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ホワイトソードプリンセス 剛と速編

登場人物

沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている

マルコ…さらわれた姉を助けるため最強を目指している少年

グレンダイル将軍…コルトバ共和国の軍のトップで国内№3の実力者

ミケール将軍…コルトバ共和国最強の戦士

ロンダール国務大臣…コルドバ共和国の内政側のトップ

ラインハルト・カナ・ロマーヌ…白剣姫ホワイトソードプリンセスと呼ばれるアステリア公国最強の美少女剣士

チャングイ将軍…アミステリア公国の猛将、若いころは”暴走獣”と呼ばれた猪突猛進型の戦士でアミステリアの双璧と言われた一人、ゲルハート将軍とは何かと言い争うことが多い

ゲルハート将軍…アミステリア公国の知将、ナイトの称号を持っている程の手練れではあるが自分が最前線に出るのを良しとしない、計略やはかりごとが得意、アミステリアの双璧の一人

フリードリヒ・ド・ユリウス四世…コルドバ共和国の国王

ザラボルン国王…アミステリア公国の国王


いよいよデュエルと模擬戦の日となった 同盟への正式な話し合いは


明日アミステリア共和国のボレルガン城でおこなわれる 


しかし今は両軍共に今日の戦いの為だけに集中していた


コルドバ側も準備が着々と進み最初の陣立て勝負の模擬戦に向け


兵士達も気合が入っていた、いくら命のかかっていない模擬戦といえど


相手は宿敵と思っていたアミステリアである、負けたくないと


思っている兵士は多い、ましてや近年アミステリアには連敗続きなので


勝ちたい気持ちはより強い、兵士のそんな思いが渦巻く中


グレンダイルが拓斗に近づき問いかける


「拓斗殿今回はよろしく頼みます、何から何までお願いしてしまい


 申し訳ない」


「いえ今回は私の無茶なお願いから始まっていますからこのくらいは


 当然です、ところで今回の模擬戦にあたり例の要求は


 付け加えていただけましたか?」


「ああそれは書状にて明記しておいたよ、一つ目の


 ”武器と魔法は殺傷能力のない物を使用すること”以外は


 実戦形式でやらせてもらうということと二つ目の


 ”純粋な陣立て勝負ということなので指揮官は戦いに加わらない”


 というルールでいいのか?という確認だね


 両方とも先方からOKが出ているよ」


「ありがとうございます、あと陣立て勝負の指揮官の席には


 私じゃない者を立たせてください」


「えっ!?拓斗殿、今更指揮官変更といっても代わりが・・・」


その言葉に少し笑いながら謝る拓斗


「すいません言葉が足りませんでした、指揮官として支持を出すのは


 私ですが指揮官の席には別の人を使って欲しいのです


 できればアミステリアにも名前が知られている人ですといいですね


 少しでも相手を混乱させられればいいので・・・


 例えば内政のロンダール殿などですと最適です


 指揮官は横幅と奥行が3m四方で高さ2m程の台に乗って


 指示を出しますよね!?私はその下の台に隠れて指示を出します


 上の人はそれを聞いて全体に指示を出してもらえればいいんです」


その意見に驚くグレンダイル、しかし疑問点を聞いてみた


「しかし拓斗殿、台の下に隠れるとなると戦いの全体


 が見渡せませんぞ!?それで指示が出せますか?」


拓斗はにこりと笑い懐から怪しげな球体を出してきた 


その球体はピンポン玉くらいの大きさで深緑色の水晶のようであるが


中心に黄色い球体が1つ入っていてそれがゆっくり動いたり


止まったりを繰り返している


「拓斗殿なんですかなそれは?」


「このアイテムはこれを身につけている人の視界が


 別の人にも見えるというものです」


「へぇ~それは便利ですね色々な場面で使えそうですな」


その意見に苦笑いしながら答える拓斗


「いえそうでもないんですよ、このアイテムは付けている人と


 対象者が3m以内じゃないと見えませんし厚い壁なども


 突破できません」


グレンダイルは軽く笑いそのあと言葉を続けた


「わかりましたロンダール殿には頼んでおきます


 ひとつ聞いてもよろしいかな拓斗どの?」


「なんでしょうか?」


「この勝負の前にこのナシハーラ砂漠の風向きを随分と熱心に


 調べておいででしたが風向きなど調べてどうするのです?


 まさか模擬戦で火計なんて使いませんよね?」


「もちろんです、この砂漠では燃やすものもないですし


 そもそも火計なんか使ったら人が死にますから」


「ならば風向きなど調べてどうするおつもりかな?


 矢の流れとか飛距離計算ですか?」


グレンダイルの問いに首を振る拓斗


「このナシハーラ砂漠は見通しも良く遮蔽物しゃへいぶつも全くない

 

