大光星剣武祭 瞬殺の貴公子編
東条人物
沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている
マルコ…さらわれた姉を助けるため最強を目指している少年
岡部小次郎…全日本剣道選手権を二連覇した剣豪、メルトラント王国の軍のトップでムサシと名乗っている大光星剣武祭でも二連覇中の国民的英雄
ジャン・アレーン…大光星剣武祭の限定戦に出場予定の若者、ジャマダハルという特殊な剣を使う
東条源次郎…拓斗に剣道を教えた師匠みゆきの祖父
西園寺健一郎…岡部の師匠、東条源次郎とは長年のライバル
西園寺怜次…西園寺健一郎の孫で天才剣士と言われている、中学時代に拓斗とも戦い倒している
町は大光星剣武祭の前夜祭の準備で活気づいており、拓斗は岡部との約束の場所で待っていた、
そこは昼間の騒ぎのあった同じ場所とは思えないほど静かであり周りの人々は
黙々と作業を続けている
『早く来すぎちゃったかな・・・』
拓斗がそんな事を考えていた時、反対側からこちらに歩いてくる人物が確認できた
昼間と違い一般人を装う格好をしていたがその体格が明らかに一般人のそれと違う為
拓斗にはすぐにわかった
「先ほどは失礼した、待ったかい?」
「いえ僕も今来たところです」
そんなありきたりの会話を交わした後椅子に腰かけ改めて挨拶をする二人
「じゃああらためて自己紹介させてもらうよ、私は警視庁第三機動隊所属の岡部小次郎
ここではメルトラント王国総合指令隊長ムサシと名乗っている」
「僕は沢渡拓斗といいます、今年の全日本剣道選手権は見に行かさせてもらいました‼」
「そうかそれで俺の事を・・・ところで君は剣道をやっているんだよね?沢渡拓斗・・・
どこかで聞いたことがある様な・・・もしかして君は怜次と戦った事のある
沢渡君じゃないのかい!?」
岡部のその言葉に拓斗の表情が一瞬強張る、怜次・・・西園寺怜次それは
高校生剣道選手権やインターハイを圧倒的な強さで優勝し未だ無敗をを誇る天才剣士の名前である
実は拓斗も中学時代に全日本中学剣道選手権大会の決勝で西園寺怜次と当り敗れている
「はい・・・そうですが、何でその事を知っているんですか?」
「そうかやっぱり!?実は俺も西園寺健一郎先生の弟子でね、先生の孫である怜次は
俺の弟弟子になるんだよ、だからあいつの強さは良く知っている、まだ高校生なのに
俺とやっても3本に1本は取られるからな・・・あいつは本当に天才だ
だから同学年相手では全く勝負にならずにいつも退屈そうだったんだ、君と当るまではね!?」
「俺と!?それは一体・・・」
「中学の大会の決勝で怜次から君がいきなり一本取ったろ!?」
その岡部の言葉に目線を落とし静かに答える拓斗
「でもその後立て続けに二本取り返され負けました・・・最初は本気じゃなかった様子でしたし
油断の隙をついてたまたま一本取れただけで、本気を出されたら力負けしましたよ」
「しかし後にも先にも同学年で怜次から一本取ったのは君だけだ
大会の後も怜次の奴は君の事を話してたぜ!?」
ビックリして岡部の方を向きなおす拓斗
「彼が俺の事を!?一体何と?」
「面白い剣を使う奴に出会ったと、本気でやったのに紙一重だったとね・・・
怜次の奴めずらしく嬉しそうに話してたよ、だから俺も印象に残ってて
君の名を覚えていたんだろう」
「そうですか・・・怜次君が僕の事を・・・」
拓斗は少し嬉しかった、中学の全国大会の決勝では圧倒的な力でねじ伏せられた気持ちでいたからだ
自分では精一杯戦ったが相手からはどう映ったのだろう?と気になっていた
まさかこんなところでその答えが聞けるとは思っていなかったからだ
「ところで君は今でも剣道を続けているのかい?怜次からは何も聞いていないんだが・・・」
「今は剣道をやっていません、子供の頃から剣道を教えてくれていた先生が
