双頭の龍 策謀と懐柔と編
登場人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年
メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主
ロズワルド・サランディア…グランシア王国の皇帝、若くして皇帝に即位したがその能力は高く部下からの忠誠心も高い、幼少期に重鎮であるロネオラが教育係だったためその発言には一目置いている
ロネオラ…先代王から使えているグランシア王国の重鎮であり事実上のナンバー2、自分の立場を理解している為会議などではあまり積極的には発言しないがサランディアの発言には口を挟むことも多い
ガルゾフ・ド・ネルリアス…ガルゾフ帝国の皇帝、父である先代皇帝を暗殺し弟に罪を着せて処刑した程の野心家、部下の意見もほとんど聞かない暴君であり感情の起伏も激しい
ソロンド…ガルゾフ帝国の重鎮で内政のトップ、軍事、外交にも口を出せる立場で以前とは違い皇帝であるネルリアスにも唯一意見できる存在
アリシエント・ノーダイン…小柄で戦闘も苦手だがその他の能力の高さで連隊長まで上り詰めた男、部下にも慕われていて妻と3歳の息子がいる
ドミナリア・マウリール…ガルゾフ帝国諜報部の長官、背は低く出っ歯が特徴の醜い容姿で手柄を立てた事が無い為更迭の噂がある
ワグダイル・カーマイン…ガルゾフ帝国の重鎮であるソロンドが一番目をかけている若者
ビヒテバルト・アインゼル…ドラグナイトの一人、黒髪の短髪で背が高く鋭い目つきが特徴、駆け引きなどが嫌いな性格
イゴール・シェルチェンコ…雷の龍戦士、ライトニングドラグナイトで肩まで伸びた金髪が特徴、普段は優しげな表情だが中身はかなりサディスティック
拓斗とマルコ、そしてメリンダはガルゾフ帝国の北部の都市サマールに来ていた、ここはガルゾフ国内でも首都キメルディードに次ぐ第二の都市であり他国との国境も近い事から軍事施設も多く町中で見かける兵士の数も多い、本来商業も盛んで季節的にも忙しい時期なのだが思ったほどのにぎわいは無く町全体にどことなく寂しい雰囲気が漂っていた、特に食材を扱う店や飲食店、道具屋などの店には客の入りも少なく店主も元気がないように見えた、店頭に並んでいる商品にしても他国に比べ価格も高く品ぞろえも少ないことから流通がうまくいっていないことがわかる、そんな町の様子をマルコはキャロキョロ見回しながら歩いていた
「なあ拓斗の兄ちゃんよ、この町って結構大きな町だって聞いたけどなんかさびれてないか?もしかして兄ちゃんが殴り込みかけた影響でこんな風になっちゃったとかじゃねーよな!?」
マルコの言葉にギクリとする拓斗、そんな様子を見てクスリと笑うメリンダ
「そんな事無いわよマルコ、ガルゾフは戦争が多かったからね、負けが続いていたしそれで町の人も元気がないのよ」
ニコリと笑って優しく説明するメリンダ、本当の理由は別にあるのだがそれをわかっていてあえて説明しなかったのだ、ガルゾフ帝国は先日グランシア王国とグランドレッドの連合軍がアミステリア公国に侵攻した時、同盟締結寸前だったにも関わらず援軍を送らなかった、本来締結前なのだから援軍を送らなくても責任は無いのだが敗戦続きで主戦力を失った今のガルゾフはアミステリアとの同盟を締結しないと国を守れない状態なのである、もし今回の事でアミステリア側が同盟の依頼を取り下げた場合、グランシア軍の侵略は必至でありそれに耐えられるだけの戦力はもう残っていない、ガルゾフの国民自身が”自分たちは援軍を送らなかったのに自分たちは守って欲しい”なんて都合のいい同盟なんて有り得ないはず、だからアミステリア側が同盟の依頼を取り下げるのだろう・・・という考えが大半を占めていて、その為この国はいつ攻め滅ぼされるか!?という危惧から流通も滞り、結果的に店の商品は品薄で割高という悪循環がおこっているのだ
「ふ~んそんなもんか、でメリンダの姉ちゃん、俺の姉ちゃんはまだここにいるのかな?」
「朝占った時にはまだここにいるって出たけど・・・もう一度やってみる?」
「いやいいよ、あの占いメチャクチャ疲れるんだろ!?一日に何回もやると倒れるってドメイラのばあちゃんが言ってたじゃん、せめてここでもう少し聞いてからでいいよ・・・でもそんな疲れるほど集中力使う占いなのによく商売でやってたな!?大丈夫だったのか?」
メリンダは少しさみしげな表情を見せ静かに答える
「私は滅多に占いはしなかったの、ほとんどはおばあ様がやってて・・・どうしてもっていう時だけおばあ様の許可を得て私がやってたのよ、おばあ様が私のこの力を他に知られる事を恐れてずっと隠していたんだけど、グランシアに知られて追われる身になったという訳なの」
「そっか・・・俺の為にそんな凄い力を使ってもらって悪いなメリンダの姉ちゃん、必ずお返しするからよ」
「そんなに気にしないで、私もこの力の使い道をどうするか悩んでいた所だったし、悪い事に利用されるより百倍マシだわ」
優しく微笑むメリンダに姉の面影を思い出し少し涙が出そうになるマルコ、慌てて目線をそらし話題を変えようとする、しかし何を言っていいのかわからずにアタフタしながら迷っていると
「なあメリンダさん、俺も聞きたいんだけど君のその力はどうやって手に入れたんだい?」
拓斗が話に割り込み問いかける、マルコは話題を逸らそうとしていただけに少し助かったがそこまで話題がそれていない事に気が付き複雑な表情で拓斗を睨みつけた、そんなマルコの視線を無視するかのようにメリンダを見つめる拓斗
「拓斗さんとは同い年ですしメリンダと呼んでください、この力は私が努力して手に入れたモノではありません、生まれ持ったものなのです」
「わかったこれからは俺もそう呼ぶよメリンダ、じゃあ俺の事も拓斗と呼んでくれ、それにしても生まれながらのその力って・・・そんなこと有り得るのか?それにしてもどういった仕組みでそんな力が使えるんだ?ゴメンなんか質問ばっかりしてすまない、もし答えたくないなら答えなくっていいぜ、誰にでも言いたくない事ってあるだろうし、そう言ってくれたら二度と聞かないからさ・・・」
メリンダは拓斗の問い掛けに目線を下に向けしばらく黙っていたが静かに話始めた
「私のこの力は父から受け継いだものです・・・私の父は魔族の者だったらしく、私自身父の事はほとんど覚えていないんです、私が物心つく前に亡くなったと聞いてます、どんな人だったのかは祖母だけが知っているのですが何度聞いても教えてくれなくて・・・」
「そうなんだ・・・悪い事聞いちゃったなゴメン」
「いえいいんです、誰かに聞いて欲しいという気持ちもあったし・・・ちょうどよかったです」
重い空気の中マルコが続けて質問する
「じゃあ母ちゃんはどうしたんだ?父ちゃんが死んでも母ちゃんがいれば聞く事で来たんじゃ!?」
マルコの質問にゆっくり首を振るメリンダ
「母は私を生んですぐに亡くなったそうです・・・それで母側の祖母であるおばあ様に引き取られたというわけなんです、だから私は母の事も全く覚えていません・・・」
「ご、ゴメン・・・メリンダの姉ちゃん俺知らなくって・・・」
落ち込むマルコに再び優しく微笑みかけるメリンダ
「いいのよ、私はお父様もお母様も覚えてないのだから別に悲しいとかはないわ・・・ただ私が半分魔族の血を引いている事で小さい頃いじめられた事があってね、少しトラウマがあったというだけ・・・でもそのおかげでこの”魔眼”を授かったわけだけどね」
「メリンダその”魔眼”というのはどういう理屈で機能しているんだい?」
拓斗の問いにやや悲しい顔をしながら首を振り答えるメリンダ
「それがわからないの・・・とにかく集中して見ると色々な事がわかるっていうのかな?例えば相手の目を見て心で問いかけると相手の言葉で頭の中に入って来るの、占いもそれと同じ原理かな・・・ただ私がこの力に目覚めたのはほんの1年ぐらい前の話でして・・・他に何に使えるのか?どういった原理で起こっているのか?全くわからないのが現状なの、だからそれも知りたくって付いて来たというのも本音かな!?」
