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最強の証明 白の少年編


ラインハルト・カナ・ロマーヌ(沢渡香奈)…白剣姫ホワイトソードプリンセスとよばれるアミステリア公国最強の美少女剣士であり軍の最高司令官、そして国民的英雄でもある、拓斗の妹

チャングイ将軍…アミステリア公国の猛将、若いころは”暴走獣”と呼ばれたほどの猪突猛進型の戦士でアミステリアの双璧といわれている一人、ゲルハート将軍とは何かと言い争う事が多いが仲は良い

ゲルハート将軍…アミステリア公国の知将、ナイトの称号を持っている程の手練れだが指揮官が自分で戦う事を良しとしない、計略やはかりごとが得意アミステリアの双璧といわれた一人

サラボルン国王…アミステリア王国の国王で気がやさしく自分の考えを押し通す事を嫌う、それゆえに部下からは慕われている、香奈の事を自分の息子の嫁にしたくて度々言い寄っている

西園寺怜次…西園寺健一郎の孫で”天才高校生剣士”と呼ばれた高校剣道界最強の存在

その少年はそこにいた、まるでそこにいるのが当然の様に

まるで絵画からそのまま抜け出してきたかのような姿で・・・


ここはグランシア南部のフルタリオン村という小さな集落である

普段戦争に明け暮れているグランシア王国の中にあって

ほとんど戦争に巻き込まれた事の無い奇跡の様な村である

とはいえそれにはちゃんと理由があり一つ目の理由は

グランシアや他国にとってこの村には戦略的価値が

ほとんど無く、自国にも他国にも無視されているのだ

そんな村だから若者の大半は都市部に移り

過疎化が進んで老人ばかりの村となっていた

特に貴重な資源や珍しい名産が採れる訳でも無いので

老齢化が進む村人が農耕で細々と暮らしているのが現状である

そして二つ目がこの村の東側にはモハードット森林とういう

大きな森が広がっていてそこには獰猛な猛獣が数多く

生息している、猛獣たちが村に侵入しないように

森の周りを囲むように何重もの強力な結界が張られていて

毎月一度グランシア所属の魔法使いが結界の検査と結界を張り直す

作業をおこなっていた、だから他国がこの村を侵略しようとすると

このモハードット森林を抜けなければならず

ワザワザ危険を冒しながら猛獣を相手にしなければならない

というリスクを冒してまでの価値はないと判断され

どの国もここへの侵攻は断念してしまっっているのだ

そんなのどかなで平和なフルタリオン村では

今日も農作業の為に畑に来た老婆が目を丸くして驚いた

「おやまあ!?一体何があったんだい!?」

老婆の目に映ったモノ、それは畑の真ん中で立っている

一人の少年だった、髪は長く肩まで伸びており肌は色白で

非常に端正な顔立ち、歳は17歳ぐらいに見えた

老婆がなぜ驚いたかと言えば、その少年は全裸だったのだ

一糸まとわぬ全裸姿で畑の真ん中に直立している少年

しかし恥ずかしがる様子は全くなく、静かに周りを見回していた

そんな少年の周りにはいつの間にか小鳥が数羽集まって来て

少年の肩や手に次々ととまっていた、その姿はあまりに自然で

美しさまで感じる程であった、その姿に思わず老婆も見とれて

しまっていたが、ハッと我に返り話しかけた

「あんた、一体どうしたのさぁ?

 追いはぎにでも会ったのかえ!?」

少年はゆっくりと振り向きニコリと微笑んだが返事は無かった

その時少年のお腹が”グ~”っと鳴った、老婆は半分呆れながらも

少年に近づき優しく言葉をかけた

「そんただ恰好じゃ道も歩けんじゃろ?

