再会への試練 黒色光蜂教団編
沢渡拓斗…世界で七人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている。
マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年
メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主。
ソドム…黒色光蜂教団の総帥、合成獣の研究を進めていて自分自身もかなり強い
タウティ…黒装束の集団の幹部の一人、ソドムの補佐的な役割もこなしていてソドムを崇拝している
エミリー…マルコの姉で本人にも自覚は無いが非常に強い力を秘めている
ラナン・アナスタジア(アニア)…パン屋でバイトをしていた17歳の少女、この世界に来て戦乱に巻き込まれ逃げ延びるも黒装束の集団に捕まってしまった(第2部 いざワールドファンタジアの世界へを参照)
夜の闇が森を覆い、何とも不気味な雰囲気の中
拓斗とメリンダそしてマルコの三人は森の奥へと入っていった
いつ敵に遭遇するかわからない状態の中でほぼ視界の効かない
この夜の森はその静けさも相まって否が応でも
緊張感を高めていった、そんな中、恐怖と不安を感じながらも
姉を助けたいという気持ちが自分を奮い立たせ自身の負の感情を
打ち消すかのようにズンズンと早足で先頭を歩いて行くマルコ
「おいマルコ急ぎ過ぎだ、もっと警戒して歩け」
そんな拓斗の言葉が聞こえていないのか、まるでその忠告を
無視するかのように速度を緩めず歩みを進めていく、
そんなマルコの肩を掴み引き留めた拓斗
「何するんだよ拓斗兄ちゃん
こうしてる間にも姉ちゃんが・・・」
引き留めた拓斗に対し思わず食って掛かるマルコ
「足元を見てみろ、それを引っかけたらとんでもない事になるぞ」
拓斗の声に驚いて下を覗き込むマルコ
すると足元には一本のロープが張られていて、それを引っかけたら
あっという間に網で木の上に吊し上げられてしまう罠だった
それをマジマジと見て思わず息を飲むマルコ
「お前の気持ちはわからんでもないが焦りは何もいい結果を
生まない、目的の為にはどう行動したらいいか冷静に考えろ
敵に打ち勝つだけが強さじゃないぞ」
マルコは唇をかみしめながらコクリとうなずいた、しかし次の瞬間
「拓斗さん来ます‼」
メリンダの声が暗闇に響く、するとどこから現れたのか
黒装束の男達数人が音も無く三人の周りを囲むように
こちらに近づいて来るのが見えた
「くそっ、もう見つかっちまったか!?
チェンジ装備ドラゴン‼」
拓斗が真っ赤な龍装備に変るが黒装束の男達はひるむ様子も無く
スピードを緩めず接近してくる、しかも夜の森の中だというのに
まるでグランドを走っているかのような速度で近づいて来るのだ
男達は全員が銀の仮面で顔を隠していてその仮面の奥から怪しく光る
目は獣が狩りをするときに見せるような冷徹で鋭い眼光であった
「くそっ、速いな二人とも俺の後ろに隠れていろ!?」
咄嗟にメリンダがマルコの腕を掴み自分に引き寄せた
「大丈夫です、私達の事は気にせず戦ってください」
そういった瞬間メリンダは懐から数枚の紙を取り出し
宙に放り投げた、するとメリンダとマルコの姿が闇夜に
溶け込むように見えなくなっていった
「なっ!?ガキと女が消えたぞ!?」
「あれは単なる幻術だ時間がたてば効果が切れて見えるようになる」
「先にあの赤い鎧の小僧をひっ捕まえた後じっくりさがせばいい」
「あんな術が使える女なら実験材料として使えるかもしれないからな」
黒装束の男達は様々な事を口にしながらあっという間に接近すると
両手の長く伸びた爪を突き立て一斉に襲い掛かって来た
「やったか!?」
黒装束の男達がそう思った瞬間一人の男が大声で叫んだ
「熱っ!?アチアチ~~~‼」
他の男達が何事が起こったのか!?と突き立てた爪を確認してみると
拓斗の赤い鎧に突き刺さったと思っていた爪の先は
鎧の高熱で溶かされていたのだ、その瞬間、接近していた
黒装束の男達数名の体が一瞬で炎に包まれる
「ぎゃああ~~~」
悲鳴のような断末魔を残し一瞬で燃え尽きる黒装束の男達
その瞬間リーダー格と思われる男が大声で叫んだ
「コイツはドラグナイトだ、デヒアとマルケルトは
急いで戻りこの事をソドム様に伝えろ
私はここで何とか奴を食い止める」
「わかりました、ビヒモス様御武運を!?」
そう言い残しデヒアとマルケルトと呼ばれる二人は足早に
その場を去って行った、拓斗がその背中を見つめている
「なにゆえ伝説のドラグナイトがこんな所にいるのだ!?」
ビヒモスが敵意と苛立ちを隠し切れない口調で拓斗に問いかけた
「ちょっと野暮用でね、実はあんたらを捜していたんだよ」
「我々を?一体どういう理由で我らを捜しているのだ?