「そうなのか・・・それにしても珍しい能力だよな、テレパシストとでもいうのかな?聞いた事も無い能力だけど・・・」
そんな拓斗の袖を引っ張るマルコ
「なあ兄ちゃんよ、メリンダ姉ちゃんの力は聞いた事がないって言ってたけど他の能力は聞いた事があるのか?”魔眼”なんて初めて聞いたけど」
「あぁ他にもいるらしい、”魔眼”の使い手自体非常に珍しいけどな、一番有名な”魔眼”は”魅了”かな!?相手を思い通り操る力だ」
「なんだよそれ!?そんな力があったら無敵じゃん」
慌てて拓斗の方に振り向くと目を大きく見開き驚くマルコ、拓斗はそんなマルコの頭に手を乗せ
「でもある程度のレベルの相手には通じない、魔法処理がしてある武具でも防ぐ事ができるしな!?あの黒装束の奴らも銀色の仮面でメリンダの”魔眼”を防いでたろ!?」
「そっか・・・じゃああんまり戦いじゃ使えないのかな?」
「そんな事は無いぜ、そもそもあんな仮面つけてたら視界は悪くなるし息苦しいし、いい事なんてあまりない、それに精神系の対策をしていたら他の対策がおろそかになるって事だからな、アイツらは肉体に絶対の自信を持っていたみたいだから精神系の対策をしていたに過ぎない、”魔眼”なんて滅多にいないんだから対策してもあまり意味がないし魔法で精神系の攻撃する奴もほとんどいない、巨大な攻撃呪文をブッ放した方が手っ取り早いからな、通常”魔眼”の力は相手にかかるのに少し時間がかかるんだ、だからある程度のレベルの相手には通じないと言ったんだが、メリンダは瞬時にかけたからな・・・メリンダを相手にしたら俺でも危ないさ」
「拓斗の兄ちゃんでも危ない!?ドラグナイトがこんなか弱いメリンダ姉ちゃんに負けるのか!?」
慌ててマルコの口を塞ぐ拓斗
「馬鹿!?声が大きい‼こんな人通りの多い所で何叫んでいるんだ‼」
「モゴッごめんごめん・・・あまりに驚いたからさ・・・」
そのやり取りをにこやかに見つめるメリンダであった、そんなやり取りの後メリンダが拓斗に問いかけた
「でもどうなんでしょう拓斗さん?アミステリアは本当にガルゾフとの同盟への参加依頼を取り下げるんでしょうか?」
拓斗は正面を見つめたまま目線を動かさずに答えた
「いや、それはないよ、そんなことで一々同盟依頼を断っていたら永遠に連合なんてできないからね香奈もその辺はわかっているさ・・・それと俺の事は拓斗と呼んでくれと言ったろ!?」
「あっスイマセン・・・私あまり男の人と話したことも無いものですから、呼び捨てにはまだ抵抗があるといいますか・・・緊張して」
恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向くメリンダ、そんな仕草をマルコがニヤニヤしながら見ていたが
「なあメリンダの姉ちゃん、拓斗の兄ちゃんにはもう彼女がいるんだから惚れるなよ」
マルコのその言葉に益々顔を赤らめるメリンダ
「な!?何言ってるんですか‼そんなわけないでしょ、私はそんな・・・もういい加減にしてください‼」
両手で顔を隠し座り込むメリンダに益々ニヤつくマルコ、そんなメリンダを見て
『本当に純情な子なんだな、あまり男と話したことも無いって言ってたし・・・みゆきも見習ってほしいぐらいだぜ』
そんな事を考えながら一人微笑む拓斗
「でもこの同盟がうまくいったらグランシアへ対し包囲網が形成できる、今スタネール共和国を中心に他の同盟も進んでいるようだし、もしそっちの同盟国とも連合が組めればさすがのグランシアも他国へ侵攻なんてできないはず、いけるかもしれない」
拳をグッと握り拓斗が嬉しそうにそう話すと、照れながら顔を隠していたメリンダが静かな声でボソリとつぶやく
「それは難しいかもしれません・・・おそらくは無理だと思います」
意外なメリンダの一言に驚く拓斗、座り込んでいるメリンダの正面に拓斗も身をかがめた、拓斗の顔がリンダに近づく、驚きと恥ずかしさで一瞬硬直するメリンダ、しかし拓斗はそんな事はお構いなしにメリンダの両手の二の腕を強く掴むと
「なぜだ!?どういう事なんだメリンダ?理由を教えてくれ‼」
「痛い、痛いです拓斗さん・・・」
慌てて両手を放し我に返る拓斗
「あっ!?ゴメンつい・・・でもどういうことなんだ?教えてくれないかメリンダ!?」
まだ気恥ずかしさで正面を向いて喋れないメリンダが斜め下を見ながら
「理由はわかりません、でもそう感じるのです・・・私の気のせいかもしれませんが、この感じはおそらく間違いないかと・・・」
先程までの希望が一瞬で否定された事に落胆する拓斗、メリンダがこう言っているのだからおそらく間違いないのだろう
「メリンダ、その連合がなぜうまくいかないのか君の力で占う事は出来ないか?原因さえわかれば対策することもできるだろうし・・・」
拓斗の質問にメリンダは申し訳なさげに首を振る
「スイマセンそれは無理です、具体的に何がどうなるかという事であれば占う事も出来るのですが、なぜダメなのか?というのはあまりに漠然としていて何を対象にどんな占いをするのか?という問題が出てきてしまいどうしても大雑把なくくりの答になってしまうんです・・・」
メリンダがそう答えると両者の短い沈黙が一層空気を重くする、そんな雰囲気に耐えられないとばかりにマルコが口を挟む
「でもさ、絶対うまくいかないって事は無いんだろ!?大きい事をやろうとしたら簡単にいかない事なんて当たり前の事だしさ、やる前から全てを諦めるなんて一番やっちゃ駄目な事だってよく言われたぜ!?」
気休めとも思えるマルコの提案に作り笑いをするのが精いっぱいだった拓斗だがそんな拓斗達にメリンダが
「その通りだと思いますよ、私が感じたのは近年そうなるであるであろうという事で未来永劫という訳ではありません、それにこれはこのまま何もしなければ・・・という予想でしかありません、私自身が”おそらく無理”なんて言っておきながらこんな事を言うのは矛盾しているかもしれませんが、可能性はゼロではありませんし何もやらないよりはマシかと思われます、かなり薄い可能性ですが・・・」
メリンダのその言葉に少しだけ救われた気になった拓斗であった。
ここグランシア王国の居城メルマンティア城の城門からは馬に乗った兵士があわただしく何人も出たり入ったりを繰り返していた、帰って来た兵士は城門内に入ると即座に馬を降りそこにいる隊長格の男に報告をしていた、それを聞いていた男は報告内容にウンウンと何度もうなづきその兵士にねぎらいの声をかける
「そうかご苦労だったな、走りづめだったろ、部屋でゆっくり休むといい、また明日には出てもらわなきゃならんからな」
ねぎらわれた兵士はぺこりと頭を下げると城内に入って行った、そんな後姿を見ながらため息をつく隊長格の男、名前をアリシエント・ノーダインという連隊長だ、しかし見た目に背は小さく小太りでとても強そうには見えない、実際戦わせれば全然強くないのも事実で自分の部下でもノーダインより弱い兵などいないのではないか!?と思える程弱いのだ、ではなぜ連隊長まで出世したのかといえば物資や兵の運用や作戦立案、人心掌握などに優れていてそこを買われての出世である、だから自分より弱い部下にも慕われていてノーダインを馬鹿にするものなど皆無といってもいい程である、そんなノーダインが何度もため息をついている理由、それは皇帝サランディアの命令である
『陛下の命令にも困ったものだ・・・いきなりドラグナイトの情報を集めろと言われてもどこに何を調べに行けばいいのやら・・・』
部下の一人一人を割り当てた各所に走らせその報告を聞くという作業をもう一週間も続けているが有力な情報は皆無である、部下の顔にも疲労と不信感が現れ始めた、ただでさえ近年は連戦連敗のグランシアの国内は急速に求心力を失いつつあったからだ、せめて部下を暖かく迎えてやろうと今度は城門の外に出て待つ事にしたノーダイン、そんな連隊長の姿を歩きながら遠目で見つめる二人の男がいた
「あれがグランシアの居城メルマンティア城か!?さすがにデカいな」
「あの城門の外にいるのはお偉いさんか?なんだか随分と弱そうだけど」
