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全てを捨ててでも!


 ―――旧校舎の裏。そこでは、一人の少年と、少年“だった”何かが対峙していた。

 アーサーは剣の柄を握りしめ、口内に溜まった唾液を飲み込む。


 「やっと、お前と再戦できるわけだ……」


 黒く染まったヨツバが、手の甲で、長く伸びた口元を拭う。

 人間の形を留めず、夜道で会ったら竦んでしまいそうな外見をしているヨツバ。しかし、アーサーは全く怯えること無く、むしろ、その口元からは歯が見えていた。

 アーサーは体中が熱くなるのを感じ、目はアドレナリンで大きく見開かれている。


 「こうして対峙したのも、初対面以来だ。懐かしいな。あの時の俺は―――」


 アーサーが少し俯き、感傷に浸るように目を閉じたその瞬間だ。

 ヨツバが目にも止まらぬ速さでアーサーに攻め込んだ。“獅子”の拳を振り上げ、アーサーに殴り掛かる。

 しかし、それを分かっていたようにアーサーは剣をかざし、ヨツバの一撃を涼しい顔で受け止めた。


 「“不意打ち”とは……。―――“あの頃”と変わっていないようだな!」


 腕に血管が浮あがる程の力を込め、ヨツバを弾き返すと、その勢いのまま振り下ろされる刃。濁った叫び声と共に、切り捨てられた“黒文字”がまるで血のように地面へ飛び散った。

 アーサーは、その飛び散った隙間から微かにヨツバの姿を捉える。が、すぐに“黒文字”が増殖し、再びヨツバを覆った。


 「なるほど……、“闇”に埋もれているわけか。ならば、全て切り剥がしてくれる!」     


 怯んでいるヨツバに、アーサーは勢いよく斬りかかった。

 ヨツバの首筋を捉えた一閃。しかし、当たる直前“獅子”の拳が刃を受け止めた。


 「なっ―――」


 剣を止められ、防御手段の無いアーサーに、ヨツバの拳がめり込む。

 吐血。もろに攻撃を喰らい衝撃で後方へ吹き飛ぶ。身体を何度も地面に打ち付け、何とか止まった。


 「がっ……ぐ」


 震える両腕で立ち上がろうとするアーサー。

 目を開くと、目の前でヨツバが追い打ちをかけるように、拳を振り上げていた。

 舌打ちをし、反射的にアーサーは横へ回避する。その直後、アーサーがいた場所に拳が振り抜かれ、地面に大穴が空いた。


 「……どういう馬鹿力だ?!」


 不満を叫び、反撃しようと柄を両手で持ち直す。

 が、その時自身の足に“蛇”が噛み付いているとアーサーは気づいた。その“蛇”の顔が嗤笑いるように見えた瞬間、アーサーの身体は、ハンマー投げの、ハンマーのように投げ飛ばされ、旧校舎の3階の壁にめり込んだ。


