氷壁の魔女 姫と魔女編
フォレスト・シャーロット…ローゼフォン公国の最高司令官兼国務大臣を務める、冷却系魔法が得意で世界三大賢者の一人、”氷壁の魔女”という異名があるが本人はそう呼ばれることを凄く嫌っている
ローゼフォン・ソレリア・フローラ…ローゼフォン公国の女王、歳も近い事からシャーロットとは仲が良く二人とも美人であることから”ローゼフォンの双華”と呼ばれている
リチャード・ハウゼン(ジェームズ・マクシミリアン)…世界の魔法使いのトップ、三賢者の一人でスタネールの大賢者とよばれている
鳴沢英治…脳科学の権威でワールドファンタジアのデータはほとんど頭に入っている
ジェームズ・ハワード…第64代アメリカ合衆国大統領
オストフ・ヴィ・リードヴィッヒ…スタネール共和国王、部下や国民からの信頼も厚い
コンラート・ヴィ・リードヴィッヒ…オストフ国王の息子で次期国王、精鋭騎士団”烈風の牙”のリーダー
須賀之清長…ジパングの摂政を務める陰陽師のトップ、”史上最強の陰陽師”と呼ばれていてハウゼンと同じく”世界三大賢者”の一人
武野宮正成…ジパングの第17代皇王、まだ12歳なので政治は主に清長ら陰陽師の重鎮達に任せることが多い
ローザフォン公国は大陸の北部に位置する中堅国で一年の内の約9か月は雪に覆われているという豪雪国である、真冬の時期などでは非常に厳しい生活環境で国土の広さに対し人口は少なく山岳地帯が多い為に農作物の取れる面積も少ない、しかしこの国でしか取れない鉱物がある為その輸出貿易によって国の利益の大半を上げていた、この国は魔法技術が発達していて戦闘のみならず医療や建築、流通、農業などにも併用されている事が特徴である、公的な教育機関では魔法の授業に多くの時間を割き、他の科目が苦手でも魔法技術が優秀な生徒には学費免除や国家への優先的な就職が約束されていた、そんな理由から魔法の素質に恵まれている者がこの国に留学し魔法を学ぶと言った事も珍しくない、ここで学び卒業していった者の中には魔法使いだけでなく有名な魔法士や魔法技術者なども多く輩出していた、そんな魔法先進国であるローゼフォンの大学において二年前ケタ違いの成績を収めた生徒が現れた、その名を”フォレスト・シャーロット”といい、入学一年半で魔法学科の単位を全て習得し三年生になるころには在学中でありながら特級魔道士、普通の大学ならば教授にあたる地位を与えられたのだ、もちろん他の学業も優秀で”大学始まって以来の天才”と言われた、そして彼女が特出すべき点は頭の良さだけでなくその容姿にもあった、美しいプラチナブロンドの髪に整った顔立ちスラリと伸びた長い手足、スレンダーなスタイルとその美しさは大学在学中の四年間で一度もミスコンのクイーンの座を譲らなかった事でもわかる、そうなると当然男子生徒からのアプローチが連日凄い事になっていたが、シャーロットは誰の誘いも受けなかった、しかも普段人当たりが良く明るい彼女が男性からの誘いを断る時、非常に冷たい目で話す姿にいつからか”アイスドール・シャーロット”というニックネームまで付いたほどである、彼女は大学卒業後破格ともいえる待遇でローゼフォン公国の大臣にあたる高い地位を与えられ軍の中枢にも任命された、しかし彼女の才能は留まる事を知らず一気に国の内政と軍のトップに昇りつめたのも皆が納得しての事であった、このローゼフォン公国は歴史的に女王が多く今現在も”ローゼフォン・ソレリア・フローラ”という女王が君臨している、歳もシャーロットと近い事からこの二人は非常に仲が良くフローラは心からシャーロットを信頼していた、このローゼフォンの国軍は魔法使いの割合が高くしかも非常にレベルが高い、昔から魔法による防衛戦には定評があり特にシャーロットの得意とする冷却系魔法に対抗できるだけの国はほとんどない、近年ローゼフォン公国に侵攻した国が二つあったがそれを鉄壁の守りで防ぎ、逆に完膚なきまで撃退したのが彼女だ、その時についた異名が”氷壁の魔女”である、シャーロット本人はこの通り名を嫌っていたが、あまりに彼女のイメージとピッタリな事からその名前と共に一気に世界中に広まりいつしか"世界三大賢者"の一人に数えられるようになる、最近ではローゼフォン公国の国民ですらこの通り名で呼ぶものが増えた その事をいつも女王であるフローラに愚痴るのがシャ-ロットの日課にすらなっていた、そんな彼女が険しい顔をして女王フローラの所に向かっていた
『まずいことになったわ、このままじゃいずれ・・・』
フローラの部屋の前でシャーロットが警護の兵に告げる
「フローラ陛下に緊急の話がある、お目通りを願いたい」
フローラの部屋の警備兵はその姿を確認するとすぐさまシャーロットを部屋に通す、本来であればフローラに許可を取りに行き返事をもらってからの目通りなのだが、シャーロットに関してはほぼフリーパスの状態なのだ
「あらシャーロット、今日は早いのね!?また例のあだ名の事?」
フローラの問いに警備兵が思わず吹き出す、そんな警備兵をシャーロットが睨んだ
「も、申し訳ありませんでした‼」
慌てて謝り直立する警備兵、そんなやり取りをクスクス笑うフローラ
「シャーロット、そんなに警備兵を責めないであげて、いつも言ってるけどいいあだ名じゃない!?」
ニコリと笑うフローラに警備兵も心を癒される気分だった、このフローラもシャーロットに負けず劣らず美しい、というより非常にカワイイ見た目なのだ、本来フローラの方がシャーロットより二つ年上なのだがどう見てもフローラの方が年下に見えてしまうのだ、この二人が並ぶと非常に華やかで世間では”ローゼフォンの双華”と言われていた、シャーロットがいつもの口調で反論する
「女王陛下、何度も申し上げていますが私は・・・」
シャーロットの話を途中で遮るフローラ
「シャーロット・・・いつも言ってるでしょ、2人の時はフローラでいいって」
シャーロットは一呼吸置いた後気分を入れ替えて再び話し出す
「フローラ、私はいつも言ってるでしょ!?何で私が”魔女”なのよ‼まだ学生時代の”アイスドール”の方がまだマシよ‼この二つ名何とかしてよフローラ!?」
その訴えにクスクス笑うフローラ
「いいじゃないシャーロット、そのおかげで我がローゼフォン公国は有名になったのよ!?」
「嫌よ、私にしてみれば悪口が世界中に広まっているみたいなモノなのよ!?こっちの身にもなってよ」
いつものようにシャーロットが愚痴ってフローラがなだめるというお決まりの展開である、しかしフローラがふと気になってシャーロットに問いかける
「それはそうとシャーロット!?いつもはあなた最後の打ち合わせが終わってからここに来るのに今日は随分早いわね!?今日は打ち合わせ無かったの?」
その問いかけにハッと我に返るシャーロット
「そうだった、今日はこんなことを言いに来たんじゃなかったわ、実はねフローラ・・・最近アンキロナイトの輸送車が襲われるという事件が相次いでいてね、運ぶ方も怖がって中々うまくいってないのよ・・・」
アンキロナイトというのはこの国でしか取れない鉱物で剣や鎧の材料として使うと非常に魔法処理がしやすいという事で世界中に人気のある鉱物なのだ
「まあ、そんな事が・・・どうしたらいいと思う?シャーロット」
「うん、それなんだけどアンキロナイトを輸送する馬車のすべてに目的地まで護衛を付けるとなるとかなりの兵力を割かなければならなくなるのよ、だから輸出先の国にも国境付近まで護衛の迎えが欲しいの、もちろんその分の謝礼は必要だけど、アンキロナイトの輸出が滞れば我が国の経済に多大な損害が出てしまう、それだけは避けたいの」
真剣な顔でうなづくフローラ
「わかったわ、なら輸出先の国王、もしくはそれに近い立場の人と謁見して国境付近までの護衛を承諾してもらうよう交渉すればいいのね!?」
「そうなのよ、頼めるかしらフローラ」
