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新聞部に殴り込みに行くぞ!

今回から二章ですね


 アーサーに、勝利(?)したにも関わらず、依然として俺の周りに人は寄り付かない。

 

 昼休みになると、生徒達は思い思いの場所で雑談混じりの昼食をとり始めていた。

 なにやら、紙切れを持って、俺の方を見てはクスクスと笑っているようにも思える。流石に過剰妄想だろうか。

 

 「腹へったぁ」

 

 机に突っぷせながら、漏らすように言った。

 

 「食べ物が無いのですから、仕方ないではありませんか」

 

 昨晩、副校長に寮へと案内されたは良いが、食事はパンを二切れ渡されただけだった。

 食べ盛りの高校生がパン如きで胃を満たせる訳もなく、かと言って、食べないわけにもいかないため昨日のうちに全て食べきってしまった。

 ここまでくると、劣悪を超えて極悪である。中世の奴隷からも同情されるだろう。

 

 「ヨツバくん! ビオラちゃん!」

 

 奴隷ダイエットなるものを考案しようかと思い始めた頃、廊下から元気な声が聞こえた。

 見れば、バスケットかごを手に持ったレイビアである。

 レイビアは俺達に気づくと、小走りで机の前までやって来た。

 

 「えへへ……。お昼ご飯一緒に食べようと思って沢山作ってきたんだ」

 「それはそれは……! お心遣い感謝します」


 ビオラが丁寧にお礼を言ったが、当の俺は半放心状態である。

 

 “えへへ……。お昼ご飯一緒に食べようと思って沢山作ってきたんだ”

 “えへへ……。お昼ご飯一緒に食べようと思って沢山作ってきたんだ”

 “えへへ……。お昼ご(ry”

 

 頭の中で何度もリピートされる彼女の言葉。

 慈悲も情けもない極悪の世界に咲く一輪の花のように美しいではないか。

 食事をまともに取っていない俺には救世主である。

 しかし、クラスメイトの視線が俺を串刺しにして痛い。こんな所で食事をしては、天使の施しも、男の乳首並みに無意味なモノになってしまう。

 

 「レイビア、せっかくだし外で食べようじゃないか」

 「良いね。丁度いい所知ってるから、そこに行こう」

 

 クラスメイトの視線を浴びながら、教室を後にした。

 

 

 

 案内されたのは日差しの零れる中庭。

 中心に噴水が設置され、それを囲むように花壇が作られている。太陽の光と相まって非常に心地よい場所だ。

 噴水の縁の部分に腰掛けると、見計らったように噴水が水を吹き出した。

  

 「これはヨツバくんの分、こっちはビオラちゃんのね」

 「ありがてえ……ありがてえ……」

 

 レイビアから手渡されたサンドイッチにかぶりつく。

 異世界特有の味が有るのかと思っていたが、元の世界で食べていたものと変わりはないようだ。ただ、空腹からか、レイビアが作ったからかは不明だが、今まで食べた中でも群を抜いて美味いサンドイッチだ。

 

 「…………」

 

 ビオラが大人しいと思えば、両手で持ったサンドイッチを、不思議そうな顔でジッと見つめている。

 

 「なんだよ。食べないのか?」

 「いえ……、私は魔導書ではありますが、食事をとることは可能です。でも、実際に食べることは無く、珍しく感じています」

 

 てっきり、魔導書は食べたりしないのかと思い込んでいたが、食事自体はできるようだ。それなら、昨日のパンも分けてやればよかった……。

 ビオラは小さな口でサンドイッチを含むと、ゆっくり咀嚼を始めた。

 

 「どう? 不味かったり……してない?」 

 「大変美味しいです……。初めての食事ですが、きっとこれは“おいしい”の分類に入ります」

 

 レイビアは「良かったぁ」と嬉しそうに笑う。少々照れくさそうにしているのもまた可愛らしい。

 

 「それにしても、│中庭ここは良いところだな。噴水はあるし、花壇も綺麗だし 」

 「中庭の花壇は、僕も所属してる園芸部が世話をしてるからね」

 

 誇らしげに胸を張るレイビア。

 

 「園芸部?!」

 

 優して可愛くて料理も作ってくれて、植物も育てられるし、お菓子の家に住んで、ユニコーンと戯れ、虹の橋を渡り、小動物とお話できるとか完璧な女の子じゃないか。

 中盤から脈略もない気がするが、設定なら何処ぞのプリンセスも裸足で逃げ出すレベルだ。


 「そんな驚く事じゃないよ。僕の家は農家だから、野菜とか花を育てるのは好きだよ」

 

 確かに“野菜の髪留め”を付けているし、本当に野菜が好きなんだろう。

 園芸部か。植物に優しい男はモテる!……ような気がするし、入部してみるのもいいかもしれない。そうすれば、きっとハーレムだって築けるし、なにより、レイビアと更に仲良くなれる。元の世界では一週間でやめた部活だが、こっちでなら続けられるかもしれない。

  

 「それに、ストレンジ副校長先生も花が好きなんだよ。たまに手伝ってくれるんだ」


 うん。じゃあ、止めておこう。家庭科部は止めておこう。

 副校長と一緒にガーデニングなど拷問に等しい。奴の植えた花だけピンポイントに蹴散らしてやりたい。

 

 突然、レイビアの横に置かれたボトルが、ひとりでに揺れた。

 金属製のもので、大きな蓋が付いている。表面いっぱいに小さな文字のようなモノが刻まれていた。

 風が吹いたわけではない。…………これが超常現象か。

 

 「あっ、ごめんごめん。ご飯まだだったね」

 

