表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

氷壁の魔女 世界三大賢者編

フォレスト・シャーロット…ローゼフォン公国の最高司令官兼国務大臣を務める、冷却系魔法が得意で世界三大賢者の一人、”氷壁の魔女”という異名があるが本人はそう呼ばれることを凄く嫌っている

ローゼフォン・ソレリア・フローラ…ローゼフォン公国の女王、歳も近い事からシャーロットとは仲が良く二人とも美人であることから”ローゼフォンの双華”と呼ばれている

リチャード・ハウゼン(ジェームズ・マクシミリアン)…世界の魔法使いのトップ、三賢者の一人でスタネールの大賢者とよばれている

鳴沢英治…脳科学の権威でワールドファンタジアのデータはほとんど頭に入っている

ジェームズ・ハワード…第64代アメリカ合衆国大統領

オストフ・ヴィ・リードヴィッヒ…スタネール共和国王、部下や国民からの信頼も厚い

コンラート・ヴィ・リードヴィッヒ…オストフ国王の息子で次期国王、精鋭騎士団”烈風の牙”のリーダー

須賀之清長…ジパングの摂政を務める陰陽師のトップ、”史上最強の陰陽師”と呼ばれていてハウゼンと同じく”世界三大賢者”の一人

武野宮正成…ジパングの第17代皇王、まだ12歳なので政治は主に清長ら陰陽師の重鎮達に任せることが多い

ローゼフォン・ソラリア・シェリル…フローラの姉で本当は女王になるはずだったが体が弱く断念した、非常に聡明で妹思い

ソドム…黒装束の集団のリーダー格の男、合成獣の研究を進めていて自分自身も非常に強い

我妻之烈海あがつまのれっかい…前の陰陽師の頭領”我妻之烈山の息子であり様々な研究をしている

今ローゼフォン公国の居城であるミラーゼ城の迎賓会場ではスタネール共和国の一団を迎えての歓迎会がおこなわれるところであった、華やかに着飾った紳士淑女が数々集まりハウゼンや清長は寧ろ場違い感が際立つ程であった、ここにはローゼフォン公国の貴族や重鎮が集まりそれぞれが楽しげに歓談をしている様子があちこちで見られる、楽団による演奏の披露もあるが魔法先進国である事を象徴するかのように奏者は不在で宙に浮いた楽器だけが美しい音色を奏でていた

「スタネール共和国の皆様、遠路はるばる我がローゼフォン公国までようこそお越しくださいました、ささやかではございますが歓迎の宴を用意いたしましたのでどうぞごゆっくりお楽しみください」

フローラ女王の挨拶を皮切りに歓迎会が始まった、立場上シャーロットはフローラ女王のそばに付き従っていた、このようなパーティー会場で美女2人が並ぶと華やかさも一層増し彩りを添える世間では”ローゼフォンの双華”と言われているがそれも決して誇張された表現ではないと誰もが納得した、その二人を目当てに次々と人が集まってきた、今回須賀之清長は来客として認定されていない、いわゆるお忍びで来ていたのでスタネールの一団の一人という事になっていた、そんな清長がハウゼンに話しかける

「おいマクシミリアン、あの魔女目当てにやたら人が集まって来ているではないか、あんなに相手してて今夜の作戦大丈夫なのか!?」

「まあ大丈夫でしょう、彼女に人が寄ってくるのは立場上仕方のない事ですし彼女にしてみればいつもの事でしょうから・・・」

「私も国内では同じような立場だがあんなに人が来たことは無いがな」

「それは皆があなたを怖がっているからでしょう、あなたは正成様以外には厳しいですからね、それに美しい女性と話せるというのはやはり嬉しい事なのでしょう」

「ふんくだらぬ、臣下というのは主人に対していかに役に立ち忠義を尽くせるか?という事であろうに」

「しかしあなたの正成様への態度は少々度が過ぎている気がしますが!?」

「それこそ余計なお世話だ、いくら同盟国でも国内の事に口出しするのは明らかな越権行為であろう」

「まあその通りなんですが、あくまでも忠告という事です」

「それこそいらぬお世話だ、必ず私が正成様を世界一の王にしてみせる」

ハウゼンはこれ以上何を言っても無駄と察して話題を変えることにした

「実は先程少し耳にしたことなんですが、どうやら例のおとぎ話”太陽姫と白銀の魔女”なんですが子供向けの本や教科書に載せる際に少しアレンジを加えるそうです、本来白銀の魔女は200歳を超える老婆だそうですが、それを若くて気立てのいい金髪の美女に変更するそうですよ」

「なっ!?それって・・・ぷっ」

清長は思わず吹き出す、ハウゼンが話を続ける

「そして魔女の名前もシャルロットに変えるそうです」

清長はその場でうずくまり震えながら笑いを堪えていた、すると連続して挨拶に来る人々から逃げるようにシャーロットが近づいてきた

「何か楽しそうねあなた達、こっちは対応に大変だというのに・・・」

「それはしょうがない事でしょう、それが国の重鎮の仕事なんですから」

「まあそうなんだけどさ・・・ねえ清長どうしたの?お腹でも痛いの?」

うずくまっていた清長はようやく立ち上がりシャーロットの肩の上にポンと手を乗せた

「まあ頑張れよ、皆お前の事を思っての事だからな・・・」

急に優しい言葉をかけてきた清長に不思議な表情を浮かべるシャーロット

「あ、ありがと・・・なによ気持ち悪いわね・・・」

「あら珍しいわね!?」

三人がそんな他愛もない話をしていた時、後ろから若い女性の声が聞こえた、三人が声の方向に振り向くとその声の持ち主は車椅子に乗り少しやつれてはいるものの非常に美しい女性であった、彼女の仕草やしゃべり口調には知性や気品が感じられ立ち振る舞いなどからもかなりの高貴な人物なのであろうと思われた、シャーロットがその女性に深々と礼をする

「これはシェリル様、体調の方はよろしいのですか?」

「ええ、今日は少し気分がいいのでここに来てみたの、ご迷惑だったかしらね?」

「迷惑なんてとんでもないです、シェリル様・・・紹介しますこちらはジェームズ・マクシミリアンです」

「マクシミリアンですよろしく」

「そしてこちらが・・・」

シャーロットが清長を紹介しようとした時、それを遮る様に清長が自ら自己紹介を始めた

「私は藤原之忠久と申しますよろしく」

「私はローゼフォン・ソラリア・シェリルと申しますよろしくねお二人さん、シャーロットがフローラ以外でこんなに楽しそうに話しているの初めて見たから・・・」

「そんな・・・これはですね・・・」

「ふふふそんなに照れなくてもいいじゃない・・・ゴホッゴホッ・・ごめんなさい、ゴホッ・・・」

咳き込むシェリルにシャーロットが慌てて周りを見渡す、咳が止まらないシェリルの口にはうっすらと吐血が見えた

「医療班早くシェリル様を寝室へ、お付きの魔法使いは何をしている!?」

場内が一瞬ざわつく、シャーロットたちが見守る前で数名の人間が抱える様に保護すると皆の視線を遮るように囲まれシェリルが運ばれていく姿が見えた、会場の雰囲気が一変する、その時

「皆様お騒がせしました、どうぞ続けてパーティーをお楽しみ下さい」

重くなった空気をフローラが一蹴する、しばらくすると再び華やかなムードが戻っていた、シェリルの引き上げた方向をしばらく見つめているシャーロット

「シャーロット今の方は?ローゼフォンの名を冠するという事は・・・」

ハウゼンの問いに静かにうなづくシャーロット

「シェリル様はフローラのお姉さまよ、本来ならシェリル様が女王になるはずだったんだけど三年程前からお体を悪くされてね・・・いつもフローラの事を心配している妹思いのお姉さまで、自分がこんな体じゃなければフローラにこんな苦労を掛けずに済んだのに・・・といつも嘆いておられて、泣いてフローラに謝っている姿も何度か見たことあるわ・・・本当にお優しいお方なのよ・・・」

「そうでしたか・・・お気の毒に、このローゼフォンの魔術医療の技術をもってしても治らないのですか?」

「うん、残念ながらね・・・ねえ清長、あなたは私達と違う視点で見る事も出来るし一度シェリル様を診てくれない? そういえばあなたさっき咄嗟に偽名を使ったわね、助かったわ危うく本名を言っちゃうところだった、あなたは今回お忍びだもんね・・・どうしたの清長?」

清長はしばらく考え事していてシャーロットの話も上の空で聞いていたようだった

「ん?何でもない・・・それで何の話だ?おとぎ話の改定の話か?」

「おとぎ話の改定?何言ってるのアンタ、今度一度シェリル様を診てくれないか!?という話よ」

「あぁわかった、また今度な・・・」

そうしているうちに華やかな歓迎会は終演を迎えお開きとなり各自部屋や自分の領地に引き揚げていく

「じゃあ今から一時間後に出発するわよ、集合場所は北門の脇にある馬小屋という事で、あそこなら警備兵にも見つからないから」

「了解した一応ゲルムガルンに対してわかっている事を教えてくれ」

「そう言うと思って書面にしておいたわ読んだら処分しておいて頂戴ね、マクシミリアンもそれでいい?」

「ええそれで構いませんよ、しかし一応念のため我々の身代わりの傀儡を城に置いておくのがいいでしょう、それで清長その傀儡をあなたに作って欲しいのですが・・・」

清長の顔が明らかに不快な表情に変わる

「あ!?そんな物自分で作れば良かろう、なんで私が貴様らの傀儡まで作らねばならぬ」

「我々の術式だとダミーの為の傀儡を作った場合意思をリンクする為ずっと魔力提供をおこなわないといけないんですよ、ゲルムガルンからの魔力提供となると中々骨が折れますしね、それに比べてあなたの術式だと一度作ってしまえば魔力の消耗は一切なくしかも傀儡自身が自由意思で判断して行動できると聞いています、こと傀儡の様な術式に関しては我々の魔術よりあなたの陰陽道の方が遥かに優れていますからね」

