エレメンタルアイ(上)
登場人物
ジェームズ・ハワード…第64代アメリカ合衆国大統領
リチャード・ハウゼン(ジェームズ・マクシミリアン)…世界の魔法使いのトップ、三賢者の一人でスタネールの大賢者とよばれている
鳴沢英治…脳科学の権威でワールドファンタジアのデータはほとんど頭に入っている
ケビン・ハーパー(ロビン・エルフォード)…エレメンタルアイの異名を持つ世界№1の弓使い
オーデラン国王…ハラル共和国国王、各国に講和路線を広めている温厚な国王
ザッハ将軍…キシェロ公国№1の将軍、真面目で融通の利かない面もある
ソコナレフⅢ世…キシェロ公国の国王
コリナール王子…キシェロ公国の第一王子、巷では馬鹿王子と言われている
ゲベル将軍…グランシア王国の新しい司令官優秀だが性格はゲス
オルベルト参謀…非常に優秀で広い知識を持っている、他国より高額で引き抜かれた
10
ジェームズ・ハワードと鳴沢博士、リチャード・ハウゼン達の集団は”嘆きの森”を抜け小国シディアン民国に入った
”嘆きの森”ではバルドゥークを倒した後も三度モンスターと遭遇したがハウゼンの活躍もあり無事街まで辿り着いた
ハウゼンが鳴沢に話しかける
「ここまでくれば一安心ですかね博士」
ハウゼンの問いに地図を広げて答える
「そうだな、ここシディアンからスタネールまではそれ程危険はなさそうだしな、ただ最短距離を通るとガルゾフを通過することになる、そこがやや気がかりじゃな」
地図を指差しながら説明する鳴沢にハウゼンは
「ガルゾフ帝国ですか…あそこはやめましょう、やや迂回することになりますが西回りでハラル共和国に向かいましょう、あそこはスタネールとは同盟国です私も国王と面識がありますし最適かと」
二人の会話を聞いていたハワードがたずねる
「そのガルゾフ帝国というのはそんなに危ない国なのかね?」
ハウゼンが答える
「危ないと言うほどではありませんがあそこのネルリアス皇帝は野心家で常に大陸制覇を狙っています、もし万が一大統領の身分がバレたら拘束される可能性がありますからね、それに…あそこのバルザークとは私あまり仲がよろしくりませんので…」
それを聞いた鳴沢は”ぷっ”っと笑った、ハウゼンの反応と鳴沢の笑いを見て興味を持ったハワードが再びたずねる
「そのバルザークというのはどんな人物なんだ?」
答えにくそうなハウゼンにかわり鳴沢が答える
「バルザークはガルゾフ帝国を支える魔法使いです、自称世界最強の魔道士と言ってますので”三賢者”と言われているハウゼンが妬ましいのでしょう、しかしすべてのデータを知る私から言わせるとバルザークよりジェームズ・マクシミリアンの方が一枚上ですよ」
ハウゼンが恥ずかしそうに
「鳴沢博士、大統領の前でその名前はやめてください、バルザークとは一度会ったことがあるだけなのですがとにかくしつこいというか一方的に絡んでくるんですよ敵意むき出しで…もう二度とは会いたくないです」
その話を聞いてハワードが笑う、そして嫌そうなハウゼンを気遣い話題を変えた
「そういえば腹が減ったなどこかで昼飯といこうか⁉︎」
ハウゼンが鳴沢に話しかける
「ここ シディアンの名物はチ・ズラでしたね鳴沢博士」
「そうじゃそうじゃ私もコッチでは食べたことがないからの一度食べてみようと思っていたんじゃ」
2人の会話についていけないハワードがたずねる
「なんだその変な名前の食べ物は?」
鳴沢が自慢気に答える
「ナサハラダという植物からとった液体を鍋に入れて熱する、そしてモロンゴという動物の肉を入れしばらくしたら鍋から出しエヘルの粉をまぶして…まぁ早い話がフライドチキンですな」
鳴沢がニコリと答える
「おぉそれはいい、早速行こう‼︎」
久しぶりに嬉しそうなハワードを見てハウゼンも微笑んだ、ハワードが流れでたずねる
「鳴沢博士、この世界はゲームなのになぜ腹が減ったり喉が渇いたりするんだ?ちなみに食べなかったり飲まなかったりしたらどうなるんだ?」
鳴沢が嬉しそうに答える
「死にますよ普通に、食料や水分の補充と言うのは人に必要なエネルギーとして管理されております、だからエネルギーが不足してくると腹が減ったり喉が渇いたりするんです、しかしトイレには行きたくないでしょ?排泄物の設定はしてありませんから、他には汗は出ますがベタベタしたり臭くなったりはしませんでしょ?代謝もありませんからなんらかの条件により汚れたという”状態”にならない限り風呂に入る必要はありません」
そんな説明を聞いた後ワールドファンタジア製フライドチキンをみんなで腹いっぱい食べた
シディアンを出発してハラル共和国に着いたのは夕方になってからだった国境の関所を守備する兵士がハワード達の集団が近づいてくるのを見て警戒を強める
「なんだ貴様らは⁉︎一体どこから来た‼︎」
強い口調で詰問する守備兵その問いにハウゼンが答える
「私はジェームズ・マクシミリアンここの責任者に取り次いでもらいたい」
「なんだ貴様は?」
「いいから取り次ぎたまえ」
ハウゼンは諭すように話しかける、守備兵はかなり懐疑的な目で見ていたが渋々ながら取り次ぐことにした