亡くなってしまいまして・・・どうしても他の人に教わる気持ちになれなかったんです
ですから高校に入ってからはやってないんです」
「そうか、それは残念だ・・・君ほどの選手なら随分スカウトも来たんじゃないか?」
「はい、強豪校といわれる高校から何校も来ました、それぞれの高校にも見学に行きましたが
どこも練習や指導が試合に勝つための事だけに重きを置いている気がしてしまって・・・
先生の剣道と違うと感じてしまいまして結局どこにも行かずに止めてしまいました・・・
それ以来この世界でばっか剣を振っていました」
「そうか、私と少し似てるな・・・ところで君の先生はどういう方なんだ?」
「東条源次郎先生です」
その名前を聞いて驚いて立ち上がる岡部
「君はあの東条先生の教え子なのか!?なるほど・・・それなら怜次と戦えたのも納得できるな
実は私も子供の頃、西園寺先生と東条先生の試合を見て剣道を始めたんだ
たまたま西園寺先生の道場は家から近かった事も幸いしてね」
「そうなんですか、僕も昔の映像で両先生の決勝戦での戦いを見た事があります
本当に凄かったです」
岡部は何度もうなづく
「俺はたまたま全日本選手権で二連覇させてもらったが、あの時の先生方には
まだ足元にも及ばないと思っている・・・俺は西園寺先生の教えで上段の使い手になったんだ
お前にはそれが合っていると言われてね、先生と稽古した後はよく言われたよ
”お前は私の弟子の癖にどんどん源次郎に似てくる”って・・・
だから東条先生の試合の映像はそれこそ穴が開くほど見直したよ
そういう意味では私も東条先生の弟子のつもりでいたよ」
軽く笑いながら目を閉じて語る岡部の姿に親近感すら覚えた
「だから東条先生が体を悪くされて引退したと聞いた時はいてもたってもいられずに
東条先生の道場に訪問したんだ」
その言葉に驚く拓斗
「えっ!?岡部さんウチの道場に来られたんですか?」
「ああ一度だけね、もう先生は寝たきりに近い状態だったらしいんだが
私が訪ねた時は胴着を来て道場で正座をしながら私の剣を見てくださったんだ
わざわざ訪ねてくれたのに私自身が相手できなくて申し訳ないと何度も頭を下げられて
逆に恐縮してしまったよ」
「そんな事があったんですか・・・」
「ああ、だから先生のお弟子さんが相手してくれてね・・・
しかし東条先生に間近で剣を見ていただけて光栄だった
俺は見てもらった後ドキドキしながら東条先生の感想を聞いた
先生の目には俺の剣はどう映ったんだろう?とね」
「東条先生はなんておっしゃったんですか?」
「いい剣だと・・・本当にいい剣だとおっしゃってくださったんだ、健一郎は幸せ者だ・・・と」
しみじみと語る岡部の目にはうっすらと涙が浮かんでいた
「俺は嬉しくて・・・本当に嬉しくてな・・・その翌週だよ
東条先生が亡くなったと聞いたのは・・・」
岡部は言葉を詰まらせてしばらく無言が続いた
「その訃報を聞いたときの西園寺先生の落胆は凄かったよ
あくまで気丈に振る舞われてはいたがな・・・その日西園寺先生は道場で
一人一晩中竹刀を振っていたらしい」
「そんなことがあったんですか・・・」
「ああ、なんか湿っぽい話になってしまったな・・・ところでどうだい沢渡君
これも東条先生が引き合わせてくれた縁だと思うんだ、明日の大会出てみないか?
俺も君の剣が見たい、というより君と剣を合わせてみたいんだ
東条先生の教え子で怜次をうならせたその剣を」
拓斗はしばらく考えていたが
「わかりました出場してみます、何とか岡部さんと戦うまで
負けないように頑張ります」
「ああ、お互い頑張ろう、じゃあ俺はこの後の前夜祭のセレモニーに
参加しないといけないからこれで失礼するよ
君と対戦できることを楽しみにしている」
岡部はそう言って席を立つと足早に前夜祭会場の場所に戻って行った
拓斗も宿に戻りマルコにそのことを伝える
「なんだよ兄ちゃん結局大会に出るのかよ、しかし大丈夫か?