清長は渋々ながら傀儡の制作の為の準備を始めた

「じゃあ貴様ら、髪の毛でよいから私に渡せそれで傀儡を作る」

ハウゼンとシャーロットは各自の髪の毛を数本清長に渡すと、それを紙に重ねて印を結んだ、その時ニヤリと笑った清長の顔が少し引っかかったがそのまま見守った

「オンキリキリハッタオンソワカ‼」

その瞬間紙が一瞬で三人の姿となって現れた、真顔のまま直立している三人の傀儡を満足げに見ている清長、背丈や恰好に至るまで寸分変わらぬ傀儡に様々な角度から自分のダミーをまじまじと見つめるシャーロット

「本当に陰陽道の傀儡って凄いわね、これで魔力提供も無しに自由意思で行動できるなんて・・・我々術式ではここまではとてもできないものね・・・」

そう言いながらシャーロットは自分の傀儡の頬を撫でた、その瞬間”パチン”という音が夜空に響き傀儡の方のシャーロットが本物のシャーロットの手を勢いよく払いのけた

「な!?一体どうしたの?」

その行為に一瞬たじろぎ驚くシャーロットに傀儡がギロリと目線を向けて

「無礼者‼私は氷壁の魔女なるぞ‼魔女の力をその身に食らいたいのか、うつけ者‼」

それを聞いたシャーロットの表情が見る見る怒りに変わっていく

「な!?なによこれ‼・・・ちょっと清長‼アンタ私の傀儡になんて事を・・・えっ!?」

シャーロットが清長に怒りをぶつけようとして勢いよく振り向く、するとそこには清長の傀儡に対しハウゼンの傀儡が土下座して謝っている光景が飛び込んできた、地面に頭を擦り付けてひたすら平伏するハウゼンの傀儡、そしてそれを無表情で踏みつけている清長の傀儡の姿が見えた

「今まで無礼の数々本当に申し訳ありませんでした、今後二度とあなた様には逆らいませんのでなにとぞお許しを・・・あっ、踏んでいただけるんなんて何というご褒美・・・」

謝りながらもどこか嬉しそうなハウゼンの傀儡に対し無感情でぐりぐり踏みつける清長の傀儡、そんな傀儡たちを見てニヤニヤ笑っている清長、シャーロットはその二人の傀儡をみて思わず吹き出す

「ぷっ!?何あれ、ちょっと面白いかも」

そんな時後ろからの大声で我に返る

「我こそは氷壁の魔女‼しかし本当は太陽姫になりたかった悲しき魔女なり‼」

慌てて傀儡を羽交い絞めにして口を押えるシャーロット

「何をする、私は氷壁のまじ・・・もごもご・・」

傀儡を必死で抑えるシャーロットが物凄い形相で清長を睨む

「清長‼今すぐこの傀儡を何とかしなさい、本当に殺すわよ‼」

ハウゼンはため息をついて呆れ顔で清長を見つめる

「清長あなたという人は・・・まあ時間も無いですしこのまま行きますか、とりあえず傀儡は用意できましたし」

思いもよらないその言葉に驚いてハウゼンを見つめる清長とシャーロット

「えっ!?よいのか・・・この傀儡で?」

作った清長自身が非常に驚きハウゼンに問いかけた

「まあ一日ぐらいこれでいいでしょう、魔力提供無しで変わりを務めてくれるんですから多少の事は目をつぶります」

「いいわけないでしょ‼私は反対よ、こんな傀儡置いて行ける訳ないじゃないの‼私は・・・」

シャーロットが何かを言いかけた時、タイミングよく傀儡が

「氷壁の魔女だ~‼でもほんとうは太陽姫になりたかったのよ~‼」

自分の傀儡を必死で取り押さえながらもシャーロットは恥ずかしさと怒りで頭がおかしくなってしまいそうだった、そんなシャーロットを気にもせずハウゼンは懐から一枚の布を取り出すとポイッと宙に放り投げた

「フライングカーペット」

そう叫ぶと空中にふわふわ浮かぶ絨毯が現れた、これは使いきりのアイテムの一つで三人での移動手段として使用するつもりで出した物だ、ハウゼンと清長はそそくさとそれに乗り込む

「じゃあ出発しますよ、シャーロット早く乗ってください」

シャーロットは相変わらず傀儡と格闘している

「見てわからないの!?今それどこじゃないのよ・・・あっ!?」

傀儡のシャーロットが一瞬の隙をみて羽交い絞めをほどき逃げ出したのだ、傀儡は全速力で走り去りあっという間に夜の闇で見えなくなった

「ちょっと待ちなさい‼・・・あっ!?」

魔法の絨毯自身に意思があるかのようにシャーロットを乗せた、逃げて行った傀儡の方向に手を伸ばして

「いや、ちょっと待ってよお願いだから・・・」

「いえ待ちません、行きますよ」

ハウゼンは無情に言い放つと絨毯は一気に上空に舞い上がる、音も立てずに浮かぶその絨毯は隠密行動には最適な移動手段でありこれ自体中々のレアアイテムなのでその説明をしようとハウゼンが口を開こうとしたそんな時、暗闇の中に叫び声だけが響き渡った

「私は魔女‼でも太陽姫になりたかったのよ~‼」

宙に浮かぶ絨毯の上で”あああぁぁぁ~”と嘆きながら頭を抱えてふさぎ込むシャーロット、自分で仕掛けておきながらさすがの清長もシャーロットが気の毒になってきた

「その・・・すまぬ、まさかこんな事になるとは・・・私にできる事ならばお主の頼みを聞くから・・・」

そんな清長の言葉に顔を上げうっすらと涙を浮かべ引きつりながらも微笑むシャーロット

「じゃあ早速頼むわ、あなたを殺させて今すぐよ、ねえいいでしょ!?」

その言葉に清長も言葉が出ない、そんな二人のやり取りを見て

「あなた方は何を言っているのですか、そんなふざけてないで真剣に頼みますよ、たった三人で一国家に乗り込むんですから・・・全く緊張感が無いというか、状況の把握ができていないというか・・・」

ハウゼンのあまりの言葉に清長は絶句する、そして横から何やら冷気を感じ振り向くとシャーロットが呪文の詠唱をしていたのだ

「氷の精霊偉大なるトラテミアよ汝の涙をここに示し・・・」

「貴様一体何をやっている!?馬鹿な事は止めんか‼」

慌ててシャーロットの口を塞ぐ清長、涙目になりながら叫ぶシャーロット

「放しなさいよ、今わかったわ本当に倒すべき敵はゲルムガルンなんかじゃない、アンタたちよ‼」

清長は懐から呪符を数枚取り出し鬼を召喚する、鬼達は連携してシャーロットを取り押さえにかかる、相変わらず泣き喚きながら暴れるシャーロット

「あなた達を殺して私も死ぬわ!?だから~‼」

そんな騒ぎをよそに空飛ぶ絨毯は美しい星空を音も無く静かに飛び続ける、絨毯のから見つめる月が非常に間近に感じられ幻想的な雰囲気を漂わせた、ハウゼンだけはそんな夜空を静かに見つめていたが泣き喚くシャーロットと取り押さえる清長はそれどころではなかった、時折氷漬けになった鬼が絨毯からこぼれ落ち真っ暗な森に消えて行った、スピード感こそ感じられないがかなりの速度で目標に進んで行く絨毯

そうしているうちにゲルムガルンの居城ピエトラーデ城の上空に到達した、馬なら半日はかかる道中も2時間足らずで到着したのだ、一行を乗せた絨毯はゆっくりとそして静かに降下を始める、着地寸前に絨毯の下から息を吹き出すかのような空気が吹き出し、その後全員が降りると仕事を終えた絨毯はスッと闇に消えて行った、絨毯から降りた一行は確かめるようにゲルムガルンの大地を踏みしめ”ふぅ~”と息を吐いた、その頃にはシャーロットも何とか落ち着きを取り戻していた

「なんか迷惑かけたわね・・・もう大丈夫よ」

ここに到着するまでに12体の鬼が氷漬けにされていた、呆れているハウゼンとようやくホッとした清長

「まあなんだ・・・ここからが本番だからな、お互い気持ちを切り替えて行こうではないか!?」

その清長の言葉に微笑みながら明るく答えるシャーロット

「何言ってるの、あなた達の事は許す訳ないじゃない、でもここからは国の為にやるべきことをしましょうってだけよ」

その表情と言っている事が一致しないシャーロットに言葉も出ない清長、そしてハウゼンが

「さあ話もまとまったようですし行きますか!?」

清長が驚きながらハウゼンを睨む

『どこをどう聞いたら話がまとまったように見えるのだ?本当にこいつは空気を読むとか気を使うという感覚をどこかに置いてきているのではないのか?』

絨毯により難なく城内に侵入できた三人は場内を見渡す、どうやら着地したのは城門の裏の中庭の様な開けた場所に降り立ったようだった、夜中であるがゆえに人の気配は無く城壁の上には見張りの兵もいたが意識が外に向いているので、まさかすでに城内に侵入せれているとは思いもよらないのであろう、そしてシャーロットが話を切り出す