 「うぉぉ! ウィリー氏、壁に誰かがハマっておるぞ?!」

 「なにか、何かこの摩訶不思議な状況を保存しておく手はないのか?!」


 アーサーの耳に、室内から聞き覚えのある青年二人の声が届いた。


 「うるさいぞ貴様ら!! さっさと逃げんか!」


 アーサーの喝に怯んだのか、それ以降二人の声は聞こえなかった。アーサーの剣が地面に落ち、カランカランと音を立てる。その数秒後に、アーサー自身も地面へ落下した。


 「くっ……そぉ!!」


 またスグに追い打ちにかけてくるのでは、と思ったが、そんな事は無く、ヨツバは返り血の着いた腕を、長く黒い舌で舐っていた。


 「挑発的な態度は変わらないようだな……」


 愛用の剣を拾い上げ、アーサーは震えながら立ち上がる。頭部から暖かい液体が垂れてきたが、拭いもせずにヨツバを睨みつけた。

 ふと、視界の端に入る腰に携えた“崩剣”。

 神々しい魔力と共に、アーサーを惑わす“魅力”を放っていた。


 「やめろ……“お前”まで俺の敵になるな……」


 ―――この“禁忌”を握れば……、奴を……。

 そんな幻惑が脳裏にちらつく。


 ―――苦しんでるであろう、……彼を救える。

 そんな戯言がアーサーの手を、“崩剣”の柄に伸ばさせた。


 「…………くっ」


 気づけば、アーサーは“崩剣”の術具を手に取り、見つめている。

 剣の形をした赤黒い大理石。

 後は、“その名”さえ叫べば、ヨツバに匹敵する……、いやそれ以上の、誰も敵わない程の力が手に入るのだ。

 アーサーの葛藤を楽しむように、ヨツバは口をにやけさせて、彼を眺めていた。


 「俺は……」


 アーサーは目を閉じる。

 今までの事を思い出せば、決意は簡単に着いた。

 一本の剣を自身の背後に突き刺す。そして、もう一本を居合切りのようにして構えた。


 「やはり、使い慣れているモノに限るな」


 アーサーは心を落ち着け、“残刀”の構えに入る。力任せの打ち合いでは、分が悪いと判断したのだろう。―――次の一撃、すなわち“残刀”で決着をつける気だ。


 「来い、オオバ。俺は全力でお前を撃つ」


 ヨツバも、何か感じ取ったのだろう。

 両腕を地面につけ、本物の獣のような体位になると、奇声を上げながら、尻尾の“蛇”を延ばし、水が沸騰するように体中から“黒文字”を湧き上げた。


 「――――――!!!」


 口から真っ黒な煙を溢れさせ、ヨツバはアーサーへ突っ込む。

 目を閉じていたアーサーだったが、その光景を鮮明に把握していた。

 ヨツバの息遣いから、歩調。目を開かずとも正確に“見えていた”。

 ヨツバが飛び上がり、“獅子”の砲撃が充填されて行く。

 アーサーの中で、その時が来たのだろう。

 彼は振り抜いた。

 音すらも超越する、無音、無心の抜刀。



 

 ―――しかし響いた、何かが折れるような音……。  




 アーサーは目を開く。

 視界にあったのは、迫り来るヨツバの拳と、打ち負け、折れてしまった“剣”。

 次の瞬間、顔面にめり込み、爆発する“獅子”の砲撃。

 アーサーは背中から倒れた。

 砕かれた剣の欠片が落ちる。


 「かぁは……」


 折れてしまった。

 砕けてしまった。     

 決意とプライドの象徴とも言えた、“剣”が。

 負けたのだ。くだらない決意を守るために敗北するのだ。

 救えなかったのだ。自分のプライドのために、一人の友を。

 ふと、霞む視界に神々と輝く“剣”が入った。まだ一度も使われたことの無いそれは、身も心もズタズタになったアーサーを誘惑するのに充分すぎた。

 アーサーは手を伸ばす。

 今の彼が“崩剣”を握れば、敵う者などいないだろう。


 「オオバを救えるなら……、いや勝てるなら!!」


 “崩剣”の柄に、指がかかる。

 

 「俺は握ろう。―――全てを捨ててでも!」   

 「折れてなんかないよ!」


 アーサーが剣に手をかけようとした瞬間、“少女”の懇願するような声が響いた。

 咄嗟にアーサーが首を振ると、そこには肩で息をしているレイビア。


 「……何故、お前がここに……?」

 「“教会”の人が言ってた、“理想の未来への鍵”―――ヨツバくんを救えるのは僕とアーサーくんなんだよ!」


 レイビアは、折れた剣を二つとも拾い上げ、アーサーの元へと持ってくる。


 「しかし、その剣はもう……」

 「まだ折れて無い。僕なら……、“繋ぎ合わせられる”っ……!」


 レイビアの持つ小瓶から、液体の生物―――“レイくん”が飛び出す。

 レイくんは、離ればなれになった剣と柄を包み込む。そして完成する、自身の身体を結合させ型どられた、一本の剣。


 「ネウト族に伝わる魔術―――“│瀧漸鱗ロウゼンゴケ”。これなら、きっと……」


 レイビアはアーサーの身体を起こすと、完成した剣を手渡す。

 アーサーが剣を握った瞬間、彼を中心に水が蜷局を巻いた。


 「剣に染み込んだアーサーくんの汗や血―――努力の結晶が“瀧漸鱗”と共鳴してるんだ……。君なら、思うように扱えるはずだよ」


 剣を覆った“レイくん”が、アーサーに向かって軽くウィンクをする。

 アーサーはほくそ笑み、立ち上がった。少し前まで弱音を吐いていた事を強く恥じながら。

 そして、既に興味を失い、背中を向けているヨツバに再び剣を向ける。


 「取り戻そう、ヨツバくんを。……“僕達”で……。ううん、“私”と君で……!」

この章の構想を練っていた時、ヨツバとアーサーが戦う予定は無かったんです。

しかし、この物語自体、ヨツバがアーサーと戦う所から始まりますから、この二人のちゃんとしたリベンジ戦は書かなければならないと思いました。

というわけで、出来たのが今回です。今ある全力で書きましたが、イマイチ表現しきれてるか不安です。皆様の想像力が豊かであることを願います。


次回は日曜日です。

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