双頭の龍 龍戦士VS龍戦士編
登場人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年
メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主
東条みゆき…拓斗の幼馴染で剣道の達人、見た目は和風美人だが中身はじゃじゃ馬、戦闘により死亡したがレオの力でゾンビとして行動している、しかしマスターであるレオにも遠慮なしの態度で接している
ステファン・レオ…闇の龍戦士のダークドラグナイト、闇の者には絶対的な支配力を発揮し夜の闇でこそ一番力が発揮できる、しかしなぜかみゆきには頭が上がらない
ビヒテバルト・アインゼル…ウォータードラグナイトの龍戦士、黒髪の短髪で背が高く鋭い目つきが特徴、基本短気で駆け引きなどが嫌いな性格
イゴール・シェルチェンコ…雷の龍戦士、ライトニングドラグナイトで肩まで伸びた金髪が特徴、普段は優しげな表情だが中身はかなりサディスティックな性格
ここケネルカン山脈はグランシア王国の北部にそびえる広大な山脈である、ここは標高も高く獣道のような道しか無い為大軍がこの山を越えて進軍してくることはまず不可能であると共に凶悪なモンスターも数多く生息しているという事もありグランシア王国の居城メルマンティア城がある首都グレンダートを守る為の天然の要害となっている、このケネルカン山脈がある為にグランシアは心置きなく他国に侵略できていると言っても過言ではない、しかもこの山からは膨大な金が採取できるのでそれが国の主力財源となっているのだ、ここ近年大敗続きのグランシア王国の国内経済が傾かないのもここから出る潤沢な金のおかげである、文字通りグランシア王国の生命線ともいえる山脈なのだ、猛吹雪の吹き荒れるこのケネルカン山脈の山頂付近で二つの人影が見えた
「ちょっとレオ‼なんでまたこんな寒い所に来たのよ!?アンタどんだけドMなのよ全く・・・」
みゆきが例によってブツブツ文句を言いながら雪をかき分け歩みを進めている、2人は獣道を進みながら膝まである雪の抵抗に悩まされながらも山頂を目指していた
「何言ってるんだ、このケネルカンの山頂に向かうにはこの時期しかないんだよ!?もっと寒い時期になると歩く事も出来なくなるんだからな、文句言ってないで歩け‼」
レオが珍しく強い口調で反論する、そんな事を言いながらもレオ自身このケネルカン山脈への登頂にイラついている様子だ、そんなレオの態度は余計にみゆきの感情に火をつける
「何ってるのよ!?そもそもこんな所に来なきゃいいだけじゃない‼この前もそうだったけどなんでこんな寒い所にワザワザくる必要があるのよ、馬鹿じゃないのあなたは!?」
レオはイラつく気持ちをグッと抑えた
『この前のあの態度は何だったんだよ!?全く女って奴は・・・てゆうかこの女だけが特別なのか!?』
レオの脳裏には先日みゆきが泣きながら謝って来た姿を思いだしていた、振り返り今のみゆきを見直すと口をとがらせてブツブツ文句を言いながら歩いている、そんなみゆきの姿に思わずため息が出る
「全く同じ人間とは思えないぜ・・・」
「えっ!?何か言った?」
「何でもねーよ、大体この前捕獲したスノードラゴンのゾンビに乗ってくればこんなに苦労しなくて済んだんだぞ!?それをお前が・・・」
そのレオの言葉にさらにキツイ目線を送るみゆき
「あんな死骸の上に乗るなんて絶対に嫌よ‼冗談じゃないわ」
そう言い放つとプイっと横を向いてこれ以上の議論は無駄と言わんばかりの態度を見せた、もう諦めたような態度でレオが説明を始める
「最近ここで発見されたモンスターで魔法耐性がある面白い奴がいるみたいなんでな、そいつを手駒にしたいんだよ、山頂付近にいるらしいからそろそろ見つかっても・・・おっ!?いたいたアレだな」
レオが指さした先には白い巨体が数体群れをなしている姿があった、吹雪の中での白い体は良く見ないと見逃してしまうほどだが、そのゴリラに似た巨体は真っ白な体毛に覆われていて頭頂部には真っ赤なトサカがありそれぞれの大きさは大体2m~4mほどである、トサカが大きいのがオス、小さいのがメスだろうと思われた、メスの周りで数頭の子供がじゃれ合っているのがわかる、そんな群れの中でも一頭だけ5mを越えるような巨大な体と他とは明らかに違う立派なトサカを備えたモンスターが中心に腰かけていた
「あいつがボスだな・・・さてどうしたものかな・・・」
レオが薄ら笑いを浮かべながらペロリと舌を出す
「ねえレオ、あれは何なの?」
群れている白いゴリラ達を嬉しそうに見つめるレオに向かって思わず問いかけるみゆき
「あれはディアブロコングと言って最近発見されたモンスターだ、アイツらは知能は低いが魔法が効かないらしい、手駒に加えておけば何かと便利だと思ってな」
みゆきの質問に対しディアブロコングの群れから目線を逸らさずに答えるレオ、その時ボスらしきディアブロコングがレオ達の存在に気が付く、するとジッとレオを見つめて唸り声を上げた、そんなボスの態度に他のオス達もようやくレオとみゆきに気が付き次々と唸り声を上げ始める、そんな時血気にはやった若いオスが一頭でレオとみゆきに向かって来た、ゴリラとは思えないほどのスピードで雪上をぐんぐん迫って来る若いディアブロコングはあっという間に距離をつめレオの直前で雄叫びを上げながらジャンプして飛び掛かって来たのだ
「ギャオワ~~‼」
振り上げた右手をレオの顔面に叩きつけたか!?と思った瞬間若いオスの動きがピタリと止まる、次の瞬間若いオスの体がドサリと崩れ落ち地面にうつぶせになった、しかし顔だけは元の位置に留まっていたのだ、それはレオが若いオスの首を一瞬の内に斬り落としトサカの部分を掴んでいた為、首から上が無くなった死体の体の部分だけ地面に崩れ落ちたのだ、足元にはディアブロコングの首なし死体からドクドクと血が流れ出ていた、レオはその若いオスの首の向きを180°回し表情が見えるように群れに向かって見せつけ、そしてニヤリと笑った、あまりの所業に群れのオスたちは後ずさりするいくら知能は低いとはいえ野生の動物である、危険を感じる能力はそなえているのだ、群れの中では子供たちを庇うようにメスのディアブロコングが抱きかかえ守ろうとしている、数等のオスたちもレオに怯えながらも戦闘態勢を崩さない、そんな時ボスであろう巨大なディアブロコングが咆哮にも似た雄叫びを上げる