「もちろんよ、それこそ女王の仕事じゃない、いつも苦労を掛けるねシャーロット・・・」
フローラのねぎらいにゆっくり首を振るシャーロット
「ありがとうフローラ、感謝してるのはコッチの方よ、それともう一つ頼みがあるの・・・」
シャーロットの言葉を嬉しそうに聞くフローラ、シャーロットとフローラはこの二人の空間がとてつもなく好きだった
現在スタネール共和国の居城であるギース城は大掛かりな改装中で昼夜問わず作業がおこなわれていた、ハウゼンは朝の定例会議を終えて自室に帰ろうとした時
「マクシミリアン様、少々お待ちをオストフ陛下がお呼びでございます、なにやら緊急の用件みたいですが・・・」
ハウゼンに声をかけてきたのはマウレであった、マウレは情報部という立場から国王の用件が緊急なのであろうと察して伝えてきたのだろう、自室に向かうのをやめて国王の部屋に急ぐハウゼン、部屋に入ってみるとコンラートもハウゼンの到着を待っていたようで話はまだ始まっていなかった様子だった
「おぉ〜マクシミリアン殿急に呼び出して悪かった、まぁ掛けたまえ」
ハウゼンは促されるまま椅子に腰掛けた
「一体どのような用件ですか国王?」
ハウゼンの質問にオストフは机の上にあった手紙を差し出した
「まずはこれを読んで欲しいのだ」
ハウゼンは渡された手紙の差出人を見て少し驚く、ローゼフォン公国のフローラ女王だったからである、ローゼフォン公国とは同盟国になってもらうべく交渉を始めたばかりであり、まだ女王から書状が渡されるような段階ではないのだ、不思議に感じ手紙の内容を確認すると、どうやらフローラ女王ではなくシャーロットが個人的に重要な相談事があり、それはローゼフォン公国の行末にも影響がある事案なので秘密裏に話し合いたいとの事だった、それを読み少し考え込むハウゼン
「マクシミリアン様、その手紙をどう思いますか?」
待ち切れないとばかりにコンラートが質問した、しばらく手紙を見つめながらじっと考え込むハウゼン
「おそらくこれは真実でしょう、彼女は清長の様に策を弄するタイプではありませんから・・・しかし私にしても二度ほど会った事があるというだけなのですが国の一大事というのはいささか気になりますね、こうして正式に招かれている訳ですしローゼフォンに行って直接話した方が早そうです、明日にでも出立したいのですがいいでしょうか?」
オストフとコンラートが反対する訳も無く警護の兵を10人ほど連れてローゼフォン公国へ訪問する事となった、もちろんハワードと鳴沢も一緒である、ハウゼンはシャーロット相手に燕の使い魔を飛ばした、彼の使い魔は翼だけが銀色というオリジナル要素の詰まったモノで通常の使い魔より数段速くしかも遠くまで届くという優れものだ、銀の翼を広げ恐るべきスピードで目的地に向かう燕、一時間もしない内にシャーロットの元に着いた、メッセージを受け取ったシャーロットはその返事を見て大きくうなづいた
それから数日後ハウゼン率いるスタネール共和国の一団はローゼフォン公国に到着する、ハワードや鳴沢を始め寒いと評判のローゼフォン公国への対策で防寒着を着込んで来たのだが、そこは思ったより暖かく普段着でも十分な程であった
「空気が気持ちいいな鳴沢君」
「はい、大統領、そういえば今のローゼフォンは春でしたね、すっかり勘違いしておりました」
「あと一か月もすれば寒くなるとの事ですよ」
三人がそんな事を話していると彼らを迎えに来たローザフォン公国の団体が歓迎ムードで対応してくれたのだ、そしてローゼフォンの代表として一人の女性がハウゼンに握手を求めてきた、その女性は黒いストレートのボブカットでメガネをかけている非常に美しい女性であった
「初めましてミスターマクシミリアン殿、そしてそのご一行様、我がローゼフォン公国はあなた方を歓迎します」
ハウゼンも相手に握手を求められ、すぐさま右手を差し出した、すると向こうはハウゼンの右手に両手で強く握って来たのだ、少し戸惑うハウゼン、その時何か違和感を感じた、相手の女性が両手で握って来た際に何か紙を渡されたのだ
『こんな所で何なんでしょう?』
ハウゼンは皆に見られないよう渡された紙に書いてあることに目を通す、すると
”この先の第二倉庫に来られたし、くれぐれも他の人にバレないよう内密に”
なにやらキナ臭い臭いを感じたがその指示に従う事にした、ハウゼンはアイテムで自分の分身を作りスタネールの一団をこっそりと抜け出した、指示通り第二倉庫に来て中に入ってみるとそこは何の荷物も無いガランとした倉庫で昼間なのに薄暗い、するとハウゼンの入って来た反対側の入口からカツ~ンカツ~ンという足音が響いてきた、そちらの方向に目を凝らすと先ほど紙を渡してきた女性が近づいて来るのがわかった
「こんな手の込んだ真似してごめんなさい、どうしても邪魔の入らない所であなたと話したかったの」
その女性は自分の名を名乗る事も無くいきなり話しかけてきたのだ、眉を顰め警戒するハウゼン
「あなたは一体何者ですか?一体私に何の用でしょう?」
その女性はクスリと笑うと再び話し出す
「ごめんなさい私よシャーロットよ、お久しぶりねマクシミリアン」
その告白にに少し驚いたハウゼン
「一体なぜそんな格好をしているのですか!?ここはあなたの国でしょう?驚かすだけにしては手が込み過ぎている気がしますが・・・」
「今から場所を変えて理由を話すわ、だからあなたも魔法で変装してくれない!?」
シャーロットの口調が変り何やら深刻な事態がおこっているのは雰囲気でわかった、しかしハウゼンは何が何だか理解できないままシャーロットの指示に従う、普段の見た目とは全くかけ離れた人物となり歩く二人、港の倉庫を出てから近くの町まで歩くと喫茶店のオープンテラスのような所で落ち着く事となった、知らない人が見れば単なるカップルとしか見えないであろう男女、座るや否やハウゼンが切り出す
「さて、そろそろ話してくれませんかね?」
「そうガッつかないで、店主に注文を告げてからね・・・」
シャーロットのそう言った言葉が聞こえたかのようなタイミングで店の中なら店主が出てきた
「いらっしゃいませ、おや?お客さんたちあまり見かけない顔だね観光かい?」
「ええ、そうなんです今日着いたばかりで」
ハウゼンの当たり障りのない返事に店主の気持ちに火が付いた
「そうかい、今のローゼフォンは春で気候が一番いいんだ!?いい時期に来たねアンタたち、観光名所みたいなところはあまりないけど今の時期ならどこに行っても景色は最高だぜ!?もう一か月もすると全て雪で真っ白になっちゃうからな、客もあまり来なくなるしさ俺も今の内稼がないとな!?わっはっはっ」
店主は上機嫌で笑う、2人は飲み物を注文するとすぐさま店主自身が運んできた、店主は今が稼ぎ時みたいに言っていたが店内にそれ程客は無く、彼らのいるオープンテラスには二人以外誰もいなかった、自分たちの周りに誰もいなくなったことを確認したシャーロットはあらためて話始めた
「お待たせしてごめんなさい今回の要件を話すわ、別に勿体付けてたわけじゃないのよ、ただ絶対に人に聞かれたくない話だったからこんな手の込んだ事をしたの」
「絶対に聞かれたくないのなら城の中で人払いをすればいいのでは!?ワザワザ変装までしてこんな所で話す何てのはちょっと常軌を逸しています」
ハウゼンの話に視線をそむけうつむいて答えるシャーロット
「それがダメなの、城の中は常に盗聴されているみたいで大事な話はできないのよ・・・」
「ちょっと待ってください、盗聴されているのならその原因を突き止めて犯人を捕まえれば済む話じゃないですか!?なぜそれをしないのですか?」
その問いに恥ずかしげに答えるシャーロット
「それがわからないの・・・誰がどうやって盗聴しているのか、どう探ってもわからないのよ!?」
「あなたほどの魔術師が探しても見つからないなんて事が・・・であれば盗聴などされていないのでは?」