 平坦な場所なのでまぎれが少なく力通りに決まりやすい


 そうですよね?」


「そのとおりです、アミステリア側もそれを狙ってここを


 指定したんでしょうからね」


「まぎれが無いならこいつでまぎれを作ってやろうと思いましてね」


拓斗は懐からある物を取り出す、それを見て驚くグレンダイル 


「なるほど!?だから・・・あなたが敵でなくて良かったですよ」




アミステリア側も準備は整い、いつでも戦いにいどめる形に


なっていた、ロマーヌがチャングイとゲルハートに話しかける


「今日は勝ちましょう!!アミステリアの為にチャングイ将軍、


 ゲルハート将軍どうかよろしくお願いします」


深々と頭を下げるロマーヌ 少し微笑みうなづく両将軍


そして兵士に向かって口を開く


「やいお前ら!!今回の模擬戦は単なる演習でも


 交流の為のものではない、もしかすると本当の戦争より


 重要な戦いかもしれんのだ、絶対勝つぞ


 アミステリア軍の強さをコルドバの腰抜け共に


 思い知らせてやるぞ!!」


兵士達は大きな歓声あげた 続けてゲルハートも口を開く


「今回の戦いはチャングイ将軍の言われた通り


 非常に重要な意味を持つ、アミステリア公国の尊厳の為に


 国民の為にどうしても勝たねばならない


 誇り高きアミステリア兵として諸君らの奮戦を期待する!!」


また大きな歓声が上がる それが少しおさまった後ロマーヌ


が話し出した


「みなさん、今回私のせいでこの勝負負けられなくなってしまいました 


私に力を・・・皆さんの力を貸してくださいお願いします!!」


またもや深々と頭を下げるロマーヌ すると両将軍の時より


さらに大きな歓声が上がる


「やってやろうぜ、俺達が!!」


白剣姫ホワイトソードプリンセスの頼みを断ったら男じゃねーよ!!」


「俺達はどれほどロマーヌ様に助けられてきたと思ってるんだ


 今度は俺達が助ける番だぜ!!」


アミステリア兵は物凄い熱気でむしろ本当の戦争より士気が高かった


それを見てい両将軍は


「俺達の出る幕じゃなっかたな」


「ええ、みんなロマーヌ殿の力になりたいんですよ


 本当に国民に愛されているんですね・・・」


反対側のコルドバ軍にもアミステリア兵の熱気が伝わってきた 


それを見ていた兵士達がつぶやく


「なんだよあいつら!?いつもの戦いより気合入ってるぞ!?」


「なんなんだ?なんであいつらはあんなに燃えてるんだ?」


そこにグレンダイルと拓斗が兵の前に現れる


「みなさん今回陣立て勝負の模擬戦で指揮をとらせていただく


 沢渡拓斗と申しますよろしく」


兵の間でざわつきが起こる 兵達はみなグレンダイル将軍の指揮だと


思っていたので、見ず知らずの若者がいきなり現れて指揮をとると


急に言われても納得できずにいた


「みなさん私の事を見て不安になる気持ちもわかりますが


 そこは一旦飲みこんで今回の作戦を聞いてください


 あちらの士気の高さを逆に利用します よろしいですか?


 では説明します・・・」


拓斗の説明が終わると兵士の間でざわつきがおこる


「おいそんなことできると思うか?」


「でも普通に戦うのではアミステリアには勝てないしな


 一か八かで面白いんじゃないか!?」


「しかしこの模擬戦は凄く重要だって聞いてたけど


 こりゃあ一発勝負の大博打だな!?」


「グレンダイル将軍も信頼してるみたいだしジャンゲルガー一味を


 壊滅に追い込んだ人らしいからな・・・いっちょやるか!?」


コルドバ軍も徐々に盛り上がってきたがアミステリアとは


全く違う士気の上がり方であった


いよいよ模擬戦の開始が近づいてきた、アミステリア軍は


ラインハルト・カナ・ロマーヌを指揮官に チャングイ将軍の率いる


左翼に400人、ゲルハート将軍の率いる中央本隊が400人、


そして本来ロマーヌが率いている兵の精鋭を選抜して作った


右翼の200人の三軍の構成である、対するコルドバ軍は


ミケール将軍率いる右翼に300人、グレンダイル将軍率いる中央本隊が


400人、そしてブリンダル将軍というコルドバ軍№3の人物が


300人を率いて左翼を務める 最後にコルドバの指揮官の台に


見慣れぬ老人が立ったのであった


ざわつくアミステリア軍 意表を突く人選でアミステリアは動揺した


「おいあの爺さん誰だ?」


「コルドバとは何度も戦っているがあんな奴見たことないぞ!?」


「まさかド素人をつれてきたんじゃないだろうな?


 やけくそになったのか!?コルドバの奴等ナメやがって!!」


動揺したのは両将軍やロマーヌも同じだった 


チャングイがゲルハートに尋ねる


「おいゲルハート、あの爺さんは誰だ?昔の将軍とかなのか?」


「いえ、あれはコルドバの内政大臣のトップで


ロンダールという人物ですが・・・私もロンダールの武勇は


全く知りません、一体何が何やら…」


そこにロマーヌが一括する


「皆の者落ち着け!!わからない事をいくら考えても意味がない


 それこそ相手の思うつぼだ、落ち着いて冷静に対処すればよい


 そもそもあの老人がそれほど優れた指揮官であるならば


 今まで戦場に出てこなかった説明がつかない


 動揺すればするほど相手を利する行為だと知れ!!」


チャングイとゲルハートもロマーヌの発言で落ち着きを取り戻す


「確かに嬢の言うとおりだな、考えてもしょうがないことは


 考えない、正面の敵をぶっ潰すだけ・・・その通りだ!!」


「私としたことが見苦しい真似を・・・相手はマトモに当たったら


 勝てないから策をろうしたまでのこと


 私まで策にはまってどうするというのか!?さすがはロマーヌ殿」


アミステリア軍の動揺が収まったころ模擬戦開始の合図が鳴った 


すると開始直後ミケール将軍の率いる右翼兵がアミステリア軍の左翼を


一斉に挑発した


「こらアミステリアの臆病おくびょう軍共、怖くなければ


 かかってこいや!!どうしたやっぱり怖いかこの腰抜け共!!」


これを聞いたチャングイは怒り心頭であった


普段腰抜け呼ばわりしているコルドバ軍に逆に


腰抜け呼ばわりされたのである


「この糞野郎ども誰に向かって吠えてやがる!!