それにここには強力な結界が張ってあったはず
どうやってここを見つけたというのだ!?」
「それはちょっと言えないな、まあ企業秘密だよ
ところで勝ち目のない戦いをまだやるのかい?」
拓斗の言葉に思わず歯ぎしりするビヒモス、そんな時
後ろの部下達がビヒモスに寄ってくると耳元でささやいた
「ここは一旦退きましょうビヒモス様
いくらあなたといえど伝説の龍戦士
ドラグナイトでは相手が悪すぎます」
銀色の仮面越しに拓斗を睨みつけていたビヒモスだったが
「引け、皆の者一旦引き返せ‼」
その号令と共に全員が一斉に散開し
まるで消えるようにいなくなった
そしてその場には今まで何事も無かった
かのような静寂が戻っていた
「さすがに追うのは無理か・・・もう出てきても大丈夫だぜ」
その声に呼応してメリンダとマルコが術を解いて姿を現した
「メリンダ俺達の事が奴らにバレた
ここから奴らのアジトまでどのくらいかかる?」
「そうですね、急げばあと10分位じゃないでしょうか!?
とにかく急ぎましょう」
「そうだな、俺達の事を知った以上はお姉さんの身が
心配だ、行くぞマルコ」
拓斗の声にマルコは力強くうなづいた
その頃黒装束の男達のアジトである洞窟の中では女性を使った
人体実験が引き続きおこなわれていた、先程連れて行かれた女性の
悲鳴が洞窟奥の牢まで聞こえてきていて捕らわれた女性たちは
牢屋の隅で震えながら泣いていた、そんな中エミリーとアニアは
二人で抱き合う様に身を寄せ合っていた
「エミリーちゃんっておっぱい大きいね」
アニアは微笑みながら唐突にそう言った
そのあまりに今の状況にそぐわない発言に驚くエミリー
「何を言ってるのこんな時に!?
アナタは一体どういう神経を・・・」
その時エミリーは気が付いた、アニアの体が小刻みに
震えていたのだ、精一杯平気なふりをしていても
アニアも本当は恐くて仕方がないのだと
「あっバレちゃったね、偉そうなこと言ってたけど
私も怖くて怖くて仕方がないの、こんな事でも
話していないと気が変になっちゃいそうだから・・・
ゴメンねエミリーちゃん」
目一杯の元気を振り絞って明るく務めているアニアを見て
エミリーは自分が急に恥ずかしくなった
「私こそごめんなさい、あなたの気持ちも知らないで
私の事はエミリーって呼んで」
「いいのよそんな事、じゃあ遠慮なくエミリー聞いてくれる
それこそこんな時に言うことじゃないかもしれないのだけれど
私ね好きな人がいるの、戦争で離れ離れになっちゃったけど
その人に自分の思いを伝える為にも絶対まだ死ねないの・・・
でもね、ここで死ぬかもしれないって考えると、自分の事を
誰かに知っていて欲しいって、初恋の思いも伝える事が
できなかった女の子の事を誰かに覚えていてほしいって
気持ちがあって・・・ゴメンねあなただって同じ立場なのにね」
終始笑顔だったアニアの目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた
エミリーは優しげな表情でゆっくりと首を振る
「そうなんだ、いいね初恋って 絶対生きてやろう
そしてその人を私にも紹介してよ」
「うん」
アニアは目一杯の笑顔で笑った
その時今まで聞こえていた女性の悲鳴が聞こえなくなり
しばらくすると再びこちらに近づいて来る足音が聞こえてきた
先程連れて行かれた女性が全裸のまま二人の男に抱えられ
運ばれてくる、そして牢屋のカギを開け無造作に放り投げられた
その女性はうつ伏せのまま完全に動かなくなっていたが
そんな事を気にする様子も無く黒装束の男達は次の実験材料を
誰にするか見回していた、その時、前に実験材料として使われ
横たわっている女の体に布がかけられていた事に気が付いた
