ホワイトソードプリンセス 兄と妹と編
登場人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…さらわれた姉を助けるため最強を目指している少年
グレンダイル将軍…コルトバ共和国の軍のトップで国内№3の実力者
ロンダール国務大臣…コルドバ共和国の内政側のトップ
ラインハルト・カナ・ロマーヌ(沢渡香奈)…白剣姫と呼ばれるアステリア公国最強の美少女剣士、拓斗の妹
チャングイ将軍…アミステリア公国の猛将、若いころは”暴走獣”と呼ばれた猪突猛進型の戦士でアミステリアの双璧と言われた一人、ゲルハート将軍とは何かと言い争うことが多い
ゲルハート将軍…アミステリア公国の知将、ナイトの称号を持っている程の手練れではあるが自分が最前線に出るのを良しとしない、計略や謀が得意、アミステリアの双璧の一人
ザラボルン国王…アミステリア公国の国王
オディール…アミステリア公国の内政側の重鎮
デロル…グランシア国王の甥、アミステリアの捕虜となっている。
本日ようやく同盟の為の話し合いがおこなわれる、その会場となるのが
アミステリア公国の居城ボレルガン城である、コルドバ側の使者は
グレンダイル将軍、ロンダール国務大臣、と拓斗とマルコの4人である
マルコは人質交換の交渉の原因として同席することとなっていて
コルドバ側は実質3人という訳である 話し合いがうまくいけば
明日にでもコルドバ共和国国王ユリウスが訪れる手筈になっていた
ボレルガン城の謁見の間に通された4人が中を見渡すと
正面にアミステリア公国のザラボルン国王が座っており
その右横にはまだ10歳程の男の子が座っていて
次期国王ヒースクリフ王子だろうとわかる、そしてその反対側
国王の左側にはロマーヌこと沢渡香奈が国王と王子を守るような形で
立っている その国王達を中心に右側と左側にズラリと人が並んでいる
右側はゲルハート将軍を先頭にチャングイ将軍と続き昨日の模擬戦で
見覚えのある顔チラホラがいて軍の幹部が並んでいるのであろうと
思われた、逆側の左側は内政を司る重鎮達と思われる面々が並んでいる
比較的友好的なムードを出している右側の軍のメンバーに比べ
左側の内政側はあまりいい顔をしていない者が数人いた
そしてザラボルン国王が口を開く
「ようこそおいでくださったコルドバ共和国の諸君、昨日はお互い
お疲れ様だったな、我が軍の完敗だったようじゃが模擬戦で
よかったわい、はっはっは」
ザラボルン国王はなにやら上機嫌で笑った
それに対しグレンダイルが答える
「いいえ昨日の結果はたまたまです、そもそもこちらにいる
沢渡拓斗どのの力をお借りしての結果ですし
我が国の力とは申せませんから」
その言葉にザラボルン国王はにこやかにうなづいた、そして
「ところで拓斗殿、なんでも貴君はここにいるロマーヌ殿の兄君
だそうではないか!?それは真なのか?」
その質問に拓斗が答える
「はい仰る通りです、妹がいつもお世話になっております
なにか皆様方にご迷惑をおかけしてはおりませんでしょうか?」
その言葉に拓斗をキッと睨む香奈 ザラボルンが上機嫌に
「なにをおっしゃる拓斗殿、妹君が我が国にどれほど貢献して
くださっているか何度礼を申しても足りないぐらいじゃ
実はの、ここにおる我が息子の妃になって欲しいと何度も口説いて
おるんじゃが中々首を縦に振ってはくれんのじゃ
兄君からも何か言ってくれんかの?」
香奈は照れながら慌ててザラボルンに話しかける
「陛下またそのような事を・・・それに今はそのような事を
話す場ではございません、ご自重ください」
香奈のその言葉に少しすねたような顔をしたザラボルンは
「めでたい事はまとめて決めてしまいたかったのだがのぅ・・・
残念じゃはっはっは」
終始上機嫌のザラボルンは少しだけ真面目な口調で続ける
「正直、我々アミステリア公国もこの同盟は望んでおったことじゃ
是非にも成立させたいと思っておる」
その言葉にグレンダイルとロンダールの顔にも喜びの表情がみえる