「確かに、でも帰ってくる兵士がワザワザ馬を降りてペコペコしてるところを見るとそうなんじゃね!?」
「ふ~んグランシアって他国には評判悪いけどワザワザ城門の外まで部下をねぎらうなんて、グランシア軍の中にもいい上司はいるって事なのかな?」
「まあそうなんだろう、全ての人間に対して嫌な奴なんていないだろうしな」
「そうかなぁ?俺の先輩に誰からも嫌われている嫌な奴いたけどね」
「まぁ例外もあるって事だな」
そんな他愛もない会話のやり取りをしつつ二人は笑いながら歩いていた、一人は背が高く黒髪の短髪で目つきの鋭い感じの男である、なで肩なので一見弱々しく見えるが下半身は対照的に筋肉質で鍛えられているのがわかった、もう一人の男は背格好は中肉中背だが肩まで伸びた美しい金髪で整った顔立ちをしている、先ほどの会話の印象とは違い優しげな顔つきをしている、見た目も対照的な二人が歩きながら城門に近づいて行った、ノーダインの方からも二人の姿を確認できたが恰好は普通の町人風だったので出入りの業者か城に用事がある一般市民だと思っていた、2人はノーダインから10m程の距離まで近づいてきて話し声も聞こえてきたがノーダインの事を気にする様子も無くまだ楽しげに談笑しながら歩いて来た
『なんだあの二人は!?普通城の前に軍人がいたらもう少し緊張するものだろ、それとも俺の見た目が弱そうだからナメられてるのか!?まぁでも一般市民相手に威嚇しても仕方がない事だしな・・・』
「君達、メルマンティア城になにか用かね?なんなら私が要件を聞くが・・・」
その質問に二人は顔を見合わせて笑いだす、その態度にさすがのノーダインもイラッっとした
「なんだね君達は!?何の用かと聞いているんだ、さっさと答えないか‼」
その命令の様な言葉を聞いて二人の態度が一変する
「あ!?なにその態度は俺達にそんな事言っていいと思ってるの?」
「アンタらが俺達に用があるっていうからワザワザ来てやったってのに、ふざけるなよ本当に殺すぞ!?」
先程までのお茶らけた態度と違いノーダインに対し殺気に満ちた視線を向ける二人であった。
ガルゾフ帝国の居城ギル・ドレン城では今日も皇帝ネルリアスの怒鳴り声が鳴り響いていた
「いい加減いせんか‼どいつもこいつも気分の悪くなる話ばかり持ってきおって、余を心労で殺そうとしているのか‼」
八つ当たりともいえる言葉を吐きながら怒り狂うネルリアス、それほどまでに今のガルゾフは情勢が悪い、軍の主要人物は全て死亡し今や自慢の魔法使い部隊もすでに無い、アミステリアとの同盟もどうなるかわからないこの情勢では流通も滞り経済的にも非常に厳しい事になっていた、当然そんな状態で国民が不満や不安を抱かない訳もなく毎日毎日ありとあらゆるところから苦情と要望の声がネルリアスの耳に入ってきた、しかしそんな情勢でも何とかしなければならないのが皇帝の役目であり責任なのだがネルリアスの激しい性格の前に誰も恐ろしくて意見を言えなかった、そうなると自然に事実上のナンバー2であるソロンドに皆の視線が集まる、それはもちろん”皇帝陛下に何とか言ってください”という願望混じりの眼差しなのはソロンドも理解していた、ヤレヤレとばかりにため息をついて話し出すソロンド
「陛下、心情はお察ししますがそれでも国の為に何とかしなければならないのが皇帝という立場なのです、我々もできる限りお手伝いさせていただきますからなにとぞお怒りをおさめてください・・・」
さとすようなその言葉にキッと睨みつけるネルリアス、しかしソロンドは至って平常な態度を崩さない、以前はネルリアスの顔色ばかりうかがっていたソロンドが国の危機に直面してからというもの人が変った様に開き直った態度を取るようになった、しかもその全てが正論だから余計に腹が立つのだ、しかしここで感情に任せてソロンドを処分しようものならどうなってしまうか理解できないネルリアスではなかった、グッと感情を抑えてソロンドに言い返す
「そんな事は言われずともわかっておるわ‼不満や要望ならば馬鹿でもできる、しかし現実的にどうすればいいのかという事であろうが!?どんな方法をとっても良くなる方法なぞない、あるというならここで申してみよ‼」
イラつくネルリアスが息を荒くして叫ぶ、ソロンドは少しだけ間を置きネルリアスの息がととのうのを待つとゆっくりとそして静かに話し始めた
「おっしゃることはもっともです陛下、今の我が国はそれほどまでに厳しく何をやっても劇的に好転する事なぞ無いでしょう、しかしだからこそ今は耐えるのです、ベストの手段がないのであれば何がよりベターかを考えて実行するのみです、この国を潰さないためにどうするべきか最良の手段を考えましょう」
ネルリアスはまた感情に任せて怒鳴ろうとしたがどう考えてもソロンドの言っている事が正しい事は馬鹿でもわかる、喉まで出かかった怒りを飲み込み玉座に座り直すと再び問いかける
「ならば具体的にはどうする?問題は大きく分けて二つ、同盟締結の外交問題と内政・・・特に流通の悪化の解消だな!?」
ソロンドは目を閉じ少し考え込むと
「まずは同盟締結の問題ですがこれは我々から動かなければならないでしょうね・・・いくら同盟締結前とはいえ援軍を出さなかったのは事実ですから、アミステリア側から同盟参加の依頼を取り下げてきても文句は言えません」
ネルリアスは再び椅子から立ち上がり声を荒げる
「余に頭を下げに行けというのか‼どうか同盟に入れてくださいと泣きつきに行けと!?」
ソロンドを指さすその指先は怒りで震えていた、ソロンドはまたもや諭す様に語りかけた
「いえ、今の我が国の情勢はアミステリアもわかっているでしょうから陛下が国を離れられないと言っても筋は通るでしょう、陛下の名代として私がうかがいますのでその許可をいただけますか?結果的にこちらが頭を下げる事には変わりないですがこれだけは避けては通れない事だと思われます・・・この同盟無くして我がガルゾフ帝国の存続は有りません、なにとぞご許可を‼」
深々と頭を下げるソロンド、本来忠臣として褒めなければならないぐらいなのだがネルリアスにとってはどうしてもそんな気にはなれなかった、再び玉座に座り直すと高ぶる感情を精一杯抑えて
「ならば許可しよう、その代り必ず同盟の締結をして来い、しかも前回の条件から何の変更も無くだぞ!?できるな」
ネルリアスの言葉は一見無茶な要求であった、他の重鎮達も何を言っているんだ!?と不信感を顔に出したほどである、今回の同盟を成功させない限りガルゾフが滅ぶのである、しかも締結までに時間がかかりモタモタしてしまえばグランシアに侵略されてしまう事は明白である、こちらに引け目がある以上多少条件が悪くなってもいち早く同盟を締結することが最優先なのに・・・と誰もが思った、その時ソロンドが真剣な目をしてネルリアスを見返す
「必ずや同盟を締結させてまいります」
「条件を変更する事も無くしかもなるべく早くだぞ!?わかっているな?」
「もちろんでございます、お任せください」
ソロンドの鬼気迫るその態度に思わず気圧されるネルリアス
「ソロンドその言葉しかと聞いたぞ、もしそれができなかったらどうするのだ?」
ネルリアスは悔しくて少し意地悪な質問をしてみた、それでどういう返答が返ってくるか聞いてみたい・・・という好奇心から出た言葉だったが、帰ってきた返事はネルリアス自身予想もしていない言葉であった
「その時はここには帰ってきません、アミステリアにて命を絶ってきまする、この一命を賭してでも必ずや同盟を締結させてまいります」
ソロンドのその目はハッタリなどではなく本気で言っている事はネルリアスにもわかった、少し前まで自分の顔色ばかりうかがっていたこの老人がどうして・・・と不思議に思ったがここは一旦冷静に考える、客観的に見てここまでされると完全に自分が悪者である、ネルリアスは精一杯自分の感情を殺して対応する
「よくぞ言った‼それでこそ我が国の忠臣であるぞ、全て貴公に任すから頼むぞソロンド!?もし約束通り同盟締結をなしとげたならば望みの褒美をくれてやる」
ネルリアスが精いっぱい王らしく振る舞うも、その提案に首を振るソロンド
