元悪役令嬢、刺客に襲われる
「ルード・エルだな?」
「ああそうだが」
私は研究所に向かっていた。年が明けて、休みのはずだが、生成している薬が気になっていたんだ。
あれから一応あいつは帰したが、毎日理由をつけて会いに来るのでまあなんというか……困ったのもある。
「お命頂戴!」
「はあ?」
私は黒づくめの男たちに囲まれ、何か命を狙われているらしい。
仕方なく私は手を突き出して呪文を唱える。
「業火よ!」
私の呪文一つで爆発が起きる。アレンジ呪文だ。男たちが吹っ飛ぶが、おいおい、研究所と寮は歩いてもそれほど時間がかからない。そこで朝っぱらから待ち伏せとか意味が分からん。
「くっ……」
「覚えておけとかいうなよ。銀の鎖!」
私が唱えた呪文で男たちは魔法の鎖でつながれる。数珠繋ぎとは趣味が悪いが構成を編むのが面倒くさかったんだよ。
しかし私が命をね。
研究を狙われたことはあったがね。
「誰の命令だ? くそ次席宮廷魔法使いのやつか? あとはそうだな」
「死んでも言うか!」
「なら死ね」
私が呪文を唱えようとすると、男たちの一人が宰相だと大声で叫んだ。
つか口が軽いぞ。
しかし街中でこの騒ぎ、ここは奇人変人が集う研究所の近くで誰も住みたがらないのが悪いのか。
「しかし男が王太子妃とは!」
「私は女だ!」
何度も訂正しているのに、こいつらも間違えている。私はまた呪文を唱えると爆音が響き渡った。
どうしてこうややこしいことばかり起きる?
「あら、どうしたのルード? また研究泥棒?」
「違う、刺客だ!」
「ふうん、殺しちゃだめよ」
「誰が殺すか!」
現れたのは魔法学園に向かうアリシア、制服のままじと目で私を見ている。
黒髪黒目の愛らしい娘だが、口が悪いのがちょっとな。
「刺客ねえ」
「男じゃないというのは、私たちはターゲットを間違えたと思ったが、しかし確かにルード・エルと宰相様は」
ぶつぶつという男たち、女と聞いたがとまだ言ってやがる。
いきなり襲い掛かってきて、人違いだったかもしれないとかこいつらバカか?
「お前たちバカだろう?」
「いや違う、しかし」
「とりあえず寝ておけよ。永久の眠り!」
私が呪文を唱えると、男たちは寝息を立ててこてんと地面に転がった。
相手のことくらいきちんと調べろ、ルードかといわれてはいと言った瞬間、襲い掛かってきたし、しかし迷いが感じたのはこれかい。
私が女だと聞いていたのに、男だと躊躇したのか!
「相変わらず、何かトラブルを起こしてるのねあんた、お父さんかわいそう」
「煩い!」
「じゃあ私行くね、ルード」
「ああ」
手を振るアリシア、そういえば研究泥棒撃退もしていたからそれと思われたか? 同じ家に同居していたころもこんなことあったからな、数年前までカインの家で一緒に暮らしていたからな。
「しかし、宰相? 魔法がらみじゃないのか?」
私が男たちを見て考え込んでいると、今度はカインが歩いてきて、おいまた魔法研究泥棒か? と尋ねてきた。似た者親子だ。
「違う、宰相の手先らしい」
「なら王太子妃がらみじゃないか? 俺のところにも何か来てたぞ」
「はあ?」
「ミーアが撃退したが、昨日何かお命頂戴とか」
「なんでお前のところに?」
「俺の家にお前がいると思ったらしいが」
「こいつらバカか?」
「多分そうだな」
つまり私を狙ったのは宰相、しかも複数、調査不足で私がカインの家にまだ同居していると思ているバカがいて、私を襲うとき、いきなり名乗りをあげてきたバカもいて。
「複数か?」
「みたいだな」
不穏な気配がしてきたが、しかしこいつらどうする? とカインに聞いたら、放っておけと言われたので道の端に放り出したままにしておいた。
そうだな殺すとかもできんし、突き出すにしても宰相の手先とやらだったらちょっとな。
「自警団だって困るだろ、こんなの連れて行っても」
「だな」
私たちの意見は一致した。くさいものには蓋、というより無視だ。
昨日襲ってきたバカたちは丸裸にしてどこかに放り出したらしい。
あーあ、しかし変なことになってきたものだ。カインにすまんと謝るとお前のせいじゃないと頭をなでられたぞ。
はあ、しかしどうなることやら。
訂正 ミーア→アリシア
筆頭魔法使い→次席魔法使い
すみません。