「この女に布をかけたのは誰だ?」
牢に囚われている女性たちは皆怯えきっていて
その質問に誰も答えられなかったのだがしばらくして
一人が急に立ち上がり叫ぶようにアニアを指さした
「あの子です、あの子が布をかけたんです‼」
一人がそう言い放つとそれを皮切りにエミリー以外の女性全員が
アニアを指さし叫んだ
「あいつです、あいつがやりました」
「あの子が悪いんです、連れて行くならあの子から‼」
それはまるで集団ヒステリーであった、自分が選ばれたくない
死にたくないという気持ちからエミリー以外の全員がアニアを
連れて行けと訴えたのだ
その訴えの声に顔を見合わせ思わず失笑する黒装束の男達
「醜いモノだな自分が助かるためには平気で他人を
差し出すとは、どうせ遅かれ早かれだろうに・・・」
そう言いながら座っているアニアの腕を掴みグイッと引き上げた
さすがのアニアも絶望的な表情を浮かべる、足元と唇が震え
目からは自然と涙が零れ落ちていた
全身にも力が入らない様子で引っ張られるように牢を出された
周りの女性は目線を逸らしアニアを見ないようにしていた
エミリーも言葉が出ず涙だけがとめどなく溢れて来た
その時アニアがエミリーを見てニコリと笑ったのだ
唇を震わせ恐怖に支配されながらも精一杯のその笑顔は
アニアからの”さようなら”の言葉だった
その瞬間エミリーの中で何かが弾けた
「待ちなさい‼」
そう叫ぶとスッと立ち上がり黒装束の男達を睨みつけるエミリー
そして頭の上の不気味な髪飾りに手を付けた
「その子を放しなさい、放さないならこの髪飾りを取りますよ‼」
エミリーには自分の髪飾りが何なのか全くわかっていなかったが
どうやら連中にとっては重要なモノの様であり先程の態度からも
これを取ると非常にマズイ事になるのだと推理したのだ
「何のつもりだ?そんな事が交渉材料になると思っているのか?」
黒装束の男が冷静な態度で問いかける
「じゃあとってもいいのね、あなたは責任を取れるのかしら?」
エミリーにとっては賭けであった
そもそも交渉の材料がそれしかないから
ダメもとでやってみただけの一か八かの作戦である
しかし思いのほか効果はあったようで黒装束の男達は
明らかに動揺していてその場でヒソヒソと話始めたのだ
「おい俺達の判断でそんな事されたらマズイだろ!?」
「そうだな、ここはタウティ様・・・
いやソドム様に直接伺いを立てた方がいいかもな」
しばらくそんな事を話していた二人だったが
「ちょっと待ってろ」
そう告げるとアニアを再び牢に戻し引き上げていった
力が抜けたのかその場にヘナヘナと座り込むアニア
そんな彼女に駆け寄って抱きつくエミリー
「アニア・・・良かった、本当に・・・」
「ありがとうエミリー、随分無茶したね・・・でもありがとう」
二人は抱き合ってわんわん泣いた
しばらくすると数人の黒装束の男達が現れ牢の前で止まった
それを見て睨みつけるエミリー
「中々いい度胸をしているではないか
この私を引っ張り出し交渉させるとは
だが子供の遊びに付き合ってはいられん
誰でもいいからさっさと連れて行け」
銀の仮面の奥から見える一切の感情を感じさせない冷徹な目に
思わず怯みそうになるエミリーだったが精一杯の勇気を絞り出し
再び頭の上にある髪飾りに手をかけた
「じゃあこの髪飾りを取るわよ!?」
「好きにしろ、そんなモノ無くともどうとでもなる」
エミリーとソドムが無言のまま睨み合う
エミリーはこの髪飾りの意味を全く判っていない
しかし相手の態度から判断して強気に出ているのに過ぎないのだ
ソドムにとっても苦しい交渉ではあった、エミリーの髪飾りは
自分達のアジトを知られないための結界を作っている発生源なのだ
