嘆きの森の王 魔王ザキーニャ編
ザキーニャ…全ての魔族とモンスターを統べる魔王、圧倒的な力を持っているが嘆きの森にある居城”怨嘆城”から滅多に出てこない
バイアス…魔族のナンバー2、非常に屈強な姿をしていて先代魔王から使えている忠臣
ザキヌエル…前魔王、ザキーニャの父であり強力な力を持っている
マルドゥエーニャ…ザキーニャの母でありザキヌエルの妻、力的には夫であるザキヌエルと同等のモノを持っている
オストフ・ヴィ・リードヴィッヒ…スタネール共和国軍を率いる大将軍で後の国王
沢渡拓斗…世界で七人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている。
マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年
メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主。
ここスタネール共和国はグランシア王国包囲網を作る為の連合の中心国である、そのスタネールの中心人物”スタネールの大賢者”ジェームズ・マクシミリアンことリチャード・ハウゼンが朝の定例会議を終え一息ついていた、何かを考え込んでいるようなそんな姿にスタネール共和国の第一王子であるコンラートが思わず話しかけた
「どうしましたかマクシミリアン様?何か考え事でもしていましたか!?」
「いや連合の事を少し・・・そうだ、もしよかったらあなたも残って欲しいのですが、今時間は有りますか?もうすぐ鳴沢博士が来ますので・・・」
ハウゼンの意外な問い掛けに思わず聞き直すコンラート
「ええ、午後までは空いてますので個人的な訓練でもしようと思っていましたから大丈夫ですが・・・何の話なんですか?」
そこにドアをノックする音が聞こえ鳴沢が入って来た
「お呼びと聞いたが、一体ワシに何の話なのかね!?」
鳴沢とコンラートがハウゼンを挟むような形で席に座るとハウゼンはようやく話の内容を語り始めた
「実は連合の事なのですが、この連合を世界的な平和への第一歩とする為にどうしても抑えておきたい人物がいるのですが・・・」
鳴沢とコンラートはその話を受け、瞬時に考えたが共に思い当たる人物に心当たりは無かった、一体誰の事なのだろう?と答えを待っていたときハウゼンの口から意外な名前が返って来たのだ
「その人物とはザキーニャなのですが・・・」
その思いもよらなかった名前に鳴沢、コンラート共に驚きを隠せなかった
「マクシミリアン様、ザキーニャと言うのはあの魔王ザキーニャの事ですか!?」
「嘆きの森の王ザキーニャか・・・それは随分難しい人物を選んだのう、彼を人物と言ってもいいのか微妙ではあるが・・・」
「はい難しいとは思いますが真の世界平和を実現させようと思ったら絶対に避けて通れない人物だと思いまして、しかし魔王ザキーニャは自分の居城”怨嘆城”から滅多に出て来ない事は有名ですからね、情報が少なくどんな人物でどれほど強いのか、全く不明なんです、ですから鳴沢博士にそこのところを教えていただければ・・・と思いまして来てもらった次第なんですよ」
その言葉を聞いた鳴沢はしばらく腕を組みながら目を閉じて何も話さなかった、しばらく沈黙が続いたが鳴沢が意を決したように口を開いた
「少し長い話になるがよいかの?」
そう言って静かに語り始めた。
人食いの森の一件から数日がたち拓斗達三人はモデゲルダン聖国に着いた、その頃モデゲルダン聖国では聖騎士団の団長だったベルゲンバッハ・リミトフ死去の報に国全体が沈んでいた、最近でこそやや評判を落としていたモノの国民的英雄であり国内最強の戦士であったベルゲンバッハの死は当然の様に国葬でおこなわれ国全体が喪に服していたのだ、そんな町の様子を見ながらマルコがボソリとつぶやいた
「何か暗い国だよな・・・こんな辛気臭い所さっさと出たいぜ」
「国の重要人物が亡くなったのです、この雰囲気はしょうがない事ですよマルコさん」
「俺達も全くの無関係という訳じゃないからな、目的を果たしたらさっさと退散するってのは賛成だ、おかしな厄介ごとに巻き込まれても面倒だしな、でメリンダどうなんだ?」
メリンダは周りをキョロキョロ見回して近くにあったベンチに座ると改めて占いを始めた
「マルコさんのお姉さんの居所、今度こそわかるといいのですが・・・」
マルコの姉であるエミリーは占うたびに各地を転々としていて居所がつかめなかった、しかし数日前からこのモデゲルダン聖国に留まっている事を掴んだ為、三人はここに来たのだ、水晶玉を取り出し居場所を占うメリンダ、それを息を飲んで見つめるマルコ、その時水晶玉に亀裂が入り真っ二つに割れたのだ、その事に驚く拓斗とマルコ
「なんだよこれ・・・一体何があったんだよメリンダ姉ちゃん!?」
「メリンダどうして水晶玉が割れたんだ?」
メリンダは二人の質問に答えず不安げな表情のまま独り言をブツブツ言っていた
「そんなまさか・・・でもこれはそうとしか・・・これじゃあ」
メリンダは気を取り直したように別の道具を取り出しロウソクとハンカチで占ってみるが六本あるロウソクの火が一斉に消えハンカチも青白い炎と共に一瞬で燃え尽きた、それを真剣な表情で見つめていたメリンダが拓斗とマルコの方に向き直ると
「まさかとは思っていましたがこれは間違いありません、私が占いによって居場所を捜している事が相手側にバレています、そしてその妨害の為に強力な結界が張られていてその力の前に道具が耐え切れなかったようです・・・」
その報告を聞いたマルコが絶望的な表情を浮かべる
「そんな、じゃあ姉ちゃんの居場所はもうわからないのか!?」
マルコの問い掛けに何も答えないメリンダ、拓斗とマルコからワザと視線を逸らす様にうつむいていた、そんなメリンダの態度に少し違和感を感じた拓斗はふと問いかけた
「メリンダ本当にマルコのお姉さんを捜す方法は無いのか?俺には君がなにか隠しているように見えるんだけど・・・」
一瞬ドキリとしたメリンダは拓斗の顔を見つめその後マルコの顔を見ると言い辛そうに話始めた
「マルコさんのお姉さんを捜す方法は・・・無くは無いです」
その言葉にマルコの表情が明るくなる、しかし妙に引っかかるその言い方に思わず拓斗が問いかけた
「何か問題があるのかメリンダ、そのマルコのお姉さんを捜す別の方法には?」
メリンダはまたもや非常に言いづらそうに答えた
「はい、先ほども少し言いましたが今は相手側の結界の力に道具が耐えられずに探す事ができないのです、ですから耐えられるだけの道具があれば探す事は可能です、しかし私が今まで使っていた物も祖母から受け継いだ非常に貴重な物なんです、あれを越えるものとなりますと・・・私の知る限り一つしかありません、それは”真実の結晶”と言われる超レアアイテムなんです」
マルコが悲壮感を漂わせながら食い気味にメリンダに問いただす
「そのアイテムがあれば捜せるんだよな、まだ姉ちゃんを捜せるんだよな!?」
半分涙目になっているマルコに無言でうなづくメリンダ、しかしその表情は曇ったままだ、思わず拓斗が問いかけた
「その超レアアイテム”真実の結晶”とやらはどこにあるんだ?まさか未だどこにあるのかわからないというんじゃないよな?」
その問い掛けに首を振るメリンダ
「いえ、どこにあるかはわかっています、ですがその場所が・・・」