「ゴオオォァアアワワ~~~‼」
ケネルカン山脈全体に響き渡るかのような絶叫に吹雪に揺らされ続けている木々もさらに大きく震えた様な錯覚を受けた、そんなボスの敵意に思わず怯むみゆき、そのボスであるディアブロコングは両手の拳で激しく自分の胸を叩くいわゆる”ドラミング”をしてレオとみゆきを威嚇する、そんな姿を見て嬉しそうにニヤけるレオ
「そうだ、全力でかかって来いお前の全力を見せてみろ‼」
そのレオの態度を感じたのかどうかはわからないが、明らかに怒りの態度でレオに向かって襲い掛かって来るボスのディアブロコング、そしてその巨体に似合わない素早い動きでグングン接近して来た、本来歩くのも困難なはずの雪上だがまるでソリで滑っているかと思える程のスピードであっという間に間合いを詰めるとレオの目の前で両足で立ち上がり右手を振り上げた、その巨体が目の前にいるとまるで巨大な壁が出現したような錯覚すら覚える、ボスは5mを超す巨体からその振り上げた拳をレオに向かって打ち下ろす、それは頭上から鉄球が落ちて来るかのような衝撃だがいつの間にか闇の龍装備を付けていたレオはそれを微動だにせず受け続ける、ボスの容赦ない攻撃が次々とレオに襲い掛かる、両拳が交互に振り下ろされるがそれはレオにダメージを与えるどころか下がらせる事すらできないでいた、ボスの顔に怒りと焦りの表情が浮かぶ、するとボスは両拳の攻撃をピタリと止め急に上半身を後ろに反らすと、レオに向かって反動をつけて口から息を吹きつけた、その息は今吹き荒れている吹雪の何倍もの威力のブリザードがレオを飲み込む、一瞬で氷像と化すレオ、ブリザードのブレスを吐き終わるとレオの姿を確認して小さな笑みを浮かべるボス、その瞬間レオを包み込んでいた氷が割れ中からレオが姿を現す、見るからにノーダメージのその姿に驚愕の表情を浮かべるボス、するとレオは何事も無かったかのように後ろのみゆきに声をかける
「おいみゆき、コイツにトドメをさしてやってくれ、俺がやると手駒にできない程破壊してしまう可能性があるからな・・・まさかまだビビってるんじゃないだろうな!?」
「ビビってなんかないわよ、やってあげるから感謝しなさいよ」
みゆきはいつもの剣道とは明らかに違う構えを見せた、相手に対し半身で構えつつ少し腰を落とすと左手と剣の刃先を相手に向けると一気に突進した、レオがヒラリと身をかわすと入れ替わる様にみゆきが現れボスの心臓を貫いた
「ウゴオォォォォ・・・・」
ボスは苦しむような断末魔をあげその場に倒れ込んだ、ボスの完敗に思わず後ずさりするディアブロコングの群れたち、レオが笑みを浮かべながら近づこうとしたときみゆきがレオの腕を掴んで制止する
「待ってよレオ、もう十分でしょ無暗に殺さないであげて・・・」
一瞬怒りの表情を見せたレオだがみゆきの目からは決して譲らない意思を感じた、それを察したレオは軽くため息をついて目を閉じると
「わかったよ、このボスが確保できれば十分だしな・・・他の奴等は見逃してやるとするか、おいさっさと起きろ‼」
レオがそう言い放つと今死んだはずのディアブロコングのボスが何事も無かったかのようにムクリと起き上ったのだ、少し離れた所で見ていたディアブロコングの仲間たちはその事に驚き一瞬喜んだが、そのまま群れの方を見ることも無くレオ達と一緒に立ち去ろうとするボスの姿に群れの皆は戸惑いおそらくは語りかけているであろうと思われる声をあげた
「オウォ~‼ウウォ~~‼」
一頭が声をあげるとそれに呼応して次々と群れの仲間たちがボスに向かって訴えかけるような声をあげ始めた、代わる代わる悲痛ともいえるその群れからの呼びかけに当のボスは全くの無反応を貫く、そんな光景に申し訳なさげな表情で群れの方を振りかえるみゆき
「レオ・・・彼らに何とか言ってあげられないのかな?」
レオは頭をかきながら面倒臭そうに
「しゃあねえな・・・おい、奴らに何か言ってやれ」
レオは顎でクイッと群れの方向を示しそう命じるとボスはようやく群れの方にゆっくり向き返る、そして咆哮にも似た大きな声で叫んだ
「ゴオウァ~~~‼」
そのボスの声に群れの仲間たちピタリと静かになり語りかけるのを止めた、ボスはもう二度と振り向くことも無くレオと共に立ち去って行った、完全に沈黙した群れの中で一頭の赤子のディアブロコングだけがボスに向かって泣きながら背中に呼びかけていた、みゆきはバツが悪そうにレオに話しかける
「何か後味悪いわね・・・今までモンスター狩りでそんな事考えた事も無かったけど・・・」
話しかけられたレオは目線と表情を変えることも無く淡々とした口調で
「そりゃあそうだ、コッチはコッチの都合で群れのボスを引き抜いたんだからな、あいつらにしてみりゃあ青天の霹靂だろうよ、でも強い者が弱い者を蹂躙する、それが自然の摂理ってもんだ、あいつらだって自分より弱いモンスターを殺したり食ったりすることもあるんだからな、ゴリラは肉食じゃなかったか!?」
みゆきは釈然としないながらもレオの言葉にうなづいた、そんな時レオが
「そう言えばもう昼を過ぎてから随分たったよな、大分遅れたが昼飯とするか!?」
レオがそう言った時、あれ程強い勢いで吹き荒れていた吹雪が急にピタリとやんだ
「あら!?吹雪がやんだわね、これで晴れになったりするのかしら!?」
しかしそんなみゆきの期待とは裏腹に晴れ間が出てきたという事もなく、むしろレオ達の辺りを徐々に霧が覆い始めどんどん白いモヤが広がっていったのだ、その状況は吹雪だったさっきよりも視界は悪くなったような感じさえ受けた
「ガゥゥゥゥゥ~~~‼」
急にディアブロコングのボスが前方へ向かってうなり声を上げ始めた、どうやら何かの気配を感じた様子だ、それとほぼ同時にレオも立ち止まり正面の方向の白い霧モヤを睨みつける、ボスとレオのそのただならぬその態度に不安がよぎるみゆき