「ちょっとそこで待ってろ」
奥には小柄でちょびヒゲを生やした役人がガラスの壺を手に取り眺めながら悦に入っていた
「う〜んこれはいいものだ」
そこに先程の守備兵が部屋に入ってくる
「失礼します今4、5000人の集団が入国を求めてやってきておりますがどういたしましょう?」
「どうせどこぞの難民だろう面倒だから追い返せ」
「かしこまりました、それとその集団の代表らしき人物がジェームズ・マクシミリアンと名乗っておりましたが」
「そんな奴は知らんさっさと追い返せ」
「はっ‼︎かしこまりました」
守備兵が部屋を出ていく、その瞬間何かに気づいた役人はイスから飛び上がりその拍子にガラスの壺が床に落ちて割れた、しかしそんな事は構わずに守備兵を走って追いかける
「待てちょっと待たんか‼︎」
役人が先程の守備兵と共に出てくる満面の笑みを浮かべありったけの低姿勢で手揉みしながら
「これはこれはスタネールの大賢者様、先程はウチの馬鹿共が大変失礼しました」
「いやそこの守備兵達は自分の任務を果たしただけだ、むしろ約束もなしにいきなり来た我々の方に非があるすまない」
ハウゼンは役人の態度を見て守備兵を気遣い発言した
「何という寛大なお心‼︎このゼーベル感嘆の至りでございます」
「面を上げてくだされゼーベル殿、無茶ついでに一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
ゼーベルはまたまた満面の笑みで答える
「なんなりとお申し付けください」
「ジゼル城に行きたいのだが手続きの方を頼めるだろうか?できればオーデラン国王に拝謁したいのだが…」
「お安い御用でございます、ただオーデラン国王は今 他国に赴いておりまして国内にはおりませんので…」
ゼーベルの手引きでジゼル城に案内されるハウゼン達、ハワードが質問する
「鳴沢博士このハラル共和国とはどういう国なのですか?」
「ハラル共和国は人口三千万人、農業が盛んで文化レベルも高い国です、この世界には珍しく講和路線を貫く政治体制が特徴です 軍事力ですが 兵の数と練度、魔法レベル、将の数 全て並なんですが 一人だけ傑出した人物がいます」
ニヤリと笑いハウゼンが答える
「エレメンタルアイですね⁉︎」
コクリとうなずく鳴沢 ハワードが続けて聞く
「エレメンタルアイというのは名前なのかな?」
その質問に鳴沢が答える
「いえ違います大統領いわいる二つ名ですよハウゼン君の”スタネールの大賢者”みたいな、この世界では我々の世界でいう神や悪魔が 精霊とドラゴンになるのですよ つまりエレメンタルアイとは我々の世界ですと”神の目”という意味なんです」
「神の目か…どうしてそう呼ばれてるんだ?」
ハワードが問いかける
「エレメンタルアイは弓使いです 弓の腕は間違いなくワールドファンタジア中No.1です、名前はロビン・エルフォードと言います」
鳴沢が答える、博士がそう言うなら間違いないのだろうと皆納得した 、その鳴沢がハウゼンに質問する「ハウゼン君、オーデラン国王とは面識があると言っていたが”エレメンタルアイ”とは会ったことがあるのかね?国王不在ならおそらく今いるこの国でのトップはロビン・クロフォードになるはずだが」
その質問に首を振るハウゼン
「残念ながら・・・面識はないですね、しかし聞いている話だと少し変わり者ながら話のわかる人物と聞き及んでおります、むしろ鳴沢博士は管理者という立場からどんな人物かご存知ないのですか?」
「わしはあくまでゲーム管理者としてしての知識しかないからのう、つまりロビン・クロフォードなる人物の数値的なデータは把握しているが人物像まではわからん、プレイヤーだった場合でもそんな個人的な情報はさすがに覗いたりはせんよ、何かでバレて訴えられたら会社の存続が危ぶまれるからの」
それを聞いたハウゼンも下を向き目を閉じて微笑むだけであった
ジゼル城に着いた一行だが謁見の間に通されたままかなりの時間待たされた、そして城内の様子が何かおかしい事にハウゼンが気が付く
「なにか騒がしいですね」
確かに部屋の外から鎧で走る兵士のガシャガシャという音が何度も聞こえる 、耳を澄ますと色々な人物が声を荒げているのが聞こえる、そして指揮官と思しき男が次々と指示を出す声が聞こえ段々近づいてくる その声が部屋の前で止まりバタンと扉が開く
「大変お待たせしました国王が不在の為 代わりに私がご挨拶をさせていただきます ロビン・エルフォードと申します」
日に焼けた肌と端正だがワイルドさを感じる顔に鋭い目
見ただけでこの人物がエレメンタルアイなのだと全員が確信した
「初めましてジェームズ・マクシミリアンと申します忙しいところ申し訳ない」
両者が近寄り握手をしようとした瞬間 その手がピタリと止まりお互いが顔を見合わせる
「ハウゼン?お前リチャード・ハウゼンじゃないか?」
「あなたはもしかしてケビン・ハーパーですか?」
一瞬の間があった後二人は思わず吹き出した
「なんだよ、なんでスタネールの大賢者が”おすましハウゼン”なんだよ⁉︎」