いくらD装備の限定戦とはいえ兄ちゃんなら圧勝しちゃうんじゃないのか?」
「そこまでレベルの低い大会じゃないよ、どうしても剣を合わせたい人がいるんだ・・・
その人と当るまではなんとか誤魔化しながら戦うよ」
ニコリと笑ってマルコに答える拓斗だった
「そういえば兄ちゃんもうすぐ前夜祭ってのをやるらしいじゃん見に行こうぜ」
二人は一緒に前夜祭を見に行くことになった、さすがに国の威信をかけておこなっている
催しだけあって豪華な演出であった、まだ明るさの残る空に何発もの花火が上がり
飛龍に乗ったメルトラント軍兵士がアクロバット飛行を披露して場を盛り上げる、
派手な衣装を着た女性シンガーが歌を歌い何人ものダンサーがミュージカル調の寸劇を繰り広げた
会場は大いに盛り上がりを見せていたが満を持してメルトラント王国の国王
ステイル・スタリンドが挨拶の為に壇上に上がる、すると観衆も拍手と歓声を上げ
国王が国民に支持されている事を知らしめた
「みなさんこんばんわ、私はメルトラント国王ステイル・スタリンドです
皆さんのおかげででこの大光星剣武祭も第三回を迎えることができました
どうか皆さん楽しんでいってください、そして最後に
前回、前々回のチャンピオンに挨拶をしてもらいましょう
我が国の誇りメルトラント王国総合指令隊長ムサシです」
その国王の言葉の後に今日一番の歓声がその場を支配する
そこにいる全員が狂信者であるかのような凄まじい盛り上がりを見せた
そのあまりの歓声にマルコが両耳を押さえて拓斗に大声で話しかける
「おい兄ちゃん、すげ~人気だなあの人、拓斗兄ちゃん明日あんなのと戦うのか?」
マルコの問いかけに壇上の岡部をジッと見つめながらつぶやく拓斗
「ああ戦うよ・・・必ずね」
「えっ?聞こえねーよ兄ちゃん‼」
壇上では岡部が挨拶と今回の意気込みを語り再び会場は盛り上がりを見せた
それを見た拓斗はクスリと笑いあることを思い出した
『国民的英雄か・・・香奈とどっちが人気あるのかな・・・』
岡部の出番が終わると再び無数の花火が上がり前夜祭の終わりを告げた
大光星剣武祭の当日はさらに他国からの観光客も訪れ町はさらに人でごった返していた
前日の夜12時までが大会参加者申し込みの締め切りだったので
朝早くからトーナメントの抽選が行われるのが恒例なのだ
そしてこの抽選こそある意味最も注目されている
なぜならのこ大会は賭けの対象になっているのと同時に
絶対的王者ムサシがいる為に序盤でムサシと対戦する可能性のある選手は
上位入賞は望めないと考える人がほとんどだからなのだ
そもそも優勝者を当てるいわゆる単勝投票券はムサシが1・2倍と圧倒的人気な為に
ギャンブル的なうまみはほとんど無い、上位入賞者を予想する投票券の方が
ギャンブル的な面白みが多いし実際そちらの方が売れるのだ
そんな騒ぎを見たマルコは目を丸くしていた
「へ~凄いな、さすが国が全面的に運営しているだけあって
博打というより祭りみたいだな拓斗兄ちゃん」
拓斗も少し面喰っていた、実際朝から拓斗に声をかけて来る者も少なく無かっからだ
トーナメント表を見てみると拓斗は岡部とは別ブロックに入っていたので当たるとすれば
決勝しかないのである
『剣を合わせるなら決勝か・・・こんな大会に出るのは久しぶりだなぁ・・・』
そんな事を考えていると近くにマルコがいない事に気が付いた
周りを見回してみると少し離れた所からマルコが走って来るのが見えた
そして何やら手には紙を握っていた
「ふう、やっと追いついたぜ・・・俺を置いていくなんてひどいじゃねーか兄ちゃん!」
「ゴメンゴメン、考え事をしていてお前がいなくなった事に気が付かなかったんだよ
ところでその手に握っている紙は何だ?」
マルコは得意げにその紙をかかげた
「エッヘン、この紙はな今大会の出場選手のデータとオッズが載っているんだぜ!?
拓斗兄ちゃんの事も書いてあって何と5番人気みたいだぜ!?」
その事に驚く拓斗
「なんで俺がそんな人気なんだ?俺はこの国に来たのは初めてだぞ!?」
拓斗は不思議に思ってその紙を覗き込む、確かに大会出場者の細かいデータが載っていた
どこの国の大会で何位だったとかどんな流派を使うかというような・・・
どうやって集めたんだろう?と思える情報ばかりだったが拓斗は肝心の自分のデータを探してみた
するとそこにはびっくりすることが書いてあったのだ
《沢渡拓斗》今大会のダークホース、町中で大会出場者の剣による攻撃を素手で簡単に撃退している
絶対王者であるムサシ様が個人的に期待しているという未知の強豪。
「なっ!?なんだこりゃ、昨日の事がもう載ってるじゃねーか!?