「どうしたの?一体何があったの?」
レオはそのみゆきの質問に答えたのかそれとも独り言なのかわからないくらいの声のボリュームでつぶやいた
「誰かこっちに来やがる、コイツはヤバいかもしれないな・・・」
その発言にみゆきは少し驚いた、最強ギルド”グランドレッド”とグランシア軍10万人を相手にしても余裕の表情を見せていたレオが真剣な表情で警戒しているのだ、こんなレオは珍しい、というより初めて見せる態度であった、思わず戸惑うみゆき
「ねえ一体何が・・・」
みゆきがそう言いかけた時、霧の向こうから拍手をする音が聞こえた
「凄いねこの視界の中で僕らを認識できるなんて、しかもそんなゴリラにまで見つかるとは、さすがに寒冷地で生息しているディアブロコングのボスって所かな!?」
徐々に音と声が近づいてきた、拍手をしながら歩いて来る長髪で金髪の男と横にもう一人長身の男の二人組だ
「なによアンタ達!?私達に何か用なの?」
警戒心を強めながらみゆきがその二人に問いかける、しかし二人は答える事も無くニヤついているだけだけでみゆきの事は完全無視で目線をチラリと向けただけだった、そんな二人の態度にイラついたみゆきは
「何よ、こっちの質問に答えなさいよ‼」
「あ!?なんだこのアマ、ゴチャゴチャぬかしてるとぶち殺すぞ‼」
二人の内長身で黒髪の男の表情が急変しみゆきに怒りを向ける、そんな態度を見て横の金髪男が長身の男の肩に軽く手を乗せなだめながら諭す
「まあ落ち着けよアインゼル、いきなりそんな事言ったら相手も戸惑うだろ!?」
「でもよシェルチェンコ、俺は女に命令されるとか死ぬほど嫌いなんだわ、だからムカついちまって・・・」
その言葉にシェルチェンコはクスリと笑うと静かに語り始める
「女性に対してぶち殺すとか駄目だよアインゼル、それに簡単に殺しちゃったら勿体無いじゃないか・・・」
シェルチェンコは口元の笑みを変えることなく淡々とした口調で
レオとみゆきを前にしてまるで警戒していない余裕の態度で二人は談笑している
「アンタ達本当に最低ね・・・そんなんじゃ一生彼女なんてできないわよ」
警戒心を緩めずにみゆきが反論した、その瞬間アインゼルの表情に怒りが浮かぶと鋭い目線をみゆきに向けた、しかしすぐに思い直したのか相手するのが面倒とばかりにみゆきを無視してレオに話しかけてきた
「こんなクソアマどうでもいい、俺達はアンタに話があってここに来たんだ、俺は回りくどい言い方は嫌いだから単刀直入に言うが俺達の仲間になるか、それともここで死ぬか今すぐ選べ」
その圧倒的上から目線の発言と不遜な態度に思わず眉をひそめるレオ
「ここで死ぬか、だと!?お前ら俺が誰だかわかって言っているのか?」
その質問にクスリと笑って答えるシェルチェンコ
「もちろんさ”ダークドラグナイト”の龍戦士なんだろアンタ、だからワザワザこんな寒い所まで来たんだからね、さっさと答えないとそっちの彼女を本当に嬲り殺しちゃうよ!?」
発言の内容とは裏腹な表情で嬉しそうに話すシェルチェンコに寒気すら感じるみゆき
「アンタ達レオの正体を知ってて・・・本気でドラグナイトに勝てると思っているの?」
警戒心を強めながら二人に問いかけるみゆき、アインゼルとシェルチェンコは同時に目配せをして軽くうなづいた
「チェンジ装備ドラゴン‼」
二人は同時に叫ぶと光に包まれ金色と青色の龍装備へと変化した、シェルチェンコの金色の龍装備には鎧の所々で放電と思われる小さなスパークが起こっていて常にバチバチと音を立てていた、アインゼルの青い龍装備は鎧の周りに気流の様な白いモヤがまとわりついていて鎧全体を包み込んでいた、そんな二人の姿を見たみゆきはあまりの事に驚きを隠せない
「なっ!?ドラグナイト、しかも二人同時って・・・そんな事って!?」
みゆきとは対照的にレオはそれほど驚いた様子はなく厳しい表情を崩さないまま思わず舌打ちした
「チッ‼やっぱりか・・・」
「へえ~俺達の正体わかっていたんだ、どうしてわかったのか教えてくれるかい?」
シェルチェンコがレオに問いかける、あくまで余裕を崩さず嬉しそうな表情の中にも目だけは冷酷で残忍な光を隠さないシェルチェンコ
「お前らの正体が”ドラグナイト”じゃないかと思ったのは俺がお前らの接近に気が付かなかったからだ、本来ならば闇の龍戦士は人の気配には敏感だからな、それなのに全く気付かなかったという事はそっちの気配を消す能力が俺の察知能力よりも優れているという事だからな・・・そんな能力どう考えても同じ龍戦士じゃなきゃ不可能だ」
思わず”ヒュ~”と口笛を吹くシェルチェンコ
「へ~なるほどね、僕はその手の探索とか気配を消すとかの方面は苦手だからね、このアインゼルが僕を探し出してくれなければずっと身を隠したまま警戒して暮らしていたかもしれないんだから、本当に感謝するよアインゼル」
意味深な笑顔でアインゼルに礼を言うが当のアインゼルは苦笑いを浮かべている
「その礼は素直に受け取りたいところだが・・・お前は言っている事と表情と考えてることが全部違う事がままあるからな、どう受け止めるかは微妙だな」
「おやひどいねぇ、僕ほど素直な人間はいないと思うんだけどね」
「お前は自分の欲望には素直なんだろうけどな」
レオとみゆきを前にして軽口を言いながら談笑しているシェルチェンコとアインゼル、レオが少しイラつきながらも小声でみゆきに話しかける
「今のうちに逃げろ、お前が逃げる隙は俺が作ってやる」
ギョッとした表情でレオを見返すみゆき
「何言ってるのよ、あんた一人であの二人を相手にするつもり?私も戦うわよ‼」
レオはみゆきの言葉を無視するかのように話を続けた
「フロストドラゴンのゾンビで逃げろ、さすがに巨大カラスは魔力を消耗するから使えないからな・・・まさかこの期に及んでゾンビに乗るのは嫌とか言わないよな!?」
「嫌よ‼」
レオは怒りの表情でみゆきを睨む、するとみゆきはさらに怒りの表情で睨み返していた
「そもそもアンタが死んだら私だって死ぬんだから逃げたってしょうがないでしょ‼私だって一緒に戦って・・・」