「私こそビックリですよエレメンタルアイが実は”悪童ハーパー”とはね」
二人はまた顔を見合わせ笑った 一同もこんなハウゼンは初めて見たので呆気にとられている ハーパーも一しきり笑った後ハウゼンに語りかける
「まぁなんだ よく来てくれた、よくぞ無事で…まぁスタネールの大賢者がいるんだから無事に決まってるか⁉︎」
「そうでもなかったですよ我々が転送された先は”嘆きの森”でしたから」
笑っていた声をピタリと止め驚きの表情を見せるハーパー
「そりゃまた凄まじい所に飛ばされたもんだな、で?ザキーニャにでもでくわしたのか?」
「ザキーニャにでくわしたのならここに来れてませんよ、バルドゥークにはでくわしましたが…」
ハーパーがさらにに真面目顔になる
「お前バルドゥークにでくわしたって…倒したのか?奴を⁉︎」
ニヤリと笑うハウゼン 上を向いてため息をつくハーパー
「凄えなお前 バルドゥークなんて俺じゃ絶対倒せないからな」
「実はハーパー今日は頼みがあってここに来たんです」
ハウゼンは真剣な顔に戻りハーパーに語りかける
「なんだよハウゼン、お前には昔キャシーに浮気がバレそうだった時に嘘ついて庇ってもらった借りがあるからな、それなりの礼はするぜ」
ハウゼンが真面目に答える
「実はこの人を無事にスタネールまで送り届けたいんだ」
その人物を見てハーパーが目を丸くする
「ジェームズ・ハワード…大統領…え⁉︎」
ハワードが前に出てハーパーに手を差し出す
「ハーパー君よろしく頼む」
完全に固まっていたハーパーが急に直立する
「光栄でありますミスタープレジデント‼︎」
ハワードが首を傾げる
「ハーパー君、君とはどこかで会っていないか?」
その問いにハウゼンが答える
「大統領ハーパーはニューヨークオリンピックのシルバーメダリストです、競技はもちろんアーチェリーです」
「そうか⁉︎あの時の‼︎」
ハーパーは直立のまま答える
「覚えていただいて光栄であります、あの時は祝福と激励の言葉をいただきました」
ハワードが嬉しそうに答える
「そんなにかしこまらないでくれ、今じゃ私は役に立たないおじさんだ、君の方がよっぽど凄いよ でもありがとう久々に自分がアメリカ合衆国大統領だと思い出したよ」
ハーパーが真剣な顔でハワードに敬礼した後 ハウゼンに話しかける
「お前の頼みはわかった、こちらも全力で協力する しかし今は厳しい状況でな すぐに協力とはいかないんだ」
ハーパーの言葉に軽くうなずくハウゼン
「先程から城内が只ならぬ雰囲気なのは感じていました、何があったのですか?」
「これは内密に願うが我がハラル共和国と隣国のキシェロ公国とは長年同盟関係でな、ずっと良好な関係を続けていたんだが最近キシェロ国王の体調がずっと悪くて王位継承することになったんだ しかしキシェロ公国の第一王子は即位したら我が国との同盟関係を破棄すると公言したんだよ、だからオーデラン国王はキシェロの王の見舞いと称して第一王子の説得に行ったんだ、だが向こうに行ったまま連絡がとれなくなってな、どうも様子がおかしいと思い使いを出したがどうやらオーデラン国王は外遊先で拘束されている可能性が高いんだ、こちらも国王の返還を何度も要求してるのだが
『オーデラン国王は御自分の意思で滞在しているので当国としてはその意思を尊重している』
などとわざとらしい言い訳の一点張りでな 使いを出してもなんだかんだ理由をつけて国王に会わせてもらえないんだ」
その話を聞いたハウゼンが
「それは酷い話ですねぇ、それでキシェロ公国と戦争をおこすのですか?」
ハーパーは首を振り答える
「こちらは戦争をしたい訳じゃない、キシェロ側がいつまでも国王を返さずまともな返答すらしてこないのならば武力行使も辞さないぞと書状を送ったらあいつ等軍を国境付近まで進めてきやがったんだ」
ハウゼンが納得した表情でうなずく
「それでこの騒ぎですか!?なるほど」
ハーパーがため息をついて話を続ける
「話はそれだけで終わらないんだ、こう言っちゃなんだがキシェロと我が国じゃ力が違うからな常識で考えれば戦争なんておこすはず無いんだ」
ハーパーの発言をきいたハワードが鳴沢を見る、鳴沢はうなずき
「キシェロ公国とハラル共和国では軍事的には比較になりません、圧倒的にハラル共和国が上です」
ハウゼンが目を細めハーパーに問いかける
「ならばなぜ?もしや!?」
「そうなんだ、どうやらグランシア王国に怪しい動きがある 今グランシア王国は軍事演習と称して軍をこちらの国境方向に進軍している この時期に演習なんて明らかにおかしいキシェロとの密約があるのでは?と考えざるを得ない」
ハウゼンも少し考えて考えを述べた
「それは間違いなくキシェロとグランシア側で何らかの密約がありますね、おそらくキシェロの第一王子はグランシア側の工作員によってたぶらかされていたのでしょうキシェロ国王の病気も王子の差金という可能性もあります 王位継承前に他国との同盟破棄なぞ本来ありえない話ですからね、そうすれば人のいいオーデラン国王は必ずキシェロまで会いに来ると・・・そうしたら国王を拘束し人質として使いながらハラル側の士気も下げようという狙いですかね」