「褒美などいりません、今までも過分なまでの報酬をいただいて来ました、それすらこの老体には使い切れませんその資金を少しでも国の為に使ってくだされ」
他の重鎮達から”おぉ~”という感嘆の声が上がる、その献身的な姿に感動して憧れの眼差しまで向ける者すら出てきた、しかし当の本人であるソロンドは
『国の為に尽くすという事は本当に名誉な事だ、なぜ私は今までやってこなかったんだろう・・・こんな老人になってから改めてこんな気持ちになるとはな不思議な感じじゃ、しかしこの老体がこの国の役に立つのなら命など全く惜しくわない、むしろこの役目を与えてくれた事が最大の褒美じゃな・・・』
思わず口元が緩むソロンド、その微笑みの意味が分からず混乱するネルリアス
「そうか、誠に天晴であるぞソロンド、それでこそ臣下の鑑である、明日にでもアミステリアに向かってくれ」
「いえ、今から一時間後には出発いたしまする旅の用意など着替えと食糧があれば十分事足ります、供の者を数人連れて行きますがそれはこちらで人選してよろしいですな?」
すっかりペースを握られてしまったネルリアスだがもう一つの問題についても問いかけた
「わかったその件は全てそちに任す、ところでソロンド出立前に一つ聞くがもう一つの問題だが内政・・・特に流通の問題なのだがこれについてはどう考えておる?貴公の忌憚のない意見を申してみよ」
こういうところはネルリアスの抜け目ない点である、短気で感情的だがそれで全てを台無しにしてしまうほど馬鹿ではない、もちろん自分なりの考えはあるものの他にも取り上げるべき案があった場合それを採用しないほど器量が狭い訳ではないのだ、ネルリアスの質問にソロンドは再び腕を組み目を閉じてじっくり考える仕草を見せるとしばらくしてから話し出した、ここまでくるとその仕草や間の意味がネルリアスにもわかっていた、ソロンドの頭の中にはすでに案はあるのだがあえて考えるフリをしているのであろうと、それは間を置く事によってネルリアスに冷静さを取り戻させようとしているとしているのと同時にどういう言い方をすればネルリアスの感情を逆なでずに聞き入れられるのだろうと考えているという事が
『このタヌキ爺が・・・しかし何年も部下として仕えていたがこれほど優秀な男だとは思わなかったな、親父が重用していたのもわかる・・・』
ネルリアスが今そんな事を考えているとはソロンド自身想像もしていない、あえて間を空けたソロンドが再び話始めた
「まず流通の事ですが、これほど流通が滞っているのは今後アミステリアとの同盟が不調に終わりその結果グランシアに侵略されるのではないか!?という不安があるからです、それにより国外の業者の多くが出荷を渋っている結果が今の状態になっていると思われます、ならば陛下自ら国民に向けて声明を発表してくだされ”同盟は締結された”と」
この提案にはさすがのネルリアスも驚いた
「なっ!?何を言っておるのだ?同盟の件はお主が今から交渉に行くところであろうが、国民にそんな嘘をついてもし同盟が不調に終わったらどうするつもりなのだ!?」
その質問に目を細め諭す様に話しかけるソロンド
「陛下・・・同盟が不調に終わればどのみち我が国は終わりなのです、ならば少し早めに発表しても同じでしょう、アミステリアには私の方から上手く話しておきますからご心配なく、あと国外からの入荷に対して一時的に関税を下げるのです、理由は何でもいいですが”同盟締結”の記念の恩赦・・・とでも言っておけばいいでしょう、そして町中にギラついた軍人がウロウロしているのもいけません、全員撤収させましょう・・・」
その提案に驚くネルリアス、自分が考えていた政策よりずっと奇抜な提案を何のためらいもなく語り始めるソロンド
「しかし軍人がいなくなれば犯罪増加につながるのではないか!?今の我が国は治安がいいとは言い切れない状態だからな」
「ですから私服を着せた軍人を町中に放つのです、あくまで一般市民を装ってですけどね、そうすれば誰が軍人かわからず犯罪への抑止力になると共に町中の人が増えますから賑わっている様にも見せる事ができます、いうなればサクラも兼ねて・・・という訳ですな」
そのあまりに奇抜な提案に呆気に取られるネルリアス
「ソロンド・・・貴公はどうしてそんな事を思いついたのだ?」
「市民からの要望書の中に”ギラついた軍人がウロウロしていて町の雰囲気が悪くなって困る”という意見も結構ありましてね・・・それでですよ」
ニコリと笑うソロンド、その時ネルリアスは気が付いた、色々な所から来ている不満や要望をこのソロンドは全て目を通している事を、その時ネルリアスの中で自然と怒りが静まっていった、そうして会議は終了しその参加者は各自室や自分の領地に戻って行ったがネルリアスだけはしばらく玉座を離れず座りながら何かを考えていた、そして時間が過ぎ会が議終了してから一時間後ソロンドと供の者達は旅の用意を終え、いつでも出立できる準備を整えて城門前で待機していた、さあ出立という寸前のところで伝令の兵が現れたのだ、そしてアミステリアに向かう一団の内の一人を男を呼び出したのだ、その呼び出された男はソロンドの部下で一番目をかけている若者で名をワグダイル・カーマインという、急に皇帝に呼びつけられ何が何だかわからないカーマイン、もちろんネルリアスとの会話など初めてのことである案内されるまま皇帝の前にひざまずく
「陛下、私に一体何の用でございましょうか?もう下ではソロンド様が待っておられますので出立したいと思っていたのですが・・・」
ネルリアスは玉座を立ちカーマインの所までゆっくり歩いてくると耳元まで近づいて話しかけた、驚くカーマインは硬直してしまい言葉も出ない、そんな動揺する若者の態度にもかまわず話始めた
「よいか私のいう事をよく聞くのだ、もしアミステリアが条件の変更を要求してきてこちらとの話し合いが不調に終わりそうな場合、ソロンドに伝えろ変更した条件を全て飲むから必ず帰って来いと・・・わかったな」
その言葉にカーマインは思わず目を見開き嬉しそうな表情を浮かべる
「ありがとうございます陛下‼本当にありがとうございます・・・」
カーマインは何度も何度も頭を下げた、おそらく今回同行する者達はこの交渉がうまくいかなかった場合ソロンドが命を絶つ事とこの国の命運が尽きる事を知っていたのだろう、先ほどまで緊張でガチガチだった若者は目に涙を浮かべながら何度も頭を下げた
「礼はもうよいから早く行くがよい、ソロンド達が下で待っているのであろう?」
カーマインは玉座の間を出るまで何度も頭を下げていた
ソロンド達一行がアミステリアに向かって出立し一時間ほどたった頃、再び玉座の間で一人考え事をしていたネルリアスの元に一人の男が近づいて来た、それは重鎮の一人であるマウリールという男であった、小柄で痩せ型 出っ歯が特徴のお世辞にも容姿が優れているとは言えない人物だが諜報部隊の長官を任さている重鎮の一人である、しかしながら諜報部としてここまであまり役にたてられる情報を提供してこなかった為そろそろ更迭されるのでは!?と噂されていた男なのである
「陛下、ちょっとよろしいですか!?」
その呼びかけに露骨にめんどくさそうに振り向く、これまでの仕事ぶりからこの男を無能と思っていたが故にどうせ大した事を言いに来たのではないのであろう・・・とタカをくくっていたのである
「何だマウリール、貴公から余に話しかけてくるなんて珍しいではないか!?要件は何だ、手短に話せ」
この時ネルリアスは考えていた
『もしコイツが噂を気にして更迭しないでくれ・・・などと嘆願してくる様なら即座に更迭してくれるわ』
しかしマウリールから言い放たれた話は驚くべき内容であった
「陛下、実は折り入ってお話ししたい事がございます大変重要な話ですのでなにとぞ人払いをおねがいしたいのですが・・・」
「何の話だ!?わかった護衛の兵まで全員退室させる訳にはいかんがそうしてやるから言ってみよ」
ネルリアスはそう言い放つと他の者に無言のまま顎でクイッと退室を命じた、命じられるまま退室する皇帝お付きの者達、最低限の護衛の兵士二人がネルリアスの玉座の左右に守る様に立っているがそれ以外の人間は全て退室し静寂とした雰囲気の中マウリールが話始めた