そんな言葉に静かな口調で冷徹とも思える返事を返すレオ
「相手はドラグナイトだ、お前がいても足手まといになるだけだ」
その言葉に唇をかみしめ悔しそうな表情を浮かべるみゆき、だが実際ドラグナイト相手に自分がどうにかできるとは思えなかっただけに反論できないでいた
「おいおい俺達が話しているうちにどんな内緒話してるのかな?」
アインゼルがニヤつきながら語りかける、もうすでに勝ったかのような表情で薄ら笑いを浮かべていて明らかに見下されているその態度に腹を立てるみゆき
「うるさいわね、あんたらみたいな暴力サディストが偉そうに‼」
「あ!?なんて言ったこのアマ‼」
アインゼルから先ほどの余裕が消え怒りの表情が見えると今にも殴りかかってきそうな勢いで一歩前に出た、その時再びアインゼルの肩に手を乗せ軽く制止するシェルチェンコ
「アインゼル、ここは僕に任せてくれないか!?」
「何言ってやがる!?あのクソアマは俺がこの手で・・・」
アインゼルが振り向きシェルチェンコに反論しようとした時、シェルチェンコはとても嬉しそうで残忍な笑みを浮かべていたのだ、その顔を見た時アインゼルは先ほどまでの怒りが消し飛んでしまう程背筋が寒くなった
「しょ、しょうがねーな、これで貸し1つだからなシェルチェンコ」
「あぁ、ありがとうアインゼル・・・気の強い女をいたぶり殺すのは最高なんだよ、死なない程度に体中に電気を流し続けてやると最後は白目を向きながら泣いて謝ってくるからね・・・どんなに芯の強い女でも涙と鼻水、涎を垂れ流しながらこの俺にすがってくる・・・その瞬間がたまらないんだ」
シェルチェンコは満面の笑みを浮かべ本当に嬉しそうに舌なめずりをしている、その態度にさすがのレオとみゆきも同じ感想を持った様子で
「ケッ、どうしようもないクズ野郎だな反吐が出るぜ!?」
「本当ね、アンタが聖人君子に見えるくらいのクズ野郎だわ」
その言葉に反応したのかシェルチェンコは急に両手を広げると両手の掌からバチバチと音を立てて放電が始まった、警戒して構えるレオとみゆき
「お前はそのクズ野郎に泣いて謝るんだ、どんなに気の強い女でも最後には・・・楽しみだなぁ~」
さらにサディスティックな表情を浮かべ楽しくてしょうがないとばかりに喜ぶシェルチェンコ
「さあいっちまいな‼どこまで頑張れるか見てあげるからさ~‼」
シェルチェンコの両手から放たれた放電は周りの霧を伝わってレオとみゆきに襲い掛かる、レオはドラグナイトの盾で防ぎみゆきは両肩に浮遊する円盤状のアーマーから防御シールドが発生しみゆきを放電から守っていた、バチバチと何度も電気が弾ける音が鳴り響きそのたびに爆発の様なスパークが起こる、レオとみゆきの姿がスパークの光で見えなくなるほど辺りがまぶしく輝く程の放電であった、放電は10秒ほど続いて収束し始める、レオは縦で防いでいたので全くのノーダメージだがみゆきのアーマーは煙を出しながらブスブスと音を立てて焼け焦げる寸前までになっていた、右肩のアーマーはすでに地上に落下してしまっていて左のアーマーもかろうじて浮遊しているだけ、という状態であり次の攻撃にはとても耐えられない事は明白だ、地面には黒こげになったディアブロコングのボスの死体が転がっていた
「そ、そんな・・・このアーマーは特に雷撃系には強いはずなのに・・・」
焼け落ちた右のアーマーを見て茫然とするみゆき、その瞬間レオがみゆきの手を掴み自分に引き寄せると右手の掌を相手に向け叫ぶ
「ダークネスブラインド‼」
レオがそう叫ぶと突如として闇が発生した、四人のいる辺りが真っ暗に変わり何も見えなくなる、そんな暗闇の中アインゼルの声が響いた
「なんじゃこりゃあ!?真っ暗闇だと俺でも相手の気配がわからないぞ!?おいどうなっているシェルチェンコ!?」
「慌てるなアインゼル‼これはただの目くらましだ、こちらが気配を読めないという事は向こうもこちらの気配を読めないはずだ、こんなものはすぐに晴れるはずだし晴れなければ強制的に排除すれば問題ない、だが排除に魔力を消耗するのも馬鹿馬鹿しいからね、とにかく短気を起こすなよわかったな!?」
「お、おうわかった、しばらく警戒しながらじっとしてるぜ」
アインゼルは思いのほかシェルチェンコの指示に素直に従った、しかし本当にイラついていたのは寧ろシェルチェンコの方なのである、自分の楽しみを途中で邪魔された気持ちではらわたが煮えくり返っていたのである
『人の楽しみを邪魔しやがって・・・食事を途中で邪魔された気分だ全く』
その頃レオとみゆきは暗闇の中でじっとしていた、レオがみゆきを抱き寄せて耳元で話しかける
「ちょちょっとレオ!?こんな時にアンタ何考えてるのよ!?」
「このバカ女、変に発情してるんじゃねーよ、あいつらの言った様にこれは単なる目くらましだ、いずれ解ける、だからこの隙にお前は逃げろ、その為の援護はしてやる・・・わかったな‼」
「嫌よ、さっきも言ったでしょアンタが死んだら私も死ぬんだから逃げたって一緒だって、だったら私も戦うわよ」
再び真顔で反論するみゆき、元々負けん気の強いみゆきはここは絶対折れないつもりでいたのだ
「さっきの見ただろ!?ドラグナイト相手にお前に何ができる、しかもさっきのは単なる小手調べに過ぎない、お前を簡単に殺さないように手加減したに過ぎないんだからな」
「あれが単なる小手調べ・・・」
みゆきの表情から血の気が引いた、確かに今の自分がいても単なる足手まといにしかならないのはわかりきっていた、その事実を受け止めざるを得ない事に悔しさで震えるみゆき、そんな時レオがささやく
「お前は一旦逃げろ、そして拓斗を連れて来い」
ギョッとした表情でレオの顔を見返すみゆき
「拓斗を!?で、でもどこにいるかわからないんじゃ探しようが・・・」
「今拓斗はガルゾフ帝国の都市サマールという所にいる、あのドラゴンゾンビなら往復二時間もあれば戻って来れるはずだ・・・」
レオの言葉にみゆきは驚きを隠せなかった
「なんで拓斗の居場所を知っているのよ!?まさかさっき言っていたドラグナイトの持つ探索能力って奴?じゃああんたグランドレッドの時も拓斗の居場所を知っていたって事!?」