 家に来んさい、貧乏村の年寄り夫婦

 だがら豪華なもてなしはでけんけど

 爺さんの着物と食い物ぐらいは

 出してやるさに」

少年は老婆に連れられて老夫婦の家に招かれた

決して立派な家とはいえないが中は小奇麗にしており

つつましく暮らしている事が見て取れた

少年は老婆に出された着物を着るが長身の少年が身につけるには

その着物はあまりにも小さすぎた、袖と裾の長さが全く合わず

肩幅や胴回りもパツパツで何とも滑稽な着こなしとなってしまったが

「まあ何にもないよかマシだべさ」

と言いながら食事の用意を始めた、出された料理は

野菜が少し入っているだけの粥だったが

それを慌てることなく無表情でゆっくりと食べ続ける少年

「どうだえ?口に合うかえ?」

老婆の問い掛けにニコリと微笑む少年、その屈託のない笑顔は

施している老婆が思わず嬉しくなるほどいい笑顔だった

そこに老婆の亭主であろう老人が帰って来た、少年の姿に少し驚いたが

老婆の説明に納得したようで、少年に微笑みながら話しかけた

「そりゃあ大変だったべな

 ごの村ば何にも無いどこだけんど

 ゆっぐりしていぐといいべ」

再び無言のままニコリと微笑む少年、老人も思わず大きくうなづいた

「だどもあんた、どごがら来たね?

 この村近くでば追いはぎなんが

 出るはずもながけんが!?」

その問い掛けに少年はゆっくりと森の方角を指さした

「モハードットの森さ抜げで来ただと!?