「一体どこにあるんだよ、教えてくれよメリンダ姉ちゃん‼」
拓斗とマルコがメリンダを見つめる、メリンダは逸らしていた目線を戻すとボソリとつぶやいた
「怨嘆城です」
その言葉に思わず息を飲み目をしかめる拓斗
「怨嘆城だと!?なんて所に・・・」
その二人のただならぬ雰囲気に不安げなマルコが問いかける
「怨嘆城ってなんだよ?そんなにヤバい所なのか!?」
メリンダが悲しげな目をしながらマルコに説明する
「怨嘆城と言うのは魔王ザキーニャの居城です、おそらくはその城の一番奥にあるのだろうと言われています、今までその秘宝を求めて何人もの人間が怨嘆城に乗り込んだと聞いています、しかし帰って来たものは一人もいないそうです・・・」
先程まで明るくなりかけたマルコの表情が再び絶望感に包まれる
「魔王の城!?なんでそんな所に・・・チクショウなんでだよ!?」
衝撃の事実に目線がうつろになり呆けてしまったマルコをよそに拓斗がそのアイテムの事をメリンダに問いかけた
「なあメリンダ、その”真実の結晶”ってのはどんなアイテムなんだ?あまり聞いた事無いんだけど・・・」
「はい、”真実の結晶”はありとあらゆるモノを見る事ができると言われているアイテムです、しかし見たいモノが困難なモノであればあるほど見る者に力が必要らしく、見る者の能力の高さによって見る事が可能なモノが違ってくると聞いています、ですから使用者が強力な力を持っていればよりレベルの高いモノや多くのモノが見えると言う訳です、逆に大した力ももたない者がそれを使ってもあまり意味がないと言われていますね」
「なるほど、使用者の能力に応じてより高度なモノが見えるアイテムか・・・凄いな」
「はい、ですから魔王ザキーニャ程の力を持った者がアレを使ったら見たいモノのほとんどを見る事ができるんじゃないでしょうか、それこそ世界中のレアアイテムを探し尽くす事も可能だと思います」
「しかしザキーニャは怨嘆城から滅多に出てこないって事は有名だしな・・・レアアイテムとかには興味ないんだろうか?」
「それはわかりません、しかしその魔王ザキーニャの持っている”真実の結晶”を使わない限りマルコさんのお姉さんを捜す事は難しいと思います・・・」
マルコが涙目で拓斗を見つめている、拓斗はそんなマルコの頭に手を載せて
「心配するな、その”真実の結晶”を持っているザキーニャに”ちょっとだけ貸してくれ”って頼んでみるさ」
拓斗はニコリと笑った、そんな拓斗にメリンダは何か言いかけたが結局何も言う事無く言葉を飲み込んだ。
人びとから”嘆きの森”と呼ばれる場所がある、そこは広大なジャングルであり魔族を中心としたモンスター達の住む土地で本来人間は侵入してはいけない特区である、これは20年ほど前に人類と魔族とモンスターによる連合軍との壮絶な戦争がありそこで敗北した魔族やモンスター達が協定によりこの森でのみ生息する事を許されたという土地なのだ、本来はサタジールという密林の中の一部であり”サタジール南部”と言うのが正式名称なのだが、戦いに敗れた魔族やモンスター達がその恨み、絶望を叫ぶ声がずっと森中に響き渡りいつまでも止まなかった事からいつしか”嘆きの森”と呼ばれるようになった、今その嘆きの森の奥深くで全ての魔族とモンスターを統べる絶対的な王、それがザキーニャである、今日も魔王の居城である”怨嘆城”の玉座の間では激しい口調で魔王に訴える魔族とモンスター達の声が響き渡っていた
「ザキーニャ様、一体いつになったら人間どもの国に攻め込むのですか‼」
「先日バルドゥーク様も人間にやられたと聞いています、是非とも敵討ちの御許可を!?」
「あの勇敢だった父君と母君も嘆いていますぞ!?」
「もう我慢の限界です、我々魔族はいつまでこんな屈辱を受けねばならないのですか、最近の人間どもの行為は目に余ります、ザキーニャ様なにとぞ立ち上がってくだされ、アナタが立ち上がってくだされば皆続きます、これ以上仲間が殺されていくのを黙って見ているつもりなのですか!?」
数体の魔族とモンスターの代表者達がザキーニャに向かって心からの叫びともいえる思いを訴えていた、中には仲間を殺され涙ながらに熱弁をふるう者すらいた、もはや毎日の恒例行事の様に次々と訪れる魔族やモンスター達の前に玉座に座りながら目を閉じ右肘をつきながら右拳を頬に当てて黙って聞いている男こそ魔王ザキーニャである、見た目はスリムで背は2m近くあるものの非常に端正な顔立ちで頭に生えている二本の角さえなければ人間と言っても差し支えないほどの姿なのだ、魔族たちの訴えが一通り終わったところでようやくザキーニャが口を開いた
「まだ早い、20年前の戦いを忘れたわけでは無かろう、戦うからには勝たねばならん、今やっても20年前の二の舞だ、もう少し辛抱せよ」
このようなやり取りが毎日おこなわれていているのでザキーニャは毎日同じセリフを言う羽目になっている、訴えに来た魔族やモンスター達は納得いかないまま渋々玉座の間を後にする、そんな連中の後姿を見てザキーニャは思わずため息をつく
「わかってくれと言うのが無理な話なのかのう・・・」
ザキーニャの脇には魔族のナンバー2 バイアスが付き従う様に立っている、このバイアスは3m程の身長で全身を筋肉と鎧の様な鱗で覆われている、大きな牙と爪、巨大な翼を持っていて弱いモンスターなどはその姿を見ただけで逃げ出す程である、見た目だけならこちらが魔王と言われても違和感が無い程屈強で凶悪な姿をしている、そしてザキーニャはバイアスの事を最も信頼していた、それは先代である父と母の時代から使えてくれている男であり自分が子供の頃から面倒を見てくれていたからだ、そんな忠誠心や功績に関わらずバイアスは力量的にもナンバー2にふさわしい力を持っているからこその側近なのだ、ザキーニャはそんなバイアスにそっと言葉を告げる
「スマンがまたフォローを頼めるか」
「かしこまりましたザキーニャ様、私にお任せを」
深々と頭を下げるバイアスにねぎらいの言葉をかける
「いつも苦労を掛けてすまぬ、お主には本当に感謝している」
逆に頭を下げるザキーニャに、慌てて否定するバイアス
「止めてください、私は先代であるお父上、お母上の頃から使えさせてもらっています、受けた恩を考えればこんな事は当然です」
そう言うと一礼してスタスタと玉座の間を後にするバイアス、こうやって訴えに来た連中のフォローをしないと自分勝手に人間の国に攻め込んでしまう魔族やモンスターが後を絶たないからだ、逆に言えばそれほどまでに魔族とモンスター達の不満は限界に達していたのである、訴えを却下された者達は玉座の間を出た後口々にザキーニャに対する不満を口にしていた
「全くいつになったら人間と戦えるんだ、魔王様は怖気づいてしまったのではないか!?」
「全くだ、先の大戦で魔族とモンスターを率いて人間どもと戦われたご両親もあの世で嘆いている事だろう、全く情けない・・・」
「あんな腰抜け魔王を無視して俺達だけで攻め込まないか!?所詮人間なんてひ弱な下等生物じゃねーか、俺達がその気になればあんな奴らイチコロだぜ‼」
「ならば仲間を集めて俺達だけで攻め込むか、同じ考えの者も少なく無いはずだからな!?」
連中がそんな相談をしている所にバイアスが歩いて来るのが視界に入る、すると皆待ってましたとばかりに駆け足でバイアスに近寄って行った
「バイアス様、是非我々と共に戦いましょう‼」
