知ったことかよ、お前を倒せるならな!
「これが、ヴァルーチェ魔術学園に在籍する、“転生者”四名ですか……」
「ええ……。」
夕日の指す副校長屋で、ブリールは渡された資料に目を通していた。
学園に在籍する“転生者”を把握しておくのも、“教会”である彼女の仕事である。
その様子を、真剣な面持ちで眺めるストレンジ副校長の額に汗が伝う。
「イロツキ ミヤビに、ハナザワ ミノリ……。おや……?」
ページを捲るブリールの手が止まった。
それもそのはず、ページには、ブリールを学園まで案内した少年の顔が載っていたのだ。
まさか転生者だったとは……。確かに、ほんの少しだけ異様な雰囲気は感じたが……。
ブリールは少年、オオバ ヨツバの項目を目で追っていくと、不可解な点を発見した。
「彼の、“転生主”の項目が空白ですが……。なにかのミスですか?」
そう尋ねた瞬間、副校長が肩を震わせる。
“転生主”、転生者を、こちらの世界に呼んだ神のことである。普通なら与えられた特典と共に神の名前が記入されるのだが、彼の場合その項目が空白なのだ。
「いっ、いえ……。彼は誰に転生させられたのか存ぜぬと言うのじゃよ……。ついでに特典も無かったと」
ストレンジの様子が明らかにおかしい。
ブリールはありえないと思ったが、念の為釘を刺しておく。
「まさかとは思いますが……。オオバ ヨツバは、アナタが転生させた訳ではありませんよね?」
「…………」
ストレンジは何も言わない。
ブリールは追い打ちをかける。
「一般人が、異世界から人を召喚するのは固く禁じられているのはご存知ですよね? ただでさえ、この頃異世界との境界があやふやで、転生者も飽和状態だと言うのに―――」
「まっ、まさかそんな訳ないじゃろうて。……ところで、本日はどのようなご要件で?」
明らかに話を逸らされたが、今日は彼について追求する為に来たのではない。
ブリールはため息をつき、ストレンジの問に答える。
「我が主、オーゼの聖遺物を盗んだこそ泥が、この学園に潜んでいるとの情報を得たので適切な処置を―――」
答えている最中、轟々しい衝撃音がブリールの声をかきけした。
なんだと思うと、ストレンジも困惑の表情をしていた。どうやら、副校長でも予想だししていない音だったらしい。
ブリールは副校長の窓から外を見ると、そこには半壊した校舎と、その上で交戦する2つの影があった。
「…………どうやら、私以外にも同業者が来ていたようですね……」
ブリールは杖を持ち直すと、出口へと早足で歩いて行く。
「も、もう行かれるのですか?」
「ええ。急ぎの用が出来ました。私が行かなければ、この学園自体無くなってしまうので……」
ブリールは帽子の柄を押さえ、副校長をあとにする。
そのまま、戦闘の繰り広げられている旧校舎の屋上へと向かう。―――予定だったのだが……。
「はて……。どちらへ行けば良いのでしょう……」
――――――――――――――――――
旧校舎の屋上には、風が吹き抜けていた。
数メートルの距離を空け、俺とイールは対峙する。
俺の腰から生えた尻尾は、本物の蛇のように揺れ、その先はイールへと向いている。
そしてイールも剣を上段に構え、剣先を俺へと向けていた。
一瞬でも瞼を閉じれば、次の瞬間にはイールの顔が目の前にあるのでは……。そう思えてしまい、瞬きすら出来ない緊迫の時間がしばらく流れる。
先に痺れを切らしたのは俺の方だった。
背中から生えた“尻尾”の動かし方は、まるで生まれた時から存在していたかのように、本能的に理解していた。
―――“コイツ”は“詠唱”した通りに動く。
「………………“首を狙え”」
俺がそう呟くと同時、“尻尾”が勢いよく伸び、イール目掛けて突っ込んでいく。
「ちょこまかと!」
迫り来る“尻尾”に、イールが剣を振り下ろし先端の、蛇の頭部と腹部を切断する。