しかし内政側の一人オディールという男が手を挙げて発言する
「お待ちください陛下、これ程の重要な案件をそんな軽々に
決定するのはどうかと?もっとも危惧する事はコルドバ共和国が
そこまで信頼できるのか?ということです、思い返してみてください
我が国とコルドバとの戦争は必ずコルドバ側から仕掛けられてきた
ものですよ、いざという時裏切らないという保証が
どこにありますか?」
その意見にグレンダイルが答える
「御国の心配はごもっともです、ただ我々にとっても大国である
グランシアは脅威でした、アミステリア公国がもしグランシアに
敗れる事があれば次は我が国に侵攻してくるのは必至
しかし我が国にはグランシアに対抗できる国力も軍事力もありません
ですからアミステリア公国とコルドバ共和国を統合して
グランシアに対抗しなければいけないという非常に短絡的な考えで
戦争を仕掛けてきました、本当に愚かでした・・・
我々が争っていてもグランシアを喜ばすだけだと今更ながら
気が付いたのです その過ちを一刻も早く正すために
今回の同盟に臨んだのです、そちらにとってはムシのいい話とは
思われるでしょうが、ここは両国の未来の為に大局的な見地に立って
ご判断願えないでしょうか?」
グレンダイルの言葉にザラボルンはうなづく、しかしオディールは
話を続けた
「コルドバ側の言い分はわかりました、その意見には考えるべき点が
あるのも事実でしょう しかし先日まで戦争をしていた国を
いきなり信じろと言われても納得できないのも事実です
国民感情も考慮すると同盟は徐々に信頼関係を築いていってからでも
遅くはないのでは?と考えますが」
アミステリアの内政側の人間数人がうなづきザラボルンが渋い顔をした
ザラボルンは国王でありながら自分の意見を押し通す事を嫌う
何事も皆の意見が出揃い皆の総意としてまとめたいたい
という意思がある、それはザラルボルンの先代国王であった父が
誰の意見も聞かない暴君として名を馳せていたからである
その姿を見てきて自分はそうならないと心に決め
父を反面教師として生きてきたのだ
「オディール、おぬしの言いたいことはわからないでもないが
そんなことを言っていたらいつまでたっても同盟など成立しないぞ
ここはもう少し柔軟に考えることはできんかの?」
「いいえ陛下、国の命運を決める大事な事案なのです
性急に決める事こそ危険と考えます」
ザラボルンの言葉にも一向に引かないオディール、ゲルハートを始め
軍側もどうしたものか・・・と考えていたところに拓斗が挙手をして
発言の機会を求めた それにザラボルンが応える
「どうした拓斗殿、なにか意見があるのであれば申してみよ」
「オディール様の意見もわかりますが事は急を要するのです
このまま同盟の決議が長引けば両国共非常に危険なのです」
一同が少しざわつく、グレンダイルも拓斗の発言に驚いている
様子であった ザラルボルンが聞き直す
「拓斗殿それはどういうことなのかね?
皆にわかりやすく説明してもらえないだろうか?」
大きくうなづく拓斗そして静かに話し出す
「もう遠くない内にグランシア王国はガルゾフ帝国に侵攻を開始します
そしてこの戦いはグランシアが勝つからです・・・」
一同が一斉にざわつく今度は軍側の人間も驚いている様子である
オディールが拓斗に強く反論する
「なにを言っているんだ!?つい先日もガルゾフはグランシアの侵攻を
退けている、しかもグランシアは最近ハラル共和国にも敗れて
いるのだぞ!!そんな状態のグランシアがバルザーク率いる
ガルゾフに勝てるとは思えない、なにを根拠にガルゾフが
グランシアに敗れるというのだ!?」
内政側の人間が皆うなづき拓斗を睨む、軍側の人間も疑心の目で
拓斗を見つめる、その雰囲気を察したマルコも心配そうに
拓斗の顔を覗き込んだ、拓斗は少し間をおいて再び話し出す
「ではガルゾフ帝国にすでにバルザークがいないとすればどうですか?」
この発言にはザラルボルンも身を乗り出して聞き入る
「た、拓斗どの!?貴君はあのバルザークが死んだというのか?