「ザキーニャ様のいう事など無視して一緒に戦ってくれませんか!?バイアス様がいてくれれば怖いものなどありませぬ‼」
「そうだ、いっその事バイアス様が魔族のトップ、魔王になってください‼バイアス様なら人間など恐れはしないでしょう」
「そうです、あんな弱腰のザキーニャ様などよりバイアス様の方が魔王にふさわしいはずです、バイアス様の方がザキーニャ様より何倍も強いはずです!?ぜひ我々と共に‼」
そんな訴えを聞いて思わず大声で笑い始めるバイアス、バイアスがなぜ笑い始めたのかさっぱりわからないモンスター達はキョトンと不思議な顔をしてバイアスの顔を覗き込んだ
「あの、一体何がそんなにおかしいんですかバイアス様?」
「いやすまない、お前たちはここに来てまだ一年も経っていなかったな!?」
「はい我々は仲間が人間どもに殺されここに逃げて来ました、執拗に追って来た人間どもをバイアス様が蹴散らしてくださったことを今でも忘れておりません、あの時のバイアス様の強さであれば人間など恐れるに足らないでありましょう、あなたはナンバー2などに甘んじているお方ではないはずです、是非ナンバー1、魔王として我々のトップに君臨してください‼」
バイアスは再びフッと笑うと静かに話始めた
「お前たちは一年前にこの怨嘆城でおきた事を知らないのだな、人間達のパーティーが大挙して押しかけて来たあの事件を・・・」
魔族とモンスター達はお互い顔を見合わせてから答えた
「話では聞いております、ほとんどの魔族やモンスターが不在の隙を狙って何十人もの人間がここに攻めてきたとかで、でも結局人間どもは全滅したと聞いております、我々が知っているのはそれだけなんですが・・・」
「まあそんなところだろう、人間どもは小賢しくも策を仕掛けて来てな、東の森で大爆発を起こしてそちらに主力の魔族とモンスターが向かった隙にこの怨嘆城に攻めて来たのだ、全く姑息で下劣だよ人間と言う生き物は、奴らの狙いは”真実の結晶”というザキーニャ様が持っているレアアイテムだった・・・」
「それも聞いた事あります、なにやら凄いレアアイテムをザキーニャ様が持っていると、人間はそれを狙ってきたのですか!?」
無言でうなづくバイアス、そして話を続けた
「私を始め魔王様を守る親衛隊はそいつらを迎え撃つため必死に戦ったが相手はかなりの高レベル集団でその統率も取れていた、一人一人ならば取るに足らない人間どもだが集団としての奴らは侮りがたい、それは仲間を殺されたことがあるお前らならばよくわかるであろう」
魔族の一人が唇をかみしめ怒りに震えながら吐き捨てるように言った
「はい、よくわかります・・・奴らは本当に卑怯なんです、決して真正面からは来ない、最初は防御に徹してこちらの体力が衰えるのを待ち魔法によって徐々に弱らせて動きを封じ最後に一斉攻撃・・・いつもこれだ、本当に卑劣な臆病者共・・・ガチンコでやり合えば我々が負ける事なんて絶対に無いはずなんだ‼」
その言葉にゆっくりとうなづくバイアス
「そうその通りだ、奴らは弱い、弱いからこそ勝つためには何でもする、奴らは我らの様な矜持や自尊心など一切持ち合わせていない下劣な種族だ、しかしだからこそ強い、徹底した効率主義で各自が自分の役割をキッチリこなし一つの目的に向かって遂行する・・・だから我々は敗れるのだ、20年前もそうだったし一年前もそうだった・・・」
バイアスの言葉に皆が驚く、そして思わず問いかけた
「一年前は人間どもを全滅させたのでしょう!?そう聞いていましたが」
「ああ結果はそうだ、しかし私を含め魔王様を守るべくして戦った親衛隊は人間どもの前に敗れた・・・」
「じゃあ何で・・・人間は全滅したって・・・はっまさか!?」
バイアスがうなづく
「そうザキーニャ様が一人で奴らを全滅させたのだよ、私はその光景がいまだに忘れられない、私や親衛隊を倒すような連中だ、どいつもこいつも高レベルの戦士や魔法使いであり伝説の武器や防具も身に着けていた、そんな奴らをまるで虫を踏み潰す様に蹴散らしてしまったのだ、本当に凄まじい戦いだった・・・いや戦いでは無い一方的な虐殺だ、40人近くいた奴らが全滅するまで5分もかからなかったよ」
その話を聞いた魔族たちは言葉が出なかった、そしてバイアスの話は続いた
「お前たちが言う様に私は魔族のナンバー2と言われている、ナンバー3と言われているバイキーラよりも確実に私の方が強い、しかしナンバー1とナンバー2では天と地ほどの力の差があるのだ、もし仮にザキーニャ様と私を含む全ての魔族とモンスターが組んで戦ったとしても勝ち目は皆無だ、それほどまでにザキーニャ様の力は圧倒的なんだよ」
その話を聞いていた連中は茫然とし信じられないといった表情を浮かべる、その内の魔族の一人がバイアスに問いかけた
「しかしバイアス様、いつも怨嘆城から出ないザキーニャ様に比べよく前線で戦われるバイアス様がその戦闘経験でレベルアップしザキーニャ様を追い越すという可能性は無いのですか!?」
何かにすがる様な思いで問いかけた質問に静かに答えるバイアス
「それは無いな、経験で追いつくとかいうレベルじゃないんだ、桁が違うというか格が違うんだよザキーニャ様は・・・それに私は今230歳だ、魔族としては今が一番強い時期と言ってもいい、お前たちも知っているであろう、我等魔族は100歳を超えたあたりからどんどん強くなり200~300歳ほどでピークを迎える、ザキーニャ様は今38歳だぞ、これがどういう事かわかるか?」
バイアスの言葉に思わず息を飲むモンスター達
「そうだ、我等魔族にとって38歳などヒヨッ子もいいところだ、それなのに今の時点で我等の何倍も強いのだぞ、そして間違いなくこれからどんどん強くなるという事だ・・・人間を滅ぼすのに我らが結束する必要などない、ザキーニャ様がその気になれば我らの協力などいらぬのだ、それでもザキーニャ様は魔王にふさわしくないと申すか!?」
しばらく言葉が出なかった連中だが一人が絞り出す様に口を開いた
「にわかには信じがたい話です・・・それほどの力をお持ちのザキーニャ様がなぜ人間と戦おうとしないのですか?」
「それは私にもわからん、ザキーニャ様には深いお考えがあるのであろう、あの方自身も両親を人間に殺されているのだ奴らが憎くないはずがないであろう、そんなザキーニャ様が待てと仰るのだ素直に命に従うのだな、今の話を信じたくないなら信じなくともよいが全て事実だ、その事をよく胸に刻んでおけ」
そう言い残しバイアスはその場を立ち去った。
バイアスが玉座の間から出て行き広い部屋にポツンと一人残ったザキーニャは目を閉じ昔の事を思い出していた、それは20年前の人間と魔族&モンスター連合との争い”魔獣戦争”と言われる戦いの事であった
『私はどうすればよいのでしょうか父上、母上・・・』
