世界最強を目指す少年
登場人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…最強を目指している少年
ズメル…速い動きが特徴の剣士
グレル…強い打撃が特徴の剣士
幸定…明開神道流の使い手で目録まで持っている
ギース…ジャンゲルガー兄弟の兄で凄腕の剣士
ぜラ…ジャンゲルガー兄弟の弟で剣とアイテムを使った特殊攻撃が得意
沢渡拓斗は唯達と別れて一月近く経っていた、ラジュール王国の
ナザルという都市に立ち寄っていた ここは別名”集いの町”
と呼ばれていて 人員募集したいパーティーがメンバーを探したり
自分を売り込んでレベルの高いパーティーに入れてもらいたい人間が
集まる町である しかし過剰なアピールする者や力が有り余っている者も
多い為、常に喧嘩沙汰が絶えず治安の悪い町としても有名なのである
『ここはなにかと争い事が絶えない所だし
目的が終わったらさっさと引き上げるか⁉︎』
その時 ガラガラガシャーン‼︎という物が崩れる音がして
「テメーいい加減にしろ‼︎しつこいぞ‼︎」
という怒鳴り声が聞こえた
『なんだまた喧嘩か⁉︎』
振り向くと怒鳴り声を出していたのは髭面でガッチリした体格に
鎧を着た戦士風の男だったが 積み上げた木箱が崩れた中に
尻もちをついてうずくまっていたのは10歳程の少年だった
「今度俺にしつこく付きまとってきたらガキだろうがぶっ殺すぞ‼︎」
そう言い残し髭面の男が去っていった、残された少年はまだ
座り込んだままうつむいている
「ちくしょう、ちくしょう」
まだうつむきながら小さなこぶしを何度も地面に叩きつけて
くやしがっていた、見かねた拓斗が近寄って手を差し伸べた
「大丈夫かぼうず?」
その言葉に少年の動きが一瞬ピタリと止まり慌てて涙を拭って
満面の笑みで顔を上げる
「うん全然大丈夫だよ‼︎」
しかし拓斗の格好を見た少年は目を細め上から下までじっくりと
観察した、そして明らかに落胆した表情を浮かべ、ため息をついた
「俺は大丈夫だからあっち行った行った、弱い奴には用はないんだよ」
少年は手であっちへ行けと言うそぶりを見せ拓斗を追い払おうとした
「そうか⁈」
拓斗は少し微笑むと反転してその場を去ろうと歩き出した
10mほど歩いたところで後ろから先程の髭面の男の声が聞こえた
「おい小僧!!ちょっと仲間と話したんだが条件次第では
お前を連れてってやってもいいぜ!?」
「ほんとか!?俺がんばるよ、なんでもするから連れてってくれよ!!」
ニヤリと笑うひげ面の男、その周りには仲間と思しき三人の男がいた
「なんでもだな?じゃあ素っ裸になって
三回回ってワンと言ってみろ!?」
「え!?」
少年の顔に困惑の表情が浮かぶ それを聞いた拓斗も足を止めた
「なんだ?できないのか?じゃあ連れてはいけないな」
にやけながら話す男達に下を向いて唇をかみしめる少年
「わかったやる、やるよ!!」
少年は素早く服を脱ぎ犬のように四つん這いになりながら三回回って
ワン!!と言った、それを見た男たちは大笑いをした
「はっはっは本当にやりやがった!?」
「おいウソだろ!?賭けは俺の負けかよ!!」
「ちぇっ!?お前におごらなきゃならなくなったな
まぁ面白いもの見れたし見物料と考えるか!?」
「お前らちゃんとおごれよ!!俺の一人勝ちだぜ!!」
呆然とする少年を尻目に盛り上がる男達、どうやら少年が本当に裸で
三回回ってワンをやるのか賭けていたようである
「まぁ笑わしてもらったしそろそろ行くか」
「ちゃんとおごれよ、昼飯と酒だからな!?」
「わかってるよ、しつけーな」
少年を無視して立ち去ろうとする男達に少年が食い下がる
「なぁ俺を連れてってくれるんだろ?そういう約束だよな!?」
最初の髭面の男がにらんでから言い放つ
「そんなわけないだろ!?お前を使って賭けをしてからかっただけだ
もう用はないからさっさとうせな」
「そりゃないだろ、俺言われたとおりにやったじゃないか!?
それじゃあ約束がちがうよ、頼むから連れてってくれよ」
「うるせー!!ただでさえテメーのせいでおごらなきゃ
ならなくなったんだぞ!?さっさとうせろ!!」
「な、頼むよあんたら強いんだろ?お願いだよ!!」
「強いからこそテメーみたいなのは足手まといなんだよ
いい加減にしないと・・・」
男はコブシを振り上げ少年を殴る姿勢に入る、少年は目をつぶり
体を強張らせた、しかし一向にコブシが来ないので少年は
恐る恐る目を開ける、すると振り上げた男の腕を片手でつかみ
阻止する拓斗の姿があった
「おっさん達いくらなんでもひどくないか?特に殴るのはやりすぎだ」
「なんだ若造!?テメーもこのガキの知り合いか?」
「いや単なる通りすがりだが・・・」
「だったらひっこんでな、こっちは今機嫌が悪いんだよ
怪我したくなかったらさっさとどっかいけ!!」
「あぁできればそうしたいんで、とりあえずそのコブシを
収めてくれないか?」
「俺に指図するな!!テメーも吹き飛びやがれ!!」
今度は拓斗に向かって殴りかかってくる髭面の男それを半身でかわし
足を出すと勢いよく転んで先ほど少年が座り込んでいた木箱の積み上げた
場所に突っ込んでいた”ガラガラガシャーーン”と大きな音と共に
大男が木箱に埋もれる それを見ていた男の仲間が
「こら若造、俺たちにケンカ売るとはいい度胸だな」
「そんなつもりはないんだけどね…」
「うるせーやっちまえ!!」
男たちは3人がかりで殴りかかって来る、拓斗は
『うわぁなんてテンプレなセリフ、もうフラグ立ってるじゃん』
と思いながらヤレヤレという思いで相手することにした
最初に殴りかかって来た男を半身でかわし別の男の方向へ
背中を押す二人の男がぶつかりゴチャついている