「ネルリアス陛下におかれましては日ごろ多大な恩恵と尊敬の念を・・・」
その前置きを手を前に差出し制止するネルリアス
「そんな形ばかりの前置きはよい、明瞭かつ完結に話せ」
明らかに不機嫌そうに言い放つネルリアス
「わかりました、ではお話しさせていただきます、陛下は今回のアミステリアからの同盟への参加依頼について不審に思われた事はございませんか?」
マウリールの言葉にピクリと眉を動かし反応するネルリアス
「どういうことだマウリール?余にわかる様に説明せよ」
マウリールの表情に一瞬嬉しそうな笑みが浮かび待ってましたとばかりに目を細めた
「今回我らガルゾフ帝国が不本意ながら同盟に参加せざるを得ない理由はなんだと思われますか?」
ネルリアスの表情がさらに険しいものへと変わる、一番触れられたくない部分へ無神経に踏み込んでくるこの醜悪な小男を睨みつけた
「何がいいたのだ?余を侮辱したいのか!?」
手を振り首を振り大きなリアクションで否定する
「滅相もございません、私が言いたいのはですね今回我がガルゾフ帝国がここまで追い込まれた理由、それはバルザーク様はじめとする魔法使い部隊の消滅、我が国の最強戦士ボウマンを始めとする実戦部隊の壊滅・・・しかしその原因は何でしょう?そうドラグナイトの出現です」
おとなしく聞いていたネルリアスのイラつきも限界を迎えようとしていた
「ワザワザそんな事を言いに来たのか!?死にたいのか貴様は‼」
そんなネルリアスの怒りにも動じる様子も無く淡々と話を続けるマウリール
「いえとんでもございません、ここからが本題でございます、陛下は不思議に思いませんか?ここまで伝説と言われてきたドラグナイトがなぜ突然現れたか、しかも被害を受けている国は我がガルゾフとグランシアのみ・・・この事によって一番利益を受ける国はどこでしょう?」
あまりの発言に少し身を乗り出して耳を傾けるネルリアス、マウリールはさらに話を続ける
「そして本来全ての国家間での取決めであった”ドラグナイト出現の際は全ての国が協力しこれに対処すべし”という絶対的な協定を真っ先に破った国はどこですか?」
先程までの怒りはどこかに吹き飛び、ネルリアスの表情が信じられないといったモノに変っていく
「まさか・・・まさか・・・」
「そうですアミステリア公国です、我々諜報部はドラグナイトを裏で操っていたのはアミステリアだと確信しております、しかし残念ながら確固たる証拠を掴むところまでは至っておりません・・・」
ネルリアスはあまりの事にふらりと立ち上がり次第に怒りで体が震えだした
「おのれ・・・おのれアミステリア、何と卑劣な!サラボルンのジジイ・・・いやこんな事を考えられるのはあの小娘だな!?それともゲルハートとかいう男か!?」
マウリールはしばらく怒りに震えるネルリアスの事を黙って見ていたが頃合いを見て再び話始めたが
「陛下、これは策略の基本なのですが相手を危機的状況に追い込み選択の余地がない所で相手に選択させる・・・今アミステリアがやっている事がまさにそれです、わかっていながらもどうしようもない・・・我々はまんまとハメられたのです」
怒りでどうにかなってしまいそうなネルリアス
「そんな国と同盟なぞ組めるか、早くソロンドを呼び戻せ‼」
「陛下・・・それはできない事は陛下自身が一番お判りでしょう」
マウリールが諭す様に話しかける、益々頭に血が上るネルリアス
「ではどうしろというのだ!?このまま屈辱的な事実を黙って受け入れろと‼」
マウリールの目がギラリと光る
「陛下、我々は今回アミステリアの策略にまんまとやられました・・・しかしこのまま黙って引き下がるだけでは悔しくありませんか?私にいい考えがありますが聞いていただけないでしょうか!?」
ネルリアスは玉座に座り直し落ち着いたフリをして怒りの混じった目でマウリールを見つめる
「何だ!?どんな策だ!?言ってみよ」
「はい、今世界ではアミステリア公国とは別にスタネール共和国を中心に同盟国を増やしている事をご存知ですよね?」
「そんな報告は聞いたな・・・いずれその陣営とも同盟を組んで巨大連合を形成しグランシアを完全に抑え込もうという考えもあるとか・・・それがどうかしたのか?」
マウリールの口元がニヤリと緩む
「その中心国スタネールに対して我々が受けた策略をそのまま使うとおうのが私の策なのですが」
「どういうことだ?もっと具体的に話せ」
目を閉じ一旦間を空けながら勿体付けて話すマウリール
「つまりスタネールの中心人物、第一王子コンラートの暗殺です」
思わず立ち上がり言葉に詰まるネルリアス
「な!?なんだと、そんな事が可能なのか?しかもそんな事をして我が国にどんなメリットがあるのだ!?」
「今世界ではアミステリアとスタネールを中心にそれぞれが同盟国を増やしつつあります、いずれはこの二つを統合して巨大連合を作ろうという考えがあるというのは先程陛下も話されたと思いますがまだ具体的な動きがある訳ではありません、そこでスタネールの最強戦士であり次期国王のコンラートを暗殺しスタネールを弱らせたところで我がガルゾフが有利な条件でスタネールに連合への勧誘するのです、世界的な巨大連合のイニシチアブを我らガルゾフ帝国が取るのです、どうですか?」
マウリールのあまりの提案に思わず息を飲むネルリアス
「しかしそんなにうまくいくのか!?それにもし失敗したら・・・」
「確かに物事に絶対はありません、失敗する可能性はあるでしょう・・・しかしその場合でも絶対に我々の仕業とはわからない様に工作いたします、その辺りは万全の対策をいたしますのでお任せください、つまりもし失敗したとしてもデメリットはありません、どうですか?」
その言葉にニヤリと微笑むネルリアス
「わかった、その策を実行せよ」
「かしこまりました早速手配いたします、それで陛下、もしこの作戦がうまくいきましたら・・・」
「わかっておる、出世でも褒美でも好きなように取らせる、だから必ず成功させろ、いいな‼」
「かしこまりました、必ずや陛下に良い報告を・・・」
深々と頭を下げるマウリール、その口元はニヤリと笑みを浮かべていた。
グランシア王国の居城であるメルマンティア城の玉座の間では皇帝サランディアが玉座に腰かけながら肘掛けに右ひじを付き拳を頬に当てながらいつものスタイルで目を閉じ何かを待っていた
「ロネオラ様がおいでになりました」
伝令の兵がそう伝えるがサランディアは何の反応も無く目を閉じたまま動かない、そんな所にロネオラが静々と入って来た
「陛下、お呼びとあって参上いたしましたがどのようなご用件でしょうか?」
サランディアは少しカチンときたがそれを態度にだすことはない
『このタヌキ爺は・・・わかっておろうに・・・』
「ジイ私に何か報告は無いのか?」
ロネオラの表情がやや曇る
「はい、非常に心苦しいのですが今のところ陛下に報告できる程の事はございません・・・」
「先日話していた”深淵の預言者”とかいう占い師はどうした?近日中には確保できるであろうと言っていたが!?」
「申し訳ありません、確保までもう少しの所でしたが色々邪魔が入りまして・・・例の黒装束の集団が現れたらしく隠密部隊は全滅いたしました、おそらくその連中にやられたのではないかと・・・」
サランディアの表情がやや険しくなるがあくまで平坦な口調で語りだした
「どうして我が国のやろうとする事にはこうも邪魔が入るのであろうな・・・まあよい元々占いでドラグナイトを探そうなんて荒唐無稽な話なぞ最初から無かったと思えばよいだけだからな、それで我が国の捜索部隊の方はどうなのだ?なにか有力な情報はないのか?」
「残念ながらまだ有力な情報は得られておりません、全力で探してはいるのですが・・・」
サランディアはため息をつき、ふと横を向きながらつぶやく
「まぁいきなりドラグナイトを探せというのも大概無茶な話だからな・・・」
「確かにそれについてはこのジイも疑問に思っております、陛下は本当に見つかると思っておいでですか?」