そんな思いを胸に抱きながら目を閉じ昔を思い出すザキーニャ、彼の両親はそれぞれゴルダール族とニゲルマ族という魔族の長であったが人間によって次々と魔族が殺されている現状を重く見た両陣営は”魔族同士で争っている場合ではない”と判断し一つになる事を考えた、両陣営のトップ同士が男女だったこともあり統合の象徴として両者は結婚し魔族は一つにまとまった、しかしそのことにより魔族同士の争いこそ無くなったものの人間側から見ると”魔族が統合しより強力になった”という意識が強くなり魔族への脅威をさらに増大させるという皮肉な結果となってしまう、魔族やモンスターに対する敵愾心は増大しついには国ぐるみで魔族征伐に乗り出すところまで出て来てしまったのだ、次々と討伐される魔族やモンスター達、当然魔族やモンスター側も抵抗する為人間側にも被害が出た為、両者共に相手への憎しみや怒りはどんどん膨れ上がっていた、魔族が統一されてから20年の時が過ぎ両者の怒りはついにピークを迎えた、仲間を殺された魔族が報復の為、集団で人間の城を襲いこれを陥落させてしまったのだ、城にいた人間は女子供に至るまで皆殺しにされその周辺の村にまで被害は及んだ、それまでは人間側も魔族側も大きな争いには発展しない様なんとかバランスを取っていたのだが、この事件をきっかけに人間側は魔族を完全に敵とみなし人類の存続の危機とした、そして人間側は複数の国が連合を組み魔族とモンスター相手に掃討作戦を開始した、強大な軍の前に次々と殺されていく魔族とモンスター達、生き残った魔族やモンスターは当然のように魔族のトップである両者に泣きついた
「ザキヌエル様、マルドゥエーニャ様このままでは我々魔族とモンスター達は人間共によって滅ぼされてしまいます、どうか立ち上がってくだされ、あなた方が先頭に立って戦ってくだされば皆続きます、どうか憎っくき人間共を皆殺しにしてやりましょうぞ!?」
魔族のトップである両者は悲痛ともいえるその願いを断る事は出来なかった、どのみち黙っていても人間は魔族を滅ぼす為に攻めて来るのである、人間側との戦争は不可避であり他に選択肢は無かった
「わかった人間共と戦おう、しかし相手はとにかく数が多い、我々がバラバラに戦っていては勝ち目は無い、魔族やモンスター達にここに集結する様伝達してくれ、ここで奴らを迎え撃つ、皆で共に戦おうぞ‼」
「わかりました、ありがとうございます皆に報せてまいりますので、あの憎っくき人間どもを皆殺しにしてやりましょうぞ‼」
喜び勇んで部屋を出て行く魔族の者達、その連中が部屋を出て行った後椅子に深く腰掛けため息をつくザキヌエル、そんな夫の姿を見て優しく話しかける妻のマルドゥエーニャ
「とうとうこの日が来てしまいましたわね、アナタが陰で人間達と交渉しながら大きな戦争にならない様計らっていましたが、これまでの様ですね・・・」
「ああ、結局戦争は回避できなかった・・・今回の戦争で多くの魔族やモンスターが死ぬだろう、しかし何とか全滅だけは避けねばならぬ」
「勝てませんか、やっぱり?」
「お主とてわかっておろう、魔族やモンスターは強い、そして人間は弱い、であるがゆえに魔族やモンスターは引く事を知らぬ、そして共に戦うという事も出来ぬ、いくら数を集めようとそれぞれが別々に戦っていたのでは集団として戦う人間には絶対勝てん、それが我らの弱さであり人間共の強さなのだ・・・」
思わず目を伏せるマルドゥエーニャ、ザキヌエルが話を続ける
「しかし魔族の未来の為、そして我が子ザキーニャの為何とか全滅だけは防がねばならぬ、その為にはこの戦いで我々魔族やモンスターと戦うと甚大な被害が出る事を知らしめ、なるべく良い条件で停戦、講和に持ち込むしかない・・・お前にも苦労を掛けるスマンな」
「何を言っているのですか私とてあなたと共に魔族のトップを張る者、魔族の未来の為に命を賭ける事など当たり前ではないですか、ニゲルマ族の長になった時から戦いで死ぬことなど恐れてはおりません、ただ・・・」
「ただなんだ?何か気がかりでもあるのか?」
「魔族の長として死ぬことに迷いはありません、しかし一人の母としてザキーニャの・・・あの子の将来をもっと見ていたかったという未練はあります」
「そうだな、であれば何とか二人で生き残って孫の顔でも拝めるように頑張るか!?」
「そうですね」
二人はお互いの顔を見つめ合い笑った
数日後魔族とモンスターの群れがザキヌエルとマルドゥエーニャの元にどんどん集まって来た、今回の戦いに向け誰もがやる気満々で士気の高さがヒシヒシと伝わって来る、そんな様子を城の窓から眺めている少年がいた のちの魔王ザキーニャだ、この時まだ16歳である
「うわ~凄い、凄いぞ‼どんどん集まってくるじゃないか、見てくれよバイアス、歴戦の勇者たちがこれほど集まったら人間なんて簡単に皆殺しにできるんじゃないのか!?」
「坊ちゃん、こんなもんじゃないですよ、まだまだ集まってきます」
そのバイアスの言葉に不満顔なザキーニャ
「なあバイアス、いい加減その坊ちゃんというの止めてくれないか?俺ももうすぐ17歳になるんだしカッコ悪いぜ」
そんなザキーニャの言葉にクスリと笑い
「200歳を超えている私にとって17歳の坊ちゃんなど赤子の様なものです、その呼び方がどうしても嫌であれば私にそう命じてください、命令ならば従いますから」
「命令とかそんなんじゃなくてさ・・・まあいいや、今回の戦いで俺も一人前の男だってことを証明してやるからさ、その時はもう坊ちゃんとは呼ばせないぜ!?」
そんなザキーニャの態度にバイアスはにこやかにほほ笑んだ
そんな時部屋の中にザキヌエルとマルドゥエーニャが入って来た、バイアスが二人に礼をするとそれを見たザキーニャの表情がパッと明るくなる
「父上、母上、此度の戦いでどれほどの魔族やモンスターが集まるのですか!?」
「そうだな全部で2300程だと聞いている」
その数字を聞いて益々テンションが上がるザキーニャ
「まことですか!?それは凄い、一騎当千の魔族やモンスターがそれほど集まるとは!?ならば人間どもになど絶対に負けませんね!?」
ザキーニャのテンションの高さとは裏腹に表情が曇るザキヌエルとマルドゥエーニャ
「いや勝てないだろうな、なにせ相手は35万人だそうだからな・・・」
「さんじゅうごまん・・・何ですかその数字は・・・」
人間側のあまりの数に先程のハイテンションが嘘のように消沈してしまったザキーニャ、その表情は絶望感にあふれていた、そんな我が子の頬をそっとなでるマルドゥエーニャ
「あなたは次期魔王なのです、そんな顔をするものではありませんよ」
「しかし、しかし母上・・・いくらなんでも相手の数が多すぎます一人あたり百人の人間を殺してもまだ足りないとか・・・チクショウ、どうしてアイツらはいつもいつも正々堂々と戦えないんだ、こうなったら私も死力を尽くして戦い魔族の意地というモノを見せてやります、見ていてください父上、母上‼」
その言葉を聞き急に厳しい表情に変わるザキヌエル
「お前が今回の戦いに参加する事は許さぬ、これは魔王としての命令だ」
「何を言っているのです・・・何を言っているのですか父上‼私も戦います、戦わせてください、母上からも父上に言ってください、私はもう戦えますと!?」
そんなザキーニャの心とは裏腹にマルドゥエーニャは冷徹な表情で言い放った
「私も同意見です、あなたの戦線参加は認めません、ここで待機していなさい、いいですね」
思わぬ両親の言葉に自分の力の無さを呪うザキーニャ、しかしその怒りは治まらなかった
「嫌です、父上と母上が何と言おうとも私は戦います‼」
自分が戦力として考えられていない事に対しあまりの情けなさで怒りに震えながら涙目で訴えるザキーニャ、尊敬する両親に対し始めて逆らった瞬間だった、その時ザキヌエルが突き付けたの右手から黒い霧が発生しザキーニャの頭を包み込んだ
「父上・・・一体何を・・・」
ザキヌエルがさらに力を込めるとザキーニャは意識を失った、それを慈しむような目で見つめるマルドゥエーニャ