「さあここからどうする?今は正面から突っ込んでもいいぐらいの気持ちなんだけどね!?」

「いえそれはマズイでしょう、暴れるにしてもギリギリまで隠密行動をとりましょうせっかくの少人数で侵入できたのですから」

シャーロットの半分冗談、半分やけくそな意見に真面目に答えるハウゼン、堪りかねた清長が

「ここは私が物見を放つ、その結果でどうするか判断するがよかろう」

そう言いながら懐から複数の紙を取り出すと印を結び紙を投げ捨てた、するとその紙はそれぞれが10㎝程の非常に小さい鬼に変化した、小鬼達は召喚された直後は辺りをキョロキョロ見回していたが計った様に一斉に走り出し城の中へ消えて行った、目を閉じてジッと鬼達の様子をうかがう清長、そして目を大きく見開くと

「一か所小鬼が入れなかった所がある、そこへ向かうとするか」

言い終わる前に歩き始めていた清長、それについて行く形になる二人、目的地に着くまでの道中何人かの巡回していた警備兵に出くわしたが、兵がこちらに気が付いた時にはその兵達は氷漬けになっていたので問題なく進んで行く、敵城の真っただ中なのに何もなかったように歩みを進める三人、何か所か物理的な鍵や魔法処理をしてある結界が存在したが歩みを止める事も無く片っ端から解除していくハウゼン、そんな時ハウゼンが清長に問いかける

「先ほどは聞きそびれましたが清長、あなたはなぜここまで来る気になったんですか?最初は自分には関係ないと言っていたのに・・・」

「少々気がかりがあってな・・・それを確かめたくて来たまでだ貴様らの為ではない」

「その気になるという事を教えてください、ここから我々は運命共同体です情報の共有はあった方がいいでしょうから」

ハウゼンの提案に渋々ながらも語り始めた清長

「陰陽道というのは使い手によって癖というか好みや特徴みたいなものが出る、昼間の盗聴ネズミだがアレに近い術の使い手を良く知っているのだ・・・」

その話を聞きながら不思議そうに発言するシャーロット

「じゃあその人なんじゃないの?」

「いやそれは有り得ない」

「なぜなのよ?」

「そいつは死んだからだ・・・」

清長の言葉に息を飲むシャーロット、続けてハウゼンが問いかける

「そうですか・・・しかしその人の可能性は本当に無いのですか?死んだと思われていた人物が実は生きていたなんてよく聞く話ですし死の偽装なんて、それこそ陰陽道の得意とするところではないですか!?」

「それは有り得ない」

「何でよ、何でそんな事が言い切れるのよ?」

「私が直接手を下したからだ、私を相手に死の偽装なんてできるはずがない」

またもや言葉を失うシャーロット

「ならばその同門の陰陽師とか師匠とか弟子とかならどうなのですか?そういった同門の技は似てくると聞いた事がありますが・・・」

「それも有り得ぬ」

「なんでよ、その可能性だって十分あるじゃないの!?」

「全員私が殺したからだ」

もはや何を言って言いのかわからないシャーロット、ハウゼンが半ばあきれ顔で問いかける

「随分と物騒な話ですね・・・一体何があったのですか?」

少しの沈黙の後口を開く清長

「そいつは前の陰陽師のトップで一門の頭領だった男だ、そいつを殺したおかげで一門の弟子たち全てを敵に回す事になった・・・」

「なるほど、それで返り討ちにしたと・・・その男は一体何をしたんですか?」

「私の師を暗殺しその罪を私に着せようとした」

あまりの話にシャーロットが絶句する、かまわず話を続けるハウゼン

「であれば仕方がないですね、その相手もあなたの力を恐れての事でしょうが・・・相手が悪かったですね、しかし国中の陰陽師を皆殺しにしたら完全なお尋ね者じゃないですか!?よく生きていられましたね?まぁ、あなたならできなくはないんでしょうけど」

「さすがの私も国を相手に戦う気にはなれずに投降し無実を訴えたんだが、ダメだった・・・処刑されそうになった時正成様に救われたのだ」

その時ハウゼンとシャーロットは正成に対する清長の異常なまでの忠誠心の理由がわかった気がした、そして今度は清長が質問する

「私は私の理由があってここに来ているのだが貴様らはなぜここに来ている、国の秘宝が盗まれた件に関係しているみたいだが、何があったのだ!?」

「そ、それは・・・」

シャーロットが口ごもる、さすがに本当の事を全て話すのも抵抗があり言いづらそうにどう説明しようか悩んでいたところに

「その秘宝を使って大量殺りく兵器の開発をしていたんですよ、ですからその秘密がバレていないか心配でここまで来たんです、場合によっては潰すまでしなくても小さくないダメージを与えてやる必要がありますからね」

「何であっさりバラしちゃうのよ!?それにもっと言い方ってあるじゃない」

「大量殺りく兵器だと!?なんと愚かな、どうせそれがどんな結果をもたらすか考えもせずに研究が面白くて没頭したんではないのか?浅はかな・・・」

「うっ!?その通りよ・・・今となっては恥ずかしい話だけど・・・笑いたければ笑えばいいじゃない」

もう開き直りすねたような仕草で恥ずかしそうに話すシャーロット、呆れている清長に

「浅はかといえば清長あなたのやった事も大概浅はかだと思いますよ、ドラグナイトもどきを量産して世界を相手に侵略戦争を起こそうなんて・・・」

「何よそれ!?アンタ世界征服なんて目指してたの!?私なんかよりずっと痛いじゃない」

「ちょ!?それには理由があるのだ、私は正成様の為にだな・・・」

ハウゼンは二人のやり取りを聞いて再びため息をつく

「全くあなた達は・・・目くそ鼻くそとはこの事ですかね!?私に言わせればどちらも馬鹿の極みというか救いがたいというか・・・私なら自殺モノですよ全く・・・」

清長とシャーロットが物凄い形相でハウゼンを睨みつけた、何事も無かったように涼しい顔を決め込むハウゼン

「ねぇあなた・・・言っていい事と悪い事ってわかるかしら?いい加減その上から目線が鼻に突くんですけど、スタネールの大賢者様!?」

「その通りだ、やはり貴様とはキッチリ決着を付けなければならんようだな!?」

めんどくさそうに清長を見て淡々と語るハウゼン

「決着なんて先日ついたじゃないですか!?私の勝ちで」

それを聞いたシャーロットが嬉しそうに清長に話しかける

「なに?アンタ負けたの!?カッコ悪~い ぷ~くすくす」

「なっ!?あれは無効だ、自分だけ賢者の石を使っての勝負なんて私は認めないからな‼」

「賢者の石ですって!?何よそれ、なんであなたがそんな物持っているの!?ねえマクシミリアンさっきの発言許してあげるからちょっと私に預けなさいよ、伝説のアイテムを一度研究してみたいと思っていたし」

「賢者の石といってもレプリカですよ、本物は行方不明になってしまいましたから・・・それに私はあなたに許してもらわなければならないような事はしてませんが!?」

シャーロットの眉が再びピクつく、そんな事はかまわずにハウゼンが続ける

「そもそも賢者の石の研究って・・・ヤバさはフロストバスターより上じゃないですか!?本当に反省しない人ですねぇ、三歩歩いて忘れたのですか?馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが・・・」

シャーロットの体が怒りで震え始め周りの気温がどんどん下がり始める、そこに清長が割って入る

「まて、コイツをぶちのめすのは私の役目だ貴様は引っ込んでろ」

「はぁ!?アンタ一度負けてるんでしょ、負け犬こそ引っ込んでなさいよ」

「聞いていなかったのか!?賢者の石なんてチートアイテムを使っての卑怯な勝負なんて無効だと」

その発言にハウゼンが反応する

「しかしあなたは私がジパングに行ったとき結界を張った罠を使って私を殺そうとしましたよね、あれはとても正々堂々とは言えない卑怯な手段だとだと思いますが?」

「何それ、そんな卑怯な手段使っても勝てなかったんなら一生勝てないわよ、今度はアンタ自身が土下座して許してもらったら」

「黙れ魔女、貴様から殺すぞ‼」

「やれるものならやってみなさいよ負け犬‼」

三人の負けず嫌いが衝突し三賢者による魔法大戦争がおこる寸前で目的地に到着した、大きな扉の前で侵入出来なかった小鬼がピョンピョン跳ねている、今までの扉とは明らかに異なりかなり厳重に何重もの封印がしてある、その先に重要機密があると示しているようなものだった、そんな最後の魔力結界をハウゼンが難なく解除する

「さて個人的な勝負はお預けという事で気を取り直して行きますよ、いいですね二人とも」

「貴様の仕切りというのがどうにも気に入らんが仕方なかろう」

「私も本当に寛大な心でお預けにしてあげるから、付いて来なさい」

大きな扉を開けると階段があり先は暗くて見えない、どうやら地下室へと続いている様だった、薄暗くじめじめした感じの石造りの階段を降りていく三人、地下に続いている階段にしては妙に広い通路が気になったが下に降りるにつれ三人共にヤバい雰囲気を感じ取っていた