残りの男が殴りかかって来たコブシを首をひねってかわし勢いで
前のめりになるその男の首筋に手刀を一撃見舞う
「げはっ!!」
手刀を食らった男はうめき声をあげて倒れた
ゴチャついていた男たちが二人で左右から襲いかかる
拓斗は左の男のさらに左に回り込み首筋に手刀を食らわす
その男は声もあげずに倒れた残りの男は蹴りを出してきたが
拓斗はなんなく受け止め鎧のカバーしていないところに正拳突きを見舞う
「ぐはっ!!」
食らった男がうずくまる その時木箱に埋もれていた男が
立ち上がってきた
「こら若造!!いくらなんでもやりすぎたな」
髭面の男は腰の剣を抜く、周りの見物していた人々から
どよめきが聞こえてきた
「死ねや小僧!!」
上段から振り下される剣に半身で避けつつ剣を握っている柄の部分を
別方向に押してやる拓斗 男の剣は軌道を逸らされ地面に突き刺さった
前のめりになった男の真横で裏拳、手刀、肘打ちの順で一瞬に叩き込む
拓斗 剣を持った男はその場に倒れ気絶していた
あわてて仲間を回収し逃げる男達
「テメー覚えてろよ!!」
『うわぁ逃げる時までテンプレなんだな、あいつら』
逃げる男達の背中を見て吹き出す拓斗
呆然としている少年に同じ言葉をかける
「大丈夫かぼうず?」
あっけにとられ言葉を失っていた少年が一気に明るくなる
「なんだよ兄ちゃん!!そんなカッコしてるからてっきり
メチャ弱いのかと思ってたらよ、人が悪いぜ全く!!」
少年はそそくさと立ち上がり急いで服を着た、そして自己紹介を始めた
「俺マルコっていうんだよろしくな!?」
「そうか、俺は拓斗 沢渡拓斗だよろしく」
そう言って立ち去ろうとする拓斗に慌てて回り込み
両手を左右に大きく広げ通行止めのポーズをするマルコ
「待ってくれ兄ちゃんいや拓斗、俺を・・・俺を一緒に
連れてってくれよ頼む!!」
「ダメだ俺の旅には連れていけないすまないな」
即答する拓斗、しかしマルコも食い下がる
「頼むよなんでもするから連れてってくれ頼むこの通りだ」
手を合わせて頭を下げて頼むマルコ、その少年には
年には似つかわしくない悲壮感があった
「なぁマルコ俺の旅はな大変な危険に巻き込まれる可能性もあるんだ
そんな旅にお前みたいな少年を連れてはいけないんだわかってくれ
心配する家族の人とかいないのか?」
「家族なんていないよ…いたけど…」
口をつぐむマルコ ふいに拓斗が聞く
「どうしたマルコ?さっきのケンカでションベンちびったか?」
「ションベンなんてちびってねーよ!!馬鹿にするな!!」
その答えに拓斗は目を細めて聞く
「そうか・・・お前も地球からの移住組か!?」
その発言に驚いて聞くマルコ
「なんでわかったんだよ?」
「この世界の住民はションベンなんて言葉を知らないからな
いったいなにがあった?なぜそんなに強い奴についていきたいんだ?」
しばらく黙っていたマルコが少しづつしゃべりだした
「俺は…俺たち家族はこの近くの集落に飛ばされてきたんだ
ここにきて二週間くらいは普通に暮らしていたんだけど
ある時どこからか軍隊が来てみんな殺された、俺を逃がすために
両親も俺の目の前で殺されたんだ、その時姉ちゃんがその軍隊に
さらわれた・・・後からわかったんだけどその軍隊は
グランシアっていう大国の軍隊らしいんだ 俺はなんとしても
姉ちゃんを取り戻す!!でも今の俺の力じゃなんともできない
だから強い人についていって強くなるしかないんだ
そうやって強くなるしか・・・」
マルコは思いつめた表情で語った、それを聞いた拓斗はマルコの頭に
手を乗せて
「お前の事情はわかった、でもな強い奴について行っても
強くなれるとは限らない、それにさっきも言ったが俺の旅は
危険が付きまとうんだ、ただお前の思いはわかった
俺に任せてくれないか?」
「嫌だ、なにもできずに待ってるだけとかもう嫌なんだ!!
それに帰るところなんて俺には…」
拓斗は少し考えたあげく
「わかったよ じゃあ連れてってやる、だけどな強さってのは
結局自分次第だからな」
「ホントか!?ありがとう拓斗!!俺役に立つからよよろしく頼むよ」
拓斗は少し微笑みうなづく そしてここに来た目的を思い出し歩き出した
「拓斗の兄ちゃんよここには何しにきたんだ?
さっきの感じだとパーティーメンバー探しに
来たわけじゃないんだろ?」
「あぁ察しがいいな、ここには装備を買いに来たんだ」
「装備?武器とか鎧とかか?そんなん揃えるなら
もっと大きな町の方がいいんじゃないのか?」
「いや大きな町は上級者向けの装備は揃ってるが
俺みたいなD装備の品はほとんどないんだ
その点ここには掘り出し物があるからな」
「それなんだけどよ、兄ちゃんそんなに強いのになんでそんな
ショボい装備なんだ?あ、わかった!?」
拓斗が一瞬ドキッとする
「拓斗の兄ちゃんジョブチェンジしたばっかなんだろ!?
前は武闘家かなんかだったとか⁉︎」
少しホッとした拓斗は微笑みながら答える
「まぁそんなとこだ」
二人は街中に入っていくと露店がいくつもならんでいた
飾りっ気もなく小汚い台に商品が並んでいるだけという
シンプルなものばかりだ色々な店の商品を目で追っていたが
その内の一件で足を止める拓斗、商品が10点程並んでいるだけで
値札すらない、台の向こうにはシンプルな木の椅子に座り
目を閉じ腕組みしている店主がいた、商品を見つめていても
無反応なので拓斗が話しかける
「これ手に取って見てもいいかな?」
「冷やかしなら御免だぞ!?」
無愛想な店主の反応に軽くうなづいて皮の籠手を手に取って見る
「これいくらだい?」
「250Gだ」
拓斗の問いにぶっきらぼうに答える店主、そのやり取りを聞いていた
マルコが拓斗の耳元でささやく
「なぁ拓斗あっちの店の方が安かったぞ!?
