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今の音、聞こえたか?


 護衛場所である花壇に座ってウトウトしていると、誰かが俺の肩に手を載せた。

 

 「マスター、起きてください」

 「おっ……、すまん……」

 

 授業も全て投げ出して昼寝をしても、眠いものは眠いのだ。

 ブラッシングの後、どうにか壁伝いで地上まで降りることが出来た。来年あたりハンター試験でも受けに行こうかしらん。

 

 「夜中ともなれば、流石に寒いな……」

 

 制服だけでは少し寒くなってきた。

 時刻は、そろそろ日付が変わる頃だろうか……。

 

 悲鳴が上がった。

 図太い男のモノだ。

 突然の事で驚いたが、理解は速い。

 

 「…………とうとう、おいでなすったか」

 「……そのようですね」

 

 花壇から腰を上げ、……………………ここからどうしようか……?

 立ち上がったはいいが、ここからどうすればいいのだ。

 たった今も叫び声や爆音の鳴り響く方へ、応戦しに行った方が良いのだろうか。しかし、持ち場を離れるのはいいがなモノだろう……。俺が離れてしまったばっかりに何かしらの被害が出てしまったら申し訳ない……。

 

 『とりあえず行っとけよ。そしたら仕事してるっぽく見えるって』

 

 脳内の悪魔が言う。

 

 『いいえ。どうせ行っても仕事なんてないし、かえって気まづい思いをするだけ。ここには咎める人がいない分、気が楽じゃない』

 

 どうやら、俺の脳内には悪魔しかいないらしい。

 そうこうしているうちに、絶えずあがっていた悲鳴も、爆音混じりの交戦音も消えてしまった。

 どうやら、決着が付いたらしい。

 プロの殺し屋といえど、何十人もいる護衛には叶わなかったようだ、―――あるいは…………。

 

 前方で、着地音がしたのはその時だ。

 顔を上げると、そこに佇むのは茶色のローブを纏い、フードを被った小柄な人間……。

 まさか、俺と同じ護衛であるはずが無い……。俺は身を強張らせて、相手を睨んだ。

 

 「なんだ、まだ残ってたんだ」

 

 想定したよりも高い、鮮やかな声に拍子抜けしそうになった。

 

 「一応聞いとくけど、お前が“アイスストーカー”だよな?」

 「そうだよ。―――そういう君は“転生者のニオイ”がするね」

 

 転生者にニオイがあるとは初耳である。

 グリフォンのおっちゃんから貰ったレーザー銃をポケットから取り出す。

 俺の後方にいるビオラに目配せをする。作戦は至って単純、相手より速く詠唱して“ラヴトスの溶岩魔術”で先制攻撃。アーサーの時と同じだ。

 

 「gratia Ra――――――」


 冷たく重い衝撃。

 壁に打ち付けられる身体。

 胃液が逆流した瞬間、初めて攻撃された事を自認できた。 

 

 「マスター!!」

 

 ビオラの声が頭に響く。

 ローブから飛び出たアイスストーカーの右手にはダガーナイフが握られていた。

 あの距離から剣撃……?

 違う魔術だ……。

 でもどうやって?

 俺より速く詠唱出来るはずがない……。

 

 「何されたか分かんない、みたいな顔してるけど、もしかして“術具”もしらないの?」


 初耳である。 

 俺にとって都合のいい言葉でかい事は予想できた。

 

 「うわ………、本当に知らないんだ。物質に予め詠唱文を刻んでおいたモノだよ。刻んだ分、詠唱を省略できるの」

 

 ……………………は?