「私も最初はそう思ったんだけど、どう考えてもおかしなことばかり起こっているの・・・」
「どんな事がおこっているんですか?」
「まずローゼフォンの最大の輸出品であるアンキロナイトの輸送車がことごとく襲われているの、コースや時間を変えてもその都度狙われるし、でもこっそり兵士を乗せて荷馬車に偽装したモノには絶対食いつかないのよ、それだけじゃないこの国の秘宝も何者かに盗まれてしまった・・・内部の人間が手引きしない限りアレを持ち出すなんて絶対無理なのよ」
「なるほど・・・だからこんな所でワザワザ話を・・・しかしそれに関してはあまり力になれそうにないですね、あなたに発見できないのなら私にも無理でしょう」
ハウゼンがそう話すとシャーロットが明らかに落胆した表情を見せた
「そう、そうよね・・・わかった自分たちでなんとかしてみるわ、ごめんなさいね」
シャーロットの反応にハウゼンは一呼吸置いた後ため息をついて再び口を開いた
「私にはできませんが、できそうな人物に心当たりがありますよ」
その言葉にビクリと反応したかと思えば身を乗り出し食い気味に質問するシャーロット
「本当!?でも私にもあなたにもできない事をできる人間なんているの?一体誰が・・・」
「今からその人物に連絡してみましょう」
ハウゼンはそう言って手元から使い魔の燕を出した、掌の上に発生した燕は見慣れない土地のせいかキョロキョロしていた
「さあ行きなさい、あなたの自慢の翼で誰よりも速く」
ハウゼンがそういうと銀色の羽を広げて飛び立つ、そしてあっという間に見えなくなってしまった
「さて、了解してくれるといいのですが・・・」
ハウゼンはそう言ってテーブルのコーヒーに手を伸ばした
ここジパングの居城であるアヅチ城では皇王である武蔵宮正成が上機嫌で食事をしていた
「何だこれは!?世の中にはこんなうまいものがあったのか!?これは何という食い物なのじゃ清長?」
「これはチ・ズラという食べ物で庶民にも広く食されていると聞いております」
「こんな美味いものを庶民が!?う~ん世間は広いのう清長」
嬉しそうに食事をする正成を見て満足げな清長だったが最近正成が食べ過ぎで太り始めた事が少し気がかりであった、スタネール共和国との貿易により他国の文化が入り始め国益もどんどん上がって来ている正成の健康状態以外は全て良い方向へ進んでいた
「正成様、近頃少々食が過ぎるのではございませんか?もう少し控えられた方が良いかと・・・」
清長の忠告に勢いよく食べていた正成の手が止まる
「それはそうなのだが・・・外の国から入ってくる食事が美味くてな・・・わかった明日から、明日から食事を減らすように頑張るぞ清長‼」
そう言ってまた食事をバクつき始める正成であった、微笑みながら軽くため息をつきヤレヤレとばかりに正成を見つめる清長、そんな時清長達がいるアヅチ城の天守閣に一話の燕が入って来て清長の肩に止まる、すると清長の表情が一瞬で厳しいモノに変わった、その変化を正成が気が付いた
「どうしたのじゃ清長?その燕はお主の式神ではないのか?」
「いえこれは私のではありません、どちらかといえば招かれざる客と申しますか・・・」
そんな時その燕は”ピギ~”と鳴き声を上げてスッと消えた、清長はめんどくさそうな顔をして一度天を仰ぐ、そして懐から紙を一枚取り出し人差し指と中指を立てた
「オン、マリシエイソワカキュウキュウニョリツリョウ」
清長がそうつぶやくとその紙が一瞬で隼に変った
「さあ行け」
清長の掛け声に反応するかのように隼は飛び立ち瞬く間に空の彼方へと消えて行った、少しそれを見守っていた清長だったがくるりと体の向きを正成に向けスッと正座した
「正成様、これより私は野暮用で他国に赴きたいと思います、しばらくの間ここを留守にしますがなにとぞよろしくお願いいたしまする」
その言葉に驚く正成、しかし心の中では清長がいなくなる不安とこれで美味い物を遠慮なしに食べられる喜びで複雑な心境であった
「他国にじゃと?いつまで帰って来れないのじゃ?」
「それは判りませんがなるべく早く帰ってこようとは思っています」
そう言うと清長はふと空を見上げた
ハウゼンは使い魔を飛ばしてから20分程自国の近況をシャーロットに話し同盟への勧誘の話を説明していた、シャーロットも基本的には同盟に賛成なのだが今はそれどころじゃないのでこの問題が解決したら前向きに考えるとの事だった、ハウゼンはシャーロットの険しい表情を見て
『これはまだ何か重大な問題を抱えているようですね・・・まずは一つづつ解決して同盟を成立させたいものです』
そんな事を思っていた時一羽の鳥がハウゼンの肩に止まる
「思ったより早かったですねえ、ほう良かった・・・シャーロットどうやら彼は協力してくれるようですよ」
ハウゼンがそう言った瞬間肩に止まっていた隼が一瞬で紙に変わった、それを見て目を見開き凄い形相で立ち上がるシャーロット
「あなた、まさかさっき言っていた人物って・・・」
その問いにニヤリと笑いうなづくハウゼン
「やっぱりアイツなのね!?私アイツとは合わないのよ、知ってるでしょ!?とにかくあのねちっこい性格と偉そうな態度、もう生理的に合わないっていうかさ・・・」
「随分な言われ様ですね」
シャーロットの背後から聞き覚えのある声が聞こえた、驚いて振り向くとそこには須賀之清長が立っていたのだ
「須賀之清長・・・な!?なんでアンタがここに?いくらアンタでもジパングからここまで瞬間転移なんてできるはずが・・・あっ!?」
何かに気付いたシャーロットはハウゼンを睨む、当のハウゼンは涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいた
「マクシミリアン、あなたがやったのね?さっきの式神にゲートの印が施されていてあなたがこちらからゲートを開いて清長を呼んだんでしょ!?」
ハウゼンはニコリと笑って軽くうなづく
「さすがですねシャーロット瞬時に見抜くとは、まぁこんな芸当ができるのは世界広しといえど我々三人ぐらいかもしれませんが・・・」
その時立ったまま黙って聞いていた清長は横で座っているハウゼンを見下ろし不機嫌そうに問いかける
「おいマクシミリアン、貴様一体どういうつもりだ?ワザワザこんな所まで来てやったというのに当の魔女は歓迎どころか悪態をついているではないか!?」
清長の言葉にピクリと反応するシャーロット
「あんたさぁ前から言ってるけどその”魔女”ってのやめてくれないかなぁ、私その呼ばれ方大っ嫌いなの」
「自分は人の事をねちっこいとかエラそうとか言っておいて何という言い草だ、これだから田舎育ちの魔女は・・・」
「はぁ!?アンタ私にケンカ売ってるの?それならそうとハッキリ言いなさいよね‼」
「ほぅ面白い、噂の”魔女”がどれほどの力を持っているか一度試してみたかったんだ、いつでも受けて立つぞ」
二人は一食触発の勢いだったがハウゼンがため息をついて話に割り込む
「あなた方は仮にもそれぞれの国の中心人物でしょう?子供ですか全く・・・」
そのセリフにカチンときた清長とシャーロットの敵意が一斉にハウゼンに向いた
「貴様が言うな‼そもそも要件も言わず急に呼び出しておいて何だこれは!?」
「そうよ、なんで私に黙ってコイツを呼ぶのよ!?一体どういうつもりなのよ!?」
二人が一斉にハウゼンを責め立てている時、その話声で店主が清長の存在に気が付く
「おや?またお客さんが増えたのですか?いや気が付きませんでスイマセン、今メニューをおもちいたしますので・・・」
店主はそそくさと店の中に入っていく、思わぬところで水を差された二人はとりあえず座って話をすることにした、まずは清長が口を開いた
「で?一体どういう用件でここに私を呼び出したのか聞きたい、ジパングにとっても大変重要な事だから至急来いとの事だったから来てみたら・・・なんだこれは?用が無いなら帰らせてもらうぞ!?」