なんならあっちの店で俺が交渉してやろうか?」
店主がマルコをジロリとにらむ、そのにらみにビクつくマルコ
「わかったこれもらうよ250Gだな!?」
「毎度」
ぶっきらぼうに答える店主、マルコが不思議そうに
「なんで高い物をわざわざ買うんだ?」
「マルコお前にはわからないかもしれないが装備ってのは
命にかかわるからな、値段じゃない質の良さだ
さっきの店の物よりもこっちの方がはるかに質が高いんだよ
250Gならむしろ安いくらいだ」
そのやり取りを聞いていた店主が
「お前さん若いのにわかってるじゃねえか!?あんな安物と
いっしょにしてもらったら困る、俺の店の商品はわかる奴にしか
わからないからな」
マルコがその話を聞いていると大声で客の呼び込みをしている
男達の声が聞こえてきた
「腕に自信のある人は挑戦してみませんか~?
勝負は木刀だから安心ですよ!!」
「三人相手に3分間立っていられたら5000Gだよ!!
三人といっても1分ごとに一人づつ出てくるから安心
挑戦料はたった100Gだよ!!」
「しかも終了後には回復魔法も用意してますよ~」
マルコが興味深々で聞いていたが拓斗の方に向き
「なぁ拓斗!?やってみないか?兄ちゃんの腕なら
いけるんじゃねぇの?」
「やめときな・・・」
店主がつぶやく
「あんなのクリアできっこない、地元の人間はみんな知ってる
だがここには腕自慢の馬鹿がいっぱい来るからな・・・
ほら言ったそばから」
先程の呼び込みをしていた三人に挑戦しようとしている男がいた
いかにも力がありそうな長身で戦士風の男である
「ホントに立ってられたら5000Gもらえるんだろうな?」
「えぇもちろんお客さん強そうですね~やばいなぁ~」
「今更中止とかなしだぞ!?俺は戦場で5人相手に囲まれて
生き残ったことがあるからな1分ごとに1人出てくるなんて
楽勝だぜ!!」
「あちゃ~まじかよ!!受けるんじゃなかったかな~!?」
マルコがそのやり取りを見て
「おいおいアレやばいんじゃないの!?5000G持って行かれるぜ」
その言葉を聞いて店主がフッと笑う
「そりゃあ無理だあの三人は”明開神道流”の使い手だからな」
「”明開神道流”??なんだそれ?」
マルコが不思議そうに問いかけるそれに店主が静かに答える
「”明開神道流”ってのはこの町にある剣法道場で教えてる剣術だ」
「この町に剣法道場なんてあったのか?」
そのマルコの問いには拓斗が答える
「剣法道場ってのは結構いろんな町にあるんだぜ
その町ごとに違う流派のな」
三人の内まずは一番小さい男が出てきた、背は低いが筋肉質で
上半身裸の体には無数の傷がある
「じゃあ俺からやらしてもらうぜ、俺はズメルっていうんだ
よろしくな!!」
「じゃあ最初の1分始め!!」
始めの掛け声と共にズメルは左回りに素早く動く、その動きに面食らう
挑戦者、ズメルは体制を低くして斬りこんで来る挑戦者は
攻撃を受け止めて反撃するがそのころにはズメルは
もう移動しているのだ、ズメルは右に左に素早く移動しながら
斬りこんでは逃げるを繰り返し、挑戦者は少しずつ傷ついていった
「さあ1分たったぜ次は俺だ、グレルというよろしく」
グレルは背は普通だがガッチリした体型で刀というより斧の方が
似合いそうなタイプで剥げている頭が凄みを増している
「それいくぞソレソレソレ!!」
グレルはズメルと違い重い一撃を何度も打ちこんで来る
ズメルとの連携で挑戦者は受け一辺倒になってしまっていた
徐々にダメージが蓄積されていく挑戦者
それを見ていたマルコが驚く
「ひえぇぇ~ホントに強いなあの二人」
店主が淡々と話す
「挑戦者の約8割はあの二人にやられちまうんだ
でもその方が本人にはいいのかもしれん…」
「それはどういう意味なんだ?」
マルコの問いに店主は顎をクイッと突き上げ三人目の男を指す
その男は長髪で切れ目、しかし背は普通で体格は他の二人と比べ
明らかに細見である それを見たマルコが
「う~んあの男そんなに強いのか?
見たとこ戦ってる二人の方が強そうだけどなぁ~」
「馬鹿言うんじゃない、他の男は単に明開神道流の門下生だが
あの三人目は違うんだよ、明開神道流の目録までいった男だからな
あの二人とは格が違う、そら三人目として出てきた
よく見てろよぼうず」
その男はゆっくりと立ち上がり木刀を脇に抱え戦いの中に入ろうとする
「1分たったな、さて私の名前は幸定と申すいざ参るぞ!!」
幸定が入ると他の二人は攻撃を止めスッと後ろに下がった
そして幸定が木刀を構える、挑戦者はもうボロボロだが
戦う闘志だけは見せていた
「どうしたオラ!!三人でかかってこいや!!」
幸定が青眼に構えて一言語りかける
「その意気や良し!!」
そう言い放つとあっという間に間合いを詰め肩に袈裟切りを見舞う
「がはっ!!」
挑戦者はその一撃に反応すらできずにあえなく倒された
幸定はもう帰り始めている それを見ていたマルコがうなる
「うへぇ~つえぇぇ~」
倒された挑戦者はしばらくうずくまっていたが
肩を押さえながらなんとか立ち上がると
「おい、負けたけど回復魔法をかけてくれるんだよな?」
ズメルがニヤケながら答える
「あぁいいぜ、ただし500Gな」
「なっ!?金取るなんて聞いてないぞ!!」
挑戦者が怒って抗議するがグレルが
「回復魔法も用意してるとは言ったが無料とまでは言ってないぜ!?」
挑戦者はくやしそうな顔を見せたが肩を押さえつつ黙って去って行った
そのやり取りを見てマルコが
「うわ~強いけどあくどい奴等だなぁ・・・
やっぱ強い奴ってのは悪い奴ばっかなのか?」
拓斗が三人の元に向かう 驚くマルコと店主
「やめときな若いの、あんたは客だからな目の前で
怪我されちゃあ寝覚めが悪い」
「そうだよ兄ちゃん!!あれ見て挑戦しようなんて
何考えてるんだ?止めとこうぜ!?」
拓斗は振り向くと微笑みながら軽く片手を上げた
「ん!?なんだあんちゃん、挑戦したいのか?」
ズメルが不思議そうに聞いた それは拓斗の装備の貧弱さと
今の挑戦を見ていた事を知っているからである、そしてグレルが続ける
「まぁいいじゃねえか、若い内は何事も経験よ苦い経験も悪くないぜ」
拓斗はグレルに100G払うと木刀を片手に持って
「いつでもいいよ」
と告げた、その言い方と余裕が気に入らなかったのか
ズメルが少しイラつきながら
「よしじゃあ始めるぜいくぞ」
ズメルは剣先を拓斗に向け突きによる攻撃の構えを見せる
それに対して拓斗は右手に木刀を持ってはいるがだらりと下げ
全身脱力しているかのような構えである
ズメルの顔が益々怒りに満ちていく グレルが幸定に話しかける
「あの若造あきらめて勝負を捨てたんですかね?
