カーマインの悲劇
バタンと扉が乱暴に開く音とともに,荒い呼吸の白雪姫が部屋に現れました。
白雪姫は,部屋のちょうど中央辺りで倒れているカーマイン色の布を纏った小人の上半身を持ち上げ,揺さぶりました。
「おい,カーマイン! 返事をしなさい!」
しかし,カーマインは返事をしないどころか微動だにしません。
「おい! カーマイン! 死んだフリはやめなさい! カーマイン!」
「姫様,死んだフリではありません。脈を見ましたがすでにもう…」
藍鉄色の小人が,白雪姫の背中に声を掛けました。彼はこの集落において警察官の役割をしています。
「カーマイン! カーマイン! うぅ……」
白雪姫の呼び掛けは,次第にすすり泣く声へと変わっていきました。
「昨日まであんなに元気だったのに……」
「え? 姫様,昨日カーマインに会ったのですか?」
「ええ。昨日,カーマインが私の家を訪ねていたのよ。なんで訪ねてきたのかは思い出せないけど」
「そうでしたか…」
藍鉄が沈んだ声を出しました。
「なんで!? なんで突然死んじゃうのよ!?」
白雪姫の涙がカーマイン色の布に染み込み,濃い赤い模様を作りました。
「原因は分かりません。第一発見者の浅葱色の小人が窓からこの部屋の様子を見たところ,カーマインが泡を吹いて倒れていたんです。そのときにはすでに絶命していたようです」
「お別れの言葉も言えないなんてあんまりよ! ふざけないで! 動きなさいよ!」
白雪姫は,首が取れてしまうのではないかと思うくらいに強い勢いでカーマインの身体を揺さぶりました。
「実は姫様,カーマインを生き返らせる方法があります」
「え!? 何!? 藍鉄,そんな方法があるんだったらもったいぶってないで先に言いなさいよ」
「すみません」
「何!? 何をすればカーマインは生き返るの!?」
「姫様のキスです」
「却下」
白雪姫は床に突っ伏して泣き始めました。
そのとき,白雪姫の手に何かが当たり,その何かがコロンと転がりました。
ヒャッと白雪姫が小さな悲鳴をあげました。
「姫様,別に怖がるような物ではありません。ただの食べかけのりんごですから」
キャーッと白雪姫が大きな悲鳴を上げ,尻餅をつきながらズルズルと後ろに下がりました。
「なんでそんなものがここにあるのよ!? 私はりんごが大嫌いなの!! こんなところに置いたのは一体誰!?」
「僕が現場に来たときにはすでにありました。おそらくカーマインが死ぬ直前に口にしたものでしょう」
「どうでもいいから,さっさと外に出しなさい!! 私,ぶりっ子のグラビアアイドルとりんごだけは共演NGだからね!! 覚えといて!!」
「分かりました。今捨ててきます」
藍鉄はりんごを掴むと,部屋の外へと出て行きました。
カーマインの死体と2人きりになった部屋で,白雪姫は涙を拭います。
「私のカーマインを殺したのは誰? 絶対に許さない…」