「これはヤバい雰囲気がプンプンするわね、この妖気・・・何があるとこんなヤバい妖気が漂うのかしら!?」

「そうですね、これはかなり・・・しかしこの妖気どこかで・・・清長これはまさかと思うんですが?」

「貴様にもわかったか!?しかしこれは少しだけ違う、何にしろ見てみない事にはわからんな」

「なによ二人とも、こんな妖気に何か心当たりがあるの!?なんかとんでもない物を見せられそうね」

「二人とも、くれぐれも当初の目的を忘れないでください、ゲルムガルンがフロストバスターを使って何をしようとしていたのか?裏切者は誰なのか?それを確かめた後に・・・」

「ぶちのめすのね、OK」

嬉しそうに舌をぺろりと出すシャーロット、そこに表情を変える事も無く清長がぼそりとつぶやく

「裏切者はもう見当が付いている・・・あとは手段だが、おそらくこの下に行けばわかるはずだ・・・」

「何よそれ!?誰が裏切者なのよ‼教えなさいよ‼」

その言葉に思わず大声で質問するシャーロット、地下への階段の中でその声が反響する

「下に行って確認してからだ、それまで待ってろ」

不満顔のシャーロット、そうしているうちに地下室に到着する、扉には結界や鍵などの細工もしてなく金属製の大きな扉を押すと”ギィ~”という重たい音と共に扉が開いた、そこはホールの様になっていて地下室とは思えないほど天井も高くそして広かった

「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ‼」

ホールの中央には腕を組んで勝ち誇っている男がこちらを見ていた、後ろには2千人程の兵士を従え魔法使いと思しき集団も数十名いるようだった、上を見ると四方の踊り場のような所から弓兵が矢を引き絞りいつでも号令と共に放てるよう三人に狙いを定めている、すでに勝ちを確信していたその男は

「はっはっは、ようこそ我がゲルムガルンへ、これがあなたへのおもてなしの用意です、ご満足いただけると思いますよ”氷壁の魔女”」

シャーロットはため息交じりにめんどくさそうな態度で

「ライスリード将軍・・・あなたは相変わらずセンスがないわね、もう少し女性をエスコートするならもっとおしゃれな用意をしなさい、だからモテないのよあなたは・・・」

その言葉に顔をピクつかせるライスリード

「そんな事を言ってていいんですか?いくらあなたでもそんな少人数でで乗り込んで来るとは・・・飛んで火にいる夏の虫とはこの事です、降伏しなさい、ならば命だけは助けてあげますよ、何なら私の愛人にしてやってもいい、どうですか?”氷壁の魔女”」

「はぁ?愛人って・・・そんな事言ってるから奥さんにも愛想つかされるんじゃないの、そもそもあなたが私と釣り合うかどうかわかんないの?ゲルムガルンには鏡が無いのかしら?」

「なっ!?言わせておけば言いたい事を!?どうやら本当に死にたいらしいな、見よこの私の鎧を‼」

ライスリードは自信満々に・・・というより自慢げに見せつけてきた、その鎧は派手な装飾こそなかったが美しい造形と細かい技術、そして体にピッタリのサイズと腕のいい職人にオーダーメイドで作らせたことは一目でわかった、そして鎧の周りにうっすらと赤いオーラを纏いユラユラと揺らめいていた

「あんたそれってまさか・・・」

勝ち誇るライスリード、笑いをこらえきれないとばかりに話始める

「そうだ、これはお前の国から奪ったアンキロナイトで制作した鎧だ、しかも冷却魔法対策の為に何重もの魔法処理をしてある、つまりお前の得意な冷却魔法は一切私達には効かないという事だ、はっはっは‼」

「やっぱりアンタたちがアンキロナイトの輸送車を襲っていたのね・・・男の癖に姑息な!?」

「馬鹿が、これも戦略だ!?ここでお前を倒しておけばローゼフォンなぞ恐れるに足らん‼力を過信して三人で乗り込んで来るなど愚かな・・・ついてきた部下もろとも安心して死ぬがよい」

部下といわれてカチンときた二人がズイッと前に出てきて自己紹介を始める

「初めまして、私スタネール共和国のジェームズ・マクシミリアンと申します」

「私はジパング宰相、須賀之清長と申す」

その名を聞いたときのライスリードの顔は気の毒な程動揺していた

「えっ!?スタネールの大賢者と史上最強の陰陽師!?そんな馬鹿な・・・何で?あり得ない・・・あり得ないぞ!?」

ライスリードの後ろの兵達も動揺する、中でも数十名の魔法使い達の慌てっぷりはひどかった、それもそのはず、世界の魔法使いの頂点がそこに並んでいるのである

「世界の三大賢者!?冗談じゃない、そんなの相手に戦えるか‼」

「話が違うぞ、何でこんな所に三人揃っているんだよ、意味わかんねぇ」

「逃げるか!?でも出口はあそこの扉しかないし・・・嫌だまだ死にたくない・・・」

動揺する一同にライスリードの副官と思われる男が一括する

「静まらんかバカ者どもが‼ライスリード殿、しっかりしてくださいいくら相手が世界三大賢者とはいえ今圧倒的有利な立場にいるのは我々ではないですか!?」

ライスリードはすがる様な目で副官を見る、この副官はバンダレイといい一兵卒から腕一本で副官まで成り上がった叩き上げの男である、腕っぷしも強く冷静沈着、よって部下にも慕われている、逆に元々一流貴族のボンボンであるラースリードは武勲も才能も無く親のコネで将軍になっただけの男であるから普通に指揮を任せても軍として機能しないし基本平民を馬鹿にしているから部下もついてこない、軍部としてはしょうがないので優秀な副官を付け何とか軍隊としての形を保っているのだ

「どういうことだ副官?」

死の恐怖に怯えきっているライスリードは恐る恐る副官に尋ねる

「いいですか?今四方からわが軍の弓隊が包囲しいつでも相手を蜂の巣にできます、しかもここは地下です、つまり相手がいくら凄い魔法使いでも巨大呪文など使用すれば自分達も瓦礫の下敷きになってしまうから使えません、それに地下である事と入り口の封印でここには精霊の数も少なくまともな呪文は放てないはずです、ましてやライスリード様を始め全員冷凍呪文対策を施している精鋭ばかり、そもそも三人とも魔法使いのパーティーなどバランスが悪い事この上ないではありませんか!?呪文の詠唱の隙を与えず接近戦に持ち込めば魔法使いだけのチームなど物の数ではありません」

バンダレイ副官の言葉によって急に元気を取り戻すラースリード

「そうか!?そうだ、うんその通りだ私が負けるはずないのだ、よし弓隊よあいつらを蜂の巣にしてやれ‼」

四方から一斉に矢の雨が降り注ぐ、ライスリードが勝ちを確信したその瞬間すべての矢が三人に当る寸前で凍り付き砕け散った、弾ける様に砕け散り粉々になった無数の矢たちは空中に霧散する、それがキラキラと光り三人の周りに降り注ぐような形になった、とりわけシャーロットの周りを彩る氷の粉は美しい彼女をさらに美しく見せる為の演出の様にすら見えた、呆気に取られるライスリードとバンダレイ、呆けているライスリードに代わりバンダレイが指示を出す

「切り込み隊抜刀‼手筈通り三班に分かれ各方向から一斉に斬りかかれ‼」

”おおぉぉ~”という掛け声と共に三班に分かれ三方から斬りかかるゲルムガルン兵、皆今回の戦いの為に選抜された精鋭たちである、統率された集団が三人に向って一気に襲い掛かる、すると清長が懐から複数の呪符を出し印を唱える

「オンキリキリアビラウンケンソワカ‼」

そして呪符を投げつけた、するとそれは次々と姿を変え2m程の鬼となった、薄い黄色の体に異常に発達した胸筋、普通の鬼よりも巨大で鋭い爪と牙、清長がオリジナルで作り出した鬼”双鬼”である、本来ドラグナイト量産計画の為に開発された鬼なのだがハウゼンによって計画は潰された為、仕方なく戦闘用として使っているのだ、しかし双鬼は元々普通の鬼よりも強くて獰猛なので戦闘用としても非常に使い勝手が良かったのである、双鬼が守る様に三人を取り囲む、ゲルムガルンの斬りこみ隊が次々と切りかかって来るが、それをものともせずに蹴散らしていく双鬼、ゲルムガルン兵の剣はいくら渾身の力を込めて斬りつけても双鬼の固い皮膚に傷をつける事も出来ない、逆に双鬼は相手の鎧を紙でも破るかのように引き裂いて行く、ゲルムガルン兵の断末魔だけが地下室に響き渡る、体を引きちぎられ内臓をまき散らすゲルムガルン兵、密封された地下室で臓物の匂いが辺りに立ち込め一旦距離を取り対峙する切り込み隊、すると双鬼達は切り裂いた兵達の内臓をバリバリ食べ始めた、中にはまだ生きていて意識もある兵士もいたが、そんな事はお構いなしに生きたまま内臓を食い破られた兵士が悲鳴を上げる