あの黒煙の魔道士バルザークが!?」
この発言には軍側も含め皆蜂の巣をつついたような騒ぎになった
ガルゾフ帝国がグランシアに敗れればアミステリアとの国力と兵力の差は
決定的なものになる、しかもグランシアは後方の憂いなく
今までにない程の兵力でアミステリアに大攻勢をかけてくることは
必至である その発言に動揺しつつもオディールは反論する
「あのバルザークが死んだなど信じられん!!そんな不確かな情報で
国の一大事を決めるわけにはいかん!!」
そんなオディールのその発言にゲルハートが挙手をして発言する
「実は私の所にもバルザークが死んだのでは!?という情報は
入ってきております、まだ確証を得られていませんでしたので
報告はしておりませんでした、しかし我が国にもそんな情報が
入っているのですから隣国であり敵対国のグランシアには
もっと正確な情報が入っていると思われます」
ゲルハートの報告にみな絶句する ゲルハートが話を続ける
「それとこれはあくまでも噂の域を出ない話のですが・・・
バルザークはドラグナイトに倒された・・・という話が
あがっていまして・・・」
場内の一同がさらに困惑し騒ぎだす、マルコが驚き拓斗の方を振り向く
『ドラグナイトって!?そのバルザークって奴
拓斗の兄ちゃんがやったんじゃ!?』
「ドラグナイトだと、そんなもの伝説の中だけの話だろ!?
いい加減な事を言うでないわ!!」
「おとぎ話を国の大事に当てはめるとはなんたること
不謹慎であろう!!」
「ゲルハート殿ともあろうものが何を言い出すのやら
もっと真面目にやっていただけぬか?」
内政側の人間が一斉に反論する、それを一通り聞いたのち
ゲルハートが冷静に答える
「みなさんドラグナイトがいないとなぜ決めつけているのですか?
実際ドラグナイトがあらわれた場合、各国が協力をしてこれに
対処するという協定があることをみなさんご存知ですよね?
ドラグナイトもこの憲法を知っているでしょうから正体が
バレないように身を隠している可能性は高い、しかもガルゾフは
バルザークを始め自慢の魔法軍団と兵12,000人が忽然と消えて
いるんです、どこの国とも争った形跡はありませんし
戦って負けたにしても一人残らず行方不明というのは
いささか腑に落ちません しかし相手がドラグナイトであれば
説明はつきます、というよりそんな芸当ができるのは
ドラグナイトぐらいしか思いつきません、状況証拠にしても
その可能性は十分にあると思われます」
ゲルハートの反論に論理立てて返せる人間は一人もいなかった
その時マルコは確信していた
『絶対兄ちゃんがやったんだ!?バルザークっていったら
俺でも知ってる大魔法使いだぜ!?そいつと魔法軍団と
兵12000人を一人残らずって・・・拓斗の兄ちゃん
どんだけ凄いんだ?っていうかドラグナイトってマジ化け物だな!?』
ざわつきが少し治まったところで拓斗が口を開く
「私が提案したいのはガルゾフ帝国も含んだ三国同盟で
これでしたらグランシアがガルゾフに攻め入った時は
アミステリアとコルドバの同盟軍が背後からグランシアを
攻めるという抑止力になりますから」
その拓斗の提案にさらに城内がざわつく
「ガルゾフと同盟などありえるのか?」
「しかしそれが成れば確かにグランシアに対して包囲網を
作ることができるぞ!?」
「しかしガルゾフも大陸制覇をかかげている国だし
我々と組むだろうか?」
皆色々な意見をそれぞれでかわしている、そこにゲルハートが口をはさむ
「よろしいですか拓斗殿、ガルゾフ帝国の皇帝ネルリアスは
大陸制覇をかかげている程野心の強い王です、我々との同盟を
すんなり受けいれるでしょうか?」
「そうですね、だからこそわかるのではないでしょうか?
もし今までのようにバルザークと魔法軍団が健在ならば
ネルリアス皇帝はこの同盟を受けないでしょう
しかしバルザークと魔法軍団がもういないのであればどうでしょう?」
一同が”あっ”と声をあげる ゲルハートが半ばあきれ顔で笑う
「あなたという人は・・・なるほどロマーヌ殿の兄君ですね」
そこでザラボルン国王が総括する
「もう話し合いをする必要はなかろう、我がアミステリア公国と
コルドバ共和国との同盟を一刻も早く締結しガルゾフ帝国をも含む
三国同盟の方針で決定じゃ各人異論はないな!?」
オディールのみ苦々しい顔をしていたがその他のメンバーは
晴れやかな顔をしていた、両国の会談が終わり細かい取決めを話し合う為
グレンダイルとロンダールがアミステリアの内政の幹部達と別室に
移動して行く、場内全体に安堵の空気が流れホッとと一息ついた
その時、拓斗に後ろから肩を叩く人物がいた、なんだろう?