しかし、文字で形成された“尻尾”は、一瞬静止したのもつかの間、すぐさま切口が結合し、再びイールを襲う。
「……くっ!」
再生するのは、予想外だったのだろう。
イールは苦悶の表情をし、“蛇”が首元に飛びかかる直前、“蛇”の口元に剣を立て、その進行を抑える。
すると、蛇の毒が侵食していくように、“尻尾”を構成する文字が剣に伝染していく。
「この魔術はなんだ……!」
「俺にだって分かるかよ!」
「お前の身体もただでは済まぬようだぞ……?」
イールの視線の先、俺の右腕を見ると彼女の剣のように、俺の腕も文字に侵食されているのだ。
「……知ったことかよ、お前を倒せるならな!」
“尻尾”に魔力が集中していくのを感じる。何としてもこの競り合いに勝つのだ。
そう思ったのとほぼ同時、イールは身を屈めた。
“尻尾”は抑えていたものが無くなり、勢いそのまま、後方へと伸び続ける。
剣を突き立て、イールが俺めがけて飛び出す。
“尻尾”を戻そうにも、彼女の速さには追いつけ無い……。他の魔術を詠唱する余裕なんてもちろん無い。
「―――これで終わりだ」
イールが叫び、俺は身構える。
「―――“突起魔術”」
少年の声を認知した刹那、屋上の地面が突然突き出し、イールに強烈なアッパーを喰らわせる。
彼女の体が仰け反ったのを好機と見た俺は“尻尾”を横に払い、イールを屋上から突き落とした。
一瞬の沈黙の後、俺は“魔力切れ”により、その場に膝をついた。
“尻尾”は消え、息は荒くなり、全身から発汗する。
ビオラが近づいて来たと思えば、腕に侵食した文字が急に痛み出した。
「だっ、大丈夫ですか?!」
ビオラの問いかけに返事をする余裕もない。叫びたくなる程の激痛を歯を噛み締め耐えているのだ。
「大丈夫ですか?!」
ビオラと同じセリフで駆け寄ってくるもう一つの影。
先程、“シェイパーの突起魔術”を唱えた、俺の天敵、ミノリである。
額に包帯を巻き、応急処置は済ませてあるようだ。
「テメェ、何しにきやがった!」
睨みつけると、近づいてくるミノリが静止した。
「…………元々は僕とプロメ様を狙ってきた刺客です。少しでも手助けするのが当然かと……」
「うるせえ! お前ら負けて逃げてきただろうが。なんで邪魔しやがった!」
「彼はマスターを助けてくれたのですよ?」
「分かってるよだからムカついてんだ!」
“魔力切れ”で情緒まで不安定になっているのか、涙さえ流れそうである。
何にムカついているのか、明確に分からない。しかし、体中をムカムカした感情がムカデのように這い回っているのだ。
ミノリは困った様子で踵を返し、屋上から校庭を見下ろす。
「しかし……、奴を倒せたのは事実です。あなたが居なければなし得なかった勝利なのは確かです」
半壊した旧校舎。校庭もボロボロだ。
ふと、真下を見下ろす。
どこにも、イールの身体がない。
そして、校舎に巨大な傷跡が出てきていることに気づく。まるで、落下を防ぐために、剣を校舎に突き立てたような、細い巨大な傷跡。
「―――さっきのは一瞬イキかけた」
耳の間近で鼓膜を震わせたのはイールの声。
振り返るより早く、ミノリの身体に剣が振り下ろされた。
「正直、油断していた」
剣についた返り血を振り払い、イールは俺達を見下ろす。
「最初からこうするべきだった。―――“チェンジ”、“左腕”―――“氷絶剣”。」
イールが呟いた瞬間、彼女の左腕が空間に消え、代わりに剣が装着される。
両腕が剣と化したイール。
彼女は左腕に装着された剣を天高く上げた。
「“氷絶剣 フロストボーン”。“転生者”のお前らも聞いたことはあるだろう。この剱で学園もろとも消してくれる 」
というわけで、中々しぶといイールです。
しかも、両腕とも剣にして本気ホードですよ。
そろそろ、4章もクライマックスです。
次回は水曜になります。