ハーパーは怒りの表情を浮かべ両こぶしを握りしめた
「なんという愚かな・・・我が国が落ちればキシェロなぞあっという間にグランシアに飲み込まれてしまうだろうに・・・」
ハウゼンも呆れた顔で語る
「どうせ”ハラル共和国を攻め滅ぼしたら領土は半分づつに分けよう”などとたぶらかされたのでしょう、グランシアも大国の癖に存外こすっからい手をつかいますねぇ」
ハーパーもうなずく
「グランシアも大陸最強国と名乗っちゃっいるがここのところ負けてばっかしだからな、焦ってるのかもな」
ハーパーが苛立ち吐き捨てるように言った、ハワードが鳴沢に問う
「グランシアとはそんなに大きな国なのかね?」
鳴沢がうなずく
「グランシア王国は領土も広く農業も盛んで文化レベルも並以上の大国です、グランシアの中央に位置するケネルカン山脈のふもとで大量の金が取れるんで常に潤沢な資金を背景に軍事力を拡張させているんです、兵士の数なら大陸No.1です」
ハワードは納得したがふと気づいて聞き直す
「しかし最近負けてばかりと聞いたがなぜなのかね博士?」
鳴沢は頭を掻きながら答える
「グランシアは兵士の数は多いのですが傑出した人物がほとんどいないのですよ…この世界の音に聞こえた英傑の半分以上がWFプレイヤーなんです、グランシアには所属しているWFプレイヤーが凄く少ないんです」
「それはなぜなのかね?」
「一時期ネットで”グランシアみたいな大国に所属する奴はチキン”みたいな風評が流れましてねおそらくその影響です」
ハワードが納得する、話を聞き終わったハウゼンが提案する
「話はわかりましたハーパー、我々がここに居合わせたのもなにかの縁でしょう及ばずながら助太刀いたしますよ」
ハーパーの表情が一転する
「本当か?助かるよハウゼン!!スタネールの大賢者が加勢してくれるならこれ以上心強いことはないぜ!!これで借りは2度目だな!?」
ハウゼンは目を閉じ下を向いて息を吐く
「ハーパー言いたくありませんがこれは3度目ですよ、大学の2年の時あなたが女子の更衣室を・・・」
ハウゼンがそこまで言いかけると慌てて制止するハーパー
「わかった、わかったからそれ以上はやめてくれ頼む」
「まぁハラル共和国はスタネールの同盟国でもありますからね加勢するのは当然なのですけどね」
苦笑いするハーパーしかし何かを思いついたような顔をして語り始める
「このことを皆に伝えたい、同盟国キシェロと大国グランシアとの戦い、国王の不在で兵の動揺は広がり士気も低い、俺の部下にもアメリカ人は多い スタネールの大賢者とジェームズ・ハワード大統領が来てくれたと知れば皆の士気も上がる」
急いで部屋を出て行ったハーパーがしばらくしてゾロゾロ部下を連れて帰ってきた、そして兵士に向かって語り始める
「ハラルの兵士達よ今我々は国王不在の中、同盟国キシェロと大国グランシアとの戦いに挑まなければならない 不安な気持ちもわかる・・・しかし安心して欲しい我々のために力強い味方が来てくれたのだ、まずはこの人物あのリチャード・ハウゼンだ‼︎ 」
扉を開けてハウゼンが入って来る ハーパーの提案で名前を呼んだら入って来いと言われていたのだ
「ハーパーあなたという人は…」
ハウゼンは頭を抱えため息をつきながら入って来た、ハラル兵は皆キョトンとしている それもそのはずジェームズ・マクシミリアンではなくリチャード・ハウゼンとして紹介してしまったからである
「あっ⁉︎しまった今のなし、こちらはあのジェームズ・マクシミリアンだ‼︎」
ようやく一同がワッと湧いた
「ジェームズ・マクシミリアンってあの三賢者の一人の⁉︎」
「スタネールの大賢者が味方になってくれるのか‼︎」
「やれる、やれるぞ⁉︎グランシア王国がなんだ‼︎」
ハウゼンが手を挙げて応える 続けてハーパーが紹介する
「今から紹介する人物はこの中でも一部の人間しか知らない人物ですが我々を激励する為に来てもらいました、どうぞお入りください‼︎」
扉から入って来た人物に一部の人だけ、ざわつき始めた
「おい、あれハワード大統領じゃないのか?」
「なんでアメリカ大統領がここに?」
「おい嘘だろ”フロリダの奇跡”を再現するってか⁉︎」
一部の人がざわつきその他大勢の人は『誰だ?』という状態でハワードが話し始める
「みなさんはじめまして私はジェームズ・ハワードといいます皆さんの置かれている状況は私も理解しております、聡明なオーデラン国王は卑劣な手段により捕らえられてしまいました、私も一国を任されたことのある身だからわかる事があります 王の願いは常に国民の幸せ ただそれだけなんです‼︎ オーデラン国王は自国の民だけでなく他国の民をも愛するお方です、そこをつけ込まれました甘いと思われるかもしれません しかしよく考えてください 平和を愛し国民を愛する国王とそれにつけ込み同盟国の王を騙して人質にする国王 どちらが正しいか⁉︎ そんなことは子供でもわかります そんな子供でもわかることを平気でやる国王がいるのですそんな人間が国民の幸せなど考えるでしょうか?