と思い振り向くとそこにはチャングイ将軍がいた
「なあ兄ちゃんよ俺と戦ってみないか?」
昼間の会談を終え、夜は一転華やかな晩餐会となった
煌びやかな雰囲気の中で豪華な食事、高尚な音楽、美しく着飾った婦人達
と非常に豪華なパーティーとなっている マルコがあちこちの食事を
取っては食べ食べては移動しさらに食べるという行為を繰り返していて
そんなマルコを微笑みながら見ていた拓斗はこれからの事を考えていた
そんな時後ろから拓斗の背中を軽く叩いている人物に気付き振り向くと
そこには美しいドレスに身を包んだ香奈の姿があった
「ちょ、おま・・・その恰好!?」
「あんまりジロジロ見ないでよ恥ずかしいから」
香奈は拓斗の手を引き誰もいないテラスへ移動する
「ふーここまでくれば大丈夫ね、ちょっとここで相手しててよ
あそこいると次から次へと人が挨拶に来るから
ちっともゆっくりできないのよ」
拓斗はニヤリと笑い
「国民的英雄も大変だな」
その発言に拓斗をキッと睨み
「また面白がっているんでしょ!?他人事だと思って」
「そんなことないぜ、しかしやっぱりドレスも白いんだな」
「まあね、イメージがあるから・・・ドレスは国から支給されるんだけど
この色しか用意されないのよ、私本当はピンクが一番
好きなんだけどね・・・」
白いドレスをまとった香奈はまるでウエディングドレスを
着ているようで兄の目から見ても美しかった
「そういえばお前、妃にならないか?って言われてるんだってな!?
どうするんだ?」
「ちょっとやめてよ!!私まだ16歳よ、しかも相手は10歳だし
そんなことあるわけないじゃない!!」
「でもお前の好きだったアニメのラインハルト様の相手ロマーヌって
16歳で結婚してなかったか?」
「なんでそんな事だけ詳しく覚えているのよ!!
本当に嫌な性格してるわね、もう」
香奈はすねた顔を見せると拓斗と反対の方を向いて少し歩き出す
「私はこの国を守りたいここの人たちを守りたいのよ、最初はただの
ゲームと思っていたけどもうどっちが現実でどっちが仮想世界なのか
すらわからなくなるくらいになってた・・・そしたら地球自体が
滅亡しちゃってこちらの生活がメインになってくると逆に毎日
充実してるの、もちろん楽しいことばかりじゃないけど
一生懸命生きてる実感があるっていうか・・・変だよね
こんな人がいっぱい死ぬ世界なのに」
悲しい目をしながら微笑む香奈に首を振って応える拓斗
「そんなことない、人の価値観なんてそれぞれだ、何かを成し遂げたい
守りたいって気持ちは大切なものだと思うぜ!?
俺だってあれだけ熱心にやってた剣道も先生が亡くなってから
辞めたしな、それ以来この世界に入りびたりだよ
ここで色々な人に会ったし色々な事もあった、お前の言うことも
全然わかる、兄弟そろってゲーマーってのもカッコ悪いが
今となってはそれで助かってるんだから・・・
人生わからないもんだよな」
「何?まだ17歳で人生を語るの?カッコイイね」
香奈は悪戯っぽい笑顔で拓斗をからかう
「テメーなにチャチャ入れてるんだよ、せっかくお兄ちゃん
がいい話をしてあげているんだから妹としてちゃんと拝聴しろ!?」
「妹というポジションはね、兄に何を言っても許されるものなのよ
知らなかったの?」
「ほぅそれはアミステリア公国の常識なのか?
それともイギリスの常識なのか?あいにく私は日本人ですので
そのような常識を持ち合わせてはおりません、それとも国民的英雄
ホワイトソードプリンセス様がおっしゃる事は全て
常識になってしまわれるのですか?」
「もう!!それはやめてって言ってるでしょ!?