 本気でぶっ殺してやるからそこを動くなよ!!」


チャングイを先頭に左翼軍400人がコルドバの右翼軍に突っ込む


ロマーヌは相手の明らかな挑発行為にチャングイを止めようか?


と迷ったがあえて止めなかった コルドバの右翼軍は横に広がり


半包囲で迎え撃とうとする、しかしそれを見たロマーヌはクスリと笑う


「無駄ですよ、チャングイ将軍の突撃を半包囲で受け止めようとする


 ならば、あの倍の数は必要です、あれでは包囲する前に食い破られる


 のがおちです」


その時コルドバ軍の指揮官ロンダールが叫ぶ


「今だ例の物を!!」


それを合図にコルドバ軍の右翼軍と中央軍の兵が一斉にしゃがみ懐から


何かを取り出す、するとそこから見る見る内に煙が広がっていき


それが微風に乗ってコルドバ軍の中央軍と右翼軍を覆い隠す 


ゲルハートが驚いて

「な!?あれは煙幕ですか??これでは全く


 敵も味方も見えませんよ!!」


ロマーヌは焦っていた、遮蔽物が無くまぎれがないからこの場所を


選んだのに相手が無理やりまぎれを作ってきたのだ


『どうする?今煙幕によってかくれているのはチャングイ将軍率いる


 左翼軍400人、対して相手のコルドバ側は右翼軍300人と


 中央軍400人・・・相手の軍全てがチャングイ将軍の左翼に


 当たっているのなら視界も悪い中で敵軍に半包囲から


 攻撃されている可能性が高い そうなると早急に援護に


 向かわなければ我が軍の左翼があぶない


 しかし煙幕の中で戦っているのが我が軍の左翼と向こうの


 右翼軍だけならば 視界の悪い中にわざわざ突っ込んでいけば


 煙幕の中で待ってましたと迎撃態勢をしいている相手に


 強烈な反撃を食らうのは必至、つまり単なる自殺行為でしか


 ないってことね・・・』

ゲルハートも同じことを考えているようでロマーヌの指示を待っている 


ロマーヌは相手の出方を見るために中央軍に指示を出す


「ゲルハート将軍、中央軍を敵の中央に向けて進軍してください!!


 ただし進軍速度は通常よりも遅めでお願いします」


ロマーヌは中央軍を進めることによって相手の動きを見極め


突撃するのか煙幕が晴れるのを待つのかを判断することにした


その動きに呼応するかの様に相手指揮官ロンダールが指示を出す


「左翼軍左に展開、半包囲陣を引け 中央軍は迎撃態勢を整えよ!!」


コルドバ左翼軍は左に展開し半包囲の体制を引く、つまりいらっしゃいと


言っているのである ロマーヌはさらに迷う、なんらかの動きは


あるだろうとは思っていたが、コルドバ軍が露骨な動きをしてきたのだ 


もし本当にロンダールの指示通り中央軍がいたら飛んで火にいる夏の虫


である しかし中央軍がチャングイ将軍の左翼に攻撃していたら


中央はがら空き状態で簡単に中央を突破し敵戦力を分断できる 


つまり勝ちが確定するのだ これほど早くに二者択一を迫られるとは


思ってもみなかった為、迷うロマーヌ 結局煙幕が晴れるのを待つことに


した、今の時点で勝ち負けの二者択一をするよりも左翼軍が


集中攻撃を受け大きいダメージを受けていた場合でも


チャングイ将軍ならば踏ん張っていてくれているはず 


また立て直して仕切りなおそうと考えたのである 


徐々に煙幕が晴れてきてアミステリアの左翼軍の戦況が


わかっってきた、しかしそれを見たロマーヌとゲルハートは


愕然とした チャングイ将軍はまだがんばっていたが


将軍の周りには味方の兵が十数騎しかおらず 


比べて敵はほぼ無傷なのである、地面には死んではいないものの


うなって倒れているアミステリア兵士の山だった 


ロマーヌはすぐさまチャングイを救出の為の援軍を差し向けるが


コルドバ側はチャングイ救出を無理に阻止せずその周りの兵だけを


確実に攻撃し着実に数を減らしていった なんとか戻ったチャングイに


一体何があったのかロマーヌとゲルハートが詰め寄る


「いやーやられた面目ない、チクショウあいつら


 全然正々堂々と来ないんだクソー!!」


「一体あの煙幕の中で何があったのですか?」


ゲルハートが食い気味に聞く チャングイは興奮しながら話し始めた


「俺たちが突撃したあと、いきなりまわりが煙で包まれて


 視界が悪くなったんだよ、そうしたらそこらじゅうで襲撃だ!!


 やられた!!反撃しろ!!って声が聞こえてな


 みんなパニックになってやみくもに攻撃し始めた


 俺がいくら落ち着けといっても中々落ち着かなくてな」


ゲルハートが話し出す


「それはおそらく敵の作戦ですね、その声も敵の物だったんでしょう


 視界が悪いのを利用して同士討ちを誘ったんですね」


「俺もすぐに気が付いて攻撃をやめるように言ったんだ


 こちらが見えないってことはあちらも見えないってことだからな


 ようやく落ち着いてきたかと思ったら今度は本当に敵の攻撃が


 来たんだ!?あの視界の悪い中こちらの兵士だけ確実に攻撃して


 きやがった」


「どういうことでしょう?向こうだけ見えているとは?」


ゲルハートの問いにチャングイが下を指さす


「下ですか?・・・アッ!!」


コルドバ側の右翼軍と中央軍の足元を見ると


靴に赤く塗料が塗ってあるのだ


「あいつらおそらく元々靴に塗料を塗っていて靴の色と


 同じ布かなにかで隠していたんだと思う、最初から


 あんな靴を履いていたら誰か気付くだろうからな!?