ん!?どうしました幸定様?」
「いや、まさかな…」
幸定の態度に首をかしげるグレルだがズメルが早く
戦いたがっていたので掛け声をかける
「じゃあ最初の1分始め!!」
ズメルは直線的に来るのかと思いきや素早く左回りに走った
『へっへっへあの構えを見て俺が直線的に突っ込んでくると思っただろ?
スピードでかき回してボコボコにしてやるからな
一撃では決めない1分ぎりぎりまでなぶり殺しにしてやるぜ!!』
ズメルは心の中でほくそ笑んだ しかし拓斗は全く動かない
『なんだ後ろは隙だらけじゃないか!?とんだ小物だぜ!!』
ななめ後ろから斬りかかるズメル それと同時に最小限度の動きで
木刀の剣先をズメルの鼻先に突きつける拓斗
思わず止まるズメル、それを見ていた幸定は椅子から急に立ち上がる
ズメルはサイドステップも使いながら幾度となく攻撃を加えるが
全て鼻先に木刀の剣先を合わされてなすすべがない
幸定がつぶやく
「やはりあれは”無行の型”であったか…」
1分がたちグレルも参加するがグレルの懇親の一撃はみな受け流され
全く有効打撃を与えられない それを見ていたマルコがつぶやく
「すげーよ!?凄すぎるよ拓斗兄ちゃん!!」
二人の攻撃が一向に当たらないのを見て幸定が叫ぶ
「もういいお前らは下がれ!!」
2分にはまだ時間があったがその前に幸定が出てきた
「こいつらでは相手にならんだろう、拙者がお相手いたす」
それに対して拓斗が初めて半身で片手中段に構える
そして幸定に話しかけた
「幸定さんだっけあんた剣士だな?」
マルコが店主に尋ねる
「剣士ってなんだ?戦士とは違うのか?」
「小僧お前そんなことも知らんのか!?戦士はどんな種類の武器も
使えるが剣士は剣しか使えないんだ」
「じゃあ戦士の方が断然いいじゃねーか?」
「ただ戦士はどんな種類の武器も装備できるが特殊な武器
まぁレアアイテムの武器に多いが装備できない武器もある
だが剣士は剣ならば全ての剣が装備できるんだ
それと今回みたいな剣術流派の秘術や奥義なんかも
剣士じゃなきゃ会得できないこともままある」
マルコが感心して聞いている時幸定がしかける
「いくぞ秘剣”隼の舞”!!」
幸定の木刀が光り中段に構えていた木刀を上段から振り下して来た
それと同時に左右からも光る刀が襲ってきた 幸定は勝ちを確信していた
『我ながら大人げなかったか・・・許せ少年、敗北も修行の内ぞ』
拓斗は幸定の上段攻撃を木刀で受け止める 幸定がほくそ笑む
『上段攻撃のみ防いだとて左右の攻撃は防げまい』
しかし拓斗は幸定の上段攻撃を受け流し返す刀で胴体に一撃を見舞った
「ぐはっ!!」
強烈な一撃を食らいうずくまる幸定 なにがおこったかわからない
という表情で拓斗を見つめる幸定
「な、なぜ私の秘剣が・・・隼の舞が…」
その問いに拓斗が答える
「そこの店主からあんたが”明開神道流”の目録って聞いてたからさ
多分”隼の舞”を使って来るんだろうと思ってね
半身の片手中段に構えたんだよ、上段攻撃を受け流しその流れで
左の攻撃も受けたんだ」
その種明かしを聞いた幸定が拓斗に問いかける
「上段と左の攻撃は受けられても右の攻撃はどうしたんだ?
それになぜ秘剣”隼の舞”を知っている」
「右の攻撃はこいつで受け止めたのさ」
今さっき買ったばかりの籠手をはめた手のひらを見せた
「なっ!?手のひらで受け止めただと!?」
「この籠手がなけりゃそんな芸当はできなかったけどね
オッチャンやっぱいい籠手だったよ!!」
店主に向かって籠手を高く突き上げて親指を立て
”グッジョブ”と叫ぶ拓斗 何度もうなづく店主
そこから急に幸定のみに聞こえる小声で
「なんで秘剣”隼の舞”を知ってたか?というと俺も明開神道流を
習ってたからだよ、各地の剣法道場にはほとんど行った
ちなみに俺”免許皆伝”なんで」
ニコリと笑う拓斗 愕然とした表情を浮かべる幸定だったが
そこで気持ちが切れたのかバタリと倒れ意識を失った
その光景を見て唖然とするズメルとグレルその二人の肩を叩く者がいた
振り向くとマルコが手を出してニヤリと笑っていた
町を出て次の国に向かう二人、もらってきた5000Gを数える
マルコがニヤけながら拓斗に
「しっかし凄ぇ強いな拓斗兄ちゃん、マジでナイトとか
目指せるんじゃないの?」
「
お前も強くなりたいんだろ?姉ちゃんの為に」
「あぁ、姉ちゃんだけは絶対取り戻すからよ・・・そのためには強く
誰よりも強くなるんだ…俺絶対強くなるからよ
そんでもって最終目標はドラグナイトになることなんだ」
拓斗がギクッとする
「ドラグナイト…になりたいのか?…」
「あぁ言わなくていいよわかってる、どうせドラグナイトなんか
単なる空想だのおとぎ話だの言いたいんだろ?
誰でもそういうからな、でもさ俺は信じてるんだ
最強の戦士ドラグナイトになる日を、もし俺がドラグナイトになったら
真っ先にサインやるよ兄ちゃんに」
「ありがとうその時を待ってるよ」
「そういえば兄ちゃんには兄弟とか家族とかいないのか?
