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負けても泣くなよ


 「“通信魔術”の術具ね……」


 手に持ったステッカーを電灯に透かし、俺は口の端を上げた。


 「何企んでるの?」


 ミヤビも不気味な笑みを浮かべている。

 ステッカーを渡してきたのは彼女なのだ、俺の考え位予想もつくだろうに、敢えて言わせようとするのがミヤビらしい。

 女の子を椅子に縛り付け、不敵に笑う二人。……傍から見れば完全に俺達が悪役だ。   


 「もしも……、本当にもしも俺が“疎楽園”のボスを倒したら、“教会”の連中どうすると思う?」

 「『私達でも出来た。よくも邪魔してくれたな!』って怒るんじゃない?」

 「…………容易に想像できるな、その情景。いや、きっと『流石ヨツバさんです!見直しました』って褒め称えるはずだ。……そうだと仮定しよう」


 そう自分で言っておきながら、ミヤビの言う展開になる気がしてならない。既に喧嘩を売ってる分怒られるだけじゃ済まないだろう。


 「そして、そうやって今更歩み寄ってこようとする“教会”を突き放し、戦い、なんやかんやあり勝つ! これが一番理想的な動きだと思うんだ」

 「うーん、突き放す辺りから全くもって具体性が無いね。……邪魔したいってだけで闘ってる時点で言えたことじゃないけど」

 「という訳だ。俺が今から何しようとしてるか、分かるだろ?」


 手に持ったステッカーを腕の甲に貼り付ける。


 「“疎楽園”のボスに喧嘩をふっかけよう」



―――――――――――――――――――――



 “疎楽園”の仲間と連絡を取るため、とある場所で息を潜めていたリッティ。―――と言っても、先程同様、誰とも連絡は着いていない。

 そんな中、彼女の脳裏に聞き覚えのない声が走った。


 『あーっと……。これで聞こえてるのか? どうなんだろ……ミヤビ、この貼り方で間違ってないよな?』


 声質からして男性だが、通信はアイスストーカーこと、スカリィのものから届いている。

 彼女のことだから単なる悪戯も考えられた。が、あまりにも突拍子が無さすぎる。


 「誰?」

 『うわっ?! マジで聞こえんのか……。えーっと、あっ、初めまして……オオバという者ですが―――』


 初対面の女性を前に、手汗をドロドロにかいた男性のような口調である。

 そう思っていると通信が一度切れ、すぐに別の声が聞こえてきた。


 『久しぶりでいいよね? リッティ』


 リッティはその声に聞き覚えがあった。  

 “疎楽園”の元メンバーであり、タチバナに比肩を取らない自由奔放さを持った少女。声さえ聞けば鮮明に思い出せる。


 「……イロツキ。なんで貴方が?」

 『あれ? 学園にいるって情報流れてるんじゃないの?』

 「そういう事じゃないわよ! なんで貴方がスカリィの―――」


 その瞬間、リッティの頭に嫌な予感が過ぎった。もし最初の少年だけなら、それは単なる憶測だっただろう。しかし、ミヤビが居るとなれば話は変わってくる。


 「……スカリィを……倒したの?」 

 『流石元お嬢様、見事な推理でございます。でも、正確に言うと倒したんじゃない。“うちのボス”が捕まえたんだ。今は気絶してる』


 ―――どうりで返事が無いわけだ。

 リッティは納得する。が、それと同時に別の疑問が浮上してきた。


 「なんで貴方達がそんなことしてるのよ!?」

 『なんで? って聞かれると困るんだよね。一言で言うと“嫌がらせ”じゃないかな。もしくは自己顕示欲みたいなもの?』

 「そんなくだらない理由のために……?」

 『そう言わないでよ。―――現に、スカリィはこっちの手元にいるんだからさ。他にも連絡つかないメンバーいるんじゃない? それ“教会”と戦ってるわけじゃないかもよ?』


 この、他人を心底馬鹿にしたような口調がリッティは堪らなく嫌いだった。

 今すぐ通信を切ってやろうかと思ったが、スカリィが彼らの手中にある以上下手に動けない。

 命までは取らないにしても、彼らが何をしてくるか分からないのだ。


 「結局何が目的よ!」


 話を切り上げるため、リッティは声を張り上げた。通信の向こう側でミヤビが息を吐くのが聞こえる。


 『タチバナと直接話したい』

