」
うう、口うるさいアリスにミーアさんはエリスの友達でよく顔を会わせていたから遠慮はなしだし。
女子力とまではいわないから、家事くらいしろと迫られ、自分の部屋だったところを片づけて、夕飯を作るのを手伝っているうちに研究が、研究が!
カインがそれくらいにしてやれと苦笑して言うまで、それが続いた。
だから嫌だったんだよ。アリシアもどうも口煩さがましたぞ。
レイのことをサポートしよう。
愛しているという言葉は私には不向きだ。
ある出来事から私は恋愛には不向きなのかもしれないな。
この国のために、そして幼いころ私を一人だけかばってくれたレイのために私は動こう。