一緒にこっちの世界に来なかったのか?」
「あぁ俺の家族は両親共に仕事でイギリスに行ってたからな
妹も一緒にイギリスだ、今じゃ安否の確認のしようがないしな…」
「そ、そっか悪いこと聞いちまったな、でもよウチと違って
両親は生きてる可能性だってあるんだから元気だせよ」
マルコは笑った、マルコの明るさに少し救われている拓斗だった
その時拓斗が気配を感じて立ち止まる そこは両側が断崖絶壁の
ガケで大きな岩が無数にある その岩陰に向かって話しかける
「おい!!いい加減出てきたらどうなんだ?」
マルコが驚いて周りを見渡す 岩陰から続々と人が出てきた
その中には最初に町であった髭面の男とその仲間、そしてさっきの
ズメルとグレルもいた、その他にも10人ばかりの武装した男が
ヘラヘラ笑いながら出てきた
「気づいてたのか、全くかわいげのない奴らだぜ
で!?さっき俺たちからとった5000Gを早く出しな」
マルコがビビりながらも言い返す
「なんだよ、お前らグルだったのかよ!?あれは正当な勝負で
俺たちが勝ち取った物じゃねえか!!なんで返さなきゃ
いけないんだよ!?」
「ウルセーこのガキ!!そんなもん最初から渡すつもりなんか
無かったんだよ、それをあの馬鹿が負けやがっていい迷惑だぜ」
ズメルのこの発言に拓斗が質問する
「ここには幸定さんは来てないんだな?」
「あの剣術馬鹿は元々仲間じゃなかったからな
強い奴と戦わせてやるとか言って騙して引き入れただけでよ
しかも一回負けたら修行に出るとか言い出して町を出て
行っちまいやがった、全く使えねえ馬鹿だぜ」
マルコは考えた
『ここは俺の機転でなんとか乗り切って見せるぜ!!』
「やいやいやい!!ここにいる御方をどなたと心得る
恐れ多くも天下のナイト沢渡拓斗様だぞ!!」
そのセリフを聞いた一同が一斉に笑い出した
「ナイトの称号を持つ奴がそんな貧租な装備してるかよ!!」
「どうせ武闘家か何かのジョブチェンジ組だろ!?
武闘家は一対一には強いが多人数の武装兵には弱いからな
人数を集めさせてもらったぜへっへっへ」
「ちくしょう汚ねえぞ!!」
拓斗はまだ微動だにしない
「なんだこいつビビってるのか?裸で三回回ってワンとやったら
許してやるかもしれないぜ!?」
拓斗が目を見開いて叫ぶ
「おい何度も言わすなよ、いい加減出てきたらどうなんだ?」
ズメル達が笑い出した
「こいつ恐怖でおかしくなっちまったのか?」
その時崖の上から声がした
「よくわかったな!?」
その声の方向を見てみると1000人近くの武装した男達が取り囲んでいた
その姿を見てズメル達が震えだす
「ああぁぁアレは!?ジャンゲルガー兄弟!!」
ジャンゲルガー兄弟の名前を聞いてビビる一同、マルコも震えていた
「マルコあいつらを知ってるのか?」
コクリとうなづいて答えるマルコ
「ジャンゲルガー兄弟ってのはここらじゃ滅茶苦茶有名なワルでよ
隣のコルトバ共和国では賞金がかかってる程の大物なんだよ
なんでこんな所にいるんだよ!?」
ジャンゲルガー兄弟の兄ギースが下のズメル達に向かって
「おいズメル、グレル、それに見覚えのある顔がいっぱいいるなぁ
お前らは俺の顔を覚えているか?」
ニヤリと笑うギース、ズメルとグレルは大量の汗をかき
声を震わせながら答える
「当たり前だろ、実は俺たちもあんたに金を渡すために探してたんだよ」
ギースの表情がみるみる変わっていき
「テメエらこの俺達から金を持ち逃げしておいてただで済むとは
思ってないよな」
それを聞いたマルコは
「あの馬鹿共なんてことしてんだ⁉︎」
と吐き捨てた ジャンゲルガー兄弟の弟ゼラが兄に向かって
「いいじゃんアニキこいつら体で払うって言ってるんだから
もちろんその後、金もかえしてもらうけどな」
いつの間にか崖の上にいた連中が下に降りていて周りを囲んでいた
どの男も武器を持ちながらへらへら笑っていた
「こうなりゃ破れかぶれだやってやるぜ‼︎」
ズメルとグレル以外の男達が周りを囲んでいるジャンゲルガー兄弟の
部下達に突っ込んでいくがあっという間に切り倒されていた
ズメルとグレルは剣を構えているがガタガタ震えていた
「なぁ頼むよ金なら必ず返す、なんでもいうこと聞くから命だけは」
「死にたくねぇ死にたく・・・助けてくださいお願い致します」
弟ゼラが兄ギースに聞く
「キャハハハ、どうする兄ちゃん⁉︎どうやって殺す?」
「まぁそういうなゼラ、俺達も鬼じゃねえお前らを
助けてやらなくもない」
ズメルとグレルに一瞬明るい表情が戻った
「俺達と一対一で戦って傷一つでもつけることができたら
命は助けてやろう」
ズメルとグレルは顔を見合わせてうなずく
「本当だな?本当に傷一つでもつけることができたら
助けてくれるんだな?」
「あぁ約束しよう」
グレルの問いかけにギースが答える
「よし‼︎じゃあ俺からいくぜ‼︎」
グレルが先を主張した 先程の賞金ゲームの時とは違い
目を血走らせて息も荒い
「じゃあ兄ちゃん俺がいくぜ⁉︎」
ジャンゲルガー兄弟は弟のゼラが出てくる ゼラは2メートル違い大男で
髪は短髪だが真ん中で赤と金色で分かれていて顔中にピアスを付けている
「へっへっへ楽しませろよ〜チェンジ装備A‼︎」
ゼラの装備は右手に長剣を握り左手は一本一本の指に大きな指輪を
はめていてその指輪から青白く光る2メートル程のヒモが出ている
グレルは剣を立て一直線に向かって行く
「いくぞ‼︎ソラソラソラ‼︎」
グレルの重い連打を右手の長剣一本で簡単に防いでいた
その間ゼラは笑いっぱなしである