「見つかれば儲けもの・・・ぐらいの感じだな本当の狙いは別にある・・・それより例のアミステリアとスタネールに仕掛ける工作とやらはどうなっておるのだ?」
その質問にフッと笑い答えるロネオラ
「その件でしたら順調に進んでいるようです、まだ報告は来ておりませんがおそらく近日中には良い報告が来ると思われます」
疑問に満ちた目でロネオラを見つめるサランディア
「ジイは先日もそう言って失敗したではないか!?先日はあえて聞かなかったが一体どのような策を弄したのだ?アミステリア共とスタネール共に連合を組ませず争わせる方法とは?」
一瞬たじろぐロネオラ、メリンダの確保に失敗したのはロネオラにとっても計算外でありそこを突かれると返す言葉も無いというのが事実だ、だから今回の策略が失敗するといくらロネオラとはいえ立場上あまりよろしくないのである
「先日も少し話しましたがガルゾフを利用します、あそこには私の息のかかった内通者がおります、その者を使ってネルリアスを動かします」
「ほぅ、で!?何をやるのだ?具体的に申してみよ」
ロネオラの表情が真剣なモノに変わり少し声のトーンが低くなる
「スタネール共和国の第一王子であるコンラートを暗殺させます」
サランディアは目を細めロネオラを見つめた
「中々面白い話だが・・・そんな事がうまくいくと思うのか?」
フッと息を吐きゆっくりと首を振るロネオラ
「まぁ失敗するでしょうな、それこそうまくいけば儲けもの・・・ぐらいな感じです、しかし重要なのはそれを実行させることにあります」
「どういうことだ?わかる様に説明せよジイ」
サランディアが興味を持ち早く聞きたがっている事がわかると、あえて一呼吸置いて淡々と語り始めるロネオラ、若い皇帝に対しこの老獪な話術はソロンドとも共通する事でもある
「つまりこの作戦はネルリアスがコンラート暗殺を指示したという事が重要なのです、暗殺の指示がネルリアスである事は絶対にバレない・・・と説得し、その暗殺命令を出させます、そして作戦の成功失敗に関わらずネルリアスが暗殺を指示したという事実を証拠を付けてスタネール側にリークします・・・」
その説明にサランディアがニヤリと笑う、その表情を見て思わずロネオラの目元が嬉しそうに変わった
「中々面白い策略だなジイ、しかしそんなにうまくいくのか?そもそもネルリアス自身がこの作戦に乗って来なければこの作戦自体意味が無くなるし奴の側近にも反対する者がいるのではないのか?」
ニヤリと笑うロネオラが話を続ける
「ネルリアスは必ず乗ってきます、元々奴は野心の塊でプライドも高い、アミステリアとの同盟にしても渋々従っているにすぎません、今の切羽詰まった状態でちょいとおいしそうな餌を目の前にぶら下げてやれば必ず食いついて来ます、それにガルゾフにはネルリアスの決定に意見できるようなものはほとんどいません、唯一ソロンドという重鎮がネルリアスに意見できる者なのですが、先日の我が国とグランドレッドによる連合軍のアミステリア侵攻に対してガルゾフが援軍を出さなかった事からアミステリア側にガルゾフとの同盟締結に反対する意見も出てきております、ですからその説得には必ずソロンドがアミステリアを訪問するはずです、ですからそこを狙ってソロンド不在時に動きます」
サランディアはロネオラの策略に満足げに聞いていた
「なるほどな、先日の我々のアミステリア侵攻も完全な無駄ではなかったという訳だな・・・それにアミステリア側の同盟締結に対する反対意見というのもどうせジイが裏で糸を引いているのであろう!?」
サランディアのその質問にロネオラはニヤリと笑うだけで言葉を発しなかった
『全く食えないジジイだ・・・伊達に歳は食っていないという事か・・・』
そんな時一人の兵士が息を切らし慌てて玉座の間に入って来た
「も、申し上げます‼皇帝陛下にお会いしたいという者が二人このメルマンティア城に来ております‼」
慌てて報告をしに来た兵士に対して顔をしかめるロネオラ
「その者達はどこかの国の特使なのか!?でなければいきなり陛下と謁見などできるはずもなかろう、何をいまさら・・・」
興奮しているその兵士はロネオラの意見を聞いていないような態度でまくしたてた
「その者達は”自分たちはドラグナイトである”と申しているのですがいかがなさいましょうか!?」
「なっ!?なんじゃと‼」
その報告に驚くロネオラ、先ほどまでの冷静な態度から一変し明らかに動揺していた、それとは対照的に待ってましたとばかりに明るい表情を見せるサランディア、そのサランディアの態度を見てロネオラは初めて気が付いた
『兵達にドラグナイトを探せと命じたのは本当に探し出せると思ってしたのではなく、我が国がドラグナイトを探している・・・という事を世に広めたかったという事か!?ドラグナイトの耳に入る様に・・・』
その思惑に気が付き感心するロネオラを尻目にサランディアは兵に命じる
「すぐにここに通せ、くれぐれも失礼の無いようにな」
「かしこまりました、すぐにお連れいたします‼」
命じられた兵は急いで玉座の間を出ていくと広い玉座の間に沈黙という静寂がおとずれた、1分ほどそれが続いた後それを破る様にサランディアがつぶやく
「ようやく我らにも流れが向いて来たか・・・」
そのつぶやきに大きくうなづくロネオラ、しばらくすると数人の兵士が二人の若者を連れてきた、グランシア皇帝の前に出てきたのにもかかわらず、二人はかしこまった態度を取ることも無く緊張すらしていない様子であった、それを見た兵士が
「皇帝陛下の御前であるぞ‼その態度は・・・」
二人に注意しようとした兵の言葉を遮るサランディア
「止めよ、私はこの者達を客人として迎えたいのだ形式ばった挨拶など無用だ、さて私がグランシア王国皇帝ロズワルド・サランディアである、よくぞ我が国へ来てくれた、まずはそなた達の名を聞かせてくれぬか?」
サランディアは二人に対して高圧的な態度を取る訳でなく、へりくだった態度でもない本当に客人を迎えるような自然な態度で話しかけた、そんなサランディアの態度に顔を見合わせ軽くうなづく二人の若者、まずは背が高く黒い短髪で目つきの鋭い男が自己紹介を始めた
「はじめまして、俺はビヒテンバルト・アインゼルというよろしく」
続けて金髪の優しげな男も続く
「こんにちは、私はイゴール・シェルチェンコといいます、よろしく」
二人はあくまでも自然体であり特にかしこまったところは見受けられない、まるで同級生に話しかけるようなその姿勢にロネオラを始め周りの兵達は呆気に取られている、そんな事はお構いなくサランディアが話を続けた
「そうか、アインゼル殿にシェルチェンコ殿というのかいい名だ、ところで我が国に来られた理由をうかがってもよいか?」
アインゼルの目つきが鋭くなりシェルチェンコがかすかに微笑む、わかっている癖にワザと聞いてくるのか!?と言わんばかりな態度だった、しかしサランディアは表情を崩さない、今度はシェルチェンコから口を開く
「陛下が我々を探していると聞いてこうして参上しました、それとも我々の勘違いでしたか?」
サランディアとシェルチェンコの探り合いが始まるがそれを聞いていたアインゼルが右手で頭をかきながら話に割り込んでくる
「あのよ、俺はそういう駆け引きとか苦手だしぶっちゃけやりたくないんだわ!?俺達に用があるから探してたんだろ、何で俺達を探してたんだ?事と次第によっては協力する事になるかもしれないし戦う事になるかもしれないからな、その辺をハッキリしたいんだけどよ、どうなんだい?」
鋭い視線でサランディアを真っ直ぐ見つめるアインゼル、口調は普通だったが返答次第では今すぐここで戦う用意があるぞ!?と言わんばかりの意思が感じられた、その言葉に息を飲む兵士達、しかしサランディアはあくまで自然体で平然と答えた
「確かにその通りだ、下手な駆け引きなど無用であるな・・・すまなかった、では本題に入るが単刀直入に言おう我々に力を貸して欲しい、その見返りとして君達の望む条件はできる限り飲む、どうかな?」
アインゼルは鋭い目つきでサランディアを見つめたまま問いかける
