ホワイトソードプリンセス 同盟への条件編
登場人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…さらわれた姉を助けるため最強を目指している少年
グレンダイル将軍…コルトバ共和国の軍のトップで国内№3の実力者
ミケール将軍…コルトバ共和国最強の戦士
ロンダール国務大臣…コルドバ共和国の内政側のトップ
ラインハルト・カナ・ロマーヌ…白剣姫と呼ばれるアステリア公国最強の美少女剣士
チャングイ将軍…アミステリア公国の猛将、若いころは”暴走獣”と呼ばれた猪突猛進型の戦士でアミステリアの双璧と言われた一人、ゲルハート将軍とは何かと言い争うことが多い
ゲルハート将軍…アミステリア公国の知将、ナイトの称号を持っている程の手練れではあるが自分が最前線に出るのを良しとしない、計略や謀が得意、アミステリアの双璧の一人
フリードリヒ・ド・ユリウス四世…コルドバ共和国の国王
ザラボルン国王…アミステリア公国の国王
拓斗とマルコはコルドバ共和国に来ていた、賞金首となっていた
ジャンゲルガー兄弟の件で招かれたのである 対応したのは
オーギュスト・グレンダイルという人物で軍のトップであり
コルドバ共和国内でもNo.3といういわゆる大物である
しかしグレンダイルは偉ぶることもなく実にさわやかに接してきた
「よく来てくれました沢渡拓斗殿とマルコ殿‼︎」
思わぬ大歓迎に面食らう2人、しかし拓斗にとっては正に
渡りに船であった、ジャンゲルガー兄弟の件でなんとか
上の人間と話せないだろうか?と思っていたところに
向こうから来てくれたからである
「いや恥ずかしい話なんだが我が国としてもあのジャンゲルガー兄弟には
本当に困っていたんだ、なにせ奴らあんなに粗暴なくせに
悪知恵に長けててね、役人や軍の上の方にまで金を握らせたり
弱味を握って脅迫したりして尻尾をつかませずに
悪事の限りをつくしていたんだ、本当にありがとう
あとで国王から感謝の気持ちと恩賞が与えられると思うから
それまで待っていて欲しい、あと拓斗殿 今言う話では
ないかもしれないがもし良かったら我が国で働いてはくれないか?
ジャンゲルガー兄弟を倒すような猛者なら大歓迎なんだが
どうだろう?給金は弾むが。」
その誘いに拓斗は丁寧にお辞儀をした後に
「大変有り難いお誘いなのですが申し訳ありません
私はある目的の為に旅をしておりましてどこかに仕えることは
できないのです」
「そうか⁉︎それは残念、その旅の成功を祈っているよ
じゃあまたあとで」
グレンダイルはそう言い残し去って行った
マルコは関心しながらグレンダイルの後ろ姿を見た
「偉いのにまた随分と礼儀正しいやつだったな、この世界は
いい奴程早く死ぬイメージだから死ななきゃいいけどな・・・」
『コイツはなんてフラグ立てるんだ⁉︎』
拓斗はマルコのセリフを聞いて思う、そして一緒に
グレンダイルの後ろ姿を見送った
しばらく待った後2人は謁見の間に通された、両脇には
軍と内政の偉い様がズラリと並んでいる
「第28代コルドバ共和国国王
フリードリヒ・ド・ユリウス四世陛下の御入室‼︎」
国王の入室に皆 傅く、ユリウス国王が口を開く
「今回はめでたい席じゃ堅苦しいのは必要なかろう」
おそらくは内政側のトップであろう左の列の先頭の人物が口を開く
「陛下‼︎国の威厳と秩序というのはですな…」
「わかったわかった、ロンダールはいつもうるさいのぅ」
国王の言葉にギロリと睨むロンダール ユリウス国王は
目を逸らし話し始める
「沢渡拓斗殿、此度はジャンゲルガー兄弟とその一味を
壊滅させた働き誠に天晴れ、我が国を始め助けられた国も
多いであろう諸国を代表して感謝申し上げる
そしてその働きに報いたい賞金の他になにか褒美を取らせたいのだが
なにが望みかな?遠慮なく申してみよ」