「嫌だ、助けてくれ嫌、ぎゃああああぁぁぁ~いてぇ~やめろ~痛い、痛いってば助けて・・・」

地面にまき散らされている複数分の臓物を拾い上げ美味そうにグチャグチャと食べる双鬼、それはまさしく地獄絵図であった、ライスリードは完全に戦意を失い人目をはばからず号泣しながら嘔吐する、そんな司令官の姿を見てバンダレイは歯ぎしりしながら次の指令を出す

「魔術師部隊、切り込み隊の刀に魔法処理を‼今のままではあの鬼どもの皮膚を切り裂く事は出来ん、早くしろ‼」

「しかしバンダレイ様、ここは地下室です精霊がほとんどいない為に簡単な治癒魔法しかできませんが・・・」

「馬鹿者、もっと冷静にならんか!?あれだけの死人が出たのだ、暗黒魔法ならば使用可能であろう、早く魔法処理を、切り込み隊は魔法処理を受けやすくするために剣を高く掲げよ急げ‼」

その言葉を聞いて切り込み隊は剣を高々と掲げる、そして魔法使い軍団は一斉に呪文の詠唱を始めた

「闇の精霊偉大なるゾギアスよ、その黒き心の底にある醜き力の・・・」

その時ハウゼンがぼそりとつぶやく

「ディスペル・・・」

呪文を詠唱していた魔法使いの数人の呪文が発動前にはじける、その衝撃で数名が”うわっ”と叫び声を上げた、さすがのバンダレイも何がおこったのかわからない、そんな事はお構いなしに次々と呪文を解除していくハウゼン

「ディスペル・・・ディスペル・・・ディスペル・・・」

ハウゼンの魔法解除により誰一人魔法を発動できないでいた、魔法使い部隊は何度も呪文の詠唱をやり直すがそのたび妨害され焦りと絶望でパニックを起していた、そんな時剣を高々と掲げ魔法処理を今か今かと待っていた切り込み隊の背後に何やら生臭い息遣いを感じて振り向くと、全ての臓物を喰らい尽くした双鬼が涎を垂らしながら立っていた

「ちょっとまっ・・・ぐあっ!!」

それはもはや戦いと呼べるものではなく一方的な蹂躙であった、味方であるはずのシャーロットですら目をそむける惨劇がしばらく続き最後の方では逃げ惑うゲルムガルン兵を双鬼同士が奪い合い争い合って殺していた、どうする事も出来ずにたたずむバンダレイ、二千人いた精鋭部隊はすでに200人程になっており、もう戦意すらなく勝敗の目は誰の目にも明らかであった、その時まで呆けていたライスリードが

「こうなったらいアレを使うぞ命令だ‼」

「しかしアレはまだ試作段階で実用では・・・」

「そんな事を言っている場合か!?皆の者早く放て‼」

バンダレイの掛け声と共に魔法使い部隊を中心に懐からあるものを取り出す、それをみたシャーロットが驚愕の表情を見せた

「うそ・・・そんな・・・なんで?」

ゲルムガルン兵が最後の手段として懐から出した物は丸い金属が電気を帯びて宙に浮いているというモノだった、ハウゼンが眉をひそめて思わず呟いた

「あれは、魔道化学兵器・・・」

「はっはっは、どうだ驚いたか!?自分達が開発した兵器を自分たちで味わうとよいわ‼放て‼」

宙に浮いている魔道化学兵器を三人に向けて一斉に放つゲルムガルン軍、三人の直前まで迫り爆散するか!?と思った瞬間何事も無くその場に垂直に落ちた、まるで急に引力に引かれたかのようにボトボトと落下する魔道化学兵器

「なんだ!?失敗だったのか?」

ライスリードが叫ぶ、すると横からバンダレイがささやいた

「司令官、アレは爆散する前に凍結されております」

目を見開き驚いてバンダレイを見つめるライスリード

「そんなはずなかろう!?元々あれは冷却系の力に電撃を加えてコーティングしたモノだぞ!?冷却系の力には滅法耐性があるはずだろ!?」

うなずくバンダレイ

「その通りでございます、ですから恐ろしいのです、冷却系に高い体勢を持つ兵器を凍結する・・・その意味が分かりますか?」

バンダレイの言いたい事を理解した時ライスリードはの背中にとてつもない悪寒が走り冷や汗がとめどなく出てきた

「我々は戦ってはいけない相手と戦ってしまったようです・・・」

双鬼が残りのゲルムガルン兵を襲うべく涎を垂らして身構えている、清長の号令があれば嬉々として襲い掛かり恐らく5分もたずに双鬼の胃袋に収まってしまうであろう、ゲルムガルン兵の大半はは力なくへたり込み戦意を喪失している、化け物に食われるくらいなら!?と自分自身で喉をかき切り自殺する者すらでてきたのだ、ガタガタと震えもはや言葉も出せないほど怯えきったライスリードを憐れんだ目で見つめるシャーロット、清長が双鬼に攻撃開始の号令をかけようとしたその時

「せめて苦しまずに・・・」

シャーロットが両手を前に掲げ手を広げた、すると残っていたゲルムガルン兵の足元が徐々に凍り始めた、その現象に驚くバンダレイ

「ば、馬鹿な!?俺達は冷却系呪文対策の魔法処理を念入りにしたはずだ!?しかもこんな精霊の少ない場所で呪文の詠唱も無しにこんなことができるはずが・・・・」

その時ライスリードとバンダレイはようやく気が付いた、自分たちはケタ違いの化け物を相手に喧嘩を売ってしまった事を、おそらく今回シャーロット一人で乗り込んできたとしても勝ち目なぞ万に一つも無かったという事を・・・二人がそれを後悔した時にはすでに遅く氷像になっていた、相手を倒しても浮かない顔のシャーロット、ハウゼンがそんな彼女の肩を叩き

「沈んでいる暇は有りませんよ、ここからが本題ですから・・・」

ハウゼンの言葉に戸惑うシャーロット、ここからとは?まさかゲルムガルン兵を皆殺しにでもするつもりなの!?と考えていたが、その問いを聞く前にスタスタと地下室の奥に早足で歩いて行くハウゼンと清長、どうやらハウゼンだけでなく清長もわかっている様子だった

『なんで当事者の私だけがわかってないのよ!?一体この先に何があるの?それにここからって・・・』

三人は地下室の奥まで早足で歩いて行くと、そこには全長15m程の大きな円柱状の物体が置いてありそれには封印の札が何枚も張られていたのだ

「なんなのよこれ?・・・」

見上げるシャーロットが思わず口走る

「やはりありましたね、どう思います清長・・・」

「俺にも何が何だかわからぬ、妖気の気配でこれがあるのでは・・・と思ってはいたが・・・」

「しかしこれがあるという事は犯人はやはり・・・」

二人の会話の意味が全く分からないシャーロットは

「一体何なのよこれは!?そしてこれを見てなんで犯人がわかるの!?私にもわかる様に説明してよ‼」

シャーロットが真相を知りたくてハウゼン、清長に問いかける

「おや!?こんな所で合うとは奇遇ですね」

三人に話しかけていたのであろう声が上から聞こえた、慌ててその声の方向に振り向くと、そこには黒装束に身を包み銀の仮面を被った集団が上部の踊り場でこちらを見下ろしていた、胸には全員蜂の紋章を付けいる不気味な集団にシャーロットは眉をひそめた、その集団と再会した事に一番驚いていたのは清長だった

「貴様ら何でここに・・・・」

「我々もまさかこんな所で再会するとは思いませんでしたよ清長殿」

「えっ!?アンタの知り合いなの?」

シャーロットの質問には答えず清長は厳しい表情で黒装束の男達に向かって話を続けた

「なぜ貴様らがこんな所にいる、答えろソドム‼」

ソドムと呼ばれた先頭の男は動揺もせず淡々と答える

「あなたとの契約はとうに切れている、よってあなたに話す事は何もありませんな清長殿」

「この私にそんな口をきいて生きていられるつもりかソドム?」

「この場所では使える技などたかが知れている、体術で我々に勝てるとは思っていないでしょう清長殿?」

ソドムの言葉に思わず唇を噛む清長、そして待機させている双鬼に号令を出す

「行け双鬼共よ奴らを喰らい尽くせ‼」

清長の号令で一斉に走り出す双鬼、双鬼の運動能力ならば連中のいる上部の踊り場などあっという間に駆け上がることが可能である、すると黒装束の集団の10人程が下に飛び降りて来たのだ

「愚かな、双鬼と体術で戦うつもりか!?」

先程のゲルムガルン兵との戦いで双鬼は一匹も死んではいない、体力も人に比べれば数倍ある双鬼に疲労の跡など皆無である、30匹ほどの双鬼に対して10人程の黒装束集団、勝負になどなるはずがないと思っていたその時である、黒装束の集団は急に方向を変え双鬼のサイドに回り込む、その速い動きについていけない双鬼、それに気が付き双鬼が横を向いたときにはすでに双鬼の胸には手刀が突き刺さっていた”ギャウゥゥゥ~”低い唸り声をあげる双鬼、その瞬間清長がニヤリと笑う、双鬼は自分の胸に手刀を突き刺している黒装束の男をギロリと睨むと鋭い動きで巨大な爪を振り下ろした