しかもこれは岡部さんのコメントなのか?凄いなこの紙」
マルコが二マリと笑う
「確かにこの紙の情報のせいで思わぬ人気になってしまったが
俺に言わせればこんなの甘い甘い、この前レアモンスターでもらった金を
全部兄ちゃんにつぎ込んだぜ‼」
「なっ!?いつの間に・・・全くしょうがない奴だな
そのかわり俺が負けても怒るなよ」
「拓斗兄ちゃんが負ける訳ないじゃん、こんなのぼろ儲けだぜ!?」
うっしっしと下品に笑うマルコにヤレヤレと肩をすぼめてため息をつく拓斗
そんな時拓斗の肩を叩く人物がいた、振り向くとそこにはにこやかにほほ笑むジャンがいた
「やあまた会ったね拓斗君、やっぱり君も大会に出るんだね」
「ああジャンか!?結局出ることにしたよ、え~と君は・・・反対ブロックか
じゃあ俺と当るとしたら決勝か?」
ジャンはニヤリと笑い拓斗の目を覗き込む
「無理しなくてもいいよ、君も僕ではムサシ様には勝てないと思っているんだろ?」
図星を突かれすぐさま返答できずにアタフタする拓斗の態度に思わず吹き出すジャン
「ははははは、いいよいいよ君だけじゃなくてみんなそう思っているんだろうから
でも戦いってのは何がおこるかわからないからね君と決勝で当れるように頑張るよ」
「ああすまない、でもお互い頑張ろう」
ジャンは握手をしてすぐさま立ち去って行った、マルコが熱心に紙を見ていたが
拓斗に話しかけてきた
「兄ちゃんよ、あのジャンって奴の情報調べてみようと思ったんだけど
全ての項目が不明ってなってるぜ!?人気も全出場選手257人の内254番目だ
大穴もいいとこだぜ!?見た目も強そうじゃないしな
『一切不明か・・・逆に不気味だけど・・・』
拓斗がそんな事を考えていると、大会の係員が現れ出場選手に大声で語りかける
「大光星剣武祭の限定戦に出場の方々はこちらに集合してください
出場者はトーナメント表に記入してある場所に行って各自予選をおこなってください
試合の戦いによって傷を負った者は勝ち負けに関わらず早急に大会本部が手配した
魔法使いによって治癒させていただきますので、回復が完了した時点で
次の試合に向かってください、大会要領にも記載させていただきましたが
相手の攻撃により即死してしまった場合のみ当方では責任取れませんので
そこは自己責任という事でご了承ください」
大会委員の説明を拓斗は感心して聞いていた
『出場者全員の治癒する為の魔法使いを手配したのか!?参加人数が257人となると
10人や20人じゃ足りないかもな・・・他国から金でレンタルしたのかな?
何にしてもこの大会におけるこの国の力の入れようは尋常じゃないな』
拓斗はトーナメント表に書き込まれている予選会場に向かった
会場に入る前に武器チェックがありこの限定戦の大会規定であるD装備武器の確認である
自分で持ち込んでも良し大会本部に借りても良しとなっているが持ち込んだ場合
その武器が本当にD装備の武器なのかの最終チェックである、実はD装備に見せかけて
もっとランクの高い武器を持ち込もうと不正を働く者が毎年10人程いるのだ
「沢渡拓斗様武器チェックOKです、会場に向かってください」
武器チェックを終え予選会場に向かう拓斗
「え~とE-12会場って・・・ここか、あれ?」
すでに会場には対戦相手が待っていたのだがその対戦相手というのが
昨日拓斗が軽くあしらった戦士風の男だったのだ
「初戦の対戦相手ノーマンってのはあんたの事だったのか・・・」
その言葉にニヤリと笑うノーマン
「ついてるぜ俺は、昨日の借りをここで返してやるぜ、確か死んでも自己責任だったな」
係員が出てきて両者に声をかける
「え~両者揃ったようですので予選一回戦を始めます、始め‼」
係員の開始の合図にすかさず構えるノーマン、逆にゆっくりと腰の剣を抜き軽く構える拓斗
両手で剣を握りながら中段に構えるノーマンに対し片手剣の半身で構える拓斗
「フーフーぶっ殺してやる、絶対ぶっ殺してやるからな‼」
殺気立ち興奮気味のノーマンだが昨日の事がある為慎重になって中々攻撃できない様子だ
「あのさオッサン、余計なことかもしれないけどそんなにガチガチに力入れてたら
実力の半分も出せないぜ!?」
「うるせ~黙ってろ‼どうやって貴様をぶっ殺してやるか考えているんだからよ」
「ヤレヤレ・・・忠告はしたからな」
拓斗はそう言い放つと中段に構えていた剣を振り上げて右足を踏み込む素振りを見せた