「少しお待ちください国王‼︎」
内政側に並んでいるロンダールのとなりの男が発言した
「お与えになるのは賞金だけで充分かと、それにこんな若者が
たった一人で千人を超えるジャンゲルガー一味を壊滅させたとは
とても信じられません、現に兄ギース以外は死体もないでは
ないですか、案外弟ゼラと一味はまだ生きているのでは?」
その意見に右の列の先頭にいるグレンダイルが挙手をしてから答える
「それはありません、本来ジャンゲルガー一味が牛耳っていた所が
全て解放されておりますし、あのゼラが兄を殺されて
黙っている訳がありません、各地でも部下を見たと言う情報すら
どこからも上がってないのです、今までジャンゲルガー一味に
力で従わされてきた10人〜100人規模の下部組織が縄張り争いを
始めていることからもジャンゲルガー一味が壊滅したのは
ほぼ間違いないです」
質問した内務側の男が悔しそうな顔で口を閉ざす
今度は内政側の別の男が拓斗に問いかける
「あの人数をどうやって1人で倒したと言うのだ?」
「それは言えません、魔法や奥義は人に知られたくないので」
その男は拓斗のその答えにすぐさま反論してきた
「なんだそれは、後ろ暗いことがあるから言えないのではないのか!?」
たまらずマルコが口を挟んだ
「おいおい俺達はお礼がしたいって言うから来たんだぜ
こんなんなら賞金もらってさっさと帰ろうぜ兄ちゃん」
その言葉にユリウス国王が
「いやマルコ殿の言う通りじゃ私が非礼を詫びようすまなかった
で賞金の他になにか褒美を取らせたいのじゃがどうであろう?」
拓斗はその言葉に対して静かに話す
「ありがたいお言葉ですが私は賞金も褒美もいりません
ですがユリウス陛下にお願いしたい事がございます」
「ほぅなんじゃな?私にできることであれば、申してみよ」
「ありがとうございます、では」
拓斗はそう言うと後ろのマルコをチラッと見た
マルコは驚いて拓斗を見返すが拓斗はもう前を向いていた
「実は後ろにいる私の連れなのですが、先日住んでいる集落に
グランシア軍が攻め入り両親共に殺されてしまいました…」
それを聞いたユリウス国王は目を細め悲しげな目でマルコを見た
「そうか…それは気の毒に…」
「その際にマルコの姉がグランシア軍にさらわれてしまいまして
その姉を取り戻すのに力を貸していただきたいのです」
一瞬険しい表情になったユリウス国王が
「力になってやりたいが具体的にどうすればよいのだ?
グランシアに戦いを挑むなんて事は不可能だし
救出のための隠密隊でも作って欲しいということか?」
その問いに首を振る拓斗
「いえ、もっと平和的な方法ですグランシア王国と捕虜交換を持ちかけ
マルコの姉を引き上げて欲しいのです」
周りが少しだけ騒つく ユリウス国王が答える
「そうしてやりたいのは山々なんじゃが、我が国はグランシアとは
戦ったことがないのでな捕虜もいないのじゃ
アミステリアなら別なんだろうがのう・・・」
その時拓斗の目が光った
「そうなのです、私の望みはコルドバ共和国とアミステリア公国の
同盟なのです」
謁見の間が一気に騒つく、拓斗が続ける
「コルドバ共和国の将来を考えるならばアミステリアとの同盟は
決して悪いことではないはずです、もし許されるのであれば
私が特使としてアミステリア公国に赴いて
交渉してきてもよろしいのですが⁉︎」
拓斗の提案に皆難しい顔をして考えこんでいる
その光景を見て拓斗は違和感を感じた
コルドバとアミステリアは何度も戦いを繰り返してきた
いわゆる宿敵同士である、ゆえにもっと反論されると思っていたのだ
騒つく一同の中グレンダイルが挙手して発言し始めた
「拓斗殿、実は我々コルドバ共和国側もアミステリア公国との同盟は
不可欠なのでは!?という意見に傾いているのです
ただ我々がそう思ったとしてもアミステリア側はどうなのか?