「へっへっへ、元気がいいじゃねぇか、もっと来いよもっと、ホイ‼︎」
ゼラはおかしな掛け声と同時に小指を少し動かす
すると小指につながっていた青白く光るヒモが勢いよく伸び
グレルの右足に巻きついた、バランスを崩すグレル
「ホイホイホイホイ‼︎」
各指から出ているヒモが残った左足と両手と首に巻きついた
「うぐっ‼︎」
まったく身動きが取れなくなったグレル そこにゼラがニヤニヤしながら
近づく、刀身をナメながら目が異常に輝いてる
「や、やめろはなせ‼︎」
刀をグレルの左足に刺していく
「ぐあぁぁ痛えぇぇ〜〜やめろ、やめてくれ‼︎」
笑いながら次々と刺していくゼラ、その度にグレルの悲鳴が上がる
ゼラは散々楽しんだ後
「もういいよお前」
静かにそう言うと左手の手のひらを目一杯広げた
するとグレルに巻きついていたヒモが外側に引っ張られる
グレルは大の字に引っ張られ顔は白眼をむき泡を吹いている
やがてグレルの手足と首がちぎれ飛んだ
「さて俺の番か、チェンジ装備A‼︎」
ギースが近づいて来てズメルはすでに涙目になっている
ギースは身長180cm程の筋肉質でいかつい顔に太い眉
スキンヘッドと強面を絵に描いたような男である
ギースはゼラの様に笑ってはいないが目は嬉しそうである
武器は右手に長剣、左手に短剣だが刃の付いていない嶺の部分が
荒いクシのような凸凹になっていて妙な空間が空いている
「拓斗の兄ちゃんあの刀なんだ?」
「あれはおそらくソードブレイカーだ」
「ソードブレイカー?なんだその物騒な名前の刀は?」
「見てりゃわかるよ」
ズメルが体制を低くして加速の構えに入る
「じゃあ行くぜ」
『ギースに勝つのは至難の業だが傷一つでもつければOKなら楽勝だ
ダメージよりスピード重視でいくぜ』
ズメルは低い姿勢で左回りに加速する、明らかに
以前より速いスピードである
『もらった‼︎』
ズメルはギースの左後方から仕掛ける ガキーン‼︎と刀同士がぶつかる
金属音が響く ズメルの一撃はギースが左手の刀の裏で受け止めていて
凸凹の溝にはまっている
「ふん‼︎」
ギースが声と共に刀をひねる、すると見事にズメルの刀が真っ二つに
折れた それを見たマルコが
「なっ!?あれがソードブレイカーか‼︎」
ズメルは折れた刀を投げ捨てバックステップで距離を取る
すると足元にグレルの刀とそれを握ったままの右手があった
「借りるぜグレル…」
グレルの刀を取り再び挑むズメルだったが結果はおなじだった
その刀も見事に折られ今度は逃げる間も無くギースの剣撃が襲う
その際左足を斬られたズメル 悲鳴と共にズメルの左足が飛んでいく
ズメルの左足の膝から下はもうなく足を押さえてうずくまるズメル
ギースは刀の血を拭いているがさっき折られた刀の刃が
ズメルの目の前にあった、とっさにそれを投げつけるズメル
ギースはそれを手で払い落とすがその際手にかすり傷を負った
「やった⁉︎やったぞグレル、傷をつけたぜ‼︎これで俺は・・・」
ズメルが言い終わる前にズメルの首は空中に舞った
「クズの分際で俺に傷つけるとはな」
ギースは不機嫌そうに刀の手入れをしている
そして鋭い視線を拓斗達に向ける
「で、小僧お前は一体なんだ?」
マルコが必死で考える
『いくら拓斗の兄ちゃんが強くても今回は相手が悪いし
この人数じゃどうにもならない、ここは俺がなんとかしないと…』
マルコは目一杯の笑顔と低姿勢で
「俺たちは旅の途中でさっきの男たちに絡まれていたんです
あなたのおかげで命拾いしましたありがとうございます」
「ほう、俺たちのおかげで命拾いしたってか
じゃぁその命は俺たちのもんだな」
ニヤリと笑うギース 、顔面蒼白のマルコが続ける
「いやそんな、俺たちの命なんて虫けらみたいなもんですから
どうぞお構いなくお帰り下さい」
そのマルコの言葉にゼラが
「私虫けら殺すの大好きなんだけどねー」
その時後ろにいた部下たちがゼラとギースに話しかける
「ボスこいつらは俺たちにやらせてくれませんか?
さっきのボス達の戦いを見てたらどうにも興奮して
殺したくてしょうがないんですよ」
その言葉にギースとゼラは顔を見合わせ軽くため息をついた
「部下の要求に応えてやるのもボスとしての器量ってやつだな
わかった好きにしろ、だがあんまり時間かけるなよ
国軍とかが来たら面倒だからな」
歓喜の声を上げる男達、ギースとゼラは帰り始めていた
マルコは最後の手段とばかりに
「やいやいやい、こちらにみえるお方をどなたと心得る‼︎
恐れ多くもナイトの称号を与えられし最強の戦士
沢渡拓斗様であらせられるぞ‼︎」
それを聞いた男たちはやはり笑い出した
「馬鹿じゃねーの、ナイトがそんな格好してるかよ⁉︎
それに万が一ナイトだったとしてもこの人数差で
勝負になると思ってんのか?さっさと潔ぎよく死ねや」
マルコは唇を噛み締める
「やっぱり駄目だったかチクショウ・・・俺こんなとこで死ぬのか
姉ちゃんを助けることもできずにこんなところで…」
拓斗がマルコにささやく
「すまんなマルコ、俺はナイトじゃない」
「わかってるよそんなことチクショウ‼︎」
「チェンジ装備ドラゴン‼︎」
拓斗の叫びに振り向くマルコ そこには真っ赤な鎧に身を包み
竜の紋章が入った盾を左手に装備している
「拓斗兄ちゃん・・・その格好は、一体・・・」
拓斗はマルコの頭にポンと手を乗せ
「お前が憧れる戦士がどれほど強いのかよく見ておけよ」
マルコは呆然とするなか周りを囲んでいる男達がいきり立つ
「なんだその格好は⁉︎テメー本当にナイトだったのか?