それにあわせてノーマンも全力で打ち込んできた
「小僧死ね~‼」
その時ノーマンの顔から血の気が引いた、拓斗は剣を振り上げ踏み込む素振りを見せただけで
結局動いていなかったのだ
「くそ~俺は動かされたのか!?」
拓斗が打ち込んでくることを想定して全力で打ち込み返したノーマンの剣は
拓斗の手前で振り下ろされ地面に突き刺さった、そのノーマンの剣を足で上から踏みつけ
自分の剣をノーマンの喉元にピタリと突き付けた
「勝負あり‼勝者、沢渡拓斗‼」
係員が拓斗の勝利宣言をした、あっという間の決着に茫然としていたノーマンはハッと気が付き
「ちょっと待ってくれ今のは無しだもう一度、もう一度やらせてくれ頼む」
係員に詰め寄り懇願するノーマンしかし
「勝敗は決した早く退場しなさい、場合によっては投獄の上二度とこの国への入国を禁止しますよ‼」
その言葉にブルブルと怒りに震えながら係員に襲い掛かろうとするノーマン
「ふざけるな・・・ふざけるなテメ~もぶっ殺してやるよ‼」
ノーマンは手に持っていた剣を係員に振り下ろそうとする、慌てて止めに入ろうとした拓斗を
制する係員
「大丈夫ですよ沢渡拓斗さん」
そう言ったかと思ったらノーマンの剣を半身で簡単にかわし腕をつかむと逆間接に決めて
ノーマンを地面に組み伏せた
「痛ててててて折れる腕が折れる、俺が悪かった、だから放してくれ頼む‼」
呆気にとられている拓斗に係員が語りかける
「沢渡拓斗様、このノーマン選手は私の方で処置しますから次の会場に向かってください」
「わかりましたよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げその場を後にする拓斗
「この国の兵士の練度が高いってのは本当なんだな・・・」
そんな事を思いながら次の会場に向かった、そこには第一試合を早く終わったが
相手がまだ来ていない人々が待機していた、この大会はベスト8までは対戦相手との合意があれば
どんどん試合を進めて構わないルールなのである、その控室で岡部の姿を見つけたので
声をかけようとしたが岡部は随分険しい表情を浮かべ今から始まりそうな
とある試合を真剣に見つめていた
「あの、岡部さん何か気になる試合でもあるんですか?」
「おう沢渡君か!?どうやら一回戦は勝ったようだね、おめでとう
実は私も第一試合が早く終わったのでこの控室に来たんだ・・・
私はなるべく多くの選手を見る為に予選はなるべく早く決着をつけて
ここに来るようにしているんだが、私より早く来ていた者がいてね・・・
その選手が今から第二試合をするので見に来たんだよ」
「そうなんですか、その早く終わったという選手というのはどの人なんですか?」
岡部は今から始まる試合を指さして
「あそこにいる右側の若者だ」
岡部の指さす方向を見て思わず”あっ!?”と声を出してしまった拓斗
「あれはジャン!?彼がそうなんですか!?」
「ん?君の知り合いかい?」
「ええまあ、といっても昨日知り合ったばかりで少し話したという程度なんですが・・・」
「そうか・・・おっ始まるぞ」
ジャンの武器は手で剣を握るのではなく拳の延長に50㎝程の剣が延びているといった感じのもので
メリケンサックの先に刀が付いている感じのモノである
「岡部さん何ですかあれは?昔の漫画で見たベアクローの刀版みたいな・・・」
「あれはジャマダハルという武器だ、インドの武器だと聞いたことがある
基本的に刀の様に切りつけたりするのではなく、ボクシングみたいに
殴りかかるみたいな感じで攻撃すると聞いたことがある
拳の延長で剣が付いている感覚だな」
係員が中央に来て話始める
「では両者よろしいですか、それでは第二回戦始め‼」
始めの掛け声が聞こえたか否かというという瞬間にジャンの剣が相手の喉元に
ピタリと突き付けられていた、対戦相手も係員も何がおこったかわからないといった様子だったが
少しして状況を把握した
「うっ!?まいった」
「しょ、勝負あり‼勝者ジャン選手‼」
その試合を見た岡部と拓斗は唖然とした
「なっ!?なんだあの速さは!?」
「あれは剣術なのか!?岡部さん一体あれは?・・・」
しばらく言葉が出なかった岡部だがなんとか気を取り直した
「あれは剣術とかの類じゃない・・・単にスピードで圧倒しただけだ・・・」
そう二人が話しているところにジャンが控室に引き揚げて来た
「あれ?拓斗君、もしかして僕の試合見てくれたのかい?