「今そんな事を説明している時間は無い、いくら俺でもドラグナイト二人を相手にしたらそう長くはもたないはずだ、なるべく早く拓斗を連れて来い、わかったな」
レオの言葉に無言で力強くうなづくみゆき、それと同時にスノードラゴンのゾンビが二人の目の前に現れた、あれ程乗るのを嫌がっていたみゆきだったが足早に乗り込むとレオに一言言い放つ
「私が拓斗を呼んで来るまで絶対に死ぬんじゃないわよ、わかった!?」
レオはニヤリと微笑むと
「あぁ善処するよ」
その言葉に大きくうなづくみゆき、スノードラゴンゾンビは翼を大きく広げて大地を蹴った
「ギャワワアァァァ~~‼」
みゆきを乗せ雄叫びをあげて飛び立つスノードラゴンゾンビ
「なんだ今の声は!?」
驚いたアインゼルが叫ぶ、業を煮やしたシェルチェンコが力を使って暗闇を吹き飛ばした、すると上空にはもうすでにかなりの高さにまで飛んで行ったドラゴンゾンビの姿が見えたその背中には自分のターゲットであるはずの女が跨っていたのだ、歯ぎしりするシェルチェンコ
「ちくしょう俺の獲物を・・・まだギリギリ届くか!?」
意を決したシェルチェンコは中指を引き絞り空中に向けて狙いを定める、そしてみゆきの乗っているドラゴンを目標に捉えるとこれに目掛けて解き放ったのだ、空気の層を切り裂き凄まじい速度でドラゴンゾンビに向って行く空気の弾丸、しかしドラゴンゾンビに着弾寸前で何かにぶつかり弾けた、衝突による凄まじい爆発が空中でおき爆風が周りに弾ける、その衝撃でドラゴンゾンビが空中で大きく体制を崩してしまったのだ、当然乗っていたみゆきも落下しそうになり慌ててドラゴンゾンビの顔にしがみついた、しかしこのスノードラゴンはすでに死んでいて特に顔の部分の腐敗が進んでいた為、みゆきがつかんだ部分の肉が削げ落ち左目が飛び出してきて落ちそうになるとさすがのみゆきも悲鳴を上げた
「ひぃぃぃ~~気持ち悪い、気持ち悪い、何よこれ冗談じゃないわよ、あいつら絶対許さないんだから‼」
ドラゴンゾンビの顔にしがみつきながらなんとか落下を逃れたみゆき、しかし自分の顔の目の前にはドラゴンの飛び出してしまっている左目と目が合ってしまっているのだ、そんな状態になりながらも何とか体制を立て直し射程圏外まで脱出したみゆきを見守るレオとシェルチェンコ、しかし2人の表情は対照的で先ほどまでの余裕が無くなり怒りを隠し切れないシェルチェンコとまんまとみゆきを逃がし余裕の表情を見せるレオ、そんなレオに向かって
「貴様がやったのか!?僕の空気弾に空気弾を当てて空中で対消滅させたのは!?」
「ああそうだが、それがどうかしたのか?あれは何もお前だけの専売特許じゃないぜ!?」
「貴様・・・僕の楽しみを、許さない・・・絶対に許さないぞ‼」
感情的になり敵意をむき出しにしてくるシェルチェンコに余裕を見せつつもどうかわしていこうか考えているレオ
『こういうムキになってくる相手はかわしやすいんだが今回は二人いるからな・・・さてどうやって時間を稼ぐかな・・・』
レオはチラリと空を見上げるまだ太陽は西の方向で輝いていた、そんな態度に今度はアインゼルが怒りをぶつけてきた
「俺達二人を相手によそ見する余裕があんのかコラ‼そんなに女の事が気になるのかよ、だったら後で会わせてやんゼ地獄でな‼」
アインゼルが右手の人差し指をレオに向ける、すると周りの霧がアインゼルの指先に集まっていく
「いい事教えてやるぜ、霧ってのはな空気中の水分が凍結してできる現象なんだ、つまり空気中にある水って訳だからな、水の龍戦士である俺にとっちゃあ正に水を得た魚って事なんだわ、授業は終わりだ、じゃあ喰らいな‼」
指先に集まっていた霧の塊が弾けるように広がりまるで網の様にレオを包み込む、レオも盾で防ぐが全身を包みこまれているので盾では守りきれない所に霧がレオを攻め立てる
「うぐっ!?」
レオが低い声をあげた、そこまで深刻なダメージでは無いもののドラグナイトになってから久しぶりに味わう痛みである、そんな時レオの後方に回り込んでいたシェルチェンコが呪文の詠唱を始めていたのだ
「雷の龍神、邪悪なるヴァレゴリアよそのきらめきと光を持って新たなる雷撃の鉄槌をかの敵に与えん、その怒りと憎しみを天から授かる捌きに変えんことを”メルティスギブル・ゴッティウルゲウン”‼」
レオの背後からシェルチェンコの放った巨大な雷撃が襲う、レオはすぐさま振り返りダークドラグナイトの盾で襲い掛かって来る雷撃を何とか受け止める
「おいおいこっちは無視かよ!?傷つくぜ、ちゃんと相手してくれないといくら気の長い俺でも頭に来るぜ‼」
振り返りシェルチェンコの巨大呪文を受け止めるという事は逆に背後のアインゼルに対しては全くの無防備になってしまうということである、アインゼルは再び指先に霧を密集させてレオの背後から撃ち放ち全ての霧による攻撃がレオの背中を直撃する
「うぐっ!?」
レオが苦痛で顔を歪める
『くそ、やっぱりこの連携作戦で来たか!?』
二人のドラグナイトが相手だとわかった時この二人による連携攻撃をレオは予想していた、詠唱を必要とする巨大呪文はドラグナイトと言えどかなりのダメージを受けることになるので喰らう訳にはいかない、だからこそ一人が詠唱を必要としない軽い呪文で牽制してレオに巨大呪文の詠唱をさせない様に対峙する、そうやってレオのみ巨大呪文を封じておいてもう一人の呪文詠唱の時間を稼ぐ、詠唱付きの巨大呪文を防ごうとするともう一人の軽い呪文を喰らい続けるというジリ貧の展開である、今度はアインゼルが呪文の詠唱に入った
「水の龍神、邪悪なるパスティアーデよ、その静かなる意思をかの敵に向けん、その清らかなるせせらぎの果てに全ての生命の元となる魂の根源を洗い流さんことを”シーブリチアーデ・デフュロンティア”‼」
アインゼルの詠唱に合わせてレオも詠唱に入った
「闇の龍神、邪悪なるゾルダークよその暗黒の・・・」
「させませんよ‼」
シェルチェンコがレオの詠唱の妨害をする、右手の5本の指からそれぞれ放たれる稲妻がレオの体を直撃する
「ぐはっ!?」
背後からの攻撃をモロに受けるレオ
