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お前と同じ、転生者だよ


 ヴァルーチェ魔術学園にも旧校舎なるものが存在するらしい。

 現在、授業には使われていないものの、文化部の部室、ならびに謎の組織の集会や秘密結社のアジトに使用されているらしい。

 そんな変人の巣窟である旧校舎の2階に部室をかまえるのが“新聞部”である。

 はたして、自分が“真面目の擬人化”であることを信じて疑わない俺は、旧校舎の空気に適応できるだろうか。

 

 「で……、ここがその部室か」

 「ああ、そうだな」


 木製の廊下にはガラクタが散乱して足場が無く、階段は歩く度にギシギシ音が鳴るため、目的地に辿り着けたのが奇跡に思えた。ハヤトが先陣を切って案内してくれければ、遭難していただろう。 

 

 「こんなゴミ置き場みたいな所、よく迷わずたどり着けたな」

 「新聞部には知り合いがいるからな。あの記事書いた奴は、1日の大半を部室で過ごす“引きこもり”だ」

 

 こんな物で溢れた、快適とは言えない建物で引きこもりとは、なかなか根性のある人間である。

 目の前に備えられた薄汚い扉。

 その上にはご丁寧に“新聞部”と書かれた看板まで付いている。間違いなくここが“新聞部”の部室である。

 

 「エラーが発生しました。未登録の文字が含まれています。翻訳不能です」

 「え?」

 

 翻訳不能というわりには、しっかり“新聞部”と読める。

 もしや、形がよく似ているだけで、とんでもなくイヤらしいことが書かれた未知の言語なのだろうか。

 いや…………、ちょっと待てよ…………。

 

 「まさか、この文字本物の漢字か!?」

 

 漢字とは…………、とダラダラ説明する必要は無いだろう。

 必要だ!と言いたい君は、今すぐブラウザバックして小学校からやり直したまえ。

 

 「その“漢字”…………かどうかは知らんが、新聞部部長が直々に書いたものらしいぞ」

 「ってことは…………」

 「お前と同じ、転生者だよ」


 

 

 学園内に俺以外の転生者がいることは知っていた。しかし、なんだこの…………焦りや嫉妬、その他諸々の負の感情が混じったような気持ちは。

 もし、その転生者が人望に厚く、可愛い幼なじみと妹がいて、困ってる人を見たらほっとけない、主人公を絵に書いたような人間だったら…………。

 考えただけでもおぞましい…………。

 完全に俺の上位互換ではないか。ソイツを主人公にした話が新しく始まってしまう。

 

 「なにボーッとしてるんだよ。殴り込むんだろ?」

 

 俺が落ち着くために深呼吸をしようとした時、ハヤトが部室への扉を開けてしまった。

 

 「あああ!!? 何してんだよお前!?」

 「あのままだと、日が暮れるまで動かなかっただろ」

 

 予期せぬタイミングで、転生者とのファーストコンタクトをすることになってしまった……。

 どうしよう、さっき読んだ新聞の転生者みたいに、いきなり攻撃とかしてきたら……。

 

 「ん? 誰かと思えば“ハヤトっち”か。なんの用?」

 

 部室の中から聞こえる少々枯れた声。

 声の主である黒髪の少女が、背もたれに足をかけてこちらを見ていた。

 気だるそうな半眼をした子で、銀縁のメガネがよく似合っている。

 

 「コイツが、お前に用があるんだと」

 

 ハヤトが半場呆れた様子で、俺に手を向けた。

 ここまで来て引くわけにはいかない。

 まさか、女の子だとは思わなかったが、ここにおいて性別など関係はない。

 俺は足音をたてて部室に入ると、顎を上げて堂々と仁王立ちをした。

 

 「ん…………? んん…………?」


 少女は、目のピントを合わせるように、しかめっ面をしながらメガネを近づけたり、遠ざけたりしている。

 だんだん、仁王立ちしているのも恥ずかしくなってきた。 

 

 「あっ! えーっと……あれだ……。そう! “ヨツバっち”だ! アーサーと戦った子でしょ?」

 「そっ……その通りだ」

 

