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貴方の神を云いなさい


 旧校舎の屋上では頬を撫でるような風が吹き、そこに1人立つ俺は地上を見下ろしていた。

 校庭で行き来する人達を上から見ていると、まるで神様にでもなって全てを見渡しているようで、中二心も満たされていく。


 「なんだ、君も高い所は好きか?」


 物思いにふけていると、ちょうどタチバナが屋上に登ってきたところだった。

 鳥の巣のようにボサボサの髪。ほっそりとした体つきだが、その目は冷静で力強い。羽織っている薄手のコートは返り血で小さなシミができていた。

 以前街で会った時と変わらない外見だったが、彼の瞳には明確な敵意が宿っていた。


 「……嫌いでは無いな」

 「馬鹿は高い所が好きっていうけど、あながち間違いじゃないらしい。俺も好きだし」


 今から闘うというのに、まるで道端でたまたま会った知り合いのような会話である。

 タチバナは話を切り出すように、風になびくコートを翻した。


 「まず確認するが、スカリィは無事なんだよな?」

 「心配は無用だ。縛ってあるだけで手は出してない」


 多分、ミヤビが見張っているはずである。……エルから逃げた後、直接屋上まで来たため、確認はしてないが……。


 「その通りなら、問題は無さそうだ。―――俺が勝ったら解放する、そういう条件でいいんだろ?」

 「ああ。俺が負ければ素直に居場所も話すさ。―――負けたらの話だがな」


 その瞬間、全身に魔力を回し“蛇”と“獅子”を顕現させる。

 俺の心理状態に反映されているのだろうか、“蛇”がいつもよりイキイキしているように感じた。

 タチバナは戦闘態勢の俺を見て、煽るように口笛を吹く。


 「それが噂の“模倣魔術”か。なるほど、確かに名前に反して全く似てないね。―――でも、その“黒い文字”だけは同じか」


 俺の全身にも刻まれ、“蛇”や“獅子”を形作っている“文字”の事を言っているのだろう。


 「にしても、その“文字量”。相当使い込んだみたいだ」

 「しっかり見とけよ。これから“コイツ”で地面に伸びることになるんだからな」


 タチバナは心底バカにするように目を伏せ、鼻で笑った。


 「吐かすなよ。いくらアンピの魔術とは言え、紛い物は紛い物だ。本物に勝てると思うな」

 「『青は藍より出でて藍より青し』とも言うぜ?」

 「減らず口を……。まぁいいさ、試してみれば全て分かる」


 タチバナはコートの裾を捲り、右手の平を俺に向ける。

 俺の“元ネタ”である事は知っているが、奴の魔術の全貌までは分かっていない。手を向けるだけで闘えるということだろうか……。

 俺も姿勢を低くし、すぐにでも距離を詰められるようにする。……既に吐気が血流に乗って全身を駆け巡っていたが、気にする余裕は無い。


 ちょうど三回鳴り響く、15時のチャイム。

 それを合図に、“原物(オリジナル)”と“模造品(コピー)”の力闘が始まった。



―――――――――――――――――――――



 “学園祭”と言っても、あらゆる場所に人がいるわけでは無い。特に、本校舎三階は出し物も無い為、生徒もお客も一切立ち寄らないのだ。

 そんな三階のとある教室で、アンピとリッティは身を潜めていた。

 床に座ったリッティが、運動不足のために垂れてきた汗を手で拭う。


 「案外……、バレずに入れるものね」

 「こう見えても、“幻覚魔術”の第一人者なのよ? “電気”を使えば簡単なことよ」


 机に腰を据えるアンピが手を広げると、その間に細い糸のような電流が数本流れる。

 どうやら、少しずつ魔力も回復しているらしい。リッティは安心して、胸を撫で下ろした。

 

 「問題はここからね……。この広い学園で目標の子を見つけるなんて……」


 考えただけでも嫌になる。

 虱潰しに探していくしかないのだろうか。リッティは、その苦労を想像し、ため息をつく。

 しかし、アンピはそんな彼女を見て鼻で笑った。


 「私の目を忘れたの?」


 自慢でもするように、アンピは自身の双眼を指した。

  

 「この“妖緑眼”で魔力の色を見れば、一瞬で見つけだせる」

 「でも、この人数よ?」

 「“純黒”の魔力なんて、一人しかいないわよ」


 アンピはそう言うと瞳に意識を集中させ、回転しながら、学園全体を“眺めて”行く。

 どういう仕組みなのか、魔力の無い、無機物は透けるらしく、こうして自転するだけで学園全てをカバーできてしまうらしいのだ。

 しばらく経って、下に目をやった時、アンピの動きが止まり、ボソリと呟く。


 「―――見つけた」

 「何処にいるの?」

 「ちょうど真下よ。2階で何処かに走ってる」


 アンピは深く目を閉じ、疲れを取るようにこめかみを指で摘む。

 ……走ってる。リッティはその単語が妙に引っかかった。

 単純に急いでるだけかもしれないが、もしかしたら自分が狙われていることに気づいた可能性もある。アンピがいるため、見失うことは無いにしても、誰かに匿われるのは面倒だ。……となれば、早急に捕まえるしかない。