 お前えさん嘘つくのは良ぐないべ

 あぞごばおっかない獣ばっかで

 人間が一人で通れるとこじゃねーべ!?」

その言葉に少年は何も答えなかった

そして翌日、老夫婦からもらった着物と

少しばかりの食料を持ち、旅立つ少年

「まんず気を付けて行けや

 この辺は穏やかだども

 町の方に行けば戦争しで

 ばっかだけんな」

「あんさんばまだ若いがら

 命ば大切にな、危険な

 とこばあんま近づがん方が

 よかじゃ」

少年は満面の笑みを浮かべ深々と礼をして旅立って行った

しばらくその後姿を見守っていた老夫婦だったが

ある事に気が付き顔色が変わった、少年が向って行った先は

間違いなくモハードットの森林だった

「あれま、あの子どごさいくんだ!?」

「じいさま、早ぐ行っで

 教えてあげるじゃ!?」

老人は慌てて少年の後を追う、しかし少年の歩く速度は速く

全く追いつかない、息を切らせながらモハードットの森の前に

到着した老人は結界の一部が破られている事に気が付いた

「どしでこんな事に!?」

辺りをキョロキョロ見渡すが、あの少年はどう考えても

ここから森に入って行ったとしか思えなかった

ゴクリと息を飲み意を決して

そこから森に入って行く老人

長年フルタリオン村で生きて来て

禁断の森に入るのは始めての経験だった

胸の鼓動が高鳴り冷や汗が止まらない

そして森に入って5分ほどたったところで

信じられない光景が目の前に広がっていた

「な、なんらこれは、こんな事が!?」

そこには数十頭とも思える猛獣の死骸が転がっていた

しかもそこには争った形跡も無く

ただただ大量の死体がまるでオブジェの様に転がっていた。


アミステリア公国では朝の会議が終り皆が雑談交じりに

和みながら会議室を出るところだった

アミステリア公国最高司令官ラインハルト・カナ・ロマーヌこと

沢渡香奈も書類を整理し自室へ戻るところであった

そこにアミステリアの双璧と呼ばれる一人

ゲルハート将軍が声をかける

「ロマーヌ殿、少しよろしいですか!?」

「はい、一体なんですかゲルハート将軍?」

ゲルハートはさらに香奈に近づき小声で話しかけた

「会議では議題には上げなかったのですが

 実は各国で妙な事件が起こっていまして・・・」

香奈も興味深げに問いかけた

「妙な事件?それは一体どんな事件が

 起こっているというのですか?」

「最近辻斬りといいますか

 道場破りと言いますか・・・

 まあそんな物騒な事では無いんですが

 高名な剣士だけが狙われて打ち倒される

 という事件が相次いでおりまして」

思わず香奈の表情が険しくなる

「一体誰がやられたんですか!?」

「はい、神道三雲流のベルゲンド

 二刀流使いのドマイニ

 拳武刀術のチャン・ハオ

 ソラティア神国のネルドフォード

 ・・・」

香奈が思わず驚きの表情を見せる

「みな一流どころばかりじゃないですか

 本当にその人たち全員が

 やられたのですか!?」

その問いに無言でうなづくゲルハート

「これは内密でお願いしたいのですが

 実は同盟国コルドバ共和国所属の

 ギルド国士無双の次郎さんと

 テツヤさんもやられたそうです

 ・・・」

香奈は信じられないといった面持ちで問いかけた

「あの二人がですか!?

 次郎様、テツヤ様は

 かなりの達人ですよ!?

 あの二人が揃ってやられるなんて

 信じられません・・・

 それで次郎様とテツヤ様は

 無事なのですか!?」

「はい命に別状はないようです

 今回議題に上げなかったのも

 被害者に死人や大けがを負った

 者はいないからなのです

 精々打ち身程度や気絶させられたり

 するぐらいで・・・

 被害者としても正式に勝負を

 挑まれての結果なので

 本来問題は無いのですが・・・」

そこにアミステリアの双璧の一人

チャングイ将軍が話に割り込んできた

「おもしれえじゃねーか!?

 腕の立つ奴だけを狙って来るなんて

 しかも隣国のコルドバまで来たという事は

 ここに来る可能性も高いって事だろ!?

 もし無謀にもここにノコノコ来やがったら

 この俺様がぶちのめしてやるぜ!?」

チャングイの言葉に微笑む香奈だったが

ゲルハートは依然険しい表情を崩していなかった

「ロマーヌ殿、貴方の剣の強さは

 広く世に知られております、その人物が

 ”ホワイトソードプリンセス”

 を倒そうと狙って来る事は

 十分考えられる事です

 くれぐれもお気を付け下さい」

ゲルハートの言葉にコクリとうなづく香奈

「なあ嬢、そういう事なら

 今から俺と模擬戦でもしないか?

 最近譲とやってないから物足りなくってよ」

「申し訳ありませんチャングイ将軍

 私はこの後、予算会議に出席しなければ

 なりませんので・・・」

申し訳なさげに断る香奈、チャングイは唇を尖らせ

「ちぇツマンネーの、ゲルハートじゃ

 相手にならねーしな・・・」

その挑発的な発言にフッと

笑いながら反論するゲルハート

「私もロマーヌ殿と共に予算会議に

 出席予定なんで貴方の相手

をする程暇じゃないんですよ」

チャングイは面白くなさそうに顔をしかめると

ムスッとしながら部屋を出て行った

「くそっ、ゲルハートの奴、これ見よがしに

 俺だけ仲間外れみたいな扱いしやがって

 今度本当にボコボコにしてやろうか・・・」

そんな事をブツブツ独り言のように

つぶやきながら廊下を歩いていると

前から慌てて走って来る兵士が目に留まった

「おい、そんなに慌ててどうしたんだ?