 煙幕を仕掛けた時に一斉に布をはがし足元だけ見て


 攻撃してきやがったんだ、向こうだけ見えてる状態で


 中央軍も加わって攻められたんだ、全滅しなかったのが


 不思議なくらいだったぜ・・・」


ロマーヌは声も出なかった 現時点でアミステリア兵約600人に対して


コルドバ兵約950人 チャングイ将軍やゲルハート将軍も奮戦するが


コルドバ軍は数の利点を活かし敵兵の数を減らすことのみに集中した


チャングイ将軍にはミケール将軍が、ゲルハート将軍には


グレンダイル将軍が当たりとにかく時間稼ぎに徹したのだ 


他の兵を2対1で攻撃し確実に数の差を広げていくコルドバ軍 


最後はチャングイ将軍を20人がかりで四方から攻撃し


コルドバ軍の勝利で終わった 


模擬戦で傷ついた兵士を両国の魔法使いが回復魔法で癒す


チャングイ将軍も回復を受けながらロマーヌに話しかける


「すまねえ嬢、お前の為に勝ちたかったけどよ見事にやられちまった


 でもよここまで見事にやられると逆にスッキリするぜ


 戦場なら死んでたんだからな」


「いえ謝るのは私の方です、本当にすみませんチャングイ将軍…」


ゲルハートも話に加わる


「ロマーヌ殿、今回の戦いは誰がやっていても勝てなかったでしょう


 煙幕の利用なんて1000人対1000人の模擬戦だから出来たことであって


 本番ではまず不可能なんですから気に病むことはありません


 しかし今回は完敗です、こんな負けは初めてですよ


 模擬戦で良かったと思いましょう」


「そう言っていただけると気が楽になります


 ありがとうゲルハート将軍」


ロマーヌの無理に笑う姿に一瞬ドキリとするゲルハート将軍であった、


チャングイが真面目な顔をしてロマーヌに話しかける


「でもよ嬢、今度が本番だぜ、俺を倒した嬢が負けるとは思わないが


 連敗はさすがにな・・・」


ゲルハートが続ける


「その件ですが先ほど向こうの陣営を見ていましたら


 指揮官の下の台からマント姿の若い男が出てきました


 おそらく指示を出していたのは彼でしょう


 ロンダールではありませんね」


「くそーこっちは最初から振り回されっぱなしってことか!?