いっつもそうなんだからお兄ちゃんは!!」
香奈は腕を組み頬を膨らまして怒っている、それを見て笑う拓斗
久々の兄弟の会話で心地よい気分を味わえた二人だった
そして香奈が少し真面目顔で拓斗に問いかける
「ねえお兄、真面目な話お兄もアミステリアに居てくれない?
正直いてくれると色々助かるの、コルドバには正式に所属している
訳じゃないんでしょ?」
拓斗は目を閉じ少しだけ考えた後香奈に
「香奈すまない、俺はここに留まる訳にはいかないんだ
ある事情があって旅をしている、それに俺には帰る所もあるしな」
ニコリと笑う拓斗を見て軽くため息をつく香奈
「はいはい、お兄ちゃんは昔からそうでしたいっつも家にいなかったし
今だからいうけど私が剣道始めたのもお兄にかまって欲しくて
ついていったんだから、今も昔もよくこんなカワイイ妹を
ほっておけるね!?それにこの世界で帰る所って・・・
あっ!?もしかしてお兄、彼女できたの??」
拓斗は目線をそらし少し照れながら
「どうだっていいじゃねーか、そんな話」
「図星なんだ!?わかりやすいなぁその反応」
拓斗のその態度に香奈は面白くて仕方ないという素振りである
それを見た拓斗は
『こいつ今までの仕返しにきやがったな!?』
「ねえ、もしかして彼女ってみゆきさん?みゆきさんでしょ!?」
「いや、みゆきじゃねーよ、なんでそう思うんだよ?」
「だってお兄ずっとみゆきさんのこと好きだったじゃん」
びっくりした拓斗が香奈に問いかける
「おま・・・何言ってるんだよ!?そんなわけねーだろ
急になにを言い出すのかな香奈さん?」
「えっ!?もしかして気付かれてないつもりだったの?
お兄ちゃんがみゆきさんのこと好きな事なんて
当のみゆきさん以外はみんな知ってたんじゃないかな?
確かにみゆきさんもそういうのニブいからねぇ」
「そうだったのか・・・それ聞くとすげえ恥ずかしいな
でも彼女はみゆきじゃないよ、みゆきの友達でみゆきが
紹介してくれたんだけどな」
「へぇ~みゆきさんも男泣かせなことするね、でその彼女はどんな人?」
「明るくてやさしくて誰とでも仲良くなれる凄い女だよ
少なくともお前よりはかわいいな!?」
「なにそれ!?私だってこのアミステリアじゃ・・・
いやなんでもない忘れて、ふ~んお兄その娘のことそんなに
好きなんだ?」
香奈のその問いに無言の笑顔で答える拓斗
「妹より彼女か!?まあ当然といえば当然だけどね・・・
落ち着いたら一度会わせてよ、妹の目で兄にふさわしいか
見てやるんだから」
香奈は再び悪戯っぽく笑った その時、晩餐会場から香奈を呼ぶ声が
して仕方なく戻ろうとする香奈 そして思い出したかのように
拓斗に話しかける
「そういえば昨日聞かれた事なんだけど、今アミステリアにいる
グランシアの捕虜の中にグランシア国王の甥がいるみたいで
なにかと変換要求があるのよ、交換条件がいつも金なんで
突っぱねてるけどね、そいつを使えば捕虜交換は
うまくいくんじゃないかな?」
「そうかありがとう香奈」
「どういたしましてお兄様」
会場に戻っていく香奈の後ろ姿を見送る拓斗 会場に戻るなり
あっという間に人々に囲まれる香奈を見て複雑な気持ちになる
拓斗であった。
晩餐会が終わり静寂の夜が再び訪れる、これで戦争がなくなるかも
しれないという雰囲気が漂い皆浮かれた気分で異様に盛り上がった
パーティー会場も水を打ったように静かである、自身の中に