それにムサシ様ではないですか、初めましてジャンと申します
ムサシ様とはベスト4まで残らないと戦えませんから
何とかそこまで頑張りたいと思っていますよ・・・もし当たったらお手柔らかに」
そう言い残しその場を立ち去るジャン、ニヤリと笑ったその笑顔は
拓斗が知っていたジャンのそれでは無く凄く冷徹なモノであった
拓斗はふと岡部の顔を覗き込むと真剣な表情でジャンの後姿を睨んでいた
「あいつは間違いなく上がって来るな・・・」
「はい、そう思います・・・しかもアレは余力を残してますね・・・
おそらく半分も本気を出してません、どうやら直接対決までその手の内を
さらけ出さないつもりですね」
「くそっ!?あの人間離れしたスピードにどう対応してどう戦う・・・どうやって・・・」
厳しい表情で考え込む岡部、その時係員から呼び出しの声が聞こえた
「第二試合のムサシ様とカレバンダ様、試合会場にお越しください」
ゆっくりと第二試合の会場に向かう岡部その時振り向く事なく背中越しにぼそりと話し出した
「あいつは強い、しかし必ず君と剣を合わせると約束するよ」
その言葉に力強くうなづく拓斗
「ええ、僕も必ず決勝まで残ってみせます」
岡部の返事は無かったがその背中には強い決意を感じた
この大光星剣武祭はベスト16までが予選であり各会場でおこなわれるのだが
ベスト8まで残った8人は巨大なコロシアムで一試合づつ試合がおこなわれる
このコロシアムはメルトラント王国が国の威信をかけ膨大な費用をつぎ込んで
作られたもので闘技場としてはどこの国よりも大きく立派な作りを誇る
このベスト8まで残れば入賞となり余程の事がない限りメルトラント軍への士官がかなう
そして一定の賞金も出るし賭けの対象としてもベスト8を当てるという投票もある為
観衆からは称えられ記録にも残る、つまりある一定の地位、名誉、金といったモノが手に入るのだ
だからムサシという絶対王者がいてもベスト8を目指して出場してくる者が絶えないのである
今回の出場者は257人つまり5連勝すればベスト8に残れる事になる
そんな中ムサシ、ジャン、拓斗は順調に勝ち上がっていった
特にこの三人は圧倒的な内容で勝ち上がっていた為、見ている者達は例年になく盛り上がっていた
「さすがムサシ様だ、特に今年はなんか鬼気迫るモノがあるぞ!?三連覇は間違いないな」
「いやあのジャンって奴凄いぞ、一試合平均時間10秒もかかってないんだぜ!?
こんな奴見た事ねーよ」
「でもよあの沢渡拓斗っていう若者もメチャクチャ強いぞ
ムサシ様がマークしているってのもわかるぜひょっとしたらひょっとするぞ‼」
先にベスト8を決めた岡部が試合が終わると駆け足で別試合を見に走る
もちろんジャンの試合である岡部が珍しく息を切らせて見に来ると
ちょうどジャンの試合が始まるところであった、開始前に見に来た岡部の姿を確認したジャンは
ニヤリと笑い岡部に向かって軽く一礼した、そして係員が開始の合図を送ると
信じられないモノを披露した
「ぐはっ!?何がおこっている‼」
ジャンの対戦相手が明らかに戸惑っている、今まで試合開始早々に決めていたジャンが
今回はあえて試合を長引かせているのだ、今回は圧倒的なスピードで対戦相手の
死角へ死角へと回り込んでいたのだ、戦っている相手の姿が見えないという現象は
対戦相手にとてつもない恐怖を与えていた
「うわ~~どこだ!?どこにいる出てこい‼」
半狂乱のような状態で剣を振り回す対戦相手、ジャンはそれに合わせて後ろから
致命傷を与えない程度に傷を与える、ますます混乱する対戦相手、それも当然で
相手の姿が見えないだけでも恐怖を感じるのに剣を振る度に後ろから刺されるのだ
しかも明らかに手を抜かれていて遊ばれている事がというほどわかってしまう
圧倒的な実力差と恐怖・・・最後にはその対戦相手は剣を投げ出し頭を抱えて
うずくまってしまった
「もう嫌だ~嫌だ~降参する降参するから助けてくれ~~‼」
その姿に係員を始めその試合を見ていたムサシを含む全員が言葉を出す事もできなかった
「まだ続けていいの?係員さん」
ジャンの言葉に我に返る係員
「試合放棄により勝者ジャン様‼」
係員の勝利者宣言にも拍手はまばらだった、予選とはいえベスト16ともなると勝者には
観衆や見物している他の選手から大きな拍手が送られることが普通なのだが
あまりの出来事に皆呆気に取られているのである