 何かあったのか!?」

「あっ、チャングイ将軍

 実は今正門の前に

 若い男が来ておりまして

 ”ロマーヌ様と立ち会いたい”

 と言っているのです

 どこかの国から来た正式な者

 という訳でもなさそうなので

 どうしたものかと思いまして

 ・・・」

その報告にニヤリと笑うチャングイ

「もう来たのか!?よし俺が対応する

 任せておけ」

「えっ!?ロマーヌ様にご報告は

 よろしいのですか!?」

「無用だ、嬢が出るまでも無い

 俺がちゃっちゃと片付けてやる」

「ですが、しかし・・・」

戸惑う兵士の態度を見て

次第にチャングイの機嫌が悪くなっていく

「あ!?テメエは俺様じゃ

 信用できないと思っているのか!?」

「いえけっしてそのような事は・・・」

「じゃあさっさとそいつのとこまで案内しろ‼」

「はい、申し訳ありませんでした‼」

兵士は背筋を伸ばしながら直立し

大きな声でそう返事をするしかなかった

チャングイは兵士に案内され正門の前に来てみると

みすぼらしい恰好の少年が立っていた

明らかにサイズの合わない服に肩まで伸びた髪

色白でどことなくはかなげな雰囲気は

剣豪というイメージとはかけ離れたモノだった

「あ、テメエか?どんな凄そうな奴かと

 思ったら随分と優男だな!?」

チャングイは若者に顔を近づけジロジロ見ながら言い放った

「アンタ誰?」

少年は静かな口調でボソリと喋った

その言葉にカチンときたのか、チャングイは険しい顔で睨みながら

「テメエ・・・アミステリア公国に

 その人ありと言われた

 このチャングイ様に向かって

 いい度胸じゃねーか!?

 今俺は非常に機嫌が悪い

 運が悪かったと諦めな‼」

少年はようやくニコリと笑う

「アンタ強いんだ・・・じゃあやろうか」

少年は右手に持っていた剣を構えた

その剣はお世辞にも立派な物とはいえず

町の武器屋でも安売りしているような乱造品の一種であり

よく見ると刀身のところどころが刃こぼれしていた

一兵卒の持っている剣よりも粗悪なものである事は

一目見て分かった

『こいつ・・・こんなひどい剣で

 戦ってきたのか!?』

目を細め少し警戒しながら横の兵に声をかけた

「おい、お前の剣をよこせ」

いきなり突拍子も無いの要求に驚きを隠せない兵士

「えっ!?私の剣でありますか?

 しかしチャングイ将軍には御自慢の

 ”七星剣”があるではないですか!?」

その問いに苛立ちながら答えるチャングイ

「相手があんなボロ剣で戦うってのに

 俺だけ”七星剣”なんか使えるか‼」

少年の口元が一瞬緩む

「いいよアンタはどんな剣を使っても」

その言葉に益々苛立つチャングイ

「うるさいぞ小僧、俺様を馬鹿にするのも

 いい加減にしやがれ‼」

チャングイは横の兵の剣を奪う様に掴むと少年の前で構えた

その時少年の目つきが少し変わる

「へぇ~アンタ本当にやるね・・・

 少しは楽しめそうだ」

その瞬間チャングイの背中に戦慄が走り

体中から冷や汗がとめどなく溢れだしてくる

チャングイには目の前の少年の体から

オーラが湧き出てくるような錯覚を覚えた

『この小僧、ただ者じゃねーぞ!?