 一体何者なんだ?」


「多分デュエルもその人物が出てくるはずですご注意を」


開始時刻が迫りロマーヌがデュエルに向け精神集中をしているところ


「デュエルの開始まであと3分です、両選手準備の程を!!」


ロマーヌはあまり相手を気にしない様にあえて見ないようにしていた


『相手が誰でも関係ない、自分の力を出し切るのみ!!』


一方コルドバ側は初戦の模擬戦の勝利で盛り上がっていた 


デュエルに向けて準備をしている拓斗にグレンダイルが話しかける


「拓斗殿、模擬戦の采配お見事でした、デュエルも


 頑張ってください信じています」


グレンダイルの激励の言葉にうなづく拓斗、マントを脱ぎ


デュエル用の殺傷能力の無い剣を渡されると2,3度軽く振ってみて


改めて感触を確かめる そこにデュエル開始の時刻が知らされた


「時間になりましたので両者中央へおこしください!!」


係員の声に先に動いた拓斗が試合会場の開始線まで来る


ロマーヌはまだ精神集中しているので下を向いたまま背中を向けている


『あれが白剣姫ホワイトソードプリンセスか?意外と小さいな…』


拓斗も精神集中の為目を閉じ開始を待つことにした


ロマーヌは書状の件から相手にやられっぱなしな自分を悔いていたが


そこで意識しすぎて空回りしないようなるべく直前まで相手を


見ないようにしていた、だから試合開始の集合合図にも


ワザと遅れて動かなかったのだ


「アミステリアの代表者の方、中央に集合願います」


係りの者から再度の呼び出しにようやく動くロマーヌ


直前まで相手を見ないよう下を向き試合開始線までたどり着く


集中力を最大まで研ぎ澄まし無の心境で挑む準備は整った


「それではデュエルを開始します両者構えてください!!」


両者が精神を落ち着かせて目を開けた、その時初めて両者は


お互いの顔を確認する、と同時にお互いが衝撃と動揺で


先ほどまでの集中力は吹き飛んだ


「な、香奈?なんでお前が!?」


「お兄ちゃん、どうしてこんな所にいるの!?」


周りの人たちはなにがおこっているのか全くわからないので


ざわつき始める


「なんでおにいがコルドバの代表で出てくるのよ!!」


「それはこっちのセリフだ、なにやってるんだお前!?」


そんな二人を遠目で見ていたチャングイとゲルハートが


心配そうに見つめる


「なあゲルハート、会話は聞こえないがなにか言い争っているな」


「えぇ、あの感じですと、どうやら相手と知り合いなのか


 もしれませんね・・・」


ロマーヌこと香奈は頭を抱え考え込む そこに拓斗が話しかける


「おいどうするんだ?本当に俺とデュエルするのか?」


「ちょっと待ってよ、今頭が混乱してるんだから・・・


 私も立場上戦わないわけにはいかないのよ、でも今すぐは無理


 5分時間をちょうだい・・・」


「わかった、俺も集中力切れちゃったしな5分だな」


お互い仕切り直しということで一旦各陣営に引き返す 


チャングイとゲルハートが心配そうに迎える


「なにがあったんだ嬢、あいつになにか言われたのか?」


「会話は聞き取れませんでしたけど相手となにやら


 お知り合いなのですか?」


香奈は少しの沈黙のあと申し訳なさげに話し出した


「実は・・・相手の代表なのですが・・・私の兄なのです」


チャングイとゲルハートが絶句する しかし気を取り直して聞き直す


「兄?嬢の兄ちゃんってことか!?そんなことあるのか?」


「あの様子ではお互い知らなかったようですが・・・しかしどうして?」


香奈は首を振り


「わかりません、ただ兄は剣の修行に出ていて私の事を


 全く知らなかったようです、私も兄と会うのは久しぶりで・・・」


「しかし嬢、お前さん兄貴と戦えるのか?無理なら代わってやるが」


「いえ、私が戦います いや戦わせてください!!」


「ロマーヌ殿、兄君の剣の腕はどうなのですか?」


香奈は目を閉じ静かに語る


「兄の方が強いです、私は兄に一度も勝ったことがありません」


チャングイとゲルハートが息を飲む そこに香奈が話を続ける


「しかし最後に戦ったのは1年以上前です、あれから私も


 強くなったと信じています、何より今回は負けられないですし


 兄に勝てるとしたら私しかいないと思っています」


その言葉を聞いてチャングイとゲルハートも安心した


「あぁ行って来い嬢!!俺は嬢が一番強いと信じているぜ!!」


「元々あなたが勝てないなら誰にも勝てないでしょうからね


 悔いの無いようぶつかってきてください」


香奈は力強くうなづいた、一方コルドバ陣営に引き返してきた拓斗に


グレンダイルが駆け寄る


「どうしました?なにかあったんですか拓斗殿??」


拓斗が語りづらそうに口を開く


「実は私も会うまで気が付かなかったのですが・・・


 相手の白剣姫ホワイトソードプリンセスは私の妹でして・・・」


グレンダイルはあまりの事実に混乱していた


「は?妹?ラインハルト・カナ・ロマーヌ殿が?」


申し訳なさげにうなづく拓斗


「どうやらラインハルト・カナ・ロマーヌというのは改名でして


 あいつの本名は沢渡香奈と言います…」


グレンダイルは理解しきれずにいたが改めて拓斗に聞き直す


「そ、それで拓斗殿デュエルの方はどうなるんですか?」


「あいつは戦うと言ってます、立場上戦わないわけにはいかない


 でしょうからね」


「それで拓斗殿、妹君の腕の方はどうなんです?