『くそ、やっぱり呪文の詠唱は無理か!?いくら軽い呪文でも喰らい続けたらもたないぞ、そもそも詠唱付き巨大呪文を防ぎ続ける事だって至難の業なのによ・・・いっそ接近戦でも仕掛けてくれたら逆転の目もあるんだが・・・』
心の中で作戦を模索しながら回避の一手しかないレオ、シェルチェンコとアインゼルも確実に仕留める為絶対に接近戦を仕掛けてこようとはしなかった
「オラオラオラ、どうしたダークドラグナイトの兄ちゃん、さっさと逃げないと死んじまうぜ!?」
「逃げても結局死にますけどね、一思いに死ぬかジリジリ嬲り殺されるか、好きな方を選んでくださいよ、まあ僕としては後者を選んで欲しいんですけどね」
レオの目が怒りに変るが元々傭兵をやっていたレオである戦闘に関しては決して感情に任せて行動はしない、ここは逃げの一手である
「ダークネスブラインド‼」
レオの叫びと共に再び辺りが暗闇に包まれる
「また目くらましかよ!?何度も同じ手が通じると・・・」
アインゼルが右手を突出し横に薙ぎ払う様なリアクションを見せた、すると周りの闇が一気に消し去られた、それはアインゼルがウォータードラグナイトの力を使って一気に闇を消し去ったのだが、その瞬間アインゼルの目の前にレオが迫っていたのだ
「なっ!?なんだと!?」
あまりの事に驚くアインゼル、その隙を逃すまいと一気に懐に飛び込んだレオ
「何度も同じ手を使う訳ないだろ、こっちが逃げてばかりと決めつけた貴様の負けだ‼」
レオの剣がアインゼルの急所を目掛けて斬りつけられる、アインゼルの喉元に突き刺さるか!?と思われたその瞬間レオの動きがピタリと止まったのだ、死を覚悟したその瞬間に何がおこったかわからないアインゼルは戸惑う、ゴクリと息を飲み現状を把握しようとレオを見つめる
「一体何が!?・・・」
動きの止まったレオは何やら後ろから引っ張られているような動きを見せていた、アインゼルがよく見てみるとレオの両手と両足、そして首元に何かロープの様なモノが巻き付いていてそれによって動きを封じられていたのだ、そのロープはシェルチェンコの腕から伸びていてレオの動きを封じているのがわかった
「助かったぜシェルチェンコ‼今回は本当に助かった、死ぬかと思ったぜ」
アインゼルが安堵の表情でシェルチェンコに礼を言う、しかしシェルチェンコはロープを引っ張りレオの動きを封じていながらも厳しい表情を崩さない
「ならば早く離れてください、この稲妻で作ったロープですが・・・もうもちません、コイツ思ったよりパワーが・・・」
その時レオを封じていたロープが切れシェルチェンコがバランスを崩す、その隙を逃さずレオは急速反転しシェルチェンコに目標を定めた、剣を立て相手に対し一直線に向って行くレオ、その姿勢はまるで剣と体が一体化し自分自身がまるでミサイルにでもなったかの様に標的に向かった、ものスピードは凄まじく一気に間合いを詰めたレオだがシェルチェンコまで後2mのところまで接近した時レオの足元に霧がまとわりついてきて動きを鈍らせた、バランスを崩していたシェルチェンコもその隙に立て直し後方にジャンプしてレオとの間合いを広げた
「ふう、今度は君に助けられたねアインゼル、ありがとう」
「お互い様って事だな、しかしコイツは本当に油断ならねえな、さすがはドラグナイトに選ばれただけあるぜ!?」
「その通りです、だから油断せずに確実に仕留めて行きますよ」
一瞬の隙を突かれ危うく死にかけたシェルチェンコとアインゼル、それゆえにもう軽率な行動や油断は期待できなかった
『参ったな・・・今ので仕留められないともう打つ手が・・・』
レオはこの先の絶望的な展開に頭を悩ませた
みゆきを乗せたドラゴンゾンビはガルゾフ帝国の北部の都市であるサマールの上空に到達していた、思ったよりも早く着いた事はみゆきにとっても嬉しい誤算だったが、拓斗がこの町にいるとわかっていてもこのサマールのどこにいるのかはわからなかった、町中で人ひとり探し出すのも結構大変な事である
『拓斗ならどこに行く?どこに行けばあいつに会えるの?早くしないとレオが・・・』
焦るみゆきだが町中にドラゴンゾンビで降りる訳にはいかない、大騒ぎになって国軍が来ても厄介だし元々みゆきとガルゾフ帝国では一悶着あった過去がある為、余計にややこしい事になりかねない、上空から下の町を見下ろすみゆき
「結構高いなあ・・・でもこれ以上高度を下げると見つかっちゃうし、え~い女は度胸よ、もう死ぬことも無いでしょ行け~~‼」
覚悟を決めたみゆきは真下にある町を見てゴクリと息を飲むと思い切ってドラゴンゾンビの背中から飛び降りたのだ、およそ100m程の上空から落下したみゆきは町中の商店街の様な店が立ち並ぶド真ん中に降り立った、そんな突如の出来事に店の人間や客達は戸惑い変な静寂が辺りを包む、着地したみゆきは地面に片膝をついて少しの間動かなかった、その理由は少し歪んでいたその表情が物語っていた
「く~~~・・・私もう死んでるはずなのに何よこの痛みは・・・」
店が並んでいる町中に上空から突如現れた謎の美少女に周りの観衆がざわつき始める、みゆきとしてはこれ以上騒ぎになってはマズイのでここからさっさと立ち去りたいと思っているのだが、なにせ体がいう事を聞かない、そんな時目の前で露店を開いていた男がみゆきに近づき話しかけてきたのだ
「アンタ大丈夫かい?何やら辛そうだけど・・・何なら人を呼ぼうか?」
みゆきは片膝をついた状態のまま表情を少し引きつらせながらも精一杯の笑顔で答える
「いえ大丈夫です、どうぞ私にはお構いなく・・・」
「本当かい?しかしお嬢ちゃん一体どこから来たの・・・」
男がそう言いかけたその時、その質問を答えたくないがためにみゆきは食い気味の質問で返した
「あの、この辺で一番大きな武器屋さんってどこですか?」
その急な質問に少し驚いた男は戸惑いながらも教えてあげることにした、よく見ると空から降って来た謎の少女が身に着けている装備は所々が焼け焦げていて随分痛みが激しく見えた、特に足や腰のアーマー部分が焼け剥がれていて、普段より少し露出が多くなってしまっていたのだ、美しい少女のそんな姿に少し照れながらも素直に答える男