 いくら嬢でもコイツ相手では・・・』

その時、ようやく相手がとんでもない

怪物だという事に気が付いた


予算会議がおこなわれている会議室では特にもめることも無く

順調に話が進み予定より早く終れそうだと皆が考えていたその時

会議室の扉を激しく叩く音が響いた

「緊急の用件です、ロマーヌ様

 ロマーヌ様はおいででしょうか!?」

何事か?と皆が顔を見合わせる、香奈自ら席を立ち扉を開けた

「どうしました、何かあったのですか?」

「会議中に大変申し訳ありません

 先程ロマーヌ様と立ち会いたいという男が現れ

 チャングイ将軍が相手をしたのですが・・・」

香奈はハッとして一瞬ゲルハートを将軍の方を見た

ゲルハートは思わず立ち上がり兵に問いかけた

「それで、チャングイ将軍はどうなりましたか!?」

聞かれた兵は少し言いずらそうに間を空け下を向きながら答えた

「そ、それが・・・負けました

 チャングイ将軍にお怪我は

 ありませんでしたが

 わずか30秒程で決着しまして

 その・・・」

それを聞いていた会議室のメンバーがどよめく

「あのチャングイ将軍が

 たった30秒で!?」

「信じられん我がアミステリア公国が

 誇る双璧の一人だぞ!?」

皆がざわつく中、ザラボルン国王が神妙な顔つきで兵に問いかけた

「それで、その剣士は何といっておるのじゃ?」

「その・・・引き続き

 ロマーヌ様と立ち会いたいと」

再び場内がざわつく

「止めておきましょうロマーヌ様」

「そうです、チャングイ将軍を一蹴するような

 化け物剣士など相手にしない方が良いですぞ」

「あなたは我がアミステリア公国の象徴であり

 希望なのです、無名の剣士相手に万が一にも

 不覚を取るような事があれば

 取り返しがつきませんぞ!?」

皆の意見が出尽くしたと思われたところでゲルハートが口を開いた

「私の意見も皆と同じです

 この勝負は勝ったところで

 得るモノは無く、負ければ

 大変なダメージです・・・」

香奈は目を閉じ黙って皆の話を聞いている

そこにザラボルン国王が口を開いた

「それでもやるつもりなのであろうな

 お主であれば・・・」

香奈は目を開け大きくうなづく

「はい、挑まれて逃げる訳にはいきません

 それほどの剣士に逃げたと思われたくは

 ありません、立場より名を惜しみたいです

 今はアミステリア総司令官としてではなく

 一剣士として戦いたいと思っております

 それでも国の軍を預かる者としての

 立場もわきまえているつもりです

 国王様がダメだというのであれば

 その命には従います」

その言葉を聞いたザラボルン国王は

椅子の背もたれに深く座り直し深くため息をついた

「ワシはそなたの事を

 本当の娘の様に思っておる

 娘が信念をかけた決意を

 どうして反対できようか・・・

 行ってまいれ、そして

 勝ってこい‼」

「はい‼」

香奈は強い意志の目で大きく答えた、そして

その結論がわかっていたかの様にゲルハートがうなづく

「では私が立会人を務めましょう」

香奈とゲルハートはその謎の剣士が待っている

正門前に急ぎ足で向かう、すると

正門まであと少しという所で二人の姿が確認できた

右腕を抑えながらうずくまっているチャングイと

その前にみすぼらしい恰好で立っている若者の後姿が見えた

「ロマーヌ殿、どうやらあの男の様ですね

 しかし装備的には随分と貧弱ですし

 思ったより細身の男ですね・・・」

その瞬間香奈の心に何か引っかかるものがあった

『あの後姿どこかで・・・』

二人が正門前に着くと香奈がチャングイに声をかけた

「大丈夫ですかチャングイ将軍!?」

「嬢か、すまねえ・・・

 簡単にやられちまった・・・」

右腕を抑えながら苦悶の表情で答えるチャングイ

香奈の声に振り向く少年、その顔を見た時香奈が思わず叫んだ

「あなたは西園寺怜次!?」

少年は少し驚いた表情を見せた

「君は僕の事を知っているのかい?