 

 「つ、つまり、お前はほぼ無詠唱で魔術が使えるってのか…………?」

 「“お前は”っていうか皆やってる当然の事だよ。一々何分も詠唱するなんて馬鹿みたいじゃん。君の持ってる銃だって“術具”だよ」

 

 おっちゃんに貰った拳銃を見る。

 そう思えば、ウルカも無詠唱で“グアリーの黄金魔術”を使っていたではないか……。

 つまり、唯一の武器だと思っていた詠唱のスピードは単なる勘違いということか……。

  

 「おい、今の音、聞こえたか?」

 

 唐突に俺が意味不明な事を言ったものだから、アイスストーカーは首を傾げる。

 

 「今の音はな…………、俺の唯一の“強み”が崩壊した音なんだよ……! チート能力も無しにこんな世界に連れてこられて、やっと見つけた│早口《武器》をお前は踏みにじった。この恨みはらさでおくべきか……!!」

 「うーん……、“術具”について教えてあげただけなんだけどなあ……」

 

 壁にめり込んだ体を無理やり起こす。

 ふらつきながら足を前に出す。

 無謀だと分かっている。

 勝てっこないことも察している。

 脳は冷静な分析をしている。しかし、足と意思は“アイスストーカー”へと向かっているのだ。

 

 「マスター……」

 「ビオラ、一番短い詠唱で済む魔術を―――」

 

 「―――そうはさせない」

  

 最初の反応は聴覚。

 前方にいたはずの“アイスストーカー”の声が後ろから聞こえたのだ。

 咄嗟に振り返る。

 振り下ろされたダガーナイフの刃を紙一重で左腕に受けた。

 しかし、切断の痛みが来ることはなく、切口を中心に音をたてながら皮膚が凍っていくのだ。

 

 「私さ、昔から“液体恐怖症”なんだよね。血飛沫とかも嫌だからこうやって凍らせるの」

 

 返事をする間もなく、再び“アイスストーカー”が視覚から消えた。

 その一瞬後に生じる、足首への斬撃と凍っていく感触。

 反応する暇も、悲鳴をあげることも出来ないまま、攻撃が繰り返されていく。

 はたして、今立っているのは自分の力でなのか、それとも“アイスストーカー”の攻撃によって立たされているのか。それすらも把握出来ない。詠唱を口に出す暇すら無いのだ。

 

 このままでは全身氷漬けにされた挙句、かき氷にされてしまうのが末だ。シャルロットさんに食べられるならまだしも、今しがた会ったばかりの“アイスストーカー”に食われるのだけは避けなければならない。

 無意識的に右指にあるレーザー銃のトリガーを引いた。 

 空気を焦がすように、地面に突き刺さる白色の稲妻。

 “アイスストーカー”の攻撃が止み、奴は再び俺の前方に着地した。

 俺は立っていることも出来なくなり、その場に膝をつく。凍りかけた右腕に持つレーザー銃を奴に向けた。

 

 「普通ならもう諦めると思うんだけど、君もなかなかしぶといね」

 「最初の一撃の時点でとうに諦めてるんだよ。でも、昔から負けず嫌いなんでな」

 

 どんな短い詠唱文でも、“アイスストーカー”の前では無力。ならば、頼れるのはこのレーザー銃だけだ。

 

 首筋にダガーナイフ突き付けれた。

 移動経過など見えるはずもない。

 瞬きをした、その一瞬のうちに距離を完全に詰められ、気づいた時には首元が凍りはじめていたのだ。

 フードの中に佇む青色の双眼。

 泣きそうで、荒くなる鼻息を紛らわすようにその瞳を睨んだ。

 殺される。

 生まれて初めて死を直感した。

 

 大きな鐘の音が鳴ったのはその時だ。

 日付の変更を表すものだろう。真夜中に鳴るとは迷惑なものである。

 

 「はい、お仕事の時間お終い」

 

 今までが嘘だったかのように、“アイスストーカー”はダガーをローブの中にしまうと、立ち上がった。

  

 「おい! “お仕事”ってなんだよ。もうペンダント盗んでたのか?!」

 「ペンダント? ああ、その辺のことよく分かんないから」

 

 よく分からないのはこっちの方だ。

 殺そうと思えば殺せたにも関わらず、鐘が鳴った瞬間に手を引いたし、本来の目的のはずの“グアリーのペンダント”にすら興味の矛先が向いてるように見えない。

 “アイスストーカー”は疲れでも取るように肩を回していると、急に思い出したように俺の方を見た。

 

