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―――そこまでです


 気づけば、吹雪が吹いていた。

 イールが頭上に“氷絶剣”掲げられた瞬間、剣を中心に小さな吹雪が発生し、巨大な氷の刀身が形成されていく。

 刀身が大きくなる程、それを覆う吹雪

も巨大且つ甚大なものとなっていき、ついには学園を全て包み込む、“災害”と化していた。

 殴り付けるような暴風と雪に、俺は屈した膝を曲げることすら出来ない。

 枯渇した魔力を腰に集中させるも、“尻尾”は壊れたライターのように、何度やっても一瞬で消えてしまう。

 

 「これで終わりだ」

 

 イールが呟く。いつの間にか、剣は塔のように肥大化している。

 まずい……。これは本格的にまずい。

 俺は“魔力切れ”で、ミヤビは雪に埋もれてしまっている。目の前て倒れているミノリも、意識はあるようだが戦える状態じゃない。

 …………これで万事休すか。

 

 「まだです!」

 

 背後からビオラの声が響く。

 

 「私の内蔵魔力があります。それを使ってください」

 

 突然の提案に驚く。しかし、首が凍ってしまってか振り向くことは出来ない。

 

 「そんなことして大丈夫なのか?!」

 

 雪で消えてしまわぬよう、大声で聞き返す。

 

 「マスターの身に何が起こるかは分かりません……。最悪の場合……」

 「俺はいい。ビオラに害はないのか?」

 「わ、私にですか? …………特に無いかと」

 「じゃあ構わない。早くしてくれ」

 

 ビオラの不安げな眼差しを背中に感じる。

 俺が許可したものの、すぐ行動に移せるほど安全なものではないのだろう。

 しかしビオラは、俺の背中に手を当てた。

 

 「マスター、どうかご無事で…………」

 

 ビオラの声を聞き終えた時、身体に激痛が走った。

 まるで、強力な酸を飲み込んだように、身体の内蔵が侵されていくような感覚。

 思わず叫び声を上げた。

 瞳の中にさえ、液体を注射されている気がした。

 そして、ツボミから花が芽吹くように“尻尾”が顕現していく。

 

 「お前……その眼は……!」

 

 イールが俺を見て狼狽する。

 俺の瞳がどうなっているのかは知らない。しかし、相手が困惑している今がチャンスだ。

 俺は駆け出すと同時、詠唱により“尻尾”もイールに襲いかかる。

 

 「ゼキシア゛ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」

 

 イールが件を振り下ろそうとする。

 一気に縮まる距離。

 “尻尾”がイールを襲うのが速いか、イールが剣を振り下ろすのが速いか。

 互いを睨み合う。世界がスローモーションに見える。

 視界の真ん中に誰か現れたのはその時だ。

 

 「―――そこまでです」

 

 乱入者が、持っていた杖を横にした瞬間、勢いよく後方へと吹っ飛ばされる。

 尻餅をつき、体を打ち付け地面を滑る。

 

 「痛ってぇ…………」

 

 震える足でゆっくりと立ち上がると、いつの間にか吹雪が収まり、積もりかけていた雪も消えてしまった。

 俺とイールの間に乱入したのは、大きな帽子をかぶった小柄の少女。帽子の奥で目に巻かれた包帯はあまりにも見覚えがあった。

 

 「……ブリールなのか?」

 「その通りです。また会いましたね、ヨツバさん」

 

 ブリールはさも当然のように返事をして微笑むと、後方で這い蹲うイールの元へと近づいていく。

 

 「“愚弄者の侮慢”の件は、私が担当のはずですが……。“氷絶剣”まで出して何をしているのです?」

 「……担当なんて知るかよ。私はただ復讐を……」

 「貴方の復讐相手はとうの昔に死んでいるはずです。いつまで妹の面影を追うのですか?」 

 

 未だ立ち上がろうとするイールの頭部を、ブリールは杖で押し付ける。すると魔術でも使ったのか、イールは眠るように地面に伏せてしまった。

 イールが動かなくなったのを確認すると、ブリールは踵を返し、俺達の方にやって来る。

 