 どこかで会ってたかな・・・」

ゲルハートとチャングイが驚いて香奈に問いかけた

「嬢の知っている奴なのか!?」

「彼は一体何者なんですか!?」

香奈は厳しい顔をして怜次を睨みながら

ゲルハートとチャングイの問い掛けに答えた

「いえ、知り合いという訳では・・・

 しかし私のやっていた剣の世界で

 彼を知らない者はいません・・・

 私の知る限り彼はここ四年間負けた事が

 ありません、兄が唯一勝てなかった

 人物です」

その事実に驚愕するゲルハートとチャングイ

「拓斗殿が勝てなかった相手ですと!?」

「あの拓斗より強い・・・

 俺じゃあ勝てない訳だぜ」

怜次は不思議そうな顔で静かに話しかけてきた

「どうやら君は剣道をやっていたようだね

 だから僕を知っていたのか・・・」

「ええ、でもそれだけじゃありません

 私は貴方の祖父西園寺健一郎さまのライバル

 だった東条源次郎先生の弟子です」

その瞬間怜次の目つきが変った

「へえ~そうなんだ、それは楽しみだな

 今まで弱い奴ばっかで退屈していたんだ

 君なら少し楽しめそうだ・・・

 一つ聞いていいかい?」

「なんですか!?」

「ちなみに君より強い剣士はいるかい?」

香奈はその問いに少し間を空け答えた

「いますよ、二人ほど・・・」

「それは誰だい?もう弱い奴と戦うのは

 うんざりなんだよ、君を倒した後

 すぐそいつらと戦いたいんでね」

もうすでに勝った気でいる怜次の態度に

少し怒り交じりの言葉をかける香奈

「もう勝った気でいるんですか!?

 貴方が強いのは知っていますが

 そこまでナメられると

 あまりいい気がしないんですが」

香奈の言葉にフッと笑う怜次

「すまないすまない、でも見たところ君

 年下でしょ?年下の女子に負ける程

 僕は弱くないよ、期待はしてるけどね」

その言葉に思わずチャングイが歯ぎしりする

「チクショウ、嬢があれ程ナメられるなんて

 怒りで頭がおかしくなりそうだぜ」

横にいたゲルハートが続く

「そうですね、しかしロマーヌ殿は

 冷静なようです、平常心で戦えそうですね」

チャングイがボソリとつぶやく

「そうでも無いみたいだぜ!?」

ゲルハートがチャングイの言葉にハッと思い返し香奈を見つめる

すると香奈の表情は冷静さを保っていたが固く握られた両拳は

かすかに震えるほど力が入っていた、それを見たチャングイが

「ありゃあ相当頭に来てるぜ、嬢はああ見えて

 気が強くて負けず嫌いだ、何より相手に

 見下されることを極端に嫌がる

 あれ程ナメられて心中穏やかなわけねーだろ」

ゲルハートが思わず息を飲む、香奈が精いっぱい冷静を装い

怜次に言い放った

「私より強い者の名を知りたければ

 私を倒してみてください

 そうすれば教えてあげなくもないですよ」

香奈の言葉にニヤリと笑う怜次

「君も中々言うねぇ、わかったよ

 じゃあ始めようか」

「まってください‼」

その時ゲルハートが叫んだ

「私は今回の勝負の立会人をやらせていただく

 ゲルハートと申します、ロマーヌ殿

 剣はともかく防具は付けてください」

キッと厳しい目線でゲルハートを睨みつける香奈

「防具などいりません、あちらだって

 付けていないではありませんか!?」

怜次はクスリと笑いながら

「いいよ君は防具付けなよ、僕はいらないけどね」

その怜次の態度に益々頭に血がのぼる香奈

「何ですかそれは!?