否です断じて否です‼︎我々は勝たなければなりません、いや勝ちます‼︎なぜか?それは我々が正義だからです正義は必ず勝つんです‼︎グランシアは確かに大国です、しかし恐れることはない近年グランシアはガルゾフに二回負けアミステリアにも二回負けました ガルゾフやアミステリアより強い我々が負ける理由がどこにある⁉︎ましてや今回はスタネールの大賢者がいる なによりハラルにはエレメンタルアイがいる もう勝ちは約束されたようなものだ‼︎ハラルの戦士達よ何を恐れることがある‼︎あの矮小で卑劣な下劣官共に教えてやれ‼︎真の勇者が誰なのか⁉︎正義の所在がどこにあるのか⁉︎その身をもって思い知らせてやれ‼︎誇り高きハラルの戦士達よ国民の為に正義の為にハラル共和国に勝利の栄光を‼︎」
ハワードの演説が終わった途端”オオオォォォーー‼︎”という地響きのような歓声があがる ハラル兵士の士気が一気に上がった
実はハワードの演説の前にちょっとしたやりとりがあった それはハウゼンが、ハワードに告げたこんな話であった
「大統領、実はハーパーからこんなことを頼まれているのです、ハラルの兵士は十分鍛錬も積んでいるのですが実戦経験の少なさからくる不安、大国グランシアに対する恐怖、国王不在の為の士気低下、同盟国だったキシェロとなぜ戦うのかという疑念、それらを大統領の演説で消し飛ばして欲しいと…」
演説を終えたハワードにハーパーが早足で近づくハーパーの後ろには20人程の武装した兵士が付き従う、まるで少年のように目を輝かせてハーパーはハワードに握手を求めた
「ミスタープレジデント‼︎素晴らしい演説でした”フロリダの奇跡”を生ライブで見た気持ちですよ⁉︎」
ハーパーは興奮さめやらない様子であった付き従っていた兵士もアメリカ人だったようでハーパーの意見に大きくうなずいていた、そのうち後ろの数人が両腕を天に伸ばし叫び出す
「U・S・A‼︎U・S・A‼︎U・S・A‼︎」
残りのメンバーもそれに従う 思わぬUSAコールに思わず涙目になるハワード そして一人一人に握手を求める
「ありがとう、ありがとう 」
横でうなずくハワード 、一人の兵士がハワードに訊ねる
「隊長との会話を聞いた限りでは大賢者様もアメリカ人なのですか?」
ニヤリと笑ってうなずきながら
「NASAに勤めていました」
その答えるに益々盛り上がるアメリカ勢 再びUSAコールが鳴り響いた
ハワードの演説からひと段落して主要メンバーのみで作戦会議にはいった ジゼル城とその周りの地形も含んだ立体映像を見てどうするか決めるのである
「おそらくキシェロ軍は北側の正面正門を攻めて来ると思う、だとするとグランシア軍は反対側である南門からの攻撃だろう、それについて意見はあるか?」
ハウゼンが、答える
「おそらくその通りになるでしょう、それに対するこちらの策なのですが基本は籠城で北側と南側の二正面作戦となります、キシェロ軍との対峙はハーパー中心でグランシア軍には私が中心で対峙しましょうか、ハラル軍の数と部隊編成はどうなっていますか?」
ハーパーが答える
「ハラル軍は全体で25300人、歩兵が20000人、騎馬隊2000人、弓隊1500人、魔法使い50人、重武装槍隊が1500人、特殊工作隊250人というところだ」
ハーパーが続けて
「偵察隊からの報告だとキシェロ軍は約10000人、部隊編成まではわからないが攻城兵器が20基あったそうだ、そしてグランシア軍だが数は約120000人、攻城兵器50基を確認、あと大型の檻付き荷車が20台あったそうだ、おそらく攻城用のモンスターだろうトレーナーの存在も確認されている」
ハウゼンが立体映像を見て考えている、ハーパーが
「なぁハウゼン、どうみても主力は南側のグランシア軍だそっちを助っ人のお前に任すのは気が引ける、北側と代わるか?」
ハウゼンが首を振る
「キシェロ軍はおそらくオーデラン国王を人質に取って交渉してくるでしょう、その際私では対応できません、それにそうなった場合あなたの弓の腕が必要になって来るかもしれません」
「わかったすまないハウゼン恩にきる、では部隊編成だがどう分ける?」
「南側に騎馬隊と重武装槍隊を回してもらえないでしょうか?」
「それは構わないが…籠城戦では比較的必要のない部隊だぞ⁉︎」
「私に少々考えがあります、あと弓隊は1000人、歩兵は半分の10000人、特殊工作隊は100人こちらに回してください魔法使いは私がいれば必要はありませんすべてそちらに」
ハーパーが不安げに問いかける
「おいおいそれで大丈夫なのか?敵兵の数を考えたらもっとそっちに回したほうがいいんじゃないのか?」
ハウゼンは不敵な笑みを浮かべ
「心配なさらずとも大丈夫ですよ、あと移動用の馬をなるべく多く用意してください、どのくらい用意できますか?」
ハーパーは不思議そうに話しかける
「籠城戦で馬なんてなにに使うんだ?まぁ騎馬隊の馬をのぞけば4000頭ってとこか」
「十分です」
ハウゼンは目を閉じうなずいた、ハーパーはハウゼンに向かって頭を下げる
「本当にありがとうハウゼン、この借りは必ず返すよ」
それを聞いたハウゼンはため息をついて
「あなたは昔も同じセリフをいってましたよね、大学の女子更衣室の時も浮気の偽装工作の時も…私は浮気の偽装工作は今でもキャシーに悪いと思っているんですよ」
ハーパーが、慌てて
「馬鹿、お前今その話は⁉︎」
「悪いなんて思う必要はないわよリチャード」
後ろから女性の声がして鎧を着た女戦士がハウゼンの前に現れた
「あなたはキャシー⁉︎どうしてここに?」
「久しぶりねリチャード」
ハーパーがバツの悪そうな顔で