エミリー自身がそれに気が付いていない事も
ソドムにはわかってはいた、だからといって開き直られたら
手の打ちようが無い、そもそもこの研究はエミリーを使って
最強の合成獣を作る為の実験であり、他の女性はいわばその為の
テストに過ぎない、その為万が一にもエミリーに何かあったら
計画の根本が崩れてしまうのである、沈黙がしばらく続き
周りの者達が思わず息を飲む、エミリーとソドムによる
無言の駆け引きは事情を知っている黒装束の男達にとっては
無限とも思えるほど長く感じていた
都の時、その重くて緊張感のある空気を絶ち切るかのように
二人の男が慌てて走って来てソドムの耳元でささやいた
「大変ですソドム様、この洞窟に侵入者が接近しております」
その報告に黒装束の男達が動揺しざわつき始める
「馬鹿な!?なぜこの場所が判明したのだ
強力な結界で守られているはずの
この場所がバレるはずがないのに!?」
「どういう手段を使ってここを探り出したのか!?」
「どういたしましょうかソドム様!?」
動揺する部下達を一括するソドム
「慌てるな馬鹿者ども、それで侵入者はやはり陰陽師の
須賀之清長なのか?」
「いえ陰陽師ではありません、ドラグナイト
伝説の龍戦士ドラグナイトでございます‼」
そのデヒアの報告に動揺はさらに広がった
「どうしてドラグナイトが・・・なぜに我々の所に!?」
「最近ちょくちょくドラグナイトの噂を耳にしていたが
まさかここに現れるとは!?」
「いかがいたしましょうかソドム様!?」
ソドムは少し無言のまま考え込んでいたが
「まさかドラグナイトとはな、陰陽師よりよほど
厄介な相手ではないか・・・
で、そいつは今こちらに向かっているのだな!?」
「はい、今ビヒモス様が交戦中ですが時間稼ぎで
精一杯だろうと言っておいででした
ドラグナイトの戦闘力は凄まじく
攻撃した仲間六人があっという間に
火に包まれ消し炭になりました・・・」
その報告に思わずたじろぐ黒装束の男達
「あの迎撃部隊の六人を一瞬で!?何という・・・」
「慌てるな馬鹿者ども、仕方がない
少し早いがやってみるしかないな」
ソドムはそう言うとエミリーの髪を乱暴に掴んで
牢から引きずり出すように引っ張り出した
「痛い、痛いってば、嫌~‼」
エミリーの声をまるで聞こえていないかのように全く無視し
髪を掴んで引き連れていくソドム
「これから合成獣実験の本番をおこなう、予定より少し
早かったが迷っている暇はない、各自準備せよ
そして実験終了までの時間、何とかドラグナイトを
食い止めろ、どんな手段を使ってもかまわん
タウティ指揮はお前に任せる」
タウティは片膝を付き頭を下げる
「承知いたしました、このタウティ命を賭けて
時間を稼いでみせまする、お任せあれ」
そう言ってタウティは音も無く洞窟の外へ向かって行った
ソドムは合成獣の元である異形の植物を手にしていた
ソドムの掌の上でモゾモゾと動くその植物の様な
異形の生物は本体から出ている何本かの触手が
不気味な動きを見せていて、今にも何かを捕食するかのような
動きの生物にも見えた、それを見たエミリーは両目を見開き
驚愕の表情を浮かべると自然に体がガタガタと震え出し
自分では立っていられないほどの恐怖を感じていた
「さあ始めるぞ」
ソドムの無感情な言葉と共に黒装束の男二人が近づいて来て
エミリーの着ていた粗末な布製の服を力づくではぎ取った
エミリーは体を覆っていた服を無理やりはぎ取られ
全裸の姿となると思わずしゃがみこみ胸を隠そうとする
その豊満な胸があらわになりしゃがみこんだ拍子に大きく揺れる
しかしソドムはそんな事を気にもせず再び髪の毛を掴んで