 私もいりませんよそんなモノ‼」

その時ゲルハートが怒りの表情を見せる

「ロマーヌ殿‼」

その声に驚き思わずゲルハートを見つめる香奈

ゲルハートの目は明らかに怒っていた

それは熱くなっている香奈の目を覚まさせる意味もあったが

自分の立場を忘れている香奈に対して怒っていたのだ

いくら相手の剣が貧弱でも殺傷能力が無い訳ではない

今までの対戦相手が大した被害を受けていない

からといって今回もそうだとは限らないからだ

万が一取り返しのつかない事になったら

アミステリア公国の全てが瓦解してしまうほど

今の香奈は国の支柱となっている

勝負に負けるだけならばしょうがないが

香奈が死んだり大けがする事だけは絶対に避けなければならない

ゲルハートが無言でそれを訴えかけ

それを聞かないのであれば勝負もさせないと

言わんばかりのオーラを出していた

香奈はそれを察し渋々防具を付けた、屈辱ではあったが

ゲルハートの気持ちと自分の立場を考えれば当然の選択である

「では勝負を始めたいと思います、両者構えて」

ゲルハートの掛け声に香奈が蹲踞そんきょの構えを取る

ニヤリと笑って怜次もそれに続いた

「では、始め‼」

「キエェェェーー‼」

大きな声と共に香奈が早々に仕掛ける

怜次の喉元に強烈な突きをくり出した、首をひねってかわす怜次

しかしその瞬間怜次の目つきが変る、上段から凄まじい剣戟が

香奈の頭上に襲い掛かるがそれをいなしすかさず反撃する香奈

二人の目にも止まらぬ攻防が続き、他の者はもちろんゲルハートや

チャングイすら呆気に取られる程の凄まじい応酬が繰り広げられた

「やるじゃないか、やるじゃないか!?

 君を馬鹿にした事は謝ろう

 君の様な女の子がこれほどやるとは!?」

怜次の表情が歓喜のそれに変っていく

それに反して香奈の表情は厳しいモノに変っていく

『強い、わかってはいたけど本当に強い!?

 お兄ちゃんやみゆきさんとは全く違う強さ

 でも、負けるわけにはいかないのよ‼』

香奈の渾身の突きが怜次の頬をかすめる

かすかに斬れた頬から一筋の血が流れた

驚愕の表情を浮かべ思わず距離を取った怜次

「どうしました?まさか年下の

 女の子相手にビビったんですか!?」

怜次の表情から余裕が無くなり真剣な眼差しで香奈を見つめる

「もう一度聞きたい、君より強いという

 剣士の名を教えてくれ」

「先ほど言った事をもう忘れましたか?

 聞きたければ私を倒してからにしてくださいな」

「僕もそうしたかったが、どうやら無理の様だ・・・」

急に態度を変えた怜次が何を考えているのか

全くわから無い為思わず問いかけた

「どうしました急に、いきなり白旗ですか?

 らしくありませんね」

怜次の目つきがさらに厳しいモノに変る

「白旗じゃないよ、無理だといったのは

 君を倒した後聞き出す事が無理だといったんだ

 どうやら君相手だと手加減できそうにない

 だから君より強いという相手をどうしても

 今のうちに聞いておきたいんだ」

その言葉にゲルハートとチャングイは寒気すら覚えた

怜次は香奈を口のきけない状態にすると宣言しているのだ

それは良くて昏倒、悪くて死亡させるという事である

これほどの剣士がハッタリでそんな事を言うとは思えず

二人は思わずこの勝負をどうにか止めたいと思ったが

そんな事をすれば香奈の剣士としての誇りはズタズタになってしまう

相手に土下座してでも止めさせたい気持ちを飲み込み見守る二人

「私も剣士の端くれのつもりです

 本気の勝負を所望します」

「だったらお願いだ、二人の名前を教えてくれ

 それを聞かない内は君を倒す訳にはいかない」

怜次は一見おかしなことを言っているようにもみえた

”勝ったら教えてやる”と言っている相手に対し

”教えてくれなければ本気を出さない”と言っているのである

勝負において単に勝ちたいだけであれば

相手が手加減してくれていた方が有利である

しかし香奈にとってそれはこれ以上無い程の屈辱であった

唇をかみしめ絞り出す様に問いかけた

「教えたら本気で戦ってくれるのですね!?」

「ああ、約束しよう」

香奈は気持ちを飲み込み口を開いた

「一人は東条みゆきさん、私の姉弟子で

 東条源次郎先生のお孫さんです」

怜次の口元が少し緩んだ

「へえ~僕と同じ立場の女か・・・

 いいね、もう一人は?」

「もう一人は沢渡拓斗、貴方が中学の時

 全国大会の決勝で戦った人物で

 私の兄ですよ」

その時怜次の両目が大きく見開き狂気の表情を見せた

「沢渡拓斗だと!?覚えてるよ、いや

 忘れるもんか、同い年の癖に

 僕から一本取った男だ!?