「こいつには次期魔王として生き延びてもらわないといけないからな」
「そうね、立派な魔王になれるといいけど・・・バイアスもしも私達に何かあったらザキーニャの事をお願いね」
いつも冷静なバイアスが珍しく苦悶の表情で問いかけた
「私も一緒に戦わせてはいただけないのですか!?ぜひお供させてくださいませ、お二人が戦いに出向くというのに私が留守番など・・・なにとぞご一緒に戦わせてください、一緒に死なせてください、この通りでございます‼」
バイアスが深々と頭を下げる、心なしかその強靭な体が震えていた
「なりません、あなたは未来の魔族の為に生き残ってもらう必要があります、ザキーニャもあなたの事をとても信頼していますからね」
「それに私達が死ぬとは限らんぞ!?勝ってしまうかもしれないからな、はっはっは」
そんなやり取りの中一人の魔族が慌てて入って来た
「敵軍発見との報です、数は約36万人 到着予想はおよそ5時間後だそうです‼」
ザキヌエルとマルドゥエーニャの表情が一気に厳しいモノに変る
「来たな・・・」
「来ましたね、でどうしますか?敵がここに来るまでただ待っているつもりはないのでしょう!?」
マルドゥエーニャの問い掛けにニヤリと笑うザキヌエル
「さすが我が妻、わかっておるな」
「そのくらいの事わからずにどうしますか、じゃあ行きましょうか」
そう言うと二人は背中の翼を広げあっという間に上空高く舞い上がった、そして敵軍の真上に到達すると地上からでは確認できないほどの高度から敵軍を見下ろした
「さすがに35万人ともなると凄まじい数だな、列の端が見えないほどだ」
「そうね、敵の大将がどこにいるかわかるといいのだけれど、それは無理そうね・・・じゃあもっとも被害を与えられそうで敵の連携を混乱させるという意味でも敵軍中央にキツイのお見舞いしてやるわ」
その時のマルドゥエーニャの表情は先ほどまでの優しい妻の顔では無く邪悪な魔族の顔になっていた
「じゃあいくわよ人間共、闇の龍神 邪悪なるゾルダークよその暗き闇の中に重圧と悔恨を満たし絶望の歌を奏でんことを”ボロブレスティアアーグ”‼」
マルドゥエーニャが両手を上げると大きな黒い球体が発生した、それは徐々に大きくなっていきついには直径800m程の巨大な球体になった、その球体の周りには黒いモヤの様なモノが付きまとい所々で青白い放電がバチバチと音を立てながら発生していた
「その卑劣さに似合う死にざまをプレゼントしてあげるわ、そう豚の様に死になさい、下等な人間共が」
そうつぶやくとその漆黒の巨大な球体は放電とモヤを纏ってゆっくりとした速度で落下していった
その頃地上にいる人間の連合軍の中で今回連合軍総司令官に任命されたのはグランシア王国のナンバー2でロズワルド・マウリベルトという人物である、この男は現国王の弟でありサランディアの叔父にあたる、いつか兄である王を引きずりおろし自分が即位する事を狙っている野心家で、今回の戦いも自ら志願して出陣したのだ
『魔族を滅ぼして人類に勝利をもたらした英雄となれば私の名声は鰻上りだろう、こんな勝つことが決まっている戦いでそんなモノが簡単に手に入るとは・・・クックック笑いが止まらないな、魔族達には精々頑張ってもらい私の名を上げる糧になってもらおうぞ!?』
マウリベルトはそんな事を考えており、すでに勝った後の事を想像しほくそ笑んでいた、そんな時周りの兵がざわついている事に気づく
「何事だ騒々しい、お前らは誇り高きグランシア王国軍なるぞ!?もっと毅然たる態度で進軍せんか見苦しい、我が国の名声に傷がついたらどうするのだたわけ者共が‼」
マウリベルトの叱咤に一瞬ムスッとした表情を浮かべる兵士達、兵達がこの男に対して持っている感情は非常に悪い、なにせ自分の出世の事しか考えておらず部下の命などこれっぽっちも心配していない事が言葉と態度で丸わかりなのである、今回の総司令官に任命された件も連合に参加した国の中でグランシアが最も大きな国であり出兵した兵の数も最大である事から自動的に任命されたのに過ぎない、それを自分の能力を高く評価されたからだと勘違いしている節があった、それゆえに鼻息の荒いマウリベルトとは正反対に今回参加している兵の中でグランシアの兵が一番士気が低かったのだ、そんな兵達が感情を抑えながらもマウリベルトに報告した
「総司令官殿に報告いたします、上をご覧ください、我らが連合軍の上空に謎の黒い球体が浮遊しており、それが全くの正体不明である為みな動揺しているのです」
「正体不明の黒い球体だと!?」
いぶかしげな表情で空を見上げるマウリベルト、するとそこには見たことも無い巨大な黒い球体が浮かんでおりしかも少しづつ大きくなっている様であった
「なんじゃあれは!?おい魔法使いを呼べ至急だ‼」
マウリベルトの命令により今回軍に同行していた魔法使いがすぐに呼ばれた
「総司令官がお呼びと聞きましたが、あの上空の黒い球体の事ですね!?」
「そうじゃ、あれは一体何なのだ!?」
「あれはおそらく重力魔法の一種だと思われますが・・・しかしあれ程巨大なモノが本当に実現可能なのか、我々の常識では有り得ない大きさですので・・・」
「では別のモノだと言うのか!?」
「そう判断するのが妥当かと、つまり巨大な重力魔法に見せかけたブラフ・・・おそらくですが」
それを聞いたマウリベルトの口元が嬉しそうに緩む
「苦し紛れのハッタリか!?そんなモノにビビる私だと思ったか、魔族どもは浅知恵よのう、所詮は野蛮で下賤な生物という訳だな・・・皆の者良く聞くがよい、我々勇敢なる連合軍はあんなハッタリに踊らされてはならぬ、この連合軍総司令官ロズワルド・マウリベルトの名において敵を殲滅せしめよ‼」
マウリベルトが気持ちよく自分に酔ってそう言い放った時、頭上の黒い物体がゆっくりと降下し始めたのだ、その光景は黒い太陽が落ちてくる様にすら見えた、その漆黒の物体が降りてくるにつれ球体の周りで放電しているバチバチと言う音が嫌でも耳に入り兵達の恐怖と不安をかき立てる
「マウリベルト様・・・あれは本当にハッタリなのでしょうか?」
マウリベルトの横にいる兵が声を震せながら思わず問いかけた、マウリベルトは思わず助言をくれた魔法使いの方を見る、すると魔法使いは目を大きく見開き信じられないと言った表情でブツブツと何か独り言を言っていたのだ
「馬鹿な・・・あり得ない、あり得ないだろ・・・あんな巨大な重力魔法とか・・・一体どれほどの魔力があればあんな・・・」
その姿を見たマウリベルトは全身から血の気が引き、自分の判断が間違っていたことを悟ると何も告げずに誰よりも早く逃げ出したのだ、それを見た周りの兵達もそれに続き次々と逃走を始めた、司令官が何の指示も出さずに逃走を始め兵もそれにつられて逃げ出す有様に軍は大混乱になった、そこに巨大な黒い球体が軍の真ん中に落ちて来たのだ
「ギャ~~~~‼」
「グアアアァァァ~~~‼」
「早く逃げ・・・グボッ‼」
マルドゥエーニャの放った巨大な重力呪文は下敷きになった兵達を次々と潰していく、地面さえも押しつぶしていくほどの重力がかかっているのだ人間など一溜りも無い、あっという間にペシャンコの肉塊に変り黒い球体に飲み込まれる、兵達を下敷きにした時一瞬絶叫が響き渡ったがすぐに静かになった、痛みを感じる暇も無く押しつぶされてしまったのだろう、地面に着いたその巨大な球体はしばらく地面にめり込むほど下降していたが周りの放電が収まるとしばらくして消えてなくなった、その球体が消えた後には球状にえぐられた地面と大量の血の跡、そして少し前まで人間であっただろうと思われる痕跡が何体も見られた、それを見た連合軍は大混乱を起す、そんな光景を上空から見ていたザキヌエルは妻の方を見てニヤリと笑った