まぁその方が楽しめるからいいけどな、さぁ踊れや‼︎」
狂気にも似た形相で襲いかかる男達 拓斗は手を突き出し
ドラゴニックブームを放った
帰りかけていたギースとゼラは後ろの騒ぎが気になって振り向く
「あいつらなに騒いでるんだ⁉︎」
1000人の部下達が明らかに混乱していた
集団の一部が爆発したように弾けた
「な、なにが起こっているんだ⁉︎」
ギースが驚いて凝視する、次々弾ける集団
よく見ると弾けた所には上半身がなくなった仲間の死体が
ゴロゴロしていた
「おい兄貴、あれはなんだ‼︎あいつら次々死んでるんじゃないか⁉︎」
周りを囲んでいた男達も半数になってきたところで次々と
逃げ出したが逃げる男達の上半身がまとめて吹き飛び
下半身だけになった死体がバタバタと倒れる
気がつくと拓斗達を囲んでいた男達は全て死んでいた
マルコはなにが起こっているのか全く理解できなかった
ギースとゼラが走って帰って来る
「テメーなにしてやがる‼︎一体なにをした‼︎」
ゼラが拓斗に問いかける、ギースが目を細めて見て少し驚く
「お前、ドラグナイトだな」
マルコが驚いて拓斗を見る そして拓斗の言葉を思い出す
「拓斗兄ちゃんがドラグナイト?本当に・・・噓だろ⁉︎」
それを聞いたゼラが笑う
「ヒャッハー兄貴、ドラグナイトってあの伝説のか!?
じゃあ俺が倒したら俺伝説じゃん‼︎やらせてくれ俺に、頼むよ兄貴‼︎」
「わかった、ただ決して油断するなよ」
「おぅ任せてくれや‼︎」
ゼラが喜んで挑んでくる 左手の5本のヒモがすでにウネウネ動いていて
まるで生きているかのようであった、ゼラは目を血走らせいつ
襲いかかってやろうか、といわんばかりであった
その時拓斗がドラゴニックブームを放つ
「アクティブシールド」
左手のヒモが5方向に広がりシールドを形成する
拓斗の放った衝撃波をなんなく防いでみせるゼラ
「プッヒャヒャヒャ〜こんなもんか、伝説さんよ!?」
続けて左手のヒモを動かすゼラ 5本の青白く光るヒモがまるで
5匹の蛇のように拓斗に襲いかかる、それを最小限度の動きでかわす拓斗
その時ゼラがニヤリと笑い叫ぶ
「千蛇螺旋網縛‼︎」
拓斗に向かってきていた5本のヒモがそれぞれ分裂して
無数の糸になり拓斗の両手、両足、首、胴体に絡みつく
「プッヒャヒャヒャ〜つーかまえた、さぁどうやって
いじめてやろうかな」
ゼラは嬉しそうに語り舌舐めずりをする
そして左手を一気に広げ拓斗を大の字にしてやろうとしたが
一向に動かない 左手の手のひらを広げようと焦るゼラ
「あれ?なんで?なんでひららかない?」
ゼラがひららかない左手に四苦八苦している時
拓斗が目を細め全身に力を入れる、すると拓斗を束縛していた
無数の糸が青白い色から段々と赤くなりそれぞれから煙が立ちのぼる
「アチッ、熱い熱い‼︎」
ゼラが慌て糸を引き戻す、引き戻した糸からもまだ煙が上がっている
「フゥフゥなんで奴だよ、でもな束縛がダメならこれはどうだ?
”豪流爆針弾雨”‼︎」
ゼラは勢いよく糸を上に投げる、すると糸は無数の針の雨となり
降り注ぐ、まるでゲリラ豪雨のような針の雨は拓斗に段々近づいて来る
その針の豪雨でゼラの姿も見えない
拓斗はとっさに刀に手を掛け針の雨を切り裂く
するとその切り裂いたすぐ先にはゼラが刀で突撃してきていた
「ヒャッハーーーいただき‼︎」
ゼラの突きが届く寸前のところをバックジャンプでかわす拓斗
それを見たゼラがニヤリと笑い
「ところがぎっちょん‼︎」
拓斗に向かって突き出していた刃先がミサイルのように
刀身ごと飛んで来る とっさに左手で受け止めようとする拓斗
「そんなんで防げるわけねーだろ!?手ごと貫かれて死ねやボケ‼︎」
ゼラの放った刀身が拓斗に直撃した、最高に嬉しそうなゼラ
しかし刀身は刺さらずにポトリと下に落ちた
「な、なんで?」
唖然とするゼラ、よく見ると落ちた刀身は刃先がドロドロに溶けていた
「な、そんなのアリかよ!?」
拓斗がゼラに話しかける
「中々いい攻撃だったよ、でももう種切れだよな?
じゃあ俺のターンかな⁉︎」
拓斗は竜の紋章が入った赤い剣を抜き上段に構えた
ゼラは刀身のなくなった剣を投げ捨て短剣を手にした
「いくよ」
拓斗が攻撃を宣言する、ゼラが姿勢をやや低くして構える
さっきまでの余裕は全く無かった 拓斗が一気に間合いを詰め
斬りかかるが速すぎてゼラは反応できない
「へあっ⁉︎」
おかしな声を出して真っ二つに斬られたゼラ 斬られた後
真っ二つになったゼラの死体はあっと言う間に燃え上がり
灰となって風に消えた
「ゼラ~‼︎よくも、よくも俺の弟を〜」
ギースが怒りに満ちた顔で向かって来る、拓斗はまた上段に構えた
その構えを見て立ち止まり叫ぶギース
「来てみろオラ〜‼︎その刀もへし折ってやるぜ、どうしたコラ‼︎」
フッと笑う拓斗 次の瞬間先ほどのように一気に間合いを詰め
斬りかかる拓斗 ガキーンという金属音が鳴り響く
何とか反応したギースが冷や汗をダラダラかきながら拓斗の一撃を
受け止めていた、その瞬間
「なんて速さだ!?しかし受け止めたぞ
一気にへし折ってやるからなフン‼︎」
力を入れるギースだが一向に折れる気配がない
「フン‼︎そんな馬鹿な、なぜだ?おかしいぞ!?」
受け止められながら力を入れる拓斗、ギースは押し潰されそうに
なりながらも頑張っていると ギースの剣が段々赤くなっていく
「うわ熱っちー、熱い熱い熱いって!?」
ギースは自分の剣を離して後ろに転がりながら距離をとった
ハァハァと息を切らせながら睨むギース
「テメエわざと俺に受けさせやがったな」
拓斗はふっと軽く笑うだけの返事だけだったがギースには十分伝わった
「こうなったらしょうがねぇ最後の手段を使うか、チェンジ装備S‼︎」
ギースの装備は全身銀の鎧に変わった、特に両腕の肘から先の部分は