 「急ぐわよ、アンピ!」

 「……言われなくても」


 二人は廊下へ飛び出した。

 ちょうどその時である。二人の前に、少女が“空間”から出現したのは。


 「やあ、こうして顔を合わせるのは久しぶりじゃない?」


 片膝をついて着地した少女は、二人に笑いかける。―――元“疎楽園”のメンバー、イロツキ ミヤビである。


 「……何しに来たのよ」

 「昔の因縁に決着を着けようかなって」


 リッティの問に答え、ミヤビはシャーペンを手で弄びながら立ち上がる。

 ―――最悪のタイミングだ。よりにもよって一番会いたくなかった相手である。

 仮に無視して逃げたとしても、ミヤビなら永遠に追ってくることができるし、何より彼女に背中を向けるのは、リッティのプライドが許さなかった。


 「どう? 二人に掛りでもいいから相手になってよ」


 リッティはちらりとアンピを見ると、彼女の背中に回した手に、“電気”が溜まっていくのを認識した。

 “幻覚魔術”に使うために充電しているのだろう。彼女も逃げるのは無駄だと判断したのだ。リッティも、腰に付けた術具にゆっくりと手を回した。

 元仲間ということもあり、お互いに“魔術”、性格は把握している。その分下手に動くとすぐに足元を救われるだろう。


 「闘うつもりはありそうだね」


 ミヤビがペンを持ち直し、まるでナイフでも持つように構える。首に瞬間移動(テレポート)されればその時点で終わってしまう。

 今すぐ先手を仕掛けたかったが、リッティの述具では決定打に欠ける。それならばアンピの“幻覚魔術”で―――

 リッティがそう思っていたその時、二人の間から飛び出した“光線”。

 その“光線”はミヤビの腹部に沈み、彼女を後方の壁にまでめり込ませた。

 白く塗装された壁が砕ける。

 意識を失い、地面に崩れ落ちるミヤビ。何が起きたか疑問に思う前に、二人は振り返った。


 「―――タチバナを探してるつもりでしたが、思いがけない方々に会えましたね……」


 廊下に響く、杖の音。唾の広い帽子から覗く紅い瞳に刻まれた、三日月の紋章。

 ―――どうしてこうも、面倒な奴に見つかる!

 リッティは叫びたい気持ちを抑える。仮に叫んでいたとしても、恐怖から声は掠れていただろう。―――最強の“熾従者(セラフ)”と名高い、ブリールを前にすれば……。


 「まさか、二人も“疎楽園”を侵入させていたとは思いませんでしたよ。―――アズラは本当に仕事をしているか不安になります」


 敵前にも関わらず頭を抱えてため息を吐くブリール。その間にリッティとアンピは彼女の方へ向きを変える。

 顔を上げたブリールは顎に手を当て、二人の少女に目を向けた。

 ……紅い双眼が二人のを捉える。


 「なるほど、“帽子の貴方”は面白い魔術を使うようですね」

 「それはそれは、事前に調べてもらってるなんて光栄ね……」

 「いえ、調べてなどいません。―――貴方の瞳と同じで、私も“視える”のです。その方がどんな“魔術”を使えるのか」


 ブリールは杖の先端をアンピへ向ける。


 「貴方は“幻覚魔術” 。横の貴方は特に使えないようですね。そして、後ろで伸びてる彼女は“移動魔術”。視ればあらゆることが分かります。主な魔術から発動条件まで全て……」


 ブリールはいとも容易く魔術を言い当てていく。彼女は当然ののようにしているが、現代魔術でもまだ不可能なことが行われているのだ。


 「しかし、私だけ魔術が分かっているのは不公平。そして私も“教会”の人間です。公平になるよう私の魔術も教えて差し上げます」


 ブリールが杖で地面を二回叩くと、彼女の周りに蛍のような淡い光源が無数に顕現する。


 「―――“オーゼの電光魔術”。私が授かったオーゼ様の聖遺骸のひとつです」        


 少し自慢げにブリールは語り、杖の先を再度二人へ構えた。


 「さぁ、貴方の神を云いなさい」


 優しく諭すように、そして死刑宣告でもするように冷酷に……。

 矛盾した要素を内包しながらも告げられた少女の言葉に、リッティは苦笑するしか無かった。  

すいません、寝落ちしてました。

アイスストーカーことスカリィの話まで書きたかったんですけど、文字数的に次回になります。


次回は日曜日です

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