清長は今にも戦いを挑んできそうな勢いで質問する、それに対して至って冷静に答えるハウゼン
「私は嘘は言ってませんよ、実は今現在我々スタネール共和国はローゼフォン公国に同盟を持ちかけています、それが成立すればあなた方ジパングもローゼフォンと同盟国という事になるんですよ、あなたもジパングの将来を考えれば悪い話じゃないでしょう」
ハウゼンの話に清長は少し冷静になって考える、ジパングの宰相としてこの同盟のメリット、デメリットを頭の中で計算していたのだ
「貴様の言いたい事は判った、確かに同盟国が増える事はいいことかもしれん、しかしジパングとこのローゼフォンは地理的にも離れていて軍事的、商業的にそれ程メリットがあるとも思えないんだがな!?」
「確かに通常の軍事や商業などではあまりメリットを見いだせないかもしれませんが清長、あなたは重大な事を見逃しています、それは我々三人の事です・・・」
その時清長とシャーロットが同時に”アッ!?”と声を上げた
「そうです、自分でいうのもなんですが我々三人は”世界三大賢者”と呼ばれそれなりに名前が売れています、その三人が所属する国同士が同盟を結んだら他国へ与える影響は・・・」
シャーロットは大きくうなづき清長が目を細める、そしてハウゼンは話を続けた
「そして軍事的な事ですがいくら近隣国だとしても援軍を派遣するとなるとそれなりに時間も費用もかかります、しかし今も実現しましたが我々同士ならば一瞬で駆け付ける事が可能なのです、我々三人を相手に戦える敵なんてドラグナイトぐらいなものでしょう」
シャーロットが半ばあきれ顔で
「あなたって人は・・・確かにあなたを敵に回したくはないわねマクシミリアン」
「確かに貴様の言い分には十分説得力があった、悪くない提案だとは思う・・・しかし何だろうな、素直にはいそうですかと言いたくないこの気分は」
清長のその言葉に冷静に突っ込むハウゼン
「あなたもジパングの宰相なのでしょう?ならば国の為を一番に考えて行動すべきでしょう、それが正成様のためであるでしょうに全く・・・」
ハウゼンの言葉に怒りで印を結びかけた清長であったが、国の為正成の為と考えギリギリで自重した、そして今度はシャーロットの方を向いて話し出した
「さてシャーロト、先ほどあなたは国の大事に直面していると言いましたね?それを解決するためにこの清長を呼んだのです、それを人の好き嫌いだけで拒否するとは・・・それでもあなたはローザフォン公国の総司令官兼国務大臣ですか?仮にもこの清長はジパングの宰相なのですよ、いくら知っている人物とはいえあの態度、それが国の中心人物のする事ですか?」
その言葉を聞いたシャーロットもその物言いに腹を立てていた
『あなたが何も言わずに急に清長を呼んだんでしょうが!?私があいつを嫌っている事を知ってて・・・呼ぶ前に一言言ってくれてたら私だって国の代表としての態度で接するわよ‼』
言いたい事は山程あったが国の為を思いとどまった、この時清長とシャーロットに妙な連帯感が生まれた、店主が清長の飲み物を運んできた、その時ハウゼンが店主に問いかけた
「我々はここに始めて来たのですがこの国はどうですか?」
店主は少し考えて
「まぁ年中雪が降ってるし商売としてはあまり適している国じゃないかもしれんなぁ・・・」
それを聞いたシャーロットの顔が少し曇る、ハウゼンが話を続ける
「では他の国に移住しようとは思わないのですか?」
「いや、そんな事は考えた事も無いよ、だって今世界中で戦争してるじゃねーか、他の国じゃ怖くって商売何てオチオチやってられないだろ、あの大国グランシアですら負けてばっからしいからなぁ、でもこの国は大丈夫だフローラ姫様とシャーロット様がいるからな‼」
シャーロットはこれ以上ない程嬉しそうな表情を浮かべた、しかし魔法により変装しているのでそれがシャーロット本人である事が店主にはわからない、ハウゼンが続ける
「しかし今まで大丈夫だったからと言ってこれからも大丈夫とは限らないのでは?」
ハウゼンは少し意地悪な質問をしてみた、シャーロットも少し不安げにその答えを待っていた、ハウゼンは国民の意識を知りたかった為に軽い気持ちで質問しただけなのだがそれが意外な方向に進むとは予想だにしていなかった
「何言ってるんだい、我がローゼフォン公国には”氷壁の魔女”がいるんだぜ‼負ける訳ないじゃないか!?」
店主のその言葉にシャーロットの眉がピクリと動いた、店主はさらに話を続けた
「アンタたちは他所から来ただろうから知らないだろうけど、この国には”太陽姫と白銀の魔女”っておとぎ話があってなフローラ姫様とシャーロット様はその再来と言われているんだよ、そりゃあ凄いんだぜ!?その魔女が・・・」
店主の話の途中でシャーロットが急に立ち上がる
「何で私が魔女なのよ‼全然違うじゃないのよ‼」
その態度に店主は何で怒っているのかわからずに戸惑っている、ハウゼンは店主に謝罪をして店主が店の奥に引き返すとシャーロットをなだめて聞いてみた
「一体何があったんですか?あなたのその態度尋常じゃありません、一体そのおとぎ話とはどんな話なのですか?」
しばらく目を伏せ下を向いて沈黙していたがようやく話す気になったらしくシャーロットは重い口を開いた
「”太陽姫と白銀の魔女”というのはこの国では子供でも知っている有名なおとぎ話でね私も子供の頃から大好きだった話なの・・・昔この国に強大な力を持ちいつも雪を降らせて国民を困らせていた”白銀の魔女”がいてそれを太陽姫が日の力と暖かい心で魔女を撃退し改心させた、そして魔女は涙を流して謝ったという話・・・」
それを聞いて絶句するハウゼン、笑いをこらえきれない清長
「まだ話には続きがあって春の訪れたローゼフォンに魔王の軍団が攻めてきてそれを太陽姫と白銀の魔女が協力して撃退するっていうオチなんだけどね・・・」
ハウゼンは軽くため息をつき話始めた
「なるほど、冷却系の魔法が得意で女王と仲が良く攻めてきた敵軍を蹴散らす・・・おとぎ話と共通点が多いですね・・・国民がおとぎ話を伝説として受け取りたがるのもわからないではないですが・・・」
ハウゼンがチラリと見るとシャーロットは下を向いてひどく落ち込んでいた、そして
「私は太陽姫になりたかったの・・・太陽姫にあこがれて魔法を学んだのよ・・・それがなんで魔女!?そりゃあフローラは太陽姫のイメージにピッタリだわよでも、なんで私が魔女なのよ・・・」
ハウゼンはかける言葉も見つけられなかった、そこに清長がシャーロットに話しかけた
「良いではないか、それで国民の士気が高まり国への信頼度が上がるなら、その国のおとぎ話を伝説にしたがる国なんて珍しくも無い・・・ここは国の為に甘んじてその名を受けるべきだろうな、なぁ白銀の魔女さん」
その言葉に物凄い形相で清長を睨みつけるシャーロット、清長はそんなシャーロットを見てニヤついている
「アンタって奴は・・・本っっ当に嫌いだわ‼今すぐ氷漬けにしてやりたい‼」
「ほぅ、ローゼフォンの国益を無視してそれをやるってならどうぞご自由に、でも私も無抵抗ではないけどな」
ハウゼンはもはや呆れて止める気も失せていた、しかしここで二人が喧嘩を始めるととんでもない事態になる事もわかっていたので渋々止めに入った
「もういい加減にしてください、全く子供ですかあなた方は・・・こんなのが国のトップとか、ジパングとローゼフォンの国民がかわいそうですよ・・・」
そう言い放ちもう冷めてしまっているであろうコーヒーを再び口に運ぶハウゼン、またもや敵意の対象がお互いからハウゼンに向かう2人
『貴様が店主におかしな質問をするからこうなったんだろうが!?いつも上から見下すような発言ばかりしおって‼』
『あんたも本当に性格悪いわね!?ひょっとしたら清長よりずっと陰険なんじゃないの!?』
必死でこらえる二人をよそに何事も無かったように立ち上がるハウゼン