エミリーを引きずり起すとその手に持っていた異形の植物を
エミリーの背中に無造作に張り付けた
「ぎゃああぁぁぁ~~~嫌ぁぁ~~~‼」
エミリーの絶叫が洞窟内に響き渡る、表情は苦痛に歪み
意識がもうろうとなって何もできない
そんな中で背中に張り付いた異形の植物の触手が
どんどんエミリーの体内に入っていく
「ぎゃああぁぁぁ~~~ああぁぁ~~‼」
そのエミリーの嗚咽にも近いその叫び声は
当然洞窟奥の牢まで聞こえて来ていた
その声を膝を抱えながら聞いていたアニアは泣きながら
「ゴメンねエミリー・・・ゴメンね」
涙を流しながらすっと独り言のようにそうつぶやいていた
その時数人の黒装束の男達がドカドカと牢の中に入って来て
半ば強制的に全員を牢から引きずり出そうとした
それに対し必死で暴れ抵抗する女性達
「嫌ぁぁ~死にたくない、止めて~~‼」
「お願いします、何でもいう事聞きますから殺さないで」
「お母さん~お母さん~~‼」
全ての女性が死を恐れ泣き喚くがそんな事を気にする様子も無く
まるで家畜を扱う作業者の様に全員を牢から引きずり出すと
「タウティ様のご命令だ、さっさと来い‼」
アニアを含むその女性たちは
実験とは違う目的で牢から出され連行されていった
その頃エミリーは激痛に気を失いかけながらもなんとか
ギリギリ正気を保っていた
「おおぉぉ~~~、やはり違うこれだ!?」
ソドムが歓喜の声をあげて興奮しているのがわかった
エミリーの背中に張り付いた植物はある程度まで体内に入り込むと
急に動きを止める、そしてしばらくするとまるで心臓の様に
脈を打ち始めたのだ
「ああああぁぁぁぁ~~~‼」
エミリーはすでに意識がもうろうとしていて
頭の中が白くなっていくように感じていた
薄れゆく意識の中で家族とすごした楽しかった思い出が
頭の中に浮かんできていた
「はっはっはエミリー誕生日おめでとう」
「あなたももう17歳になるのね、彼氏とかはいないの?」
「ねえちゃん、今度俺の誕生日にケーキ作ってくれよ
俺、姉ちゃんの作ったケーキ大好きなんだ!?」
『あぁもうずいぶん昔の事に思えるなぁ・・・
マルコは元気にしてるのかな・・・
ゴメンね姉ちゃんもうダメみたい・・・』
エミリーの目から一筋の涙が零れ落ちた
その瞬間背中の植物が大きく脈打ち見る見るうちに
巨大化していった、そしてエミリーの体を飲み込むように
その体内に取り込むと3m程の植物へと変化したのだ
その異形の植物は数本の触手が生えておりウネウネと不気味な
動きを見せていた、そして中央の部分にエミリーの顔だけが
浮かび上がって来ていたのだ
「やったぞ成功だ!?ようやく成功したぞ‼」
常に冷静沈着のソドムが両拳を握り締め歓喜の声をあげながら
喜ぶ姿を見るのは部下達でさえも初めてで
そのあまりの出来ごとに一瞬茫然としてしまうほどであった
「おめでとうございますソドム様、失礼ですが
一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだ言ってみろ!?」
ソドムは明らかに上機嫌で部下の質問にも素直に応じた
「今までもこれに似た成功例はあったと思われるのですが
今回は何が違うのでしょうか?単純に大きさ的には
今までの方が巨大で強そうに見えるのですが!?」
その問い掛けにフッと笑うソドム
「今までのは巨大にしたのではない、巨大になってしまったのだ
図体が大きくなるとそれを維持するエネルギーもまた大きくなる
その結果、力を数度使っただけで枯れてしまうような不完全な
物しかできなかった、しかしこれは違う元々の女の持つ力
自体が今までの者より強大な事、そしてこの大きさにできた事が
大きいのだ、これならば世界三大賢者だろうがドラグナイトだろうが