「実は俺達大学を出た後結婚したんだ、キャシーもアーチェリーをやってただろ⁉︎その流れでここにも一緒に来たんだ」
テレながら説明する、それを聞いて優しく微笑むハウゼン、となりのキャシーも笑っていたが不意に鋭い肘鉄をハーパーに食らわす
「グエッ⁉︎お前いきなりなにを」
「浮気の偽装工作ってなにかしら?」
「昔の話だよ昔の…今そんなこと言ってる場合じゃないだろ⁉︎」
「わかったわ、戦いが終わったら話をつけましょうか⁉︎」
キャシーはニコリと笑った
キシェロ軍の中には今回の首謀者コリナール第一王子がいた、ド派手な装飾の飾り付けをした馬にまたがっていて少しイラついていた
「おいザッハ⁉︎ジゼル城にはまだ着かないのか?もう尻が痛いぞ」
軍務を取り仕切るザッハ将軍がため息をつきながら答える
「王子、我がギエル城を出てまだ三時間ちょいですぞ⁉︎早馬ならいざしらず進軍となると6時間はかかります」
ザッハは心中複雑だった、キシェロ公国の国王ソコナレフIII世は部下にも国民にも良い王であったが歳をとってからできた息子なので王子に甘くワガママを許し放題だったのだ、ソコナレフが病気で倒れてからコリナールの補佐として働いているがコリナールはザッハの忠告や助言を一切聞かないのである
『さて今回もどうしたものか…』
ザッハは今回の遠征も反対だった、そもそもハラル共和国との同盟破棄もグランシア王国との同盟も反対した、オーデラン国王の拘束など大反対したのだが一切聞かないのである、しかもコリナールは国王を拘束して人質にするという作戦を自分が考えた素晴らしい戦略だと思っている ザッハは武人として国軍を預かる者として恥にすら思ったが ソコナレフから
「ザッハ、コリナールを頼む アレは少しワガママだが根はいい子なんじゃ、頼むぞザッハ…」
と頼まれていた ザッハはいつかコリナールが立派な王になってくれると信じて補佐することを決意した
進軍する中、コリナールは馬上で考えていた
『全くザッハはいつもいつも僕の反対をしやがって』
コリナールは焦っていた、国王に溺愛され次期国王を約束されて育てられていたが自分に4つ下の弟ができたのだこの弟がとにかく優秀で評判が良くこちらを次期国王にという声も少なくない コリナールは陰で"馬鹿王子”と呼ばれていることも知っていた 弟のルクレールとは母も同じなので完全な兄弟なのだが母すらルクレールを推しているフシがあるのだ
『見てろよ僕を馬鹿にした奴らに目にもの見せてやる‼︎次期国王が誰なのか思い知らせてやる』
グランシア軍の指揮官はゲベル将軍という人物である、前任の将軍は敗戦続きの責任を取り更迭となった、ゲベル将軍にとって初めての総指揮を任された戦いが今回なのである、ゲベルは考えていた
『ハラル共和国ごとき普通に攻めても落とせるだろうが、今までの将軍達はそれで油断したのだろう、しかし私は違うぞ⁉︎同盟国であるキシェロ公国に裏切らせそのうえ国王を人質に取らせるこれでハラル軍の動揺は広がり士気も下がるそして北側と南側から挟撃する 念のため攻城用のモンスターまでかなりの数を連れてきているからな⁉︎ これでハラルは終わりだ⁉︎その勢いでキシェロ公国も攻め滅ぼす、完璧だ‼︎この戦果を持ち帰り地位と財産を築き もう一人愛人でも囲うかな⁉︎ふふふ』
ゲベルがゲスな考えで悦に入ってたとき伝令の兵士が近づいて来た
「ゲベル将軍キシェロ軍の到着が予定より一時間程遅れるそうです」
ゲベルは”チッ”と舌打ちをして伝令の兵を下がらせた
『あの馬鹿王子、時間すらまともに守れないのか⁉︎両軍が同時に到着する効果はなくなったがまぁしょうがない、与えられた状況をいかに臨機応変に対応するかも名将の証だからな』
ゲベルはまたゲスな笑いを浮かべた
「いよいよおいでなすったか⁉︎」
南側から続々と現れるグランシア軍、キシェロ軍がまだ来ていない為北門側に軍だけ配備したハーパーが南門の上から見ていた 横にいるハウゼンが話しかける
「この数だけ見るとさすがは大国グランシアと言わざるを得ませんねぇ」
そしてグランシア軍が揃ったところで一人の男が馬に乗って前に出て来た
「ハラル共和国の諸君、私はグランシア王国侵攻軍総指揮官のカッペリーニ・ゲベルと申す‼︎諸君らに勧告する直ちに降伏せよ、降伏に応じるなら命は保証する‼︎返事は一時間後に聞く 賢明な判断を期待する以上‼︎」
ゲベルは降伏勧告だけして下がって行った、ハーパーが尋ねる
「今更降伏勧告とかどういうつもりだ?」
ハウゼンが答える
「単なる時間稼ぎでしょう、キシェロ軍がくるのを待ってますね」
「なら今のうちにこちらから仕掛けるか?」
「いえやめておきましょう、逆に一時間休憩を取らせましょう、向こうが一時間後にしか攻めないと言ってるんだから、それより貴方の準備は大丈夫ですか?」
ハーパーはニヤリと笑って
「チェンジ装備S‼︎」
ハーパーの装備した弓は銀の本体に金の装飾、赤、青、緑の宝石がちりばめられた見事な弓だった
「おぉ〜それがハラル共和国の至宝と言われた”アルテミスボウ”ですか⁉︎」
「あぁオーデラン国王からもらった俺の宝だ‼︎ただな…チェンジ装備SS‼︎」
次に現れた弓は先程の弓より一回り大きく全体がまばゆいばかりの光を放つ金色で所々にダイヤモンドのような宝石がちりばめられている、それを見たハウゼンが
「これは、一体…」
ハーパーが答える
「これはSS級の武器”サジタリウスアロー”だ俺の持っている武器では最強…というよりこの世界で存在する弓の中で最強のはずだ…」
「だけどな俺はアルテミスボウを使う…ほとんどの性能でサジタリウスアローか上だがな、常識で考えればサジタリウスアローを使った方がいいに決まってるんだが俺はオーデラン国王にもらったこっちを使いたい…この選択はやはり間違っているんだろうな」