「それは俺達にアンタの部下になれ、という事か!?」
「いや、そんな事はない、あくまで客人としてでよい、だから私の命令に従う事は無いという事だ、もちろん作戦上必要とあればそれなりの権限は与えるし待遇も将軍クラス以上のモノを約束しよう」
アインゼルはシェルチェンコと再び顔を見合わせ何やらボソボソと小声で話していた、そして先ほどまでの厳しい表情から一変し明るい表情を浮かべるアインゼル
「その話乗ったぜ!?元々俺達は世界を相手に戦う気なんてさらさらないしな、でも世間ではドラグナイトは”破壊の化身”みたいな事言われててよ甚だ迷惑してたんだわ、いくら俺達が強くても世界中を相手に戦って一時も気が休まらないってのは正直避けたかったからな、世界最大国家であるグランシアがバックについてくれるなら有難てぇ、俺達の要求は美味い物食って贅沢できればかまわない、グランシア程の巨大国家なら簡単な事だろ!?後は俺達に命令するなという事だ、アンタの要望はなるべく聞くようにするし戦う事も嫌いじゃない、しかし俺達とアンタはあくまで対等の立場だ、その条件でよければだが・・・どうだい?」
その返事にサランディアはニヤリと笑う、しかしそのやり取りを見ていたロネオラが皇帝であるサランディアと同等の立場という条件の要求や不遜な態度を見ていてイラつきながら思わず口走った
「お待ちくだされ陛下!?この者達が本当にドラグナイトなのか確認した方が良いのではないでしょうか?伝説の力がどれほどのモノかこの目で確かめたいと思いまするが‼」
サランディアはロネオラの意見に軽くうなづき改めてアインゼルとシェルチェンコに話しかける
「なるほどな、確かにジイのいう事にも一理ある・・・どうであろう二人とも伝説の力を余にも見せてはくれぬか!?」
アインゼルは面倒臭そうな態度を見せたがシェルチェンコが嬉しそうに口を開いた
「わかりました、ではドラグナイトの力をお見せしましょう、とはいえ城を壊したり山を吹き飛ばしたりしてもそちらにご迷惑でしょうから誰か私の相手をしてもらって力を証明します、そうだ!?城門前でお会いした背の低い隊長さんに相手してもらいましょうか!?」
それを聞いたアインゼルが嬉しそうにニヤける
「そりゃあいいや、おのオッサンに相手してもらうか!?」
アインゼルもシェルチェンコもサディスティックな笑みを浮かべて喜んでいる、その表情に一瞬背筋がゾクリとするロネオラ、サランディアはロネオラの方を向き問いかける
「城門の前にいた隊長とは誰の事だジイ?」
「おそらくアリシエント・ノーダイン連隊長の事だと思います、しかしあの者はあまり戦いには向いていないと思われますが・・・」
「という事だが、なんならもう少し強者を用意させるが!?」
サランディアの提案に首を振るシェルチェンコ
「いえ彼でかまいませんよ、どうせ誰が出てきても我々からしてみれば大差ありませんから・・・」
その二人の態度にサランディアとロネオラは
『弱そうな相手に勝って力の証明をしようとでも思っているのか!?まさか本当は偽物だとか・・・』
頑なにノーダインとの対戦を望む二人の態度に疑いを持つがここは言われた通りに従う事にした、横に控えている兵に対してロネオラが指示を出す
「至急ノーダイン連隊長をここに呼べ」
指示を聞くと早足で玉座の間を出ていく兵、しばらくするとその兵に連れられてノーダインが現れた、連隊長レベルではこの玉座の間に足を踏み入れた事は無くもちろん皇帝陛下と対峙することなど初めての事である、緊張と場違い感で舞い上がっているノーダインがサランディアの前に跪く
「私に御用との事でまいりましたアリシエント・ノーダイン連隊長でございます、今回は一体どのような用件でしょうか?」
緊張でやや声が震えているノーダイン、その様子と見るからに弱そうなその容姿を見てロネオラのいう事に納得するサランディア
「うむ、実はそなたにはここにいるシェルチェンコ殿と戦って欲しいのだ」
「はっ?私が戦いでございますか!?」
あまりの驚きで声が裏返り目を丸くして確認するノーダイン、我に返り慌てて横を見ると先程城門前で自分と言い争った若者二人がニヤニヤしながらこちらを見ている
「あの陛下!?一体どういう事なのでしょう?私は戦いはあまり得意ではありません、といいますか私より強いものなどいくらでもいると思うのですが・・・」
サランディアは冷淡と思える程淡々と説明する
「そちらのシェルチェンコ殿がどうしても貴公と戦いたいとの事でな、それとも余の命令が聞けぬと申すか!?」
「滅相もございません、喜んでやらせていただきます」
慌てて目一杯否定しひれ伏すノーダイン、その態度は見ていて滑稽な程であった、そんな時シェルチェンコが挙手をしてサランディアに提案した
「ちゃんと私の力を見ていただく為にある程度実戦形式でおこないたいと思っています、つまり真剣勝負を所望します、その結果お互いどちらかが命を落とす事もあるかもしれませんがよろしいですね?」
ノーダインの顔から一気に血の気が引く、慌ててロネオラの方に向きすがる様な眼差しを向けるノーダイン、その意をくんでかロネオラがサランディアに向かって嘆願する
「お待ちくだされ陛下‼このノーダインという男は武勲こそありませんが実に優秀で今まで一度の落ち度もなく国に仕えてきた男です、ここで死なせるにはあまりにも惜しい、せめて模擬戦にしていただく事はできませんでしょうか!?」
ロネオラの鬼気迫る提案に事務的ともいえる口調で問いかけるサランディア
「という事だがどうするシェルチェンコ殿?」
シェルチェンコは肩をすぼめ両腕を広げて
「まぁしょうがないですね、それで結構ですよ、しかし模擬戦とはいえ手を抜きたくは無いのでどちらかが”参った”と言ったらおしまいにするというのはどうでしょう?」
シェルチェンコの提案に少しホッとするノーダインとロネオラ
「そのルールで決定という事で異論ないな!?それでは今から闘技場に移動し模擬戦を行う両者それで良いな!?」
深々と頭を下げるノーダインとは対照的に終始ニヤついているシェルチェンコ、話はこれで終わりサランディアを始め全員が闘技場に移動を始めた時、ロネオラが早足でノーダインに近づき耳元でささやいた
「お前の相手はドラグナイトだ、偽物の可能性もあるが本物だった場合万に一つもお前に勝ち目は無い、陛下の手前全く戦わない訳にはいかないが適当なところで早めに”参った”しろいいな!?」
その事実を知らされると、その場で硬直し歩く事も出来ずに恐怖でガチガチと歯を鳴らし震えるノーダイン、その目には薄っすら涙があふれてきた、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったがそんな事をすれば自分の家族にまで害が及ぶ可能性があった、皇帝の命に背くとはそういう事なのだ、妻とまだ3歳の息子の為に恐怖で固まる足を無理やり動かし闘技場に向かうノーダインであった
「遅せーよオッサン、何してやがったんだ!?」
先に着いていたシェルチェンコ達に遅れる事15分後、ようやく闘技場に現れたノーダインをアインゼルが罵倒する、しかし当のノーダインにはそんな声は聞こえていなかった、重武装な鎧に身を包み大きな盾と短い剣を持って構えているがガタガタと震える体の振動で鎧の金属がぶつかり合いカチャカチャという規則正しい音が見ている者にすら聞こえてきた、そんなノーダインの様子を見て腹を抱えて笑うアインゼル、サランディアはあくまで冷静に見ていた、そして開始の号令をかけるべく二人の間に入った兵が両者の顔を見回し語りかける
「それでは模擬戦を始めます、どちらかが”参った”といったところで試合は終了ですよろしいですね!?では始めます、試合開始‼」
さっと盾を構え防御の姿勢をとるノーダイン、その表情は悲壮感が漂い見ている者が辛く感じる程であった、対するシェルチェンコはまだ武具を装備すらしていない両手を腰に当て微笑みながらノーダインを見つめている
「はぁ・・・せっかく責める隙を作ってやったってのにな、じゃあボチボチいきますか!?チェンジ装備ドラゴン‼」