「双鬼には心臓が二つある、一つ潰してもまだ死なぬ!?」

清長が勝ちを確信したその時、双鬼の振り下ろした爪の先には誰もいなかった、一瞬相手を見失う双鬼、すると黒装束の男はすでに双鬼の反対側に回り込みもう一つの心臓に手刀を突き刺していたのだ

”ギャウワ~”強烈な断末魔を上げて倒れる双鬼、双鬼を倒した黒装束の男の腕からポタポタと滴り落ちる鬼の血液、その腕を横に鋭く振ると手についていた双鬼の血が飛び散り壁に血の跡が残る事となった

「清長殿、あまり我々をナメてもらっては困るな、そもそも双鬼は我々と一緒に開発した鬼ではないですか!?あの鬼は本来戦闘用では無くある実験の為に心臓を二つ持つ鬼の制作という目的の為につくられた不完全な生物に過ぎない、心臓を二つ作る為上半身を強化し、その結果大きな牙と爪、そして大きな胸筋を得る事ができ普通の鬼よりは強力かもしれませんが所詮は実験動物、強化した上半身に比べて下半身はノーマルのままなのでバランスが悪く上半身のパワーに下半身がついて行けない、とりわけサイドステップに弱く横に回り込むとからきし弱い、それが双鬼です、それに比べて我々は完璧に戦闘に特化しています、そんな不完全な実験動物と一緒にしないでいただきたいですな」

ゲルムガルン軍をあれ程一方的に蹂躙した双鬼達が黒装束の集団に次々と倒されていく、険しい表情で見つめる清長にハウゼンがささやく

「ここは私に任せてください・・・闇の精霊偉大なるゾギアスよ、我は求め訴えたりその罪深き魂の断罪を我に授けん、罪人のとがに永遠の絶望を悪人の罪に永劫の苦痛をその執着の果てに破滅の唄を聞かせん、ゼドベルバング・ドレイシア‼」

ハウゼンの放った暗黒呪文は双鬼を掃討している黒装束の男達を襲った、とはいえ見た目には全く何がおこっているのかわからない、しかし黒装束の男たちの動きが急に止まり耳を抑えだしたのだ

「ぐわああああああぁぁぁぁぁあ~」

次々とその場にうずくまり耳を抑えて倒れ込む、呪文の効果と思える反応に魔法は成功したかに思えた、しかしハウゼンの顔は険しいままである、そしてまだ上部の踊り場にいる黒装束の集団に目線を移すとその瞬間

「グレーターシールド」

女性と思しき声が聞こえシールドを展開する、それでも残りの黒装束の連中にはある程度効果があるようで耳を抑えて苦しんでいた、ハウゼンの放った暗黒呪文は精神系の呪文で呪詛の唄を頭の中に送り込み精神を崩壊させるというモノである、ここ地下室では崩落の恐れがあるので物理的な攻撃呪文はあまり使えないし精霊も少なく通常の呪文は効果が薄いという魔法使いにとっては最悪の場所ともいえる、なのでハウゼンは精神系の暗黒呪文という最善の手段を取ったのだが正直思ったほどの成果は無かった、その原因を考えるハウゼン

「あの銀色の仮面、あれアンキロナイトよ・・・つまりアレに精神系魔法への防御の為の魔法処理がしてあったという事ね、あいつら肉体だけは恐ろしく強化しているみたいだから精神の防御の為に常にあの銀の仮面をつけているんじゃないかしら?」

シャーロットが的確な分析をはじき出す

「鬼による肉弾戦もダメ、精霊不足と崩落の恐れで巨大攻撃呪文は使えない、精神系呪文もダメ・・・となったらもう私の魔法しかないじゃない・・・全員氷像にしてやるから待ってなさいよ‼」

シャーロットがぺろりと舌を出す、すると先程ハウゼンの魔法にシールドで防いだ者が前に出てきて見下ろしてきた、皆と同じく黒装束の恰好であるが先ほどの声と体つきから女性だと思われた

「あなたがさっきマクシミリアンの魔法を防いだ魔術師ね、じゃあ私の魔法も受け止められるかしら!?私のは中々きついわよ」

「待ってくださいシャーロット‼」

それはハウゼンの言葉であった、珍しく大声を出して真剣な表情で制止する姿に戸惑うシャーロット、そして清長もその指示にうなづく

「なんで止めるのよ?訳を言いなさいよ‼」

「あなたは彼女と戦ってはいけません、彼女こそ魔道化学兵器の情報を漏らしフロストバスターを盗み出した張本人ですが・・・」

その言葉に驚くシャーロット

「じゃあなおさら私がやらなきゃダメじゃない、なんで止めるのよ‼」

その時聞き覚えのある声が地下室に響く

「なぁ~んだ、ばれちゃってたのか!?」

その声に驚きを隠せないシャーロット、するとその女魔術師は銀の仮面を外した

「まさか・・・そんな・・・シェリル様?嘘でしょ・・・なんで?」

あまりの衝撃に言葉を失うシャーロット、それを無視してシェリルがハウゼンに問いかけた

「何で私だってわかったの?誰にも怪しまれた事すらなかったのに・・・」

「最初に気付いたのは清長ですよ・・・清長説明してやってください」

「俺がアンタに気が付いたのは初めて会った歓迎会の時だ、あの時アンタ咳をしながら吐血したろ!?その時特有の匂いがしたんだ、あれは間違いなく蟲の匂いだった・・・この女は体内で蟲を飼っている・・・しかしなぜ?それがわからなかったからここに来たんだが、ようやく理由がわかった、アンタ蟲の力と合成獣キメラの力で健康と力を手に入れようとしたな!?」

「ご名答‼さすが”史上最強の陰陽師”と言われるだけはあるわね、そこの小娘とは大違い、妹にすらばれなかったのにふふふふふ」

そしてシェリルは黒いマントも脱ぎ捨てた、すると背中には植物の蔦が何本も生えていてそれがタコの足の様にウネウネ動いているのだ、驚きとショックを隠せないシャーロット

「何あれ?・・・一体何がおこっているの?シェリル様が犯人なんて・・・私はどうやってフローラに言ったらいいのよ・・・」

その言葉を聞いたシェリルの表情が激変する

「貴様がフローラを語るな‼」

憎しみのこもったその言葉にまたもや衝撃を受けるシャーロット

「あの子は私が守ってやるはずだったの、私の大切な妹なのよ・・・なのに、なのにアンタが・・・最近あの子は口を開けばシャーロット、シャーロットって・・・私の居場所を奪い、私の健康を奪い、あまつさえ最後の生きがいだった私のフローラをも奪おうなんて許せない・・・お前だけは絶対許さないからな、この泥棒猫が‼」

「待ってくださいシェリル様、私はそんな事は考えていません、フローラも私の前ではシェリル様の話を良くされます、ですから・・・」

シャーロットの肩を叩く手に気が付き振り向くとハウゼンが悲しい目をしていた、そしてゆっくりと首を振った、それが何を意味するかシャーロットにもよくわかった、続けて清長が語りだした

「あの女はもうダメだ、精神も蟲にやられてしまっている・・・全てが憎悪の対象になってしまっていて正常な判断力は残っていない、もう何を言っても届かない・・・」

シャーロットの目から涙が自然と流れ落ちた

「嘘でしょ、だってアンタ史上最強の陰陽師なんでしょ何とかしなさいよ!?フローラのたった一人のお姉さんなのよ、本当はとってもお優しい方なのよ、アンタ私のいう事聞くって言ったじゃない・・・お願いよ、今度は私がいう事聞くから・・・」

シャーロットの目から涙がボロボロ落ちるが清長は何も言ってあげられなかった、そしてシェリルのいる場所を鋭く睨むと

「おい、いい加減出てきたらどうなんだ?この陰陽師の面汚しが‼」

「随分な言われ様だね・・・お前の様な人殺しが何をえらそうに」

黒装束の男の中からもう一人前に出て来て顔の仮面を外した、するとまだあどけなさの残る少年が恐ろしい形相で清長を睨んでいたのだ

「やはり貴様だったか我妻之烈海あがつまのれっかい‼」

この我妻之烈海は前の陰陽師頭領であり清長の師を暗殺してその罪を清長に着せようとした我妻之烈山あがつまのれつざんの息子である、清長が烈山達に復讐戦を挑んだ際に清長の力を恐れた烈山がもしもの為に当時まだ10歳だった烈海を海外に逃亡させ息子の死を偽装したのである、清長は烈山たちの死はきちんと確認したが息子の死までは調べなかった、自分の子供時代を思い出してしまい罪のない子供を追い詰めてまで殺す気にはなれなかったからである

「なんで僕だとわかったんだい、人殺し?」

「あの鼠の式神はよく烈山が使っていた術だったからな、使い方や術式もそっくりだった、だからもしやと思って来てみたら・・・まさかソドムと組んでこんな外道な事をやっていたとはな、シェリル殿に蟲を仕込んだのも貴様だな烈海、それにあの陰陽道と魔術と錬丹術を組み合わせた醜悪な術式も貴様か?」

