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聖なる夜に珍客がやってきました

「お疲れ、リア、俺は……」


「新婚さん、お疲れ、奥さんと外食か?」


「ああ」


「所長が定時で帰るのは微妙だが、構わん、お疲れ」


 リアと呼ばれて、私は目の前にあるビンを凝視しながら軽く手をあげた。

 本名はアデリシア・ルートガルド・エアリエル。

 元公爵令嬢。今は27歳。

 手をあげていそいそと帰っていくカイン、黒髪には少しだけ白髪、目は同じ色。

 顔立ちは端正だが、少しおやじくさい。


 皆はリアやルートと呼ぶ。

 10年前に断罪され、王太子妃の婚約者の地位をはく奪された人間だから、今は一般人と変わりない。


 いわれのない罪で私は断罪され、その後、公爵の家はそのまま続いたが、私だけが地位をはく奪、放逐された。


 実際、私は何もしていない。

 だが言い訳は聞かないとばかりに断罪され、放り出された私を拾ってくれたのが所長、その当時30歳だった彼。


「カインのやつ、10歳も年下の嫁をもらいやがって」


 私はこの10年でかなりひねたらしい。

 長い金の髪を無造作にまとめ、眼鏡をかけた姿はよく男に間違えられる。

 身長はかなり伸び、今は一般男性と同じ位ある。

 おまけに胸は育たなかった。


「あーあ、聖なる夜なんてくそくらえだ」


 王太子とやらは今は浮気相手と幸せに暮らしている。

 ばかばかしい、確かに私は口が悪い。

 そして、馬鹿だった。

 公爵令嬢として恵まれていて、傲慢で我儘で、やりたい放題だった。

 悪役令嬢というあだ名もあったほどだ。


 何も知らない馬鹿だったが私で勉強はできたし、魔法も使えた、容貌も悪いほうではなかった。

 社交もある程度は……。


 器用貧乏とも言える。ほぼほぼなんでもできるがそれ以上はできないという。


 やりたい放題、我儘放題。

 皆に嫌われていたが、私は罪状にあった「平民のアリスを苛めて、階段から突き落として怪我をさせた」ことだけはしていなかった。

 王太子がアリスと仲良くした嫉妬からということだったが。


 私は実際、平民などなんとも思っていなかった。

 王太子だって政略結婚で愛していなかった。


 なら、どうして嫉妬できる?


 しかし皆に嫌われていた悪役令嬢であった私の言い訳等誰も聞いてくれず、私は断罪され、身一つで放り出された。

 さすがに公爵であった父も陛下や王太子殿下から断罪された私を無視し、一人さまよった私を拾い上げてくれたのがカインだった。


 彼の娘と年齢が同じ位で見過ごせなかったらしい。


 おーい、娘のアリシアは当時まだ7歳だったが、私は確かにチビで胸なしだったがそれは酷いぞ。


 まあそれで事情を離した所、魔法研究所の人手不足で雇ってもらえて今に至る。


 研究はとても楽しく、私は10年過ごしてきた。

 同僚にも恵まれ、友人もできた。

 研究所は貴族や平民、様々な身分年齢の人がいて、自分の傲慢さを思い知らされた。


 性格がかなり丸くはなったらしい。


「あー、人造人間ホムンクルスなんて無理だろおい」


 聖なる夜、恋人達の守護者を祝う祭りがある。

 だから皆早く帰り、独り身の人間だけが残っていた。


「あー、寮に帰っても誰もおらんしな」


 金の髪、青い目、見た目からして男にしか見えないらしい。

 昔は可愛い顔、美少女、愛らしいなどいわれたが。


「……客か? あのマダム、まーた、カインに言いよるつもりじゃなかろうな」


 カインのことは同僚としては好きだ。

 貴族の夫人がしかし言い寄るのが理解出来ん。

 渋さがたまらんらしい。


 確か、肌のしみを消すアイテム依頼だったな。完成しとらんぞ。


「はい、はいっと」


「……アデリシア・ルートガルド・エアリエル嬢ですか? 僕はレイモンド・ルディウス。ディーン・ルディウスの弟です。このたび、兄が王太子を廃され、僕が王太子になることに決まり、アデリシア嬢を王太子妃にするべくこちらを訪ねました……」


「私はルード・エル。アデリシアなんぞという名前の人間はここにはおらん、王太子? わけのわからんことを言うな子供。こんな場末の研究所に王太子なんぞが供も連れずに来るとか冗談だろ」


「シア様、お久しぶりです。僕、レイモンドです!」


 扉を開けたら、思っていたのと違う人間がいた。金髪碧眼、可愛い女の子のように愛らしい少年、確か今15歳だったはずだ。 

 確かに10年前のおもざしがあるから本人だろう。

 わかっていてすっとボケてみた。

 抱きついて来た少年を見てだから知らんと首を振る。


「僕、ずっと探していたんです。シアさん! 僕のお嫁さんになってください!」


「おいだから違う。わけのわからん冗談を言うな!」


 聖なる夜にやってきた子供はわけのわからんことを言い抱きついて来た。

 あれからずっと大好きでしたと言われても知らん。

 5歳の頃しか覚えていない!


「私はこの研究所の副所長のルードだ!」


「いえシアさんです。シアお姉ちゃん、僕のこと忘れたの?」


 あ、う、そういえばかなり慕ってくれていた。

 泣きながらお姉ちゃんを連れて行かないでとすがりつき、こいつだけが私を庇ってくれたんだったな。


「あ、まあ久しぶりだな、レイ、茶でも飲むか?」


「相変わらずですねシアさん。僕、あの」


「嫁とか王太子とか説明してくれ、いきなり言われても困る」


「はい!」


 ああ、目をキラキラさせて尻尾振ってこちらをとことこついてくる様子は変わらんな。

 身長は頭一つ私より低い。


 頭を掻きながら、取りあえず説明をと言うとはいとにこにこ笑いながら、私がビーカーにいれたお茶をレイは豪快に飲み干したんだった。

 そういえばこいつこう言う所もあったな。

 この茶、初対面の人間は飲むのを躊躇するぞ?


 んで、私は10年ぶりにあった、婚約破棄をした王太子の弟の説明を受けることになったのだった。


 




 

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