 相手が男ならば、「テメエか俺の記事を書いたのは!」 と殴りかかれるのだが、女の子だと返り討ちにされた時の言い訳がつかない。

 さて、どうしたものか……と考え始めると、転生者の少女は椅子に付いたキャスターを転がして近づいてきた。

 

 「いやー、勝手に記事にしちゃってごめんねー。私も同じ転生者を悪くは言いたくなかったんだけど、過激に書いた方が人気出るんだよ。私、│十六女イロツキミヤビ。 よろしくね」

 

 ミヤビは座ったまま、俺に手を差し出した。

 俺に異性が近づくと、異臭を放つはずだが、ミヤビは気にする様子を見せない。

 ここで握手に応じれば、あの虚言だらけの新聞を認めたことになる……。

 

 「大葉 ヨツバ。こちらこそよろしくなっ!」

 

 ぎこちない笑顔で握手に応じた。

 だって仕方ないだろ! 喧嘩売ったら負ける気がするんだもの…………。

 

 「お詫びと言ってはなんだけど、これあげるよ」


 ミヤビはポケットからチケットのような物を出すと、俺に手渡した。

 

 「なんだこれ?」 

 

 紙には、“イロツキタクシー 1回無料券”と書かれている。ホントになんだこれ……。

 

 「転生した時に“レクターの移動魔術”って言う…………まあ、言うならばテレポート? みたいなモノを貰ったんだよね。それを利用してタクシー業やってるの。その券使えば、どんな場所にでも連れてってあげるよ」

 「なるほど……。だから、タクシーか」

 「ちなみに、現在流通してる最速の移動魔術―――“アレックスの移動魔術”より格段に速いし、私の独占魔術」

 

 ミヤビは「ブイっ」とピースサインをした。

 やはり、彼女も転生時の特典を貰っているようだ。副校長に呼ばれたばっかりに貰いそびれたのが悔やまれる。

 

 「ヨツバっちも転生者でしょ? 転生した時になんか貰えた?」

 

 気にしていた所をピンポイントに聞いてくる。

 

 「俺の場合はアレだ。…………何もない」

 「落ち込まないでください。私が付いていますから。―――初めまして、わたくし、マスターの魔導書のビオラと申します。以後お見知りおきを」


 落ち込む俺を励ますように、ビオラが声をかけ、ついでにミヤビに自己紹介をした。

 

 「えー、イイなー。こんな可愛い子貰えるなら、私もそうすればよかった」

 

 ビオラは褒められて、少し照れくさそうに笑った。

 でも、詠唱が速すぎて全く別の見た目になったんですけどね。なんて口が裂けても言えない。口に出したら虚しくて泣いてしまいそうだから……。 

 

 壁に設置されたスピーカーから、副校長の声が流れたのはその時だ。

 

 『オオバヨツバ君、オオバヨツバ君。至急、副校長室に来なさい。繰り返す。オオバヨツバ君、副校長室まで来なさい』

 

 「お呼びみたいだぞ」

 

 ハヤトがからかうように言った。

 めんどくせ。と思いながら部室を後にしようとした時、ミヤビが「待って」と俺を呼び止めた。

 

 「私は、いつでもこの部室に引きこもってるけど、もし、外出先でタクシーを利用したくなったら、1回無料券の裏にある“ベルの通信魔術”を詠唱してね」

 「“通信魔術”?」

 「言うならば、“電話”だよ。特定の相手と通信できる魔術。言われた場所まで飛んでいくから。あっ、用がなくても寂しかったら使っていいよ」

 

 ミヤビは手で電話のジェスチャーをする。

 そんな便利なものがあるのか……。下手したら元の世界よりハイテクなモノもあるかもしれない。

 無料券をポケットにしまうと、副校長に向けて歩き始めた。

 

 「それじゃあ、タクシーのご利用お待ちしてまーす」

 

 ゴミの散乱した廊下に出ると、ミヤビの気だるそうな声が聞こえた。

旧校舎の設定は、学校にこういう場所があれば楽しかっただろうなぁという私の妄想から作られています。


新聞部以外にも登場する予定ですのでご期待ください。


今回からお試しとしてタイトルを変えてみました。これで読んでくれる人が増えるといいなあと思いますが、効果がないようなら戻すかもしれません。

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