ハーパーの言葉にハウゼンが答える
「そんなことはありません、自分が心から信頼できる武器を使うのが一番ですよ、ましてや今回はオーデラン国王の命もかかっているんです」
ハウゼンの言葉に救われたようなハーパーだった
「俺はよこの世界には単なる遊びに来たんだアーチェリーが伸び悩んでて気分転換のつもりでな、ゲームの中の競技会やモンスター退治で遊んでたら あるオッさんがスカウトに来てなウチの国で働いてくれと、そんなめんどくさいこと嫌だと何度も断ったんだがしつこくてな、しょうがないからオーケーしたそれがまさか国王だったとはな、あんときはビックリしたぜ、それでいきなりこれをくれたんだよ…いや来たばっかの人間にハラル共和国の至宝なんかもらえないと断ったんだがオーデラン国王は『武器というのは飾ってあっても意味がないしかるべき人間がつけてこその武器なんだ、君が今からハラル共和国の至宝になるんだよ』ってな、なんか嬉しくてな…それからだよ俺のアーチェリーの成績がグングン伸びたのは、だからオリンピックで銀メダルを取れたのはコイツのおかげなんだよ だからどうしても今回はコイツと戦いたいんだよ」
しみじみ語るハーパーに何度もうなずくハウゼンだった
北側にキシェロ軍が集まり始め、約束の一時間が立ちゲベルが前に出て来た
「ハラル共和国の諸君返答やいかに⁉︎」
ハーパーが返答する
「我々は戦う正義の為に‼︎」
ハラル軍の兵士から歓声があがる
「よかろう、愚かな選択だったと後悔するがいい‼︎」
ゲベルが踵を返し本隊に戻る、その際少し違和感を感じ
『なんだあの士気の高さは⁉︎どこに計算違いがあった?』
ゲベルの計算違いはハワードの存在を知らなかったことだ、この後もっと酷い計算違いがあるのだが…
南側で戦いが始まる、序盤は正攻法で攻めるグランシア軍、とりあえず状況を見守るハウゼン ハラル共和国のジゼル城は城壁も高く非常に守備力の高い城である
『このジゼル城は普通に攻めてくる分にはよほどのことがない限り落ちません、必ず何か仕掛けてくるはず その時が勝負ですね』
グランシア軍の右翼に魔法使いらしき集団が現れる、歩兵が盾を構え魔法使い達を守る 魔法使いが呪文詠唱に入りはじめた、それを見たハウゼンがつぶやく
「ディスペル」
グランシア軍の魔法使いの呪文が途中で弾ける 、なにが起こっているのかわからないという素振りで困惑してるが、気を取り直し再び呪文詠唱に入る
「ディスペル」
「ディスペル」
ハウゼンが敵の呪文を全て潰していく、戦況を見ていたゲベルがイラつきながら参謀に聞く
「魔法使い部隊は何をやっているのだ?」
首を傾げる参謀、ゲベルの元に伝令が入る
「申し上げます、魔法使い部隊ですが何者かによって妨害され呪文の詠唱ができないとのことです」
ゲベルはけげんな顔で伝令を睨む
「はぁ⁉︎なんだそれは?参謀そんなことがあるのか?」
グランシア軍の参謀はオルベルトという学者である、優秀で非常に広い知識をもっているグランシアが他国から高給待遇で引き抜いた人物である
「はいゲベル将軍、非常に考えにくいのですが魔法使い同士で圧倒的なレベル差があるとそういう現象が起こると聞いています」
「我がグランシアの魔法使いがそんなレベルが低いなんてことなど有り得ないだろ⁉︎」
「はい将軍、ですから非常に考えにくいのですがと申しましたが我が軍の魔法使いのレベルを考えますと相手に”三賢者”クラスがいることになります」
ゲベルが激怒した
「そんな馬鹿なことがあるか‼︎お前は本当にグランシアの参謀か⁉︎」
「しかしゲベル将軍、可能性はゼロではありませんハラル共和国はスタネール共和国と同盟を組んでいますから」
「スタネールの大賢者か⁉︎しかしそんな都合のいいことがあるのか?」
「わかりません、しかし将軍向こうにスタネールの大賢者がいると想定した方がもしもの時大怪我はないかもしれません」
「なるほど貴公の言う事には一理あるな、わかった魔法使い部隊への指示は撤回する、攻城兵器を前に出せ‼︎」
ゲベルの指示で巨大な投石機が次々と部隊の前面に運ばれてくる
「投石の準備にかかれ!!」
巨大な石がセットされ縄が引き絞られる、その光景を見ているハウゼンがボソリとつぶやく
「ウォールオブエアー」
「放て!!」
ゲベル号令で一斉に投石機から巨大な石が放たれる、放物線を描きジゼル城に向かう巨大な石、しかしジゼル城に着弾する瞬間なにか見えない壁に阻まれたように空中で止まりボトリと真下に落ちた 次々と放物線を描き飛来する巨大な石が全てジゼル城手前で落ちていった、その光景を信じられないといった表情で見ていたゲベル
「なっ!?なんだあれは??いったいなにがおこっているのだ??」
「ゲベル将軍あれは空気の壁です特殊魔法の一種です、しかしあれ程の質量の投石を防げる魔法の使い手となると…まさかとは思っていましたがこれは敵側にいますね”スタネールの大賢者”が」
オルベルトがゲベルに伝える、困惑するゲベル
「参謀⁉︎ならばいったいどうすればいい?魔法もダメ投石もダメでは手の打ちようがないぞ!?」
少し考え込み進言を始める
「このジゼル城は正攻法で落とすことは困難です、ましてや相手に三賢者の一人がいるのではなおさらです、ならば将軍連れてきたモンスターを使いましょう」
オルベルトの進言に問いかけるゲベル
「モンスターを使うのはいいがまた魔法で防がれてしまうのではないか?大丈夫なのか?」
ゲベルの質問にニヤリとして答えるオルベルト
「それは大丈夫です将軍あのモンスターはディアブロコングといって元々魔法に対する耐性を持っているんですなぜだか原理はわかりませんがね」