その熱気が残っているのか香奈が寝付けず夜風に当たりに城内を
歩いている時、なにか違和感を感じた 城内を警備する兵士の姿が
見えないのだ
『警備の兵士はどうしたの?一体…』
しばらく歩くと二人の警備兵が座り込んでいるのを発見した
慌てて駆け寄る香奈
「大丈夫?一体どうしたの?」
警備兵は二人共に眠り込んでいた、香奈がゆり起こそうとするが
全く反応が無い
『これは一体なにが起こっているの⁉︎』
香奈はなにかを思い出したかのように地下牢へと走った、すると
捕虜として地下牢に閉じ込められていたグランシア兵と
国王の甥デロルの牢の鍵が開いていたのだ
『これは一体誰が!?』
香奈は慌てて叫ぶ
「皆の者起きよ‼︎誰かいないのか⁉︎動ける者は戦闘準備を‼︎」
香奈の声を聞いて数人のアミステリア兵が集まるも明らかに
数が少ない、駆け寄る兵士が思わず問いかけた
「いかがなされましたかロマーヌ様!?」
「グランシア兵と国王の甥デロルが逃亡した、至急捜索を
それと動ける兵を全て集めよ、あと念のため正門と南門の様子を
見て来てくれないか?」
香奈の指示に素早く動くアミステリア兵、香奈は悪い予感がして
考えをまとめているとなにかの声に気づき耳をすます
正門の方からなにやら騒がしい音がしていた、そこに正門を
見に行っていた兵士が慌てて戻って来て息を切らしながら告げた
「報告します、正門にグランシア軍と思われる兵が攻撃を始めております
夜で視界が悪い為、敵の数は不明です‼︎」
悪い予感が当たり即座に兵に指示を出す
「動ける兵は正門に急げ、兵士じゃないものは眠り込んでいる兵を
水をかけて叩き起こせ、チャングイ将軍とゲルハート将軍を
優先して呼んで来てくれ、あとコルドバ陣営にも伝令を
私もすぐに正門に向かう‼︎」
正門を守る兵は僅かの数で頑張っていた、しかし敵の勢いに
正門が破られる寸前までおいつめられていたのだ
「く、くそ〜もうもたないぞ⁉︎」
そこに香奈が現れる
「皆の者ここが踏ん張りどころだ、すぐに援軍が来る‼︎」
香奈の声に士気が上がるアミステリア兵
「おぉ〜ロマーヌ様が来てくださったぞ⁉︎」
「プリンセスが来てくれたなら百人力だぜ‼︎」
「押し返すぞ、グランシアめ見てろよ‼︎」
グランシア兵士の何人かが正門以外からも壁を乗り越えて
次々と進入してくる それを見た香奈が
「チェンジ装備SS‼︎」
白い鎧に身を包んだ香奈がグランシア兵を次々と切り倒していく
その鎧と剣は薄っすらと白い光を放っていて今のような夜だと
幻想的ですらあった、その姿を見たグランシア軍が思わず怯む
香奈の鎧と剣はザラボルン国王から与えられた国宝で
アミステリアを建国した英雄”アミステリア・ウォーレンス”
が着けていた剣と鎧だと言われている、アミステリア国内では
英雄伝として年寄りから子供まで知られている物語なのである
英雄アミステリアは別名”白剣王”
と呼ばれていたのだ、香奈の爆発的な人気もこの白剣王”
の再来という触れ込みあってのことなのである
「よしいけるぞ、あともう少しだ押し返せ‼︎」
香奈の声にアミステリア兵の士気が上がる、眠り込んでいた兵士が
次々と戦闘に加わり戦局はアミステリアに傾きつつあった
その時香奈はまた違和感を感じて考える
『グランシア軍の攻撃があまり積極的じゃないと感じるのは気のせい?
後逃げたグランシア兵とデロルはどこに行ったの?