シェルチェンコの姿が光に包まれたかと思った瞬間、全身を黄色い鎧をまとったシェルチェンコの姿が現れた、その鎧の周りにはにはバチバチと巨大な静電気の様な放電現象が起きていて普通の人間なら触れただけで死んでしまうのではないかと思える程であった、左手に持っている盾には龍の紋章が刻まれておりその見た目だけで伝説のドラグナイトであることは疑いようも無かった
「おぉ~これが伝説のドラグナイトか!?」
サランディアの表情がが珍しく歓喜で緩む、対照的にロネオラの表情は険しくなる
『本物であったか!?我が国にとってこれは僥倖なのか?それとも凶兆なのか?・・・』
龍装備をしたシェルチェンコに対して益々硬直するノーダイン、一向に攻めて来る気配の無い相手に対して半ばあきれ顔を浮かべるシェルチェンコ
「しょうがないなぁ・・・じゃあこうするか!?」
そう言い放つと手に持っていた剣と盾をその場に投げ捨てた、そして右手を相手に向けて中指の先を親指で抑え指を引き絞る、それはまるで何もない空中にデコピンを食らわすような仕草だった
「あれは一体何をするつもりなのだ?」
サランディアが不思議そうな表情を浮かべ思わず口走る、その時引き絞った中指を勢いよく弾いた、何もない空中にデコピンを放ったような動作をした瞬間
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~‼」
ノーダインの絶叫が闘技場に鳴り響いた、思わず地面に倒れ込み転げまわるノーダイン、よく見るとノーダインの剣を持っていた右手が消し飛んでいたのだ、見ている者達も何がおこっているのかわからない、あまりの苦痛で転げまわるノーダインに向かってすかさずロネオラが叫ぶ
「参ったしろ‼ノーダイン早く参ったと言え‼」
ロネオラの言葉を聞いてシェルチェンコの口元が緩む
「そんな事させないよ・・・」
シェルチェンコは今度は人差し指を向け転げまわる相手に向けた、激痛の中参ったの宣言をしようと口を開いたノーダインの口の中に何かが入って来たような感覚を受けた、その瞬間ノーダインはある異変に気付く、声が出ないのだ口の中がしびれていて感覚すら麻痺してしまっている、何度も何度も声を出そうと試みるが唸り声のような音を出すのが精いっぱいなのだ、その時顔を上げシェルチェンコの表情を見ると満面の笑みを浮かべこちらを覗き込んでいた、激痛と恐怖でとめどなく涙が出て来てきた必死に声を出そうとするが喉がしびれて出す事ができない
「アウゥゥウゴガオガオォォアアァァァァ~~‼」
必死で訴えるノーダインに再び指を引き絞るシェルチェンコ
「アアアアァァ~~ガオァァ~~‼」
今度はシェルチェンコの左足が吹き飛んだ、大量に噴き出る血液が自分の顔にかかり恐怖と苦痛にゆがむ表情がさらに際立つ、あまりの所業に思わず顔をそむける者も出て来ていた
「陛下‼もう勝敗は決しました、早く止めてくだされ‼」
ロネオラがサランディアに嘆願する、しかしロネオラの訴えにも無反応なサランディア、再びロネオラが訴えようとしたその時
「止めるんじゃねー‼相手が参ったしない限り試合は止めない約束だろ‼」
横で見ていたアインゼルがロネオラに向かって叫ぶ、サランディアが態度も表情も変えずに口を開いた
「アインゼル殿の言う通りだ、私は皇帝として約定を反故にするようなマネはできん」
皇帝のその言葉に血で真っ赤になったノーダインの表情が絶望に染まる、サランディアはそんな男に対し静かに告げた
「貴様の家族は私が責任を持って面倒を見ると約束しよう、安心して死ね」
サランディアがそう言い放つとノーダインはその場で意識を失い絶命した、ロネオラが力なくうなだれる、そして横の兵に対して指示を出した
「ノーダインの遺体は丁重に扱え、家族への報告は私がする・・・」
終始態度を変えなかったサランディアに対してシェルチェンコとアインゼルが近づき話しかけた
「まだ力の証明は必要ですか?お望みなら何人相手でもやりますが!?」
「俺の力も見てもらってないしな、やってもいいぜ!?」
サランディアは二人の提案に対して
「いやもう十分だ、君達の力はよくわかった、ところでこれからの事なんだが・・・」
そう言いかけた時シェルチェンコがサランディアの言葉を遮る
「そのこれからの事なんですが私達に考えがあるんですが聞いてもらえますか?」
「何かな?聞こうじゃないか」
シェルチェンコはアインゼルの方に目線を移すとアインゼルは軽くうなづいた
「わかりました、ではまず我々ドラグナイトの事なんですが陛下はドラグナイトは世界に七人いる事をご存知ですか?」
その情報に驚きすかさず聞き直す
「七人だと!?そんなにいるのか!?・・・しかし先日メルトラント王国でドラグナイト同士が戦い一人敗れて捕えられていると聞いた、という事は多くても6人ではないのか?」
「いえ7人です、その敗れて捕えられた男はおそらくドラグナイトの権利を剥奪されたのでしょう、ドラグナイトは本人の意思とは関係なく強い者から強い者へと継承されていくモノなんです、だから必ず世界に七人存在するんですよ、そこで我々からの提案なのですが、我々ドラグナイトは圧倒的に強い、しかし絶対無敵という訳じゃありません、今回陛下が我々のバックについてくださるという事で世界中の軍隊を敵に回すという心配はなくなりました、残る可能性は一つ・・・そうドラグナイト同士の戦いです」
サランディアは息を飲んだ、そこにアインゼルが話に割り込む
「だから俺達は他のドラグナイトを探し出して二人でボコッってしまおうって事なんだ、そんでもって俺達の仲間になるか、それとも拒否して殺されるか選べってな・・・」
「ドラグナイトは全員で七人、ならば過半数である4人を抑えてしまえばもう敵はいないという事です、仲間になる事を拒絶した奴を殺せばまた別の人間がドラグナイトになるんですから、その時はまたそいつを探し出し選択を迫るんですよ仲間になるか?殺されるか?選べってね、それを繰り返せば自然と人数が増えて行き過半数を確保、そして七人全員仲間にしてしまえば驚異は全て取り除かれますからね、でも我々は世界制覇なんて全く興味は無いですからそこは陛下にお任せますよ、ドラグナイトが全員陛下の仲間になれば容易いと思います。」
「まぁ俺達は身の安全が保障されて面白おかしく暮らせればいいだけだからな、その目的とアンタのやりたい事は利害が一致するって事で、だから世界征服はアンタに任せるぜ歯向かう奴は俺達がぶち殺してやんよ」
世界征服の事をまるでついでの用事みたいに軽々と言い放つ二人の若者にサランディアは驚きと喜びを表情に出さないように抑えるので必死だった、そしてあくまで冷静を装い二人に問いかけた
「ありがとう、本当に心強いな・・・それでこれから他のドラグナイトを探すって事なのかな!?私に協力できることはあるかね?」
「いや、俺達の中には探索能力を得意として持っている奴もいる、実際俺はその能力でシェルチェンコを探しだしたんだからな、それにもうすでに一人見つけてある・・・今から二人でそいつの所に行こうと思っているんだ!?」
「ほぅ!?もう見つけているとは凄いな・・・相手は一体どんな奴なんだい?」
サランディアの質問に何やら嬉しそうに答えるシェルチェンコ
「闇の龍戦士、ダークドラグナイトですよ・・・先日グランシア軍10万人を壊滅させたっていう奴です、陛下も思うところがあるでしょうができれば仲間にして陛下の前に連れてきますから楽しみにしていてください」
「まぁ俺達の仲間になる事を拒絶したらぶち殺す事になっちまうけどな!?はっはっは」
サランディアにとって先日の大敗北のリベンジのチャンスがこれほど早く来ることになるとは思ってもみなかっただけに期待が膨らみ、先ほどから込み上げる喜びを抑えきれなかった。
今回は読み味の悪い内容になってしまいました、私自身こういった内容が好きなモノですからつい・・・気分を悪くされた方はすみません、また長い話になってしまいましたがこの”双頭の龍”編は3~4部構成になりそうな気がしております、もう少し簡潔に書けるように努力しますのでまたおつきあいください、では。




