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満月だなぁ


 依頼のために、授業も休み時間も関係なしに寝ていたものだから、流石に肩がこった。

 ずっと寝ているにもかかわらず、ちゃんと学校に行く真面目な自分に自惚れしてしまいそうである。

 

 

 

 「では、これより“アイスストーカー”の襲撃に備えた最終ミーティングを行う」


 夕暮れのグアリー邸。

 広々とした庭の中心で、サンチェスを囲むように起立した数十人の黒服の男達―――通称、警備部隊。俺とビオラはその中に加わって、サンチェスの話に耳を傾けていた。

 

 「“アイスストーカー”はお嬢様のペンダントを狙っている。わかっていると思うが、それを阻止するのが我々の役目だ。全員、自分の配置場所は把握しているな? では、支給された武器を装備し、各自所定の位置に向かってくれ」 

 「え? ちょっと待てよ。配置場所なんて聞いてないし、武器だって貰ってないぞ」


 サンチェスが、口を出すなとでも言いたげに、鋭い目つきで俺を睨む。

 しかし、このまま黙っていれば、配置場所が分からず、最後まで自分が何をするべきなのか分からないまま、焦燥感と共に夜を過ごすことになってしまう。 

 

 「貴様のような“部外者”には連絡が出来なかったのでな。しかし、安心しろ。実力がなくとも迷惑にならぬよう、本来“必要のない”場所を警備してもらうことにしている」

 

 なぜ真っ当な質問をしただけで、煽られなければならないのか。“部外者”と“必要ない”を強調しなくてもいいではないか。

 しかし、俺は大人である。

 どれだけ煽られても、なんだとっ!と殴りかかったりはしない。相手が油断した瞬間、背中に飛び蹴りをして全速力で逃げてやるのだ。これが正しい大人の対応である。

 

 「他に口を出すものはいないな? では、各自配置につけ」

 

 警備隊は各々の配置場所に向かって散らばって行く。

 はたして、俺はどこに向かえば良いのか。とりあえず動こうとした瞬間、誰かに肩を叩かれた。

 

 「よう、ヨツバ」

 「グリフォンのおっちゃん! なんだ、警備隊だったのか」

 

 昨晩、馬車の中で意気投合した異世界好きのおじさんである。

 

 「サンチェス隊長に目を付けられるとは災難だな。ほれ、俺の予備の装備をやる」

 

 おっちゃんは俺に拳銃のようなモノを手渡した。形はまさしく、拳銃そのものなのだが、思ったより重くも無いし、銃口も米粒程の大きさしかない。

 

 「なに物珍しそうに見てるんだよ、お前らの世界にも銃くらいあるだろ?」

 「そりゃあ有るけど……。これ、どうやってリロードとかするんだよ」

 

 拳銃は詳しくないが、玉を入れる場所もないのだ。

 

 「その銃はな、“カドガーの電雷魔術”が施されててな。引き金を引けば、電撃が発射されるようになっている」

 「つまりレーザー銃だな?!」

 「レーザー銃を詳しくは知らんが多分そうだ。でも使い捨てだから、五回撃てば使えなくなる。注意して撃てよ」

 

 使い捨てなのか……。使い勝手が良いのか分からんな。

 しかし、武器を手に入れたのだ。これは先程の雪辱をはらすいい機会なのではなかろうか……。

 俺が、屋敷内へ向かうサンチェスを睨んでいる事に気づいたのか、おっちゃんが慌てて声をかける。

 

 「おいおいおい、まさか隊長に喧嘩売ろうって気じゃ無いだろうな。あの人はやめとけ、あれでも、ヴァルーチェ魔術学園をトップレベルの成績で卒業してるんだからな」

  

 グリフォンのおっちゃんが顎で、サンチェスの銃剣を指した。

 

 「見てみろあの銃剣。俺達に支給されてるやつとは違うだろ?」

 「確かに銃身も長いな」

 「だろ? あれは、隊長がべらぼうに高い金を払って作らせた特注品なんだよ。“アルゲイザー”なんて名前もつけて子供みたいに可愛がってるんだぜ」

 「それはキモイな」

 「だろ? でも、“アルゲイザー”は持ち主の魔力から球を精製する。実質弾切れを起こすことは無いんだな。威力も俺らの比じゃない。だからチョッカイ出すのはやめときな」

 

 腑に落ちないが、あくまでも今日は護衛のために来ているのだ。煽られた恨みは別の機会にはらすことにしよう。

 

 「そうそう、俺はどこに行けばいいんだ? 結局場所聞けてないんだよ」

 「んー、ちょっと待てよ……」

 

 おっちゃんはポケットにしまっていた、グアリー邸の見取り図を開くと俺の配置場所を確認してくれた。

 

 「見たところ、裏庭の辺りだな。お嬢様の部屋の真下だ」

 「そこって割と警備必要そうじゃん……」

 

 サンチェスは“必要ない”とか言っていたが、“アイスストーカー”が真正面から来るとも思えないため、案外必要な場所かもしれない。

 まさか、サンチェスのツンデレとかだろうか。“必要ない”と言っておきながら重要な場所を用意しておく。なんだ、結構イイヤツではないか。 

 