 その・・・拓斗殿と比べて」


拓斗は少し思い出すように考えてから答える


「あいつはいわゆる剣の天才です、正直今戦ったら


 勝てるかどうかはわかりません」


「そうですか…やりにくい勝負でしょうが頑張ってください


 我々は拓斗殿に全てを任せたのですからどんな結果になっても


 文句を言える立場ではないですからね」


グレンダイルはやさしく微笑んだ、5分後両者が再び試合開始線に向かう


「もういいのか香奈?」


「うん、待たせたわねもう大丈夫よ、今日こそ勝たせてもらうわよお兄」


その言葉に微笑む拓斗 拓斗は思い出していた・・・


以前に師匠である東条健次郎が言った言葉を…


『拓斗君ちょっといいですか?香奈君のことで話があるのです 


 あの子は天性の才能があります、ちゃんと精進していけば


 日本一の剣士になることすら夢ではありません


 しかしあの子には執着というか勝ちたいという強い意志を感じません 


 おそらく今までもすぐなんでもできてしまって努力や執着とは


 無縁だったのでしょう しかしこんなところで満足させてしまっては


 いけません、あなたが大きな壁となって立ちふさがってやって


 ください、香奈君の為ですよろしくお願いします』


「両者とも中央線まで来てください、デュエルを始めますので


 両者構えてください」


すると拓斗と香奈は背筋を伸ばしながら膝を曲げ剣を合わせる


いわゆる蹲踞そんきょの姿勢になった チャングイとゲルハートは


その見慣れない姿勢に


「おいゲルハート、あれはなんだ?あんなの見たことないぞ⁉︎」


「私も見たことありません、おそらく彼らの剣術流派の


 開始様式のようなものなんでしょう」


係員がややとまどいながらも開始の合図を出す


「それでは始めてください‼︎」


2人はスッと距離をとり気合いの声を出す


「トオォォアァァァーー‼︎」


「イイヤアァァァーー‼︎」


2人の声に驚く一同 チャングイも見たことない香奈の姿に


驚きを隠せない


「あんな嬢見たことないぜ、ズゲエ気合い入ってるな」


香奈は平正眼【中断】に構えて拓斗の喉元に狙いを定める


拓斗も始めて見る鋭い視線と気合い 拓斗は少し嬉しかった


『ようやく本気になったという訳か・・・一瞬たりとも気を抜けないな』


香奈の剣の特長は速さである、剣速と足さばきが抜群に速いのだ


今まではその速さと手数で圧倒する戦い方をしてきたのだが


今回は違う、狙いすました一撃で決めようと最大限に集中している


対して拓斗は火の構え【上段】に構える、師匠の東条健次郎と同じ


上段の構えだ 東条健次郎は剛剣と言われ日本一にもなった剣士である


その構えを見て香奈は思った


『本当に先生とそっくりな構え・・・今まではこれがどうしても


 崩せなかった 先生は日本一になった剣士、お兄ちゃんは


 全国大会で準優勝した程の剣士だからしょうがない・・・


 って諦めていたけど 今は、今回は諦める訳にはいかないのよ』


両者は中々動かない 距離をはかりながらジリジリと間合いを詰める


拓斗と香奈 チャングイがゲルハートに話しかける


「嬢の構えがいつもと違う、普段はもっと攻撃的な構えで


 スピードと手数で圧倒してくるんだが、今回はお互い


 一撃で決めるつもりのようだな、勝負は一瞬で決まるはずだ」


両者が距離を計りながらジリジリと間合いを詰める 


開始前あれだけ大きかった歓声が一気に静まり空気が重くなる


しばらく静寂が続く両軍の兵士が息を飲む中 拓斗と香奈が


ほぼ同時に動く、香奈が拓斗の喉元に凄まじい速度で突きを放つ 


拓斗は香奈の脳天に凄い勢いの剛剣を振りおろす


静まりかえっていた両軍兵士が身を乗り出して結果を覗き込む 


香奈の突きは拓斗の首の真横を通過していた拓斗は寸前で


首をひねってかわしたのである、しかし完全にかわせた訳ではなく


首筋に一本の赤い傷が残っていた 拓斗の剣は完全に香奈の脳天を


とらえていた直撃する寸前で止めているのでダメージは無いが


あのまま止めていなければデュエル用の剣とはいえ


大けがをしていたかもしれなかったほどだ 勝負は拓斗の勝利となっ


決まった瞬間静まりかえった周りも一斉に大歓声へと変わった 


チャングイとゲルハートも暖かい目で見守っていた


「また負けちゃった・・・やっぱ強いねお兄


 今日はいけると思ったんだけどな」


「いや今回は紙一重だったよ本当に凄い一撃だったぜ


 強くなったじゃねーか香奈」


拓斗のその言葉に思わず涙があふれる香奈


しかしその涙を拓斗に見られたくなかった為、逆方向を向いて話す香奈


「私は戻らなきゃいけないから帰るね、今日の夜9時に町の西側にある


 フランベという店に来て、色々聞きたい事もあるし」


「あぁわかった、俺も聞きたいことはいっぱいあるからな」


拓斗がコルドバ陣営に帰ると兵士達に大歓迎で迎えられた


「凄いぞあのアミステリアに連勝って!!」


「コルドバ万歳!!みたかアミステリア!!」


グレンダイルが優しい笑顔で迎えてくれた


「お疲れ様でした拓斗殿、素晴らしい試合でしたありがとうございます」


グレンダイルの言葉に拓斗が答える


「今回はたまたまうまくいきました、でも本番は明日です


 明日の話し合いには私も同席させてください」


「もちろんです、来たくないと言われても無理やり連れて行く


 つもりでしたから」


とグレンダイルは笑った




アミステリア陣営に帰る香奈は気が重かった、自分としては


力を出し切って負けたのだから悔いは無かったが結果的に


コルドバ相手に連敗を喫することになってしまったからである


みんなに精いっぱい謝ろうと思っていた時 


全員が香奈を拍手で迎えたのである


「こら嬢、そんなしけたツラしてんじゃねーよ


 あれ程の戦いで負けたんだ誰も責めないぜ」


「そうですよロマーヌ殿、アミステリアは今まで貴方に


 どれだけ救ってもらったと思っているんですか?


 相手の兄君が強すぎました、でもあの戦いを見て


 あなたを責める恥知らずはいないでしょう


 本当にお疲れ様でした」


他の兵士も皆香奈を称える声援ばかりだった、連敗に終わり


どれほど責められても仕方がないと思っていた香奈は涙が止まらなかった 

「みんなやさしすぎます、最高司令官が連敗してしまったんですよ!?


 もっと責めてくださいののしってくださいお願いします


 私はみなさんに申し訳ない、顔向けできない事を


 してしまったんですから・・・」


「嬢を責める奴がいたら俺が許さねえよ、多分みな同じだぜ


 みんな嬢の事が好きなんだよ」


チャングイ将軍のやさしい言葉に涙を流しながら


精一杯笑顔で返すしかなかった香奈だった




祭りのような昼の騒ぎから一転静寂の夜が訪れた


コルドバ共和国の人間は明日の会議に臨む一部のメンバーを残し


皆コルドバに帰って行った グレンダイルを含め主要幹部は


アミステリア側が用意した宿に滞在することとなった


さすがに豪華な造りで国賓を迎えるのにふさわしい建物である


周りはアミステリアの警備兵が警護をしていて


その兵士達にはピリピリとしたムードが漂う 


そんな中、拓斗は香奈との約束の場所へ向かうため


宿をこっそり抜け出す 


「名前は確かフランべって言ってたな…」


拓斗が町をうろつきながら店を探す、道行く人に訊ねると


その店はすぐに見つかった 中に入ると意外と広く大勢の人がいた


食事をする者、酒を飲んで騒ぐ者、一人紅茶を飲みながら


本を読んでいる者それぞれであった 拓斗はあいている席に座ると


飲み物を注文し周りを見渡す、その時拓斗に声をかける男の声がした


「おい兄ちゃん、あんた今日のコルドバの代表者だろ!?」


振り向くといかにも力のありそうな男が酒臭い息を吐きながら


赤ら顔で話しかけてきたのだ 拓斗はどう返事するか迷ったが


正直に答えることにした


「ああそうだけどなにか?」


それを聞いたその男は拓斗の背中をバンと叩き笑い始めた


「はっはっは、やっぱそうか!?俺も今日アミステリア側の兵士として


 あの場にいたんだよ!!すごかったな兄ちゃん、後で聞いたんだけ


 どあんたあのロマーヌ様の兄貴なんだって?」


拓斗は少しホッとして答える


「ええまぁ・・・いつも妹がお世話になってます」


「なにいってるんだ!?ロマーヌ様がどれほど我がアミステリアの


 力になってくれているか、国民に愛されているか知ってるか?