「えっ!?ああ武器屋ね、この町で一番大きな武器屋はこの先の道を右に回ったところにある”巖鉄武器商店”という店だけど・・・」
「ありがとうございます、では」
みゆきはペコリと頭を下げ簡単にお礼を告げると一目散にその場を立ち去った、とりあえず教えてもらった武器屋に急いで向かう事にしたみゆき、全力で走りながら案内してもらったとおりの道を右に曲がると”巖鉄武器商店”の大きな看板が見えた
『なるべく目立たないように心掛けていたつもりだったけどマズったかな!?そんな事よりどこを探していいのかわからないからとりあえず一番大きな武器屋に行ってみることにしたけど・・・拓斗そんな都合よくいる訳がないよね・・・都合よくいたーー‼』
みゆきの視界の先には拓斗とマルコ、そしてメリンダが三人で店頭の商品を見ている所が目に入った、思わず涙が出そうになるくらい嬉しさがこみあげてくるみゆき
『あぁ神様っているのかしら、この世界だと精霊様か!?まあどっちでもいいわ・・・本当にありがとう』
涙が出るのを我慢しつつ満面の笑みで呼びかけようとした
「ねえ拓斗‼あなたにお願いが・・・えっ!?」
さっきまで最高の笑顔を見せながら駆け寄って来ていたみゆきの表情が急に曇り立ち止まった、それは三人のやり取りが聞こえてきたからである
「なあ拓斗の兄ちゃん、今ここは品薄で値段も高いんだろ!?なんでワザワザそんな所で買わなきゃならないんだよ、もう帰ろうぜ!?」
「でもなマルコ、こうやって買い物をしながら情報を得る事も大事なんだぞ!?こういう商店街みたいなところは横のつながりが強いから様々な情報を交換していてお前のお姉さんの情報につながるかもしれないんだからな、それにこれを見てみろ」
拓斗は何気なしに店頭に置いてある首飾りを手に取った、それは大きな赤い宝石が中心にあり周りを無数の緑色の小さな宝石で装飾されていてそれが金の鎖でつながれているという物だった
「その派手な首飾りがどうしたっていうんだ?」
「これはかなりのアイテムなんだ、ある一定量の魔力の供給と増幅、そして冷却系魔法に対する耐性も備えていて本当に凄い一品なんだぞ!?作った職人もかなりの腕のはずだ、本来ならこんな所で売られている品物じゃないんだけどな・・・」
拓斗の説明に大きくうなづくメリンダ
「その通りです、これを作った人は相当の腕の持ち主ですね、小国ならば国宝級と言ってもいいぐらいの一品なんですよ、いくらこの町で一番の武器屋さんと言っても値段を付けられるような物では無いはずなんですが・・・」
そんな三人のやり取りを聞いていた店の人がおもむろに近づいて来た
「アンタらかなりの目利きだね、そいつに目を付けるとは・・・アンタたちみたいのなら売ってもいいぜ!?どうだい?」
鋭い目つきで話しかけてきた男は商売人という雰囲気ではなく逆に拓斗とメリンダを観察している様にすら見えた、マルコが値札を見ると”要相談”という文字が書かれている、ゴクリと息を飲むマルコ
「兄ちゃんこれ相当高いんじゃねーのか?本当に買えるのかよ?」
そんなマルコの不安をよそにその男は静かに話し出した
「その代金はアンタらの払えるだけでいいよ、元々価値のわかる奴だけにしか売らないつもりだったしな、それは俺の作った最高傑作なんだ値段じゃねーよ」
その言葉に拓斗が驚き思わず問いかける
「本当にいいんですか!?それにこれを作ったのは本当にあなたなんですか?でもこれは一介の武器屋さんに作れるような代物では・・・」
男は目を閉じため息をついてからしみじみ語り始めた
「俺はこの前まで宮廷直属の錬金術&武器鍛冶だったんだ、だからこの一品も皇帝陛下から直々に頼まれて作った物でな、製作に3か月もかかった・・・でも少し前にこの国にドラグナイトが殴りこんで来てな王宮で暴れ回っていった・・・それ以来ガルゾフは資金不足で急にこのアイテムを買い取れないってぬかしやがったんだ‼ふざけるなって話だが国に無理やり買わせることもできないし要はコッチの泣き寝入りさ、だから今は知り合いの武器屋でこうして働かせてもらいながらそいつの価値のわかる奴を探していたんだよ・・・」
マルコとメリンダが思わず拓斗を見つめる、拓斗は申し訳ない表情を見せるも本当の事をいう訳にもいかないのでその貴重なアイテムを有難く買わせてもらう事とした、拓斗に払える金額を提示すると男は少し驚く
「兄ちゃん、アンタ若いのに随分金持っているんだな!?まあ俺としちゃあこのアイテムの価値を正当に評価してもらえた事で凄く満足だがなはっはっは」
男は上機嫌でその首飾りを拓斗に渡すと金額を受け取り喜んで店の奥に下がって行った、それを見たマルコが
「まあ拓斗の兄ちゃんにしてみれば罪滅ぼしって意味もあるよな・・・」
そのマルコの意見は全くの図星なので何も反論できない拓斗、そして受け取った首飾りを手に取ると少し照れながらメリンダに差し出した、驚くメリンダが少し後ずさりしつつ両手と首を大きく振りながら
「そんな高価なものいただけませんよ、是非ご自分でお使いください拓斗様」
拓斗はその意見に少し困った顔をして
「俺はドラグナイトの龍装備があるからこんなものは必要ないし、男が首飾りって変だろ!?マルコがつけてるのも明らかにおかしいし・・・君しかいないんだ受け取ってくれ、それに拓斗様は止めてくれと言ってるだろ!?」
優しい表情で首飾りを差し出す拓斗に最初は抵抗があったがメリンダは深々と頭を下げるとそれを受け取ることにした
「ありがとうございます、大事に使わせていただきますね・・・どうでしょう似合いますか?」
メリンダのはっきりした目鼻立ちとその派手な首飾りは思いのほか良く似合っていた、やもするとこの首飾り自体メリンダの為につくられたのではないか!?と思える程良く似合っていた、拓斗はその首飾りを見つめていたが中央の大きな赤い宝石の部分のすぐ下にメリンダの胸元がチラリと見えた、それに気が付いた拓斗は思わず赤面し顔を逸らす、その態度でメリンダも気が付き慌てて胸元を隠した、しかしそれを見逃すマルコでは無かった、ニヤケながら嬉しそうに二人をからかい始めた