 「同僚が迷惑をかけましたね」

 「お前も、アイツの仲間なのかよ……」

 「仲間……? ……そういう表現もあるかもしれませんね。私も彼女と同じ“教会”の一員、“熾従者(セラフ)”の一人ですから」

 

 底知れない……。彼女を見てそう思った。

 さっきまでは、方向音痴なただの女の子という印象だったが、今の彼女はどうだろう。杖一本で、本気の俺とイールを突き飛ばし、それでいて一切のダメージを負っていない。

 

 「ミノリ!」

 

 半壊した旧校舎の崖からプロメが顔を出した。屋上まで登ってくると、すぐさまミノリの元へと駆け寄り、抱き上げる。

 

 「プロメ……様ですか?」

 「口を開くな。大丈夫じゃ、この程度の傷ならすぐ治る。とにかくよく頑張ったぞ……!」

 

 ミノリが無事だと分かってか、安堵の表情が零れた。瞳には涙さえ浮かべている。

 

 「僕、やり、やりましたよ?」

 

 掠れた声でミノリが呟くのを、プロメは泣きながら何度も頷く。

 

 「見ておったぞ! お主はよう頑張った。よくぞ立ち向かった」

 

 …………いやいや、こいついい所で乱入してきただけじゃないか。賞賛する相手が違うんではなかろうか。

 

 「―――なんだ、まだ“処理”してなかったんですか」

 

 ―――次の瞬間、プロメが消えた。

 ブリールが杖を横に振ったのだ。

 その場にいた全員が唖然とする。

 そして、今までプロメがいた場所に、黒紫の球体が落下した。

 ブリールはそれを拾い上げ、ため息をつく。

  

 「……片方だけですか。ではもう一つはアナタが?」

 

 ブリールが杖をミノリへと向ける。

 ミノリはもごもごと口を動かし続け、やっとの思いで声を出した。

 

 「おま、お前! プロメ様に何をした?!」

 「ただ刑を執行しただけです。安心してください。アナタもすぐ“送ってあげます”」

 

 再度ブリールが杖を振ると、今度はミノリが消えた。

 そして先程同様、居たはずの場所に黒紫の球体が落下し、ブリールはそれを拾い上げる。

 ほんの数秒前まで目の前にいた人間が二人消えた。まるで手品のように、最初から存在しなかったかのように。

 

 「さて、“愚弄者の侮慢”も取り返しましたし……、帰還しますかね」

 

 ブリールが小さな体躯でイールを抱えようとしている時、俺はやっとマトモな思考を取り戻すことが出来た。

 

 「何したんだよお前!」

 

 叫ぶと、ブリールはゆっくりとこちらを向く。

 

 「この世界から消したのです。罪人には然るべき刑かと思いますが……」

 「なんで消す必要があった」

 

 ブリールは呆れるようにため息をついた。

 そして、目に巻かれた包帯を解き始める。

 

 「いいですかヨツバさん。この世界は“私達”の世界なのです。アナタ方、“転生者”がのさばっていい世界ではない。―――それなのに、あの二人組は我が主の“聖遺物”を盗み、秩序を乱した。そんなやからは、この世界にはいりません」

 

 それがさも、当然であるかのように彼女は言ってのけた。

 包帯を外した彼女の、残酷なまでに赤い瞳には刻まれてた、“三日月の紋章”……。

 

 

 「それでは私はこれで……。ヨツバさんも今後の行動は慎んでください。でないと、彼らみたいに“消しますよ”?」

 

 イールを担ぎ、ブリールは杖に跨ると浮遊し、何処かへと飛んで行った。

 

 残された俺達は、呆然と空を眺めていた。

 

急いでいたため、文章が雑になってしまいました。4章の大筋はここで終わりですが、エピローグ的な話が少し残っています。本来はその分も投稿したかったのですが、……間に合わなかったので次回投稿します。


次回は日曜(もしかしたら、早かなるかも……)

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