パーチメントの悲劇
突然吹き込んだ冷気とともに,季節外れの汗で黒髪を濡らした白雪姫が現れました。
白雪姫は,新築のように磨かれた流しの前で倒れているパーチメント色の布を纏った小人の上半身を持ち上げ,揺さぶりました。
「おい,パーチメント! 変顔はやめなさい!」
しかし,パーチメントは,目と口を半開きにしたまま,まばたきの一つすらしません。
「おい,パーチメント! にらめっこしてる場合じゃないわ!」
「姫様,それは変顔ではありません。死相です。先ほど脈を見ましたが,パーチメントはもう…」
藍鉄が白雪姫の背中に声を掛けました。
「パーチメント! パーチメント! うぅ……」
パーチメントの死という重たい事実がのしかかり,白雪姫の声は沈んでいきました。
「なんで,みんな私が会った次の日に死んでいくの…?」
「姫様,昨日パーチメントに会ってるんですか?」
「そうよ」
「そうでしたか…」
「うぅ…私,もしかして死神なのかしら?」
「お気をたしかに持ってください。姫様は姫様です」
「…そうね。私,どうにかしてたわ。私は私。唯一無二の存在よね」
白雪姫は自分に言い聞かせるように言いました。
「姫様,パーチメントを生き返させる方法について話してもいいですか?」
「いいに決まってるじゃない! むしろ,そういうものがあるんだったら積極的に話しなさい!」
「分かりました」
「何? どうすればパーチメントを生き返させられるの? 私にできることだったら何でもするわ!」
「姫様,パーチメントにキスをしてください」
「却下」
白雪姫は,パーチメントの白髪を優しく撫でました。
「どうして? どうして死んじゃったの…?」
「パーチメントが死んだ瞬間は誰も目撃していません。第一発見者の浅葱が窓から部屋を覗いたところ,すでにパーチメントは泡を吹いて倒れていたのです」
「カーマインのときに引き続き,また浅葱が第一発見者なの? 彼は一体何のために他人の家の窓を覗いているのかしら?」
白雪姫と藍鉄は同時に首を傾げました。
「それはさておき,藍鉄,パーチメントが死んだ原因は分からないの?」
「姫様,カーマインとパーチメントの死に方にはある共通点があります」
「え? 何かしら?」
「2人ともに死ぬ直前にりんごを食べ……」
「ああもう! それ以上話すのはやめなさい! あの忌々しい赤い果物の名前なんて聞きたくもないわ!」
「あ…はい。す…すいません。でも,姫様」
「何よ?」
「その忌々しき赤い果物が姫様の足元に落ちているのですが」
「きゃあああああああああ」
白雪姫は部屋の隅まで駆け出した。
「なんでそんなものがここにあるのよ!?」
「ですから,それを今説明しようと…」
「御託はいいから,さっさと外に出しなさい! アダムとイブの時代から,それは口にしちゃいけないと決まってるのよ!」
「分かりました。今捨ててきます」
藍鉄はりんごを掴むと,部屋の外に出て行きました。
白雪姫は、変わり果てた姿のパーチメントに、誓います。
「パーチメント、お前の仇は絶対にとってやるからね」