「あらら僕人気無いんだね、まあいいや人気より欲しい物があるからここに来たんだしね・・・」
ジャンはポケットに両手を突っ込んで静かに歩いて退場していった
その時試合を終えベスト8入りを決め控室に入って来た拓斗とジャンが鉢合わせた
「おや拓斗君、君も勝ったようだね、もし僕と当る事があったらお互い頑張ろうね」
ジャンのそのセリフは昨日と同じだが態度と口調が明らかに違う
斗を完全に見下している態度だった
「ジャン残念だよ、君とは気持ちのいい戦いができると思っていたのに・・・」
「そうかい?一瞬で君の意識を刈り取って気持ちよくさせる事はできるかもしれないから
それで弁してくれよはっはっは」
笑いながら控室を出ていくジャン、拓斗の隣にいたマルコが話しかける
「なんだよあいつ、昨日と態度が全然違うじゃねーか?あんなに強いならなんで昨日は
あんなにフレンドリーだったんだ?」
「おそらく岡部さんを警戒していたんだろう、ジャンはまだ岡部さんの剣を
見たことが無かったからどんな剣を使うのか知りたくて俺に近づいてきたんだと思う
現にあいつが俺に話しかけてきたのは二度とも岡部さんと話した後だったからな・・・」
「じゃあ急に態度を変えたのは・・・」
「予選で十分見たという事だろう、それで見切ったと・・・」
「何だよそれ、嫌な奴だなぁ兄ちゃんそんな奴に負けるなよ!?」
「ああ頑張るよ」
拓斗はマルコと共に他のベスト8入賞者の所に行ってみたが全員が重い雰囲気に包まれていた
ジャンが何かをやった事はすぐにわかったが、それが何なのかわからない為
岡部に近づき聞いてみた
「ああ、沢渡君かどうやら勝ったようだねベスト8おめでとう」
「ありがとございます、そんな事より何があったんですか?
ジャンが何かやったという事はわかるんですが・・・」
「うむ、それがだな・・・」
岡部はジャンの試合の一部始終を事細かに説明してくれた、その話を眉をひそめて聞く拓斗
「何という事を・・・しかしジャンはそんなに速かったんですか?」
「ああ速かった、対戦相手がジャン君を探す為に周りを見回したんだが
その首の動きより速く動いて死角に回り込んだんだ、あんな動きが可能なのか!?
というよりあれは人間の動きなのか!?」
「そうですか・・・ジャンと当るのは岡部さんが先ですよね
必ず勝ってください決勝で待ってますから」
「ああ、そういう約束だったよな西園寺先生の弟子としてあんな人間の剣には負けたくない
必ず勝つさ」
その時大会運営の人間が入って来た
「ベスト8に入賞した選手の皆さんおめでとうございます、この後コロシアムの方へ
移動していただきます、一時間後そこでベスト8入賞者の紹介の後、本戦の開始ですので
よろしくお願いします」
ベスト8に入賞した選手がコロシアムに移動していく、そんな中マルコが拓斗に質問する
「なあ兄ちゃん、ベスト8選手の紹介ってのはわかるけどよ、なんで本戦まで
一時間も空けるんだ?怪我とか疲労は回復魔法でなおしてくれるんだろ
だったらさっさとやった方が良くないか?午後からもフリーの大会があるんだろ?」
「それはなちゃんと理由があるんだ、この大会は賭けの対象になっている事は知ってるよな?」
「ああもちろん、レアモンスターの賞金を全部兄ちゃんに賭けたんだからな」
「それは予選から賭けられるギャンブルなんだが
このベスト8が決まってから賭けられるモノもあるんだよ」
「何だよそれ、じゃあ観客が博打の投票券を買う為の時間なのかよ!?」
「まあそういう事だ」
「結構しっかりしてるなこの国も、でもさ博打の為だけにそんな水を差されるような事されたら
選手はやる気無くすんじゃないのか?」
「そうでもないさ、さっきベスト8の選手は一時間後に紹介されるっていったろ
その紹介される順番が重要なんだ、今度は予選での戦いぶりを考慮して
みんな投票券を買う事になるんだけど、その買われた票数の多い者ほど後に紹介される
つまり観客の中で勝つと思っている人が多いほどその選手は後に紹介を受けるって事なんだ
だから紹介が後になればなるほどその選手にとっては名誉な事なんだよ」
「なるほどね同じベスト8でも一番人気と八番人気じゃやる気も違うし
名誉の差も出るって事か・・・良く考えてるな」
そんな事を話しながら本戦までの一時間を過ごした拓斗であった
変な事を考えたり緊張せずに本戦に臨めそうなのはマルコのおかげかな!?