 「何を話す気よ……」

 『平たく言うと、交渉かな。うちのボスがタチバナと戦いたがってる』

 「まさか、その“ボス”って最初に出た子じゃないでしょうね……」

 『その辺はノーコメントにしておく……』


 タチバナと戦いたがる理由等は分からなかったが、正直リッティは、ミヤビとの通信が切れるなら何でもよかった。


 「……分かったわよ。繋いであげるから後は好きにしなさい」


 リッティは半分呆れながらタチバナのステッカーを剥がし、スカリィのモノに重ねる。


 『サンキュー、リッティ』


 それを最後にミヤビの声は聞こえなくなった。これでミヤビの相手はしないで済むはずだと、リッティもため息を着く。

 リッティは顔を上げ、仲間の姿を思い浮かべた。

 皆、そう簡単にやられるような連中では無い。スカリィは油断していたところをたまたま捕まっただけに違いない。アンピやディテールはきっと上手くやっているはずだ。


 「皆……。無事でいなさいよ……」


 呟くリッティ。

 彼女自身にも“黒衣の影”が近づいてるなど夢にも思っていなかった。



―――――――――――――――――――――



 “アズラ達”との戦いを終え、タチバナはすれ違う女性達を軽くナンパしながら、ブラブラと学園へ向かっていた。

 ちょうど9人目に無視された時、彼のステッカーに通信が入る。


 『やあタチバナ、久しぶりかな』

 「……ミヤビか」


 おちゃらけた雰囲気は一瞬で消え、タチバナの目付きが鋭くなる。


 「連絡をくれたってことは、“疎楽園”に復帰してくれるのか」

 『悪いけどそのつもりはさらさら無い。―――今日は別件だよ。君に会いたがってる友達が居るんだ』

 「女の子?」

 『いや普通に男』

 「じゃあ興味無いな」

 『まぁそう言わないでよ。―――こっちはスカリィを人質にとってる』


 急にミヤビの声色が暗く、冷たくなった。

 そして、タチバナは理解した。これは元同僚からの連絡では無く、明確な敵からの通告であると。


 『じゃあ、本人に代わるよ』


 ミヤビの声が消えると、すぐに青年の声が脳裏に響き始めた。


 『アンタがタチバナか……?』

 「そうだけど、君は?」

 『ヨツバ。オオバ ヨツバだ』

 「ああ、君が噂の」


 何度か聞いたことのある名だ。

 盗賊王を倒し、アンピの実験体になっている青年、とタチバナは認識していた。


 「俺に会いたいそうじゃないか。何用かな?」

 『単純だよ。俺と闘え』


 今どき熱血漫画でも言わないような台詞に、タチバナは苦笑する。


 「断ったら、うちのスカリィが酷い目にあうのか?」

 『い、いや……。そこまでは考えてないが……、多分それなりに……まぁそんなところだ!』


 適当にはぐらかす青年の声。彼の根っこの部分が透けて見える。


 「場所はどうする気だ?」

 『どうせ学園に来るんだろ?旧校舎の屋上だ』

 「……なるほど」


 とは言っても、タチバナに考える余地など無かった。

 彼が行かない限りスカリィが解放される事は無いだろうし、無視したとしても、ヨツバから一方的に殴りかかってきそうな気がした。


 「分かった。どうせ学園には行くし、スカリィも助け出さなきゃいけないみたいだ。君の挑戦を受けよう」

 『そう来なくっちゃな。―――え?何もっと悪役っぽく?―――へへへ、お前如きが俺に』


 最後のはミヤビが何か吹き込んだのだろう。

 終わりまで聞くのも面倒だと、タチバナは通信を切り、学園へと走り出す。

 元の依頼に加え、仕事が増えたと面倒に思う反面、タチバナは久しく感じていなかった興奮を体内に湧き上がらせていた。

 アンピとの契約により、彼の“模倣魔術”を使うらしい少年、オオバ ヨツバ。

 彼とはいつか手合わせをしたいと、タチバナ自身も思っていたところだ。


 「負けても泣くなよ―――“模倣魔術”!」 

前回は急に休んでしまいすいませんでした。

この話ももうすぐ完結しますから、また頑張っていこうと思います。

動きが無い話が続いていますが、次回は物語も動きますのでお楽しみ。


次回は日曜日です。

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