「兄ちゃん、メリンダの姉ちゃんの事なにエロい目で見てるんだよ」
「ば、馬鹿!?そんな訳ないだろ‼マルコお前いい加減にしろ‼」
「そうですよ、からかうのは止めてください‼」
拓斗はドギマギしながら慌てふためいているしメリンダは恥ずかしさで両手で顔を覆っている、そんな時乾いた空に響き渡る快音が発せられた
”パーーーーーン”
メリンダとマルコは一体何が起こったのかわからず横を見ると拓斗が後頭部を抑えてうずくまっていた
「痛ってぇ~一体なんだっていうんだ・・・・はっ!?」
拓斗が後ろを振り返るとそこには鬼の形相で見下ろしているみゆきが腕を組んで仁王立ちしていた
「なっ!?みゆき???なんでお前がここに???」
混乱する拓斗の胸倉を両手で掴みグイッと引き寄せるみゆき、その表情は明らかに怒りに満ちていた
「あの・・・みゆきさん・・・いつからそこにいたんですか?」
「さあ、いつからだったかしら?そこの女に”君しかいないんだ受け取ってくれ・・・”って首飾りを渡してた辺りだったかしら!?」
拓斗の顔面から血の気が引く
「違うんだ、お前は色々誤解しているぞ!?これはだな理由があって・・・」
「拓斗‼アンタって人は唯という彼女がいながらこんな町中でイチャコライチャコラして‼何なのよその女は‼」
「だから話を聞けって、彼女の名はメリンダと言って不思議な力を持っていてな、目的の為に同行してもらっているんだ、お前が思っているようなモノでは決してないんだ‼」
慌てて弁明する拓斗だがみゆきにはその態度が余計に言い訳している様に見えたのだ
『俺は何で今修羅場みたいな展開になっているんだ!?そもそもなんでみゆきがここに?』
拓斗の思惑とは別にみゆきの怒りは治まらない、拓斗の胸倉を掴み激しく揺さぶりながら感情をぶつける
「不思議な力って何よ‼いい加減な事言って、すぐにバレるような嘘ついているんじゃないわよ‼」
慌ててメリンダが仲裁に入ろうとする
「本当です、私と拓斗様は何でもありません、全部あなたの誤解なんです‼」
みゆきは今度はメリンダの方を睨みつけ敵意むき出しの言葉使いで質問し始めた
「メリンダとか言ったわね、アンタは一体何者なのよ!?どうして拓斗達と一緒に旅をしているのよ!?」
思わぬ展開に動揺するメリンダ、オロオロしながら慌てて説明し始めた
「ですから私と拓斗さんは・・・」
その時メリンダの表情が急に厳しいモノとなる、目を細め逆にみゆきを睨みつけると静かな口調で話し始めた
「あなた死人ですね、どうして死人がここにいるんですか?しかも強力で邪悪な呪いによりあなたは動いていますね、早く拓斗さんを放しなさい、さもなくば私が元の死体に戻して差し上げましょうか!?」
「何よそれ、アンタと拓斗はどういう関係なのよ!?」
「死人に答える義理は有りませんがいいでしょう、拓斗さんは私の命の恩人です、もし拓斗さんに危害を加えるつもりだったり邪悪な何かに巻き込もうとするのであれば容赦しませんよ」
拓斗を挟んで睨み合うメリンダとみゆき、思わず息を飲むマルコ、無言の緊張感が辺り一帯を包み込む
「二人とも落ち着け‼俺の話をちゃんと聞け‼」
拓斗はみゆきとメリンダにお互いの事を説明した、事情を聞いて赤面して何度も謝るメリンダ
「そういう事でしたか!?先ほどは非常に失礼な事を申しましてスイマセンでしたみゆきさん」
「いや私も悪かったわ、すぐ頭に血が上っちゃう性格なんでゴメンねメリンダさん」
二人はにこやかに和解した、しかし先ほどの事を思い出していたマルコは拓斗の耳元でささやいた
「兄ちゃんよ、女って本当に怖いよな・・・あんなに美人の二人がさっきは鬼みたいに見えたんだよ俺・・・」
その意見に苦笑いを浮かべる拓斗、そして改めてみゆきに問いかけた
「ところでみゆき、何でお前がここにいるんだ?俺もそうだけどお前もガルゾフにはあまりいい思い出がないだろ!?」
その言葉にハッと我に返るみゆき
「そうだったわ、こんなことやってる場合じゃなかった、拓斗私と一緒に来て頂戴、緊急の用件なの‼」
「一体何が?・・・」
拓斗が言葉を言い終わる前にみゆきは指笛を鳴らした”ピィ~~‼”という指笛の音が辺りに響き渡ると上空から巨大な飛行物体が現れた、それはもちろんみゆきが乗って来たドラゴンゾンビである、その姿を見た周りの人間は驚きのあまり言葉を失い動けずにいた、何しろ町中にいきなりドラゴンが飛来するなどあり得ない事態なのである、羽をはばたかせゆっくりと着地するとあたりにあった無数の物はその風圧で紙の様に飛んで行った、拓斗すら事情がつかめずに茫然として目の前のドラゴンゾンビを見つめているがみゆきはそんな事はお構いなしに強引に拓斗の腕を引っ張ると素早くドラゴンゾンビの背中に乗せた
「じゃあ少しの間拓斗を借りるわ、後で返しに来るからよろしくねメリンダさん」
「わかりました、気を付けて行ってきてください、お帰りをお待ちしています」
事態を飲み込めずに茫然とする拓斗とマルコ、それとは対照的に落ち着いてにこやかに話しているみゆきとメリンダの二人
「ギャワワァァァ~~~‼」
雄叫びをあげて翼を広げはばたくドラゴンゾンビ、再び周りが突風に包まれ周りの人間は皆体制を低くし飛ばされないよう身を屈めていた、直立不動のまま唯一微動だにしなかったのがメリンダであった、そんなメリンダにみゆきはある種の共感を持ったのだった、大地を蹴って飛び立つドラゴンゾンビ、着地の際と飛び立つ際にわずかずつではあるがドラゴンゾンビの腐った肉片が地面にボトボト落ちた、それを見て思わず顔を歪めるマルコ、しかし何事も無かったかのように飛び去るドラゴンゾンビの姿を優しげな表情で見守るメリンダの後姿を見てマルコは思ったのだ
『やっぱり女って怖い・・・』
皆様おひさしぶりです、久々の投稿となってしまいました、仕事の都合で中々書き込みができなかったんですがようやくこうして書き込めました、頭の中ではかなり先まで話はできているのですが・・・ままならないモノです(笑)
また懲りずにおつきあいしていただけると嬉しいです、では。