ということなんですよ」
「どういうことでしょうか?」
拓斗が事情を聞く、グレンダイルは頭上に地図を展開して
丁寧に説明を始めた
「我々の国コルドバ共和国は西側は海に面していますし北側には
アレハラ山脈があり南側にはミラリヤ渓谷があります
つまり海側の海賊の襲来を除けば東側のみが軍事対象になる
という訳なんです、その東側にある国がアミステリア公国です」
その説明に拓斗がうなずく、マルコは首をかしげている
一呼吸おいてグレンダイルが続ける
「しかしアミステリアは西側に我々コルドバ共和国
東側に大国グランシアがあります、ですからアミステリアは
常に防衛戦を強いられるのです、他国に攻めにいったら
必ず反対から攻められますからね」
拓斗はようやくわかってきた さらにグレンダイルが続ける
「つまり侵略戦争を仕掛けるのはいつも我々の方なんです
しかも近年は我々の負け続けなのでアミステリアにとってみれば
”いつもいつも喧嘩を吹っかけてくる癖に勝てないとわかったら
仲良くしようなんて都合のいい”と感じるのではないか?
などと考えてしまいどうやって同盟の交渉に持ち込むべきか?
と思案中なのです・・・」
なるほど、とうなずく拓斗 しかし気になる点が一つあり
グレンダイルに聞いてみた
「先程アミステリアには負け続けてる、とおっしゃっていましたが
確かグランシアもアミステリアには2回負けてますよね?
アミステリアとはそれ程強いのですか?」
それを聞いたグレンダイルがやや恥ずかし気に語り出す
「アミステリアには元々2人の優将がおります、武のチャングイ将軍に
知のゲルハート将軍 2人ともナイトの称号をもっており
”アミステリアの双璧”と言われていました、ただ2人は
性格や考え方が正反対で戦いの中でも2人の連携が
うまくいかないこともしばしばありました
我々はそこを突いたりしていい勝負ができていたんですが・・・」
グレンダイルは真剣な顔にかわり続ける
「2年程前にアミステリア公国主催の武闘大会で圧倒的な強さで優勝した
剣士がいまして、そのあまりの強さにチャングイ将軍がデュエルを
申し込みました、そうしたら三度戦い三度ともチャングイ将軍が
敗れたのです、その後チャングイ将軍の推薦もありアミステリアに
幹部としてスカウトされたのですが作戦会議でも次々と鋭い
意見を出すものですから試しにゲルハート将軍と
陣立て勝負の模擬戦をやったところ、二度戦い二度ゲルハート将軍が
敗れました、しかもその剣士はなんとまだうら若き少女なのです
その後両将軍の推薦もありアミステリアの最高司令官となりました」
拓斗が関心しマルコが驚いた、しかし拓斗はふと疑問を感じ質問した
「しかしそんな若い少女がいきなり最高司令官とは・・・
よく両将軍が推薦しましたね?」
グレンダイルはうなずき話を続ける
「チャングイ将軍は生粋の武人ですので
自分の娘程の少女に三度も敗れその強さに純粋に感服したようです
そしてゲルハート将軍は策士ですので色々な思惑があったようです」
拓斗は益々興味が湧き身を乗り出して聞いている
「ゲルハート将軍の意図はまずイメージ戦略です、アミステリアの国民は
毎年続く戦争でウンザリしていました そこにうら若き美少女が
最高司令官として敵を倒していく・・・という演出効果を
狙ったようです、狙いは見事的中しまして少女剣士はあっという間に
国民的英雄になりました、それにゲルハート将軍はチャングイ将軍との
連携のマズさを憂いていたので指揮系統を一本化することで
解決を図ったのです、結果はゲルハート将軍の思惑以上でした
新体制となってからのアミステリアは連戦連勝なのです」
拓斗はその少女剣士について聞いた
「その少女剣士の名前は何というのですか?」
「その少女の名前はラインハルト・カナ・ロマーヌといいます
戦いの際に白い剣と鎧を身につけていることから
”白剣姫”【ホワイトソードプリンセス】と呼ばれています」
拓斗は事情を把握し提案した
「事情はわかりました、ならば一度書状を送ってはどうでしょう?