そもそも誰が逃したの?』
その不安が大きくなり頭の中で膨らんでいく、そこに聞き慣れた声がする
「嬢すまねえ遅くなったぜ‼︎」
「ロマーヌ殿戦況は⁉︎」
チャングイ将軍とゲルハート将軍が慌てて駆けつけて来た
「チャングイ将軍、ゲルハート将軍ここをお願いします
私は気になることがあるので少しここを離れますので頼みます‼︎」
香奈は全力で走りながら嫌な予感が当たらないで欲しいと願い
反対側の南門に向かう そして南門に着くとそこには目を疑う光景が
広がっていた グランシアの仕業と思われる数体の飛龍が
グランシア兵を乗せ上空から炎を吐いて街を焼いているのだ
他にも凶悪なモンスターが数体城壁を越えて街に進入して来ていた
悲鳴をあげて逃げまどう民衆 香奈は直ぐさま
「民衆は反対側の正門まで避難してください、ここは私が
食い止めますから‼︎」
巨大なモンスターが次々と人を襲い食い殺していき
飛龍が街をどんどん焼いていく
「あぁそんな・・・街が・・・みんなが・・・」
香奈が絶望感を味わっていた時、城壁の上から声をかけて来た人物がいた
「おやおや、やはりあなたが一番乗りですか!?」
振り向くとそこにはアミステリア内政の重鎮オディールと
捕虜となっていたグランシア国王の甥デロルが並んでいた
「オディール、あなたまさか!?」
香奈の問いに笑いながら答えるオディール
「あなたの想像通りですよ、私がグランシア軍を手引きしたんです
晩餐会の食事に眠り薬を混ぜたのも私です ここにいるデロル様との
盟約で私は明日からグランシアの幹部なんですよ、コルドバとの
同盟もあれだけ反対したのに締結されてしまいましたし
間に合って良かったですよ、そもそもグランシアのような大国に
逆らおうなんて馬鹿のやることです」
得意げに語るオディールを香奈が睨
「オディール‼︎あなたのせいで何人の民衆が死ぬと思っているの⁉︎」
「ただの民衆がどれだけ死のうと私になにか関係あるんですか?
まぁ負け犬の遠吠えとして聞いておきましょうかね、はっはっは」
オディールの高笑いを睨みながら見上げる香奈
しかしモンスター達は次々と街と民衆を襲っている
「
後で必ず殺してやるから待ってなさい‼︎」
そう言い残し一人でモンスターに向かう香奈 金色の体毛に覆われた
巨大なゴリラに攻撃を仕掛ける香奈
「ゴワアァァー‼︎」
悲鳴をあげて叫ぶ金色のゴリラ しかしダメージを与えるも
決定打にはならず手こずる香奈 それに上空の飛龍には攻撃の手段が
ないことをわかっている為に絶望感の中戦っているのだ
「どうしたら・・・どうしたらいいの?」
「やっぱりこっちだったか⁉︎」
聞き慣れた声に香奈が振り向くと拓人がそこに立っていた
「お兄ちゃん…なんでここに?街が・・・みんなが・・・」
思わず涙ぐむ香奈 そんな妹の姿を見て香奈の頭をなでながら
「なに泣いてんだここはお兄ちゃんに任せろ‼︎」
ニコリと笑う拓斗 そしてオディールの方を見て
「コラてめえら、よくも俺のカワイイ妹を泣かせてくれたな
絶対泣かせてやるから覚悟しろよ‼︎」
そのセリフを聞いてオディールが笑う
「あなたのせいで急いで計画を進めなければならなくなりました
まぁでも結果的には早いか遅いかの差でしかなかったですね
そこで二人仲良く死になさいな はっはっは」
その言葉を聞いて少し笑う拓斗、そして懐から毛糸玉の様な
アイテムを取り出す、そしてデロルの方をチラリと見ると
ボソリとつぶやく
「キャプチャー」
その毛糸玉を軽く投げると徐々に広がりながらデロルに向かって
伸び手足に巻きつく、暴れるデロルを尻目に糸がどんどん巻きついて
いきついにはデロルをミイラかミノムシの様にグルグル巻きにした
その後拓斗の手から一本出ている糸を引っ張るとグルグル巻きの
デロルは拓斗の足元に引き寄せられた、いとも簡単にデロルを
捕獲してしまったのだ、捕獲されたデロルは糸の中で
ウーウーうなっていた、そして拓斗がつぶやく
「これでよし、もうこいつにバレることはないな・・・」
少し呆気にとられていたオディールが叫ぶ
「今更デロル様を人質にとっても無駄だ、アミステリアを
滅ぼしてからゆっくり取り返せばいいだけの話だからな」
「チェンジ装備ドラゴン‼︎」
赤い鎧に身を包んだ拓斗を見て少し怯むオディール
そして香奈も不思議そうに
「お兄ちゃん・・・その装備は一体?」
「香奈なるべく俺から離れていろ、いいな」
拓斗の背中を見て香奈は昔を思い出していた 香奈がまだ小さい頃
野良犬に襲われそうになった時、兄が駆け付けて来て
同じセリフを言っていたのを・・・
「この状況でなにができるというんですか?あなたの顔は
もう見たくありませんからさっさと死になさい」
オディールがやや不機嫌そうに言い放つ、しかし拓斗はすでに
呪文の詠唱を始めていた
「炎の龍神 邪悪なるフォレリオガルンよその猛り狂う炎の意思を
我に授けよ 天空の彼方よりその熱き魂で燃やし尽くせ!!