 レイビアはボトルを手に取り、蓋を開けた。 中で魚でも飼っているのだろうか。

 しかし、ヌッとボトルから顔を這い出したのはドロっとした謎の生命体。

 粘性のある液体のようで、滑らかな表面に、2つ盛り上がった部分があり目のように見える。

 

 「ひぃぃ!? 何コイツ、スライム?!」

 

 俺がトンチキで、女の子じみた悲鳴を上げると、レイビアと謎の生物がムッと顔をしかめた。

 

 「スライムなんかじゃないよ。“レイくん”はアシレイ様から授かった僕の友達」

 

 “レイくん”と呼ばれた生物が誇らしげに胸を張るような仕草をした。

 

 「“アシレイの水芸魔術” ネウト族の契約魔術ですね。水に生命を与え、自由に操作できる魔術です」


 ビオラがサンドイッチを噛じりながら解説をした。

 

 「ビオラちゃんの言う通りだよ。レイくんは“雨水”から出来てるんだ。だから、ご飯も“雨”じゃないといけない」 

 

 レイビアは、レイくんを噴水の縁に載せると、詠唱を始めた。

 また、10分くらいかかるのかとウンザリしていると、意外にも1分程で終わってしまう。

 すると、レイくんの頭上に小さな灰色の雲が発生し、沢山の水滴を降らせた。

 

 「ごめんね。時間が無いから簡易版になっちゃったけど、夜はちゃんとしたのを降らせるから我慢して」

 

 レイくんは小さな雨の中で楽しそうに体を動かす。その姿は踊ってるようにも見え、表情もどこか笑顔に思えた。

 

 「へー、こう見ると結構可愛い奴だな」

 

 雨の中で踊るレイくんに手を近づけると、人差し指を鋭い刺激が襲った。

 

 「痛てっ……。噛んだのか?」


 指には小さな切り傷が出来ていた。

 こんな柔らかそうな物質にも傷つけられるあたり、俺の指は、どれだけ貧弱なのだろうか……。

 

 「あー! ごめんごめん。レイくん、僕以外の人に全然懐かないんだよ。大丈夫だった?」

 「マスター、念のために処置をしますから、指をお出し下さい」

 「大丈夫だよ……。このくらい唾つけとけば治るって」 

 

 切った部分をペロッと舐める。

 当のレイくんは、「してやったり!」とでも言いたげな顔で俺を見上げていた。

 この野郎……、覚えておけよ。いつかコテンパンにしてやるからなぁ……。どう想定しても、負ける未来しか見えないが、覚えておけよぉ。

 

 「やっと見つけたぞっ!」


 誰の声かと見れば、ハヤトが息を切らしながら俺達の方へ走ってくる。

 

 「よう、どうした。お前も昼飯食いに来たのか?」 

 「そんなこと話してる場合じゃないんだよ!」

 

 ハヤトは1枚の折りたたまれた紙切れを、俺に押し付ける。

 

 「あ、ハヤトくん久しぶり」

 「ん……? なんだレイビアもいたのか」

 

 ハヤトは肩で息をしながら返事をした。

 

 「なんだよ。2人とも知り合いなのか?」

 「俺も寮生なんだよ。202号室」

 「みんなご近所さんなわけだね」

 

 ちなみに、俺とビオラは303号室で、レイビアは203合室である。

 ちくしょう、ハヤトの奴、レイビアの隣の部屋じゃないか。

 

 「そんなことはどうだっていいんだ! 早くその新聞を見ろ!」

 「新聞?」

 

 ハヤトに押し付けられた紙を開く。

 確かに新聞のようである。デカデカと俺の顔写真が貼られている以外は至って普通の…………。

 

 「えぇ?! なんで俺の顔が!?」

 「目が半開きで写ってるね」

 「折角のハンサム顔がこれでは台無しです」

 「それは由々しき問題だ!」

 

 いや、そういう問題ではない。

 何処で撮られたかはともかく内容を読むことにした。

 

 “姑息な手に アーサー ペイジ倒れる

 

本日の早朝、転生者のオオバ ヨツバ氏がアーサー氏に決闘を挑んだ。 アーサー氏は快く承諾し、詠唱を始めたが、ヨツバはあろう事かアーサー氏の詠唱中に攻撃を行い、その後逃走したそうだ。

 実戦ならともかく、自ら挑んだ決闘で詠唱中に攻撃など常識とは言えない行いである。そういった面ではやはり転生者、常識が欠如しているのだろう。学校側は即刻、ヨツバ氏を病院、もしくは“教会”に連行し然るべき処分をするべきである。

   新聞部代表 イロツキ ミヤビ♡”

 

 「なっ、なんだこの記事は?! これじゃあ、俺が極悪人の常識欠如者みたいじゃないか!」

 「実際、間違ったことは言ってないからな」

 「たしかに、多少の着色は見られますが、大筋は間違っていませんね」

 「うーん、決闘で詠唱中に攻撃しちゃうのはダメかもね…………」

 「ちくしょう…………。この場においても味方はいないのか」

 

 クラスメイトが持っていた紙切れはこの新聞だろう。道理でいつもより、クスクス笑われるわけだ。

 なんと劣悪な偽造記事であろうか! このままでは、俺の沽券に関わる。

 

 「このままにしておけるか! 新聞部に殴り込みに行くぞ!」

 「ヨツバ、何故俺の腕つかむ」

 「新聞部の場所分からないから案内してくれ」

 

 ハヤトの腕を掴むと無理やりに引っ張る。ハヤトは必死に抵抗しているが、体重が軽いのか驚く程にグイグイ進む。

 

 「ごめんなレイビア。急用が出来たからちょっと行ってくる。サンドイッチ美味しかったよ」

 

 新聞部へと歩を進めながらレイビアにお礼を言う。

 ビオラも、レイビアに一礼してから、俺達の後を追ってきた。

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