「さあそれでは、行きましょうか」
三人はその店を後にして城へと向かった、そしてその背中を不思議そうに見つめる店主の姿があった
ローゼフォン公国の居城であるミラーゼ城に先についた鳴沢とハワード達は辺りを見渡しながらきょろきょろしていた
「ハウゼン君はどこに行ったのかな?鳴沢博士は判りませんか?」
「ワシにもさっぱり・・・ただ言える事は港に着いてからここに来るまでのハウゼン君はおそらく魔法による傀儡・・・つまりダミーだったんでしょう、何の為かはわかりませんが・・・」
二人がそんな話をしていると城門からどよめきが起こった
「今シャーロット様がお客人とご帰還されました‼」
そんな声が城内に響き渡る、そして帰還したシャーロットに警備兵が質問する
「しかしシャーロット様はいつの間に城外に出られたのでしょうか?我々は全く気が付きませんでしたが・・・」
その質問にはニコリと笑顔を返すだけで足早に城内に引き揚げていくシャーロット、それについて行くハウゼンと清長
「あっ!?大統領、あそこにいるのはハウゼン君じゃないですかね?あれもう一人いるが・・・あっ!?」
「博士、あれは須賀之清長じゃないのか!?彼がなぜここに?・・・」
ハウゼンと清長はシャーロットの案内されるがままに奥の部屋に通された、その部屋は決して広いとは言えない大きさであったが密談が目的なので寧ろこのぐらいの広さが適度なのであろう、部屋のあちこちに装飾に見せかけた形で盗聴防止の為の魔法処理がされている事がわかった、椅子に座りながらその部屋を見回す二人、ハウゼンが思わず口走る
「これほどの魔法処理がしてあっても盗聴を防げないとは・・・」
「そうなのよ、もう私には打つ手が見当たらなくて・・・ねえ清長あなたならどうやって盗聴しているのか探す事ができる?」
その質問にフッと笑う清長
「探すまでも無い、もう見つけた」
その言葉に驚き思わず立ち上がるシャーロット
「えっ!?嘘でしょ、私達が総がかりであれだけ探しても見つからなかったのに・・・」
清長は人差し指と中指を立てて印を結ぶ、そして掛け声と共に指を天井方向に向けた
「破‼」
すると天井から”ピギャ~”という声と共に二匹のネズミがテーブルの上にボトリと落ちてきたのだ、そのネズミ達はテーブルの上でピクピクと痙攣していたがしばらくするとスッと姿が消え紙になった
「あっ!?」
思わず叫ぶシャーロット、ハウゼンも少し驚いていたが感心しながら清長を見る
「なるほど・・・相手も陰陽師でしたか、さすがですね清長・・・ん!?どうかしましたか?」
清長はネズミだったその紙をなにやら真剣な顔で見つめていた、そして静かに話し出す
「これは陰陽道を使った術ではあるが陰陽師の仕業ではない・・・」
「えっ!?どういう事なの?わかる様に説明してよ」
清長は二人に紙を見せてまずは中央部を指さす
「これを見てくれ、中央に書いてあるこの五芒星、これは我々の使う陰陽道の業だ、しかしこの五芒星の周りに書いてある赤い呪文これはお前らの使う魔法じゃないのか?」
「確かにそうですね、これは我々の使う魔術と同じものです」
「やはりそうか、それと一番わからないのがこの四角に書いてあるこの印、これはなんだ?」
「さあ・・・これは私にもわかりません一体・・・」
清長とハウゼンが正体不明の印に困惑する、その時シャーロットが口を開いた
「これはおそらく錬丹術よ、もう絶滅したって聞いてたけど・・・」
「錬丹術!?名前だけは聞いた事がありますが!?」
「という事はこの術は陰陽道と魔術と錬丹術を組み合わせた物という事なの?一体誰がそんな事を!?」
シャーロットとハウゼンがこの術に対して議論していた時、清長はまだ紙を見つめていた
「どうしました清長、何かその呪符に心当たりでも?」
その問いかけにも答えず清長が厳しい表情で独り言をつぶやいている
「いやまさか・・・しかし・・・」
清長のそんな態度が気になりながらもシャーロットに話しかける
「どうでしょう、この際城内にいる盗聴ネズミを清長に一掃してもらっては!?」
「それはいい考えね、それじゃあ頼むわね清長」
先程まで他の事は耳に入っていなかった清長もその提案には猛反論した
「ちょっと待て!?貴様らいい加減にしろよ、そもそも今回の事はローゼフォンの問題であって私には関係ないだろ!?それを城中のネズミ退治だと!?調子に乗るのも大概にせんか‼」
ハウゼンはため息をつき諭す様に清長に話しかける
「清長・・・これはあなたにしかできない事だからあなたに頼むのです、別に面倒だからあなたに押し付けたわけではありません、それに今回の事でローゼフォンに多大な恩が売れるのですよ、それを考えればネズミ退治など安い買い物でしょう」
「そうよ、ローゼフォンはジパングに心から感謝するわ、だからお願いね清長」
清長はいいように言いくるめられたような気がして釈然としない、しばらく二人を睨んでいたが
「わかったそこまで言うならやってやろう、確認しておくが本当にこれでローゼフォンは感謝するんだな?」
シャーロットはにこやかに答える
「もちろんよ、国を代表して感謝の意を表明するわ」
その言葉にニヤリと笑う清長
「わかった、ならばシャーロットこの私に”よろしくお願いします”と頭を下げろ、ローゼフォン公国としてじゃなくていい、お前個人としてこの私に頭を下げて頼むのであれば聞いてやる」
「は!?」
シャーロットの顔が急に歪む、そのやり取りを見ていたハウゼンは
「どうしました?早く頭を下げて頼んだらいいでしょう、個人として頭を下げるだけで国の危機が救えるのですよ?こんなに安い買い物はないでしょう?」
あまりにしれっと言い放つハウゼン、シャーロットにしてみればこの世で一番頭を下げたくない相手に頭を下げるなどこれ以上の屈辱は無いのだ、しかしどう考えてもここは頭を下げる以外の選択肢は無く断腸の思いで頭を下げた
「須賀之清長殿、なにとぞお願いいたします・・・」
シャーロットの体は悔しさで震えていた、それを見て満足げな清長
「しょうがないな、そこまで頼むのならばやってやろう、一生恩に着るんだなはっはっは」
そう言って笑うとそのまま部屋を出て行った、その後しばらくしてもシャーロットはまだ頭を上げれずにいた
「どうしましたシャーロット?もう頭を上げてもいいんですよ」
シャーロットは頭を上げるとハウゼンを睨みつける、その目には悔し涙がにじんでいた
「私は生まれてこのかたこれほどの屈辱を味わった事は無いわ・・・」
「そんな大げさな、高々頭を下げただけの話でしょうに・・・それで、あなたはまだ私に話があるんじゃないですか?」
その言葉にギョッとするシャーロット
「そう・・・何もかも御見通しって訳、本当にいやらしいわね・・・清長とは全てが合わないけどあなたへの気持ちだけは意気投合できる気がするわ」
ハウゼンはシャーロットの言葉を聞き流し本題を話すのを待っていた、シャーロットは諦め顔で話始める
「これは他言無用でお願いしたいんだけどね、さっき少し話したと思うけど実は我が国の秘宝が盗まれてね、これに関しては本当に困ってて・・・事情があって詳しくは話せないんだけど、もしこれを悪用されると大変な事になる可能性があるからどうにか取り戻したいんだけど、何かいい方法は無いかしら?」
「それは随分と漠然とした話ですねぇ、正直何がどこでどうやって盗まれたのか?せめて盗んだ人間がわかるのなら探しようもあるんでしょうが・・・それは清長でも無理でしょう」
シャーロットは目を伏せ落胆した表情を見せる
「そうよね、いくら何でもこんな話で見つけろって言うのは虫のいい話よね・・・」
ハウゼン何かを思いついたような仕草を見せる
「もしかしたらですが、わかるかもしれません・・・あくまで可能性の話ですが」
シャーロットは目を丸くしハウゼンを見つめる
「それ本当?正直今はワラをもつかむ気持ちなの、お願い探してもらえないかしら!?」