シュメルファウス!!」
一瞬空が赤くなり色々な所から火の玉が飛来してくる
その火の玉は次々と飛龍や金色ゴリラを直撃し燃やし尽くす
「ギャギャァァ---!!」
「ゴオワァァーーー!!」
悲鳴をあげて焼かれるモンスター達 オディールが呆然として
言葉を失っている
「モンスターが・・・あれだけのモンスターが全滅だと!?
そんな馬鹿な・・・」
その間に香奈がモンスターのトレーナーを一人残らず切り倒していた
その時オディールは午前中にゲルハートがしていた話を思い出して
はっ!?とした
「ドラグナイト!?まさか貴様があのドラグナイトだというのか?
じゃあバルザークを殺したのもお前なのか!?そんな・・・」
拓斗が振り向き香奈に問いかける
「香奈、俺の正体がバレてしまった以上アイツを殺さなきゃ
いけないんだけどいいか?」
香奈が少し考えて軽いため息をつく
「しょうがないわね、いいわよ本当は裁判にかけて
極刑にしたかったんだけど」
オディールの顔から血の気が引く
「ちょ、ちょっと待ってください拓斗様!!お願いします命だけは
たく・・・」
オディールがしゃべり終わる前にはオディールの顔は吹き飛んでいた
しかしモンスターは全滅したが街の火はまだ燃え盛っている
その光景を呆然と見つめる香奈の頭に手を乗せて
「お兄ちゃんに任せろって、チェンジ装備SS!!」
拓斗の手にはフロストバスターが握られている
『やれやれコイツをこんなに早く使うことになるとはな・・・
そうそう力を加減しないとな』
拓斗がフロストバスターを軽く振る、すると空が霧に包まれ
どんどん街に降り注いでいくすると街の火がみるみる消えていった
呆気にとられる香奈
「お兄・・・今のは一体…」
「まあそんなもんだってことで納得してくれや」
香奈に笑いかける拓斗 あきれるような顔でうなづく香奈
「なるほどね、一か所に留まれないのはお兄の正体に関係してるのね
ドラグナイトが居たんじゃその国は全世界を敵に回すことに
なるもんね」
「まあそういうことだ、これは内緒だからな」
「じゃあ口止め料として今度来る時になんか高級アイテムでも
プレゼントしてよね」
「お前な・・・一応俺はこの国を守ったんだぞ!?」
「それはそれ、これはこれってね」
また悪戯っぽく笑う香奈 つられて笑う拓斗
「もう正門の方も決着がついている頃ね」
「あっちは俺の手助けはいらなそうだな
アミステリアの双璧もいることだし」
香奈は拓斗の腕に抱きつき上目使いで話しかける
「ありがとうお兄ちゃん、今回は本当に助かったよ」
「お前にそんなこと言われるの初めてだよな」
「そんなことないよ、昔私が野良犬に襲われそうになった時
言ってるよ」
「そうだったか?覚えてないが・・・」
「香奈ちゃんを守るのはお兄ちゃんの役目なんだって言ってたよ」
そう言って笑う香奈に照れくさそうな顔をして目を逸らす拓斗
そんな兄の態度に
「なんだったらまた香奈ちゃんって呼んでもいいよ
今回は特別に許してあげるから」
「誰が言うか恥ずかしい、二度と言わないからなそんなこと」
凍結した霧が降り注ぐ夜の街はどこか幻想的で
拓斗と香奈の二人はしばらくその光景を見ていた。
今回はホワイトソードプリンセスの最終章ですいかがでしたでしょうか、自分も妹がいますが実際の妹との会話はこんなもんではないですね(笑) あまり実体験は参考にはならなかったです、まだまだ続きますのでよろしくお願いします。