同盟関係を結びたいのですがそれについて話し合いたいとの趣旨で」
グレンダイルは少し考えてから
「そうですね、それがいいのかもしれません陛下並びに
皆さま方はどうでしょうか?」
ユリウス国王が大きくうなづき
「私はそれで良いと思うが皆はだうだ?」
国の政治に関わる大事な方針をよそ者の若造に決められたことを
面白く思わない重鎮も少なくないようだが、ユリウス国王の決定に
異議を唱えられる訳もなく渋々ながら承諾した運びである
そして翌日、同盟申し込みの書状がアミステリア公国に送られた
アミステリア公国では幹部達に緊急招集がかかり国王の元に続々と
幹部達が集まって来た その中でも一際鼻息が荒い武将がいた
アミステリアの猛将チャングイ将軍である
「コルドバの腰抜け共から同盟の申し込み書状が届いたってのは本当か‼︎」
その問いにゲルハート将軍が答える
「えぇ本当です、それについての招集であることは
事前通知してあったのでご存じでしょう?」
チャングイ将軍は身長190cmの大男で野生の猪を絞め殺した事
もある程の怪力の持ち主である、顔全体に髭があり濃い眉と太い唇が
特徴の強面である 猪突猛進型の
猛将で昔は”暴走獣”と呼ばれていたらしい
「それは知ってるけどよ、俺が言いたいのは
そういうことじゃねーんだよ、いちいち理屈っぽいんだよお前は」
ゲルハート将軍は冷静沈着を旨とする性格で搦手や
謀が得意な将軍でその深い知識と事務能力の高さで内政にも
かかわっている、ゲルハート自身ナイトの称号を持つ使い手なのだが
”指揮官が自ら戦わなきゃいけないようでは負けに等しい”という
持論を持っており常に先陣を駆けるチャングイ将軍とは正反対なのである
「あなたは今やアミステリア公国の重鎮なのですから
もっと発言に責任を持ってください」
そんなやりとりを周りの重鎮たちはハラハラしながら見ていた
何かと意見が衝突し険悪なムードになることも度々《たびたび》あるため
この2人は心底仲が悪いと周りからは思われている
しかし実はそんなことはなく、2人共に心底国の為を思い
発言及び行動しているのを知っている為 心の中ではお互いを
認め合っている、国王はそれを良くわかっているので
余程のことがない限り止めには入らないのだ
「でもよゲルハート、散々ウチにちょっかいかけてきて
勝てませんから仲良くしましょうって・・・調子よすぎねーか?」
「しかし我が国の事情を考えればコルドバとの同盟は有益です
戦略的に見れば必要不可欠とさえいえます」
「だがよコルドバとの戦争で死んだ兵士に申し訳ないとは
思わないのか?国民の気持ちを考えると俺は素直に
”はいそうですか”とは言えねぇな」
「しかしコルドバとの同盟が成成立すればこちらは
エドワルド港の自由使用許可を含む通商条約を締結できます
これによる貿易利益は計り知れません、軍事面から見ても
グランシアのみに戦力を傾けられるのは非常に大きい
今までは勝ってこれたから良かったですが防衛の為の戦争では
勝っても得るものは少なく、負けたら国の滅亡にすら繋がる
かもしれないのです、場合のよってはコルドバ軍と共同で
グランシアへの侵攻作戦すら可能となります」
「でもよゲルハート理屈ではわかるが納得できねぇんだ
コルドバとの戦争で俺の部下も大勢死んだ・・・
死んだ部下の子供からよ
”絶対パパの仇をとってくれコルドバをやっつけてくれ‼︎”
って泣きながら頼まれてよ、俺は必ずコルドバをぶっ潰してやるって
約束したんだよ、そんな子供によ”国の事情で仲良くします”
なんて言えるか?」
「国の重鎮が 一時の感情に流されてどうするんですか?