「それには一つ条件があります、今回私と同行して来た人間の一人に事情を話す事を許可していただきたい、まずはそれからです」
シャーロットはしばらく考え込んでいたが意を決した様子で
「わかったわ、でもくれぐれも言っておくけど他言は無用でお願いしたいの、いいわね‼」
シャーロットの念押しに大きくうなづくハウゼンであった、その事を確認するとシャーロットは手元の呼び鈴を鳴らし伝達の兵を呼んだ、すぐさま部屋をノックする音が聞こえドアが空いた
「お呼びでございますかシャーロット様」
兵に聞かれたシャーロットがハウゼンに目配せしをする、うなづいたハウゼンは兵に事情を説明した
「私と一緒に来たスタネールの一団の中に鳴沢博士という方がみえます、その人をここに連れて来てくれますか?」
伝達の兵は一旦シャーロットの方を見て確認するがシャーロットが無言でうなづくと
「かしこまりました少々お待ちください」
そう言って部屋を出た、兵の足音が遠くなるのを見計らってシャーロットが問いかける
「その鳴沢という人物はどんな人間なの?聞いた事も無い名前だけど・・・」
「そうですね、我々の様に戦う力がある訳ではありません、しかし知識という点ではこの世界でも一番と言っていい人間です、いうなれば”知識の賢者”といったところでしょうか」
シャーロットはその説明を半信半疑で聞いていた、そんな凄い人間ならば今まで一度くらいは名前を聞いた事があるはずだと思ったからである、しかし今はわずかな可能性にでも賭けてみたいという心境で半信半疑ながらもハウゼンの意見を受け入れたのである、しばらくすると再び部屋をノックする音がして兵と鳴沢が入って来た
「おおせ付けの通り鳴沢博士をお連れしました」
「ご苦労でした、下がって結構です」
伝令の兵は一礼をして部屋を出ていく、兵の足音が遠くなった時ようやくシャーロットが立ち上がり鳴沢に握手を求めた
「初めまして、私はローゼフォン公国で司令官兼国務大臣をさせていただいていますフォレスト・シャーロットと申します」
シャーロットは国の代表として堂々たる態度で握手の為の手を差し出してきた、それに応える鳴沢
「初めまして私は鳴沢英治と申します、”氷壁の魔女”にお会いできて光栄です」
シャーロットの眉がピクリと動く、しかしここは大人の対応を見せ顔を引きつらせながらも微笑みを絶やさなかった、そんな事は気にもせずにハウゼンが切り出す
「鳴沢博士、実はあなたの知識を頼りたいのですがよろしいですか?そしてこれは絶対に他言無用という事です、ではシャーロット先ほどの説明を」
促がされたシャーロットは大きくうなづくと先ほどハウゼンに話した事をそのまま鳴沢に話す、目を閉じ静かに話を聞く鳴沢、シャーロットは話し終わると
「こんな雲をつかむような話で探せというのは無茶だという事はわかっています、でも今はどんなことにでもすがる様な気持ちでして・・・鳴沢様何かわかりますでしょうか?」
シャーロットは自分で話していながらもこんな情報でわかるはずなど無いとは思っていた、しかし鳴沢の口から出たのはシャーロットの予想を大きく裏切る驚きの言葉であった
「なるほど話はわかりました、ローゼフォン公国の秘宝で悪用されると危険な可能性の物といえば”フロストバスター”じゃな!?確かにアレを兵器に利用しようものならかなり危険じゃからな」
あまりの驚きに目を見開き大口を開けて立ち上がるシャーロット、少しの間は口をパクパクしながら言葉すら出なかった
「ど、どうしてそれを!?そんな馬鹿な・・・あれの存在を知っている人間はローゼフォンの中でも10人いないのよ!?」
我に返り座り直し落ち着こうとするシャーロット
「失礼しました、話をお続けください・・・」
「ところでそのフロストバスターというのはどんな物なんですか?名前からすると冷却系の能力を持った武器なんでしょうけど」
ハウゼンの質問に鳴沢は嬉しそうにうなづくと説明を始めた
「うむそのとおりじゃ、フロストバスターは恐ろしく強力な能力を持った剣でな一振りするだけで冷却系の上位呪文と同じ程度の威力を発揮できる代物なのじゃ」
「それは凄いですね、私も欲しいくらいです」
その意見に首を振る鳴沢
「それは無理じゃいくら君でもアレは使いこなせない、なぜならあれには強力な呪いがかかっていてな、どれほど冷却対策の装備をしていても5分ともたずに使用者をも凍らせてしまうという文字通り両刃の剣なのじゃ・・・」
鳴沢の完璧な解説にただただ驚くシャーロット
「そんな強力な呪いなんですか!?それは神官クラスでも解けないのですか?」
「それは無理じゃ、あれは世界7大龍である”フロストドラゴン”の呪いがかかっているのでな・・・」
シャーロットはまたもや立ち上がり大声を上げた
「あれはドラゴンの呪いだったの!?そりゃあ私がどうやっても解けない訳だわ・・・」
再び我に返り頭を下げるシャーロット
「度々失礼しました、話をお続けください」
ハウゼンが再び問いかけた
「そんな呪いがかかっているのならいくら強力といっても武器としてはあまり使えませんね、それで誰がどうやってそれを盗み出し今どこにあるのか?という事は判りますでしょうか博士」
鳴沢は腕を組み目を閉じてしばらく考える
「正直誰がどうやって盗んだかという事は判らん、しかし今どうなっているかというのは見当がつく、あくまで推測に過ぎないがな」
その言葉に身を乗り出して問いかけるシャーロット
「本当ですか鳴沢様!?フロストバスターは今どこに!?」
そのシャーロットの問いかけに鳴沢はハウゼンに目配せをした、話してもいいのか?という意味の仕草だったがハウゼンはゆっくりとうなづいた
「わかった、盗んだ犯人と犯行手段は判らんが盗み出した目的・・・というか依頼主は判っておるゲルムガルン連邦じゃ」
その名前に目を細めて険しい表情を見せるシャーロット、それまでの高いテンションとは違い静かに話し始める
「ゲルムガルンですか・・・という事はまだこの国への侵略を諦めていないんですね?」
鳴沢はうなづく、そして話を続ける
「しかしゲルムガルンに運ばれる途中で野盗集団に襲われフロストバスターは奪われたんじゃ、おそらく情報が漏れたのか盗んだ者がリークしたのかのどちらかじゃろう、その野盗集団というのはジャンゲルガー兄弟一味じゃ」
「鳴沢博士ジャンゲルガー兄弟といえば確か・・・」
「そう先月ある者に殺されておりその一味も全滅しておる、ここからはあくまでワシの推測になるんじゃがジャンゲルガー兄弟一味を倒したのはおそらくドラグナイトの一人、つまりフロストバスターは今そのドラグナイトが持っている可能性が高い・・・というのがワシの見解じゃ」
あまりの超展開に理解が追いつかないシャーロット
『えっ!?どういう事?ゲルムガルンが黒幕で盗み出したけど野盗に奪われてそれをドラグナイトが倒して今持っている!?何が何だか・・・』
「という事だそうですが、どうですかシャーロット」
その問い掛けにも混乱しているシャーロットはうまく答えられない
「ちょっと待って、鳴沢様が凄い知識の持ち主という事は十分わかったわ、でもゲルムガルンが黒幕でジャンゲルガー兄弟が奪って今ドラグナイトが持っているなんてあまりに現実離れしていてにわかには信じられないのよ・・・そんな事ってあり得るの?」
「まあにわかには信じられんという気持ちはわからんではないがの、それにこれはあくまでも推測の域を出ない、しかしその可能性はそれなりに高いと思っておる、なぜなら元々あのフロストバスターという武器はドラグナイトの為の武器じゃからな!?」
その言葉にシャーロットはもちろんハウゼンも驚く
「それはどういう事ですか博士!?」
「うむ、ドラグナイトというのはその強さの代償としてドラゴン装備以外はDランク以下の装備しかできない設定・・・いや呪いがかかっておる、その呪いの正体は竜の装備以外は受け付けないというモノでな・・・」