 今じゃ国王の名前を知らなくても白剣姫ホワイトソードプリンセス


 の名前を知らない奴はいないって言われてるんだぜ!?」


その男は急に立ち上がり周りに向かって語りだした


「おいみんな聞いてくれ!!ここにいる兄ちゃんはな


 あのロマーヌ様の兄貴なんだ!!しかもあのロマーヌ様より


 強いんだぜ!?」


店の中はあっと言う間に騒ぎになり拓斗の周りに人だかりができた


皆、熱烈に歓迎してくれるのだ


「我らが姫に勝つなんて本来なら生かして帰さないところだが


 姫の兄貴ってならしょうがないわな」


「にいちゃんあんたもアミステリアに来いよ歓迎するぜ‼︎」


「我らがロマーヌ様に乾杯⁉︎ついでににいちゃんも飲めやおごるぜ⁉︎」


香奈がいかに愛されているかわかり嬉しかった


そして若い女性の3人組が現れ拓斗に近づいてきた


年は25歳ぐらいで皆美人である


「あなたさまはあのロマーヌ様の兄君と伺いましたが」


その問いにやや緊張気味で答える拓斗


「あ、はい拓斗と申します」


「あのロマーヌ様より強いんですって?凄いですわ尊敬いたします」


「もしよろしければ今度2人でお食事でもどうですか」


3人組の中の金髪でウェーブのかかった髪の美女が拓斗に話しかける


「何抜け駆けしてるのよ⁉︎この後ぜひ私とお酒でもどうですか?」


今度は栗色のショートヘアの美女が拓斗を誘う


「やめなさいよ2人とも拓斗様が困っておいでじゃないの


 すみません連れが失礼な真似を・・・」


今度は黒髪ロングの美女が座っている拓斗に顔を近づけて話しかける


そして離れ際拓斗の耳元で


「よろしければ今晩ご一緒にどうですか」


と甘くささやく それを聞いた栗色の髪の美女が拓斗に抱きつき


「拓斗様は私が誘ったの、あなたに興味はないそうよ」


「なんですって⁉︎もういっぺん言ってみなさいよ‼︎」


「あなた達殿方の前ではしたないわよ、やはり拓斗様に


 似合うのは私だけかしら」


美女達が拓斗を巡って言い争う中 拓斗は横から抱きつかれた美女の胸が


頬に当たりなんともいえない感情になっていた


「ちょっと喧嘩は辞めてください、エヘエヘ・・・


 話し合いで・・・デヘヘへ・・・」


その時”パーーン‼︎”という音が響き拓斗の後頭部に衝撃が走った


「痛ってぇ〜なんだ一体⁉︎」


振り向くとそこには冷たい目で拓斗を見下ろす香奈の姿があった


「なにをしているのかしら?お・に・い・さ・ま」


その瞬間店の中が大歓声に包まれた


「プリンセスだ、プリンセスが来た‼︎」


「本物のロマーヌ様だ、おい嘘だろ⁉︎」


「いつも応援してますロマーヌ様、握手してください」


店中の人間が香奈の周りに集まる、さっきまで拓斗に言い寄って


きていた美女3人組さえ拓斗を放ったらかし香奈の方に行ってしまった


「あぁロマーヌ様 本当にお美しい、こうしてロマーヌ様に


 お会いできるなんて私達はなんて幸せなのかしら」


香奈は苦笑いしながら皆の声援に答える


「ありがとう、ありがとうごさいます・・・」


キリがないので香奈が奥のカウンターにいる店の主人に大声で話しかける


「マスター上の個室つかわせてね」


店のマスターは手を上げてこたえた 二階の個室に入り二人っきりに


なると香奈は”ふう〜”と大きく息を吐いた


それを拓斗がニヤケながら見ていた


「香奈、お前本当に国民的英雄なんだな」


香奈は個室の机の上に上半身うつ伏せになって


「やめてよ~物凄い疲れるんだから・・・誰も見てない時くらい


 リラックスさせて・・・」


「どっちかというと無関心無頓着ってのがお前のスタイルだったのにな」


「そうよ、本来向いてないのよ私には・・・」


「じゃあ嫌なのか?今の環境が」


「嫌じゃないわよ、むしろ楽しいわよ みんないい人でやさしいし・・・


 でもちょっと疲れるのよ、わかるでしょ」


拓斗は香奈の言葉に少し笑いその後真剣な顔で聞く


「ところで香奈、父さんと母さんはどうした?一緒ではないのか?」


その質問に首を振る香奈


「私はアミステリアに所属してたから飛ばされた時、直接ここに来のよ


 だからパパと、ママのことは全くわからないの、調べようもないしね」


「そうだよな・・・」


そして香奈がギロリと拓斗をにらみ話し始める


「ところで、なんでお兄がコルドバの代表なのよ!?」


「まあ色々あってな・・・」


偶然知り合ったマルコの姉の救出の為にアミステリアとの


同盟を発案したことを話した


「なによそれ!?まるっきり個人的な事情じゃない


 気持ちはわかるけど 巻き込まれたコッチの身にもなってよ‼︎」


「わるかったよ、でもコルドバとアミステリアの同盟は


 お互いにとって悪い話じゃないだろ⁉︎」


「そりゃあそうだけどさ・・・そういえばあの書状のカラクリを