重鎮として国益こそもっとも優先すべきでしょう」
「国民の気持ちを代弁するのも国の重鎮の役目だろ!?
金が儲かるからとかそんなもんじゃねーだろ
グランシアだろうがコルドバだろうが何度だって
俺がやっつけてやるよ‼︎」
「話になりませんね、その何度だって・・・の時に
また人が死ぬのですよ、少しは感情を殺す努力を
してくださいませんか?」
「テメエは感情を殺し過ぎてすでになくなっちまったようだけどな
なんなら俺が”悔しい”って感情を思い出させてやろうか?」
チャングイ将軍は腰の刀に手をかけた、一同が騒つく
ようやくアミステリア国王ザラボルンが口を開く
「両者共にまずは落ち着け、ここにいる者のみで決めたら
招集した意味があるまい、最高司令官の意向を聞こうではないか
もうすぐ着くはずじゃ」
ゲルハートが頭を下げてザラボルンに謝る
「お見苦しいところをお見せしました、確かにロマーヌ殿の意向を聞かず
に話を進めてしまいました申し訳ありません」
「確かに嬢を無視して話進めちゃダメだわな、でも嬢なら
わかってくれるはずだ」
チャングイ将軍は最高指揮官ロマーヌの事を嬢と呼ぶ
ロマーヌと最初にデュエルした時に
「お嬢ちゃん強いなぁ俺と戦ってみねぇか?」
と話して以来、ロマーヌの強さを認め最高司令官になった今でも
彼女のことを嬢と呼ぶのである、伝令の兵が皆の元に伝えに来る
「最高司令官ラインハルト・カナ・ロマーヌ様、ただ今お着きに
なりました、もうじきいらっしゃるということです」
それから5分後ロマーヌが皆の前に姿をみせた
背は160㎝程でそれほど高くないが艶やかな黒髪は長く腰まである
スタイルはスレンダーでとてもチャングイを倒したとは思えない程
細く顔ははっきりした目鼻立ちに細い眉 トップモデルと言われても
納得するほど美しい少女である
「遅くなりまして申し訳ありません、早速本題に入りましょうか?」
ゲルハートがロマーヌの言葉を遮り質問する
「まず最初にあなたの意見を伺いたい、議論はそこから
始めたいのですがいかがでしょう!?」
ゲルハートの言葉に小さくうなづき少し考えてから意を決して
発言するロマーヌ
「私の意見ですが、コルドバ共和国との同盟は基本的には賛成です」
珍しくニコリと笑いうなづくゲルハート、対照的に慌てるチャングイ
「そりゃねえぜ嬢!!」
チャングイの反対を予想していたかのような反応で微笑みながら
チャングイに答えるロマーヌ
「私の基本的に・・・というのはこちらから出す条件を
コルドバが飲むならというものです」
その答えにチャングイが嬉しそうに聞く
「なるほど!?無茶な条件を突き付けて同盟を不調にしてしまおう
ってことか?」
その推測に首を振るロマーヌ
「いえそんな無茶な条件ではありません、むしろ相手が必ず飲む
条件を付けます、それはコルドバの代表との一対一のデュエルと
1000人対1000人の陣立て勝負 いわゆる模擬戦をするならば・・・
という条件です、理由は適当でいいんですよ、同盟を組むにあたって
相手の力量を知っておきたいから・・・とかで」
この提案にはさすがのゲルハートも理解できなかった
「その勝負にどんな意味があるのでしょう?
相手の力量など何度も戦っている相手ですし
今更模擬戦など行わなくともわかりますが・・・」
ゲルハートの疑問にロマーヌが答える
「そうなんです、もうすでにわかっているんです
我が軍の勝つことは、だからやるんです」
その発言にゲルハートが気付く
「そういうことか!?あなたという人はなんという・・・
いや、あなたが敵でなくて本当に良かったです」
そのやり取りを見ていたチャングイが不思議そうに尋ねる
「おい嬢、俺にもわかるように説明してくれないか?