その時シャーロットが”あっ!?”と叫ぶ
「フロストドラゴンの呪いとドラゴンの武器しか装備できない呪い・・・」
鳴沢がうなづく
「そういう事じゃ、つまりドラグナイトだけがあのフロストバスターを使いこなす事ができるという事じゃ、その事を知っているのはおそらくワシぐらいだと思うがの」
ハウゼンはシャーロットが鳴沢の説明を聞いて落胆するのかと思ったが、何やらホッとしている様子であった
「どうしました?フロストバスターが戻ってくる可能性が低くなったというのに何だか安心しているようにも見えますけど!?」
「うん、アレは凄く危険な物なの、鳴沢様が言った通り兵器への利用を考えるととんでもない可能性を秘めていてね、だからこそこの国では秘宝中の秘宝として扱われていたのよ、でもドラグナイトが持っているならある意味一番安全といえなくもないからね、少なくとも兵器への利用なんて考えないでしょうから・・・」
ハウゼンはシャーロットの態度と話に何か引っかかるモノがあり少し探りを入れてみた
「先ほどから聞いていますとフロストバスターの兵器への利用の可能性に対してあまりに過剰な反応をしているように見受けられます、もしやそれは可能性というよりもっと具体的に確立された物ではないんですか?」
「いやその・・・何でそんなこと思うの?・・・嫌だわそんな訳・・・えっ!?」
その言葉に動揺しあまりにわかりやす反応を示すシャーロット
「もうわかりましたので結構です、そうですか・・・そんな研究が進められていたならあなたがそれほどまでに危惧した理由もわかります」
シャーロットは慌てて否定しようと思ったがもう遅い事を感じて諦めた
「私は最初は反対だったの、でも国防の手段としては非常に有効だという事は動かしがたい事実だしね、国民を守る立場としてはどうしても・・・」
シャーロットの肩にポンと手を乗せるハウゼン、そして問いかけた
「その研究はあなただけのモノでは無いでしょう、協力者がいるはずです違いますか?」
再び驚きハウゼンの顔を見つめるシャーロット
「あなたって人はどこまで・・・わかったわ今からその協力者を紹介するわ、ちょっと待ってて・・・」
そう言い残すとシャーロットは部屋を出て行った、シャーロットが部屋を出て少ししてから鳴沢がハウゼンに問いかける
「なぜその研究に協力者がいると思ったのかね?ワシには全然わからなかったが」
ハウゼンは目を閉じ下を向いて静かに語りだした
「フロストバスターというのは武器としてはあまり使えないモノです、しかし無限のエネルギーを生み出す発生源と考えればどうでしょう?エネルギーの武器への利用・・・」
鳴沢がハッと気が付く
「まさか!?」
「そう地球人の発想です、ですから私は地球人の協力者がいると思ったんですよ」
しばらくするとシャーロットは一人の男を連れてきた、その男はやせ形だが目つきは鋭くメガネをかけていていかにも学者という風貌であった、そして部屋に入るなり”あっ!?”と声を上げた、そしてその声に鳴沢も反応する
「チャーリー君か?いやまさかこんな所で会うとは」
「お久しぶりです鳴沢博士、一年半ぶりですかね!?」
二人はがっちりと握手をした、その光景をポカンと見つめるシャーロット
「あのチャーリー、鳴沢様とお知り合いなのですか?」
にこやかに答えるチャーリー
「ええまさかこんな所でお会いできるとは、私も驚きです」
ハウゼンも鳴沢に小声で話しかける
「博士、彼とはどういったお知り合いで?」
「彼とはTCMVの開発で一緒になってな、学会でも何度か一緒になった事があっての、まさかこんな所で合うとは思わなかったが」
「TCMVの?じゃあハワード大統領も呼んだ方が良くないですか?」
「うむ、向こうが許してくれるならその方が話が早いかもしれんの・・・」
ハウゼンはシャーロットに提案する
「実は我々の中にもう一人ここに呼んで欲しい人間がいるのですがいいですか?」
ハウゼンの提案にもはや反対する理由もないシャーロット、再び伝言の兵を呼び呼びに行ってもらう、しばらくして部屋をノックする音がして部屋にハワードが入って来た、その時のチャーリーの驚きの様子は学者とは思えないリアクションであり、ついにはその場で尻もちをついてしまったのである
「ジェームス・ハワード???なんで・・・はっ!?大変失礼しましたミスタープレジデント‼」
慌てて立ち上がり背筋を伸ばすチャーリー、ハワードの方は彼が誰なのかわからず鳴沢に尋ねた
「鳴沢博士、一体彼は何者なのかね?」
「彼はアメリカ人で一流の学者です、私とはTCMVの開発で一緒に仕事をした仲なんです」
「TCMVの!?そうか・・・しかもアメリカ人か!?」
それを聞いたハワードは嬉しそうにチャーリーに握手を求めた、緊張しながら何度も頭を下げガッチリ握手をするチャーリー
「こうしてお会いできて光栄です、フロリダの奇跡であなたに投票したフロリダ出身のハウエル・チャーリーと申します」
ハワードは嬉しそうに何度もうなずいた、シャーロットは何を言っているのかもわからない為もう考える事すら諦めた、ハウゼンもチャーリーと握手する
「私はリチャード・ハウゼンと申します、ワシントン在住だったアメリカ人です」
「おぉ~これほど同郷の人間に会えるとは嬉しい限りです、ワシントンでは何を?」
「NASAに務めていました、TCMVの作戦にも関わった一人です」
「本当ですか!?じゃあ本当の仲間ですね!?」
堪りかねてシャーロットが話しかけた
「あのチャーリー、そろそろ本題に入ってくれないかしら!?」
「これは失礼、では我々がどんな研究をしていたのかお話しさせていただきます、まず私が考えたのはこの世界と地球の違いです、大気の成分や鉱物などはほとんど同じなんですが両者には根本的な違いがあります、そう魔法と科学です、この世界は基本精霊の力を魔法という形で力に変換してそれを行使します、そこに科学の発想はありません、当然我々にも魔法の発想はありません、しかしこの二つを融合した場合新しい事が可能なのではないか?というのが最初の発想でした、そこで最初に注目したのはこの世界にある金属です、知っての通りこの国で取れるアンキロナイトは非常に魔法との相性がいい事で知られています、それに対し通常武器の材料としてよく使われるカルストンという鉱物は硬度的にはアンキロナイトとあまり変わらないにも関わらず価格が10倍以上違います・・・」
その時ハワードが挙手をしてチャーリーに尋ねる
「チャーリー博士、それはなぜなんだね?硬度がほぼ同じならそんなに価格が違う理由がわからないんだが」
その質問に嬉しそうにうなづき答えるチャーリー
「それは今から説明します、つまりアンキロナイトとカルストンの決定的な違いは魔法に対する相性です、例えば地球の金属でも熱が伝わりやすいとか電気を通しにくいとかの差がありますがそれと同じと思ってください、つまりアンキロナイトとカルストンで制作した武器に同じ魔法処理をしたとしても効果は全く違うということなんです」
チャーリーの説明に感心して聞き入るハワード、シャーロットにしてみるとそんな事は基礎中の基礎なのでそんな事も知らないのか!?というぐらいのやや冷ややかな目で見ていた、チャーリーの話は続く
「さて基礎的な事は判ったと思いますが次に金属の種類によって魔法の中でも相性がいい魔法と悪い魔法があるという事をシャーロットに教えてもらいました、例えば先ほど説明したアンキロナイトとカルストンですが金属として圧倒的にアンキロナイトが優れている事を説明しましたが唯一暗黒魔法に対する相性はわずかですがカルストンの方が優れているんです、しかし暗黒魔法を自分の武具に処理するなんて物好きは滅多にいない為評価の対象外になっているんですが、そこで考えたのが金属を使って魔法と科学を融合した武器の制作です」
その言葉を聞いたときハウゼンは目を細め眉をひそめた