物凄い重装備でその部分が白く光っている、そして見た目が氷で
できている長剣を持っていた
「へっへっへ~こいつはな”フロストバスター”と言って
さわるものを片っ端から凍らせるっていう魔剣よ‼︎
ただしコイツは使用者の俺まで凍らせようとしやがるからな
これ程の重装備に冷凍系に対する魔法処理がしてあっても
使用時間はせいぜい5分が限界っていう代物だ
しかしその赤い剣相手にはちょうどいいだろ!?」
ギースがフロストバスターを地面に突き刺さす
地面がどんどん凍っていき拓斗の手前まで来る
拓斗は自分の剣を地面に刺すと凍っていた地面が一気に戻る
「へっへっへ小手調べはこんなもんだろ、じゃあいくぜ‼︎」
ギースが連続で斬りかかるが剣を合わせず全てかわす拓斗
バックジャンプしたあとドラゴニックブームを放つが
フロストバスターの一振りで無効化する
ギースが振りかぶり力を入れるとフロストバスターの周りが
空気ごと凍っていくような感覚になった
フロストバスターの刀身が白く光って周りの気温が確実に下がっていく
「喰らえや、アヴァランシュミスト‼︎」
空気中の水分を凍らせ霧を作りそれを雪崩れの様に放出させる技である
霧の雪崩れは拓斗に近づくにつれて周りの霧を巻き込みどんどん巨大化し
最終的には10mを越す高さの雪崩れになった 途中にあった木や岩が瞬時に
凍り砕けた、まるで液体窒素に触れたかのようだった
拓斗も赤い剣を振りかぶり 一気に振り下ろす
「ボルガニックフレイム‼︎」
拓斗により発生した炎は空気中の酸素を取り込み一気に広がっていく
周りの木を一瞬で燃やし岩を溶かすあたかも炎の津波のようである
凍った霧の雪崩れと燃え盛る炎の津波がぶつかり合う 霧が炎を飲み込み
炎が霧を喰い尽くす、凄まじい衝突のあと
2つは対消滅をおこし視界が一瞬悪くなる モヤが晴れてきて
薄っすら見えて来た時には拓斗はギースの懐にまで踏み込んで来ていた
とっさに反応するギース 拓斗の剣をフロストバスターで受けようとした時
拓斗はとっさに剣を離して剣の鞘でギースの手を殴った
それを見たギースが笑う
「はっ、馬鹿か!?一番重装備の部分を鞘で殴るとか正気か?
そんなの痛くもかゆくもねーぜ、そろそろ死ねや‼︎」
ギースはすかさず振りかぶり思い切り振り下ろす
しかし拓斗は無傷である
「へっ?なにがどうして?」
ギースは不思議に思い視線を下に落とすと自分の両手首から先が
ないのであった、足元にはフロストバスターとそれを握ったまま
凍結している両こぶしが落ちていた 愕然とするギース
拓斗が話し出す
「フロストバスターの力であんたの両手は完全に凍結したんだよ
炎と違って凍結は感覚を鈍らせてしまうからな」
「でも俺はまだ3分ぐらいしかフロストバスターを使ってないぞ?
なのになぜ?」
ギースは不思議そうに質問する
「それはあくまで通常戦闘時だろ?あれだけ魔剣の能力を使えば
侵食の速度も早くなるさ」
「貴様はそれを狙って・・・」
ギースが悔しそうに睨んでいる、魔剣を握りながら凍結した
ギースの両手はすでに砕け散り剣だけが地面に落ちている
拓斗はフロストバスターを拾い上げた、すると魔剣の侵食で拓斗の手を
凍結しようとするフロストバスター、それに対してドラグナイトの鎧が
熱を発し魔剣を押さえ込みにかかる、凄まじい量の水蒸気が発生し
辺り一面をモヤに変える
「コイツ凄いな、けどそろそろ大人しくしろ‼︎」
拓斗が力を込めるとあれだけ発生していた水蒸気がピタリとおさまる
魔剣フロストバスターは拓斗を主人と認め服従を選んだのだ
拓斗は魔剣を軽く振り回し
「まぁ俺好みの剣じゃないけどな・・・
しかし俺はドラグナイトの装備以外はD装備しかできないはずなのに
なんでこの魔剣は装備できるんだろ?まぁいいか」
ギースがア然として見守っていた、そこに拓斗が話しかける
「さてあんたらコルドバ共和国では賞金首になってるらしいね
賞金には興味ないけどコルドバに届けるから凍ってもらうよ
砕け散らないように加減が難しいな、でも俺の剣だと灰か消し炭に
なっちゃうからそこは便利かな⁉︎」
「いや、ちょっと待て、話を聞いてく…」
ギースは言い終わる前に氷像となっていた
「さてコイツをコルドバに届けなきゃな、魔剣はついでに
もらっておくか」
そこに興奮したマルコが駆け寄ってくる
「なんだよ兄ちゃん、人が悪いにも程があるぜ!?
ドラグナイトなんだよな?本物のドラグナイトなんだよな?
姉ちゃんを…姉ちゃんを助けてくれよ‼︎
グランシア王国なんかぶっ倒して姉ちゃんを助けてくれ頼むよ」
それを聞いて首を振る拓斗
「それは無理だマルコ・・・」
「なんでだよ、兄ちゃんぐらい強ければ・・・」
「強い弱いの問題じゃない、マルコ・・・姉ちゃんが
グランシアのどこにいるのか知ってるのか?」
「そ、それは…だけどグランシア兵を片っ端から捕まえて
聞いて回れば」
「そんなことをしたらお前の姉さんは”ドラグナイトが捜してる女”
としてどんな目に合うかわからなくなるぞ!?
この世界でドラグナイトがどんな存在か、お前も知らない訳じゃ
ないだろ」
「だけどよ、だけど・・・それじゃあ姉ちゃんが…」
拓斗がまたマルコの頭に手を乗せて
「この件に関しては俺に考えがあるんだ
ドラグナイトの力なんかに頼らなくてもなんとかするさ
だから俺に任せてみないか?マルコ」
「うん、わかった拓斗の兄ちゃんに任せるよ
でも考えってどんな考えなんだ?」
「それはまだ秘密だ、ヒントはコイツを使う」
拓斗は氷像になったギースをポンポンと叩いて笑った
それを見たマルコもなにかおかしくなってきて一緒に笑った。
今回は拓斗とマルコが一緒に旅をすることになったきっかけの話です北斗の拳のバット、ベルセルクのイシドロみたいな立ち位置のキャラのつもりで出しましたどうでしたでしょうか?これから二人の旅が続きます。