なんの為の勝負なのかを」
ロマーヌはニコリと笑って答える
「今回はコルドバ側からの同盟要求ですからそれなりの好条件を
出しては来るでしょう、しかしそれですとあくまで対等の立場の
条約ということで国民感情を考えるとあまり好ましくありません
ですから模擬戦やデュエルでコルドバを完膚なきまでに叩きのめし
あくまで”コルドバは我がアミステリアにはどうやっても勝てないので
軍門に下りますから仲間になってください”という印象を
国民に与えるのです、実際にもこの同盟はこちらの立場が上だと
いうことコルドバ側にハッキリ示すのです、そうすれば
その後の条約の締結も有利になりますしね」
ロマーヌの提案にチャングイも納得して笑う
「なるほど!?いいじゃねーか!!仲間になろうじゃ不満だが
子分にしてくださいならしゃーないか・・・ってなるわけか!?
嬢お前そんなかわいい顔して凄いこと考えるな!?
じゃあその勝負俺にやらせてくれよ、なっいいだろ嬢!?」
「もちろんデュエルの代表はチャングイ将軍にやっていただきますよ」
「話がわかるぜ、さすがは嬢だ!!」
ロマーヌがゲルハートの方を振り向き
「陣立て勝負の方はゲルハート将軍にやってもらいたいと
思っています、よろしいですか?」
ゲルハートが少し驚いて
「私が?いやそれは別にかまわないですが・・・」
ロマーヌはまた微笑みながら答える
「相手側の陣立て勝負にはおそらくグレンダイル将軍が
出てくるでしょう、それならば私よりゲルハート将軍の方が
相性がいいはずです、勝負の場所は我が国のナシハーラ砂漠で
おこないます」
チャングイ将軍が不思議そうに
「ナシハーラ?あんななんにも無いところで陣立て勝負じゃ
面白味もなにもないな」
ロマーヌが答える
「だからいいんです、紛れがない方が我々の勝ちがゆるぎないものに
なりますから、お二人の力を信頼しているからこそできる作戦ですよ」
そう微笑むロマーヌに少し頬を赤くしたチャングイだった
しかしロマーヌの本当の考えを見抜いていたのはゲルハートだけだった
『全くもって恐ろしい少女だ、コルドバが
かわいそうになってきましたよ・・・』
コルドバ共和国の元にアミステリア公国からの返事が届いたのは
3日後のことであった、コルドバの重鎮達と拓斗が今後の対応についての
会議であった、アミステリアからの返事が読み上げられ
しばらく皆考え込んでいたがグレンダイル将軍が口火を切る
「今更この陣立て勝負とデュエルの意図がわかりませんが
こちらから同盟をもちかけた以上断る理由はありません
受ける方向でよろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってください!!」
もう決まるか!?という寸前に拓斗が挙手をして遮る
「どうしました拓斗殿なにか疑問点でも?」
「この勝負はマズイです、向こうの要求をそのまま飲む事は危険です」
拓斗の意見に不思議そうに聞くグレンダイル
「しかしこちらから同盟を持ちかけている以上断る訳には
いかないでしょう?模擬戦やデュエルなら人が死ぬ訳じゃないし
互いの力量の確認の為に・・・とありましたから
同盟の為の交流か演習ととらえているんだが・・・
なにが問題なのかな?」
拓斗が大きくうなづく
「書状にはデュエル勝負にチャングイ将軍、陣立て勝負に
ゲルハート将軍とあります勝てますか?」
グレンダイルが難しい顔をして
「勝てないだろうね・・・我が軍最強の戦士はこのミケールなんだが
チャングイ将軍にはとても勝てない、陣立て勝負もゲルハート将軍
相手だとかなり厳しい上にナシハーラ砂漠では紛れもありませんので
益々厳しいと言わざるを得ません、しかし模擬戦やデュエルの勝負に