 「あと、これも渡しておく」


 おっちゃんは黒い卵型の物質を手渡してきた。 

 

 「なんだこれ」

 「通信機だ。非常時に使うから身につけとけ」

 

 なかなかにハイテクである。

 通信魔術があるくらいだから、この位当然ではあるのだが……。

  

 「じゃあ、俺もそろそろ行くからな。隊長はお嬢様の部屋の前にいるから、サボっててもバレないけど頑張れよ」

 

 自身の配置場所へと駆けていくおっちゃんを見送ってから、俺とビオラは裏庭へと向かった。

 

 

 

 「本当に満月だなぁ……」

 

 空に浮かぶ丸い月。元の世界より少し大きく思える。

 シャルロットさんは何をしているのだろうか。そう考えていると、月も彼女の瞳に見えてきた。

 

 「涎垂れてますよ」

 「おっ? 悪い悪い」

 

 口から垂れかかっていた涎を拭うと、見計らったように腹の虫が鳴いた。

 

 「腹減ったな……」


 食欲に睡眠欲が勝り続けた結果、今になって腹の虫が食物の献上を求め始めた。

 しかし案ずることなかれ。こうなる事は既に予想済みである。

 俺は、懐からサンドイッチを取り出す。レイビアが依頼のために作ってくれたのだ。

 誰に言うわけでもないが、羨ましいだろう? あんなに可愛らしい子に夜食を作ってもらえるのだ。少なくとも、昔の俺に自慢していたら、取っ組み合いの喧嘩になっていただろう。 

 

 「HAHAHA、羨ましかろう。羨ましかろう」

 

 花壇の煉瓦に腰を下ろして、高笑いしながらサンドイッチを一口分、口に入れた。

 そのサンドイッチを物珍しそうにジッと見つめるビオラの目線。

 嵩張るため、一つ分しか持ってこれなかったのだ。

 俺はサンドイッチを二つに千切ると、横に座るビオラに差し出した。

 

 「い、いえ……、そういう訳では……」

 「いいから食べろよ。あんな目で見られたら食欲も失せるだろ」

 

 俺は、ビオラに半場無理やり押し付けると、再び食事を始めた。

 サンドイッチを両手で持ったビオラは、俺の真似をするように、小さな口で食べ始める。

 

 「アナタ達、何食べてるのよ」

 

 当然、空から声が聞こえた。

 おおっ……、 遂に月までも俺に同情して、声をかけてきたようだ。

 苦しいですサンタマリア……。と、あの象を思い出しながら空を仰ぐと、声の主は2階の窓で肩肘をついて俺達を見下ろしていたのだ。

 

 「チッ……、なんだお前かよ」

 「雇い主に向かって“お前”呼びとはいい度胸ね。っていうか、舌打ちしたでしょ」


 ウルカは薄いピンク色の寝巻き姿で、カチューシャのように纏められた髪は解かれていた。きっと、寝床に入る前に俺を小馬鹿にしておこうという魂胆に違いない。 

 

 「何の用だよ。こちとら動物園の見世物じゃないんだぞ。餌投げられれば食べるけどな」

 「そんな事しないわよ! …………ただ、ちょっと……、私の部屋来ないかな、って……」

 

 …………は?

 女子に部屋へ招かれた時、どうすればいいのか。

 この問に対し、俺の脳内スーパーコンピューターは今までの経験から次のような結果を出した。

 仮に、俺が淫欲にかられて彼女の部屋にヨダレだらだらで突入したとしよう。すると、彼女は「何勘違いしてんだ馬鹿!」と俺の淡い期待を裏切り、勢い余った俺は恥ずかしさのあまり、窓から飛び降りる。

 そして、その話は七十五日を超えて永遠に語り継がれ、いつしか神話となり、俺は星座となって下界を見守り続けるのだ。

 ふむ……、経緯はともかく最終的な結果としては悪くない。

 “遠くをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す ”とも言う。が、しかしだ……。一時だとしても恥をかきたくないのが大葉 ヨツバという男である。

 つまり、答えは“沈黙”……。

 返事をせず、疑いの眼差しを向けて入ればいいのだ。

 すると、ウルカが頬を赤らめながら俺を怒鳴った。

 

 「なんで返事しないのよっ! もういいから、私の部屋に来なさい!」

 「やだよ。絶対恥かくもん。騙そうとしてるもん」

 「なんで、そんな冷めた目で見るのよ?! 別に悪いようにはしないって」

 「行ってあげたほうがよろしいのでは……」

 

 ビオラにも言われて改めて考え直すと、ここで行かなければ男が廃るような気もしてくる。女心よりも変わりやすい俺の決断は既に揺らぎ始めていた。

 

 「まあ、仮に行くとして……、お前の部屋の前にはサンチェスがいるんだろ? アイツの前に見つかると面倒くさそうなんだよ」

 「その点に関しては大丈夫よ」

 

 ウルカが右手で指を鳴らす。

 すると、俺達が座っていた花壇が重々しくゆっくりと動き出し、2階の窓へと続く階段になったのだ。

 

 「非常時用の脱出ルートの一つよ」

 「それを今使っていいのかよ……」

 

 ここまでされてやめるわけにもいかず、俺は渋々階段を上った。

いつも通り続きは10時頃に……

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