醜悪といわれてカチンときた様子の烈海だったが務めて冷静に振る舞った

「ふん、悔しいが陰陽道だけじゃお前には勝てないからね、ありとあらゆる術を調べ組み込んだんだ、しかしそれにはお金も協力者も必要だからね、僕の術をこのゲルムガルンに売ったんだよ、だからゲルムガルンの要請にはことごとく協力してきた、そのバカ女もそうだよ、健康状態を気にしてたところを高名な陰陽師の医学者のふりをした僕が診てやるって言って蟲を仕込んだんだ、そもそも健康状態が悪くなったのもゲルムガルンが仕掛けた呪いのせいなんだけどね、病気を仕掛けた犯人側に体を診てくれって馬鹿な話だろ!?笑いを堪えるのに必死だったよ、コイツは随分妹の事を気にしていたからね、蟲を使って心を蝕んでやったら見事シャーロットのせいだと思い込ませることに成功したよ、でもフロストバスターの時は失敗したけどね、盗み出させたはいいけどギリギリのところで良心が残っていたのか強奪を防がれちゃった、でも当時の記憶も蟲に食われちゃっているからこの女は覚えていないんだけどね、思い出したら自殺するんじゃないの?はっはっは」

その話を聞いてシャーロットが恐ろしい目で烈海を睨んでいた、もう怒りで頭がおかしくなりそうだった

「なぜそうまでしてシェリル様を!?シェリル様には何の恨みも無いだろうが‼」

「だからぁゲルムガルンの依頼だからやったって言ったろ!?ギブアンドテイクってやつだよ、別にそのバカ女にもアンタにも何の恨みも無いよ、でもしょうがないよ仕事だもん、それをこなさないとそこの人殺しは殺せないからね、僕は誓ったんだ絶対父上の仇を取るって・・・優しくて立派な父だったんだ、僕の自慢の父だったんだ・・・絶対に・・・絶対に許さない‼この身を鬼に食わせてでもその人殺しを殺すって誓ったんだ‼その為ならば僕は何だってやるさ‼」

その言葉に清長がシャーロットに謝る

「スマン、私のせいで貴様に迷惑をかけた・・・償えることとは思えんが私がキッチリ幕引きする」

清長は人差し指と中指を立てて印を結ぶ烈海も合わせて印を結んだ

「オンキリキリナモマリシテンキュウキュウニョリツリョウ‼」

「オンキリキリナモダイアンコクテンキュウキュウニョリツリョウ‼」

二人の力が激突する烈海は自分の憎悪の気持ちをありったけ乗せて陰陽術を使った、それには魔術により力を増幅させる要素も取り入れ錬丹術により力をより集約させた

『僕が全てをかけて研究したこの三重呪殺法は単なる陰陽道だけのモノより絶対に優れているんだ、負けるはずがない‼』

烈海は勝ちを確信していた、その目はギラつき清長を殺す事だけを考えて生きて来た目だった、そんな烈海を冷ややかな目で見ていた清長、清長自身両親とはいい思い出はない、しかし自分を引き取り陰陽道を仕込んで育ててくれた師、清山の事はよく思い出す、烈海の父である烈山は自分にとっては最悪な男だったが烈海にとっては良い父なのであったんだろう・・・と今なら思える、しかし烈海のやった事は許される事ではないし生かしておいても同盟国や正成の為にもならない事は理解している

「陰陽師、我妻之烈山を殺したことは悪い事だとは思っていないだから貴様に謝罪もせん‼」

その言葉に烈海の怒りは頂点に達する、しかし清長の話は続いた

「しかし貴様の父である我妻之烈山を殺したことは謝ろう。すまなかった・・・」

烈海には清長が何が言いたいのかわからなかった、だから余計に怒りを増幅させただけの結果となる、しかし清長はかまわず術に力を込めた、すると一気に形勢が傾く、今までは烈海の力を見る為にワザと手加減していたのだ、押され始めて動揺する烈海

「馬鹿な!?そんな馬鹿な、僕の術は魔術と錬丹術によって増幅されているんだぞ‼単なる陰陽道だけのアイツ負けるはずが!?」

その問いに寂しげに答える清長

「1の力をいくら増幅しても100の力には勝てないんだ・・・安易に他の術に頼ったお前の負けだ、そんな事は陰陽道の基礎の基礎なんだがな・・・せめてお前にも師がいればな・・・」

烈海は涙目になりながら最後の時を迎えようとしていた

「僕の師はお前が殺したんじゃないか‼僕の師と父親はお前が・・・」

最後にそう言い残し烈海は清長の術によって消し飛んでしまった、そこには今まで何もなかったかのような静寂がおとずれていた、そんな中二人のやり取りをみていたソドムは

「やはりあなたと戦う事は無謀の様ですな清長殿、我々はこれにて失敬させていただく」

「この私から逃げられると思っているのか?」

仮面で表情は見えないがソドムと清長の睨み合いが数秒続いた、その時シェリルがその間に割り込んでソドムの盾になる様な構えを見せた、そのシェリルごと吹き飛ばそうとする清長

「止めて清長‼お願いよ・・・シェリル様を殺さないで・・・」

シャーロットの言葉に一瞬隙ができる清長、ソドムはその隙を見逃さなかった懐から取り出した煙幕をさく裂させると足早に逃げた、視界が開けて来た時にはシェリル以外誰もいなかった、シェリルは背中の複数の触手で遠間から攻撃してきた、まるで生きているかのような触手が鋭いスピードで三人を襲う、凄まじい攻撃だったがさすがに三人には通じない、簡単に防がれてしまっていた、しかしこのまま防ぐだけではらちがあかないと手をこまねいていると

「憎い、憎い・・・私のフローラを・・・憎い、殺してやる・・・フローラ・・・」

シェリルはもう自我さえも保てていない状態になってしまっていた、そして恨みの言葉を吐き続けていたと思ったら急に呪文の詠唱を始めた

「氷の精霊偉大なるトラテミアよ汝が涙をそこに捧げん、その冷ややかたる氷雪の・・・」

「ディスペル」

ハウゼンがシェリルの呪文を解除する、しかし続けて呪文を詠唱し始めるシェリル、何度呪文を解除されても魔法を唱え続けるシェリル

「そんな・・・弱った体であんなに魔法を使ったらシェリル様は・・・」

「あの背中の触手みたいなモノがシェリルの魔力を無理やり引き出しているんでしょう、しかし人の魔力には限度があります、あれ程の巨大呪文を連発すればそろそろ・・・」

ハウゼンがそう言い終わらない内にシェリルの皮膚がボロボロとはがれはじめる、それは明らかに限界の予兆である、しかし意識の無いシェリルは呪文の詠唱を止めない、何度呪文を解除されても再び唱え始めるのだ、シャーロットは思わず清長を見るが清長は残念そうに首を振るだけである、そんな時ハウゼンが

「あの方はもうダメです、もう2,3回呪文を唱えたら体は崩壊し背中の触手に全てを吸い取られ自我のない化け物と成り果てる事になるでしょう・・・まだ体が人間の形を保っていて僅かでも人の意識がある内にあなたが楽にしてあげませんか?もしあなたが辛いなら私か清長が代わりますが・・・」

「私がやるわ・・・うん、これは誰にもさせられない私の役目」

そう言うとシャーロットは変わりゆくシェリルを見つめ静かに冷静に魔法を発動させた・・・、シェリルの体が徐々に凍り付いていき、魔法の氷がシェリルの首まで達した時シェリルはこうつぶやいた

「フローラをお願いねシャーロット・・・」

そうしてシェリルは美しい氷像となった、先程までの戦闘が嘘のように地下室に静寂が訪れる、その後しばらくの間シャーロットはシェリルの氷像を見つめ、ただただ立ちすくんでいた、帰りの道中の絨毯の上でもシャーロットは一言もしゃべらず二人とも目線を合わせなかった、そんな彼女にハウゼンと清長はかける言葉も無かった・・・三人がミラーゼ城に帰還したときには已に明け方になっていた、眩しく大地を照らす朝日とは裏腹に暗くて重い表情のシャーロット、道中一言もしゃべらなかった彼女にハウゼンが静かに声をかける

「シェリル様の事は私からフローラ様にお伝えいたします、さすがにあなたの口から言わせるのはあまりにも酷ですので・・・」

「いや私が伝えよう、今回の事は私の不手際から起こった事が原因になっている、私にそのぐらいの事はさせてもらえないだろうか?」

そこまで全く無反応だったシャーロットが二人の提案に力なく首を振る

「ありがとう、気持ちは嬉しいわ・・・でもこれだけは他人に任せられない、任せちゃ駄目だと思ってる・・・そんなことをしたらシェリル様に申し訳が立たない、何より自分で自分が許せないから・・・」

二人はシャーロットの意思を尊重し全てを任せる事にした、シャーロットは悲壮な決意を持ち重い足取りでフローラに会いに行った、疲労と睡眠不足で体と頭がひどくダルい、もちろん原因が別にあることは自分自身が一番理解していた、どう話そうかと思慮を巡らせながら歩いていた時、ちょうど部屋から出てきたフローラに出会う

「あら⁉︎おはようシャーロット、マクシミリアン様も・・・そう言えばお姉さま見かけなかった?探してるんだけどどこにもいらっしゃらないのよ・・・」

シャーロットは下を向きながら唇をかみしめた、握り締めた拳からは血がにじんでいる程だった

「どうしたのシャーロット・・・なんか顔色も悪いし、気分がすぐれないなら・・・」

「フローラ‼実は大事な話がある・・・私はあなたに謝らなければならない‼」

急な大声に驚くフローラ、このシャーロットの異常な態度と後ろのハウゼンと清長の悲痛な表情を浮かべている事から、ただならぬ事態であることを感じ取ったフローラは真剣な表情を浮かべ

