白雪姫とパーチメント
白雪姫は,パーチメント色の布を身に纏った小人とともに浜辺を散歩していました。
「姫様,今日はいい天気ですね」
「そうね。最高のハレーションね」
お,と白雪姫は小さく声を上げると,波打ち際まで駆け出しました。
「この辺りはどうかしら。周りに何もなくて白砂も綺麗だから,すごくインスタ映えすると思うんだけど」
「たしかにそうですね」
「じゃあよろしく」
白雪姫は浜辺にしゃがみ込むと,パーチメントを上目遣いで見つめました。
パーチメントが,事前に預かっていたスマホのレンズを白雪姫に向けます。
「はい。チーズ」
パシャパシャパシャパシャと繰り返しシャッター音が鳴り響きました。パーチメントは,カメラを連射モードにするように白雪姫からあらかじめ指示を受けていたのです。
今日,白雪姫がパーチメントを誘ったのは,インスタ用の写真を撮影するカメラマンとするためでした。
パーチメントから渡されたスマホの小さな画面を見ながら,白雪姫はニヤニヤします。
「やっぱり素材がいいと加工の必要すらないわね」
「そうですね」
「まあ,それでも盛るのがイマドキ女子の習性なんだけど」
そのときでした。白雪姫の目の前に,突然,赤い物体が落ちてきたのです。
「きゃあっ」
白雪姫が悲鳴をあげ,浜辺に尻餅をつきました。その状態でもスマホだけは離さずに握っているのは,イマドキ女子の習性でしょう。
「り…りんご……」
砂浜に落ちていたのは,真っ赤なりんごでした。
白雪姫は空を見上げました。そこには雲ひとつなかったのですから,ましてやりんごのなる木などあるはずもありません。
「一体どこのクソビ◯チなの? ここまでして私にりんごを食べさせたいのは…?」
白雪姫は空を見上げたまま悪態を吐きました。
他方,パーチメントは砂浜のりんごをジッと見つめていました。
「パーチメント,なんで冷静にりんごを観察してるのよ!?」
「いやあ,もしかしたらりんごは落ちてきたのではなく,地球の中心に引き寄せられてきたのかな,と思いまして」
「ニュートンぶってないで,さっさとりんごを処分しなさい! 私はりんごが嫌いなの!」
「姫様,処分というのは,捨てるという意味ですか?」
「別に捨ててもいいけど,どうせなら食べればいいじゃない。あんた,普段は捨てられている食パンの耳とかを拾って食べてるんでしょ」
「よく知ってますね。では,持ち帰って明日の朝ご飯にすることにします」
「そうしなさい。あと,今日はもう帰っていいから。転んで服が汚れちゃったから,これ以上インスタ用の写真は撮れないからね」
白雪姫は立ち上がると,砂の付いたスカートの裾をパンパンと叩きました。
「分かりました」
パーチメントはりんごをポケットに入れると,浜辺を辞去しました。