「アンキロナイトのもう一つの特徴は非常に軽いということです、ですから我々はこれをできる限り薄くし球体に加工します、そしてフロストバスターから発生した冷気を一旦これに入れその周りを電撃系の魔法でコーティングして閉じ込めると共に浮遊させます」
その意見にハウゼンが驚く
「つまり超伝導とイオンクラフト効果を同時に利用し兵器に活用したという事ですか!?」
その質問にうなづくチャーリー、そしてハウゼンが嘆きに近い言葉をつぶやく
「何という事を考えたんですか、あなた達は・・・」
何が何だかさっぱりわからないハワードが鳴沢に質問する
「鳴沢博士、私には何を言っているのかわからないんだが説明してくれないかね?」
「わかりました、元々魔法というのは威力に個人差がありますし、どんな優れた魔法使いでも魔力が切れたらもう魔法は打てません、何より呪文を詠唱しなければならないという欠点があります、今チャーリーが説明しているのは簡単に言えば魔法の詰まった球を事前に作っておいて戦いになったらそれを相手にぶつけてやると言った発想です、しかもその球はイオンクラフト効果で浮遊していますから対象物に対してわずかな力のベクトルを加えてやれば敵に対して飛んで行ってくれる・・・ということです」
ハワードにもその凄さがようやく分かった、ハウゼンがシャーロットに質問する
「シャーロット、あなたは敵が攻めて来た時にこれを使ったんですね?こんなものを使われては相手に勝ち目などある訳がない」
シャーロットは伏し目がちにハウゼンに答える
「しょうがないじゃない、私はこの国を守らなければならないんだから・・・それにこの球自体にそこまでの殺傷能力は無いわ・・・」
そのシャーロットの態度に違和感を感じたハウゼンはさらに問い詰めた
「国防の為に新しい技術を使うという事は悪い事ではありません、その魔法の詰まった球を使う事も責めるつもりはありません、しかしあなたはまだ何か隠していますね?」
シャーロットは眉をひそめハウゼンと目線を合わせようとはしななかった、それを見かねたチャーリーが代わりに話始めた
「シャーロット殿の代わりに私から説明いたします、私達が研究したのは先ほどの物を応用したものです、まず引火率の高い燃料に爆裂系の魔法処理を施します、今度はそれをアンキロナイトの球体で包み込みそれに爆炎系の魔法処理をして空気に触れたら発火するよう調節します、そしてさらにその上からでフロストバスターの冷気と電撃系の魔法処理でコーティングします・・・」
ハウゼンは珍しく声を荒げて叫ぶ
「あなた達は何という事を‼」
その声にビクッと反応するシャーロット、鳴沢も目を細めて聞いている、何がおこったのかわからないハワードが鳴沢に再び質問した
「鳴沢博士、ハウゼン君はなぜあんなに怒っているのだ?一体彼らは何を作ったのかね?」
鳴沢はハウゼンを見て言い渋ったがハワードに内緒にし続ける訳にもいかず話す事にした
「彼らはFAEを作ったんですよ・・・」
ハワードはそれを聞いて大声を出した
「FAEだと!?そんな物がこの世界でできるのか?」
「もちろん正確には違いますが理論は同じだと思われます、科学と魔法の融合兵器・・・魔道科学兵器とでも言いますか・・・」
鳴沢が重い口調で説明をする、ハウゼンがシャーロットに詰め寄る
「あなたはこの兵器がどれほどの威力を発揮するのか知っていて作ったのですか!?これはFAE 気化爆弾といってその威力は小型戦略核にも匹敵すると言われているんですよ‼」
シャーロットが心配そうにハウゼンに質問する、自分がしようとしていたことが恐ろしくなっていたのだ
「その気化爆弾とか小型戦略核とかいうのはどれほどの威力があるの?私に教えて、お願い」
ハウゼンがようやく冷静さを取り戻しその質問に答える
「本来の気化爆弾とは違いますから同じだけの威力があるかはわかりません、しかしもし同じだけあったなら・・・たった一発で20万人もの人間を一瞬で殺傷するだけの威力があると思われます」
そのあまりの数字にガタガタ震えて言葉が出ないシャーロット
「私・・・私は・・・なんて・・・」
口に手を当てて泣き出すシャーロット、ハウゼンはため息をついてチャーリーに問いただす
「チャーリー博士、この研究はどこまで進んでいるのですか?」
「まだ基礎理論の段階だ、部分実験すらしていないよ、その前にフロストバスターが盗まれたからね・・・」
「なるほど・・・だからシャーロットはあれ程フロストバスターの行方を心配していたのですね、ゲルムガルンに渡っていたらと思うとゾッとしますね」
「ごめんなさい、私そんな事になるなんて想像もしていなくって・・・」
ハウゼンはシャーロットの肩に手を乗せて
「まぁ我々魔術師という人種は興味を持ったら善悪とか関係なくとことんやらないと気が済まない、どうしようもない人間ですからね・・・特にあなたの様な研究家には魅力的な研究材料だったでしょう」
その時ハウゼンが深刻な顔をして考え込む
「シャーロットあなたに提案があります、今回フロストバスターがゲルムガルンに渡らなかったことで事なきを得ましたが、盗もうとしたという事は気化爆弾の理論がゲルムガルンに漏れている可能性があります」
「そんな・・・どうしよう・・・」
「そこでゲルムガルンに奇襲をかけてその辺りを探るのと共に致命的な打撃を与えておくというのはどうでしょうか?」
シャーロットはその提案に首を振る
「それは無理よ、さっきも言ったでしょ、この国には内通者がいるって・・・奇襲なんてバレていたら待ち伏せされてアウトじゃない、そんな危ない賭けにローゼフォンの大切な兵の命を賭ける訳にはいかないわ」
フッと笑うハウゼン
「何を言っているのですか兵なんて使いませんよ、私とあなたで行くんです、行くことを誰にも伝えなければ情報が漏れる心配は無いでしょう」
「私達二人で?そんな事が・・・」
シャーロットが口を開いた瞬間、部屋のドアが空く
「私も連れて行け」
その声の主は清長であった、シャーロットが驚く
「なんでアンタが!?・・・」
「私も不思議ですよ清長、今回ずっと乗り気じゃなかったあなたがどんな心境の変化ですか?」
清長はクスリと笑うと
「今まで私と関係ないと思っていたから乗り気じゃなかっただけだ、しかしどうしても行かなきゃならない理由ができた、それだけだ」
ハウゼンは肩をすぼめて軽くため息をついたが
「理由は何でもいいですが本当にあなたが一緒に行ってくれるなら非常に心強いです、正直助かります」
「じゃあ決まりだな、いつ出発する?私は今でもいいくらいだが・・・」
そこにシャーロットが立ち上がり口を挟む
「ちょっと待って、今夜スタネールの一団を招いての歓迎会があるの、それに出席しないのはさすがに怪しまれるわ、せめてそれが終わってからにしましょう」
「私はそれで構いませんよ」
「しょうがない、そんなところで手を打つか」
「じゃあ決まりね、今夜歓迎会の後に乗り込みましょう‼」
それの光景を鳴沢が嬉しそうに見つめている、ハワードがそんな鳴沢に質問した
「鳴沢博士一体何がそんなに嬉しいんですか?」
「あの三人が共同戦線を張って一緒に戦うんです、世界三大賢者の競演・・・世界中の魔法使いがこれを聞いたら腰を抜かすほどの衝撃をうけますよ!?その歴史的瞬間に立ち会えているんです、後で自慢話になりますよきっと」
鳴沢はワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
今回はハウゼン達の話です、今回初登場のシャーロットですがまたもや以前考えていた性格と違いじゃじゃ馬キャラになってしまいました・・・私が書くとなぜかこんな女子ばかりになってしまって自分の力の無さを痛感しております・・・また懲りずにおつきあいいただけると嬉しいです、今回は間違いなく2部構成なのでよろしくお願いします、では。