 「それとさ、君もっと強くなりなよ」


 “アイスストーカー”は被っていたフードを脱いだ。

 青色の瞳と、栗色の髪についた獣のような大きな耳。

 

 「――――――じゃないと、次は本当に殺すから」

 

 そう言い残すと、“アイスストーカー”は暗闇に消えて行った。

 

 「マスター!!」

 

 すぐさま、ビオラが俺の横に膝をついた。

 どこからか包帯を取り出して、俺の傷口に巻き始める。この負傷だとミイラができあがりそうだ。

 ビオラの応急処置の中、通信機の着信音が鳴った。

 

 『おい! ヨツバ、生きてるか?! 応答しろヨツバ!』

 「殺されかけたけど生きてはいるよ」

 

 グリフォンの切羽した声が響く。

 

 『良かった……。“アイスストーカー”はどうした? どこへ向かった?!』

 「分からないけど、“お仕事の時間お終い”とか言って消えた」

 『消えた!? あの野郎もう盗んでたのか……?』

 「それも分からないけど……、俺を殺せたのに、生かしたままにしたんだよ」

 『妙だな……。あの野郎、正門から堂々と現れやがってよ。やろうと思えば、殺せただろうに、全員氷漬けにしただけで死者は出してないんだよ……。―――それよりもウルカ様だ。ヨツバ、お前動けるか? 警備隊全員凍らされちまって動けねえんだ……。おい、ヨツバ? 聞いてんのか?! おい!!』

 

 俺は既にウルカの部屋へと走り始めていた。

 “アイスストーカー”は何をしに来たんだ?

 ペンダントを盗むつもりなら、わざわざ正門から現れたりしない。ましてや、警備隊全員を相手にして殺さずに氷漬けにする必要もない。

 奴の目的は本当にペンダントだったのか?

 あたかも自分が目立つことを目的としているようじゃないか……?

 ウルカの部屋に辿り着いた俺は、思いっきり扉を蹴破った。

 どうやら元々開いていたようで、尻餅を付いてしまった。

 

 「なにカッコ悪い登場してんのよ……」

 

 そう言ってくれるウルカの声はない。

 部屋の中は誰もいなかった。がらんどうとなった部屋で、ベッドだけが乱れていた。

 

 「おい、 おっちゃん! サンチェスは何処にいる?!」

 『やっと応答したか…………、隊長? 隊長はさっきから通信が繋がんねえんだよ。おい、まさかウルカ様に何かあったのか?』

 「あの野郎…………」

 

 通信機を持つ手に力がこもる。

 

 「どういう事だヨツバ 。ちゃんと状況を説明しろ」

 「“アイスストーカー”は単なるオトリだ。裏切りやがったんだよ……サンチェスの野郎が! ペンダントをウルカごと持ってな」

 

 通信機から喘ぐような驚嘆の声が漏れる。

 しかし、サンチェスの裏切りが分かったところでどうしたらいい……。今動けるのは俺だけ。サンチェスが何処に逃げたかも分からない。

 まだレーザー銃を持っていた事が馬鹿らしくなり、乱暴にポケットに突っ込もうとする。しかし、もう何かが入っているようで銃を入れることが出来ない。

 

 「ああっ! なんだよもう……」

 

 そのポケットから取り出されたのは、クシャクシャになった紙きれ。

 それを見た時、俺は絶句してしまった。

 

 「悪いおっちゃん、一回切るぞっ」 

 『は? ちょっ――――――』


 有無を言わさず通信を終了させると、おれはその紙に書かれた詠唱文を急いで読み上げた。

 

 『こんな夜中に何の用? あっ、寂しくなっちゃった?』

 「いや、タクシーを利用したい」 

これが書きたかったんですよ!

ヨツバの唯一の長所だった“早口”が実は弱っちいっていう。

ヨツバが得したら、その後、もっと下に落とすというのを基本にしています。

それでも何とかしていく予定なので今後もよろしくお願いします

ここまでの感想など頂けると参考になります

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