 見破ったのもお兄でしょ?」


「やっぱアレはお前が考えたのか、あやうく引っかかるとこだったよ」


「逆に追い込まれちゃって大変だったのよ‼︎コッチは」


「わるかった、わるかった相手が香奈だとは知らなかったからさ


 そういえばお前 ラインハルト・カナ・ロマーヌ って


 名乗ってるんだな!?ラインハルトって確かお前の好きだった


 アニメの主人公だろ?ロマーヌはその相手役のヒロインだっけ?」


それを聞いた香奈は顔を真っ赤になった


「いいじゃない別に、ゲームの名前なんてそんなもんでしょ!?


 なんでそこをいちいち指摘するのよ、相変わらずデリカシーが


 ないわねお兄ちゃんは‼︎」


香奈の反応があまりに面白かったのでまたこの事をからかおう


と心に誓う拓斗だった そんな拓斗を見て香奈が


「また良からぬこと考えてるでしょ、昔から私が恥ずかしがると


 やたら喜んだし、だからあんないやらしい作戦考えるのよ


 なによあれ⁉︎コッチが中央突破したらどうするつもりだったのよ」


「どうするもこうするも中央突破されたらそこで試合終了だよ


 わかるだろ?」


「はっ、そうよねお兄ちゃんは、昔からそうでした」


再び机にうつ伏せになる香奈 そんな妹の姿を見て


「でもさお前強くなったな、凄かったよあの突き」


香奈はムクリと起き上がりしみじみと話し出す


「でも結局勝てなかった・・・あ〜あこんなことならもっと


 一生懸命やれば良かったな剣道」


「一生懸命やってなくてアレだからな、先生が気にする訳だよ」


香奈はビクッとして聞き直す


「先生が私の事を言ってたの?」


「ああ、最後までお前の事を心配してたよ、俺の顔を見るたび


 ”香奈君は元気でやってますか?剣道は続けてくれてますか?”


 てな 正直俺もみゆきも焼けたぜ」


香奈は口に手をやり涙が溢れてくる


「だって・・・だって私、どうしてもお兄ちゃんとみゆきさんに


 勝てなかったから・・・」


「お前週に2回道場に来るだけだったじゃねーか


 俺とみゆきが毎日朝から晩までどれだけ竹刀振ったと思ってんだ!?


 それにな俺とみゆきは先生から直々に言われていたんだよ


 香奈を相手にする時は必ず勝てとね」


「なんで先生がそんなことを!?」


「今だから言うがお前の為だ、なんでも飽きっぽいお前は


 もし俺たちに勝ったらそれで満足して剣道を辞めてしまうかもしれない


 と思ったんだよ、先生は言ってた、自分が教えてきた生徒の中で


 香奈が1番才能があると、日本一の剣士になれると


 だからこんなところで満足させるなってな」


香奈が大粒の涙を流す さらに拓斗が続ける


「考えてもみろよ週2回の練習しかしない年下のお前が


 毎日猛練習してる俺達にまがりなりにも渡り合っていたんだから


 特にみゆきはな・・・」


「なに?みゆきさんがどうしたの?」


「みゆきはおじいちゃんである先生に憧れて剣道始めたんだ


 大好きなおじいちゃんに認めて欲しくてな


 それが孫である自分よりも香奈の方が才能があると言われたんだ


 香奈の為に勝てと言われたんだ もちろん先生は


 2人が切磋琢磨して高め合っていければいいと思って


 言ったんだろうけど、でもみゆきにしてみたら自分は香奈の


 当て馬扱いにされたと思ったかもしれない 」


香奈には思い当たるフシがあった、普段あれだけ優しいみゆき先輩が


試合になると鬼気迫る勢いで攻めてくる、気迫で負けてしまうのだ


当時は全国に行くような剣士は違うな・・・ぐらいにしか


思ってなかったのである 香奈は先生とみゆきに申し訳ない気持ちで


一杯になった


「結局俺もみゆきも先生以外から剣道教わる気になれなくて


 辞めちゃったけどな・・・」


香奈は涙を拭き心に誓う


『私はこの世界で一番の剣士になる』と


「じゃあお兄、私もう戻らなきゃいけないから、明日の調停でね」


拓斗が立ち上がった香奈の手をつかみ引き止める


「明日のことだけどな、実はコルドバ陣営にも言ってない事があるんだ」


そして拓斗が香奈の手を引っ張り自分に引き寄せる、思わずよろけて


拓斗に抱きつく香奈、香奈の耳元に拓斗の顔が近づく


「なっ⁉︎なにをお兄、ちょちょっとお兄ちゃん⁉︎」


思わず顔が赤くなる香奈 耳元で拓斗がささやく するとさっきまで


赤面しながら照れていた香奈が 厳しい表情にかわる


「ちょっとそれ本当なの?」


うなずく拓斗


「だから明日は頼む」


拓斗の頼みに香奈はうなずく、夜の静寂の中、拓斗と香奈は


それぞれの陣営に帰っていった。







今回は模擬戦&デュエルを中心に書かせていただきました、自分では好きな話なので皆様に気に入ってもらえると幸いです。

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