恐れるに足らん、見ておれこの私が世界の頂点に君臨し世界の人々を
救済する日も遠くないぞ、はっはっは」
「そうでございましたか!?さすがはソドム様
その大いなるお力と慈悲の心をもって
我々愚かなる人類を救済し良き道へとお導き
ください」
そう言うとソドムの部下達は一斉にひれ伏した
一方拓斗達はようやく敵のアジトである洞窟の入り口に近づいた
「やっと見つけた、待ってろよ姉ちゃん!?」
拓斗やメリンダより前に出て急ぎ足で洞窟に向かうマルコ
その時夜の暗闇で足元が見えなかったマルコは石につまずき
1m程の深さのくぼみに落ちてしまったのだ
くぼみの下で落ちた際にぶつけた尻を痛そうにさするマルコ
「痛ててて、何だよこのくぼみみたいな穴は!?」
思わずくぼみの中を覗き込む拓斗
「何やってるんだよマルコ、でも深さがこの程度でよかったな
これが崖だったら死んでたぞお前」
くぼみに落ちたマルコを上から見下ろし笑う拓斗とメリンダ
その時洞窟の中から黒装束の男達が数人現れ
拓斗達に向かって大声で叫んだ
「よく来たなドラグナイトと供の者達よ、私は”黒色光蜂教団”の幹部
タウティと申す者だ、ここへは何用で来た!?」
「俺はフレイムドラグナイトの沢渡拓斗、こっちはメリンダだ
俺達は人を探している”エミリー”という名の女性だ
お前たちが彼女を誘拐した事は判っている
他に誘拐した女性と共に
速やかに引き渡してもらいたい
こちらの要求に応じないのであれば
力づくで取り返す事になるがどうする?」
その時拓斗は偶然穴に落ちて今は相手から見えない
マルコの事はあえて言わずに交渉に入った
「小僧の分際で我々”黒色光蜂教団”の
世界救済への崇高な行動を
邪魔しようとは何たる不条理か
しかも我々を脅すとは何と身の程知らずな・・・
そのような交渉には応じられぬ
さっさと帰れこの痴れ者が!?」
拓斗は軽くため息をつくと再び口を開いた
「交渉決裂って訳だな、じゃあ武力行使しかないって事か!?」
「待てドラグナイトの小僧!?」
拓斗が近づこうとしたときタウティが叫んだ
そして洞窟の中から監禁されていた女性数人が
黒色光教団の者に連れられて出て来たのだ
「この女共を殺されたくなければ
おとなしくするんだなドラグナイト」
数名の人質女性の姿を岩場の影から覗き見るマルコ
『姉ちゃんがいない!?一体どこに・・・』
タウティの脅しともいえる返答に呆れて首を振る拓斗
「世界救済とかエラそうな事言ってる割には
我が身かわいさに女性を人質にとるとか・・・
やってる事が情けなくないか!?」
タウティは仮面の下でニヤリと笑った
「私の発言を単なる脅しと思ったか!?」
タウティはそう言って無造作に一人の女性の首を切り裂いた
「うそ!?」
思わずメリンダが目をそむける
斬られた女性は首から大量の鮮血を吹き出し
その場に崩れるように倒れた
その女性の見開いた眼は瞳孔が開き動かくなっていて
すでに絶命していると思われた
「なんてことを・・・」
拓斗が思わずそうつぶやく、他の人質女性は恐怖で
怯えきっていて悲鳴を発する事も出来ないでいた
「クックック、これで私のいう事が脅しではないとわかって
くれたかなドラグナイトの小僧、わかったらさっさと下がれ‼」
言われた通り仕方なく後ろに下がる拓斗とメリンダ
タウティを睨みながら何かいい方法が無いか思案する拓斗
『一瞬でもいいから隙ができれば・・・』
するとその時人質になっていたアニアが
突然教団の男の腕に噛みついた
「痛てっ!?何しやがる死にたいのかこの女!?」
その一瞬の隙に攻撃しようと構えた拓斗だが
タウティは拓斗から目線を逸らさず”動けば人質は殺す”と