なぜこだわるのですか?」
「向こうの意図はこの模擬戦とデュエルでコルドバをボコボコに
叩きのめし同盟関係を有利に進めようとしています
おそらくこの試合結果をいち早く大々的に宣伝してくるはずです
そうなると兵士たちも国民もアミステリアの方が上で
対等な同盟ではないという意識になってしまいます、そこが狙いです」
グレンダイルを始め皆が息を飲んで言葉が出ない、さらに拓斗が続ける
「それと一番恐ろしいのは向こうの代表がチャングイ将軍と
ゲルハート将軍だということです」
グレンダイルが少し考え拓斗に聞く
「両将軍はアミステリアの双璧と言われた猛将と知将だし
なんの違和感もないが・・・」
「よく考えてみてください、アミステリアで一番強いのは誰でしたか?」
そこでグレンダイルが気が付き”あっ”と声をあげた
「そうなんですアミステリアで一番強いのは白剣姫こと
ラインハルト・カナ・ロマーヌなんですつまり向こうは
もし負けたとしても大したダメージはないんですよ
白剣姫は国民的英雄ですから
負けは許されません、万が一に両将軍が負けても
アミステリアの兵士や国民は”白剣姫
が負けたわけじゃないしやれば勝っていただろう・・・と思う訳です」
コルドバの重鎮たちは言葉も出なかった、アミステリアの提案した
模擬戦とデュエルの意味とそれを見破った拓斗に
「では拓斗殿どうすれば良いと思われる?」
グレンダイルの問いに少し間を置いて答える
「アミステリアからの書状には”互いの力量の確認の為・・・”
とあります、ならばこの文言を逆手にとりましょう」
「具体的にはどうするのかね?」
グレンダイルが問いかける
「例えばです”デュエルと模擬戦の件、承知いたしました 互いの力量の
確認の為とありましたのでこちらはアミステリア公国に失礼のないよう
最高の人選をさせていただき全力で当たらせていただきますので
御国もそのように対応していただけると幸いです”とでも書いてやれば
否が応でも白剣姫が出てこざるをえない
でしょう」
グレンダイルは感心してきいていた
「なるほどそうやってロマーヌ殿を引っ張り出して五分の条件に
もっていく訳か!?しかし我々はチャングイ将軍ですら勝てないのに
さらに強いロマーヌ殿となると益々勝ち目が・・・」
「僭越ながら私が代わりに出ましょうか?
元々私の無茶なお願いから始まったのですから
なんでしたらミケール殿とデュエルしても良いのですが」
グレンダイルが嬉しそうな顔で
「やっていただけるのですか?それはありがたい是非に」
今まで黙っていた内政側のトップ、ロンダールが口を開く
「我がコルドバ共和国の代表となるのならば我々の前で
力を示してもらわなければならぬ、ミケールとのデュエルは
やってもらう‼︎」
コルドバ№1の戦士ミケールとのデュエルは3本先取で勝ちという
ルールで始めたが拓斗が3本取るのに1分かからなかった
コルドバ共和国からアミステリア公国への返事が届いたのは
3日後であった、その内容を見たロマーヌとゲルハートは思わず
固まってしまった ゲルハートが思わずつぶやく
「やられましたね・・・名目上仕方なく付けた
”お互いの力量の確認の為・・・”という言葉を逆手に
とられるとは・・・向こうにもいますね、頭の回る者が」
「はい、コルドバ側が断りようがない要求をしたつもりが
逆にこちらにも断れない要求という形で返ってくるとは・・・
思慮が足りませんでした、すみません」
ロマーヌが謝る、そこにチャングイ将軍が帰ってきた
「なんだ2人共深刻な顔して、コルドバからなんか無茶なこと
言ってきたのか?どれ俺にも見せてくれ・・・う~ん
この文章のどこにそんな問題があるんだ?