とマルコに感謝した、しばらくすると大会運営の人が選手を呼びに来た
「ベスト8の選手の皆様今からコロシアムに入場してそれぞれ順番に紹介をさせていただきますので
紹介された方は観客に応えてください、よろしくお願いします」
「いよいよだな」
拓斗も気を引き締める、大会委員の人に続いて8人の選手が次々とコロシアムに入場していく
観客席からは凄まじい歓声が鳴り響き隣同士でも会話ができないほどの大歓声であった
このコロシアムは7万人収容できる程巨大な建物なのだがチケットはあっという間に売れ切れてしまい
高額で闇取引されるほどなのである、ベスト8の選手達が横一列に並びその選手たちを
紹介する為の人間がゆっくりとコロシアムの中央に歩いて行く
口元には声を大きくするためのアイテムを付けてはいたがしばらく何も話さずに
観客のざわつきが静まるのを待っているようだ、場内がようやく静けさを取り戻し始めた頃
その男はようやく口を開いた
「皆様大変お待たせしました、これより大光星剣武祭限定戦の本戦を始めます‼
まずは予選を勝ち抜きベスト8に残った名誉ある勇者たちを紹介します」
横一列にならんだ選手たちは固唾を飲んで紹介の順番を聞いていた
「まずはナンバーエイト、変幻自在の長剣使いグリモアール・マイク‼」
紹介された選手はややがっかりした様子だったが観客の歓声に気を良くした様子でにこやかに手を振った
「続きましてナンバーセブン、巨体からの豪剣一撃ゲルハルト・キスラー‼」
大柄な男が観客の声援に応え手を上げた
「続いてナンバーシックス、剣と拳の融合技チャン・ハオ‼」
東洋人風のスキンヘッドな男が軽く一礼した
「そしてナンバーファイブ、その理知的な戦いは100人の頭脳に勝るアロンド・サーマル‼」
無愛想な男が軽く手を上げただけでそれ以上は動かなかった
「続きましてナンバーフォー、冴えわたる二刀流ラーカレン・ドマイニ‼」
にこやかに笑い両手を振る金髪の色男といった感じであった
「さてここからは上位三人です、ナンバースリー
その圧巻な剣才で他者を圧倒する美しき剣技沢渡拓斗‼」
拓斗は照れながらも手をあげ観客の声援に応えた
「そしていよいよナンバーツーです・・・」
この時7万人の観客が息を飲む、ムサシかジャンか?
先ほどの騒ぎが嘘のような静けさが辺りを包む
「ナンバーツー、メルトラント王国が誇る絶対王者ムサシ‼」
そのコールがされた時客席からはものすごい歓声とそれを上回る悲鳴がこだました
メルトラントの国民的英雄で絶対王者が二番人気に落ちたのだ
それほどまでにジャンの戦いは圧倒的であったし金を賭けている以上
シビアに考える人間も少なく無いという事なのだろう、中々ざわつきが治まらない
もうジャンを残すのみだが当のジャンは目を閉じ下を向きながらニヤついている
この人気は当然と言わんばかりであった
「皆様お待たせしましたそれでは紹介いたします今大会のナンバーワン
その剣技は疾風のごとく瞬殺の貴公子ジャン・アレーン‼」
その瞬間物凄い歓声とブーイングの大合唱となった、大会運営の人たちも
こんな事は初めてなので戸惑いを隠せない、しかしジャンだけは何もなかったかのように
涼しい顔をしていて片手で観客に応えたのだ
「皆様お静まり下さい、これから本戦を始めますがその前にベスト8の選手の投票結果による
最終オッズを表示しますのでよろしくお願いします」
その言葉を合図に数名の魔法使いが上空に向かって呪文を唱える
すると上空に文字と数字が表れていった、その表示された数字を見て皆驚愕した
それは一番人気のジャンが2・4倍、二番人気のムサシが2・8倍、そして三番人気の拓斗が3・2倍
その他の選手は全て100倍を超える倍率だったのだ、観客も三人以外は眼中にない
といった考えをまざまざと見せつけた、その結果に三人以外の選手は茫然として
見上げるだけであった。
大光星剣武祭の第二部でしたが思ったより話が進まず三部に持ち越しとなってしまいました、また懲りずにお付き合いいただけるとありがたいです、では