目で牽制を続けていた、その為うかつに動けない拓斗
その時突然マルコがくぼみから飛び出し
タウティに向かって全力で走って行った
意表を突かれて一瞬動きが止まるタウティと教団の男達
「闇の精霊 偉大なるゼイレルよ我が欲望の彼方に
汝の怒りを分け与えん”デッドペリエント”‼」
マルコは走りながら覚えたての魔法を目一杯叫んだ
「貴様のようなガキが使う魔法が我々に
効くものか!?身の程を知れ‼」
タウティはすぐに冷静さを取り戻し拓斗達を
目で牽制しながらマルコを迎え撃つ姿勢を見せた
その時マルコの唱えた魔法”ファミリアクロー”が
タウティの付けている銀の仮面を真っ二つに破壊したのだ
仮面の中からは人間とは思えないほど剛毛に覆われ狼と
人間を融合したような獣人の顔が現れた
「今だメリンダ‼」
拓斗がそう叫ぶとメリンダがタウティの目を見て叫ぶ
「動かないで‼」
メリンダの緑色の瞳に見つめられ両者の視線がぶつかる
するとまるで魅入られたかのように棒立ちになり
全く目線を逸らす事ができないタウティ
それはまるで体が石にでもなったかのようであった
「な、一体何を!?」
理由もわからず動けなくなったタウティは焦っていた
それは周りにいた教団の男達も同じで
一体何が起こっているのか理解できないでいた
ドラグナイト相手ならともかく
子供の使う魔法と少女の声でどうにかなってしまうほど
教団幹部でナンバー2であるタウティは弱くない
というより各国の最強クラスの戦士や高位魔法使いでも
タウティより強い者など滅多にいない程なのだ
それがどういう訳か動きを封じられているという事実に
教団の男達はみな困惑していた
マルコは動けなくなったタウティには向かわず
人質を取っている教団の男達に向かって
立て続けに魔法を放っていった
マルコの放った魔法が男達の仮面を次々と破壊していくと
その仮面の中からは教団メンバー達の獣人化した
グロテスクな顔が次々とあらわになっていった
「ひいぃぃぃぃ~‼」
人質の女性たちがそれを見て驚愕の表情を見せ声をあげる
咄嗟に顔を隠そうとする教団メンバー達だったがその瞬間
「動かないで‼」
メリンダの強い口調が夜の森に響き渡ると黒装束の男達は
その声につられるようにメリンダと目線を合わせてしまう
するとそこにいた全員が一瞬にして石の様に硬直し動けなくなった
まるで集団催眠による金縛りにでもあったかのようであり
そこに居並ぶ銅像の様にその場にたたずんでしまったのだ
「そうか、魔眼か!?」
タウティがそれに気付いたときにはもう遅かった
もがくように体を動かそうとするがピクリとも動けない自分の体に
苛立ちを隠せないタウティ、思わず悔しそうに拓斗達を睨む
「仮面が無くとも精神的系攻撃にも耐性があるはずの
この私が高々小娘の魔眼ごときで動きを封じられる
など・・・そんな事があるはずが、一体何が!?」
その言葉にフッと微笑む拓斗
「メリンダの魔眼はそん所そこらの代物じゃないからな
世界最強の血統書付きだぜ!?」
そう言いながらニヤリと笑った、タウティには拓斗が
何を言っているのかわからず怒りの表情を浮かべ睨む事しか
できないでいた、その時拓斗は背後から強い視線を感じ
思わず振り向くとメリンダが拓斗を睨みつけていた
「いやその、君のお父さんがどうとか言っている
訳じゃなくて・・・何と言うか・・・ゴメン」
頭を下げる拓斗にメリンダは両手を腰に当て軽くため息をついた
「もういいですから早く行きましょう」
一方マルコは救出した女性たちに近づき
深刻な表情でキョロキョロ辺りを見渡していた
「ねえちゃんがいない・・・ねえちゃんが!?」
そして一人の女性に問いかけた
「なあ俺のねえちゃん・・・エミリーって女を知らないか?