”こっちは全力で頑張るからそちらも全力でがんばりましょう”
みたいな文章にしか見えないが?」
ゲルハートがため息をついて
「あなたはお気楽でいいですね、文章にあったでしょう?
平たく言えば”失礼のないように最高の人選をして全力で
挑むからそちらもそうしろ”・・・と」
「それのどこが問題なんだ?ふつうの文じゃねーか!?」
「これは”コルドバは最強のメンバーで挑むからロマーヌ殿が
出てこないなんて失礼なことはしないでしょうね?”
という内容なんですよ」
「なんじゃそりゃ、嬢と戦わせろってことか!?
生意気な・・・まぁ出番がなくなるのは惜しいが
嬢と戦ってみたいって気持ちは武人としてわからんでもない
軽くひねってやったらどうだ!?んどうした嬢?
そんな深刻に考えなくても嬢が負けるわけねーだろ!!
はっはっは」
ゲルハートがまたため息を吐きながら首を振る
「あなたは本当にお気楽ですね、私やあなたが負けるのと
ロマーヌ殿が負けるのとでは意味合いが全然違うのですよ
しかしわざわざロマーヌ殿を引っ張り出す算段をしたということは
何か勝算あってのことかもしれませんね?」
ロマーヌが真剣な顔でうなづく、ゲルハートが近くの兵士を呼び伝える
「ダンカルロを呼べ、至急だ!!」
しばらくして部屋に一人の男がはいってきた
「失礼します、諜報部のダンカルロと申します
お呼びと聞き参上しました」
「さっそくだが最近コルドバ共和国でなにか変った事はなかったか?」
「はい、ちょうど先程入った情報ですが賞金首になっていた
ジャンゲルガー兄弟とその一味が壊滅したとのことです
今その人物を招待して褒美を与える式典をするとか・・・」
ゲルハートとロマーヌは顔を見合わせた、そしてゲルハートが口を開く
「それですね・・・参りましたこのタイミングで
今回我々の書状の意図を読み取ったのもその人物でしょう
コルドバには見るべき人物はグレンダイル将軍くらいしかいませんが
あの実直真面目人間にこの手の策謀は見破れないでしょうからね
デュエルや陣立て勝負もその人物が出てくると思っていた方が
よいでしょう」
チャングイ将軍が不思議そうに
「あのよ〜こっちの狙いがバレちまってそれを逆手にとられたんなら
いっそ開き直ればいいじゃねーか!?嬢は出さない俺達2人が
出るってよ」
ゲルハートが目を閉じ首を振る
「政治と言うのはそんな単純なものじゃないんです
建前というのが非常に大事なのです、一度決めた事は
そうそう撤回できないんです、ましてや同盟の最初から
コロコロ意見を変えるような国をあなたは信用できますか?」
「そりゃそうだけどよ、お互いバレバレなのにわざと知らないフリをして
仲良くするってアホくさくないか?」
「そういうものなんですよ政治というものは…」
ロマーヌが思い立ったように頭を下げる
「すみません私の思慮が足りずにアミステリアを窮地においこんで
しまいました、必ず勝ちますから両将軍の力を貸してください‼︎」
チャングイとゲルハートはやさしく微笑みながら
「何言ってるんだ嬢、今更水臭いぞ、俺と嬢の仲じゃねーか!?
嬢の為ならなんだってするぜ!!」
「その通りですよ、そもそも我々2人はあなたの部下なのですから
命令すればいいんです」
「部下とか上司とかそんなんじゃねーだろ!?嬢と俺達はだなぁ・・・」
「あなたはもう少し公私の区別をつけた方がいいですね
そもそも組織というのは・・・」
ロマーヌにとってこの二人の気遣いとこのやりとりがとても
心地よかった、なればこそ絶対に負けられないという思いを強くした。
今回はバトルなしです、実は私自身バトルより会話中心の展開の方が書くスピードが速いことに気づきました(笑)キャラ同士がしゃべるのがなんか楽しくてついつい予定より長くなってしまいました、これからも会話をいっぱい入れたいな…と思っていますのでよろしくお願いします。