「そうか!?しかしそのモンスターには弱点みたいなものはないのか?」
ゲベルの問いかけに冷静に答えるオルベルト
「ございますディアブロコングは熱に弱いんです、元々寒冷地に生息しているモンスターなので」
「ならばダメではないか!?また火炎魔法などで撃退されてしまうのではないのか?」
ニヤリと笑うオルベルト
「大丈夫です先ほども言いましたがディアブロコングには魔法耐性があるのです、ですから魔法の類は一切効きませんそれにトレーナーの訓練により火を恐れないように仕込んであります、しかも好都合なのはこのモンスターを知っているのは我々だけということです」
オルベルトの発言に不思議に思い問いかけるゲベル
「我々しかしらないとはどういうことなのだ?」
「ディアブロコングは最近発見されたモンスターで我がグランシア王国しか知りません今回が初めての実戦投入ですから他国には未知のモンスターです、いくら三賢者といえど知らない物には対応できません、今回の作戦に最適なモンスターではないかと」
ゲベルの表情が一気に明るくなっていく
「おぉ〜おおぉ〜いいではないか、それだ早速トレーナーを呼べモンスターを放つのだ‼︎」
巨大な檻を乗せた荷車が次々と前面に運ばれてくる檻の扉が開けられ中から巨大なモンスターが出て来た、それは全身白い体毛に包まれた巨大なゴリラで頭に赤いトサカがある それを見たハウゼンは珍しく動揺した
「なんですかあれは?私も見たことのないモンスターです」
その発言に周りの兵士も動揺するすかさずハウゼンが指示を出す
「鳴沢博士を呼んできてください大至急」
鳴沢は 1分も経たずに到着した
「どうしたハウゼン君なにがあった」
「鳴沢博士あのモンスターはなんですか?」
鳴沢が下の様子を見て少し驚く
「あれはディアブロコング⁉︎」
「ディアブロコング?聞いたことのないモンスターですが…」
「あれは前回のアップデートの時に新しく追加したモンスターなのじゃ」
「そうですか博士ディアブロコングのデータを教えてもらえますか?」
鳴沢はゆっくりうなずく
「ディアブロコングは攻撃力2,100守備力2,000でパワーと俊敏性に優れているこのぐらいの城壁なら多分登ってこれるだろう特殊攻撃としてブリザードブレスと言う冷却型の息を吐く弱点は熱に弱いことだ」
ハウゼンがうなずき
「ならば私の爆炎魔法で…」
慌てて鳴沢が制止する
「いやすまん言い忘れておったがディアブロコングには魔法耐性がある魔法の類は一切効果がない」
鳴沢の話に顔をしかめるハウゼン
「それは困りましたねぇ一体どうしましょうか」
鳴沢は笑みを浮かべて
「なぁに簡単じゃよ城壁を上ってきたら熱湯でもかけてやればいいのじゃ、ちなみにディアブロコングは非常に知能が低い、トレーナーを倒すことができたなら暴れだして敵軍の足かせになるはずじゃ」
うなずくハウゼン、早速指示を出す
「大至急水の用意をなるべく大量に、あと特殊工作部隊を呼んでください、それと用意して欲しい物があります」
ハウゼンの元に大量の水が運ばれてくる、ハウゼンが手をかざしつぶやく
「ヒート」
大量の水が一瞬の内にグラグラと沸騰し始めた
「あのモンスターが城壁を上ってきたらこの熱湯をかけてください、特殊工作部隊はそろっていますか?」
100人の兵がハウゼンの前に揃っていた
「あなた達にはやって欲しいことがあります、その前に聞きたいのですがこの城壁をロープで降りるとしたらどのくらいの時間が必要ですか?」
特殊工作部隊の隊長ビリーが答える
「降りる人数にもよりますが20秒もあれば」
ハウゼンがうなずく
「あなた達にやっていただきたいのは暗殺です」
ビリーの顔が険しくなる、ハウゼンが話を続ける
「私が魔法で1分間だけ暗闇を作りますその間にあなた達には暗殺をおこなっていただきたいのです」
ビリーが言葉を返す
「申し訳ありませんが1分で敵軍の指揮官までたどり着き暗殺するというのは無理かと思われますが」
ハウゼンが目の前で手を振り訂正する
「いえいえ、暗殺して欲しい人は指揮官ではありません、あの人達です」
ハウゼンが下を指差す、そこにはディアブロコングをなだめながら指示を出している数人のトレーナーの姿が見えた
「あのトレーナー達を暗殺して欲しいのです、モンスターをコントロールするためにある程度前に出て来ると思いますのでそこまで難しくはないかと思いますがどうでしょうか?」
「それであれば大丈夫です見事やり遂げてみせましょう、ただ暗殺後われわれは敵陣に取り残されることになります、私自身はハラル共和国の為死ぬのは構いませんができれば部下を巻き込みたくないのですが」
ハウゼンは微笑みを浮かべながら
「あなたたちにはこれを着てもらいます」
後ろから他の兵が持ってきた物はグランシア軍の鎧であった
「あなたたちにはこれを着てもらい暗闇の中城壁を降りて敵軍のトレーナーに近づき暗殺、その後少しの間グランシア兵になりすましてもらいますトレーナーを失ったモンスターはすぐ暴れだすと思いますのでその騒ぎの隙に東の森に撤収してください」
ビリーはホッとした様子で
「わかりました必ずや任務を果たしてみせます、で我々は東の森に撤収後どうすればよろしいのでしょうか?」
ハウゼンはまたニヤリと笑いビリーを呼び寄せ耳元で作戦を伝える ハウゼンの話を聞いたビリーは目を大きく開き思わずにやける
「それは面白い是非我々にやらせてください」
「これは貴方たちにしかできないと思っていますよ」
。
今回は思いのほか長くなってしまい上下編に分けました、当初全く頭になかった話なので書きながら考えるという自分ではハードルの高い事をやってみました、いかがでしたでしょうかご感想いただけるとうれしいです。