「お前の重力呪文は相変わらず凄まじいな、俺は昔あれを喰らって3日は動けなかったからな」
「あら私だってあなたの呪文を受けて一週間寝込みましたわよ!?この際あなたもあの時の呪文をぶっ放してくださいな」
ヤレヤレとばかりに肩をすぼめて笑うザキヌエル、そして呪文の詠唱に入った
「雷の龍神 邪悪なるヴァレゴリアよその憤りと殺意をここに集め恐怖の鉄槌としてかの敵に与えんことを、その盟約による血の儀式を今ここに示さん”ブライトヴィズ・ヴォファルト・ヴァーマ”‼」
ザキヌエルの唱えた呪文は巨大な稲妻となって軍の先頭に落ちた、爆発音にも似た物凄い轟音が辺りを切り裂く、その稲妻を受けなかった者達でさえ落雷の音により一時耳が聞こえなくなってしまうほどであった、隊列の先頭約1万人がこの呪文によって消し飛ぶ、その中には先程真っ先に逃げ出したマウリベルトも含まれていた、総司令官が死に立て直す為に各隊の隊長が命令を出しても今の落雷で耳が聞こえない者が続出し命令が理解できないという事態に部隊は大混乱を起す、そんな様子を上空で見つめていいる二人が静かに話始めた
「これで死んだのが約2万人か・・・しかしまだ34万人もいるのか、奴らがこの呪文で撤退してくれればいいのだが・・・」
「そうね今は混乱しているけど、どうかしら?私達の呪文も威力が強い分連射はできないしね・・・」
混乱している連合軍の中で一人の男がマウリベルトの代わりに指示を出していた
「皆の者落ち着け、秩序ある行動を心掛けよ、耳が聞こえずに混乱している者は殴ってでも静かにさせよ、とにかく部隊の再編成を急げ、被害の大きいグランシア軍は後方に下がらせよ、けがをしている者や戦意を喪失している者も同様だ、先陣は我々スタネール軍が代わる、急げこの隙に敵が攻めてきたらどうするのだ、我々が人類の最後の守り手ぞ、自国の民や家族が魔族やモンスターに蹂躙されても良いのか!?」
大声で叫びながら軍を立て直しにかかるこの男はスタネール国軍の大将軍オストフ・ヴィ・リードヴィッヒ、のちにスタネール国王となる男である、オストフの言葉に徐々に冷静さを取り戻し始める兵士達
「そうだ俺達が敗れたら国の民が魔物たちに・・・」
「俺の家族は俺が守ってやるんだ、チクショウ魔族どもめ絶対倒してやるからな‼」
「そうだ、俺達人間の方が断然多くて有利なんだ、魔族やモンスター何かに負けてたまるか!?」
オストフの指示により思ったより早く立て直しにかかる連合軍、それを見ていた二人は思わず目を細めた
「人間にも優秀な者がいるようね」
「ああ、これで全面戦争に突入せざるを得なくなったな・・・」
残念そうにそうつぶやくと二人は上空を後にし自分たちの城に戻って行った
二人が城に戻ると魔族やモンスター達がさらに集まって来ていた、皆殺気をまき散らし、これ以上待たされたら仲間同士で戦いかねない程戦闘意欲に満ち溢れていた、上空に現れたザキヌエルとマルドゥエーニャの姿に歓喜する魔族やモンスター達、そんな姿を見てザキヌエルが叫ぶ
「今私達が人間どもに先制の一撃、我々の怒りの一撃を喰らわせてきた、それにより奴らは2万人以上の死傷者を出した‼」
その言葉に皆から大歓声が上がる
「さすが魔王様だ‼勝てるぞ、俺達は勝てる‼」
「人間共め日頃の恨み今日こそ晴らしてくれようぞ!?」
「魔王様万歳、人間どもは皆殺しだ‼」
士気は最高潮に上がる、そしてマルドゥエーニャが続けた
「しかし人間どもはまだ30万人以上残っている、しかし恐れる事は無い歴戦の勇者たちよ、我々は強い、ひ弱で脆弱な劣等生物である人間どもに真の強者が誰なのか思い知らせてやろうではないか‼」
”おお~~~‼”という地響きのような歓声と共に皆二人を称えた
「魔王様、どこまでも付いて行きますぞ‼」
「見ていてください魔王様、必ずや奴らを皆殺しにしてやります‼」
「魔王様万歳、魔族、モンスターに栄光あれ‼」
上空から見下ろす二人の姿に涙する者まで出てきた、そして最後にザキヌエルが言った
「我らの怒り、我等の強さをあの下等生物どもに思い知らせてやるぞ、皆私達に続け‼」
大歓声と共に魔族とモンスターが一つになった、ザキヌエルは軍を左翼と右翼の二つに分け魔族を中心とする左翼軍にザキヌエル、モンスターを中心とする右翼軍にマルドゥエーニャを指揮官とし人間の連合軍が体制を立て直す前に左右から攻撃しようという作戦を立てた、作戦が決まれば彼らの行動は早い、そもそもの身体能力が人間とは違う、左翼軍と右翼軍が競い合う様に進軍しあっという間に全軍が人間率いる連合軍のいる場所まで到達した、連合軍は隊列の立て直しまであと少しという所まで来ていたが突然現れた魔族とモンスターの集団に驚きを隠せなかった
「なんだいきなり魔族が現れたぞ!?」
「ちょっと待てよ、まだ体制が・・・」
当然立て直しを待ってなどいられない、左翼軍の魔族はこれ以上無い程残酷に無慈悲に次々と人間を殺していく、元々魔族には恐怖や絶望と言った負の感情を力の糧としている者も少なく無い、まるで欲しかったおもちゃを与えられた子供の様に大はしゃぎで人間を殺して行った
「助けて、助けてくれ!?」
「嫌だ死にたくない、死にたくない・・・」
「何だよこれ、何なんだよ・・・」
魔族の者達は人間の首を狩りそれを集めて大喜びしている者や人の胴体を切り裂き内臓を引きずり出して苦しんでいる人間を見て悦に入る者などが後を絶たなかった、本来軍としてはそんな事をしているより一人でも多く相手を殺した方がいいのだがザキヌエルはあえて黙認していた、確かに効率は悪いが相手に与える恐怖感は人間同士が戦うよりもはるかに恐ろしいモノだったからだ、我々と戦ったらどうなるか!?という事を人間に知らしめなければならないからである、そんな左翼軍の戦いぶりを見て微笑むマルドゥエーニャ
「やるわね、さあ我々も左翼の魔族に負けてられないわよ、モンスターの力を見せてやりましょう‼」
その声に益々テンションが上がるモンスター達、こちらは魔族の様に楽しんで相手を殺すような事はしない、しかしモンスター最大の長所は何と言ってもその身体能力にある、圧倒的なパワーで戸惑う人間達を踏み潰し、次々と人間の体を掴んでは胴体を引きちぎり投げ捨てた、片っ端から人の頭に食いつき捕食していく者もいた、本来は一体のモンスターに対して複数の人間で当たるというのが常識であるのに統制のとれていない人間相手に複数のモンスターが一斉に襲い掛かったのだ、どうなるかは火を見るより明らかであった、人間が次々と肉塊や餌に変っていく、モンスター達は本能のまま殺戮と捕食を繰り返していた、魔族とモンスターが競い合う様に敵連合軍を圧倒して行く、ただでさえ少ない兵力を二つに分けたのはこういった理由があったからである、ザキヌエルとマルドゥエーニャの思惑は成功した、というよりこの作戦しかないのだ、元々魔族とモンスターに連携など不可能だし、本能のまま戦っている彼らは攻勢時は強いが守勢になると滅法弱い、そもそも助け合うとか一旦退くという概念が無いのだ、だから相手の機を制して一気に攻めまくりどこまでいけるか!?という勝負なのである、それはマラソンでスタートから全力でトバし最後まで走りきるといった様な無謀な作戦だ、魔族やモンスターは人間に比べ強靭な肉体と豊富なスタミナを持っている、しかし生物である以上体力が無尽蔵という訳ではない、戦闘が開始されて1時間ほど過ぎると魔族、モンスター共に勢いに陰りが出てきた、それを待っていたかのようにオストフが指令を出す