 あいつの妹・・・あいつの!?」

怜次から禍々しいまでの闘気が発せられた

見ている者が皆、畏怖を覚える程の凄まじい殺気

見ていたゲルハートとチャングイの背中に冷たいモノが走った

「なんですかこの恐ろしい闘気は

 彼は本当に人間ですか!?」

「嬢はあんな奴を前にして良く

 立ってられるな、あんな小さな体で

 それだけでも本当に尊敬するぜ!?」

香奈は必死の思いで立っていた、少しでも気を抜けば

崩れ落ちてしまうほどの圧倒的な闘気の前に懸命に耐えていた

『気持ちで負けるな、気で押せ

 勝つんだ絶対‼』

香奈は剣を構え怜次の喉元に狙いを定める

「まだ気を保っていられるなんて凄いよ

 もっと僕を楽しませてくれよ!?」

怜次はあえて上段の構えを取った、上段は本来怜次の構えでは無い

しかし香奈の狙いを見抜きあえて”突いて来い”と言っているのである

『上段!?先生やお兄ちゃんと同じ上段!?

 確か西園寺怜次が上段で戦った事はないはず

 ・・・どこまでも私の気持ちを逆なでるわね!?』

上段の構えは胴や喉元ががら空きの防御を捨て攻撃重視の構えである

香奈は相手の思惑を知りながらも突くしかないと決めている

香奈は覚悟を決めると、渾身の力と気持ちを剣先に込め

怜次の喉元に凄まじい突きを見舞った

それと同時に怜次の剣が唸りをあげて香奈の頭上に振り下ろされた

二人の光の様な攻撃が交錯する

そして決着はついた

香奈の突きはギリギリとところでかわされ

怜次の剣は香奈の脳天を直撃していた

「がはっ!?」

凄まじい剣戟を受け崩れ落ちる香奈

「嬢‼」

「ロマーヌ殿‼」

チャングイとゲルハートが慌てて駆け寄り香奈を抱き起す

チャングイが思わず怜次を睨みつける

「テメ~よくも嬢を・・・」

怜次は大きく息を吐きボソリと言い放つ

「死んではいない・・・

 僕の一撃を受けても死なないなんて

 それはかなりの防具なんだな」

香奈の付けていた兜はアミステリア公国の国宝で

伝説の”ホワイトソードキング”が付けていたとされる最上級の物だった

「しかし数日は目を覚まさないだろう

 安静にしていれば半月ぐらいで

 普通に動ける様にはなるよ」

睨むチャングイに対しゲルハートは冷静に問いかけた

「どうでしたか?」

怜次はゲルハートの質問の意味がわからず首を傾げる

「我が国最強の剣士、ロマーヌ殿は

 貴方の目にはどう映りましたか?」

ゲルハートは悔しさをかみしめ敵ともいえる怜次に問いかけた

「ああその事か、僕より弱い

 それだけだ・・・」

その言葉にゲルハートとチャングイは思わず腰の剣に手をかけた

それをまるで気にしないかのように背中を見せる怜次

しかしその時怜次の首元に一筋の真新しい傷があるのを

二人は見逃さなかった

「だけども僕が名前を覚えた剣士は

 彼女で二人目だ・・・」

怜次はそう言って正門の方へ歩いて行く

そして正門を出る寸前で一言告げた

「また来るよ、残りの二人を

 呼んでおいてくれるかな」

西園寺怜次はそう言い残し静かに去って行った。





 


 

 

随分長く間が空いてしまいスミマセンでした

何とか頑張って上げたいとは思っているのですが

中々思うように進まず歯がゆく感じている今日この頃です

(なんのこっちゃ)この話はおそらく3部で終わると思いますので

またおつきあいください、では。

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