白雪姫とカーマイン
猟師の助けで王妃から逃れた白雪姫は,小さな集落で,7人の小人と暮らし始めました。
今まで苦難の人生を送ってきたため,気が塞ぎがちだった白雪姫ですが,集落に住む優しい小人,そして優しい動物たちに囲まれて生活する中で,徐々に明るさを取り戻してきました。
もっといえば,紅一点の存在として周りからチヤホヤされる中で,白雪姫の性格は,「俺様系」ならぬ「姫様系」となりました。
ある日のこと。
白雪姫のもとに魔女に化けた王妃がやってきて,毒の入ったりんごを白雪姫に差し出しました。
その場では笑顔を取り繕っていた白雪姫でしたが,家に持ち帰ったりんごを丸机の上に置くと,渋い顔でりんごを見つめるだけで,一向に口にしようとしませんでした。
なんせ白雪姫は,りんごが世界中の何よりも嫌いなのですから。
「姫様,何があったのですか?」
「わっ!?」
白雪姫を挟んだ机の向こう側に,カーマイン色の布を纏った小人が立っていました。
「カーマイン! あんた,なんで私の家にいるのよ!? ストーカー!?」
「なんでですか!? さっき姫様がLINEで『家に来て』って送って来たんじゃないですか!? ノックしても反応がないので,心配して入ってきたんですよ!」
「ああ,そうだったわね。ごめんね。カーマイン」
元々いた7人の小人は,今では300人程度に増加していました。7人の小人の中にメスはいなかったはずなので,小人がどのように増殖したのかは謎です。小人が無性生殖をする生き物なのか,はたまた何らかの魔法を使ったのかは分かりません。
人口増加によって,食糧難がこの集落の社会問題となりました。
しかし,それよりも大きな問題は,小人は皆見た目がそっくりなので(この事実は無性生殖説の有力な根拠です),着ている服の色で区別するしかないところ,300色もの色を用意することが困難ということでした。
「姫様,僕のノックにも気付かずに,夢中になって机のりんごを見つめてましたが,そのりんごがどうかしましたか? りんごが無くならないままで空腹を満たす方法として,りんごを目から摂取する方法を試みていたのですか?」
「何その究極の節約術!? 失礼ね! 私は小人達と違ってそんなひもじい生活は送ってないの!」
「そうでしたか…。では,なんでりんごを見つめていたのですか?」
「私はりんごが世界中の何よりも嫌いなの」
カーマインが眉をひそめる。
「姫様,フェイスブックには『大好物はりんご』って書いてありますよね?」
「あれはスポンサーとの関係よ。私,りんご農家とスポンサー契約結んでるの」
「そんなに嫌いだったら,契約しなければいいのに…」
「仕方ないじゃない。第一次産業の味方であることをPRすると好感度が上がるんだから」
白雪姫には,SNS上の虚偽記載に悪びれる様子はありませんでした。
「問題は,そのフェイスブックのプロフィールを真に受ける低脳なファンがいることよね。イマドキの女の子がりんごをもらってハシャぐわけないじゃない! アワビのロワイヤルとかウニの肉巻きくらい持って来なさいっつーの!」
「そのりんごはファンからの贈り物なんですか?」
「ええ。さっき,全身真っ黒の,腰も顔もひん曲がったお婆ちゃんからもらったの。どうせ『孫にそっくり』とかいう理由で私のこと応援してるんでしょ。そのパターンに限って孫がブスなのよね。本当,許せないわ」
白雪姫は,言葉を吐き出せば吐き出すほど怒りを募らせていくようでした。
カーマインは,共感できないながらも,うんうん頷き,白雪姫が自ずから落ち着くのを待つしかありませんでした。
「……で,カーマイン,どうしてここにいるんだっけ?」
「だから,姫様がLINEで呼んだんですって!」
「ああ,そうだったわね。用事を思い出したわ。カーマイン,このりんご処分してくれない。同じ空気を吸ってるだけで鳥肌が立っちゃう」
「りんごって呼吸するんですか?」
「知らないわよ。りんごのことなんて考えたくもないわ」
白雪姫は軽く仕打ちをしました。
「姫様,処分というのは,捨てろという意味ですか?」
「別に捨ててもいいけど,どうせなら食べればいいじゃない。あんた,食べ物を粗末にできるほど裕福な生活は送れてないんでしょ」
「まあ…はい。では,ありがたくいただきます」
小人はりんごをポケットの中に入れると,白雪姫の家を辞去しました。
冬の童話祭2018提出予定作品です!おそらく1万字程度で完結します!
前作「引きこもり民俗学者と漁村連続殺人事件」のヒロインと姫様のキャラが若干被ってますが気にしないでください(震え)