「相手側に疲れが見えて来たぞ、今こそ反撃の時である、重装備騎士団は盾を三枚重ねにして前面に展開し相手の勢いを止めよ、魔法使いと弓隊は後方から支援攻撃を、攻撃隊は私の指示があるまで待機‼」
徐々に連合軍が軍隊としての形を成していく、そうなると魔族とモンスターの勢いがさらに鈍りついには前進が止まってしまった
「今だ攻撃隊、敵の左側面から突撃せよ、スタネール重機装槍撃師団は私と共に右側面から攻撃する我に続け‼」
オストフの号令と共に連合軍の反撃が始まった、今までさんざんやられていた連合軍側の人間達はここぞとばかりに奮い立つ、攻撃一辺倒の敵軍の側面から攻撃隊が突撃し相手を分断、孤立させていく、そして魔族やモンスターを包囲し数に任せて前後左右から責め立てた、これまで攻勢だった魔族やモンスターが一変守勢に回る、その高い身体能力で激しく抵抗するも各自包囲され一斉に十字攻撃を受けたのではさすがの猛者達も成す術が無かった、あれ程強かった魔族やモンスターが一体また一体と連合軍の手にかかっていく、左翼と右翼が完全に崩れる寸前でザキヌエルやマルドゥエーニャが割って入り何とか戦線崩壊を防いでいた、負傷した魔族やモンスターを後方に運び再び前線に戻るという動作を繰り返す二人であったがもう戦線崩壊は時間の問題であった、逆にようやく勝ちを確信した連合軍各首脳はホッと胸をなでおろした
「一時はどうなるかと思ったが、これで我らの勝ちは決定したようなものだな」
「全くです、思ったより強かったですな、しかし所詮は低脳な生物、生物の頂点である我等人類の前に敵ではありませんでしたな」
「各陣営でも随分と被害が出ましたからな、奴らを皆殺しにでもしないと気が収まりませぬ」
「そうですな、人類の未来の為に奴等は駆除しておかなければなりませぬ、そういう訳でそろそろ掃討作戦に移りましょうか・・・」
「ちょっと待ってくだされ‼」
その時一人の男が異論を唱えた、ここまで前線の指揮を執っていたオストフが戻って来たのである
「これはオストフ殿、今回はご苦労でした、それであなたは敵の掃討作戦に反対なんですかな!?」
「はい私は反対です」
「理由を聞かせてくれませぬか?奴らを生かしておいて得をするとは思えませんが」
その言葉に首を振るオストフ
「奴らの事ではありません、我等の事を心配しているのです」
「言っている意味が分からぬが、見ての通りもう勝敗は決したであろう、なのに何故奴らを皆殺しにすることをためらうのだ!?」
オストフはギロリと皆を睨むように見つめると一呼吸置いて話始めた
「あなた方は気づきませんでしたか?敵の左翼軍と右翼軍の指揮を取っていた魔族の指揮官を、あの二人は別格です恐ろしい力を持っています、最初の重力魔法と雷魔法の巨大呪文もおそらくあの二人でしょう・・・」
「しかしいくら凄い力を持っているとはいえたった二人ではないか!?我らの勝ちは揺るがないであろう!?」
オストフはさらに厳しい表情を見せ目で全員を見回した
「確かに我らの勝ちは揺るがないでしょう、しかし相手を全滅に追い込むとなると当然敵も死に物狂いで反撃してきます、特にあの二人の指揮官は戦線維持の為に動いていました、もし奴らが我らを道連れに玉砕覚悟で向かってきた場合、推定で最大約四割の兵を失う可能性があります、その覚悟がおありですかな?もちろんその四割の中に我々が入る可能性も十分ありますが・・・」
オストフの言葉に全員息を飲んだ
「四割だと!?まさかそんな・・・」
「しかしそれが事実ならいくら勝ったとしてもそれは負け戦に等しいぞ!?同じだけの兵力を整えるのにどれほどの時間がかかるか」
「確かにそれだけの損失を出したら我々の立場が・・・」
「もしそれ程の兵を失ったら国民に対してどう言い訳すればよいのじゃ」
「それよりこの戦いが終わった後の事を考えんとな、各国それだけの兵を失なったらグランシアに飲み込まれてしまう可能性が出てくる、今回はたまたま連合を組んだがこれが終わったら皆敵同士に戻ってしまうのだからな・・・」
さっきまでのお祝いムードが一変し皆黙り込んでしまう、そんな連中の様子を見ながら満を持してオストフが語り始めた
「私に考えがあります・・・」
後方に負傷した魔族を運んできたザキヌエルが同じく負傷したモンスターを運んできたマルドゥエーニャと鉢合わせた
「おう、お前も戻っていたのか!?そちらはどうだ?」
「ダメですね・・・予想通り敵の反撃で戦線を維持するのがやっとの状態です」
「そうか、もう時間の問題かもな・・・」
二人がそう話していた時連合軍側から大きな呼びかけがあった、それはおそらく魔法によって声を増幅しているのであろう戦場はおろか後方にいる者にすら聞こえる程の大きな声だった
「魔族及びモンスター共に告げる、私は連合国総司令官代理オストフ・ヴィ・リードヴィッヒである、もはや勝敗は決した、速やかに降伏するのであれば残った者の命は保障する、そして君達が暮らしていける場所も提供する事を約束しよう、もちろん書面にして確約しても良い、しかし降伏の条件は責任者二人の投降である、これは譲れない条件だ、もしまだ戦うと言うのなら・・・」
その時満身創痍で死にかけの魔族やモンスターが30体程はりつけにされて捕えられていたのを見せつけた、それに槍を突き付ける連合軍兵士達
「もしもまだ戦うと言うのであればこの者達はすぐに処刑する、もちろん君達が全滅するまで戦う、どうするのかは20分後に返事を聞かせてくれ、以上だ‼」
オストフはそう言い放つと後方に下がっていった、ザキヌエルとマルドゥエーニャは顔を不意に見合わせる
「選択肢はないようだな」
「そうですね、当初の目標であった魔族とモンスターの全滅は免れましたから目的は果たせそうですが・・・」
二人の顔は驚くほど穏やかだった、周りにいた負傷している魔族とモンスター達はあまりの悔しさに声を殺して泣いていた
「あと20分か、ならば最後の家族団らんといこうか」
「そうですね、最後にあの子に・・・」
二人はそう言って城へと向かった、その途中でザキヌエルがボソリとつぶやいた
「あの子にはあの若さで重いモノを背負わせてしまうな、こんなに早く魔族の未来を託すことになろうとは・・・」
「そうですね、でもきっとやり遂げてくれますよ、あの子なら」
「確かにな、アイツはまだ17歳にも満たないのに凄まじい力を持っているからな、末恐ろしくもある、私が同じ年の頃と比べたら格段の差だぞ」
「そりゃあ私達の子ですからね」
そんな事を話しているうちに二人は城に到着した、ザキーニャはまだ気を失い横になっている、そばに控えていたバイアスが涙をこらえているのがわかった
「バイアス、すまないがこれからの魔族の事、この子の事を頼む」
「まだ若くて感情的になりがちだからあなたが支えてあげてね、お願いよバイアス」
もう涙を抑えきれなくなり泣き崩れるバイアス