ここにいるはずなんだ、なあ知っていたら教えてくれ!?」
人質となっていた女性たちは”エミリー”という名前を聞いて
何かに気が付いたようで後ろめたそうに目線を逸らした
その態度にただならぬ嫌な予感を感じたマルコは
質問した女性の両肩を掴み鬼気迫る態度で問い詰める
「なあ俺の姉ちゃんに何があったんだよ!?教えてくれよ‼」
その時後ろにいた一人の女性が口を開いた
「あなたのお姉さんはあいつらのリーダーに
よって今実験材料にされています・・・」
マルコにそれを告げたのはアニアだった
アニアは顔面蒼白のまま唇を震わせ涙目になりながらも
振り絞るようなか細い声でそう話した
それを聞いたマルコの表情が絶望感に包まれる
「あの子は私を庇って・・・ごめんなさい・・・
ごめんなさいね エミリー・・・」
その瞬間拓斗が先ほどとは違う真面目な表情で洞窟の入口を睨む
「急ぐぞマルコ、まだあきらめるのは早い‼」
「いやもう遅い」
その拓斗の言葉をあざ笑うかのような低い声が洞窟の奥から響いて来た
そしてその声とほぼ同時に洞窟の中から蔦の様な触手が数本伸びて来て
動けなくなっているタウティ達教団メンバーの手や体を掴むと
あっという間に洞窟の中に引きずり込んだ、そして次の瞬間
「ギャァァァァ~~~‼」
洞窟の中から教団メンバーの断末魔ともいえる絶叫が響いてきた
その声が途切れると洞窟の中から教団のリーダーと思われる男が
姿を現し仮面越しにニヤリと笑った
「初めましてドラグナイトの少年よ
私は黒色光蜂教団の総帥ソドムという
とはいえこれから死ぬ連中に挨拶する
というのも不毛な行為ではあるな」
拓斗を前にしても余裕の態度を崩さないソドム
そんなソドムに待ちきれないとばかり問いかけるマルコ
「姉ちゃんをどこにやった!?早く姉ちゃんを出せ‼」
ソドムはまるで虫けらでも見るかのような視線を
マルコに向けるとしばらくジッと見つめた
「そうか貴様あの女の弟なのか
残念だが一足遅かったな」
仮面の奥の目が残酷に笑った
「お前姉ちゃんに何をしたんだ!?」
「フッ、聞くより見た方が早かろう
さあ来い、私の可愛い聖獣魔植物”カオス”よ‼」
ソドムの呼びかけに洞窟の中から異形の化け物が現れた
体長3m程の体からは何本もの触手が伸びておりそれぞれが
別の生き物の様にウネウネと動いていた、その内の一本には
教団幹部タウティが捕まっていて蔦による拘束を外そうと
必死にもがいていた
「ソドム様、これを何とかしてくださいませ
私はまだまだソドム様のお役に立てまする
この触手を早く・・・」
その瞬間別の触手がタウティの胴体を貫く
「グボッァァァ」
タウティは口から大量の血を吐き出すと
驚愕の表情で思わずソドムを見た
「タウティよ、今までご苦労であったな」
まるで無感情な口調で淡々と言い放つソドム
もう用済みと見捨てられたばかりか
自分の事を見ようとすらしない教団総帥の姿に
自然と涙がこぼれ落ちるタウティ
そして突き刺さった触手はタウティの体から
どんどん生気を吸い取っていく
見る見る内に体がしぼんでいくタウティは
すでに目からは生気が失われ、全く動かなくなっていた
しばらくして散々生気を吸い尽くされたタウティの体は
先程までの鍛えあげられた筋肉質のボディは
今や見る影もなく最後は干物の様になってしまっていた
”カオス”と呼ばれるその化け物はそんなタウティの体を
まるでゴミのように引きちぎり無造作に投げ捨てた
その時マルコが”あっ”と叫んだ、カオスの胴体部分の中央に
人間の顔の様なモノが浮かび上がっていたのだ
そしてそれはマルコのよく知る顔だったのである
「そんな・・・姉ちゃん、チクショウ・・・なんでだよ!?」
マルコはガクッと膝を落とし地面に座り込んでしまった
「クックック、ようやく気が付いたか
ではお待たせしたな、私の作った最高傑作
”カオス”の力をその目でとくと見るがよい
そしてソレがお前らにとってこの世で
最後の光景となるだろうからな、はっはっは」
まるですでに勝ったかのようなソドムの高笑いが
夜の森に響き渡った。
みなさまお久しぶりです、投降が遅くなってしまい申し訳ありません
自分の力量も考えず二つの物語を始めてしまったのが原因です
なるべく並行してやっていきたいなと思っておりますので
今後もよろしくお願いいたします、では。