「わかりました、ローゼフォン公国の女王として伺います、まずは部屋にお入りください」

三人をフローラの部屋に入れ話を聞く事とした、話を聞く為まずは椅子に座れと促すがどうしてもシャーロットが椅子に座ろうとしない、フローラは諦めてそのまま話す事を許した、最初は口ごもって中々話さなかったシャーロットだがついに決心し全てをありのままに話した、一連の犯行はゲルムガルンの手引きであり蟲を植え付けられたシェリルが実行犯であると、そして自分がシェリルを殺したのだとハッキリ言った、フローラはその話を聞いてしばらく何も言えなかった、あまりの事実に目の焦点も合っておらず茫然としていた、シャーロットにとってその沈黙の時間が永遠の地獄にすら思えた、いっそ自分を罵倒し人殺しとなじられた方が何倍も楽だと感じた、そんな時間が永遠に続くかと思われた時、フローラが口を開いて一言告げた

「シャーロットご苦労様でした、あなたには本当に苦労をかけますね、もう今日は休んでください」

その言葉に唇を噛んで必死に涙をこらえるシャーロット、一番悲しいはずのフローラが絶えているのに自分が泣く訳に行かない、その一心だった

「それでは失礼します」

急いで部屋の入り口方向へ体を向けるとシャーロットは涙が出る前に引き揚げようとした、その時フローラが

「お姉さまは・・・何か言ってましたでしょうか?」

「はい・・・フローラを・・・・よろしく・・・頼む・・・と」

もう涙をこらえる事は出来なかった、自分の意思とは無関係に止めどなく溢れる涙、シャーロトはそんな自分に腹が立って仕方無かった

「そう、ありがとうシャーロット・・・」

精一杯の笑顔を作り礼を言うフローラ、三人は部屋を出ると部屋の中からうめき声の様な嗚咽おえつが聞こえた、フローラは外に泣き声を聞かせないために枕か布団に顔を押し付けて泣いているのだとわかった、シャーロットはもういてもたってもいられなかった、早足で自分の部屋に戻ると机から紙とペンを取り出し辞表をしたためた、姉を殺した者がいつもそばにいるのではあまりにもフローラに申し訳がないと思ったからだ、それにどうしても自分が許せなかった、辞表を自分の机に置くとこっそり裏門の通用口から出て行こうと思っていた、その時通用口前に清長が立っていた

「何処に行く?」

「何処だっていいじゃない、あなたには関係ない事よ・・・」

「逃げるのか?」

その言葉にカチンときて清長を睨んでも、どうしようもないくらいバレバレな事は判っていた

「いいじゃない、逃げたって・・・辛いのよ、もうフローラに合わせる顔が無いのよ、このまま見逃してよ」

珍しく弱音を吐くシャーロット

「お前はもうちょっと骨のある奴だと思ったんだが失望した、あのお姫様への思いはその程度だったのか!?」

今度は本気で清長を睨み胸倉を掴み怒りをぶつける

「アンタに何がわかるのよ‼私はフローラの最愛のお姉様を殺したのよ!?そんな人間がどのツラ下げて毎日顔を合わせたらいいのよ‼・・・もう許してよ・・・」

「俺なら絶対に正成様から離れない、顔も見たくないと言われてもどれほど正成様に嫌われてもそれが正成様の為になる事だと思ったっら絶対にな」

「私はアンタとは違う・・・アンタみたいに強くはなれないのよ・・・」

そんな時背中からシャーロットを呼ぶ声が聞こえた、驚いて振り向くとフローラが泣きながら走って来たのだ、その後ろにはハウゼンがいた

「アンタ達って・・・本当に嫌な奴‼」

フローラが急いで近づいてきてシャーロットの二の腕をガッシリとつかむ、この華奢きゃしゃな体のどこにそんな力があるんだろう⁉︎と思うぐらい強く握っていた、フローラの顔をまともに見れないシャーロットはバツが悪そうに目をそむける、しかしフローラが発した言葉はシャーロットにとっては意外な一言だった

「ごめんなさいシャーロット、あなたにばかり苦労を掛けて・・・私の事を嫌いになったでしょ?呆れてるんでしょ?私頑張るから、あなたに認めてもらえるような王になって見せるから、だからお願い、私のそばにいて、あなたまでいなくなったら私は・・・」

姉の死にすら気丈に振る舞っていたフローラがまるで子供の様に泣いてすがって来ているのだ、てっきり裏切者とか、姉を殺しておいて逃げるのか?とか責められるのだとばかり思っていたシャーロットは思わずフローラに抱きつき泣きながら謝った

「ごめんなさいフローラ、私逃げたかったの、怖かったの、シェリル様を殺してしまった事であなたに嫌われるのが恐くて・・・ごめんなさい・・・」

「馬鹿じゃないの?なんで私があなたを嫌うのよ、そんなことある訳ないじゃない・・・あなたそんなに頭がいいのに本当に馬鹿ね・・・」

しばらくの間二人は抱き合いながら泣いていた、ローゼフォンの双華と言われた二人が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてお互いに謝り合いながら・・・

一夜明け改めてシェリルの死が国内に伝えられた、もちろん真実など伝える事は出来ないため病死という扱いで発表された、元々シェリルが病弱であった事は国内の人間なら誰でも知っていた事なので特別不信感はもたれなかった、そしてローゼフォン公国とスタネール共和国、そしてジパングの三国同盟が成立した、正確に言えばハラル共和国やキシェロ公国も同盟に入っているのだが世界三大賢者の所属する国同士が同盟を組んだという事実はセンセーショナルで世界中の話題となった、そしてこの三国の同盟を”三賢者同盟”と呼ぶ者が増えいつの間にかそれが一般的になるのだがそれはまた少し先の話である、そしてハウゼンと清長が帰国する日が来た、見送りにはシャーロットとフローラ女王が自ら足を運んでくれたのだ、そんなフローラにハウゼンが丁寧に頭を下げた

「女王自ら見送りしていただけるとは恐縮です」

「あら、今日の私は女王フローラではなくシャーロットの友人として来てますのよ、シャーロットの友達なんて私以外にはあなた方しかませんからね」

「な!?何言ってるのよフローラ、コイツらは友達なんかじゃないし、私だって他に友達くらい・・・」

「無理するな、貴様の様な人間に一人でも友人がいること自体奇跡なんだ、フローラ殿の寛大な心に感謝するがよい」

「あ!?アンタに言われたくないわよアンタなんか親しい人もいないでしょ、しいて言えば正成様ぐらいで」

「私にとっては正成様が全てだ、それ以外など必要ない」

「正成様が結婚でもしたらアンタどうするの?姑みたいに一緒に住み着くの?」

「お前こそフローラ様が結婚したらどうするんだ?相手にしてくれる人間がいなくなるぞ!?」

そんな時ハウゼンがぼそりとつぶやくように言った

「フローラ様と正成様がご結婚されたら良いのでは!?」

「あらまぁ!?」

フローラも少し驚いてみせた、もちろん冗談のつもりであろうからそれに乗ったまでだが冗談の通じない二人の人間に火が付いた

「はぁ!?何言ってるの、フローラの相手にあんな馬鹿王子釣り合わないわよ‼」

「貴様、正成様を侮辱すると殺すぞ‼」

「そうよ、今のはシャーロットが悪いわちゃんと謝りなさい」

「だって事実じゃない、フローラは美人だし頭もいいし女王としてもしっかりしてるわ、でも正成様はお世辞にもカッコいいとは言えないし政治だってほとんどアンタがやっているんでしょ?最近太って来たとか聞いたけど・・・」

「貴様なぜそれを!?」

「やっぱそうなんだ!?まあフローラと釣り合う男なんてそうはいないわよ、そうだ!?マクシミリアン、スタネールのコンラート王子はどうなの?一度会ったけど背は高くてイケメンだしスタネールで一番強いんでしょ、もちろんアンタを除いてだろうけど・・・」

「それが本気ならコンラートに話して見ますが!?」

「でもフローラが嫁に行っちゃうのは・・・寂しいな・・・ん?清長アンタ一体何してるの?」

「正成様を侮辱した者は絶対に許さん‼オンキリキリハッタオンソワカ‼」

「アンタ一体何を・・・あっ!?」

そこには再びシャーロットの傀儡が現れたのである、ニヤリと笑う清長

「あんた、これまさか・・・まさか・・・」

すると傀儡のシャーロットは急に地面にへたり込み泣き出したのだ

「ごめんなさいフローラ、私逃げたかったの、怖かったの・・・わ~~んわ~~ん」

シャーロットの顔が急激に紅潮する、その傀儡で先日の自分の姿を客観的に見せられ恥ずかしさで死んでしまいそうだった

「止めなさいよ私‼、こら清長アンタ本当に殺すわよ‼、笑ってないでアンタたちも何とかしてよ!?フローラお願いだから見ないで・・・」

「ごめんなさ~いフローラ、逃げたかったの~怖かったの~わ~~んわ~~ん」

見送りの為に来ていた港には、いつまでもシャーロットの鳴き声とフローラの笑い声が聞こえていた。



今回も長くなってしまいました、読み疲れた方は申し訳ありません、せめて2万文字までに抑えたいとは思っているのですが・・・次作は拓斗とマルコの話です、一部構成ですので気楽に読んでください、では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