「私は人間どもに家族を殺され自分も殺されそうだったところをザキヌエル様とマルドゥエーニャ様に救っていただきました、それ以来お二人には私の親代わりとして色々お世話になってきました、いつかあなた方に命を賭けてでも恩返しがしたいと思っておりました、一緒に・・・一緒に死なせてはくださいませんか!?私だけ生き残れとはあまりにも・・・」
そんなバイアスの肩に手を乗せて語りかけるザキヌエル
「すまんなバイアス、お前にしか頼めないんだ、私達からの最後の頼みだ、どうか聞き届けてくれないか!?」
「ズルいです魔王様、アナタにそんな事を言われたら断れるわけないじゃないですか・・・わかりましたこのバイアス一生かけてでもザキーニャ様を支えて見せまする、お任せあれ」
そんなバイアスをそっと抱きしめるマルドゥエーニャ
「ありがとうバイアス、大好きですよ」
バイアスは声を殺していたが大粒の涙があふれ出る事を止められなかった、そんな時ザキーニャが目を覚ました
「あれ父上、母上どうなさったのですか?人間共との戦いは終わったのですか!?」
「ああ終わった、それでこれからお前に話があるのだ・・・」
「私に話とは何でしょうか?」
「我々二人はこれから人間どもに投降する、おそらくそこで処刑されることになるだろう、だからこれからの魔族の事をお前に託す、よいな」
その話を聞いて茫然とするザキーニャ、頭が混乱して理解が追いつかない様子であった
「何を言っているのですか父上・・・戦いましょう、私も一緒に戦います、人間どもに黙ってむざむざ殺されるなど父上の言葉とは思えませぬ、なぜ戦わないのですか!?」
「それが魔族とモンスターを絶滅から救う唯一の手段だからです、わかりましたかザキーニャ!?」
「嫌です母上、なぜお二人が死ななければならないのですか!?私にはまだ無理です、父上や母上にいてもらわないと私は・・・」
マルドゥエーニャはそんなザキーニャの頬をひっぱたいた
「何を甘えた事を言っているのですか!?あなたは魔族のトップ魔王になるのですよ、そんな事でどうしますか‼」
「嫌なモノは嫌なのです‼父上と母上が人間どもに処刑されるなど納得できるはずがないでしょう、お二人が何を言おうとも戦いますよ私は、人間共を皆殺しにしてやります‼」
その時ザキヌエルが右手をかざす、再び黒い闇が発生しザキーニャを包み込もうとする、その時ザキーニャはその黒いモヤを睨みつけると一瞬で霧散してしまったのだ、その事に驚くザキヌエルとマルドゥエーニャ
「いくら私でも同じ手を喰うほど馬鹿ではありませぬぞ父上、私にも戦わせてください‼」
その時何故かザキヌエルは嬉しそうに微笑むと今度は両手を広げ全身に力を込めた、するとザキーニャの周りに緑色の光る茨の檻が発生しザキーニャを閉じ込めた
「何ですかこれは!?父上 私も戦います、戦わせてください、母上お願いします母上‼」
そんな心からの訴えを愛しげに見つめるマルドゥエーニャ
「達者で暮らしなさいザキーニャ、本当はあなたの子供・・・孫の顔も見たかったわ、さようなら愛しき我が息子よ・・・」
そう言い放ち部屋を後にするマルドゥエーニャ、その目からは一筋の涙が光っていた
「待ってください母上‼おいバイアス止めろあの二人を止めてくれ命令だ‼お願いだよバイアス二人を・・・」
バイアスは肩を震わせながら無言で立ちすくんでいた、ザキーニャの叫びを背中に受けながら部屋を後にする二人
「もうよいのか?」
「ええ、いくらいてもキリが無いですから・・・」
「スマンな私だけで許してもらえると良かったのだが、最後にお前の命だけでも助けてもらえるよう話してみるか」
「止めてください、魔王ともあろうお方が見苦しいですよ、それにあなたと一緒に死ぬのならそれも悪くないでしょう」
その言葉を受け少しだけ照れながら小声で話始めるザキヌエル
「お前と暮らしたこの20年、悪くなかったぞ」
「あら!?あなたがそんな事言うなんて珍しい、でも悪くなかったですか・・・その言い方は少し不満です、私はこの20年は最高でしたよ」
「私とて同じ気持ちだ・・・そのぐらい察せよ」
二人はそんな事を言いながら連合軍の真っただ中に降り立った
「魔王軍総指揮官ザキヌエルとマルドゥエーニャ、貴軍に対し投降しに参った‼」
連合軍の大軍が二人の道を空けるように真っ二つに割れる、その先にはオストフがいた
「私が連合軍総司令官代理のオストフ・ヴィ・リードヴィッヒです、あなた達の此度の戦いぶり敵ながら称賛をおくりたい、そしてこのご決断をされたことを心から感服します、お約束した事はこの私の名において必ずや果たしますのでご安心を・・・」
その言葉を聞いて微笑みながらうなずくザキヌエルとマルドゥエーニャ、二人は自然と手をつなぎながら敵陣に歩いて行った。
部屋に残されたザキーニャは光の茨でできた檻から出ようと必死に抵抗するも一向に脱出する事は出来なかった、その事に絶望し諦めかけていた時、フッと茨の檻が消滅したのだ、その瞬間、連合軍の方から大きな歓声が上がった、何が起こったのかザキーニャにはわかったがそれを認めたくなくて部屋を飛び出そうとする
「行けませんザキーニャ様、お二人の気持ちを無駄にしないでください‼」
ザキーニャの背中を必死で抑えつけるバイアス
「放せバイアス、いくらおまえでも許さんぞ‼」
「お願いです、二人のお気持ちをわかってあげてください‼」
そんなバイアスの必死の説得も耳に入らないザキーニャは力づくで振りほどき連合軍に向かう、それまでに地上では何体もの魔族やモンスターが嘆き悲しんでいるのを目撃した
『父上、母上・・・』
ザキーニャは凄まじいスピードであっという間に連合軍上空まで到達する、しかしそこに見た物を信じる事ができなかった、大勢の人間が自軍の勝利に酔いしれて歓喜に沸いている中心にザキヌエルとマルドゥエーニャの首が掲げられていたのだ、ザキーニャは体中の血液が逆流し沸騰したか!?と錯覚するほどの怒りに体が震え、頭がおかしくなってしまいそうなほどの感情が全身を支配した
「おのれ人間、許さん絶対に緩さんぞ‼殺してやる、お前ら全員皆殺しだ‼」
その魂の叫びともいえる声は魔法の助力も無いのに戦場全体に響き渡った、勝利の歓喜に沸いていた連合軍の兵士達は何が起こったのか?と不思議そうに空を見上げる、その時首だけになりすでに絶命しているはずのザキヌエルの両目が開き凄まじい光を放つ、そのまぶしさで皆は全く何も見えなくなっていた、すると今度はマルドゥエーニャの両目が開き赤い怪光線がザキーニャに向けて放たれたのだ、それをモロに受け吹き飛ばされるザキーニャ、ザキヌエルとマルドゥエーニャの二人はこうなる事を予想していてザキーニャが人間に向かって魔力を使おうとしたら逃がす為の細工を自分自身にしていたのである、とはいえマルドゥエーニャの魔力を全身で受けたザキーニャはかなりのダメージを受け戦場から遠く離れた所まで飛ばされた、薄れゆく意識の中で母の声を聞いた
『ザキーニャ・・・あなたは生きなさい、私達の分も生きてね・・・愛していましたよ・・・』
「母上・・・私は・・・」
ザキーニャはそうつぶやきながら意識を失いとある山奥に墜落し意識を失った。
自分的にはようやく書き始めた”嘆きの森の王”の話です、ずっと前から温めていた話なんですが今まではつながり的に書けなかったのでやっと・・・という感じです【何のこっちゃ(笑)】結構長い話なので三部~四部になると思います、懲りずにおつきあいいただけると嬉しいです、では。




